天使が白ウォズに恋をした〈完結済〉   作:TAMZET

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これまでのあらすじ
とある喫茶店にて白ウォズと出会った薬師寺さあやは、彼に何かをされてしまう。その日から彼女の頭の中は白ウォズの事でいっぱいになり、気がつくと何度も喫茶店へと足を運ぶようになっていた。
その気持ちを恋だとほまれに指摘されたさあやは、彼への気持ちが真実かを確かめるべく、喫茶店に赴くのだった。


第二話:ドリル天使

2019年3月29日(土) 12:30

翌日、私は喫茶店を訪れた。

空には僅かばかりの鱗雲が浮かび、昨日まで冷たかった春風も今日はなりを潜めてくれている。おかげで、薄手のコーディネートでここまで来ることができた。

チリンと軽い音を立て、扉が開く。土曜日という事もあり、喫茶店の席はその多くが埋まっていた。目を皿にして、白を探す。

 

(……いた!!)

 

白ウォズは昨日と同じ席に座っていた。私など眼中に無いかのように、コーヒー味の湯気を楽しんでいる。

辺りにいる人達を確認し、私は彼の向かいの席に座る。プリハートは既に手の内に忍ばせている。白ウォズは民間人を作戦に巻き込むことに躊躇をしない人物……油断はできない。

 

彼は私に気がつくと、初めて会った時と同じように、にこやかに微笑んだ。その笑顔は無邪気そのものだ……が、私はその奥に潜む狂気をその身で感じて知っている。

油断などしない。

 

「やあ、また会ったね薬師寺さあや。いつぞやの話、考え直してくれる気になったかい?」

 

こうして面と向かって会ってみると、あれほど燃え上がっていた恋心が急速に冷めていくように感じる。まるで、爪を隠した肉食獣の前に立っているかのように、背筋がゾッと逆立つ。悪の凄みとでも言うのだろうか、不気味な空気が身体の周りを霧のように包み込んでくるようだ。

 

「どうかしたかい?」

 

「……ッ!?」

 

我に帰ると、白ウォズが私の瞳を覗き込んでいた。どうやら、長らく呆けていたらしい。

私は表情を固くしなおし、彼の瞳を睨み返す。

 

「考え直すつもりはありません。ソウゴさんとゲイツさんは私の憧れでもあり、仲間です。彼等を傷つけることはしたくありません」

 

「ふむ、それは残念だ」

 

白ウォズが席を立とうとする。

自分の心の鐘が、トクンと鳴るのがわかる。このまま彼を行かせてはならないと本能が告げる。

私は彼を引き止めた。

彼の服の袖を掴んで……である。

身体中が熱暴走寸前のパソコンのように火照り、心臓が発動機の如くすごい音を立てる。自分でも何をしているか分からない。でも、この手を離してはいけないと、私の中の何かがそう告げるのだ。

 

「今日は、別の話をしに来ました」

 

「なるほど。どんな話かは知らないが、君も知っての通り私には時間がない。今日は失礼させてもらおう」

 

私の腕を振り払わんと、彼の腕が動く。

ダメ……このままじゃ白ウォズが行っちゃう!

反射的に、私は彼の袖を掴む力を強めていた。

 

「わ、分かりました!」

 

「……?」

 

「あなたに協力する事、考えてみます。いえ、私に出来る限りの事を、私に出来る範囲で、協力させてください」

 

白ウォズはにまりと笑い、元の席に戻った。

取り返しのつかない事をしてしまった後悔はある。だが、それより今は、彼がこの場にいてくれる事に対する安堵が勝る。

 

「協力の申し出を感謝しよう。我が友よ」

 

白ウォズはうやうやしく腰を折ってみせる。わざとらしい仕草だ。それが演技である事は、十分に理解している。

けれど、今日はそんな事は関係ない。

胸の底で私の身体を熱し続ける熱の塊。

私は、この火照りを鎮めにきたんだから。

 

 

____________________________

3月30日(土) 12:25

 

 

2人の接触からおよそ5分前。白ウォズを別の席から眺める4つの怪しい影があった。

全員黒尽くめの服に装束を包んだ彼女達は、それぞれ赤、黄、橙、紫のサングラスを身につけている。

赤のサングラスを身につけた少女……野乃はなが、インカムに見立てた小型マイクに向かって小声でささやく。

 

「ほまれ隊長、マル白指定の位置に着きました。まだ、我々の動きには気がついていない模様です」

 

はなの言葉に、店の反対側にいる黄色いサングラスの少女……ほまれが返答する。

 

「了解。はな捜査官を始め各員、悟られてないね」

 

「こちら、えみる捜査官。大丈夫なのです」

 

「こちらルールー捜査官。問題ありません」

 

橙のサングラス、紫のサングラスの少女達も、それぞれ応答を返す。

これで、白ウォズを取り囲む形で、店の四隅に人員が配置される形となった。他の客達には好奇の目線で見られているが、そんな事は些末な問題である。

ほまれは、満足げ頷き、他のメンバー達に指示を送る。

 

「承知した。各員、次の指示があるまで、指定の位置で待機」

 

「「「らじゃー!」」」

 

かくして、さあやの監視が始まった。

監視の開始からおよそ7分、未だ対象に動きはない。

さあやの好きな人についてはよく知らないが、もし彼女を傷つけるようなら、放っておくわけにはいかない……ほまれは手に持ったプリハートを見つめ直し、己の決意の固さを確かめ直す。

そんな中、電話口から素っ頓狂な文言が聞こえてきた。

 

「重要な作戦と聞きましたが……私達は、何をしているのですか?」

 

ルールーの言動に、ガタッと椅子が倒れる音がした。

数秒後、えみるの甲高い声がイヤホンの先から飛び出す。

 

「昨日説明したでしょう!!!」

 

「えみる〜、声のボリュームを落としてね」

 

ほまれはひそひそ声で注意するが、えみるの耳には届かないようだ。イヤホンの向こうからは、引き続き彼女の叫び声が聞こえてくる。

 

「ルールーも聞いていたはずなのです!さあやに好きな人ができたかもしれないから、みんなで隠れて見に行こうって!」

 

「それは確かに聞きました。しかし、何故さあやを見張る事が必要なのですか?」

 

「うー!」

 

電話越しに頭を抱えるえみるに、はなが助け舟を出す。

 

「ルールーは、友達に好きな人が出来たら、その友達がどんな風にその、恋してるかとか……気になったりしない?」

 

ルールーは、首をかしげる。

その仕草は、店の対角線にいるほまれにしか分からないのだが。

 

「理解不能です」

 

「うー、まぁ仕方ないよね。って、さあやもう来てるじゃん!ルールーが1番近いんだから、さあやをしっかり見張らなきゃだよ」

 

「……分かりました」

 

ともかく、一見落着したようだ。

ほまれはズレかけていたサングラスをかけなおし、燕尾服の襟元を正す。

さあやと対象は接触した。

ここからが、一番気を引き締めなければならない所なのだ。

こんな真似をしていると分かったら、さあやは怒るだろう。しかし、女子の性分として、友達の恋路は気になってしまうものだ。

 

「これは仕方ない事。さあやに何かあったら、一大事だからね」

 

そんなこんなでさあやの方を眺めるほまれ。ふと、彼女を呼ぶ者があった。

振り返ると、ウェイターが訝しげな表情で彼女の方を見ていた。

 

「お客様、ご注文はお決まりですか?」

 

「あ、えーと、じゃあオレンジジュースでお願いします」

 

「オレンジジュースですね」

 

店員さんは店の奥へと帰っていった。一難去った……と、さあやの方を振り返ると、そこにはさらなる一難が待ち受けていた。

対角線の持ち場を担当していたはずのルールーが、対象に近づこうとしていたのである。

 

 

____________________________

2019年3月30日(土) 12:35

 

 

向かい合い、白ウォズを見据える。

多分、人生で一番研ぎ澄まされてるんじゃないかってくらいに、

 

「今日は、あなたに言いたい事があってきたんです」

 

「ふむ、言いたいことか。苦言を呈されるのか、それとも叱責をされるのか、どちらにせよ私にとって良いことではなさそうだね」

 

ウォズは半ば自虐的にそう言う。

 

(人の気も知らないで……)

 

彼を睨みつけるが、すぐにやめた。

今日の目的はそこにはない。私は自分の気持ちに決着をつけるために来たのだ。

 

「私、ウォズさんのこと……」

 

「私のことが、どうかしたかい?」

 

心臓が、早鐘のように鳴る。

呼吸が辛い。顔はきっと真っ赤だ。

言ってしまえ、言ってしまえ私!

 

「ずっと、見てたんです。ウォズさんよく、この喫茶店に来るから」

 

「なる、ほど。それは気がつかなかったよ」

 

違うッ!!

私のバカ!!

逃げてどうするんだ逃げて!!

眼前の白ウォズは、不敵に笑んだ。これは、彼が敵を前にして取る表情である。

恥ずかしさのあまり変な事を言ったのが、完全に裏目に出てしまった。

 

「私を尾行していたと言うわけだね。合点が入った……元々私と君は敵同士。敵情視察は当たり前だからね」

 

「そ、そんなつもりじゃないんです。本当の、本当に」

 

「分かった、信じよう。疑うのは、友のすることじゃあない」

 

白ウォズは芝居掛かった口調で答える。しかし、その目からは全く信頼を感じない。

お腹の下のあたりがキュウッと痛くなる。

なんで、なんでこんな話になってるの。

 

「しかし、ではなぜ私を尾行していたんだい。理由なく人の後を尾ける人間などいないだろう」

 

「それは……」

 

言ってしまえと、私の中の天使が叫ぶ。言っても意味はないと、私の中の悪魔が止める。

喉まで出かかって言葉を、喉仏近くの骨が押し留める。苦しい、この言葉を声にして出してしまいたい。

 

「……ッ!!」

 

私は勢いよく息を飲み込むと、目を閉じ、叫ぶように吐き出した。

 

「すき!だから!」

 

こころが、爆発した。

どれだけ大きな声が出たのか分からない。

多分、これまでの人生で一番、おそらくこれからの人生でも一番大きな声が出た。

 

「すき?」

 

「そう、です。私は、あなたが……」

 

白ウォズ真正面から見据え、私は再びその言葉を告げようと息を吸い込む。しかし、その言葉は凄まじい物音にかき消された。

音の発生地を振り返ると、そう遠くない位置で、黒服の集団が騒いでいた。

 

2019年3月30日(土) 12:38

時間は少し戻る。さあやの元に向かおうとするルールーのイヤホンに、ほまれは慌てて通信を送っていた。

 

「ルールー捜査官!どうした!?」

 

「好きな人がいるなら、その気持ちを伝えるべきです。さあやに、そう伝えます」

 

「ダメ、戻って!」

 

ルールーはほまれの言葉を聞かず、耳にしていたイヤホンを投げ捨てた。

ほまれは、はなとえみるに指示を下す。

 

「はな捜査官、ルールー捜査官を確保しなさい」

 

「ら、ラジャー!!」

 

はながルールーを確保しに向かうが、その力が強く、抑えきれない。

 

「流石はアンドロイド……!」

 

「私も手伝うのです……っ!」

 

オレンジのサングラスの少女も加勢するが、ルールーの勢いは止まらない。

 

「えみるは勇気を持って私にその気持ちを伝えてくれましたし、ほまれも、ハリーにその気持ちを伝えました。好きという気持ちはしっかり伝えるべきです」

 

「うう、斯くなる上は私も!」

 

ほまれの加勢により、ようやくルールーの歩みは鈍った。重なり合う4人の様子を、周りの客達が困った目で見つめている。

 

「止めないで下さい。私は、さあやにこの事を伝えなければいけません」

 

「ルールー!友達だからこそ、私はさあやを応援してあげたいんだよ」

 

「命令違反の捜査官を確保するのです!」

 

「全ては、さあやのために!」

 

3人の力が合わさった事もあり、ルールーは少しずつ後退してゆく。

 

(これなら、いける!)

 

頬の端を歪めるほまれ。

しかし、直後、その表情は別の理由により青ざめる事になる。

 

「私が、どうかしたの?」

 

さあやの顔は笑っている。笑ってはいるのだが、その目は欠片も笑っていない。

そして、その手には、よく見る日曜工具が握られていた。

 

「さあや、その手に持ってるやつ」

 

「ド、ドリルなのです」

 

さあやがトリガーに指に手をかけると、ドリルの先端が高速回転を始めた。凄まじい摩擦を伴った轟音が、3人の黒服達の表情から凄まじい速度で血の気を奪ってゆく。

 

「私、今ちょっと忙しいの。ちょっとだけ、後にしてくださる」

 

「は、はーい。みんな撤収!!」

 

「「らじゃー!!」」

 

黒服たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。その中で、ルールーだけがさあやの前に立っている。

既にサングラスは外されており、双眸が真っ直ぐにさあやを捉えている。

 

「ルールー?まだ何か用かしら?」

 

駆動するドリルの牙にも、ルールーは怯える様子を見せない。さあやの表情が険しく歪む。

 

「さあや、気持ちはしっかり伝えるべきです。そして、どのような結果になろうとも、その結果を受け止め、その結果に応じた未来に……」

 

「はいはい!作戦終了!撤退するよ!」

 

ルールーがほまれに連れて行かれ、店内には静寂が戻った。ドリルをしまうさあや。白ウォズは、その様子を、さもおかしげに眺めていた。

 

____________________________

2019年3月30日(土) 12:42

 

 

ウォズの前に座る私。

気持ちの整理なんてついてるわけがない。

もう、何を喋っていいかも分からない。

ウォズも、なかなか喋り出さない。

酷い邪魔が入ってしまったが、私の告白は伝わったのだろうか。心の奥のドキドキは全然止まない。

 

さっきのドリルは、工具店で買ってきたものだ。いざという時の護身用に持ってこようと思ったが、よくよく考えればプリキュアの力があればそんな事はいらないはずだ。

もう頭がぐちゃぐちゃである。

 

涙まじりに白ウォズを直視できない私の耳に飛び込んできたのは、驚きの一言だった。

 

「君の提案を受け入れよう」

 

「……え?」

 

理解ができなかった。

どの提案なのか、それをどうするのか。

真っ白な思考の中に、白ウォズの言葉が飛び込んでくる。

 

「君の行為を受け入れ、私が君の恋人になろうと言っているんだ」

 

「それって、ウォズさんが、私が好きって言ったのを、大丈夫って言ってくれてるって事で、それって」

 

「ああ。これからは互いに良き伴侶として、やっていこうじゃないか」

 

一瞬、ウォズさんの言っている言葉の意味が分からなくて。

その言葉の意味が分かって。

次は、それが信じられなくなって。

 

「本当に、いいんですか、私で?」

 

「私が好きだと言うのは、君から言い出した事だろう?それに、私は君のように素直で可愛らしい女の子は、嫌いじゃない」

 

「…………………ッ!」

 

途端に、呼吸ができなくなった。

胸の奥から、溢れ出すように嬉しさがいっぱい出てきて。苦しさのあまり、涙まで出てきて。私は、おぼつかない視界の中で、やっとの思いで声を絞り出した。

 

「よろしく、お願いしますっ」

 

そこから先の事が思い出せない。

気がつくと、喫茶店の外で私は白ウォズと一緒に歩いていた。

伸ばした手を、繋いでくれるウォズ。その手はとっても暖かくて、思わず眠ってしまいそうになったのを、心なしか覚えている。




ドーモ・ゼンカイッパンマン・デス
第二話をお読みくださりありがとうございます。
前回は、読者様の善意の指摘から、作品が削除され注意喚起を受ける前に、どうにか編集を行う事ができました。
今回で、全7話中の2話が終了した事になります。
次回からは二人の幸せな恋人ライフが幕を開けるわけですが、皆さんもご存知の通り、白ウォズは……
次回も、お楽しみいただければ幸いです。
次回の投稿は3日後となります。

※pixivにも同じものを投稿しております。
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