アラサーがVTuberになった話。   作:とくめい 

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時系列としては書籍版6巻、Web版で言えば8章の辺り。夏嘉視点



6巻特典発売記念 閑話『妹トーク』

12月×日

 

「夏嘉ちゃんお疲れ様」

「雫ちゃんもお疲れ」

 

 今日は神坂雫ちゃんとあたし――柊夏嘉でちょっとした打ち上げ回的なものをやっていた。まあ、お互いに本名ではなく活動名でのことなんだけれども。本当の名前は知らない。聞けばきっと教えてくれるかもしれないけれども、あくまでお互いは柊冬夜の妹である柊夏嘉と、神坂怜の妹である神坂雫なんだ。それ以上でもそれ以下でもない。それにこう言うところで実名で親しくしてもし何かのキッカケでポロっとその名前で出してしまったら目も当てられない。お互いの兄の名前まで割れてしまう事だってあり得るので、普段からこっちの名前で呼び合うようにしている。と言うか寧ろネット上やV界隈の人からこの名前で呼ばれ慣れ過ぎてて、夏休み明けに高校で本名で呼ばれても自分に対する問いかけと思えずワンテンポ返事が遅れてしまったことがあった。職業病ってやつか? いや、あたし別にこれで飯食ってるわけでもお金稼いだりとかもしてないし。一応VTuberとしてのガワもあるにはあるけどね。

 

 話逸れちゃったね。今は雫ちゃんと期末テストを終えた打ち上げだ。とは言え実際に会ってとはいかない。お互い住んでいる県が違うし、新幹線で行き来はできるけれども、軽い気持ちで出来る距離でもない。あとお金もかかるし。ってことで通話でお互いにジュースとお菓子を持ってオンライン打ち上げだ。お互いに実兄が同じバーチャルタレントグループ『あんだーらいぶ』所属のVという共通点、しかも同い年。すぐに友達になっちゃったぜ。

 

「いつかそっち遊びに行きたいなぁってバカ兄貴とこの前話してた」

「えっ、本当?!」

「いつになるかは分かんないけど。あ、雫ちゃんにもこっそり色々協力してもらうかも」

「いいよ! おすすめのお寿司屋さんとか連れてってあげる」

「本当?! そっちのとこ回転寿司でもレベチって聞くしめっちゃ楽しみ」

「うん。ご近所さんの知り合いの人がやってるところなんだけど目の前で握ってくれるんだけど凄いリーズナブルなんだ。隠れた名店的なやつ!」

 

 いつかどこかのタイミングで神坂兄妹の住むところに旅行に行けないかと予定を立てている。一応お父様とお母様も一緒だけど、兄貴とあたしで別行動する時間帯も設けることになるのかな? その辺はおいおい決めるとして、豊かな自然、そして食がとにかく美味しいと聞く。ぶっちゃけ滅茶苦茶楽しみだ。世界一綺麗って言うコーヒーショップもあるらしい。映えそう。

 

「でも怜君お寿司とか握れそう」

「えっ、握れるよ?」

「冗談で言ったけど本当にできるんだ……」

「お正月にはお兄ちゃん寿司店開店するから。キッチンのカウンター使って疑似寿司屋さんやるんだ」

「なんか素で面白そうなことやってる」

 

 怜君――なんでもできるところがすき……それなのに全然評価されないところも不憫で推し甲斐がある、そんなところもだいすき。少女漫画のヒーロー役みたいなカタログスペックしているのに全然生かせてないところとかとか最高にすき。ファンが少ないとか、マイナー扱いされるけれど、推してる側からするとそんな事気にならない。逆に「自分だけが彼の良さを知っている」という感情によってより推し活が捗るというもの。でも雫ちゃんのお願いで笑顔でねじり鉢巻きして握る姿を想像すると笑えてしまう。可愛い。

 

「配信でやればいいのに」

「これっぽちもVに向かない配信じゃん……」

「あー……イケボYourTuberとしてデビューしたら滅茶苦茶人気出そう」

「過大評価だってば。まあ今が過小評価ってのは分かるけど……」

 

 おー、おー、この子は可愛いなぁ。さっきの後半の過小評価のところは小さく呟くように言っていたところとかブラコンが隠せてない。それを指摘すると必死になって否定するんだろう。

 

「でも実の兄を友達が『怜君』とか呼ぶのを聞くの未だに慣れない……」

「推しなんだから仕方がない。今月のクリスマスボイスめーっちゃ良かった」

「ふふん、今月も自信作。でも来年くらいから2周目になるわけじゃない?」

「2周目――ああ、活動から1年経つって意味ね」

「そうそう。同じイベントの使い回しとか良いものかと悩んだりしてる」

「作家先生様は大変ですなぁ」

「からかわないでよぉ」

 

 お互いに笑い合う。実際に面と向かって会ったことはないけれどもここまで気を許して話し合える子は、クラスメイトでもそういない。お互いに同じ境遇、そして同じ秘密を抱えた者同士。秘密の共有は固い絆を結ぶって言うとなんか格好良いよね。

 

 補足しておくと『あんだーらいぶ』では毎月ボイス販売していて、その台本を雫ちゃんが担当しているのだ。通常、ああ言ったボイスの台本は本人自らが手掛けるか事務所の人に頼んで用意してもらうかの2つの選択肢があるっぽい。同じ事務所の羽澄咲ちゃんにウチの馬鹿兄貴は何度か台本を書いてもらったことがあったが、肝心のボイスの方が酷い有様だった。ハッスちゃんにはあたしから謝罪しておいたのはここだけの話。

 

 今月のボイステーマはクリスマス。寒さを理由に手を繋いで、1本のマフラーを2人で共有したりとかする甘酸っぱいイベントをこなしていた。怜君、普段そう言う事絶対言わないだろうって言う少女漫画みたいなシーンを再現して聞かせてくる。そのギャップがまたたまらない。しかも距離感が近いのでバイノーラルマイクを使っているわけではないのだが、囁くように言う台詞があったところが今月のここ好きポイント。それにしてもこの子毎月ノリノリで台本書いている。SNSにあがっているボイス感想はほぼ全て目を通しているんじゃないかってくらいに、拡散やファボしているイメージがある。推しが褒められているって言うのは推している側だって嬉しいから気持ちはよく分かるけれども。

 

「謎に解像度高い辺り、実際にやってるのあるよね、あれ」

「……し、新作のお菓子美味しいなぁ」

「誤魔化したわね。ブラコン。正体見たりってやつよ」

「そ、そっちだって大概でしょ! ファンの人からなんて言われてるか知ってるの?」

「んー……?」

「通い妻」

「ごっほごほ……あ、あれはネタでしょ」

 

 雫ちゃんの言葉に思わず咽せた。確かに定期的に1人暮らししているお兄ぃのマンションに行って掃除とか料理とかしてるけれども、あれはあくまでもあんまりにもだらしない兄を見かねてのもの。好き好んでやってるわけじゃあない。

 

「雫ちゃんはお兄ぃのだらしなさを知らないだけだよ。あたしが掃除しないと本当にすっごい事になってるんだから」

「でも満更でもない、と。ノリノリでどんな料理が良いかなーとか、たまにわたしに聞いてくるじゃん」

「あ、あれは花嫁修業の一環なだけだから。お母様から教わったのを実践する良い機会なだけだから……」

「でも嫌じゃないんでしょ」

「ま、まあ……そうだけど…………」

 

 性に合っているのは事実だ。家だとなんでもお母様とかがやっちゃうからそう言うのを実践できる機会はない。多分お兄ぃの方も自分である程度は出来るんだろうけれども、あたしが来る理由を残していてくれている節はあるのかもしれないし。

 

「でも花嫁修業ってなんか凄い現代らしからぬ、漫画みたいな事やってるね。あ……も、もしかしてお家柄的にもうお相手が決まってたりするの……?」

「いや、別にそう言う訳じゃないよ? しいて言うなら怜君のところに嫁ぎたいけど」

「それウチのママに言うと多分本気にすると思うから止めた方が良いよ。あ、mikuriママじゃなくてリアルの方のママね」

「よし、外堀から埋めに行く作戦で行くべきか」

「え゛?! 本気なの?」

 

 そのくらいに想うくらいには好きと言うだけの話だが……その後いかに止めた方が良いかを必死にアピールする雫ちゃんを見ていると、大好きなお兄ちゃんを親友から取り上げるみたいな事だけは出来ないなと思った。ふふっ。

 

 

 

 

 





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