さあ、女の敵に鉄槌を!裁きを!
現在時刻は午前七時。という訳でやってまいりましたやまぶきベーカリー。俺の処刑の場だ。
普段なら仕込みのいい匂いがしてくるが、今はそれすらも死体を焼く匂いにしか思えない。……まあ死体の焼ける匂い知らんが。
もういっそ、そのまま学校行ってしまおうか。そして有耶無耶にしてやろうか。よし、とりあえず学校に行ってやろう。そうやってひとm「何素通りしようとしてるのかな~?」ダメだな。これは逃げきれないわ。というか逃げたら死ぬよりひどい目にあうだろうなこれは。
「お、おはよう……沙綾」
「おはよう。とりあえず、中入ろっか」
そうして彼女に促されるがまま彼女宅にお邪魔した。
「さてと、じゃあまずは昨日の昼休みの件なんだけど……聞かせてくれるよね?」
店の中にある食卓の椅子に座るや否や、彼女はそう切り出した。何故だろう? いつもの笑顔のままなのにここまでの圧を出せるのは。
「あ、あのー……最後に『?』付けたってことは……」
取り敢えず黙秘権を行使したいところですね。うん、せめて今わの際くらい人間としての尊厳を……
「……言わなきゃ分かんない?」
「あ、すいません喋ります」
守れる筈もなく、俺こと奴隷はこの日も奴隷らしく素直に命令に従い、昼休みの俺の爆弾発言を詳細に話した。そして話を進めていく内に、相変わらず彼女は笑顔のままであるにも関わらず、みるみる内に周囲にの殺気が強まっていた。
「あのさ……陽一」
「はい、何でしょうか」
「サイッテー」
まあそうなりますよね。てか有咲とかなら兎も角コイツからコレ言われんのは相当クるものがある。一周まわって何かに目覚める勢いだ。
「香澄がどれだけ辛かったか分かってるの?」
「辛いとはまた違うだろ。まあそりゃ、後々の反応見たら、激おこだったことは間違いないけど……」
すると彼女は机をバンッと叩いて立ち上がった。
「ふざけないで! キミにそんなこと言われて辛くなかった訳ないでしょ! 香澄が……香澄がどんな思いで……何で分かって上げられないの……?」
「……ごめん。今のは軽率だった」
彼女の顔を見ると、それは今まで見たことのないような、怒りに満ち満ちた顔をしていた。何をやっているんだろうか俺は。この子にさえこんな顔をさせて、
「はあ、はあ。ごめん……私も言い過ぎた……」
挙句謝らせるなんて。
「いや、俺が悪い。お前が怒るのはごもっともなんだろうな」
そうだ。俺が悪い。なんせ、ホントに……あの時から全く変わってないんだから。また変わらず、人の気持ちを汲めてないのだから。
沼の水の様に停滞した間をそれで、と彼女が仕切り直して続けた。
「ちゃんと香澄と仲直り出来たの?」
「そりゃあもう誠意をもって謝って、ちゃんと許しを得ましたよ」
じゃなきゃ死ぬと思ってたからな。
「まあ、それは昨日香澄がライブハウスから電話香澄から電話来てたから。しかしまあ、ふーん。誠意、ね~。じゃあ、これはどう説明するの?」
そう言って見せてきたのは、彼女の香澄とのトーク履歴の一部だった。そこには、
『さーや~、聞いて聞いて。陽くんったらまた私に酷いこと言ってきたの。しかも今回は分かってて言ってきたの! いつもの天然ボケと違って。ということで、陽くんをきっちりしごいておいてください! 後因みに、まりなさんにもデリカシーの欠片も無い発言をしてた! あ、これは天然だよ!』
と書かれていた。くぅ~、こういう時
「説明してくれるかな? 色々と」
「『?』つけたってことは一応俺にも選択肢が……」
「私が優しい内に喋った方が良いと思うな~」
「あ、すいません喋ります」
分かってたよ。無いんだろ、選択肢なんて! 奴隷の俺には! もう慣れたぜ! はっ、昨日から思ってたけど俺って奴隷の才能あるんじゃないんだろうか!? …………何言ってんだろ俺?
遂に奴隷としての完成形になりつつある俺はさて置き、これまた素直に事の経緯を嘘偽りなく話した。
「あのさ……陽一」
「はい、何でしょうか」
「ホンッッット、サイッテー」
もういよいよ沙綾の目が汚物を見るそれだ。あ、ヤベ。ホントに変なものに目覚めそうだ。やっぱり本当に才能があるんじゃないだろうか!?(二回目)
「はあ。陽一……香澄に対してのそれはまあ単なる悪ふざけだから百歩……いや千五百歩くらい譲って良いとして」
「あ、そんなに譲るんですね」
この時期になってもソーシャルディスタンスを忘れぬその心、感服至します。
「それくらい譲らないと陽一は全部アウトだから。そして千五百歩譲ってもまりなさんへの発言はアウトかな。ここまで軽率な発言できるのはもはや才能だよ?」
才能? あ、奴隷の才能かな? (三回目)奴隷の才能ですね!? (四回目)そっかそっかーやっぱ俺には才能があったのか! (確信)
「さーて、事情も聴けたことだし……」
おっとこの流れは…いや~、流石は神様・仏様・沙綾様。素直に話したら許してくれるもんだな。ようやくこの身が解放され……
「ここからは有咲達が来るまでみっちりお説教かな」
……ることなくそのまま俺の魂だけが解放される時が来たようだ。
現在時刻は七時半。あの後俺は十五分以上もの間、俺のこれまでの様々な所業について延々糾弾され続けた。
そして香澄達が来る頃には、同じく事情を聞かされているであろう有咲ですら同情の目を向けるほどの状態となっていた。因みにコロネ感染者には「昨日見た映画のゾンビみたい」と目を輝かされ、当の元凶の女はというと
「わ! 陽くんが干からびた雑巾みたい!」
酷い喩えようである。いくらプロの奴隷を自称する俺でもここまでの波状攻撃を喰らえばひとたまりもない。比喩でもなんでもなく本当に目から塩水が出てきた。
「あわわわ、陽くんが泣いちゃった!」
やめろよお。そんな事実確認しないでよお。
「ごめんね~! 陽くーん!」
「グスッ。うん、いいよもう。なあ沙綾、なんかそこら辺に手ごろな縄と梁無いかな?」
「ちょっとそれで何する気!?」
結局その日、俺を復帰させるのに更に時間を浪費し、やまぶきベーカリーは開店するのが遅れたそうで。因みに最後には香澄による抱き着き&頭なでなでという羞恥プレイの極みによって強制的に覚醒させられた。
余談だが、そんな中でもりみはパンの匂いに夢中でこちらには見向きもしなかったそうだ。
~おまけ~
因みに、俺たちは閉門十分前に何とか校門を潜り抜けたわけなんだが……
「よーし! 今日もギリギリセーフ!」
という訳で昨日の宣言通りに
「誠士郎ー、氷川さんに近付くために遅刻ギリは良くないぞ」
と皆に聞こえるように言ってやった。が、
「おいおい、宝田ー。今更かよー」
「察し悪いよー。香澄ちゃんもそりゃ苦労するよー」
「まあ、陽一は今年からだし。誠士郎は去年からやってるからなー」
おっとー? まさか知らなかったのは俺だけでしょうか? てか去年から定期的にこんなことしてるコイツって……
すると誠士郎はこの状況を見てニヤリと笑い、口を開いた。
「おい陽一!
この日から、クラス内での俺の名は『DV野郎』という至ってシンプルなものとなった。
見ての通り箸休め回です。次回までゆっくり待ってください!
しかしまあ彼は色々察しが悪いですね。この先何をやらかすのやら…
皆さん言葉もDVになるのでどうぞ気を付けて笑
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最近チュチュにハマって主人公同様、自分の性癖に疑いを持ち始めた筆者より
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