IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮) 作:巫女好きの満月
side秋一
2時間目が終わる合図が響き、休み時間になる。
再び針のむしろ状態になるのかと思いながらもそれでも俺に……いや、俺たちにはそれを気にする余裕はなかった。
……マジで、分かんない。何これ。
2時間目はまだ最初の基礎の部分だけのはずなのに、俺にはもう訳の分からない謎の単語の羅列にしか見えないし聞こえない。
「ちょっと、よろしくて?」
「「はい?」」
俺と一夏から素っ頓狂な声が出た。まさか、話しかけられるとは思っていなかったからつい出てしまったのだ。
話しかけたきたのは金髪の女子だった。うん、何というか貴族っぽい何かを出してる気がする。
「訊いてます? お返事は?」
「あ、ああ。訊いてるけど、どういう用件だ?」
一夏が戸惑いながら対応する。俺も何か言ったほうが良いのかな? っと少し思うが、なんとなく嫌な予感がしたため黙ることにした。
……てか、今思ったけどこれ原作であったやつだなー。
「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに声をかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
わあ、原作通りだ。
そして、シン。お前何だなんだって好奇心旺盛で来るんじゃない。そして、稲穂、多分煩いからってイヤホンを耳につけようとするな。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
確かに、俺は原作知識で知ってるけど自己紹介の時はとにかく色々と考えていたから自己紹介をまともに訊いていなかった。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」
シンが稲穂からイヤホンを没収する。稲穂は特に抵抗することなく前を、俺たちの方を向く。
それにしても、嫌な予感がするなぁ。
「あ、質問いいか?」
「ふん。下々のものの要求に応えるのも家族の務めですわ。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
頭をぶつける。シンは笑いを堪えようとして、堪えきれずに小さく笑い、稲穂は……変わらずに無表情のまま。
そして、クラスメイトの大半がこけた。
「あ、あ、あ……」
「『あ』?」
「あなたっ! 本気でおっしゃってますの!?」
「おう。知らん」
堂々と宣言する一夏。見栄を張らないのは立派だが、今この状況だと火に油を注いでいるようなものだぞ。
「信じられない。信じられませんわ! 極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら?」
「失礼な、テレビはあるぞ。見ないけど」
「それは有って無いようなものですわ!!」
「で、代表候補生って?」
「国家代表のIS操縦者の候補生。簡単に言えばエリート」
一夏の質問に答えたのは稲穂だった。
これには、俺だけじゃなくてシンも一夏も周りの人たちも驚いた。
だが、オルコットさんだけは違ったようだ。
「そう! エリートなのですわ!」
ビシッと一夏に人差し指を向けるオルコットさん。
「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運ですのよ! その現実をもう少し理解していただける?」
「そうか、それはラッキーだ」
「……馬鹿にしていますの?」
凄いな一夏。ナチュラルにオルコットさんの地雷を踏んで行く。
てか、俺もうここに居なくても良いよな?
少しずつシンと共に一夏から離れていく。一夏は薄情者! とでも言いたげにこちらを見てきたが、ふふふ、君が悪いのだよ一夏。彼女の地雷を踏みまくった君のその浅はかさを呪うがいい。
少しずつ離れていってシンとともに外へ出る。
教室の中に閉じ込められていたためか、外の空気がとても美味しく感じる。
「助かったよ、シン」
「別に良いって、俺はお前と話しがしたかったからさ」
「話し?」
「もう、隠さなくて良いって。お前、転生者だろ?」
シンの言葉に俺は少しだけ驚いたが、すぐに首を縦に振って肯定する。
するとシンはだよなぁっと言った顔をして話を続ける。
「ようやく、俺以外の転生者に会えたぁー」
「ようやくって、稲穂は?」
「アイツは転生者じゃなかったよ。それとなく探ったけど、本当にアイツは転生者じゃなかった」
「そうなのか」
稲穂が転生者じゃないことに少しだけ驚いた。
俺はてっきり稲穂も転生者だと思ったんだけどなぁ。違ったのか。
「おっと、そろそろ次の授業が始まるな。帰ろうぜ秋一」
先に帰ろうとするシンに慌てて俺もついていく。
願わくば、この後の授業で原作のような展開になりませんようにと叶わないであろう願いをして……。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
1、2時間目と違いこの授業では姉さんが教壇に立っている。よっぽど重要な授業なのだろう。山田先生までもノートを手に取っている。
「ああ、だがその前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
ふと、思い出したように姉さんが言う。クラス対抗戦。そう、対抗戦。ここ、IS学園で対抗戦と聞かされれば何で戦うのかは想像に難くない。
そう、ISを使った実戦だ。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席等……まぁ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間変更はないからそのつもりで」
ざわざわと色めき立つ教室。
俺はその中で絶対にやりたくないと思いながらもこちらをチラチラと見てくるクラスメイトを見てそれは無理だろうなぁっと思ってしまう。
「はいっ! 織斑くん……お兄さんの方を推薦します!」
ほらねー。早速一夏が巻き込まれた。しかも、多分男子だからと言う理由でだ。だとすると────。
「じゃあ、私は弟君の方を!」
「なら、私は黒崎くんを!」
「私はなおなおを推薦しま〜す」
……なおなお? 誰のことだ? と思ったが、すぐに俺の後ろの稲穂のことだと理解する。
「では候補者は織斑兄弟、黒崎、貝塚か。他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ?」
「「ちょっと待って!」」
「織斑兄、黒崎。席につけ、邪魔だ。他薦された者には拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
「い、いやでも────」
反論しようとする一夏。だが、それを甲高い声が遮った。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
バンッと机を叩いて立ち上がったのはオルコットさん。……どうでも良いけど、叩いた手は痛くないのか?
「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」
おー、凄いセリフ。てか、よく噛まずに言えたなこれ。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!
いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
興奮冷めやらぬ────ではなくますますヒートアップしていくオルコットさん。代表にはなりたくないけど、流石にここまで言われるのはなぁ。
でも、落ち着け俺。前世も含めたら30を超えるんだ。この程度の戯言はスルースルー。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で────」
「「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だ!」」
────あっ。やっちゃった。
「な……っ!?」
やべ、俺も一夏もつい言っちゃった。
恐る恐る後ろを向く。うわー、めっちゃ怒ってる。顔を真っ赤にして怒ってるよ。
「あっ、あっ、あなたたち! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先に侮辱したのはあんただろ」
俺と一夏だけじゃなく、シンも参戦。
もう、こうなったら誰にも止められないんだろうなぁ。姉さん以外。
「決闘ですわ!」
「おう良いぜ。四の五の言うより分かりやすい」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い────いえ、奴隷にしますわよ」
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない!」
「一夏の言う通りだ、俺だって負ける気はない」
「逆にあんたを倒してやるさ!」
「ちょうどいいきかいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
流れとは言え勝負することになったけど、どうしようか。
俺は原作を知っている。だからこそなんとなく分かる。代表候補生の強さが……。
まぁ、この世界に今更、原作知識を求めても無駄な気はするけどな。
「ハンデはどのくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデつけたら良いかなーと」
一夏がそう言った。刹那、笑い声が響いた。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、昔の話だよ?」
「織斑くんたちは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
クラスのほとんどの人たちが、本気で笑ってる。それもそうか。
なんせ、今の世界に腕力は関係ない。ISという兵器が現れたことにより、いや、
なんせ、戦争が起きれば男陣営は3日ともたない……いや、下手したら1日で決着がつくだろう。
それが、今この世界での真実。そして、それ故に俺たちは何も言い返せない。
それが……悔しい。
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女よりも強いだなんて日本の男子はジョークセンスがあるのね」
自然と手に力が篭る。馬鹿にされてる。それがよく分かる。
「ねー、織斑くんたち。今からでも遅くないよ? セシリアさんに言ってハンデを付けてもらったら?」
近くにいた女子が気さくに話しかけてきた。心配してくれているのかと思ってその顔を見て────後悔した。
苦笑と失笑。それらが混じった表情。
「要らない、これは真剣勝負なんだ。ハンデなんてなくて良い」
「えー? それは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも知らないの?」
「…………」
俺も、一夏も、シンも、何も言えない。
現に俺たちは今日、無知であることをクラスメイトに晒してしまった。そんな俺たちが何を言っても────。
そんな考えが、頭の中に浮かんで、それでも何か言おうとして言えなくて、それがとてつもなく────悔しい。
「確かに。織斑秋一の言う通り、互いにハンデは無しの方がいいと思う」
失笑ムードの教室の中で、静かな声が響いた。
俺も、一夏も、シンも、いや、クラスメイト全員が驚いたようにその人物に注目した。
なんせ、その人物はこの授業が始まってから口を開く気配すら見せていなかった貝塚稲穂だったから。
「これはクラス代表を決める決闘だ。セシリア・オルコット、君はさっき『クラス代表は実力トップがなるべき』だと言った」
「ええ。確かに言いました」
「それなら、このクラス代表を決める決闘で、ハンデを付ける……つまり手を抜く人をクラス代表にするのに僕は反対だ」
稲穂のその言葉に、教室の誰も反論できない。いや、オルコットさんは怒りからか顔を赤くしている。
「あと、もう一つ。今の現状にも僕は反対だ。このクラスの全員が、他薦はしても自薦はしない。クラス代表には確かに雑務なども仕事のうちに入るだろうけど、それ以上にクラス対抗戦という自分の価値をアピールする場所が必ずある、実際にISを使った実戦を経験できるというメリットがある。なのに、誰も自薦はしない」
先ほどまでの俺たちの会話とは違いその声に抑揚はない。淡々と、ただ事実だけが述べられていく。
「それに油断しきっている
堂々と、顔色一つ変えず稲穂はオルコットさんに向けて宣言した。
そして、その宣言はおそらく、俺たちにも向けられた言葉だと、俺は思った。
オルコットさんが稲穂に向けて口を開こうとした瞬間、パンパンッと大きく音が鳴った。
「一旦、止まれ。このまま口論……いや、口喧嘩をしても何も解決はしない。先ほど、オルコットが言っていたようにクラス代表は決闘にて決めることにする。
他に立候補はいるか?」
「はい! 立候補します」
姉さんが他に立候補する人がいるかを聞くと、1人……いや、2人手を挙げた。
クラスメイトも、俺たちも(稲穂を除く)その方を見る。
手を挙げたのは箒と瑠璃だった。
「篠ノ之姉妹か。織斑兄弟、黒崎、貝塚、オルコット、篠ノ之姉妹立候補者は7人か。他は?」
姉さんの声に誰も手をあげない。つまり、立候補者はもういないということだ。
「7人か。意外と多いな。調整に手間取りそうだ」
「織斑先生、一つ提案が」
姉さんの困ったような声に稲穂が手をあげる。
「僕たち7人でのバトルロワイヤルを提案します。そうすれば日にちと時間の調整は比較的楽になるはずです」
「確かにな。貝塚の意見に反対の者は?」
姉さんの言葉に誰も手をあげない。それは、つまり稲穂の提案が受理されるということ。
バトルロワイヤル、つまり全員が敵……か。
「山田先生、アリーナが1時間以上空いている日はありますか?」
「ええっと、はい有ります。来週の月曜日、授業後なら」
「よし、ならば来週の月曜日、アリーナでクラス代表を決める模擬戦を行う。それまでに各員、できることはやっておけ。以上。それではこれより授業を行う。立っている者は着席しろ」
姉さんの言葉で、立っていた俺たちは自分の席に座る。
来週の月曜日。つまり、あと7日でなんとかしないといけないのか……。
(まっ、とりあえず何をするかは後でだ。今は授業に集中しないと……)
「うう…………」
放課後、俺と一夏は机の上でぐったりとうなだれていた。
くそっ、さすがにこれは想定外だ。
「まさか、専門用語だらけでややこしいとは」
専門用語の羅列、辞書か何かないのか……っ!
俺と一夏はあの参考書を碌に読んでいなかったことによる知識不足。シンも内容の大半は理解していない。
もう1人の男子である稲穂は、授業後になる度に何処かに行って話しかけるタイミングが掴めなかった。
しかも、それだけじゃない。女子からの視線の数が減らない。ずっと注目されていて物凄く疲れる。
(勘弁してくれ)
昼休みも含めた全ての休み時間がそれはもう地獄だった。
どこに行くにも女子は必ずいて注目してくる。学食に移動しようとすると全員ついてくる。俺たちは外国から来た珍獣かよ……。
「ああ、織斑くんたち。まだ教室にいたんですね。よかったです」
「「「はい?」」」
呼ばれて顔を上げると、山田先生が書類を片手に立っていた。
やっぱり背が低い、それに────胸で……やめよう。
「えっとですね、寮の部屋が決まりました」
そう言って俺と一夏に部屋番号の書かれた紙とキーを渡す山田先生。
そういえば、IS学園は全寮制だったと思い出す。生徒全員が寮で過ごすことを義務付けられているのだ。これは、なんでも将来有望なIS操縦者たちを保護するという目的もあるらしい。
……ってアレ? 山田先生、シンと稲穂の分は? その手に持ってる紙とキーは一つだけなんですけど……。
「……あれ、貝塚くんは?」
「稲穂だったら授業が終わると同時に────」
「今、戻ってきました」
おうわっ! ビックリしたぁ。
いきなり俺の隣から声が聞こえてきて俺と一夏、山田先生は驚いて後ずさる。
隣を見ると両手でたくさんのノートとタブレット? を持った稲穂がいた。
「そっ、そう言えば俺の……俺と秋一の部屋、決まってなかったんじゃないですか? 前に聞いた話だと、1週間は自宅から通学するって話でしたけど……」
「そうなんですけど、事情が事情なので一時的に部屋割を無理矢理変更したらしいです。……そのあたりのことって、政府から聞いてます?」
最後だけ俺と一夏に聞こえるように言う山田先生。
あーっと俺と一夏は納得した顔をする。あのニュースが流れてから自宅にはマスコミやら研究員やらたくさんの人が押しかけてきて最終的には落ち着き始めた3日前まで何処かのホテルに監禁状態になった。ちなみに、政府というのは勿論日本政府のことだ。
「そういうわけで、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです。1ヶ月もすればキチンと部屋割りを調整するのでしばらくは我慢してください」
「……あの、山田先生? 耳に息がかかってすごくくすぐったいんですけど」
俺がそう言うと真っ赤になってあわあわし始める山田先生。うん、マジで可愛い。
「あっ、いやっ、これはそのっ、別にわざととかではなくてですね……っ!」
「いや、分かってますから。それで部屋の件はわかりましたけど、荷物は1回家に帰らないと準備できないですし、今日はもう帰っていいでか?」
「あ、いえ、荷物なら────」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え」
……えっ? 姉さんが手配?
「ど、どうも……ありがとうございます……」
「もっとも、生活必需品だけだと駄目だと貝塚に言われたからな。まぁ、適当にお前たちの部屋にあった本なども入れておいた」
「……っ! 稲穂、マジでありがとう!!」
マジでありがとう稲穂。お前が何も言わなかったら俺と一夏はしばらくの間生活必需品だけで寮生活を過ごすところだった。
「じゃあ、時間を見て部屋に行ってくださいね。夕食は6時から7時、寮の1年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。ですが、学年ごとに使える時間が違いますけど……残念ながら織斑くんたちは今のところ使えません」
「え、なんでですか?」
山田先生の言葉に質問をする一夏。ああ、このトーンからしてマジで何でか分かってないな。
「一夏、お前は同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
「あー……」
こいつ、まさか俺たち以外女子だということを忘れていたな。
「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっ、ダメですよ!」
「い、いや、入りたくないです」
山田先生、織斑くんはこの教室に2人いますよ。
あと、一夏。その返しは良くない。
「ええっ? 女の子には興味がないんですか!? そ、それはそれで問題のような……」
ほら、こうなった。そして、それと山田先生の声で一斉にきゃあきゃあと別の意味で騒ぐ人が現れちゃったよ。
「織斑くん、男にしか興味がないのかしら……?」
「もしくは────弟にしか?」
「それはそれで……アリね!」
「中学時代の織斑兄弟の交友関係と兄弟の仲についての調査を! すぐに! 明後日までには裏付けをとって!!」
一夏、俺は多分お前を思いっきり殴っても許されると思う。
だからさ、頼む。お前のその何の話なのか分からんって顔を殴らせてくれ。
この後、山田先生と姉さんは会議があるらしく教室を後にする。
その様子を見て俺は額に手を当てて天を仰ぐ。
────神様、俺、なんかしましたか?
「……そういえば、稲穂。お前のそれは?」
山田先生と一夏のせいで疲れた頭を戻したいから稲穂に話を振る。
稲穂は「これのこと?」とそれらを机の上に置く。
「これとこれは織斑一夏。これとこれは織斑秋一。残りは黒崎シンに。タブレットは僕の」
テキパキとノートを分けて俺と一夏、シンに渡していく稲穂。
……なんだ、これ? 『IS専門用語辞典』? 『IS基礎学のまとめ』?
「織斑先生から教えるように頼まれたけど、これから1週間は時間が取れないからまとめたノートを渡して勉強してもらおうと思ったから授業中に作った。もっとも、外見がノートに見えるだけで中は印刷したものだけどね」
「え────」
パラパラと中を確認する。
すげぇ。『IS専門用語辞典』の方はISの専門用語がわかりやすいように解説されてるし、所々に赤線や青線があって重要なところがすぐにわかる。
これを、まさか作ってたのか?
「ありがとう稲穂」
「別に良い。頼まれたことをやっただけだから。後、僕はこれから山田先生のところに行かないと行けないから、これで」
「えっ、何でだ?」
一夏の質問に稲穂はジッと俺と一夏の手を見る。正確には、そこにある紙とキーを。
「僕の分のキーと部屋番号の書かれた紙。まだ、貰ってないから」
それだけ言うと稲穂はスタスタと教室から出ていく。
「俺たち、怒らせたか?」
「いや、アレは稲穂の平常運転だから気にするな」
俺の独り言に律儀に返すシン。
とりあえず、稲穂から渡されたノートを見て心の中でもう一度イナホに感謝する。稲穂マジでありがとう。
一夏たちと少しだけ話した後、シンの提案でとりあえず3人で寮の部屋に行くことになった。
☆☆☆☆☆
side 稲穂
教室から出た稲穂は多くの視線を気にせずにそのまま職員室の方へと足を進めていた。
そして、目的の人物がいるのを確認するとその人に声をかけた。
「山田先生」
「貝塚くん? どうかしましたか?」
山田先生が稲穂の方に振り向く。どうやら、会議はすでに終わっているらしい。
「キーと紙を受け取りに来ました」
「えっ、あー! ごめんなさい忘れてました! これが貝塚くんのキーと部屋番号です!」
部屋番号の書かれた紙とキーを受け取る稲穂。山田先生は「用はこれで終わりですか?」と稲穂に問いかける。
「いえ、
「え────っ。それは確かに、できれば良いですけど……」
「ありがとうございます。失礼します」
山田先生の曖昧な答えを聞くと稲穂は職員室から出て行く。
そして、タブレットを起動させて画面を指で弄りながら制服から今度は携帯端末を取り出し、番号を入力、電話をかける。
「……貝塚です。はい。手を貸してくれませんか? はい。勿論、報酬はあります。はい。それでは、後で」
電話を終えた稲穂は携帯端末を制服にしまうとタブレットを操作してある項目で止めた。
そこには『IS学園1年生整備課志望&代表候補生』と書かれていた。
☆☆☆☆☆
side秋一
山田先生に渡された紙に書かれていた部屋の番号は1035室。一夏の部屋よりも奥だった。
何でも、俺はシンと同じ部屋らしい。
「……うわ、凄いなコレ」
「そうだろ? 俺も最初は驚いた」
俺の反応に笑いながら返すシン。
二つのベッドのうち、奥の方には畳まれたシャツが置いてあることからおそらく奥のベッドはシンが使っているのだろう。
「悪いな、ベッドの場所は先着順なんだ」
「いや、俺は手前の方が良いからちょうど良いかな?」
荷物をベッドの近くに下ろして座る。うお、凄いモフモフだ。絶対これ高いやつー。
「なぁ、秋一。お前はこれからどうするつもりだ?」
「どうするって? どっちの意味で?」
「両方だ」
シンはそう言うと姿勢を正して俺を見た。
嘘は許さない。そう言いたげな雰囲気を今のシンは醸し出している。
さて、こらからどうするつもりか。
原作の方については……俺はもう諦めてるし、何より
だって、既に今の段階で原作とは違うところがあるんだ。
原作では一夏とオルコットさんが戦うだけ……だったのに、俺とシン、稲穂に箒、瑠璃まで参加してるんだ。
しかも、箒に至っては原作だとこの時期、あまりISに良い感情を抱いてはいなかったはずだ。なのに、あの時の箒を思い出すとそんなことは思っていないように見える。
そのことから考えると、もう原作なんて忘れて好きに生きた方が良い気がする。
よし、原作の方は結論が出た。なら、今度は1週間後のバトルロワイヤルの方だ。
正直に言って、俺たちが勝てる確率はかなり低いだろうな。
1対1のトーナメントならまだ何とかなるかもしれないけど、バトルロワイヤルだと自分以外の全てが敵。
乱戦状態になったらすぐ、負ける気がする。
なら、誰かと協力するか? でも、誰と?
そんな事を考えていると、いきなりシンの雰囲気が霧散した。
え……なんで?
「良かったぁ。お前も勝とうと思ってるんだな」
「……バトルロワイヤルは俺だけじゃない。一夏だって勝ちたいと思ってるさ」
「それは勘か?」
「ああ。
そう言うとシンは少しの間、ポカンとするが、すぐに笑みを浮かべた。
「原作の方は……もう割り切ってるんだな」
「ああ。元ネタがあっても、この世界はちゃんとした現実だ……ってずっと思ってるからな」
「……そうか」
シンが何かを考えるような素振りを見せる。数秒ほど経つと考えが纏まったのか俺に向かって手を出した。
「秋一、俺と手を組もうぜ」
「えっ?」
「俺は、アイツに勝ちたい。クラス代表とかそういうのを抜きにしてセシリア・オルコットを倒したい。でも、初心者の俺だけじゃあ、アイツに勝てない。だから、秋一、手を貸してくれ」
「────」
シンの言葉に俺は少しの間言葉を失った。
誰かと協力するという考えは俺にもあった。でも、誰と協力するかを俺は決められなかった。
そんな時に来たシンからの誘い。
俺はそれを────受け入れた。
「ああ、こっちこそよろしく。シン」
シンの手を握る。
なんか、これ良いな。男同士の友情みたいで。
互いに目を合わせて笑う。お互いに考えていたことは同じか……。
「じゃあ、一夏も誘って────」
────飯でも食おうぜ。そう言おうとした時、ドスンッ! と近くから物凄い音が聞こえてきた。
そう言えば、この時間帯にあったイベントは……。
「……一夏は置いていくか」
「そうだな」
悪いな一夏。俺たちはお前を見捨てる。
けど、君がいけないのだよ一夏。ラッキースケベなんてものを起こすからそんなことになるのだよ。