彼と幻想郷の物語   作:当事者A

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日記2016/8/?
 結局のところ、俺は天ヶ瀬甲斐なのだ。
 あの不幸を起点として自分の幸福をあのクソババァに終わらせらたあの日から、あのあんな身に余る不幸を受けてしまったあの日から、俺は天ヶ瀬甲斐になったのだ。
 ある種一回死んだような体験をして、頭がドロドロに溶け出していて、それはもう手遅れなのだ。
 そう、これは悪夢だ。
 心が乖離してしまっている悪夢なんだ。


第三話「甘いもの食べて」

 今日は仕事も休みで人里を散歩していた。

 そこそこ人で賑わっており、最近できた甘味処に行列ができていた。

 

 

 「あそこ行ったことないけど美味いんかな」

 

 

 その甘味処の饅頭を喰った知り合いのおっさんが、「なんだこの味は!!舌の中でとろけ合うハァァァモニィィィィ!!」って叫んでいるところを俺はちょっと前に目撃した。どこの美食家だよ。

 

 「どうすっかなぁ」

 

 

 手持ちの金はそこそこある。

 

 今日は予定は一切ない。

 

 行列が長いが俺は許容できる人間だからOK。

 

 

 「よし、並ぶか」

 

 

 善は急げ、思い立ったら即行動、俺は長い長い人の列を並んだ。

 

 

 

 1時間半後

 

 

 

 ようやっと買えた。

 小学校の頃に行ったディズニーのアトラクションぐらい待ったぞ。

 

 

 「俺の分と親父の分、あと博麗さんの分買ったけど、今博麗さんいっかな?」

 

 

 友人である博麗さんの分も買っといたが、今彼女がどこにいるか分からない。一応博麗神社には今向かっているが、行って居なかったら暇になってしまう。居ることを願おう。

 

 

 「しかし、魔法の森は日差しを遮ってくれるから涼しいな」

 

 

 魔法の森の木々がいい具合に日光を遮ってくれる。そのお陰で適度な温度で快適にこの道を歩けていると思うと、有害な毒キノコの粒子もすこし許容できる。

 人里から博麗神社に行くなら、魔法の森を突っ切って行った方が速いことを知り、最近博麗神社を行く際はこのルートを多用している。

 

 

 「さて、もうそろそろ階段が見えるはずなんだが」

 

 

 最近は博麗さんのお陰で飛べるようにはなったが、やっぱり歩く方が性に合っているらしく神社前の長い階段以外は徒歩を起用している。博麗さんには変わっていると言われたが、飛び続けていると足腰が弱くなりそうで怖いし。

 

 木々の生い茂りが無くなって目の前には長い長い階段が見えた。

 それを自分の霊力を持ってして体を浮かし、緩くスピードを出して上がっていく。

 

 

 「霊力操れるようになったのはいいけど、正直能力だけで事足りるから使わねぇ」

 

 

 博麗さんからは霊力だけは私ぐらいあるわよ。と告げられてそれ以来週3で博麗の巫女の授業が飛ぶだけではなく戦闘面の授業を入れられた。

 

 博麗さんは人の形をとっているのが可笑しくなるぐらい対人戦でも強く、これと殺し合いをしろってなったら、男の俺でもヒットアンドアウェイを使うしかない。それを使ったとしても勝てるかすら分からないが。

 

 

 「次やるときはもうちょっと工夫してやんないと、到着〜」

 

 

 博麗神社に到着した俺は、賽銭箱まで近づき、お金の代わりにお菓子が入った紙袋を置く。

 

 

 「博麗さーん。お菓子買ってきたー」

 

 どたどたどた

 

 「お菓子!!」

 「お、おう。最近出来たっていう甘味処の苺大福と饅頭を」

 

 

 凄い勢いで出てきた博麗さんを、少々引きながら持ってきたものを説明する。

 すると、博麗さんの目がキラキラしだして、

 

 

 「上がって!!すぐ上がって!!お茶も出すわ!!」

 

 

 女の子って甘いもの好きなんだなぁ。って内心呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 「あぁ、至福〜♪」

 

 

 蕩けそうな頬を手で支えながら、苺大福を咀嚼する博麗さん。そこには博麗の巫女としてではなく、一少女としての博麗さんの姿があった。

 こんな女の子が妖怪退治しているのだから、世も末だなぁ。

 

 

 「ありがとうカイ。美味しいもの食べてなくて心が荒んでたのよ。そこにこんな宝を持ってきてくれるなんて、あぁ何を捧げれば」

 「いやいやいや、いいよ何も捧げんでも。いっつも霊力のことについて訓練してくれるから、そのお礼の代わりと思って」

 「こんな美味しいもの貰えるほど、そんな大そうなことやってないわよ。そもそも身体強化らへんからは私の独断でやり始めたものだもの。こんな美味しい授業料なんてもらえないわ」

 

 

 そんな美味しいのかこれ!?

 

 俺はまだ食べてないから知らんけど、え、なに、三つ星パティシエが作ったのこれ。まぁ、たしかに値段はそこそこ張ったけど買えないほどでもないし、全員外来人で外国人ぽっかったけど日本語話せてたし。いやでもなんかテレビで見たことあるのあの人、名前なんだっけなぁ。トニオなんちゃら。いやでもあの人パティシエじゃないし。

 

 

 「あ、そうだ。カイって人里に住んでるのよね?」

 「ん?あぁ、そうだけど」

 「人里からここまでってかなり距離があるじゃない?」

 「あ、あぁそうだけど」

 

 

 嫌な予感がしてきた。

 

 俺の背筋につー、と冷や汗が流れる。やばい、なんかやばい。

 だんだん博麗さんの笑顔が怖いものに見えてきた。

 

 

 「仕事場もこっちからの方が近いと思うし」

 「は、博麗さん?」

 「霊力の訓練もしやすくなるし」

 「博麗さーん。おーい」

 「面倒も見てあげれるから」

 

 

 あぁ、なんとなくわかったぞ。

 

 博麗さんが言おうとしていること、というかしようとしていること。

 

 可愛い、いい笑顔をして俺にそれをいうのである。

 あぁ、畜生。可愛いじゃねぇか。そのせいで断り難いじゃんか。

 

 

 「どう!?ここに住んでみるっていうのは」

 

 

 やっぱり。それか。

 こんな美少女と一緒に住めるのは、確かにいいかもしれない。外の世界では絶対に起きえないことだ。非リアの奴らにこの状況を知られたら中指立てられるのは絶対だろう。

 

 だが、

 

 だが、しかし!!

 

 俺はこの状況に甘んじない。

 

 俺は平凡に、そして静かに過ごしていきたいのだ!!

 

 だから。

 

 だからこそ!!

 

 ここは俺の精神を鋼にして、言い放つのだ。

 

 

 「謹んで、お断りします」

 「理由は?」

 

 

 目の前の博麗の巫女は笑顔を崩さずに俺に問いかける。怖え。

 

 

 「まず、俺の仕事は退治屋だが、仕事をもらう場所は人里なんだ。博麗神社にわざわざ来て貰うのも手間だ。必ず仕事の数は減るだろう」

 「そうね。でも今でさえ大量の依頼が殺到しているのなら、カイの固定客はついてくると思うわ」

 「だとしてもだ。ただでさえガキの俺に頼みたいっていうんだから、そんな切羽詰まってる奴を俺は見過ごせない」

 「お人好しね」

 「なんとでも言え」

 

 

 少し笑顔を崩して、だが余裕までは崩さずに俺の言葉を聞く。

 

 

 「次に、俺は親父に恩がある。まだ動けてるけど、いつ壊れるか分からないぐらい不安定だ。それに俺が消えたらあいつはぜったいに無理をするだろうから俺が居なくちゃいけないんだよ」

 

 「....」

 

 

 やっと、博麗さんの表情に笑みは消えた。

 

 

 「それに、俺をこの家に置いておくって意味わかってんの?」

 「...どういう意味よ」

 「具体的には男を連れ込むってことだよ?」

 「はっ!?」

 

 

 それの意味を正しく理解してくれた博麗さん。いや何気異性に対しての貞操観念低めなお方だからさ、一応友人やっているけど気をつけて欲しいところだね。

 

 

 「べ、べべ別にそういう意味じゃないのよッ!好きだとか、いやでも嫌いってわけでもないからまだ友人として!!」

 「はいはい分かっとる分かっとるから。とにかく俺は俺はここに住むことはできない」

 

 「うぅぅ...」

 

 

 初めて博麗さんの恥ずかしがっている顔を見る俺氏。本人は恥ずかしくて死にそうなのだろうが、これからしたら可愛い生物が目の前で顕現しているだけなのだ。

 

 博麗さんがちゃぶ台に顔を突っ伏して恥ずかしがっているところに、「霊夢〜」と博麗さんの声を呼ぶまた違う女の子の声が聞こえる。

 

 

 「霊夢ー。遊びに来たぜー。って男!!」

 「魔理沙!!来てたの!?」

 

 

 (勝手に)上がってきた白と黒が主張する少女、顔を合わせるのは初めてだが、俺は一方的に知っている。

 霧雨魔理沙。

 金髪で、白黒で、魔法使いであり、異変解決に身を乗り出す変人。博麗の巫女とよくつるんでいる美少女のひとりだ。

 

 

 「ってあぁ。うちの実家によく出入りしている退治屋のお兄さんか。最近有名な」

 「俺って有名なの?えぇ、そちらはかの有名な霧雨魔理沙さん?」

 「あぁ、そうだぜ。そういうあんたは退治屋の男で有名な天ヶ瀬甲斐さん?」

 「ご名答」

 

 

 俺は退治屋の男という大層な二つ名を内心恥ずかしく思いながらも、強がりながら答える。

 博麗さんは霧雨さんのことを少々うざがりながらもお茶を用意する。

 

 

 「サンキュー霊夢。んで、退治屋がなんでこんなところに?」

 「...なによ。カイがここにいちゃ悪いの?」

 「なッッ!!」

 

 

 何故か霧雨さんはコップを持った手を止めて驚く。え、なに。俺いちゃ悪いの?なんかごめんね。

 驚きから回復した霧雨さんは、少し遠い目をして言った。

 

 

 「...そうか、霊夢にも春が来たっていうことか」

 「ばっ馬鹿じゃないの!!」

 「大丈夫。大丈夫だ霊夢。努力すれば必ず実るから」

 「出でけー!!!!!」

 

 

 博麗さんは赤面させながらも、嵐のような勢いで逃げる霧雨さんを追いかけ回す。

 

 俺がいることと春がどう関係しているのだろうか。純粋に考えれば博麗さんが俺に好意を持っている。ということかもしれないが、ナイナイ。あるわけねぇじゃん。いやだって俺だよ。こんな卑屈な人間好きになる人なんているわけねぇじゃん。

 

 そんな逃避じみたことを考えながら、目の前で起きている霧雨さんの逃亡劇を見て思うのである。

 

 

 「元気だなあ。二人とも」

 

 

 齢十七歳がそんなこと思っているのだから、本当にこの世は末なのかもしれない。




 少年は楽しかったはずの過去がいつしか不幸に塗り替えられた。
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