IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮) 作:巫女好きの満月
side秋一
さて、この状況はどういうことなのだろうか。
俺の前には申し訳なさそうな顔をした一夏とシン、そして、ジャージ姿のデュノア。俺の後ろにはタブレットを持った稲穂。
一見すると、何もおかしいことのない状況。ただし、デュノアのジャージ……正確にはその胸部が膨らんでいるのを除けば。
「……あー、一夏、シン。もう一度言ってくれないか?」
「頼む、秋一、稲穂! シャルルを助ける方法を一緒に考えてくれ!」
聞き間違いだったら嬉しいなーっと思っていたのだが、どうやら聞き間違いではなさそうだ。
「待て、待ってくれ。先ず、状況を教えてくれ。俺と稲穂は呼ばれて来ただけだから状況が分からん!」
「わっ、悪い。実は────」
一夏の話をまとめるとこうだ。
今日の自主訓練を終えた一夏はシンを自室に招き入れる。
部屋に入るとシャワーの音が聞こえてきて、ボディーソープが切れていたのを思い出す。
シンに寛いでいてくれと言い、ボディーソープを届けにシャワールームへ移動する一夏。
シャワールームの中に入ると、そこには女の子の身体のデュノアが。
シャワールームから部屋に戻り、シンとともにデュノアの事情を聞く。
デュノアはデュノア社社長の隠し子だった。そして、その社長に命令されて男装していた。その命令の内容は男子操縦者の情報と使用機体のデータを盗むというもの。
デュノアの家庭状況やその命令の内容などを聞いた一夏がIS学園の特記事項第21の『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』を使えば、デュノアを在学中はなんとか守れると言う。
そこで、一旦話し合いは終わった。けど、その後にシンが「一応、秋一と稲穂には伝えておいた方がいいんじゃないのか?」と言う。そして、ついでに「みんなで考えれば特記事項に頼らなくてもシャルルを守れる方法を思いつくかもしれない」と呑気に一夏に言う。
俺と稲穂に連絡、そして今現在の説明。
なるほど、なるほど。
うん。先ずは────。
「織斑一夏、通報した方がいいかい?」
「待ってくれ稲穂!」
────稲穂に言いたいことを言われた!?
まぁ、うん。仕方ないよな。こういうのは先に行った方勝ちだし。うん、俺は気にしない。
「冗談だ」
……冗談? ごめん稲穂。俺、お前が冗談を言うところが想像できなかったわ。あと、冗談なら少しでもその無表情やめて、反応にものすごく困るから! ほら、見てよ一夏たちのあの微妙な表情!
「……頼む! シャルルを助ける方法を一緒に考えてくれ!」
「いや、俺は良いけど……。稲穂は?」
一夏の話が始まると同時にさりげなく扉を閉め、かつ鍵をかけていた稲穂に聞く。正直に言って、俺は一夏と同じ特記事項を使ったやつしか思いつかないけど、稲穂なら多分できる気がするから聞いてみる。
「シャルル・デュノア、君はどうしたい?」
「えっ?」
「正直に言って僕には君を助ける理由はない」
「稲穂!!」
「織斑一夏、世の中全員が善人ではないよ。君は僕が協力する事を前提で僕にこの事を教えていたけど、僕がこのことを利用してフランス政府を脅迫する可能性は考えなかったのか? 他にも僕がここで秘密保持のために彼女を殺す可能性は? 新聞部を使って、彼女の情報を撒きフランスへ強制送還させる可能性は? おそらく、君は考えていなかっただろうね。そして、特記事項を使っても、
「稲穂、お前……って、待て、稲穂。お前今……」
一夏の怒りが困惑に変わる。
それは、一夏だけではない。俺も、シンも、当人であるデュノアも、困惑している。
その理由は稲穂の言葉の中に出てきた名前。『シャルロット・デュノア』と言う名前。
「なんで……僕の本名を」
「織斑一夏の説明中にIS学園のデータバンクにハッキングした。IS学園の生徒名簿には『シャルル・デュノア』という名前はなく、代わりに『シャルロット・デュノア』という名前が登録されていた」
「それって……」
「僕から言えるのはここまでだ。詳しいことは織斑先生の方が把握しているはず。あとシャルロット・デュノア、君は制服を調べた方がいい」
「えっ?」
「織斑一夏、今度からはこういう話は信用できる相手だけにするべきだ」
「えっ、あっ、ああ」
「おやすみ」と部屋から出ていく稲穂の姿を見送る。パタンっと扉が閉まる音が聞こえてきた。
えっ、つまりこれって……?
「え……っと? つまり……?」
「とりあえず……姉さんのところに行こうぜ。みんな」
いきなりの事で頭の整理ができていないがとりあえず、姉さんのところに行く事を提案する。稲穂の言葉が本当なら姉さんはデュノアのことを知っていたってことになる。
そして、その理由次第で多分、一夏たちが悩んでいた時間が無駄になるんだよなぁ。
「デュノアのことか、教員は全員知っていたぞ」
「「「「へっ?」」」」
寮長室にいる姉さんのもとに全員で行き、聞いた結果返ってきたのはそんな言葉だった。
えっ、何、姉さんだけじゃなくて山田先生たちも知っていたの? えー。
「上からの指示だ。お前たちが今回のようなケースにどう動くのか誰に相談するのかを確かめるためのな」
「なんで、そんな事を?」
「今回のようなケースが以降起こった時にお前たちが動けるようにするため……らしいが、実際はお前たちが誰を頼るのかを知りたいのだろう。こういった状況では自分が信頼しているものに頼りたくなるケースが多いらしいからな」
その言葉に俺は納得するが一夏は多分────。
「それって、シャルルを利用したって事じゃないか!?」
「一夏」
「そのせいで、シャルルは────」
「一夏!」
一夏を落ち着かせるために少しだけ強目に一夏の名前を呼ぶ。一夏はそれにハッとし、数回深呼吸をして落ち着いた。
「……織斑兄、お前が怒るのも分かる。だが、これからはこういう事が起こり得る。その時にお前たちが何もできませんでしたという事態は避けなければならない」
「…………」
「今回の件はこれで終わりだ。すまないなデュノア、お前には負担をかけた」
「いっ、いえ! 僕は……その」
姉さんがデュノアに頭を下げるとデュノアはアワアワとする。
そして、少し経つと姉さんは頭を上げ一通の手紙をデュノアに渡した。
「あの、これは?」
「お前の父親からだ。一夏たちが気づき、私に相談をしてきた場合にお前に渡すように頼まれていた」
「……父から?」
姉さんから手紙を渡されたデュノアはそれを震える手で受け取る。俺はその様子を見ながら一夏とシンを連れて寮長室から出ていく。
「……秋一」
「今は俺たちはお邪魔だ。一足先に食堂に行って、デュノアの席を取っておこうぜ」
「……そう、だよな」
少しだけ、暗い感じの一夏にできるだけ明るく応える。
「そう暗い顔するなよ一夏」
「シン」
「お前がそんな顔してると、戻ってきたシャルルの顔も暗くなっちまう。それはお前だって嫌だろ?」
「そうだよな」
いつもと同じ笑顔を浮かべる一夏。そうそう一夏はそういう笑顔の方が何倍もいい。
……まぁ、多分これから一夏とシンは大変な間に合いそうな気がするけど。
「あー! 一夏見つけた!!」
「一夏っ!」
「シンさん!」
そう思った時、後ろからそんな声が聞こえてきた。声からして箒、鈴、オルコットさんか。うん、これは嫌な予感がする。
「一夏、シン悪い! ちょっと用事思い出した!」
「えっ、秋一!?」
「どうしたんだ?」
驚く一夏と疑問符を浮かべるシンを置いて俺は走って先に急ぐ。恋する乙女の邪魔をするわけには行かないからな。
「そ、それは本当ですの!?」
「う、嘘ついてないでしょうね!?」
おそらく誰もが嫌いな月曜日の朝、教室に向かって歩いていた俺、一夏、シン、デュノアの4人は廊下にまで聞こえる声に目を瞬かせた。
「なんだ?」
「さぁ?」
「多分、何か限定品でも入荷したんじゃないのか?」
「ハハ、多分違うと思うよ?」
全員だこれだ、あれだと話しながら教室に入る。
「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら男子の誰かと────」
「俺たちがどうかしたのか?」
「「「きゃああっ!?」」」
男子という単語が聞こえてきたから声をかけると、返ってきたのは女子たちの悲鳴だった。耳が痛い。
「なんの話なんだ? 男子って単語が聞こえてきたけど……」
「う、うん? ソウダッケ?」
「さ、さあ? ど、どうだったかしら?」
鈴とオルコットさんがそう言うが凄い目が泳いでるぞ。……うわっ、凄い気になる。
「あっ!? そろそろ時間じゃない!? あたし自分のクラスに戻るから!」
「そ、そうですわね! わたくしも自分の席につきませんと」
他所優しくその場から離れていく鈴とオルコットさん。そして、そんな2人に倣うかなようにパッと移動する他の女子。
「……なんだ?」
「さぁ?」
☆☆☆☆☆
教室の窓側列に座っている瑠璃はそんなクラスメイトたちの様子を見ると、自分の前の席にいる自分の姉、箒に視線を移した。
(……この噂って、絶対箒の告白が原因だよね?)
どこか肩身が狭そうにしている箒を見てほぼほぼ確信する瑠璃。
箒が告白することを知っている(相談されたから知っている)瑠璃は箒に少しだけ同情する。残り? 自業自得。
(箒は……やる気はあるか)
瑠璃は箒を心配そうに見つめる。その脳裏にはかつての光景が浮かび上がっていた。
中学校最後の剣道の全国大会。箒はその大会で見事優勝を果たした。本来なら輝かしい栄光の一つであるそれはその時の箒には到底誇れるものではなかった。
それは単純明快、箒のその優勝という結果は『憂さ晴らし』という名の暴力でなしたものだからだ。
あの時の箒は正直に言って、荒れていた。
箒と瑠璃の姉、束がISを発表し箒と瑠璃は親族の保護という名目で政府主導の転居を余儀なくされ、さらには想いを寄せている一夏の手紙にも『居場所が第三者に分かるのは困る』という理由で返信することすらさせて貰えない。
そんな状況をまだ中学生の箒が耐えられるかと聞かれたら……否としか答えられない。
溜まっていくストレス、それを発散するのに箒が使ったのは────懸想している一夏との繋がりである剣道だった。
箒本人は、それを最後まで気付く事はなかった。そして、気づいた時の箒は、それはもう酷かった。
瑠璃に涙を見せ、震える手で自分の身体を抱きしめていた。瑠璃が話しかけて、自分の憂さ晴らしのために剣道を使ったことが許せないと、ごめんなさい。ごめんなさい。と怒られた子供のように泣いていた。
(……ううん、あの時の箒とは違う。今度は大丈夫)
一瞬、頭の中でもう一度あの時と同じになるのでは? と思ったその考えを瑠璃は否定する。
今はあの時とは違い、稲穂による束との対話(という名の喧嘩)をすることにより束と箒の仲は少し修繕された。瑠璃と束? 箒との喧嘩が終わって胸を痛めてる束に瑠璃がビンタをして確執は終わりましたよ?
(そう考えると、稲穂には感謝しないとね)
過去を思い出して、瑠璃は稲穂を見る。学園に入る前に会ったのは1年前の秋。束を迎えに来たのが最後だが、それまでは瑠璃の良き相談相手(その内容は箒についてが多かった)になってくれていた。
(『学年別トーナメントの優勝者は男子と付き合える』……か)
ふと、瑠璃はその噂のことを考える。瑠璃自身、誰か特定の人を好きになった事はない。いや、瑠璃地震が気付いていないだけかもしれないが……そう考えた瑠璃は近くの男子で考えてみる。
織斑一夏、箒の想い人。明るい美少年という感じの容姿をしているが、瑠璃は一夏のような真っ直ぐな主人公タイプはあまり好みではない(恋愛対象として)。
織斑秋一、双子だからか一夏と同じような容姿だが、その性格は違う。慎重になる場所はなるが、それ以外は流される部分がある。瑠璃としては慎重すぎる時の方が多い秋一は友として見れても恋愛対象としては見れない。
黒崎シン、容姿がシン・アスカと似ているためか完全に恋愛対象として見れない。瑠璃は、シンよりキラ派なのだ。
貝塚稲穂、よく分からない。多分、一番気になっている男子はと聞かれれば稲穂と答えるが、それが友人としてなのかそれとも別の何かなのか今の瑠璃には分からない。
(……まぁ、今はそんな事よりも学年別トーナメントだよね)
いつしか瑠璃の頭の中では噂などのことは消え失せ、学年別トーナメントに向けて自分が何をすべきかを考えていた。