ケイネス先生(♀)が行く聖杯戦争   作:むにゃ枕

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事件簿投下


CASE1 ウェイバー・ベルベット

 ウェイバー・ベルベットは、現在宙吊りにされていた。

 

 こちらを呆れたように見ている人物は二人。一人は呆れたような眼差しで、もう一人は猫が獲物をいたぶるような眼差しでこちらを見ている。

 

「ウェイバー君、よくもまあノコノコと帰ってきたものだ。まあ、私との間に交わした契約が有るから殺されはしないと踏んでいたのかい?秘密裏に連絡するなど取りうる手段は他に有った、と私は思うのだがなあ」

 

「ふむふむ、伯母上が君を買っていたそうだが、君は案外無能なのかもしれないなあ」

 

 ともすれば姉妹にも見えるかもしれない二人の美女。呆れた表情のケイネス・エルメロイ・アーチボルトと、嗜虐心に駆られたような表情のライネス・エルメロイ・アーチゾルテ。彼女たちの好奇の目に晒されながら、ウェイバーは宙吊りにされていた。

 

 こうなったのには当然理由があった。第四次聖杯戦争が終結し生き残ることが出来たウェイバーは、ライダーとかつて語ったように世界を巡ることにしたのだ。旅の間は様々なことがあり、ウェイバーは自分の小ささを知ることが出来たし、多種多様な体験を重ねることも出来た。

 

 そうして世界を巡る旅を終えたウェイバーは数時間前にイギリスに入国し、時計塔のエルメロイ家の門を叩いた。その結果が現在の状況である。

 

「そうだ、ウェイバー君。君に良い話がある。我がエルメロイ家は現在時計塔での政争に勝利した。それ故余裕が生れている。そして、私はロードなんかは止めてしまいたい。どうかな?私の言わんとすることが分かるかな?」

 

「い、いえ」

 

「まさか伯母上がそんなお考えだったとは、それで私をここに呼んだと?」

 

 ウェイバーをよそに会話は進行していった。

 

「そうだ。私はロードの座を降りたい。研究明け暮れることも出来ずに権力争いばかり。そんな日常に嫌気がさした。そして、ウェイバー君は私に負い目がある。何という僥倖だろうか!ということさ」

 

「つまり、この少年を生贄にして伯母上は逃げおおせようということなのかな」

 

「そうだとも。ウェイバー君には莫大な借金が存在する。それを生贄になってもらうことで帳消しにしようということだ」

 

「叔母上はそうできる立場にいるんだろう、そうしたらいいじゃないか」

 

「そうだったな。そういうことだウェイバー・ベルベット。君に現代魔術科の教室を任せよう。ユリフィスの方はソフィアリに任せることになった。君は私の運営していた小教室だなそれを任せたい」

 

 ウェイバーに残された選択肢は、「はい」か「yes」のみだった。

 

 こうして、ウェイバー・ベルベットはエルメロイ教室を運営することになった。聖杯戦争から生還したという肩書と、ケイネスに気に入られているという噂のせいで他派閥からの妨害は少なかった。

 

 ケイネスが降霊科(ユリフィス)君主(ロード)を降り、その枠をケイネスの婚約者であるソフィアリ家のブラム・ヌァザレ・ソフィアリが埋める。これはケイネスが聖杯戦争に赴いたときに秘密裏に予定されていたことだが、それをケイネスは幾つかの利権と引き換えに承諾したのだ。

 

 その利権の一つにエルメロイが現代魔術科を運営することも含まれていた。更には降霊科(ユリフィス)の次期君主(ロード)をライネス・エルメロイ・アーチゾルテに内定することも交渉には含まれていたのだ。そして、政治をめんどくさがったケイネスが放り投げた先がウェイバーだっただけということなのだ。

 

 ウェイバー・ベルベットは努力した。せざるを得なかった。周囲の状況というものもあったし、何より受講生の中に時たまケイネスがまじっているからだ。

 

 時々、ライネスからお茶会に誘われ、ニヤニヤした視線を受けるのだがそれにも慣れてしまった。

 

「伯母上と、その婚約者が不仲なのは知っているだろう。つまりは兄上にもチャンスが有るということさ」

 

 ウェイバーは確実にエルメロイに取り込まれつつあった。いつの間にか箔をつけるためとライネスの義理の兄にされていたのもその一環だろう。義理の妹、魅力的な響きではあるがウェイバーにとってのライネスはそうではなかった。

 

「我が兄は愛しの義妹(いもうと)の話を無視するような男だったのかな?」

 

 ウェイバーは最近増えてきた、眉間の皴をさすりながら答えた。

 

「レディ、下種の勘繰りは貴女には相応しくない」

 

「おやおや、私はてっきりそうだったのかと……」

 

「分かってもらえたなら結構だ」

 

「確か、兄上は聖杯戦争に赴く際に、メルヴィルというご友人に金を借りたそうじゃないか。彼にその時の話を聞いてみる、という案はどうかな?」

 

「やめてくれ、レディ。私にそんな疚しい思いは無かったんだ。本当だとも信じてくれ」

 

 だった、か、ふうん。小さくライネスがつぶやいた言葉は幸か不幸かウェイバーの耳には届いていなかった。

 

「さて、前置きはここらへんで良いだろう。私は兄上をからかうためにここに来たんじゃないんだ」

 

「現代魔術科。問題はこれをどうするかだ。現代魔術科はエルメロイに属している。そして、エルメロイは貴族主義派閥に属している。だが、現代魔術というものはいささか貴族的とは言い難い。むしろ民主主義派閥(トランベリオ)が諸手を挙げて歓迎する分野のものだ。そこで質問、この厄介な魔術科を好き好んで背負ってくれそうな人物は誰かな?」

 

 ウェイバーは苦虫を断続的に口に投げ込まれたような表情をした。

 

「……私という訳だな」

 

「そう、流石は我が兄だ。いろいろの結果、君は君主(ロード)になる。喜ばしいことじゃないか」

 

「レディ……、良い胃薬を売っている店を知らないか?」

 

「知ってたとして、私が教えると?」

 

「……ああ、レディ、君はそういう人間だったな」

 

 嗜虐的で蠱惑的な笑みを浮かべるライネスを見て、ウェイバーは泣きそうになった。そして、それを見たライネスは更に笑みを深めた。ウェイバー・ベルベットの苦難はまだまだ続くだろう。

 

 

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