処女作ですので何かと稚拙なところは多いかと思いますが最後まで読んで頂けると幸いです。
人は誰であっても過ちを犯す時はある。それは仕方の無いことだし、その過ちは大抵は取り返しのつくことである。たが、時にその過ちは誰かに、そして自分に、取り返しようのない一生残る傷をあたえるときもある。
あの日、 彼女から向けられた悲嘆と怒りに満ちた目は今でも僕の頭から離れてくれない。
『なんで!? あの時の·····との··········わ·····れちゃったの!?』
『 な、何だよ? ······って。そんなの覚えてる訳ないだろ! それに·····これは僕に·······れても········ようも·····いこと·····んだよ。ましろ·····も··········るだろ?』
『··········から·······い! もう·······も·····陽一··········て·····ない! 二度と私の······界に·······らないで!』
『··········そっか。君··········う言う·······ら、そ·····するよ』
『あ·····ま、·····って! ········ってよ陽一! ────────
ガタンッ
「痛っ。·······また、あの夢か」
最悪の目覚めだった。またあの時の夢を見た上に、ベッドから落下。心身ともに最悪のコンディションだ。
寝室から出ると、昨日の晩飯の残りを温め直し、それで朝食を済ませた。テレビに映されていたニュース番組は大物芸能人が亡くなったとか、そんな気の滅入るような物ばかり報じているように感じた。ついさっき温めたはずの昨日の残り物も何だか冷たく感じた。
「いってきます」
誰もいない家の中に向かって返事の無い挨拶をして、家を出た。
去年まで海外にいた俺は今年4月に現在通っている高校の編入試験を受け、無事入学できた。当初は長い間日本から離れていたために不安は多かったが、何だかんだで上手くやれている。
編入してからまだ1ヶ月だが既に今の俺にとっての一番居心地のいい場所とさえ思える時もある。故に学校に行くこと自体楽しくはあるのだが、今日に限ってはそうではない。朝の出来事のせいか全くもって気分が晴れないのだ。きっと今日一日中そうだろう。あの夢を見た時は大抵そうだ。せめて今日一日が穏やかに·····
「陽くーん! おっはよー!」うん、分かってたけどもうちょっと希望を持たせてくれてもいいんじゃないですかね。早すぎやしませんかね? 俺の希望潰れんの。とか何とか思っていると俺のささやかな希望を打ち砕いた声の主が隣まで走って来た。
「おはよ! 陽くん!」
「おはよう、香澄。それから毎度言ってるけど、道の往来でそんな大声で人様の名前を呼ぶんじゃありません」
「うん! 気を付ける! 次から!」
と、お決まりのやり取りをするこの元気っ子だが、僕が学校に馴染めたのも彼女が真っ先に話しかけてくれたことが大きいだろう。
「ほんと返事だけはいいよな。その返事にどれだけ騙されてきたことか」
「まぁまぁ、細かいことは置いといてー。そんなことよりほら、陽くんは今日の宿題·····」
「見せねえ」
「まだ最後まで言ってない!」
と、頬を膨らませてコイツは言うが、言わなくても分かるわ。てかやめろその顔。ちょっと可愛いって思っちゃったじゃねぇか。
「どうせ宿題見せてくれだろ。もう何回目だ? これ。有咲にでも見せてもらったらどうだ?」
そもそもお前には恋人同然の親友がいるだろ。いつもイチャイチャしてんだろ。とか思っていると彼女は少ししゅんとして、
「有咲にはこの間、もう金輪際見せてやんねえ、って言われちゃったんだよ」
と言った。心做しか彼女のトレードマークの猫耳ヘアが垂れ下がっているように見えた。多分有咲に関しては香澄のためを思って突き放した部分はあるだろう。勿論俺同様めんどくさいという思いもあるだろうが。
そんな彼女の様子に少しの同情とその友情を微笑ましく思う感情を含んだ瞳で見ていると、突然彼女は猫耳を復活させてこう問い掛けた。
「なら陽くん、私がそれなりのー、えっと·····原価? を払えば見せてくれるのかな?」
多分彼女は『対価』と言いたかったんだろうが·····やはり残念なおつむだ。どうして高校生やっていけてるんだろうか?そう考えながら
「そりゃあそれに見合う対価があるなら考えないでも無いけど、そんなものを果たして提示できるのかね? 香澄君よ」
と少し意地悪く問い掛けた。すると今度は普段の彼女らしからぬ何かイタズラを思いついたかのような妖しげな笑みを浮かべてこう言った
「じゃあ良いバイト先紹介してあげる!」
その言葉に俺は足を止めた。ほう、こいつにしてはいいツボをついてきたな。だがしかし! 俺はそんじょそこらの条件では納得するような…………
「時間は融通効くし、時給はなんと……!」
そう言って香澄はその額をそっと俺に耳打ちした。
···············何だと?! 思わず目を見開いて彼女を見つめる。目に見えて動揺している俺の様子を見て、目を輝かせならさらに付け加えた。
「前、陽くん言ってたよね。『バイトしたいけどなかなかいいの見つからない』って。だったらこの話、陽くんにとっても悪くないんじゃない?」
「くっ·····。さっきまで頭の残念な子だと思ってたのにっ·····」
すると彼女はニヤニヤしながら
「んー? そんなこと言っていいのかな〜? バイトちゃんがどうなってもいいのかな〜?」
と問い掛けてくる。完全に立場は逆転。主導権は香澄にある。確かにここで宿題見せてやらない、と切り捨ててやることも可能だ。しかし日本に帰って来て数ヶ月、貯金にも余裕が無くなってきた俺にとってはみすみすこのチャンスを逃す訳には行かない。実際彼女の言う様な条件の良いものはそうそう見つからない
悩み悶える俺を見てもう一押しと思ったのか、彼女は更にこう付け加えた。
「なお、美人な上司がついてきます!」
「ぜひ宿題をご覧になってください」
仕方ないじゃないか。こんな条件の良いバイト無いし、オマケに美人な上司が付いてくると来た。断る理由もない。男ならだれでも即決だろう。まあ、さっきから正に「ムフーッ」と言った感じでドヤ顔を浮かべているポンコツ猫耳娘には少々腹が立つが、それを差し引いてもまだお釣りが来るくらいだ。
「よーし、じゃあ君のこと、まりなさんに·····あ、それから、これからもちょくちょく宿題見せてもらえたらなーと」
そう彼女は追加条件を提示した。くっそ、コイツマジで腹立つな。
「調子乗りやがって。次からは絶対助けて「あー、やっぱ違う人紹介しよっかなー」これからも宿題に困ったら遠慮なく相談しに来いよ!」
「ありがと!じゃあじゃあ、ついでにこれからはちょくちょく勉強教えてもらったりしていいかな?」
「えー……面倒く「残念だけど今回の話は……」分かった。いきずまったら何でも聞け」
いやー、あんな良いバイト紹介してくれるなんて、香澄マジ最高の女!逆らうなんてもっての他だな!
頭の中で手首がちぎれんばかりの高速掌返しを披露していると、ふとあることが気になった。
「因みにそのバイトいつから始めりゃいいんだ?」
「今日の放課後からだよ」
なるほど今日の放課後ね……は?
「放課後?」
「うん」
「今日の?」
「うん!」
うん。ちょっと何言ってるか分かんない。急過ぎやしませんかね? すると彼女はこの疑問に対して照れ笑い浮かべながら
「まりなさん……あ、まりなさんは例の美人の上司さんね。その人に出来れば今日までに見つけてくれって、それも力仕事も多いから出来れば男の子でって言われてたんだけど……」
「それを今日の今日まで忘れていたと」
「えへへー。面目ない」
え? 何? 俺はつまりこのポンコツのその場の咄嗟の思い付きに折れたってこと? 思った以上に自分がバカであったことにほとほとあきれながら大きくため息をついていると、
「もしかして、明日からだとなんか都合悪いかな?」
と、彼女はいつになく不安そうに聞いてきた。
「いや、別にそういうわけじゃないよ。ただ自分の頭の弱さを憂いてただけだから」
「むー。なんとなく馬鹿にされたような気がするけど、それなら良かった!」
そう言って彼女は顔を綻ばせた。まあ、大方件のまりなさんとの約束を果たせたからだろう、心底嬉しそうだ。しかも上機嫌にスキップまで始めた。いや流石にテンション上がりすぎだろ。そう思っていると彼女は
「さあ! そうと決まったら陽くんもいい加減元気出して!」
前を行く彼女は振り返って、そう俺に声をかけた。思わず立ち止まった。自分は今日一言でも気分が悪いことを愚痴ってはいないし、気を遣われるのが嫌だから表にも出してないはずだ。そんな風に驚ていると
「それぐらい分かるよ。いっつも見てるんだから。当然だよ!」
そう言ってのけた。ああ、なるほど。こういうところに惹かれてこの子は多くの人から慕われるのだろう。かく言う俺もその一人なわけだが。
「流石はコミュ力お化けの香澄さんだ。そりゃお前からすりゃ一か月も友達やってりゃそれも当然か」
すると彼女はなぜか不機嫌そうにむくれた。
「見てるって、それだけじゃあないんだけどなぁ」
ポショポショとした声で何か言ったがまあ大したことでは無いだろう。何はともあれこれで日本に帰ってきてからの一番の不安材料だった金欠問題が解消されそうだ。
「じゃあ、今日の放課後、終礼終わったら一緒に行こっか」
「ああ。そうしてもらえると助かる」
そんな話を彼女としながら、あーようやく肩の荷が下りてくれる、そんな気楽なことを考えながら俺たちは校門をくぐった。
さらに大きな荷が降りかかってくるともこの時はまだ知らずに。
こんなものをここまで読んで頂いてありがとうございます。もしよければこれからもよろしくお願いします。
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