IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮)   作:巫女好きの満月

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旧友との遊びと

    

 side秋一

 

 6月に入って最初の日曜日。俺はいや、俺たちは学園の外────友人である五反田弾(ごはんだだん)の家に来ていた。

 ちなみに弾の家に遊びに来たのは俺と一夏、稲穂の3人だけだった。シンも誘ったのだが、オルコットさんと買い物に行く予定があるからと断られた。あの2人、付き合ってるんじゃないのかと噂が流れていたが、シンのあの様子からして多分アプローチをかけてはいるけど、実っていない感じだな。

 

「で?」 

「で? って、何がだよ?」

 

 今、俺たちは弾の部屋で4人対戦可能な格ゲーをやっている。俺と一夏、弾は慣れた手つきで操作をしているが、稲穂はまだ操作方法を覚えていないのか説明書を読みながら器用に操作している。

 

「だから、女の園の話だよ。良い思いしたんだろ?」

 

 弾の動かしているキャラクターが一夏に接近する。おお! ここで、一夏を墜としてくれれば楽になるぞ! 

 ちなみに弾は中学からの友人だ。中学の入学式で知り合ってからそのまま3年間同じクラスだった。そのためか、中学時代はよく他の奴らとつるんでいた……。

 

「してねーよ」

「嘘をつくな嘘を。お前のメールを見てるだけでも楽園じゃねーか。なにその天国。招待券とかねえの?」

 

 あるわけないだろ。

 現在俺たちが通っているのは国が管理経営している特殊国立高等学校『IS学園』。

 IS────正式名称インフィニット・ストラトスは現在、本来の宇宙用に開発されたマルチフォームスーツとしてではなく各国の軍事力として扱われている。

 そして、そのISは『女性にしか扱えない』もので、必然的にISについて専門的に学ぶ『IS学園』はごく一部の例外を除きその生徒や教員、用務員を含め女性だらけだ。

 そして、そのごく一部の例外が、『女性にしか扱えない』ISを扱える男である俺や一夏、シン、稲穂の4人と用務員のおじいさんの合計5人。それ以外が女性のため俺たちは外から見たらハーレム状態と思われている……らしい(弾情報)。

 

「一応ある」

「……えっ、マジで? あるの? その天国への招待券……?」

 

 稲穂が先ほどの弾の発言に答えた。って、えっ、マジでIS学園の中に入れる方法ってあるの? 

 

「学園行事にある『学園祭』はたしか手続きと在校生からの招待が必要になるけど外部から人を入れる事ができる。あとIS学園の中ではないけど『キャノンボール・ファスト』も外部の人を招待することができたはずだ」

「おっ、おう。やけに詳しいな」

「IS学園の校則は使えそうなものが多いから織斑一夏と織斑秋一も知っておいた方がいい」

 

 稲穂の言葉を聞きながらゲームを続ける俺たち。って、稲穂のやつなんか動きが急に良くなってないか!? 

 弾も一夏もそれに気づいたのだろう。お互いに距離をとって稲穂の操るキャラクターを攻撃する。だが、それに対して稲穂がやったのは────。

 

「マジかよ……っ」

「こんなことが……できるのか」

 

 ────その攻撃を全て躱しながらそのキャラクターに接近することだった。

 ……えっ、俺も稲穂と同じキャラクター使ってるけど、このキャラクターってめっちゃ動きが遅い筈だぞ? 

 その筈なのに、俺の操るキャラクターよりも軽々と動き弾と一夏に近接戦を仕掛けていく。……おかしいな、このキャラクター射撃戦に特化した機体なんだけど。

 

「ちょっ!? 待って、待ってくれ!!」

「このゲームに降参はない」

「そうだけど、そうですけども!! うわぁぁぁぁ!!」

「弾っ、くそっ! 稲穂っ!!」

「感情的すぎる。それだと────」

 

 稲穂の機体が光る。マズい、これは!! 

 

「────良い的だ」

 

 急いで回避しようとするが、このキャラクター、本当に動きが鈍いため攻撃の範囲から逃げ出すことはできない。

 無数の弾幕が俺と一夏(の操るキャラクター)を襲う。どちらも回避不可、さらにHPも残りわずか。俺と一夏は自分の敗北を察した。

 

「……そう言えば、この前お前のメールから鈴が転校してきたってあったけど」

「ああ。転校してきてくれて助かったよ。話し相手が秋一たちを除くと少ないからさ」

「……なぁ、秋一。もしかして……」

「ああ、弾。お前が思ってる通りだよ」

 

 弾と俺が揃ってため息を吐く。稲穂はそんな俺たちの様子を見ると何事もなかったかのようにコントローラーを置いた。

 

「なぁ、一夏。鈴のことは────」

 

 鈴の話題を一夏に振ろうとする弾。だが、その言葉の続きは出なかった。

 

「お兄! さっきからお昼できたって言ってんじゃん! さっさと食べに────」

 

 ドアを勢いよく開けて入ってきた子がいたからだ。入ってきたのはこの部屋の主、弾の妹の五反田蘭(ごはんだらん)。歳は俺たちの1個下だから稲穂と同い年。有名私立女子校に通っている優等生らしい。

 

「あ、久しぶり。邪魔してる」

「お邪魔してます」

 

 突然現れた蘭に一夏と稲穂が挨拶する。

 

「いっ、一夏……さん!?」

 

 それにしても、女子ってやっぱり外に出ないとラフな格好になるんだな。IS学園の寮で暮らしてるからなのか、こう言った格好の女子にも慣れたな。えっ、慣れる前? そりゃ俺も一夏もシンもドギマギしたさ。

 最近は暑くなってきたからやたらと胸元が開いた服とか着てる人がいて慣れても、そういう格好にはつい目がいってしまうのは男として仕方ないと思う。

 まぁ、それに気づかれたら気づかれたで気まずいんだけど……。

 

「い、いやっ、あのっ、来て……たんですか……? 全寮制の学園に通っているって聞いてましたけど……」

「ああ、うん。今日はちょっと外出。家の様子を見に来たついでに寄った」

「そ、そうですか……」

 

 さて、前から思ってたけどやっぱり蘭も一夏のことが好きだよなぁ。一夏相手の時だけたどたどしいし、あと一夏がいる時以外は普通だし。

 

「蘭、お前なあ、ノックぐらいしろよ。恥知らずな────」

 

 ギンッ! と蘭の視線が弾を捕らえる。弾はそれに、「はい、ごめんなさい」と縮こまっていく。

 

「……なんで、言わないのよ……」

「い、いや、言ってなかったか……? ハハ、それは……はい、ごめんなさい」

「…………」

 

 今だに蛇に睨まれたカエル状態の弾。蘭はそんな弾をしばらく睨んでいたが、すぐにそそくさと部屋を出ていく。

 

「あ、あの、よかったら一夏さんもお昼どうぞ。まだ、ですよね?」

「あー、うん。いただくよ。ありがとう」

「い、いえ……」

 

 ドアが閉まる音が響く。……うん、終始一夏の方しか見ないのは今に始まったことじゃないから俺はどうとも思わないよ。

 うん、恋する乙女はいつだって真っ直ぐしか見れないのはもう知ってる。

 

「しかし、アレだな。蘭ともかれこれ3年の付き合いになるけど、まだ俺に心を開いてくれないのか?」

「は?」

「はい?」

「いや、ほら、だってよそよそしいだろ、俺だけに。今もさっさと部屋から出て行ったし」

「いやアレは恥ずかし────」

 

 ムギュッと稲穂の口を手で押さえる。駄目だ、稲穂。今それを言っても一夏には意味がない……悲しいことに。

 

「いやー、なんというか、お前はわざとやっているのかと思う時があるぜ」

「?」

「ああ、うん。まぁ、わからないならそれで良いよ。俺もこんなに歳の近い弟2人はいらん」

 

 うん、俺も弾が兄とか嫌だわ。

 

「まっ、それは置いといて飯食ってから街にでも出るか」

「おう、そうだな」

「昼飯ゴチになる。サンキュ」

「稲穂もそれで良いか、今ならタダだぜ?」

「良いよ」

 

 4人で弾の部屋を出て一階へ。裏口から一度出て正面の入り口から中に入る。

 

「うげ」

「ん?」

「あー」

「…………」

 

 露骨に嫌そうな声をだす弾と後ろから覗く俺たち。そこには、俺たちの昼食が(ご丁寧に稲穂の分も)用意されているテーブルがあるのだが、そこには先客がいた。

 うん、蘭がいた。

 

「五反田弾。他にも人がいる早く座ろう」

「おっ、おう。そうだな」

 

 テーブルに稲穂、俺、一夏、その対面に稲穂の前に弾、一夏の前に蘭が来るように座る。

 そして、いただきますと全員が手を合わせてそれぞれよ昼食を食べていた時、一夏があることに気づいた。

 

「あれ? 蘭、もしかして着替えた?」

「えっ」

「もしかして、この後どっか出かける予定?」

「あっ、いえ、これは、その、ですねっ」

 

 そう、蘭はさっきまでのラフな姿ではなく半袖のワンピース姿だった。一夏に見てほしいからか結構気合を入れてお洒落したのだろうことが凄くわかる。

 

「ああ!」

 

 何か、閃いたのだろう。一夏はやけに自信ありげだ。

 

「デート?」

「違いますっ!」

 

 もはや俺からしてみれば日常茶飯事なこの一夏と一夏のことが好きな少女のやり取りを意識の外へ追いやり、目の前にあるかぼちゃ定食を食べていく。途中途中弾から助けてくれみたいな雰囲気を感じるが、今の俺は空気。そう、空気。

 てか、稲穂のやつ食うの早いな。もう、定食の半分食い終わってる。

 そして、定食を全部食べ終えて水を飲んでいると。

 

「私、来年IS学園を受験します」

 

 そんな蘭の宣言が聞こえてきた。そして、慌てて立ち上がる弾の顔面に直撃するおたま。

 うわっ、痛そう。

 

「え? 受験するって……たしか蘭の学校ってエスカレーター式で大学まで出れるネームバリューのあるところだろ?」

「大丈夫です。私の成績なら余裕です」

「IS学園には推薦なんてないぞ……」

 

 よろよろと立ち上がりながら蘭に言う弾。ってか、なんで弾がそのことを知ってるんだ? 

 

「お兄と違って、私は筆記で余裕です」

「いや、でも……な、なあ、一夏! あそこって実技があるよな!?」

「ああ、あるな。IS起動試験っていうのがあって、たしか適正がない人はそれで落とされていくらしい」

 

 あー、たしかに4月、そんなことを稲穂から聞いたような気がする。

 まぁ、俺とシン、稲穂はそれが免除されたんだけど……。

 

「…………」

 

 一夏の言葉に無言でポケットから何かを出す蘭。出されたのは丁寧に折り畳まれた紙、それを受け取った弾はそれを開く。

 

「げえっ!?」

 

 どうしたんだ、弾? 

 

「IS簡易適正試験……判定A……」

「問題はすでに解決済みです」

 

 フフンッと勝ち誇る蘭。それに合わせて少しだけ揺れる胸部装甲……うーん、もう少し大きかったらなあ……っと、危ない危ない。

 

「それって希望者が受けられるやつだったけ? たしか政府がIS操縦者を募集する一環でやってるっていう」

「はい。タダでやってるそれです」

 

 奥にいる蘭と弾のお爺さんの厳さんは頷いている。相変わらずあの人、蘭に甘いなぁ。

 

「で、ですので、い、一夏さんにはぜひ、先輩としてご指導を……」

「ああ、いいぜ。受かったらな」

 

 安請け合いをする一夏。あー、これは来年箒と鈴の中に蘭が入って一夏が苦労する未来が見える。

 

「や、約束しましたよ!? 絶対、絶対ですからね!」

「お、おう」

 

 勢いに押される一夏。うん、本当にさっき見えた未来が実現しそうな気がしてきた。

 

「お、おい蘭! お前何勝手に学校変えることを決めてんだよ! なあ母さん!」

「あら、いいじゃない別に。一夏くん、蘭のことよろしくね」

「あ、はい」

 

 弾と蘭の母、五反田蓮(ごはんだれん)さんは蘭の学校を変えるのに反対していない。

 

「はい、じゃねえ! 秋一、お前はどうなんだ!?」

「俺? 俺は別に良いんじゃないか? 蘭の進路なんだし蘭の望む通りにすれば」

「秋一ぃ! なら、稲穂! お前もIS学園に通ってるんだろ!? なら────」

 

 弾が稲穂に話を振るおうとするが、その稲穂は。

 

「これ参考書。IS学園の筆記は基本教科とISについてだからISについてだったらその参考書を見れば大抵理解できるはず。分からなかったら織斑一夏に聞くと良い」

「ありがとうございます!」

「敬語じゃなくても良い。僕は君と同い年だから────」

「何やってるんだよ稲穂ー!」

 

 頼みの綱である稲穂はどうやら賛成派のようだ。てか、出会って数時間のやつに頼むなよ弾。

 

「いいのかよ、じーちゃん!」

「蘭が自分で決めたんだ。どうこう言う筋合いじゃねえわな」

「いやだって────」

「なんだ、弾。お前、文句があるのか?」

「……ないです」

 

 ああ、今の弾に対して俺は何も言えないわ。だって、アレと同じ状況になったら俺、何も言えないよ? 絶対。

 

「では、そういうことで。ごちそうさまでした。あと、稲穂さん参考書ありがとうございます」

「合格頑張って」

「はい、一夏さん。約束覚えていてくださいね」

 

 蘭が自分の使った食器を片付けながら席をたった。一夏はその様子を見ているが、多分アレアホなこと考えてるな。

 

「一夏、お前すぐに彼女作れ、すぐ!」

「はぁ!?」

「はぁ!? じゃねぇ! すぐ作れ! 今年……いや、今月中に!」

 

 興奮して一夏に詰め寄る弾。だけどな、弾。その程度は無駄だぞ。

 

「別に今、そういうのは興味ない」

「相変わらずお前は……枯れた老人かよ。そんなんだから鈴が」

「? 鈴がどうした?」

「いや、何でもない。ていうか、そんなのどうでもいいんだ! 誰でもいいから早く付き合え。な? な!?」

 

 お前の言葉で誰かと付き合うようになったら、今頃一夏は誰かと付き合ってるぞ。

 

「大体、お前いつ女に興味が湧くんだ! アレか? ハーレム気取りか? ふざけんなよ、この鈍感!」

「何で、キレてるんだよ」

「きれてねー!」

 

 弾、どこをどう見ても今お前がキレてるとしか見えないぞ。

 

「お兄」

 

 ビクッと弾の肩が跳ね上がった。うわ、なんか一瞬でこの周辺の温度が下がった気がする。

 

「お、おおおお、おう。な、ななななんだ?」

 

 壊れたブリキみたいになる弾。見るな、俺。見たら絶対に後悔するぞ。

 

「で、では私はこれで」

 

 パタパタと背後から去っていく蘭。それに息を吐く俺。弾は固まっている。

 

「五反田弾。これ僕の連絡先。何かあったら連絡するといい」

「おっ、おう」

「あと文化祭も招待する」

「……ありがとうな、稲穂」

 

 目尻に涙を浮かべた弾。どうやら、少しは元気が出たみたいだ。

 ちなみにこの後、出かけた先で俺たちはゲームセンターに行き、エアホッケーをめちゃくちゃやった。

 結果? 弾が最下位で一夏が1位だったよ。ちなみに稲穂は途中まで連敗していたが、途中から無双してた。俺? 一夏には途中まで勝ってたけど最後の方で負けたよ。

 

 

 日が沈んだ頃、俺は寮の部屋でベッドの上に寝転んでいた。

 流石にエアホッケーを28回やったら手が疲れるのも仕方がないだろう。うん、すごい腕が痛い。

 腕をぶらぶらと揺らしながらなんとなく隣のベッドを見る。そこにはまだ同居人はいない。

 

「……上手くいってるのかねぇ。オルコットさんの方は」

 

 一夏の方は幼い頃から知っているから分かる。現状での進展はほとんどないことを。

 その理由は俺には分からない。いや、だってそうだろう? 例え兄弟であってもその心の中全てを見透かせるわけじゃない。

 それに、俺は何でアイツが他人の好意に気付かないのか理解できない。だって、そうだろ? 箒とか鈴とか凄いアピールしてるのにアイツ気づかないんだぜ。信じられねーよ。

 

「それにしても……青春してるなぁ」

 

 一夏とシンのことを思い出していたらそう口から出ていた。いや、だってそうだろ。俺たち男子の中で春が来てるのは一夏とシンの2人。俺には春はなかった。稲穂? ……稲穂はよく分からない。上級生とか同学年の人と話しているところはよく見るけど、そういった感じじゃないしよく分からん。

 

「あー、俺にも春来ないかなー」

 

 できれば穏便な……って多分ないか。

 ふと、カレンダーが視界に入った。6月の下旬に書いてある『学年別トーナメント』。そこで、活躍すれば俺も……うん、無いな。止めよ、こんなこと考えても仕方ないし。

 ……てか、一夏はモテて俺はモテないのは何でだ? 顔は似てるし……本当に何でだ? 

 新たな謎が俺の中で生まれた。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 IS学園に複数ある整備室、その中の一室では現在数人の少年少女たちが慌ただしく動いていた。

 

「簪さん、今度はどう?」

「……ダメみたいです」

「そっかぁ。うん、しょーがない! 稲穂くーん、こっちに来てー!!」

「えっ、ちょっと待ってまだこっちの方で問題が────」

「分かりました。すみません、詳しくは後で教えますからそこのパーツをもう一回り小さいものと変えておいてください」

 

 現在、この整備室では更織簪の専用機『打鉄弐式(うちがねにしき)』の製作が行われていた。

 本来ならば、専用機は完成したものが企業から与えられるのだが……この打鉄弐式はある事情からその製作が止まっている。

 その事情とは……織斑一夏の専用機『白式』の方に人員を回しているからだ。

 白式と打鉄弐式の開発元は同じ倉持技研という場所だ。

 まぁ、何が空いたかというと、優先順位が一夏の方が高かったことが災いして打鉄弐式はその開発を途中で凍結してしまったのだ。

 では何故その開発が凍結されてしまった打鉄弐式がここにあり、簪の手でその製作が行われているかというと……その操縦者予定だった簪が打鉄弐式を自分で完成させることを条件に引き取ったのだ。

 倉持技研も簪に対しての負い目があることからそれを承諾。打鉄弐式を簪に譲渡し、簪は入学……いや、入寮してからずっと打鉄弐式を製作していた。

 

「どうしました?」

「このエネルギーの調整が上手く行ってないんだけど、原因分かる?」

「見せてください。更織簪、右のウイングスカートに違和感は?」

「えっと……特には……」

「少しだけ動かして」

「……分かった」

 

 最初は自分1人でやると意気込んでいた簪。その理由はこのIS学園の生徒会長である自分の血の繋がった実の姉がやっていたからだ。

 

 ────未完成の機体を独力で実用化する────。

 

 姉にできて自分にできないはずがない……などとは思えない簪だが、最低でもこのくらいはできなければ追いつけないと心に深く刻んでいた。

 もっとも、実際には整備科の人たちの協力もあるのだが、その時の簪はそれを知らなかった。そう、知らなかった。過去形だ。

 では、何故知っているのか。それは簡単だ。その情報をインパルスのOSの作成を依頼するための交渉のカードの一つとして稲穂が使ったからだ。

 まぁ、そこから少し簪と稲穂の間で何回か話し合い(近くにいた本音曰くアレは話し合いではないらしい)をして現在のように他の人と協力しながら打鉄弐式を製作している。

 そのお陰か現在の打鉄弐式は5月の時よりも良くなっていた。では何故今こんなに慌ただしいのか。それは、クラス対抗戦の日に起こった襲撃、その次の日に簪が稲穂に言った一言が原因だ。

 

 ────姉さんを倒したい。

 

 その言葉は言うのは簡単だが、実際にやろうとするととても難しい。

 何故なら、簪の姉である更織楯無(さらしきたてなし)はこの学園の生徒会長だからだ。

 生徒会長だから? そう思った人もいるだろう。確かに、普通の学校の生徒会長なら別に倒すのは難しくないかもしれない。だが、ここは色々と普通とは程遠いIS学園。勿論、生徒会長の座も普通ではない。

 IS学園の生徒会長とは、即ち全ての生徒の長である。そして、生徒の長た生徒会長は()()()()()

 何が言いたいかと言うとIS学園の生徒会長は最強……つまり、全生徒の中で誰よりも強い者だと言うことだ。

 そして、簪はその今現在IS学園全生徒最強の更織楯無を倒すと言ったのだ。

 簪は最初、稲穂に断られると思っていた。何故なら、入学してまだ数ヶ月の、しかも専用機を用いての訓練をほとんどしていない簪が楯無と戦って勝てるとは簪自身、思えなかったからだ。

 そして、負けることがほとんど解ってるものに協力する人がどれだけいるだろうか。長い付き合いがあるものならば協力するだろう、メリットがあれば協力するだろう。

 だが、現状の簪にそんなものは無い。稲穂と長い付き合いがあるわけでは無い、これに協力してもおそらく稲穂にメリットはない。

 他にも、いろいろな理由があり簪は最初稲穂に断られると思っていた。

 だが、そんな簪の気持ちなどどうでも良いように稲穂はいつもと変わらない様子で簪に協力すると言った。

 

「右のウイングスカートにエネルギーが多く動いてる、おそらくこれが原因。このパーツを28番と交換してください」

「一応やってみるね。ありがとう稲穂くん」

 

 そして、協力すると稲穂が返事してからは早かった。先ず最初に稲穂が取りかかったのは打鉄弐式の改良だった。

 簪が協力を要請した時の打鉄弐式は飛行などはできても戦闘することはまだできないレベルだった。

 だがそれでも戦闘をするだけならばそこから改良するだけで良いのだが、簪が勝とうと思っている楯無は第3世代の専用機を持つ()()()()。その時の打鉄弐式ではどれだけ策を弄しても勝てないと稲穂は結論付けた。

 このまま進んだ先の打鉄弐式では勝てない。そう判断した稲穂は打鉄弐式を設計から見直し、その結果ほとんど最初から作り直すこととなった。

 

「簪さん、今度はどう?」

「……大丈夫です」

「良かったぁ」

 

 簪の発言に安堵する上級生。簪はそんな上級生を見てふと、疑問に思ったことを聞いた。

 

「……あの、どうして先輩は……協力をして……くれたんですか?」

「えっ、簪さんに協力した理由?」

 

 上級生の言葉に簪が頷く。すると、上級生は周りを一度見てから笑顔で簪に言った。

 

「ねえ簪さん。周りを見てごらん」

「周り?」

 

 簪が言われるがままに周りを見る。あっちこっちで上級生たちがグループを作ってパーツを作ったり、武装の改修プランを考えたり、呼ばれたところに行ってそこを手伝ったり、端っこで寝ている人がいたりしている。

 

「みんな、楽しそうにしてるよね」

「……あの、1人寝てますけど……」

「えっ、あー、あの子は良いの良いの。もう仕事が終わってるから。まぁ、私が手伝うのはこういうことだよ。卒業するまでに、1度こうしてみんなと楽しくISを作りたかったから」

「あ……っ」

 

 簪が上級生の胸元、そこにあるリボンを見て声を上げる。そう、今簪と話している上級生は3年生。つまり、あの数ヶ月後に卒業してしまうのだ。

 

「そっ、私はもう3年生。後数ヶ月後には卒業しちゃう。だから、簪さんにはちょっと悪いかなって思うけど……私は思い出作りのために協力を申し出たんだ」

「…………」

「後は、専用機に触れたかったから。専用機を弄れる機会はあまり無いんだよ? しかも、ただ弄るだけじゃなくて一から弄るなんて、この先何回あるか分からない。そんなチャンスを私は逃したくなかった」

「……それが」

「他には、あの生徒会長を簪さんに倒して欲しいから。あの子に前自信作をボコボコにされたからその復讐、それと────」

 

 上級生が急に恥ずかしそうに頬をかく。そして、数回深呼吸をした後に言った。

 

「────好きな子にね、頼まれたから……」

「え────っ」

「私ね、稲穂くんのことが好きなんだ。異性として」

 

 あまりにも意外すぎたそれに簪が固まる。上級生はそんな簪に気付いているのか、それとも気付いていないのかは分からないが言葉を続けていく。

 

「私と稲穂くんが会ったのは3月の頭。最初にあった時にね、言われたんだ。『あなたの力を貸して欲しい』って。あっ、チョロいって思った? 言っておくけど、私はまだこの時は稲穂くんのこと、好きじゃなかったから」

「えっ、はい……」

「インパルスの製作、打鉄弐式の製作とか他にも色々と機会があって、話して、そしたら気づいたら好きになってた。うん、普通にチョロいな私」

 

 急に始まった恋話に簪は顔を赤くするが、簪も乙女の端くれ。途中から少しだけ興味が出てきていた。

 

「そんな、好きになった子に『力を貸して欲しい』って言われたら……惚れてる私は良いところを見せたくなっちゃんだよ」

 

 真っ直ぐにそう言った上級生の顔があまりにも綺麗で、同性なのに簪はその顔から目を逸らせなかった。

 

「……どう? 幻滅した?」

「……いえ、ただ」

「ただ?」

「羨ましい……です」

 簪は上級生の顔を見ながら、無意識にそう言った。

 ガヤガヤと騒がしい整備室の中で、その声を聞けたのはその上級生ただ1人だった。

 

「……か────」

「よし! 更織さん、パーツできたから確認してー!」

 

 何かを言おうとした上級生だったが、他のところから声がかかった簪は急いでそちらの方へ走っていく。

 その様子を見ながら上級生は1度深呼吸をすると、「よしっ!」と気合を入れて自分の作業に戻っていった。

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