天からの呪縛   作:わさびは美味しくない

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もう一つの小説を放っておいてすまぬ。
頑張って書くから許せ


罪人

 鉄格子で閉ざされた灯りがひとつもない暗い部屋の中央には黒い鎖で椅子に縛られた男。男が誰かが近づいてくる気配を感じ、鉄格子で隔たれた部屋の外に目を向けるとそこには黒い着物と袴に加え白い羽織りを身につけ、斬魄刀と呼ばれる刀を腰に差した死神と呼ばれる存在。さらに情報を付け加えるならばそこにいるのは卍解という斬魄刀の真の力を解放できる死神の中でもトップの十二人、身につけた白い羽織りの背には十一を抜いた一から十三までの漢数字が書かれている。

 

 死神の中の一人、額に十字傷がある立派な髭を携えた老人、山本元柳斎重國が口を開く。

 

「久しぶりじゃな、禪院(ぜんいん)甚爾(とうじ)。いや、今は伏黒(ふしぐろ)じゃったか」

 

「久しぶりだなジジイ、最後に会ったときから見た目が何一つ変わってねぇな。それで?隊長らが雁首揃えて俺の出所祝いか?ご苦労なことで」

 

 椅子に縛られた己、伏黒甚爾の煽るような口調に山本元柳斎の側に控えていた朽木銀嶺が顔を顰める。山本元柳斎は数多く存在する死神の頂点に君臨する存在であり、そんな彼に対して敬意が欠片も感じられない態度で接する伏黒に思うところがあった銀嶺だが、山本元柳斎自身がそれを咎める気がないのを察して表情に出すだけで留まる。

 

 その場にいる死神の中には伏黒甚爾という存在をよく知っている者もおり、そういった者は伏黒の発言を気に留めない。山本元柳斎も伏黒をよく知っている者のうちの一人であり、伏黒の反応をある程度予想できていたので構わず続ける。

 

「禁固刑740年、今日でそれも終わりお主は釈放となる。じゃが、お主の斬魄刀はちと危険すぎる。無論お主自身もな。よって、数十年は監視官付きで生活してもらう」

 

「俺達死神にとっちゃ数十年なんてあっという間だろ。そんなんでいいなら監視官付きでも全然構わねえよ」

 

 黒い鎖による拘束から解かれ、軽い柔軟体操を行なって体をほぐしながら久しぶりに会う旧友に声をかける。

 

「久しぶりだな京楽、浮竹。元気にしてたか?出所祝いに飯でも奢ってくれ」

 

「700年ぶりだってのに君は変わらないなあ」

 

「俺はこのとおり元気にしていたぞ」

 

 京楽春水と浮竹十四郎は伏黒と共に真央霊術院を卒業した同期であり、二人は真央霊術院出身者で初めて隊長に就任したことで有名である。霊術院に通っていた当時は伏黒はまだ禪院甚爾として通っており、お互い貴族の出という共通点があり今では気の置けない関係となっている。

 

 久しぶり、それも投獄されていた伏黒にどう接すればいいか迷っていた二人だったが、先程まで収監されていたとは思えない気楽な発言に肩の力を抜かれ傍からそれを見る者は三人が親しい間柄だとすぐわかるような言葉の応酬。そのまま三人は指定された伏黒の居住地で空白の700年を埋めるように会話に花を咲かせ、夜を明かした。

 

 

 

 

 

 伏黒が釈放されてから数日、京楽は隊首会に出席するために一番隊の隊舎に向かっていた。連日伏黒と共に酒を浴びるように飲んでいたので体が重く、浮竹の忠告を素直に聞いておけば良かったと後悔しながらも歩みは止めない。

 

 一番隊の隊舎に着き、入って行くとすでに十一人の隊長達が並んでいるのが目に入る。少し歩くペースを早めて指定の位置に着くと、隊長が一人不在のまま隊首会が始まる。

 

「なんや、あの豚はまた来おへんのか」

 

「一応同じ隊長なんだ、あんまりそういうのはやめとけ真子」

 

 五番隊隊長である平子真子がこの場にいない十一番隊隊長に対する嫌味を口にすると、普段から交流のある九番隊隊長である六車拳西がその発言を諫める。

 

「今日の隊首会の議題は他でもない、今話に出た十代目剣八である鬼巌城(きがんじょう)剣八についてじゃ」

 

「なんや、まさかあの豚が罷免でもされるんか」

 

「そのまさかじゃ」

 

 山本元柳斎の発言にその場にいた半数以上は呆気にとられていた。鬼巌城は隊長就任の条件こそ満たしたものの、剣八を名乗るには値しないとこの場の全員が少なからず思っていた。先々代である八代目剣八、本名痣城(あざしろ)双也(そうや)が罪を犯し無間に収容されたことによって、繰り上げで九代目剣八となった当時の副隊長を隊員200人以上の立会いのもと、一対一の対決で殺したことによって十代目剣八の名を襲名したのが現隊長である鬼巌城剣八。

 

 しかしこれは正式な襲名にあらず、襲名した後、護廷十三隊の隊長として活動をせず今日のように隊首会にすら出席しないので問題になっていたが、十一番隊に鬼巌城を超える隊士が出てこなかったので今まで隊長の座に居座れた。

 

 山本元柳斎が剣八について口にするときは決まって次の剣八候補が現れたときに他ならないが、ここに集まった隊長達は己の隊の隊士達にそういった者の心当たりがなく、十一番隊の隊士にもそういった者の噂は聞いたことがないからだ。

 

「鬼巌城剣八は護廷十三隊として、剣八の名を継ぐ者として相応しくないと四十六室に判断された。本来は次の剣八候補が現れるまでは放っておくのが常じゃが、特例によりある者に次の剣八が現れるまでの代理を勤めてもらう。代理を務めるのは伏黒甚爾じゃ」

 

「山じい、それ本気かい?」

 

「四十六室から直々のお達しじゃ」

 

 山本元柳斎の発言にこの場にいた全員が驚愕する。今出た者の名はつい最近まで無間に収監されていた罪人の名であり、四十六室が指名してまで隊長にするとは思えないからだ。

 

「理由としては最近の虚の活動が活発になってきたことに加え、滅却士の残党の侵攻について考えた結果伏黒甚爾が次の剣八が現れるまでの代理に相応しいとのことじゃ、これは十一番隊の隊士達の陳状を踏まえた結果である。決闘を行う日付と場所は追って連絡する、以上解散」

 

 山本元柳斎は今語ったことに加え、己はかつての教え子である伏黒の手綱をある程度握れる、かつ伏黒は危険な思想が無くこちらから手を出さなければ基本的には害はないことが理由に含まれると言われずとも理解していた。

 

 

 

 

 

「伏黒甚爾ってそんな強いんか」

 

 隊首会が終わり、己の隊舎へと向かう京楽に声がかかる。目を向けると己の隊の副隊長である矢胴丸リサがいる。矢胴丸は隠れているものほど見たくなる性格をしており、隊首会が開かれると知ると必ず盗み聞きをしている。何度か注意を受けたが止める様子全くがないので山本元柳斎も諦めて黙認している。

 

「まあね、卍解を習得していたら隊長に間違いなく推薦されていたくらいには強いよ。伏黒自身はあまり興味ないみたいだったけど」

 

 なにしろ800年近く前のことなので伏黒の正確な強さを知っている者も限られている。零番隊に昇格した者を除けば十人にも満たない。しかし、相性の良し悪しはあれど零番隊への勧誘が来ていた今は亡き七代目剣八である刳屋敷(くるやしき)剣八を持ってしてあまり戦いたくないと言わせた男の実力は当時の死神達の間では知らぬ者はいないほどだった。

 

「ほんなら今の剣八なんか簡単に倒せるんちゃうんか」

 

「まあでも彼も一応剣八を名乗ってるだけあって強いし、伏黒はちょっと体質の問題もあるからねぇ」

 

「体質って?浮竹隊長みたいに病弱なんか?」

 

「その辺は当日に説明するよ、問題ないと思うけど伏黒は裏で話されるのあまり好きじゃないしかもしれないし。当日見にくるでしょ?」

 

「当たり前や!伏黒甚爾がどんな人間か洗いざらい吐いてもらうから覚悟しとき!」

 

「相変わらず元気だねぇ」

 

 

 

 

 

 隊長選任の儀式当日、十一番隊隊舎の敷地内にある演習場に隊長、副隊長含め多くの死神が集まっており、彼らの視線の先には数日前に釈放されたばかりの伏黒。弱そうだ、命知らずだ、といった声が聞こえてくる。

 

 伏黒は多くの視線に晒されながらも緊張している様子は無く、傍に斬魄刀を置いて屈伸などの準備運動をしながら相手が来るのを待つ。

 

「お前か、俺に挑むっていう命知らずは」

 

 声のした方向を見ると2mは優に超えているであろう背丈に加え、纏った贅肉からは鍛錬をあまりしていないことが見て取れる髭面の巨漢が演習場に入って来るのが見える。見る者を慄かせる風貌をしており、事実十一番隊の隊士達は静まり返っており演習場は静寂に包まれている。

 

「テメェが鬼厳城剣八か、剣八を名乗るくらいだからどんなもんだと思ってたが弱そうで安心した」

 

 伏黒の言葉を聞き鬼厳城の眉間に遠目から見ていた死神達にもわかるほど皺が寄る。鬼厳城が十一番隊に入ったのは八代目剣八が投獄された直後で、始解を習得してすぐ九代目剣八を殺害し剣八になった。故に鬼厳城は他者からの見下すような視線を浴びたことが無く、耐性もなかった。

 

「隊士に暴力を振るってストレスでも発散してたのか?すごい数の陳状だったらしいぜ」

 

「そこまでじゃ伏黒。両者揃ったことにより、これより隊長選任の儀式を始める」

 

 伏黒がさらに言葉で鬼厳城を揶揄しようとしたのを山本元柳斎が止めに入り、儀式の開始を告げる。にわかにざわめき始める場内だったが鬼厳城がひと睨みするとすぐに先程までの静寂に戻る。

 

「お前をぶっ殺した後はあいつらを教育しなきゃならねえからな。早めに死んでくれや」

 

「それはこっちの台詞だ豚、強くもねえのに剣八名乗りやがって。まあ、800年ぶりの実戦だし錆落としにはちょうどいいか」

 

 伏黒の言葉でより一層眉間の皺を深くする。今にも斬りかかりに行きそうな雰囲気だが、山本元柳斎が開始の合図をしていないので我慢する。

 

「それでは、開始!」

 

 開始の合図と同時に両者共に抜刀し、斬りかかる。鍔迫り合いになることによって周りの隊士から落胆の声が上がる。体格差は一目瞭然、鬼厳城が力で押して鍔迫り合いを制すと周りの隊士達は思っていた。しかし数秒経っても予想に反して鍔迫り合いが拮抗していることに驚きの声を漏らす。

 

 これには鬼厳城も驚いていた。己より圧倒的に小さい男と力が拮抗するなどと考えてもみなかったからだ。

 

「どうした?まさかこの程度で剣八名乗ってたんじゃねえだろうなぁ」

 

 鬼厳城は力一杯押しているにも関わらず、伏黒は涼しい顔でしかも話しかける余裕すらある。

 

「うるせえ!」

 

 一度瞬歩で鍔迫り合いの状態から抜け出し、剣戟に移る。

 

 

 

 

 

「なんや、やっぱり強いんか」

 

 思わずといった風に二人を見ていた矢胴丸が呟く。初めの鍔迫り合い、そして今現在行われている剣戟を見ても800年もブランクがあるとは思えないし、何か戦いに支障をきたすような体質があるように見えないからだ。

 

「よくよく考えてみたら彼相手なら伏黒は寧ろ楽に勝てる相手だったみたい。体質も特に戦いに関係ないかもだし、杞憂だったかな」

 

 京楽は己の友人である伏黒への心配が杞憂であったことに安心する。

 

「だからその体質はどーゆーもんやねん、説明するゆーたんやから責任もって説明してもらうで!」

 

「わかったわかった。伏黒も別に話しても問題無いって言ってたから説明するよ」

 

 京楽は説明をしようとすると、伏黒の話を聞きたいのか周りにいた隊長格や副隊長格も京楽の声に耳を傾ける。京楽は伏黒の体質、伏黒自身が"天与呪縛"と名付けたものについて説明する。

 

 天与呪縛とは生まれながら肉体に強制された縛りである。これは京楽や浮竹、そして山本元柳斎さえも伏黒以外に見たことがない特殊な体質だった。伏黒が課せられた縛りとは霊力の体外への放出などの操作が出来ないといったものだった。尸魂界に生まれたものならばどんな者も訓練すればできるものを伏黒はできない。故に斬拳走鬼のうちの鬼と走、つまり鬼道と瞬歩が全く使用できないのだ。無論霊圧感知も行えない。

 

 しかし天与呪縛は何もデメリットだけのものではない。縛りがある分他のものが強化されているのだ。その最もたるものが多くの隊士が目にした鬼厳城にも負けない膂力に五感。それに加えて、伏黒は霊圧感知に引っ掛からない。一般に死神は足元に霊子による足場を形成して瞬歩や空中に立つといった芸当をこなしている。伏黒は空中に立つことこそできないものの、身体能力にものを言わせた瞬歩もどきを使って戦う。

 

「ほんなら、空中に立たれたら一方的にやられてまうがな」

 

 京楽が天与呪縛について一通り話終わると近くで話を聞いていた平子がもっともな意見を言う。話を聞いていた周りの死神達も平子の意見に同意するかのように頷く。

 

「まあ見てなって。そろそろ試合を動きそうだし」

 

 

 

 

 

「わかったぜ、お前の弱点がな」

 

 剣戟を一度中断し鬼厳城が話始める。

 

「お前、もしかして瞬歩使えないんだろ。さっきも俺が瞬歩で距離をとったとき詰めることをしない。何度か隙があったにも関わらずだ」

 

 伏黒がなにも反応を示さないのをいいことに鬼厳城は己の見解を話続ける。

 

「そしてお前の斬魄刀は常時開放型、能力はお前自身に対するなんらかの強化といったところか。それならその膂力も霊圧が感じられないことにも納得できる。けっ、ビビらせやがって。じゃあ死ねや、噛み千切れ『影狼閣(かげろうかく)』」

 

 鬼厳城の真下、空に立ったことによりできた影から小さい矢倉が這い出てくる。光沢が一切なく、光を呑み込むような黒に彩られた矢倉。次の瞬間、伏黒の膝あたりまでの高さしかないその矢倉から矢倉と同じ色をした無数の狼の群れが現れる。

 

 襲ってくる狼の群れを斬魄刀でさばくが、数が全く減らない。不審に思った伏黒は己の斬魄刀で斬りつけた狼を見ると瞬く間に斬ったはずの傷が直っていく。

 

「はっ、さっきまでの威勢はどうした!瞬歩が使えないお前はこのままそいつらに噛み千切られて死ぬんだよ!俺の前の剣八みたいになぁ!あいつは見てて滑稽だったぜ、最後には命乞いをするだからよぉ!周囲の霊子を吸収して再生する影狼を倒すことはできねえ!さっさと死にやがれ」

 

 鬼厳城の言う通りであった。再生する狼をいつまでも相手にするわけにはいかず、かと言って空に立つ鬼厳城に対する攻撃手段を伏黒は持っていない。故に斬魄刀には斬魄刀を、伏黒も己の斬魄刀を解放する。

 

「さっきからペラペラよく喋る野郎だ、すぐに黙らせてやるからちょっと待ってろ。久しぶりだからな、いくぜ。───── (ほど)け『天逆鉾(あまのさかほこ)』」

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