IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮) 作:巫女好きの満月
side秋一
バトルロワイヤル当日の放課後。俺たちはそれぞれ指定されたピットで待機していた。
待機しているピットにいるのは稲穂と箒。そのどちらもISスーツを着ている。
「それにしても、意外だったな」
「何がだ?」
「お前が、バトルロワイヤルに参加するのが」
俺の言葉に箒は目を閉じた。集中しているときに悪いかなっと思ったがどうしても聞いておきたかった。
原作の箒と何が違うのかを。
「その質問を私は先週、一夏にもされた。お前も質問するということはそれだけお前たちにとって意外だったのだな」
「それは、そうだろ? だって、箒たちがバラバラになったのは────」
「────ISのせいだな。そのせいで私は一夏やお前と離れ離れとなったしまった。あの時の事を私は今でも苦い記憶として残ってる」
「なら」
「だが、2年ほど前に私たちの目の前に姉さんが来た。そこにいる稲穂を連れてな」
えっと驚いて俺は稲穂を見た。稲穂はそんな俺に目を向ける事なくただひたすらタブレットをイヤホンを耳につけて見ている。
「私はその時、姉さんに八つ当たりに近しい事をしたんだ。今となっては子どもっぽくて、恥ずかしい思い出だがな。だがその時あの人はただ何も言わずに、私の八つ当たりを受け止めた。そして、そのあと泣きながら謝られたよ。『私のせいでごめんね』とな」
「………………」
「まぁ、そこからは色々と……本っ当に! 色々とあって今ではそこそこ和解している」
……そうか、ある意味でそこが箒のターニングポイントだったんだな。束さんが箒に謝りに現れる。原作ではなかった展開。そして、それ故に箒は良い意味で変わった……ってことか。
本当に、原作通りのように見えて、原作とは違うんだなって再認識させられた。
もっとも、俺はこの世界を現実だと思ってるから別に何も思わない。本当だよ?
『Bピットの3人は準備をしてください』
アナウンスが聞こえた。箒はかつて見た剣道の試合と同じ目になり、稲穂はタブレットとイヤホンを仕舞う。
俺も、これから行われる実践の緊張をほぐすために肩に力を入れ、抜く。
ゴゴンッと鈍い音ともにピット搬入口が開いた。斜めに噛み合うタイプの防壁扉はまるで前世で見たアニメのようで少しだけ興奮するが、それをすぐに抑える。
一際大きな駆動音が聞こえ、完全に開く。そして、そこには3機のISが鎮座していた。
1つ目は鈍色のIS。大きな盾のような物があるそのISの名は『打鉄』。俺が初めて触ったISで、今回箒が使用するIS。
2つ目はオレンジ色のIS。特徴としては足のほうに大きな翼のような物があり、そして────他に比べて装甲が多い。名前の知らないIS。搭乗者は多分、そこに迷わずに行った稲穂だ。
3つ目は黒のIS。盾のような装甲があるから、おそらく打鉄の系列か? それにしては、何か決定的に違う気が……。
「織斑秋一、急いで」
「……っ! 悪い!」
稲穂の声で慌ててそのIS、人が入るように開放されている場所に体を預けるようにする。
装甲が閉じる。そして、その瞬間俺の頭の中に沢山の情報が入ってくる。視界に入っているISの情報、箒が使う『打鉄』、稲穂が使う『スレイプニル』。
そして、俺のIS『
「センサーなどに異常は無さそうだな」
「ああ、異常とかは無さそうだ」
箒の言葉に答えながらゆっくりした動作で歩く。
箒と稲穂を抜いて、ピットゲートに進みそして────。
「織斑秋一、黒鉄行きます!」
勢いよく、開放されたゲートから飛び出した。
「あら、逃げずに来ましたのね」
俺、一夏、シン、稲穂、箒、瑠璃が指定されたポイントへ移動する。
視界の端には3つの蛍光ランプのついたポールがある。
「逃げるわけがないだろ」
「あら、そうですか。なら、最後のチャンスをあげますわ」
シンの言葉にオルコットさんがそう返す。最後のチャンス?
「チャンスって?」
「わたくしが勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロで惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
ポールのランプが一つつく。赤色のランプだ。
「そういうのはチャンスじゃないだろ」
「ああ」
ポールのランプが二つつく。今度は黄色のランプ。
「謝るのは断る!」
「…………」
ポールのランプが三つつく。今度は……青色のランプ。
「そう、残念ですわ。それなら────」
ビーッと電子音が鳴った。
それと同時に視界に表示される、警告の文字。
「お別れですわね!」
「ファイア」
2つの音が響いた。1つはオルコットさんの銃から、そしてもう一つは稲穂の銃から。
「……っ!」
「うおっ!?」
狙われたのは俺と一夏。俺を狙ったのはオルコットさん、一夏を狙ったのは稲穂だ。
だが、そのどちらも目的には当たらなかった。俺は体勢を崩したからオルコットさんの銃から放たれたレーザーを運良く躱せて、一夏の方は……元々当てる気がなかったのだろう、一夏の近くを通るだけだった。
稲穂はそのまま加速して一夏の前を通り過ぎて行く。一夏はそれに少しだけ驚いたものの稲穂を追う。
俺はそれを確認するとシンに目配せする。シンはそれに頷くと互いに加速、オルコットさんとの距離を詰めようとする。
ISバトルは相手のシールドエネルギーを0にすれば勝ちだ。つまり、今回のバトルロワイヤルだと最後までシールドエネルギーが残っていた人の勝ち……っということになる。
俺とシンはそれらを踏まえた上で、事前に手を組むことにしさらにもう1人と限定的ながら手を組んだ。
その相手は、稲穂。
開幕最初に一夏を稲穂に狙ってもらい、一夏をオルコットさんから引き剥がしてもらう事を前もって稲穂に頼んだ。
そして、それは成功した。しかも、稲穂はさりげなく瑠璃の方にも行き、箒も一夏の方に行ったため、上に残ったのはオルコットさんと俺、シンの3人。
「行くぜ、セシリア・オルコット!!」
「やるぞ、シン!」
「2対1ですか……。ですが、この程度想定の範囲内! 踊りなさい、わたくしとブルー・ティアーズの奏でる
刹那、俺たちをレーザーの雨が襲った。
☆☆☆☆☆
アリーナに来ていた生徒たちは自然とこのバトルロワイヤルから目が離せなくなっていた。
アリーナには1年1組の生徒だけでなく、このことを噂で聞いてきた上級生や他クラスの生徒もいた。
そして、その多くはこのバトルロワイヤルは代表候補生のセシリア・オルコットが勝つと思っていた。
その理由としてたくさんのものが挙げられるが、1番はやはり代表候補生であるということだろう。
代表候補生とは、セシリアも言っていた通り、何千、多ければ何万人の中から選ばれたエリートだ。そこに入るためには才能もあるだろうが、そこに至るまでの努力がある。
その事をこの場にいるものはよく知っている。自分たちが目指す者について下調べをしない者はこの学園にはいない。だからこそ、彼女たちはセシリア・オルコットの勝利は当然のことだと思っていた。
「……巧い」
アリーナの何処かからそんな言葉が聞こえてきた。
それを言った生徒の視界にはセシリアではなく────稲穂を捉えていた。
彼女は試合開始直後の稲穂の動きを見てそう言ったのだ。一夏に当たらず、かつ自分に注目させる射撃。その後の一夏の誘導。
2・3年生は気づいていたそれに、彼女は1年生ながら気づいたのだ。今の試合状況を作ったのはセシリアではなく、稲穂だということに。
だが、その一方で他の人たちは別の人たちに注目していた。
『でりゃああ!!』
黒崎シンと織斑秋一、そしてそれに対応しているセシリアだ。
今現在、アリーナの下では織斑一夏VS篠ノ之箒の1対1、貝塚稲穂VS篠ノ之瑠璃の1対1が、上の方では織斑秋一・黒崎シンペアVSセシリア・オルコットの2対1が行われている。
『シン!』
シンが手に持った剣を振り上げつつセシリアに接近。シンから距離を取ろうとするセシリアに牽制射撃をする秋一。
未だに拙い操縦ではあるものの初めてとは思えないほどしっかりとした連携で代表候補生と互角の戦いを演じている2人に自然とアリーナの人の視線は集まっていった。
(織斑一夏、
その表面下で何かを企んでいる稲穂に気づかずに。
『27分。よく持ちましたわね』
『それはな……っ』
『そりゃどうも……』
試合開始から27分。アリーナの巨大スクリーンに表示されているシールドエネルギーは箒と一夏、セシリアが250、シンと秋一、瑠璃が200、稲穂が150となっていた。
一見、派手に状況が動いている上の3人よりも何故稲穂のシールドエネルギーの方が少ないのか、上級生は少し疑問に思ったが1年生はそれに何も思わず次々と状況が変わって行く上の戦いに注目していた。
『
静かな声とともにセシリアの機体から4つの何かが放たれる。アレこそ、セシリアのISが持つ自立機動兵装『ブルー・ティアーズ』。
これとセシリアの狙撃によってシンと秋一は接近することができずにシールドエネルギーを削られていったのだ。
『くそっ!』
シンが近くに来たブルー・ティアーズ────以下ビットと称する。────の攻撃を躱す。
秋一もそれを躱しながらジッとビットとセシリアの動きを観察する。そして、確信を持った。
『……そこだ!』
秋一が手に持ったライフルを自分の右斜め後ろに向かって撃った。すると、そこにいたビットに当たる。だが、破壊するには至らなかった。
けど、それで良いと秋一は笑う。
何故なら、秋一の目的はビットの破壊ではなく、ビットに攻撃を当てること。
『な────っ!?』
ビットに攻撃が当たったことにセシリアが動揺する。そして、それこそが秋一の狙いでもあった。
『行け、シン!!』
『うおおおおっ!!』
セシリアが動揺したことにより、鈍くなったビットを抜けてシンがセシリアに近づく、そしてその手に持った剣を振り下ろそうとした時────シンはヒヤリとした何かを感じた。
そして、剣を振り下ろされそうになっているセシリアは────にやりと笑った。
『────っ!!』
『かかりましたわね』
シンは慌てて下がろうとするも、攻撃するために最大の加速をしている。後ろに下がろうにもこのタイミングでは間に合わない。
『敗北』その2文字がシンの脳裏に浮かんだ。
セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー、その突起が外れて動く。そこから顔を出しているのは────。
『おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!』
────『
シンを爆音と爆煙が包んだ。誰もがシンの敗北を考えた。そう────。
(……時間だ)
下で動き回っているオレンジ色のIS『スレイプニル』の搭乗者である稲穂以外は。
漂っていた爆煙が弾けるように吹き飛ばされる。そして、その中心には先ほどまでの灰色だった装甲は今、その色を
そう、今この時黒崎シンの専用機『インパルス』は
そして、それはシンだけではない。
一夏の白のIS『
アリーナのあちこちで驚愕の声が上がる。
『な────っ!
特に、実際に戦っていたセシリアの驚きはアリーナの観客席にいる生徒たちよりも大きいだろう。
『インパルス……。秋一、行くぞ……っ!!』
『ああ!!』
先ほどまでとは比べ物にならないほどの加速でシンが進む。それを見たセシリアは落ち着きを取り戻して、ビットを使ってその接近を止めようとする。
だが、それは防がれる。
『な────っ!?』
『凄い、よく見える!!』
シンを狙おうとしていたビットが撃ち落とされる。
それをやったのは秋一。その秋一のISも先ほどまでとは変わっていた。黒だけだった装甲は黒と緑の2色に変わっていた。
だが、セシリアもただやられているだけでは無い。すぐに秋一に狙いをつけるとその引き金を引いた。
レーザーが放たれる。だが、秋一はそれを避けずに銃を構える。
そして、レーザーは着弾した。秋一の前に移動してきた肩の装甲がそれを防いだのだ。
『シールド!? しかし、それなら────』
『させるかぁ!!』
秋一の方へ向かおうとするビット2つが両断された。先ほどまでとは比べ物にならない速さで移動したシンによって。
『インパルス、もっとだ! もっと速く動けるやつを!!』
セシリアが残ったビットでシンを狙う。シンはそれらを躱しながらインパルスに祈るように言う。
シンには分かる。さっきの加速は今のインパルスが出せる最大加速。だけど、それでは足りない。
ビットを振り切れない今の速さでは相討ちにされるかもしれない。だから、もっと速く動けるものが欲しい。
そのシンの願いに、インパルスは応えた。
────ビットがシンの目の前に現れる。
インパルスの手から武器が消える。
────ビットの先端からレーザーが放たれようとしている。
インパルスの背部と、両腕と両足に何かが装着される。
アリーナの観客席にいた生徒はそれを見た。
「戦闘中の……パッケージ換装」
誰かがそう呟いた。
そう、イメージインターフェースを使った戦闘中でのパッケージ換装システムを搭載した第3世代機、それこそが『インパルス』。
稲穂が数人の上級生と他クラスの人を誘い、1週間という短い間で製作したIS。
紫色を基調としたそれに換装したインパルスが、その翼を広げた。
刹那、シンの目の前にあったビットが両断された。
『速い!』
セシリアが驚く。これまでセシリアは沢山の相手と戦い、過去のIS同士の戦闘データも見てきた。だが、インパルスの速さはそのどれよりも速い。
『シン……ばっかり見てるなよ!』
秋一がライフルを撃つ。それは、シンに意識を向けていたセシリアの腰部装甲を吹き飛ばした。
『……このっ!』
セシリアが秋一に狙いを定めようとした瞬間、セシリアの視界に警告の文字が映る。
ロックされているという警告が。
そして、それはセシリアだけではない。稲穂を除く全員にその警告は出ていた。
『座標固定、安全距離カット』
いつもと変わらない抑揚のない声が聞こえて来る。
『ファイア』
ドンドンドンドンっと4発のグレネードが打ち出された。
それを見た全員はそれぞれの対処をする。
遠距離装備を持つセシリアと秋一はそのグレネードを狙い撃ち、射撃武装を持っていない組はグレネードから距離を取ろうとする。
レーザーが、銃弾がグレネードに当たる。刹那、アリーナを黒色の煙が覆った。
『スモークグレネード!?』
瑠璃の声が響く。
セシリアも内心で驚いているが、逆にこれはチャンスだと考える。一夏と秋一、シンはISに乗って日が浅い。ならば、この状況に対応できないと考えたのだ。
ハイパーセンサーを使って霧を動くものを感知、セシリアはその反応を基に狙いを定め、そして撃った。
『ぐ────っ!!』
秋一のくぐもった声が響く。そして、それと同時にブーという音ともに観客席に表示される文字とアナウンス。
『織斑秋一、シールドエネルギー0、失格』
シールドエネルギーが尽きた秋一はルール処理により敗北し、前もって言われた通り、ピットに戻って行く。
(後は頼んだぜ、シン!)
だが、その眼はまだ相棒の勝ちを信じていた。
秋一を落としたセシリアは次の狙いを定めようとハイパーセンサーに意識を集中させようとして、すぐに回避行動を取った。
『ち────っ!!』
『────っ!?』
回避行動を取ったのは戦闘経験から来る直感ともいえるものだった。しかし、それのおかげでセシリアは攻撃を躱すことが出来た。
シンの振るった剣は何もない空間を切り裂くだけに終わる。セシリアはその攻撃し終わった後の大きな隙を見逃さない。
『これで、終わりですわ!!』
手に持った銃から放たれるレーザー。如何に高い機動力を持ったISであろうと、これならば躱せまい。事実、体制の整っていない今のシンはこれに自分の敗北を幻視した。
だが、その瞬間シンは思い出す。最後にプライベートチャンネルで告げてきた相棒の言葉を。
────勝てよ、シン。
『まだだぁ!!』
翼が広がる。放たれたレーザーはシンではなく何もない虚空を通り過ぎた。
『そんな────っ!?』
『これで────』
セシリアが驚きからその場に止まってしまう。そして、それをシンは見逃さなかった。
『────終わりだぁぁぁ!!』
後ろの翼、その近くに収納されていた2本の剣を手に持つ。すると、その剣の切っ先から根元にかけて赤いレーザーの線が現れた。
シンが、加速をつけてそれをセシリアに振るう。セシリアはそれに反応して機体をずらそうとするが、先ほどの剣よりも長いリーチを持つこの剣の前では躱すことは叶わなかった。
レーザーの刃がセシリアの装甲を切り裂いた。
『セシリア・オルコット、シールドエネルギー0、失格』
シンはそのアナウンスを聴くと、すぐに下に加速した。
セシリアはそんなシンの背中を少しの間、見ていたが戻ることを催促する通信がきたためピットに戻っていった。
残りは一夏、シン、箒、瑠璃、稲穂の5人。
誰もが激闘を予感した。
セシリアが倒れた頃、箒と一夏は近接戦を下で繰り広げていた。
最初こそ、剣の腕で勝っていた箒が優勢だったが一夏が
その理由は────。
(くっ、一撃必殺の剣がここまで厄介なものだとは……っ!)
そう、一夏の剣。打鉄から箒に送られてきた情報が一夏の持つ剣が危険だと告げていた。
先ほどのアナウンスに一瞬気を向けた瞬間、それに気づかず、打鉄の装甲を僅かに攻撃が掠めた。
そう、掠めただけ。それなのに箒のISのシールドエネルギーは大きく削られたのだ。
掠めただけでかなりの量が削られる。それがもし直撃すればなど、想像するのは簡単だ。
しかも、もう箒の打鉄は危険域、もはや掠めるだけでも敗北するのだ。
だが、それでも箒は逃げない。それどころか逆に立ち向かう。
(この程度────どうということはない!!)
箒の剣の速度が上がる。一夏もそれに気づいたが、この距離を保たねばならないことを知っているため、後退はしない。
『一夏ぁぁぁ!!』
箒の剣がさらに速度を上げる。その度に打鉄が耐えられず所々から変な音が聞こえるが箒はそれを無視する。
一撃でも良い! この一撃だけでも決める! その思いだけが箒を、打鉄を動かす。
『箒ぃぃぃぃ!!』
その箒の覚悟を感じたのか一夏も箒に突っ込んでいく。その手に持つ唯一の武装『
交差は一瞬、タイミングが良いのかその瞬間、下まで覆っていたスモークが消え去り観客席もそれが見えた。
箒の剣はほんの僅か、白式の横を通っていた。
対する一夏の雪片二型は打鉄の腰に付いている装甲を切り裂いていた。
『篠ノ之箒、シールドエネルギー0、失格』
アナウンスが聞こえた。箒は自分の敗北をその耳に聞き、目で見て空を仰ぐ。
(これが、私の今の立ち位置か……)
『箒……』
『行け、一夏。私は負けたが、お前の戦いはまだ終わっていないぞ』
『……ああ!!』
白式が加速して、上から来るシンに向かって行く。その様子を目に焼き付けてから箒はピットへと戻っていった。
アリーナの観客席は興奮の嵐だった。
男子操縦者同士の連携による代表候補生の敗北。
織斑一夏と篠ノ之箒による戦い。
誰が勝つのか、次は誰が戦うのか。そんな話があちこちから聞こえてくる中、1人の女生徒は1つのISだけを見ていた。
オレンジ色の、今時珍しい全身装甲のIS。貝塚稲穂が使うIS『スレイプニル』。
事前に渡された資料によると貝塚稲穂がたった一人でコア以外を製作した第二世代のIS。
そう、第2世代。他の男性操縦者が第3世代のなか、1人だけ第2世代のISを駆るその操縦者を女生徒は試合が開始してから注目していたのだ。
「かんちゃんは〜、なおなおに注目中〜?」
その女生徒の名前は『
「……うん。だって、あのISだけまだ
このアリーナの中で、唯一スレイプニルだけを注視していた簪だけがそれに気づけた。
そう、スレイプニル────稲穂は試合開始から攻撃はしても誰のシールドエネルギーも削っていないのだ。
ただ、途中途中で牽制をすることはあってもそれら全ては当たりにくいものばかりだ。
それに気づいた時、簪の意識にスレイプニル以外は入らなかった。
一方、その簪に注目されてる稲穂は自分の視界にあるシールドエネルギーの数字を見ていた。
シールドエネルギー残り85。予想以上に削られたと稲穂はスレイプニルを動かしながら思った。
稲穂のシールドエネルギーがここまで減っている要因は、2つある。
1つはシンと秋一がセシリアと戦っていた間、一夏と箒、瑠璃のシールドエネルギーを0にしないために一夏たちが致命傷になりそうな攻撃を全て身代わりしていたこと。
2つ目はスレイプニルが今使ってる装備のせいだ。今、稲穂が使っているスレイプニルの装備は試験的なもので、その短所として────シールドエネルギーが自動的に減少するというものがある。
時間経過で減っていくシールドエネルギー。それで最後まで残っているのは稲穂の腕か、運かは定かではない。
だが、これ以上試合が長引けばシールドエネルギーが0になるのは目に見えている。
なら、稲穂がすることは1つだ。
稲穂のスレイプニルをずっとロックオンしていた瑠璃はそんな稲穂のシールドエネルギーを0にしようと手に持った銃で狙いを付ける。そして、引き金を引いた。
刹那、スレイプニルの姿が瑠璃の視界から消えた。
『えっ!?』
止まって稲穂のいる場所を探す瑠璃。だが、そこで止まったのが瑠璃の敗北を確定的なものにしてしまった。
瑠璃だけでなはなく、一夏とシンの視界に入ってくる警告の文字、それと同時に瑠璃たちは知覚した。
自分たちを襲うミサイルの団体を。
『ちょ────っ!?』
『はぁ!?』
『マジかよ……っ!?』
止まっていた瑠璃の打鉄はなす術なくミサイルに呑み込まれ、射撃武装のない一夏はそれらを躱そうとするも躱し切れず被弾。
シンもインパルスの機動力を活かして離脱しようとしたが────突如鳴る警告音。目の前に出されたパネルには『パッケージのエネルギー残量0』の文字が現れ、インパルスの背中から翼のようなバックパックと紫色の装甲が消える。
素のインパルスの機動力ではこれらを躱しきれない。シンも、一夏や瑠璃と同じくミサイルに呑み込まれた。
『試合終了、勝者、貝塚稲穂』
アナウンスが流れる。会場はそれでようやく試合が終わったことを理解した。パチパチパチと誰かが拍手する。そして、その拍手は次第に広がっていき、あっという間に観客席全体からの拍手になる。
クラス代表を決めるバトルロワイヤルは貝塚稲穂の勝利で終わった。
side秋一
「では、1年1組代表は織斑一夏くんに決まりですね。あっ、1繋がりで良い感じですね!」
バトルロワイヤルの翌日、その朝の
「先生、質問です」
一夏が挙手する。まぁ、質問はあるよな。俺もお前の立場だったら質問する。
「はい、織斑……一夏くん」
「昨日の試合、勝ったのは稲穂のはずです。なんで俺がクラス代表になってるんですか?」
「それは────」
「辞退したからだよ。織斑一夏」
山田先生の言葉を遮って稲穂が言う。うわ、なんか稲穂の机凄い紙の山があるぞ。てか、チラッと見えたけどなんか専門用語の書かれた書類の山だ、これ。
「僕は色々とやることが多い。クラス代表をやっている時間がない。それに織斑先生と山田先生にも許可は取ってある」
「え────でも」
「それに僕が辞退した後山田先生たちが確認した結果、僕の次に残っていたのは織斑一夏、君だった。だから、君がクラス代表になった」
一夏たちの方を見ることなく、次々と書類を片付けていく稲穂。ヤバイ、なんか稲穂が事務仕事をしている会社員に見えてきた。スーツを着てたらもう完全にそうとしか見えないな。
「それに、これは他の人たちも納得している」
そう、実は昨日の夜、一夏を除くバトルロワイヤル参加者を集めて稲穂はこのことを提案した。
それに俺たちだけでなく、オルコットさんも賛同していた。
あの決闘騒ぎの時、あんなに反対していたオルコットさんにどんな心境の変化があったのかは分からない。けれど、オルコットさんのシンを見る目に熱があるから、多分そういうことなのだのだろう。
「覚悟を決めろ、織斑兄」
俺が昨日のことを思い出していたら、いつの間にか姉さんが一夏の前に立っていた。うお、なんか頭の中でラスボスが現れそうなBGMが流れてきたぞ!
「貝塚はこちらの事情でクラス代表になることはできない。そして、その貝塚の次に残っていたお前に白羽の矢が立ち、それに参加者全員が納得し、さらには全員が辞退を申し出た。もう、お前に逃げ道はない。
それとも────クラス代表をやり切る自信が無いのか?」
「────っ!」
姉さんの厳しい言葉が一夏に刺さる。だけど、俺には分かる。アレは発破だ。姉さんなりに一夏のやる気を出そうとしてるんだ。
「分かった、分かったよ千冬姉。やってやるよ、クラス代表!」
「そうか、なら良い。だが────」
スパァンッといっその事こと清々しい音が一夏の頭から聞こえた。
「────今は授業中だ。織斑先生と呼べ」
「……はい」
一夏、お前も学習しないな。