IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮) 作:巫女好きの満月
side秋一
「なぁ……」
「………………」
「なぁって、いつまで怒ってるんだよ」
「……怒ってなどいない」
「顔が不機嫌そうだ」
「生まれつきだ」
うわぁ、にべもねー。
現在、入学式翌日の朝8時。一年生寮の食堂で、箒と一夏が話しているのを見ています。相変わらず右を見ても左を見てもほとんど女子だが、この状況に慣れ始めたのか昨日に比べれば苦ではない。
隣にはシンがいるが、朝弱いのかさっきから何も喋らない。ってか、頭をこっくりこっくりするな、危ないだろ。
ちなみに、俺とシンのメニューはうどんとおにぎり。男子だからという理由で少し食堂のおばちゃんが、量を多めにしてくれた。
味は無茶苦茶美味い。流石は国立。食事も寮の仕方も一級品だ。
「ねえねえ、あそこにいるの噂の男子だよ〜」
「片方は千冬お姉様の弟らしいわよ」
「えー、それなら姉弟揃ってIS操縦者かぁ。やっぱり、彼も強いのかな」
噂の男子を一目見ようと、周りにはたくさんの女子。まだ、男子が珍しいムードは続いているらしい。
周囲は一定の距離を保っている女子たちの集まり。うん、慣れてきたとはいえ普通に辛い。
「……あれ、稲穂のやつは?」
食堂をざっと見て、稲穂がいないことに気づきシンに聞く。シンはうどんを食べて少しだけ目が覚めたのか薄っすらと目を開けて周囲を確認する。
「……稲穂は多分教室にいると思う。アイツ、この時間ならもう朝食食べ終わってるから」
「よく知ってるな」
「一応、昨日までは同じ寮の部屋にいたからな。7時にはもう朝食を食べ終わって着替えも済ませてたからなアイツ」
稲穂の話を聞くと本当にアイツが俺と一つ下なのかを疑問に思う。
だって俺今世も前世も中学時代なんて朝めいいっぱい寝てたぞ。今世はちょっとだけ一夏の影響から少しだけ早起きできるようになったけど……。
「それにしても、人が多いな。そろそろ戻って教室行くか?」
「その方が良さそうだな」
シンの提案に周りを一度見てから答える。時間が経てば経つほど、周囲の人が増えてるような気がする。
これ以上増えたら移動するのに苦労しそうだ。それならそうなる前にもう移動した方が良い。
シンと一緒に移動してる途中でチラッと一夏の方を見る。いつの間にか一夏の隣から箒の姿が消えていた。
まぁ、その代わりにクラスメイトが3人ほどいたけど……。
「そういえば、今日1時間目なんだっけ?」
「ISの基礎。昨日稲穂から貰ったノートを見ながらやれば何とかなるだろ……多分」
────なんとか、なった。マジで。
3時間目の途中、昨日よりはマシなグロッキー状態になりながら稲穂から渡された『IS基礎学のまとめ』と教科書を見ながらノートを書いていく。昨日とは比べ物にならないほど、授業が分かる!
おそらく、これが無かったら俺と一夏、シンはこの授業の内容を理解できないだろうなぁと思いながらも進んでいく授業についていく。
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ────」
「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけど……」
クラスメイトの1人が不安げな表情で尋ねる。たしかに、教科書に書かれていることを読むと俺も怖いけど、ISを動かした時の独特の一体感は、別に不安になるどころかむしろ安心したんだけど……。
まぁ、この感覚は人それぞれか。
「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るということはありませんよね? 勿論、自分に合ったサイズのものを選ばないと────」
ふと、山田先生の視線が俺を捉え、一夏、シン、稲穂に移していく。
そして────ボンッという音が聞こえそうなほど、顔を赤くした。
「え、えっと、いや、その、お、織斑くんたちはしていませんね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは……」
山田先生のごまかし笑いは教室に微妙な雰囲気を漂わせてしまう。うわ、凄い気まずい。
それは、前の席の一夏もそうなんだろうな。落ち着きがない。後ろを見ていないけど、多分シンもだろうなぁ。稲穂? 多分、意識すらしていないと思う。
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はい!」
浮ついた空気は姉さんの咳払い一つで無くなる。姉さんに促されて山田先生は慌てて話の続きに戻る。
「そ、それともう一つ大事なことはISにも意識にも似たようなものがあり、お互いの対話────つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、対話というか、操縦時間に比例してIS側も操縦者の特性を理解しようとします」
稲穂の『IS基礎学のまとめ』の方に視線をズラす。
うん、確かに同じようなことが書いてある。しかも、その隣には俺に分かりやすいようにしてるのか『ISは操縦時間が多ければ多いほど機体の性能を引き出しやすくなる』と書かれている。
いや、これ分かりやすいように書いたわけじゃないな。ただの忠告として書いてるだけだ。
だって、その証拠にその下に『だから専用機を持っている人や代表候補生、国家代表VS素人では真っ向から戦うと素人は負ける』って書いてある。
「それによって、相互的に理解し、より性能を引き出せるようになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」
「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」
「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないので分かりませんが……」
この会話からして経験とは男女交際のことだろう。赤面して俯く山田先生ときゃいきゃい騒ぎ始めるクラスメイト。
凄い、なんかアニメやゲームで見た女子高のような雰囲気に一瞬でなった。
そして、俺の方をチラチラっと見る山田先生。うわ、なんかむず痒い。
キーンカーンカーンコーン。
授業終了の合図がなった。
「えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからねっ」
恥ずかしいのか、逃げるように去っていく山田先生。
ここIS学園では実技と特別科目以外は基本担任と副担任が全部の授業を受け持つみたいだ。休み時間15分のたびにいちいち職員室まで戻らないといけない先生たちは、かわいそうだなぁ。
「ねぇねぇ、織斑くん!」
「はいはーい質問したまーん!」
「今日のお昼暇? 放課後暇? 夜暇?」
うわっ、凄い勢いで周りを塞がれた!?
昨日までの様子見的な雰囲気はどこに行ったんだよ! ジリジリとこちらに近づいてくる女子たちを見ながら俺は一夏とシン、稲穂の方を見る。
一夏とシンは俺と同じようになっていた。けれど、稲穂はこの教室のどこを見てもその姿が見えなかった。
(稲穂のやつ、まさか逃げたのか!?)
山田先生がいなくなってすぐに俺たちは囲まれた。まさか、稲穂のやつ誰にも気づかれることなく外に出たのか? だとしたら、その方法を教えてくれ! マジで!
遠くでこちらを見ている箒と瑠璃に目で助けてと訴えるが、すぐに、お互いに別々の仕草で無理だと言われる。
「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」
「え。案外だらしな────」
スパァンッと一夏の頭に出席簿が当たった。
うわ、凄い音。しかも、いつの間に来たんだ姉さん。
「休み時間は終わりだ。散れ」
その一言で、サササッと戻っていくクラスメイトたち。
それにしても、このままだと頭を叩く教師としての印象がつくけど良いのか? って姉さんだしそういうのは気にしないか。
「ところで織斑兄弟、それと黒崎。お前たちのISだが準備に時間がかかる」
「「へ?」」
「予備機がない。だから、学園で専用機を用意するそうだ。黒崎は以前に聞いているな」
「はい」
俺と一夏は突然のことで固まり、シンは元々知っていたのか落ち着いている。
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「それって、政府からの支援が出てるってことだよね?」
「良いなぁ……専用機。私も欲しいなぁ」
固まっている俺たちをよそに騒ぎ始めるクラスメイトたち。
まだ固まっている俺たちを見るに堪えないといった感じで姉さんがため息まじりにつぶやいた。
「織斑兄、教科書6ページ。音読しろ」
「え、はい! 『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアを作らない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業────」
「そこまでで良い。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、お前たちの場合は初の男子操縦者ということでデータ集取を目的として専用機が与えられることになった」
姉さんの言葉から少し整理する。
ISのコアが467個しかないため、世界にISは467機しか存在できないが俺たちは初の男子操縦者ということで、その貴重な467機のうち3機をそれぞれの専用機として与えられることになった……ってあれ?
「姉────織斑先生、それだと稲穂は?」
「……お前はつい最近のニュースと貝塚の自己紹介を忘れたのか? 貝塚はそのコアを唯一作れるやつのところから送られてきた。しかも、貝塚はソイツから特別に新しいISコアを渡され、自作で専用機を作ったと事前に報道されている。そのため、学園で専用機を用意しなくても良いから名前が出なかったんだ」
……言葉が出なかった。
そういえば、何日か前のニュースでそんなようなこと言ってた気がする。……でも、それだと今のISコアの数は467個じゃなく468個って事になるのか。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
クラスメイトの1人が姉さんに質問する。
篠ノ之博士、そう、『篠ノ之』。クラスメイトの質問は正しい。箒と瑠璃は篠ノ之博士────篠ノ之束というISをたった1人で作成、完成させた稀代の天災(誤字にあらず)の妹だ。
「そうだ、篠ノ之姉妹はあいつの妹だ」
おーい! 個人情報を教師が教えて良いのかよ!! だいたい、その束さんは今国家指名手配中の人物だし……。
別に手配中と言っても犯罪を犯したわけではない。ただ、自分たちよりも遥かにISの事を知っている人を放置するのは各国家にとって宜しくないというだけだ。
もっとも、その本人はどうでも良いと思ってるぽいけど。
「えええーっ! それじゃあ、このクラス有名人の身内が4人もいるの!?」
「ねえねえ! 篠ノ之博士ってどんな人!?」
「篠ノ之さんも天才だったりするの!?」
授業中という事を忘れて一斉に篠ノ之姉妹に突撃していくクラスメイトたち。原作だと、ここで箒は大声を出すんだけど……。
(やっぱり、原作とは違うな)
瑠璃は手慣れたようにそれを捌いていく。
それでは、箒はと言うと。
「……私は、いや、私と瑠璃はあの人とは違う。ISの操縦はできても普通か、それよりも下だ。知識の方も、恐らくあなた方の方が上だと私は思う」
申し訳なさそうに対処していた。
そう、原作とは全く違う対処をしていた。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」
パンッと手を叩く姉さん。
それが合図となったのか自分の席に戻っていくクラスメイト。
それを見ながら俺はふと思った。
(あれ? 稲穂の方にはみんな集中しなかったんだな)
自己紹介の時にも、たしかに束さんと繋がっている事を口にしていたはずなのに、身内である箒たちの方にしかクラスメイトは行かなかった。
それに何でだ? と疑問に思いながら俺は教科書を開いた。
ちなみに、その理由は後にクラスメイトの1人が言っていたが何でも稲穂はその時クラスメイトからどう接すれば良いのか分からなく、また前日のクラス代表の時みたいになるのが嫌だったかららしい。
「安心しましたわ。まさか、訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
授業が終わって早々に俺と一夏の席にきたオルコットさんは腰に手を当ててそう言った。ちなみに、後ろには稲穂がシンに捕らえられてここにいる。
「まあ? 一応勝負の結果は見えていますけど、流石にフェアではありませんものね」
「? なんでだ?」
「あら、ご存じないのですね。いいですわ、庶民のあなたたちに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生であり、現時点で専用機を持っていますの」
一夏の質問に得意げに答えるオルコットさん。
それに俺と一夏は「へー」と感心したように声を漏らす。
「……馬鹿にしてますの?」
「いや、純粋に凄いって思っただけだ。昨日、稲穂から渡されたノートにも書いてあったけど、専用機って代表候補生の中でも一部しか持ってないんだろ?」
俺の言葉にオルコットさんは……いや、その周囲のクラスメイトたちも驚いたような表情をする。
うん。その気持ちは少しわかるよ。昨日まで何も知らなかった奴が、たった1日で少しとは言え分かるようになってたらそりゃ驚くよな。
本当に、稲穂のノート様々だ。
「……こほん。まぁ、どちらにしてもこのクラスで代表に相応しいのはこのわたくし、セシリア・オルコットであるということを来週、証明して見せますわ」
背を向けて立ち去っていくオルコットさん。動作の一つ一つが、様になってる。
さてと────これからどうするかはもう決まってるしな。
今は昼休み。本当ならこのまま食堂に行きたいけど、その前にやることがある。
「秋一、一緒に飯食おうぜ」
「悪いな一夏。俺、このあとシンと一緒に用事があるからさ」
「えっ、そうなのか。分かった」
悪いな一夏。こればっかりはどうしても譲れないんだ。
俺は箒のところに行く一夏を見ながらシンと一緒に教室を出た。
ちなみに、この時珍しく稲穂は教室にいた。
☆☆☆☆☆☆
side稲穂
「すみません。組み立ての方をお任せして」
「えっ? 良いよいいよ。私たちもISに触れれる機会をもらって嬉しいし」
昼休みの残りが半分になった時間。稲穂は整備室を訪れていた。
整備室にいるのは稲穂を含めて5人。しかも、稲穂以外の4人は制服のリボンの色から2年生だというのが分かる。
「それにしても、本当に組み立てだけで良いの? OSもまだできてないんでしょ?」
「OSの方は授業中にやってますし、一部は他のクラスの人に頼んでます」
「えっ、他クラスって2年生?」
「いえ、1年生です。中々、良い返事が貰えませんでしたが今日の朝、幾つかの条件を提示してようやく協力してくれるようになりました」
淡々と言っていく稲穂にその場にいる上級生は嫌な顔一つせずに逆に楽しそうな雰囲気で次々と組み立てて行く。
しばらく経つと、キーンカーンカーンコーンと昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。
「……時間ですね。また、放課後お願いします」
「うん! あっ、ちゃんと報酬は弾んでよ!」
「大丈夫です。こちら、今日までの中間報酬です」
そう言って稲穂が渡したのは数枚の写真。その写真の多くはレンズに視線が向いていない、所謂盗撮と呼ばれる類の写真だった。
そして、その写真に写っているのは今IS学園で話題沸騰の男子操縦者たち(稲穂を除く)だった。
「ありがとう! でも、私は稲穂くんの写真が欲しいなぁって思ったり?」
「……分かりました。ちゃんと完成したら撮ります」
「えっ、本当に? よーし! みんな、絶対に1週間以内に終わらせるよー!!」
元気いっぱいに宣言する先輩に稲穂は少し早まったかな? と首を傾げた。
☆☆☆☆☆
side秋一
放課後、俺とシンは寮の部屋で互いにISについて勉強をしていた。
昼休み、俺とシンは姉さんのところに放課後訓練機を借りれるかを聞いたのだが、この時期は2年生と3年生が頻繁に借りる為訓練機の数が足りず貸し出しができないらしい。
1週間、訓練機が使えいならせめて知識だけでも得よう。そう話し合って俺とシンはISについての勉強をする事にしたのだ。
ちなみに、一夏は箒と剣道場の方に行った。
「それにしても、本当に稲穂のやつ凄いな」
「確かになぁ」
勉強を始めて30分。俺とシンは稲穂の作った数十冊のノートを見ながら言った。
恐らく、このノートたちが無ければ俺たちは今もISについてあの電話帳サイズの参考書に頭を悩ませている事になるだろう。
「そう言えば、シンは自分の専用機について教えてもらってるんだよな?」
「ああ。と言っても、どんな機体かはまだ教えてもらってないんだけどな」
「名前も?」
「いや、名前は分かってるんだ。……もし、この名前通りなら頭を抱えるけどな」
「え……っ?」
シンが空笑いする。ちょっと、そんな事を言われると凄い気になるじゃん。
「名前、教えてくれよー」
「……分かったけど、大声出すなよ。絶対だからな」
「分かったから、早く教えてくれ!」
「……俺のISの名前は────」
────『インパルス』って言うらしい。
そのシンの言葉に俺は驚きのあまり、大声を出してしまい「煩い!」とシンに蹴られた。
☆☆☆☆☆
side稲穂
時は流れて、クラス代表決定バトルロワイヤルの前日の日曜日。稲穂は朝から整備室に居た。
「……1番コンテナと2番コンテナ持ってきて!」
「あー! 3番ケーブルショートしたー! 稲穂くん助けて!!」
「ごめん稲穂くん! こっちにもヘルプ!!」
正しくは、整備室という名の修羅場の中にいた。
そこでは、既にある程度完成した1機のISと沢山の人が慌ただしく動いていた。……その中で、1番動いているのはあっちこっちから声がかけられている稲穂だろう。
「先輩、ここのケーブルを変えれば多分ショートを防げる様になるはずです。この番号のケーブルに変えてください」
淡々と疲れを感じさせない声で稲穂は変更箇所と指示を出していく。
そんな中、整備室の扉が開いた。
だが、誰一人そちらを見ない。目の前の作業に集中しているのだ。
その光景を見て扉の前で固まる2人の女子生徒。
「中に入って待っててください」
慌ただしく動く整備室の中からそれを見た稲穂が中に入るよう促す。女子生徒たちはその声に従い中に入る。
「出力テストクリアしたよー!」
「稼働テストも終わったよー!」
「テストが終わったところから解散してください。報酬は21時に送ります。ありがとうございました」
作業が終わった上級生が次々と整備室から出ていく。だが、その誰もがやり切ったような顔をしていた事に先程入ってきた2人の女子生徒は驚いた。
今のご時世、男を下に女は珍しくない。それは、IS学園の中でもだ。
現に、1年生はともかく2、3年生の中では高いプライドとそう言った思考を持っている人がそこそこいる。
なのに、さっきの人たちは嫌な顔一つせずに出て行った。この、男子が仕切っている場所から。
「接続テストも終わり! 稲穂くん、OS担当の子を呼んで!」
「分かりました。……という訳で、お願いして良い? 更織さん」
いつのまにか女子生徒たちの近くに来ていた稲穂がそう言って、更織さんと呼んだ水色の眼鏡をかけた少女に視線を向ける。
少女は、それに少しだけ目を伏せるがすぐに「分かった」と言い呼んでいた先輩のところへと行く。
その様子を見た稲穂は手に持ったタブレットの画面をタッチしていく。
すると────。
「おつかれ〜、なおなお」
ピタッと稲穂の頬にお茶の入ったペットボトルが当てられた。
「ありがとう、布仏本音のほとけほんね」
「フルネームじゃなくても良いって言ったのに〜」
「癖なんだ」
稲穂にペットボトルを渡した少女の名は布仏本音。稲穂のクラスメイト兼ルームメイトだ。
稲穂は入学式までシンと同室であったが、入学式の日から部屋が移動し、布仏本音と同室になった。
「おお〜、アレがなおなおが作ったIS?」
「うん。型式番号GS-01『インパルス』。一応、第3世代のISだよ」
本音と稲穂の視線の先、そちらには先程ようやくOSが完成し試運転が行われていた。
武装の展開と近くにある沢山の装備との接続などなどを繰り返し、そして歩行と低空飛行(室内だから速度を出さないように)が終わり、今日やる試験を全て終える。
前日の試運転、それを踏まえての組み立て作業と最終テストの終了。
これにて、第3世代『インパルス』は完成する。
もっとも、『一次移行ファーストシフト』を終えない限り本当の完成とは言えないが。
「更織さん、先輩方、協力ありがとうございました。報酬は後ほど送ります。更織さんの方は随時条件通りのデータを送ります」
その後、食堂の使用時間が迫ってきたため整備室は稲穂を除いて誰もいなくなった。
稲穂はタブレットの操作を終えると、ゆっくりと『インパルス』に近づいた。そして手を装甲に置く。
「……自由な空が、君にも見えますように」
☆☆☆☆☆
翌日、全ての授業が終わった放課後。
1年1組のクラス代表を決めるバトルロワイヤルが始まろうとしていた。