忘れ物   作:カラドボルグ

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ドリフェス死にました。課金したい今日この頃です。


第十五話 終わりの始まり

 私たちMorfonicaは今、Circleに向かって歩いているところだ。皆一様にこれからの展開に期待を膨らませているのがありありと伝わってくる表情だ。…まあ、るいさんは相変わらずの仏頂面だが、それでも心なしか表情が明るい気がしなくもない。

 みんながそうやって明るい心持ちであった一方で、私は少し気分が重かった。別に今回のガールズバンドパーティーに参加することが嫌な訳ではない。そこに関しては寧ろ逆だ。楽しみで仕方がない。なんせ憧れの香澄さんたちと同じステージに立てるかもしれないのだから。

 そんな人達と一緒のステージに立つことへの不安や緊張?それも確かにあるだろう。でもそれとは違う。そんなありきたりなものなどではない。

 私特有の感性かもしれないが、空一面快晴の中、どす黒い小さな雨雲が不自然にポツンと佇んでいる様な感じだろうか。これが虫の知らせってやつなのかな?

 ダメだ。また悪い癖が出た。そうやっていつも後ろ向きに考えているから…「シロ!」

 

「うわ!な、何?透子ちゃん。」

 

突然透子ちゃんに声をかけられたせいで、少しのけぞって反応してしまった。

 

「『うわ!』って酷くね?シロってば、何回声かけても全然反応しないんだもん。そりゃ大声にもなるって。」

「え?何回も声かけてたの?」

 

そういって周りに尋ねてみると、皆「うんうん」といった感じで首肯した。

 

「ましろちゃん、また自分の世界に入ってたの?」

 

つくしちゃんが心配そうに聞いてきた。

 

「う、うん。ごめんね、ちょっと歌詞が思いつきそうだったから」

 

余計なことを言ってこれ以上心配させたくはなかったから、適当な理由を作った。

 

「なーんだ。いつも通りのシロじゃん!」

「まあ、それならいいんだけどね。」

 

そう言って透子ちゃんとつくしちゃんの二人は顔を綻ばせた。

 

「お、それは今後に期待ですな~、しろちゃん」

 

ワンテンポ遅れて七深ちゃんもそう答えた。よかった。今度は誤魔化せたのかな?

 

 でも、るいさんだけはやはり、訝し気な表情を浮かべたままだった。

 

「な、何かな?るいさん。」

「いえ、別に。あなたに何もないなら、良かったわ。」

 

そう言って、るいさんは視線を前に戻した。

 

「それよりさ~、こんなイベントに誘われたってさことはさ、私たちって結構認められて来てんじゃね?」

「ふふん、そうに決まってるよ!だってあれだけ頑張って来たんだし!」

 

透子ちゃんとつくしちゃんは自信満々だったが、るいさんは違う見方ようだ。

 

「そうかしら?単純に戸山さん達のご厚意か、ないしは経験を積ませようって考えなんじゃないかしら?」

 

これに透子ちゃんはバツが悪そうに眉根を顰めて言った。

 

「あのさぁー、ルイ。もうちょっと夢見せてくれても良いじゃん!」

「妙な幻想は抱くべきじゃないわ。」

「うわ、また正論。この正論爆撃機!」

 

透子ちゃんのネーミングセンスに笑ってしまった自分は悪くないと思う。

 

「ちょっと!2人とも喧嘩しない!」

「別に喧嘩はしていないわ。桐ヶ谷さんが突っかかってきただけよ。」

 

私は後ろからいつもと変わらぬ皆を眺めながら、未だに晴れぬ自分の心を顧み、何だか見えない隔たりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

  ────10分後────

 

「やっと近くまで来れたー!もう、マジでウチの学校CiRCLEから遠すぎ!月ノ森がここら辺に移動してくれたらいいのにな~」

「あはは、それはちょっと厳しいんじゃないかな~」

 

ようやく私達はCiRCLEの近くまでたどり着いた。透子ちゃんの言う通り、他のガールズバンドの皆さんの学校、花咲川や羽丘に比べると月ノ森は少し遠方に位置している。

 

「分かっていたとはいえ、先輩方を待たせてしまうのは申し訳ないわね。」

「一応遅くなるっては連絡は入れといたけど、それは同意。」

 

私も香澄さんから『ゆっくりでいいからね!』というL〇NEをもらっているが、確かに余り気分は良くない。

 

「そうと決まれば、早く行こ!」

「あんまりせかさないの!月ノ森の生徒なんだから、もっとこう…余裕を持たないと!」

 

「どちらも落ち着きがない無いわね」というるいさんのつぶやきに苦笑いする内にCiRCLEにたどり着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いたその先は私にとって、仲間と、憧れの先輩と共に新たな一歩を踏み出せる不安と期待を詰め込んだ場所になるはず()()()。でもCiRCLEの窓を見た瞬間、その場所は自らのおぞましい、悔いてやまない過去の牢獄と化した。

 窓から見えた、茶色がかった黒髪に整った顔立ちの青年に、私は目を見開いた。何故か直感的に()だと悟った。

 今の彼には、当時の面影なんて僅かに残っている程度のものだった。その程度であれば、他人の空似であるとも考えられたかもしれない。ああ、そう考えられればどれだけ良かっただろうか。でも私は、どうしてか一目見た瞬間に確信してしまった。

 『きっと他人だ。気にするな。』、『いや、現実から目を背けるな。分かっているはずだ』、相反する二人の自分との間で葛藤するたび、指先が冷たくなり、自然と息が荒くなっていく。そしていつの間にか()()()()()()()()()

 

「ましろちゃん?」

 

私の異変に気付いたつくしちゃんが心配そうに声を掛けてきた。

 

「わ、私かえ…」

「はい、帰らない。」

 

自然と口をついて出た逃げの言葉を透子ちゃんが遮った。

 

「シロってばいっつもそう。花見の時もそうだったけど、緊張したり新しいことに挑戦する時にすぐ逃げようとする。それ、マジで悪い癖だかんね。」

 

真意には気付いていない。でもその言葉は核心をついていた。分かってるよ。そんなこと自分でも分かってる。それを変えたかったから、バンドを始めたんだから。でも、どうしても足が前に向かなかった。

痺れを切らせた透子ちゃんが私の手を掴んだ。

 

「ほら!行くよ、シロ!」

「え、ちょっ、ちょっと…」

 

それを見たつくしちゃんが扉を開いた。子気味よく鳴ったドアベルが何だか私を笑ってるように思えた。




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