なお、こちらの物語は、仮面ライダージオウにおけるアナザーブレイド誕生周辺回の時間軸を舞台に展開されます。プリキュア達の最終決戦からは2ヶ月後の話となります。
【序章】
これは、私……薬師寺 さあやが経験した、不思議でおかしな、ちょっぴりほろ苦い恋のお話。
事実は小説より奇なりと言うが、本当にその通りだと思う。それほどに、この数日で起きた出来事は私の想像を超えていた。
まず、ルールーが未来から帰ってきた。それも、ボロボロの姿で。彼女の治療をしてあげたかった私達だったけれど、その隙もなく、私たちの世界は仮面ライダージオウの世界と融合し……敵がやってきた。
はぐくみ市のみんなを守るため、私達は憧れの仮面ライダーさん達と協力して、強敵・タイムジャッカーを迎え撃った。
敵の力は強大で、何度も心が折れそうになっけれど、ソウゴさん、戦兎さんを始めとする多くのヒーローの尽力により、私達は街を守りきる事ができた。
けれど……戦いの後も、世界の融合は元には戻らなかった。
今も私達の世界には当たり前のように仮面ライダーがいるのに、毎朝日曜8時半には『仮面ライダージオウ』が放送されている。
その30分前には、後輩達の活躍が放送されていたりもする。信じられない事だが、私達の戦いの記録が収められたDVDもあるらしい。
これは、そんなおかしな世界で起きた、不思議なお話。
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2019年3月29日(金) 12:30
件の激闘から2週間が経つ今日この日。
はぐくみ市の外れにあるとある喫茶店。その窓辺から覗く風景は、なべて平和なものであった。
足早に通りをゆく通行人の群、その向こうで車の列が渋滞を作っている。
その様子は、2週間前までロックダウンが敷かれていたとは思えないほどである。傷ができてもすぐに治るのが、この街の良い所だ。
私達が守った平和な日常を映し出すクリアガラスのスクリーン。まだ少し肌寒い初春の風邪も防いでくれる優れものだ。
視界の端では、ほまれがオレンジシャーベットに突き刺さったストローを加えている。もうこれで3つ目くらいだった気がする。
私が頼んだコーヒーからは、もう湯気が出ていない。
「ねえ、さあや。次の元号何になるかな?」
「うん」
「うん、じゃなくて。げ・ん・ご・う!!」
「うん、平成」
ストローにあてがう口の先を尖らせ、ほまれはジトッとした視線を向けてくる。
言いたい事は分かっている。二人で来たのだから、もっと話そうという事なのだろう。
だが、残念ながらほまれの期待に応える事はできない。
私にはもっと大事な事があるからだ。
(あの人……また来てる)
あの人は窓際の席に浅く腰掛け、目で店員さんを呼んでいる。
春だというのに、厚い白手のロングコートに身を包み、頭にモコモコのベレー帽を乗せたあの人。
早足でやってきた店員さんと二言三言交わしたあの人は、不機嫌そうに眉を潜め、大きな緑のタブレットをいじり始めた。
「さあやに勧められた仮面ライダーあったじゃん?」
「うん」
「あれ、世界観とかバラバラで、よくわかんないんだよね。どれから始めればいいかな?」
「そうだね」
「……とりあえず、ソウゴさんの出てるジオウから観てみようと思ってるんだけど」
やがて、店員さんがあの人の所に飲み物を持ってきた。湯気が立ち昇っている。あれは、コーヒーだろうか。
あの人は口元までカップを近づけ、目を閉じる。コーヒーの香りを楽しんでいるのだ。大人の嗜みである。
「ルールーも、また未来に帰りたいっていうし。私、またお別れなんてしたくないよ」
「そうだね」
「……ねぇ、本当に話聞いてる?さっきから、ずっと向こう見てるけど」
「うん、聞いてる」
「じゃあ、さっきから何の話してるか……」
ふと、あの人の目が動いた。トカゲのように鋭い双眸が、こちらの方へスライドしてくる。
硬直して動けない私の方に、視線はスーッと移動してきて。
「ひゃっ!?」
私は慌ててほまれの方に視線を戻した。
小さな悲鳴を上げる私に、ほまれも小口を開け、目を丸くしている。
「大丈夫?顔真っ赤だよ」
「だ、大丈夫。ちょっと風邪っぽいだけ!」
私は早口で捲し立てる。
ほまれはカーネーション色の髪をかきあげ、右の眉を少し上げてみせた。一緒に来てもらっているのに、心配させてしまった。
けれど、眼前の彼女の姿は、すぐに揺らいでゆく。
気がつくと、私の思考は、過去に飛んでいた。
あの人と初めて会った、6日前のあの日に。
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2019年3月23日(土) 12:30
あの人との出会いは、ほんの偶然だった。
いや、必然だったのかもしれない。
オールドな雰囲気の残る喫茶店。
窓際の席に浅く腰掛けるあの人……纏う気配は独特で、私の視線は吸い寄せられるようにそこに惹きつけられた。
白を基調としたゆったりとしたコーデに身を包んだお兄さん。灰色のベレー帽から漏れる長髪はうねり、うなじを隠す程に伸びている。
彼の素性は、一目で分かった。
鍋島さん……仮面ライダージオウのウォズ役を演じている俳優さんだ。人当たりの良い性格で、ファンからは「ナベさん」と呼ばれている。
格好からすると、白ウォズの役をやっているのだろうか。辺りにカメラやセットは見当たらない事からして、撮影中ではないのだろう。休憩の邪魔になってしまうかもしれないが、もしサインを貰えるなら、えみるへのいいお土産になるかもしれない。
なにより、こんな機会は今後滅多に訪れないだろう。
意を決し、私は彼の肩を叩いた。
「あ、あの!ナベさんですか?」
彼は、目を丸くしていた。
無理もない、彼と私は初対面なのだ。
「私、薬師寺さあやと申します!仮面ライダージオウ、いつもテレビで見てます!あの、よろしければ……」
早口でまくし立てる私の口の前に、彼は人差し指を当ててみせた。気がづくと、周りの人が皆、私の方を見ていた。
(しまった……ここ、喫茶店だった)
好機の視線が私を襲う。店員さんも、いかがわしい目で私を見ている。
思考停止する私の手を、あの人が引いた。
「彼女、私の連れでね。今日少し風邪を引いてて、声が大きいんだ。迷惑かけたね」
決して大きくはないが、よく響く声だ。
店の人達は何事もなかったかのように席に戻り、店内には静寂が戻った。
頬の熱も冷めやらぬまま、私は彼の隣にちょこんと腰を下ろす。座っているとはいえ、私達の身長差は頭ひとつ分をゆうに超えている。
側から見れば、歳の離れた兄妹に見えたかもしれない。
「あの……ごめんなさい」
「気にしないでくれ。女性に恥をかかせるのは紳士のする事じゃない。それに、君は私を知ってるみたいだったからね。色々と話を聞かせて欲しいな」
彼はにこやかに笑んでいる。
目元は柔らかだが、その奥の瞳は全く笑っていない。まるで本物の白ウォズのようだ。
惚けている私の前で、彼は「おっと」と戯けてみせる。
「まずは私のサインが欲しいんだったね」
「は、はい!」
彼は、私の差し出した色紙に、スルスルとペンを走らせた。白板の上には、達筆で『WOZ』と記されている。
「こんなもので良かったかな?」
「はい……大丈夫、です」
思っていたサインとは違っていたが、これも彼なりの配慮だと思った。
職業柄、芸能人のサインを貰うのは初めてじゃない。サインをせがむ人に、役柄の名前で応える人も時々いるのだ。
しかし、こうして憧れの人と向かい合って座る機会などは、なかなか無い。もう少しだけ、この時間を楽しんでもいいのかも。
(って、何考えてるのよ私!ナベさんに失礼じゃない)
私は慌てて頭を下げる。
「あ!あの、ありがとうございました」
立とうとする。が……できない。彼の踵が私の足の甲を地面に縫い付けていたからだ。
「痛っ……!!」
彼の表情から笑みは消えない。
だが、私の足は痛みを訴え続けている。
思考が混乱してうまく働かない。
「じゃあ、今度は私が話を聞かせてもらおうかな、キュアアンジュ?」
「ナ、ナベさん?」
何故、この人がプリキュアのことを知っているのだろう。
その答えは、次の彼の台詞からすぐに分かった。
「もう知ってるとは思うが、我が名はウォズ。未来の創造者である」
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2019年3月30日(金) 16:05
喫茶店からの帰り道、太陽は山の端にかかり、夕暮れが街をオレンジ色に包んでゆく。それは、この小道とて例外ではない。
草野球チームのノックが響かせる快音を右に背負い、私達は歩いている。
ほまれは少し怒り気味だ。かれこれ15分近く沈黙が続いている。
何か悪い事をしただろうか。
沈黙に耐えられなかった私は、何気ない調子を装い、話しかけた。
「ほまれは、どう思った?」
「何が?」
語尾の低い、トゲのある返しである。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
「ほら、さっき窓際の席に座ってた人」
「へぇ、そんな人いたんだ」
「うん。白い服を着て、ベレー帽かぶった……かっこいい人」
「あー、思い出した。さあやがずっと見てた人ね。さあや、ああいう人がタイプなんだ」
その返しに、私は少し腹が立った。
いくら怒ってたって、そんな言い方はないと思う。売り言葉に買い言葉で、私は嘯く。
「ほまれだって歳上がタイプでしょう」
瞬間、ほまれの顔が、ぼっと火を吹いた。
未来に帰った『彼』の事を思い出したのだろうという事はすぐに予想がついた。
分かりやすい性格をしている。
「違……ッ!!私の場合は、特別だし!てか、そもそもアイツの歳私知らないし!!」
「見た目年令は思いっきり歳上だったなぁ。いいじゃない、誰が誰を好きだって」
「ーーーーッ!!もう、さあやなんて知らない!」
頬の膨らんだほまれを見ていると、少しだけ気持ちが和む。こんな会話ができているのも、あの戦いを乗り越えたからこそだ。
だが、その姿はすぐに、背景の夕日と同化する、頭の中を埋め尽くしているのは、またしてもあの人の事だ。
6日前の喫茶店の続きが、頭の中で再生される。
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2019年3月23日(土) 12:45
「その口ぶり……あなた、本当に白ウォズなんですね」
彼は当たり前じゃないかというふうに肩をすくめた。その仕草と先ほどの口ぶりを見る限り、彼は本物の白ウォズなのだろう。
彼は顎に手を当てると、私の方へ身を乗り出した。足の甲を襲う痛みはさらに強くなる。歯を食いしばり、私はキッと睨み返す。
「……私に、何の用ですか?」
「まぁ、声は君の方からかけてきたわけだが……そうだね。実は、君の力を借りようと思っているんだ」
私は即座に首を横に振った。
彼が白い方だとしたら、協力するわけにはいかない。彼がスウォルツと組み、ソウゴとゲイツを戦わせようとしたことは知っている。
彼等は私の大切な仲間だ。
ここは、断らなければならない。
「私を利用するの間違いではなくて?あなたの目的は知っています。自分の存在する未来を実現するために、ソウゴさんとゲイツさんを対立させようとしているんでしょう?」
白ウォズは目を見開いている。
どうやら、私がそこまで知っているのは予想外だったようだ。
「ふむ。そこまでバレていては仕方がない、か。君が彼らと共にティードなるタイムジャッカーを退けた事は聞いている。ならば、私の事も知っていて当然か……」
「自分のためだけに、他者の友情を踏みにじる……あなたのような方に、協力はできません。サインありがとうございました」
「どういたしまして。協力してもらえなくて残念だよ」
目を伏せる白ウォズ。押しつけられる靴を思い切り蹴り放ち、私は立ち上がった。
痛む足の甲を庇いながら、私は早足で喫茶店の出口へと向かう。席から離れても、彼が私を追ってくる様子はない。
「それでは、失礼しま」
お辞儀をする私の前で、白ウォズは、タブレットに何か書き込んだ。
直後、私の心臓がドクンと跳ね上がる。
「……ッ!!」
あまりの苦しさに、息ができない。
何かの攻撃だろうか、それとも、彼の持つ能力の影響だろうか。対策を考えなければ……プリハートを手に彼の方を睨んだ時には、既に彼の姿はテーブルにはなかった。
空のテーブルの上には、お代が置かれている。胸を押さえつける痛みももう無い。
だが、私の胸の奥に、別の痛みの存在を感じていた。それは、昔一人でお母さんを待っていた時に感じたものと同じ……寂しさだ。
(なんで、こんなに寂しい感じがするんだろ)
不可思議な痛みを抑えながら、その日、私は喫茶店を後にした。
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2019年3月29日(金) 16:30
夕暮れも暮れ。
恋バナに花が咲く形で、私達はいい感じに仲直りを終えていた。
「私達、恋に無頓着すぎるんじゃないかな。もう中学2年生だし……お相手の1人や二人出てきても良いと思うの」
「うーん。私もあの一回が最初で最後だし、確かに話は聞かないなぁ。はなは、別方面で人気あるけどね」
「アレははなというより、キュアエールの人気ね。当の本人も、絶対に好きな人ができるって言って全然焦らないし……」
「なんの根拠があるんだか」
「ふふ、ほんと」
まぁ、未来からはぐたんが来るくらいだから、おそらくいつか、はなにもお相手が見つかるのだろう。
未来が分かっている人は気楽なものだ。
そう言えば、えみるの方はどうなのだろう。
「うーん、あんまりそう言う話は聞かないなぁ。まだ恋を知るには早いお年頃ってのもあるだろうけど」
「でも、キュア『マシェリ』だよ」
『マシェリ』はフランス語で『あなたを愛します』という意味だ。ある意味、一番恋愛に近いプリキュアと言えるかもしれない。
「ほら、えみるにはルールーがいるわけだし。愛に形はないって言うしね」
「たしかに、そうかも」
少々の沈黙が、私たちの間に流れる。
先に口を開いたのは、ほまれだった。
「さあやは、どうなの?」
「私は」
いないよと言おうとして、胸に何かがつっかえる。思い浮かぶのは、喫茶店のウォズだ。
「え、さあや……もしかして?」
「い、いないいない!!いないって」
「あー、なるほど」
ほまれは、頬をいやらしく歪ませ、懐から鏡を取り出した。
そこに映る自分の顔は……すごく赤い。
「ーーーーもうッ!!」
慌てて顔を覆う私を、ほまれが囃立てる。
たまらなく恥ずかしくなって、私は歩調を倍に早めた。
「あはは!!次はさあやだ!!お相手はどんな方ですか?もしかして喫茶店のあの人?」
「ち、が、う!あの人はウォズって人!私達の敵!ほまれは全然知らない人!」
「ふーん。でもさ……あの喫茶店のメニュー、さあやすごい頼むの早かったじゃん。あそこ何回目よ」
「ろっかい……って違う!!ほまれと行ったので2回目だもん!!」
「ほー、6回か。私と来たのが6回目だから、少なくとも5回のうちどこかで、出会いがあったわけだ」
「違うってば!!ってか、そもそも私は恋なんて」
そこまで言ったところで、私は立ち止まる。
恋なんて、してないんだろうか。
いや、するはずない。
だって、相手はあの白ウォズなのだ。普通に考えて無理である。
「……してないもん」
ほまれは、何かを悟ったように、口をつぐんだ。短い沈黙を経て、私達は分岐路に差し当たった。
「もし進展があったら、先に教えてよね。応援してあげるから」
「ううう……絶対教えてあげない!」
後ろでほまれが何か言っているけれど、もう耳に入らない。
(恋?私が恋?ウォズに?)
そんな事はありえない。
分かっているのに、胸の高鳴りを抑える事ができない。
この苦しさをぶつける先は、果たしてどこなのだろうか。
分からなくて、私は家路を急いだ。
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2019年3月30日(土) 2:00
短針は、もう2時を回った。
背筋を使い、ベッドの上で体を遊ばせる。
これで23回目の寝返りだ。
明日は土曜日……いや、今日がもう土曜日か。喫茶店通いもこれで6日目。今日もまた、きっと行くことになる。
「恋、なのかなぁ」
あの日、喫茶店でやられた事は、間違いなく、不快だった。
けれど、その後から胸の鼓動がなり止まない。小説でよくある、恋の症状と同じだ。全然共感できなかった恋愛小説も、今ならスラスラ読み進められる。
気がつくと、ウォズの事を考えている。
(明日、ウォズに会いたい。でも、喫茶店に行ってもウォズがいなかったらどうしよう)
私は、こういうことになるときっと奥手なんだ。自分の夢についても、流されに流され抜いた果てに、最後の悪あがきで決断したようなものだ。
けれど、私は変わったはず。はな達と出会い、プリキュアとして戦う中で、私は自分の未来を自分で選ぶ意思を手に入れたんだ。
恋をしたのか、恋をしていないのか。それを確かめるには、もう一度彼に会うしかない。
「私はキュアアンジュ。何かあっても、プリキュアに変身すれば、きっとなんとかなる」
少しの逡巡の果て、心は決まった。
「明日、喫茶店に行こう」
24回目の寝返りの後、私は眠りについた。時計の針は、2時半を指していた。
第一話をお読みくださり、ありがとうございます。
これは全7話の内の1話となります。一応恋愛がテーマなので、戦闘シーンはかなり少ないです。
実は、これは私が執筆協力をさせていただいたある作品の後日談として制作する予定でした。ジオウとビルドとW、そしてHUG勢が協力してタイムジャッカーと戦う話です。Pixivにあります。
そちらを読んでいただければ、なぜこの小説が生まれたのかが分かるのではないかと思います。読まなくても全然話にはついていけます!
実は、これを書くにあたり私の中にさあやさんがなかなか現れてくれず、校閲に校閲を繰り返しました。
もし違和感を覚えた方は、その箇所を指摘するコメント等を下さい。
次回の投稿は明日の17時、それ以降は3日おきに更新する予定です。
次回もよろしくお願いします。
追記:コメントであった、ちょっとヤバげな規約違反を修正しました。教えてくださった方、マジで感謝です。