白ウォズの恋人として幸せな時間を送っていた薬師寺さあやだったが、その恋心はタブレットにより作り出されたものだった。仮面ライダーディエンドにより恋の魔法を解かれてしまう彼女だったが、2人で過ごした幸せな時間……その中で育まれた恋心までは消すことができず、さあやは再び白ウォズを求める。
アナザーブレイドが世界を滅ぼすまであとわずか。ほまれの助力により、さあやは白ウォズの元へと駆ける。
4月7日 16:35
空に黒いモノリスが浮かび、世界の崩壊が始まっている。
このままアナザーブレイドはジオウトリニティによって倒され、世界は救われる。そうすればウォズは消えてしまうのだろう。
そう考えた時、私達に残された時間は、限りなく少ない。
バイクも持たない、飛行機も持たない。空を飛ぶための翼もない私達は、プリキュアになっても、ただ走るしかない。
走っても全然近くならないモノリスに向かって、ひたすら走り続けるしかないんだ。
モノリス近くから、光が見える。光は天より、2つ、3つとモノリスの真下に向かって降り注ぐ。まるで、何かを一つにしようとしているように。
モノリスまでは、まだまだ遠い。
でも、私達は走るしかない。
ヒーローの速さで、地面が抉れるような速さで、走るしかない。息を切らしてこの暑い春の日の中を、力一杯走るしかないんだ
やがて、モノリスの下から轟音が聞こえてくる。それくらい近くまで、私達は来た。
あの下でソウゴさん達は戦っているのだろう。後もう少しだ。
後もう少しで、あそこに着くんだ。後少しで、間に合うんだ。
そんな時になって、モノリスは消えた。アナザーブレイドは消滅して、今日がオーマの日になった。歴史は変わり、新しい時代が来るのだろう。
ウォズが、消える。
私の足が、震える。
震えて、走れなくなる……このままじゃ、転んで。
「さあや!まだ諦めちゃダメ!!えみるが教えてくれた。今日の放送通りなら、ウォズが消えるのは夕方なの!あともう少しだけ一緒に走るよ!」
「うん……ありがとう!」
やがて、丼所山が見えてきた。あの人からもらった絆石が、どこかへ飛んで行こうとする。その引力に任せて、私は跳ぶ。
あの人のところに行く道を、私はもう迷わない。あの人への気持ちを、私はもう、迷ったりしない。
「ウォズ!!まだ消えないで!!」
さけび、かける。
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4月7日 17:XX
夕暮れに染まった空を見上げる、白ウォズ。
誰かが、この時間を黄昏時とかなんとか言ったそうだ。
昏い黄の空、的確である。
私の気分は存外に晴れやかだ。
魔王は、最早魔王ではない……彼ならいい未来を作ることができるだろう。
我が救世主は……少し頼り無いが、いざという時はやる男だ。私は彼の強さを信じよう。そして、もう1人の私。彼には……
そこまで考えた時に、空から飛んできたものがあった。
物というより、者だ。
夕闇に輝く二等星と三等星。
アレは、キュアエトワールと、キュアアンジュだ。そうか、私を最後に消してくれるのは、彼女達だったか。
不思議と、悪い気はしない。
勝手に生み出され、勝手に消えかけた歴史の中に放り出された身だ。最後に葬ってくれる相手くらいは、神も都合してくれていいだろう。
アンジュが歩み出す。
エトワールが、その背中を押す。カツカツとこちらへ歩みを進めてくる。
ああ、いい。そのままこちらにきて欲しい。君たちの武器で、私を貫いて、殺して欲しい。
「ウォズ」
「なんだい、さあや」
「私……」
アンジュは、私との制空権を軽く踏み越え。私の前に立ち……なんの躊躇もなく、私に抱きついた。キュアアンジュになっても私の方が背が高いんだ。改めてそう気がついた。
「私、やっぱり、あなたの事が好きです」
「忘れたのかい薬師寺さあや君。君の恋心は、私がタブレットで」
「今、好きなんです」
キュアアンジュ……いや、薬師寺さあやの言葉には、力があった。
私に有無を言わせぬ、きっとあのタブレットにも有無を言わせぬ、断固とした意思だ。
ゼロ距離で密着したまま、アンジュは私に語りかける。
顔は見えない。
「悔しかったです。あんなに大好きだったあなたへの気持ちが、タブレットに入れられた数文字に消されてしまうのが。すっごく悔しくて、悔しくて……だから、ウォズに返事ができませんでした。ごめんなさい」
「それは……君が、謝ることじゃない」
そうか、あの時の彼女の涙は、そういう悔し涙か。全く、人の気持ちというものは、わからないものだ。
「で、私考えたんです。時間にしたら短い間かもしれないけれど……タブレットで心を空っぽにされて、それでもなんで、ウォズを好きな気持ちが消えてないんだろうって」
「その心すら、ニセモノだったからさ。まぁ、そうだとすると、少し悲しいが」
「そうかも、しれませんね。けれど、私の出した答えは違います」
そこでアンジュは、私から手を離した。
手を離して、向かい合った。
私とあまり背が変わらないと思ったら、背伸びをしていたのだ。
「ウォズと過ごす中で、私は本当にあなたを好きになったんです。夏祭りで、図書館で……一緒の時を過ごすうちに、あなたのことが好きになってしまったんです。だから、今もこうして、好きって気持ちが消えないでいられる」
彼女も分かっているはずだ。
そんなわけが、無いんだ。
そんなロマンチックな運命があるはずはない。けれど、何故か妙に納得させられる答えだ。
これでいいのではないかと、思ってしまうくらいに。
「まったく、君はもう少し頭のいい子だと思っていたけれどね」
「まったくです」
そう言って、キュアアンジュは微笑んだ。
馬鹿らしく、本当に純粋な笑みだ。
私の横一文字に結んだ口が、ほんの少し緩んでしまいそうになるくらいに、彼女は笑った。
その頰に、一筋の涙が伝う。
「おかしいですね。絶対泣かないって、決めてたのに」
「さあやは、きっと泣き虫だな」
「はい、きっと、そうなんです」
さあやは、泣き笑いのような顔になって、恥ずかしげに顔を両手で覆って。
今度は、私が彼女を抱きとめる番だった。この荒野に人がいる訳も無いのだけれど、泣き顔を見られたくないのなら。彼女がそう望むのなら。
彼女の身体は、予想以上に小さくて、細くて、か弱くて。
だからこそ私は、精一杯彼女を抱きとめた。唇も、おでこも、どこも触れ合わない、まるで親子のようなハグだけれど。私達にとって、それは何よりも価値のあるものだった。
「さあや、私は、君が好きだ。嘘偽りなく、私は君が好きになってしまっている」
「私もです。ウォズ。本当の本当に、あなたが好きです」
「君に会えると知っていたなら、私はもっと冷酷になれた。もっと、非情になれた」
「でも、そうならなかったウォズだからこそ、私はきっと、好きになったんです」
何1つの一線を超えないまま、私は彼女を解放した。私達はそれで満ち足りていた。
十分だった。
心と心、その交わり以上に、必要なものは無いと、本気で言うことができた。
「ウォズ、1つ、お願いをしていいですか?」
「……私に出来ることなら、何なりと」
次のさあやの言葉は、たしかに、私の時間を止めた。
「消えないでください」
私は、もう消える覚悟をしていた。けれど、目の前の少女は私を諦めていないのだ。
私より、私を諦めていないのだ。
だから私に頼んでいるのだ。
「消えないでください」
もう一度、彼女は繰り返した。台詞は同じはずなのに、その声は、ひどく弱々しかった。けれど、彼女はその二本の足で立っていた。私の前で、精一杯の背伸びをしていた。
「分かったよ」
(きっと、彼女には敵わない)
「こうすれば、私は君の中で消えずにいられる」
(ならば、せめて一矢報いよう)
『薬師寺さあや、未来に向かって一歩を踏み出す。もうウォズの方を振り返る事はない』
彼女はきょとんとした顔で私の言葉を聞いていた。なんの拘束力もない、私の言葉を。
いつのまにか、私とさあやの背の差は、年相応に戻っていた。
小さい彼女と、大きな私だ。
彼女は、にっこりと笑い、踵を返した。そのまま、どんどん小さくなっていく。その顔は見えないけれど、その心のうちも見えないけれど、その足取りは、何よりも確かだ。
そうして、彼女は、この荒れ山から去った。私は、この荒れ山に残った。
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4月7日 1X:XX
空が、暗くなってゆく。私が消えるまで、もう少しだということがわかる。
そんな時になって、奴は現れた。私から力を奪った、もう1人の私。
「今この瞬間が、新しいオーマの日となったようだね」
「ああ」
もう1人の私は、ひどい風体だ。
傷だらけの泥だらけ。100人が私達を見れば、確実に私の方が勝者だと判断するだろう。
けれど、悔しながら、私は負けたのだ。身体を張った彼が勝ち、何もしなかった私が負けたのだ
なら、せめて私にできる事は、彼を導くことくらいだろう。私がこれから『ウォズ』の名を託す、彼を。
「私も君も、知らない歴史が始まる」
「オーマの日、私と君、どちらかが存在しなくなる。だが、君は君自身ではなく、私を選んだ……何故だ?」
怪訝そうな顔を浮かべる彼に、私はどう答えるべきか、一瞬悩んだ。
運命がそうさせたとでもいうべきか、それとも、単に君の方が強かったからだとでもいうべきか……どちらも間違ってはいないだろう。
ただ、そのどちらも癪だったので、私は、3つ目の選択肢を選ぶ事にした。
「私は、仲間を作れなかった。今の君のようには」
「私に、仲間が?」
怪訝そうな表情が変わらない。
側から見れば、あんなに素晴らしい仲間に恵まれているのに。何故もう1人の私はそれに気がつかないんだ。まったくもって腹立たしい。
だが、ここで腹立たしいなどと口にするのはのは、真っ平御免だ。私は私が消えるまで、まだウォズなのだから。
「気に入ったよ、あの魔王。彼なら面白い未来を作れそうだ。大事にするんだね」
もう1人の私のしたり顔に本当に腹が立つ。
なんて顔だ、人を煽るために生まれたような顔じゃないか。
こんな顔をしている奴は、確かにこの世に2人と要らないかもしれないな。
それに、彼には仲間がいると言ったが、私にだって仲間はいる。
この時代に来て、最後の最後にできた仲間だ。
その事は、言っておかねばならない。スウォルツにも魔王にも負けた私だが、せめて、もう1人の私にくらいは、一矢報いてやりたいのだ。
「そういえば、私には、心に決めた人がいてね。薬師寺さあやというのだが、ご存知かい?」
「いや……」
そうか、知らないのか。
ジオウはプリキュアと共にティードを倒したと聞いていたが、もう1人の私はその戦列に加わっていなかったという事なのだろうか。
まぁ、それでもいい。
「今から私のいう言葉を、彼女に伝えて欲しい。君はこれから、彼女に会う運命にあるからね」
「いいだろう。この本をメモがわりに使うのは癪だが……」
もう1人の私は、手元にペンを用意する。
「薬師寺さあや。私は決して君の事を忘れない。君が私の事をもし、記憶の片隅にでも止めておいてくれたのなら、絆石の導きに従い、未来でまた会おうーウォズ」
言い終わるや否や、私の体のヴィジョンが乱れ始める。
あともう少し、伝えたい事はあったのに。どうやら、その時間はなさそうだ。
「時間が来たようだ。君の未来が、闇に包まれぬ事を祈るよ」
そう言い残して、私は消えた。
真っ赤な絆石が、ポトリと地に落ちた。
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4月某日
あれから、何日も経った。ひょっとしたら何週間かもしれないし、もしかしたら何ヶ月かもしれない。
ライダーのいる世界は当たり前になったし、テレビで後輩達の活躍が放送される世界にも慣れた。
私は今、前に進んでいる。1日に少しずつ、未来へと進んでいる実感がある。
とはいえ、1日1日が急に変わるという訳でもないのだ。私達の日常は、またいつも通りに戻るだけ。
豪邸に、えみるの声が響き渡る。
今日も今日とて、抗議に満ちた声だ。
「ルールー、未来に帰りたいなんて言ってはいけないのです!私達はこの時代でずっと暮らすのです!」
「そうしたいのは山々ですが……未来に置いてきたお父様達のことも気になります」
「そうだよ。それに、ビシンもハリー達の所に返してあげなきゃいけないし。それに、未来に行けば、はぐたんにあえるかも!」
はぐたんという名前に、えみるは少したじろぐ。やはり、えみるももう一度会いたいのだろう。
しかし、えみるはすぐに厳しい顔を繕った。
「な、ならはぐたんをこっちに連れて来ればいいのです。代表で行った1人が未来も全部一緒に救って、ハリーとはぐたんを一緒に連れて帰って来ればいいのです!」
「じゃあ、その代表を決めなくちゃだよね。だれか、やりたい人、いる?」
誰も手を上げない。
はなの仕掛けた意地悪な多数決に、えみるは頬をぷくうと膨らませる。
「じゃあ、未来に行きたい人行きたくない人で、多数決を取ればいいのです。まず、未来に行きたくない人……はい!」
「えみる1人と。じゃあ次に、未来に行きたい人……挙手」
「はい!」
「はーい!」
はなとルールー2人の手が上がり、えみるはぐぬぬと悔しそうに唸る。
だが、その瞳に込められた反逆の炎は消えない。
「ま、まだ2人手を上げていないのです!ほまれとさあやは、どっちなのです?」
「わ、私は……審査員だからパス!」
「それはズルいのです」
「ほまれがこっちに味方してくれれば、ほら、未来いけるよ!ハリーに会えるよ!」
「う……」
ほまれは、困ったようにさあやを見る。
窓の外を見ていたさあやは、ほまれの視線に微笑みで返す。
「もう、あとはさあやだけなんだから!」
「ほまれもだからね!」
「さあやは、どう思うのです?今のところ、2対1で私が不利なので、味方を……」
「えみる!そういうのは卑怯です!メッです!」
「うるさいのです!イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばないのです!」
みんなを見回し、さあやは少し考える。少し考えて、すぐに答えは出た。
「私は……このままでいいかな」
はなとルールーはふくれっ面になり、えみるは天高く飛び上がらんばかりの勢いで喜ぶ。
「やっぱり!さあやは分かっているのです!我々インテリコンビに間違いはないのです!」
「インテリコンビは私とさあやです!えみるはどちらかというと、はなと2人でお気楽コンビだと思います」
「そうだそうだ……って、ルールー?それはちょっとひどいんじゃない?」
「そうですか?」
「そうなのです。そもそも、私とルールーが既に凸凹コンビなのです!はな先輩も他の誰かとコンビを組むのです!」
「うー、それなら私達はトリオだ!さあや!ほまれ!トリニティやるよ!」
「え、ちょ?はな!?私達は無理だって」
仲間達の喧騒をよそに、さあやはまた、窓辺から空に目を向ける。あの幻のような日々の出来事に、また想いを馳せるのだ。
喧騒から逃れでてきたほまれが、さあやの顔を横から覗き込む。
「さあやさ。さっきなんで、未来に行きたくないなんて言ったの?」
「うーん、特に大した考えはなかったんだけど」
「だけど?」
「なんでだろうね。でも、ずっとこうやって頑張ってればさ、いつか追いつける気がするんだ」
「追いつけるって……何に?」
「それは……」
外でわちゃわちゃと遊ぶみんなを一瞥し、私はまた、青い空を見上げる。
ポケットから取り出した二対の絆石を、太陽に透かす。緑と青のハートマークが、ステンドグラスの如くの地面に映し出された。
「そう、こうやって前に進んでれば、絶対に追いつけるって」
あの人のいる、未来に。
第七話をお読みくださり、ありがとうございます。今回で最終回になります。
これにて白ウォズとさあやさんのお話は完結となります。前回のサウザーや白ウォズの話を書きながらずっと、『この話は誰が読むのだろう』と思っていました。やや暗い作風の仮面ライダーの悪役と、凄まじく明るい作風であるプリキュアの主人公とのコラボ……普通は合いませんよね。ただ、それでも作品を読んでくださる方には感謝しています。
次回は、クロスオーバーに頼らず本家一本の二次創作に挑戦してみようと思います。
次回の投稿は、早くて1週間後になると思われます。
※同じものをPixivにも投稿しています。