ひいじいさんが死んだ。今でも信じられない。お母さんがばあちゃんと縁を切ったと言った。こいつはなんなんだろう。
お母さんはひいじいさんの死体を見ても笑っていた。遺骨を見て泣いているみんなに「なんで泣いてるの?」と不思議そうに言っていた。
だから思った。お母さんは人の心を持ってないんだ。
だからお母さんは俺の事をクソ餓鬼呼ばわりするし、平気でぶつし、俺の話でさえ真面目に聞いてくれないんだ。
気持ち悪くなってきたので今日はこれでペンを置く。
今日も今日とて妖怪を刈り殺す。今回は魔法の森の奥の方ではなく、浅いとこで縄張りを張っている雑魚どもの苦情被害が出たのでそいつらの掃討だ。
退治屋も無差別に妖怪を駆逐しているわけではなく、弾幕ごっこ?と言うもののルールを破った妖怪、人を無差別に殺した妖怪、力をつけすぎた妖怪などを選んで殺している。
そして今回は無差別に人を殺してしまった妖怪どもであり、たった今、最後の一匹を斬殺したとこだった。
「うわ汚ったな」
妖怪の緑色の血が黒の長ズボンの太ももらへんについていた。俺はハンカチで頑張って血を拭き取ろうとするが、染みてしまってもう綺麗な状態にするのには手遅れだった。
このズボンは親父から貰ったものであり、仕事着にしろと言われていたのだが、俺としてはお気に入りの一つだった。だから極力汚さないように気にかけていたのだが、ここで汚されるとは。
「俺も修行がたりてないんだなぁ」
いつもナイフの効率良く、切りやすい振り方を研究したり、素振りとか、ランニングとか、そこそこやっているつもりなんだが、まだまだ弱いらしい。帰ったら体幹メニューでも追加してみるか。
汚れを拭き取るのをやめて帰宅の準備をしていると、視界の隅で紅と白が舞っているのを感知する。
「ん?なんだ?」
そっちの方をよく見てみると、紅白の巫女服を纏った少女が巨躯の妖怪、恐らく前に俺が殺し損ねた鬼と淡い光を放つ霊弾を飛ばしてお祓い棒を片手に戦っていた。
戦況は圧倒的に巫女の方が優勢。弾幕の量と体術、封印術で相手をボコボコにしていた。
「凄いな」
なんと言っても相手の数手先を読む巫女の動き。天才的とさえ言えるだろう。
鬼から放たれる力強い連打を紙一重で全て避けていく巫女、そして鬼がイラついて大振りになったところを懐に入り込んで封印術で攻撃していく。相手の精神状況を利用しての攻め、明らかに戦闘慣れしているあの動き。間違いない、強者だ。
「これで止めよ!!」
巫女の方がお祓い棒に霊力を集め、怯んでいる鬼に飛び込んだ。
しかし、巫女の背後から、小鬼が一匹迫っていた。
「キィィィィ!!」
「なッッ!!」
背後からの奇襲に驚いた巫女が、空中で体勢を崩して攻撃の隙を与えてしまう。流石に愚鈍な鬼もその隙は逃してくれない。
「グオおおおお!!」
鬼がその細い首をへし折ろうと手を伸ばしてきた。巫女は驚いた様子で硬直してしまい、小鬼、鬼両隣から襲い掛かられる。
流石に俺も見ていられなかったので、参戦することにした。
能力を行使し俺と鬼との距離を一種でゼロにし、相手を斬る。
「腕、首、足」
俺は能力を行使し、腕→首→足の順に斬っていく。勿論その過程は見えていないので、側から見たら俺はただナイフを構えて勝手に相手の各部が斬れていったように見えるだろう。
「セイッ!!」
巫女の方はというと、瞬時に状況を把握して、手際よく小鬼を倒していた。なるほど、殴打て倒せば血も肉も飛びにくいのか。勉強になった。
「横槍を入れて申し訳ない」
「いえ、いいのよ。結果的に私が助かっちゃったんだし」
一応巫女の人だし女の人なので出来るだけ紳士に接する。とは言っても俺の服装は上は黒と白のパーカーで、下は緑色の血が付いた黒のズボンだ。紳士というより殺人鬼と言った方が合ってる。
「私は博麗霊夢。博麗神社の楽園の素敵な巫女よ」
「俺は天ヶ瀬甲斐です。里の退治屋の一人です」
「...天ヶ瀬甲斐。まさか貴方が『退治屋の男』?」
なんか俺の変な二つ名が最近広まっているんだが。誰だよこんなの作ったのまじ風評被害。
間違いでは無いので照れながらも仕方なく俺は肯定する。
「...なんか色んな人に広まってるんですが、まぁそうですね。俺が退治屋の男です」
「男っていうより、少年って方が合ってるじゃ無いの。男って聞いてたから筋骨隆々の人を想像してたわ。あと、敬語じゃなくていいわよ。っていうか、やめて。むず痒いから」
「了解。んで、博麗さんはなんでこんなとこで?」
「決まってるじゃない。妖怪退治よ」
へぇ、妖怪退治ねぇ。こんなか弱い少女が日々戦いをっていうかそりゃそうか。あんな戦い方してたら一目瞭然か。
正直俺と同年ぐらいの人が妖怪退治を俺以外にしているなんて信じられん。だって、博麗神社の巫女だからって。うん?待てよ。博麗?
「まさか、博麗の巫女って博麗さん?」
「ええ。そうよ」
「まさか、その仕事してて有名人に会うとは思わなかった」
こんな血生臭い仕事で金以外に得を得るとは。人生生きてるとわからないもんだなぁ。一回死んでるけど。
え、私有名人なの?という顔をしている目の前の巫女に、一つ聞いてみたいことがあった。
「俺外来人なんだけど、外の世界に戻ることってできるの?」
「貴方外来人だったの?あんな戦い慣れてたのに?意外だわ」
「よく言われる。そこまで戦い慣れてるわけじゃなのになぁ」
なんか野生児っていうか戦闘狂って言われているようで嫌なんだよな。平和が一番だってのに。
「恐らく無理ね。鬼を瞬殺できる人間が外の世界に行ったら、数百人なんて軽く消せるでしょ。そんな人はあっちには置いてけない」
「だろうな。ま、あっちに未練なんて一切無いし、こっちの方が生きやすいからいいんだけどさ」
正直数百人は言いすぎたと思うが、人類の脅威になることは明白だ。そもそも一応あっちの世界に戻れるかだけ聞きたいだけで、俺にはあっちに行く理由も動機もメリットも無いから行く気なんて一切ないのだ。
「さて、それじゃあ俺はよ「あ、そうだ。助けてもらったお礼で、うちの神社に寄ってかない?」...うじなんて無かったわうん。んじゃあ、ご好意に甘えて」
ということで、俺は博麗神社に行くことになった。
「ぜーはーぜーはー。なん、だよ、あの坂!!長すぎだろ!!」
「貴方も飛べたらねー。どう?飛ぶ練習でもしてみる?」
「今日は疲れたからいいや....うっわまじ疲れた。妖怪倒す以上に疲れた」
疲れたしか言ってないわね、と巫女の口から漏れるが、俺の捲った黒白のパーカーの袖から伸びる俺の腕からは滝のような汗、顔から顎に伸びて滴り落ちる汗、汗汗汗。この汗の量を見れば言わずもがな、坂が長かったのだ。
博麗さんが神社の賽銭箱が一緒に置いてある階段に座っているよう促し、麦茶を持ってくると言って中に入っていった。
俺はぐでぇっと体を椅子にしている階段に預け脱力する。
「見晴らしは○立地が×安全性は◎。警備は博麗の巫女いるからアルソック頼まなくてもいいな」
「冷たい麦茶持ってきたわよー。...相当疲れたらしいわね。しょうがない、明日から飛ぶ練習してあげる」
「御指導お願いします」
「指導料はたくさんもらうわよ」
「ソンナァ」
「冗談よ」
俺は酷い顔をすると、ふふふと笑う博麗さん。ちなみに俺はそこまでお金は持ってないので、貧乏暇なし、頑張っていつも仕事しているのだ。そこ、社畜って言うな。
博麗さんも麦茶片手に俺の隣に座る。
「カイはいつから幻想郷に来たの?」
「三ヶ月ぐらい前だったか。気付いたら森の中に居てさ、妖怪に襲われそうになったところを、今の親代わりに助けてもらったんだよ」
「なるほどねぇ。でも、三ヶ月であの強さは異常よ?」
「そんなでもねぇよ。必死に戦ってたらああなっただけだし」
「『必死』ねぇ...」
「...なんだよ」
いきなり俺の言葉に意味ありげに反応し、俺のことを見てきた博麗さんを俺は理由を問う。
「いーや。何もないわ。そういえば、妖怪退治してると苦労することってあるわよねー」
「あー。あるある。緑色の血がついたり、最初は舐めてかかってきたり、
『声が煩かったり』
「やっぱそうだよな」
「大抵の雑魚妖怪って体大きくて声が大きいだけで、力はそこまでないのよね」
「そうそう、それで逆にこっちが冷めちまったりさ」
会話がだんだんヒートアップしていく。
退治屋と巫女の少し血生臭いような会話の熱がこもり始め、時間が過ぎるのが早くなる。
その日の夜は帰るのが少し遅くなってしまった。
この日記は誰のものなのだろうか。