さあ残り2バンドだ。もう既に俺は生ける屍だが、まあ最後くらいあがいて見せよう。さあ、どんな奴でも「みんなー! 早く早く!」…………嘘だろ? いやいやまさかそんな。主に平日に、隣のクラスからよく聞こえてくるあの底抜けに明るい声とよく似ていたが……きっと気のせいだ。あのお嬢までいるなんて言う10連ガチャで半分星4でしたーみたいな奇跡なんてそうそう起こるもんじゃない。いや、起こってたまるか。
もしそんなことになったらこのガールズバンドパーティーは俺にとっての
カランコロン。四回目の死のファンファーレが鳴り響いた。
「やったわ! 私が一番よ!」
「うわ~、こころん速ーい! 流石だね!」
「いえ。はぐみも速かったわよ!」
Oh……どうやら星4が五枚ほど出たらしい。わー、うれしーなー。
「今日も元気だねー、こころちゃん」
「あら、まりな! こんにちは! 他のみんなも……あら、今来たみたいね!」
その声に続いてドアベルが鳴った。
「あぁ……こころ……ハァ、ハァ。なんて……ハァ……ハァ……儚い速さなんだ……」
花咲川の異空間その他一名に続き入って来たのは、息を切らせた宝塚だった。せめて息整えてからそのセリフ吐いて欲しかった。
すると綺麗な金髪が輝くお嬢が唐突にこちらへと視線をやった。そしてガッツリ目が合った。はい、試合終了。安西先生が何を言おうと試合終了だ。
恐怖の異空間がトテトテとこちらに迫ってきた。そして俯き加減の俺の顔を覗き込んできた。
「あら? 陽一じゃない!」
「お嬢様、恐らく人違いではないかと?」
「? ……どうしたのかしら? 頭が少しヘンになっちゃったのかしら?」
他の誰にでもなくアンタには言われたくない。というか少しくらい引っかかる素振り見せてくれませんかね?
「こころ、そこの子犬くんはきっと、キミのその儚い美しさに心を奪われたのさ」
「そっか! それでこの人の頭がおかしくなっちゃったんだね!」
「ちょっと? 勝手に俺が弦巻に一目惚れしたみたいな言い方やめてくれます? それからキミも言い方酷くね?」
美人なのは認めるがそれは死んでも御免だ。それから「頭おかしい」は流石に響く。
「あら! 元の陽一に戻ったわ!」
「いや元から正常だから」
「じゃあ、なんであんなこと言ったのかしら?」
「ん? シンプルにお前と関わりたくないから?」
これを機に一生喋りかけないでほしい。
「あら! それは大変ね!」
「ご理解頂けた?」
「ええ! なら、アナタと仲良くなれるよう、もっと話しかけなくちゃならないわね!」
「えぇ……そっちに行くぅ……?」
全然ご理解して頂けなかったようだ。いや理解してもらえるならとうの昔にコイツとは縁が切れてるはずなんだが。畜生、あの時隣のクラスにいた沙綾にノートを借りに行かなければ……。
「う~ん……」
「あの……どうしました? 俺の顔に何かついてます?」
弦巻に初めて話しかけられた事について回想していると、オレンジ色のショートヘアーの子、確かはぐみとかいう子がやけに深刻な表情で俺を見つめていた。なんだろうか? そんなに俺の顔が気に食わないのだろうか?
「ううん、そうじゃないよ。ただね、はぐみずっと前にどこかでよーくんと会ってる気がして……」
「……? そうなのか。悪いが俺は全く」
すると後ろにいた宝塚さんが答えを出した。
「キミとこころは同じ学校なのだろう?」
「そうですね。誠に遺憾ながら」
「なら、必然的にはぐみとも同じ学校なるわけだ。つまり……そういうことさ」
最後のキメ顔が腹立つが、なるほどつまりこの子も花咲川という訳か。そう言われれば見たことがある気もする。
「そっか! よーくんってはぐみと一緒の学校だったんだね! それなら納得かな! ごめんね、さっきはじっと顔見ちゃって」
「いや、こっちこそ悪かった。あ、おれは宝田陽一。あらためてよろしくな。えっと……」
「北沢はぐみ! E組だよ!」
「て、ことはおたえと同じクラスか」
「あ! おたえとは知り合いなんだね!」
香澄に負けず劣らずの元気っ子だ。これも対応に骨が折れそうだが、まあ香澄が二人になったと思えば……あれ? それヤバくね?
「そう言えば私もまだだったね。瀬田薫だ。よろしく、子犬くん」
「ああ、どうも」
この宝塚さんが瀬田さんか。なんだろうか、この男して負けた気しかしない感じは。なんか所作をはじめとして何から何まで格好いいんですよこの人。しかも身長も同じくらいだし。え? 女性ですよね? 実は男でしたーってのは後々やりにくくなる案件だからやめてね?
ここまでメンバー紹介されて一つ気になったことがあった。
「ところで、弦巻のバンドはスリーピースバンドなのか?」
他に比べてメンバーが少ないのが気になった。
「いいえ! 他のバンドと同じで5人よ!」
「ん? お前さっき『みんなもう少しで来るわ!』的なこと言ってなかった? これが皆じゃねーの?」
「そうだったかしら? よく覚えてないわ!」
巫山戯んなよこのお嬢め。それなら残りのメンツは……その懸念も次の瞬間に鳴り響いたドアベルで解決された。
「すいませーん。花音さん探してたら遅れましたー」
「ふぇぇぇ〜、ごめんね美咲ちゃん」
恐らく残りのメンバーと思われる2人が入って来たようだ。会話の内容からして恐らく迷子……っておいこれまた意外なのが混じってんな。
「良いんですよ。勝手に走り出す三馬鹿が悪いだけ……ってなんでアンタが……」
そう言って迷子じゃない方と思われる少女、俺のクラスメイトである奥沢は目を見開いた。
「よっ、奥沢。さっきぶりだな。にしてもお前がバンドメンバーだったとは意外だわ」
「いやそれはこっちのセリフだからね、宝田……もといDV野郎」
「おいやめろォ! つまみ出すぞお客様ァ!」
最早忘れかけていたネタをぶち込んできやがったせいで、とてもお客様には浴びせるもんじゃない言葉遣いになってしまった。
「陽一くん……流石に犯罪者は置いておけないかな~」
「なんでアイツの言うこと信じちゃうのかな?」
いや今日に至るまでやってきたことは決して褒められたもんじゃないことは認めるけど……ってちょっと迷子の水色さん、「ふぇふぇ」言いながら奥沢の後ろに隠れるのやめてくれます?
「ストーカーな上に……DV容疑……」
「アンタ……まさかストーカーまでしてたとは……まりなさん、雇ったことは黙っておくんで今すぐ解雇して110番しましょう」
「あ、大丈夫大丈夫。もう携帯の緊急通報ボタン押したから」
「緊急を要する程なんですかねぇ!?」
最近人里に降りてきて話題のツキノワグマとか、その類の危険種か何かと勘違いされてるのかな? スマホのロックを解除する間も惜しむほどのようだ。
「ていうかその……なんでストーカーなんですかね?」
「ふぇ? だって……キミ、千聖ちゃんの……」
水色のゆるふわさんがそこまで言った瞬間、俺は全力で彼女の口を塞ぎにかかった。大体何を言うかは数分前の展開から予想できる。
「後生です! それ以上はどうか!」
「ふぇぇぇぇ~!?」
このネタを他の奴に……ハッキリ言ってこのメンツなら奥沢以外実害は無いだろうが、その奥沢がヤバい。これから学校では危険種から駆除対象になってしまう。
「……ただでさえ女の敵とは思ってたけど、まさか本当に犯罪者、それもレイプ魔だったとは……」
あれ~? ストーカーからレイプ魔にいつの間にかジョブチェンジしてんだけど?
そこまで考えたとき、今の自分の姿を客観的に見たらどうなのかに思い至った。
初対面の女性の口を塞いで恫喝……更にはストーカー及びDVの疑い……はいジョブチェンジどころかスリーアウトチェンジ、俺の人生一回表終了ですね。まあ二回表も無いし、なんなら結構前にゲームセットしてたけど。
「あ、あの……奥沢さん……違うんですよこれは……」
「大丈夫、アンタがそういうヤツってことは分かってるから」
どっちの意味だろうか? いや分かり切ってるけど。
「何かお前、前々から思ってたけど俺に当たり強くない?」
「なんかアンタと戸山さんを見てると戸山さんが可哀想すぎるから。つい虐めたくなるんだよね」
「え? なに? 俺そんなに犯罪臭する? 会話もアウト?」
「そういうところがイラッとするんだよね~」
奥沢の割とガチ目な「イラッとする」にこれまた割とガチで傷付く俺を尻目に、乱痴気お嬢こと弦巻は小首を傾げながら言った。
「……? 『れいぷ』って言うのが何かはよく分からないけれど……兎に角花音と美咲は陽一と仲良しになれたのね! それなら良かったわ!」
「うん! はぐみもそう思う!」
「ああ……なんて儚い出会いなんだ……!」
水色の人もとい花音さんは相変わらずふぇふぇして、奥沢は「この三馬鹿は……」と呆れ返っていた。
そんな中俺は
「弦巻……お前はそのままでいろよ。後今後そのレイプって言葉は一切口にすんなよ。お前の口からは聞きたくない」
「よく分からないけれど……わかったわ!」
最大の地雷原が今のところは不発っぽいことに安堵しながらコイツが一生バカであることを祈った。
数分後、今までの者たちが比べ物にならないくらい大きな爆弾が舞い込んでくるとは思いもよらずに。
令呪を以って命ずる。感想、評価をしろ、読者の皆様。