ようやく部活やらがひと段落ついたので投稿出来ました。
因みに来月からまた忙しいので投稿できるかは知らないっす。ホンマすんません。
ドアベルの音と共に顔を上げた。何故か「ああ、やっぱり」と思ってしまった。
無論、人違いの可能性もあった。実際、あの頃と比べ、未だ幼さは残るものの、顔つきもかなり洗練された様子だった。
でも一瞬で、彼女だと分かった。
これは罰だろうか?今まで自分が向き合ってこなかったことに対しての。
最初に入ってきた小さい子が開けたドアベルの音は
「遅れてすみません!Morfonicaです!」
「ううん!まだ集合時間じゃないから、全然大丈夫だよ!」
まりなさんはそう言って笑顔で彼女らを迎えた。
Morfonica、それがあの子のいるバンドの名前だった。なんとなく、彼女っぽい名前だと思った。
「まりなさん、今日はマジでありがとうございます!丁度みんなでそろそろライブしたいって言ってたんですよ!」
「お礼なら香澄ちゃんに言って。私はただのメッセンジャーだから。」
まりなさん達は何か会話しているが、俺はあの子のことが気になっているせいか、ノイズが混じっているかのようにブツ切りにしか聞こえなかった。
あの子は俺に気付いているのだろうか?確かめたい。それなら今の俯いた顔の角度を少し変えればよいだけだ。心の中自分がそう言っている。そんなことは百も承知だ。
でも、首はまるで万力に固められたように動かなかった。
あの子は小さい頃、ずっと俺の後ろに隠れているような子だった。そんな子が、今はバンドを始めたというではないか。
少なくとも変わろうとはしている。蛹から羽化する蝶のように。それに比べて俺はどうだ?蛹から出ようともしていない。いや、蛹になれているのならまだマシだったろう。きっと、芋虫のまま地面にうずくまったままだ。
「あ、どうも!Morfonicaの桐ケ谷透子です!ギターやってます!」
「・・・・ど、どうも・・・。えっと・・・」
名乗らなければ。そう頭では分かっていても、「宝田陽一です」というたったその一言が発されることは無かった。
「だ、大丈夫ですか?もしかして体調悪いとか!?」
最初に入って来た少女は本気で心配をしてくれているようだ。
「大丈夫だよ、つくしちゃん。どうせこの子派手目な女の子相手に緊張してるだけだから♪」
まりなさん、あんたはマジで黙っといてくれ。
「ほら、陽一くん。さっさと自己紹介しないと、リサちゃんに言いつけちゃうぞ~♪」
少し向こうの方で、か細く、息を吞むような声が聞こえた。もう顔を上げる必要もなくなっただろうか。
「ま、まりなさん!そんなに急かさなくていいって!こういう反応されんの慣れてますから!」
金髪の少女は朗らかにそう答えた。
「初対面なのに透子ちゃんが馴れ馴れしいからでしょ!」
「ふーすけは逆に硬すぎんの!ほら、ふーすけも自己紹介!」
「え、え~・・・。この流れで?えっと・・・二葉つくしです!このバンドのリーダーやってます!」
俺の意識の外で、話は進んで行った。
二葉さんに続いて、どこか眠たげ目をした子が自己紹介をしてきた。広町さんというらしい。下の名前は・・・もう頭に入って来なかった。どうせ、
すると、広町さんはその眠たげな双眸で俺の曇った瞳を覗き込み、問いかけてきた。
「あの・・・間違ってたらごめんなさいなんですけど・・・しろちゃんと何かありました?」
心臓が凍り付いたかの様な錯覚に襲われた。思わず目が見開かれ、体中からおかしな汗が吹き出した。
「何言ってんの?ななみ?シロ、この人と知り合いなの?」
「わ、私・・・」
あの子も、きっと同じ感覚に襲われているのだろう。見なくても分かるほどに動揺しているのが、息遣いだけで分かる。
「え?・・・わたし、なにか変なこと言いました・・・?」
俺たちの雰囲気の変化に気付いたのか、広町さんがあたふたし始めた。
「と、取り敢えずMorfonicaのみんなも中に入っておいて!みんな待ってるし!」
流石のまりなさんもマズいと察したのだろうか。らしくもなく、半ば強引に話を切ろうとした。しかし、それを空気の読めないコミュ力お化けが許すはずもなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ!シロ!ホントにどっちなの?知り合いじゃないなら、ちゃんと自己紹介しなきゃ!」
「と、透子ちゃん!」
慌てて二葉さんが止めに入るが、桐ケ谷さんは尚もあの子に食い下がっている。すると、最後の一人が口を開いた。
「やめなさい。桐ケ谷さん。彼女の様な人見知りにそういうことを無理強いするのは。人には向き不向きがあるのだから。」
「で、でもさ・・・」
「八潮瑠唯と言います。よろしくお願いします。」
「ちょっと!無視すんなし!」
この人は、八潮さんは気付いているのだろうか?いや、この際それはどうでもいい話だ。一先ずこの場はやり過ごせそうだ。
「あ!みんなー!来てくれてたんだ!」
そんな甘い考えを持つ罪人を、神が許すはずも無かった。
「あれ?どうしたの、陽くん?」
「香澄・・・」
場の情勢が変わる。桐ケ谷さんが息を吹き返した。
「ちょっと聞いてくださいよ~!シロとこの人ったらさっきからずっと目も合わせずにずっとだんまりなんですよ~。」
状況を知らない香澄が口を開く。
「ちょっと陽く~ん。あの子がすっごく可愛いからって緊張しすぎだよ~?」
少し不満げに、至極的外れな指摘をしてきた。すぐに香澄はあの子の方に向き直った。
「大丈夫!陽くんってばちょっと不愛想だけど、すっごくいい人だから!怖がらなくてもいいよ!」
香澄はあの子の戦慄の理由を知らない。彼女には何の悪意も無い。善意のみによって行っていることだろう。でも、今に限ってはそれは最悪手だった。
「わ、わたし・・・」
「陽くん!この子は・・・」
言うな。その先の言葉を。お願いだから言わないでくれ。それを聞いたら、何もかもが終わる気がする。
分かっている。名前なんて聞かなくても、一目見た時から気付いていた。ずっと頭の中では分かっていた。あの子が、
知っている。だから俺はいつまで経っても醜い幼虫のままなのだと。あの日、忘れ物をしてしまった自分から何も変わってはいないことを。
「香澄さん!」
その時、あの子の口から、聞いたことのないような大声が発された。
「ましろちゃん・・・?」
普段との違いに驚いたのだろうか、香澄も酷く困惑している。香澄だけではない。他の者も皆、一様に同じ表情を浮かべている。
「・・・ごめんなさいっ・・・。」
そう言って、あの子は、倉田ましろは・・・Circleを飛び出した。
「ましろちゃん!待って!」
香澄のその呼びかけだけが、虚しく部屋に響いた。
一つ言わせてくれ。なんでこんな重なったんや・・・
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リンク先に飛んでくれると嬉しいなあ。