なんというか、感じ取る力が違う。
最後のバンドを待っている中、俺は少しこれからのことについてまりなさんと話していた。
「月島さん、濃すぎます」
「でしょ~。だからキミにあの子たちを押しつ……任せたんだよ」
今アンタ「押し付けた」って言おうとしたよね? え? 俺これから一人であの人ら相手すんの?
「まあ、任せたって言っても勿論私も協力するよ。確かにあの子たちの舵取りって大変だけど、その分凄く楽しいし、香澄ちゃんとか皆の頑張る姿見てるとなんだかこっちまで頑張ろう! って思わされちゃうんだよね~」
きっと今まで彼女達のことを見守ってきたまりなさんの言ううことだから間違いないのだろう。俺もそこまで長い付き合いとは言えないが、香澄たちを見ていると、そのことも何となく分かる気がする。……大変だということも含めてだが。
するとまりなさんが突然、何かに取り憑かれたかのようにクスクスと笑い出した。
「……? なんですか、突然。気持ちの悪い」
「ゴメンゴメン。いや~各バンドに1人は君にとっての胃痛の元になる子がいたのがね……フフフッ、ゴメン、ドンドン萎れていくキミを見てるとつい」
「ホント……笑い事じゃないですよ」
全くもって由々しき事態だ。まあ千聖さん絡みは自業自得にしても、誠士郎やその他諸々の件に関しては最早俺にはどうすることも出来ないものだっただけに、偶然が重なった結果と言えるので余計に笑えない。
「いくら同じ学校の人が多いとは言え、あんなに俺と関わりのある、それも悪い方向性で関わりのある人がポンポン転がり込んできますかね? 普通」
「私たちが思ってるより世間って狭いのかもね~」
彼女の言うことも、この小一時間での出来事のせいで否定しようにもその余地は無かった。
「いや~でもこれで、キミも少しは自分の女性に対する態度を見直す気にはなったでしょ?」
「いや、それは昨日の時点で」
香澄にあんな顔させておいた以上、流石の俺も反省している。だからその反省を生かして今回は余計な発言は極力慎んだ筈だ。
「確かにお口はチャック出来てたかもね~。でもこの作者の長きに渡る箸休め回である11話から14話までをよく思い出してほしいな~。まだまだボロがでてたよ。だから減給処分になるわけだし」
「突然メタいこと言うのやめません? それからマジで減給するんですね」
俺は最後の衝撃の発言を聞き逃さなかった。あれ全部ギャグか何かで言ってんのかと思ってた。
まりなさんはそんな俺の戦慄を他所に、コーヒーを一口飲んでから「それに……」と言って続けた。
「キミってさ、多分人との間に必要以上の距離を取ろうとする癖あるから。そういうところも直した方がいいと思うな」
「俺は上原さんや今井さんみたいなコミュ力の怪物じゃないんですから。あれが普通でしょ」
するとまりなさんは「ほら」といって俺の方を指差した。
「キミ、ひまりちゃんとリサちゃんに『下の名前で良い』って言われてたのにもう苗字呼びに戻ってるじゃない? 実際、あの子たちと会話してるときはそう呼んでたのに」
俺はその指摘に少しドキッとした。何となく自分の仄暗い部分を見られた気がしたから。
「それは……あれですよ。何となく照れ臭かったから……ついそう呼んだだけで」
自分でもなぜ呼び方が変わったかは分からなかった。が、少なくともそんな青臭い反応が本当の理由じゃないことくらい、心のどこかで分かっていた。
「確かにキミも年頃の男の子だから、そういう思春期的反応も無くは無いかもね。まあただ、あの自己紹介と呼び名の要求で、よく苗字まで憶えてたなーって。
背中から流れる冷や汗が止まらなかった。きっと苗字も無意識のうちに憶えていただけの筈だ。それなのに、何故か自分の容疑を糾弾されているように感じた。
そんな感情に苛立ちを覚えたせいか、少し強い口調で彼女に言い返していた。
「そんなの……こじつけでしょ? 大体、呼び名くらいでその人の他人に対する姿勢なんて決まらないですよ」
多分、俺の言ってることは間違ってないはずだ。たかが呼称1つでそいつの距離の取り方が測れるはずがない。なのに、なのにどうしてか俺は、自分の口から出たその主張が苦し紛れに出てきたものにしか聞こえなかった。
そんな俺の内面を見透かしているのか定かでは無いが彼女は続けた。
「そうだね。君の言う通り、それだけで決めつけるのは良くないね。ただ、女の子って意外と呼び名も気にするから注意してあげてね」
俺とは対照的に、いつも通り柔らかく返す。
「だ、大丈夫ですよ。ほら、香澄たちのことはちゃんと下の名前で呼んでるじゃないですか。アイツらに言われた通り。多分、アイツらと同じ様にもう少し親密になればきっと……」
俺はまるで自分に言い聞かせるようにしながら、彼女にそう言った。そんな
すると彼女は次の一言で俺を凍り付かせた。
「そっか。じゃあ、私の呼称も苗字になってるのは私がキミにまだ親密じゃないって思われてるってことで良いのかな?」
この一連の流れの最初に記憶を遡らせた。俺は確かにあの時、彼女のことを「月島さん」と言った。その事実に辿り着いて、俺は青ざめた。
別に彼女と必要以上の距離を取ったつもりなんてない。寧ろ彼女とは会って間も無い割には親密だったと思っている
「い、いや、俺は……そんなつもりなくて……」
言葉に詰まる俺を見て彼女は、
「ゴメン、ちょっと今のは大人気なかったかな。大丈夫、分かってるよ、キミが態とそうやって距離取ろうとしてないことくらい分かってるよ」
彼女はきっと情けない面をした俺を安心させるようにそう言った。
「確かにキミって、表面上は誰とでもコミュニケーション取れてそうだし、それに呼び名なんて癖の問題ってこともあるからね」
まりなさんはまだ湯気の立っているコーヒーをまた一口飲んでから続けた。
「でもね、なんとなく分かるんだ。キミって無意識に距離取る子なんだなーって」
そう言ってから、少しはにかんみながら付け足した。
「根拠は無いよ。でもね、私だってキミよりかはだいぶ年上だから、色んなこと経験してきたし、それと同時に色んな人を見て来た。だから、『なんとなく』だけど分かるんだ」
彼女の言う『なんとなく』っと言うのはきっと確信に近い何かだ。それは重ねて来た年齢の差から来る、説明しようのない何かだろう。
「ねえ、陽一くん。もしキミの過去に何かあったなら聞かせて欲しいかな。お節介だって分かってるけどさ、キミを見てると放っておけないの」
まりなさんは静かに微笑んでいたが、その目は何処か悲痛で、そして俺越しに何かを見ているようだった。
「俺は……」
そうやって言葉を紡ごうとした。だが、そこから先は陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせるだけで、喉が震えることは無かった。
カランコロン、とベルが鳴った。扉の方をを見て、俺は何故か「ああ、やっぱり」と思った。神様は常に見てるってのは本当のことなんだろうか。
その音は、比喩でも何でもなく、『今の俺』に対する死を告げる音だった。
まりなさんも大人ですから。ケツの青いガキとは違うって訳ですね。彼女自身にも苦い経験があるというのも大きい。
次からいよいよ大きく話が動きます。
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