IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮) 作:巫女好きの満月
side秋一
4月の下旬、桜の花びらが見えなくなった頃俺たちは今日もこのIS学園で授業を受けていた。
「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。今日は……黒崎、オルコット、織斑兄。試しに飛んでみろ」
俺たち1年1組は1年生のクラスの中で1番専用機持ちが多いクラスだ。しかもその内3人は素人より少しマシの技術しか持っていない。
そのため全員が一斉に実演するのはまだ危険ということで5月までは最大で3人ずつ実演することになった。
今日は俺と稲穂が外されたようだ。
「……それにしても、姉さんはどうやって選んでるんだ?」
ふと、疑問に思ったことを口にする。今日までに2回ほどこう言った授業があったが、その時は必ず稲穂が呼ばれていたのに今日は稲穂は呼ばれなかった。
もしかして、ルーレットで決めてるのか? などと少し姉さんに失礼なことを考えているとふと、ギロっと姉さんに睨まれた。げっ、考えていることがバレたか?
「織斑先生はテキトウに決めいる訳じゃないよ」
「そうは、言っても。前回も今回も規則性とか見えないぜ?」
「前回まではそうだね。でも、今回はすぐに分かるよ」
相変わらずの無表情で何を考えているか分からない稲穂。俺はそんな稲穂にどういう意味か尋ねたかったが、論より証拠とでも言いたげに稲穂は一夏たちの方へ顔を逸らした。
「早くしろ、熟練したIS操縦者は
そちらわを見ると姉さんに急かされているシンと一夏の姿と、既にブルー・ティアーズを纏ったオルコットさんがいた。
……そう言えば、一夏とシンは
「集中しろ」
さらに急かされる一夏とシン。次は叩く、そう姉さんの眼が語っている。
それに一夏とシンも気づいたのだろう。慌てて、自分たちの専用機である白式とインパルスを展開する。
「よし、飛べ」
姉さんの言葉とともに急上昇する一夏たち。だが、その順番はオルコットさんが1番上で一夏とシンは同じくらいの場所にいる。
アレ? バトルロワイヤルの時のことを思い出す。やはり、その時に比べると白式とインパルスの速度が遅い気がした。
「なぁ稲穂。白式とインパルスってあんな速度だっけ?」
「いや、白式はブルー・ティアーズよりも機動力が高い。それにインパルスもパッケージがないとは言えそれでもブルー・ティアーズと同じくらいの機動性がある。これは単純に操縦者である織斑一夏と黒崎シンがその性能を引き出せていないだけだ」
「へー」
稲穂の解説を聞きながら俺は上空を見る。そうすると確かに稲穂の言っていたことがわかる。オルコットさんが、スッと真っ直ぐに上昇しているのに比べ一夏たちはフラフラともたついている。
「バトルロワイヤルの時は出来ていたのになぁ」
「おそらく、中途半端に知識を得たからだろうね。バトルロワイヤルの時は完全に自分の感覚でやっていたけれど、授業で『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』とか習って────」
「長い! 簡潔に言ってくれ!」
「教えられたイメージと感覚が噛み合っていない。一夏とシンは頭で考えるよりも身体で覚えたほうが早い」
……稲穂先生。簡潔にするのが面倒だと思ってめっちゃ端折ったな。
まぁ、言いたいことは何となく分かるよ? ようは習うより慣れろタイプの2人が頑張って机にかじりついても意味がないってことだろ? ようは。
「それにしても、オルコットさん楽しそうだな」
「最近のセシリア・オルコットは学年内での評判も良くなっている。入学当初は少しマイナスのイメージが強かったが、今は柔らかくなって話しやすいなどプラスの評価が増えてきた。憑物が取れたような感じだ」
「……何、それ」
「……? セシリア・オルコットのここ最近の評判」
「えっ、いや、何で稲穂がそれを知ってるの? てか、どこ情報?」
「無駄話はそろそろ止めよう。織斑先生に睨まれた」
慌てて稲穂との会話を切っていつの間にか停止していた3人の姿を見る。
ここからだともう色でしか判別できないぞ。
「織斑兄、オルコット、黒崎、急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から10センチだ」
次の指示が通信機を通して上にいる3人に伝えられる。あれ、なんか俺、何か忘れてるような気がする。
何を忘れてるんだ?
忘れた何かを思い出そうとウンウンと頭を捻っているとオルコットさんが難なく完全停止をやってのけた。上手いなぁ。
「さすがは代表候補生だなぁ」
「そうだね。見事な完全停止だ」
さて、次は一夏とシンのどちらかな? そう思って上を見ると、ちょうど一夏が急降下をしてきているところだった。
「おおー! 速い! なぁ稲穂、一夏のやつキチンと白式を使えてるんじゃ────」
「織斑秋一、そこは危険だ。下がった方がいい」
「へ?」
稲穂がスレイプニルを展開してクラスメイトたちの前に出る。いつの間にか、そのスレイプニルには全体を覆い隠せるほどの巨大な盾が展開されていた。
……え? あっ、思い出した! 確かこのイベントは一夏墜落イベントだ!!
俺も慌てて今いる場所から離れる。そして────スドォォォォンッ! と大きな音ともに砂煙が周囲を襲った。
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「……すみません」
そんな一夏と姉さんの会話が聞こえる。良かった、一夏は無事なのか。それにしても、稲穂。よく一夏が墜落するって分かったな。
稲穂の方を見る。どうやら盾で土煙と衝撃からクラスメイトを守ったからお礼を言われてるみたいだ。
そういえば、オルコットさんの評判が変わったで思い出したけど稲穂も稲穂でクラスの評判が変わってたな。
あのオルコットさんとの口論(姉さん曰く口喧嘩)からしばらくの間は怖いやら生意気とか言われていたけど今はクラスにそこそこ溶け込んでるみたいだ。
もっともそれは稲穂曰く、ルームメイトのお陰らしいけど。
「……はぁ。次、黒崎! お前までこの馬鹿と同じことはするなよ!」
『りょっ、了解!』
シンが一夏に続いて降りてくる。その速度は先程の一夏よりは遅い。
そして、地面スレスレで停止した。
「黒崎、地表10センチでやれと言ったはずだ。もう少し、基本動作をしっかりと練習しろ」
「了解です……」
姉さんの言葉に少し落ち込むシン。
そんなシンを励まそうと近づいていくオルコットさん。やっぱり、オルコットさんシンのことが────。
そして、一夏は箒に手を借りて立ち上がっていた。あっちもこっちもラブコメしてるなぁ。
「次だ。織斑兄、武装を展開しろ。それぐらいはできるだろう」
「は、はい!」
一夏が目を閉じる。すると、光が形を作り一夏の手に雪片二型が握られていた。
おお! この前よりも早くなってる。
「速度は中々良いが、目を閉じるな。目を開けた状態でも出せるようになれ」
「はい!」
おお、あの姉さんが褒めた!? 一夏もそれに気づいているのだろうがそのすぐ後にダメ出しが来て喜ぶに喜べないって感じだなアレ。
「次、黒崎。そうだな、ライフルとシールドの同時展開だ」
「りょっ、了解!」
シンのインパルス。そう言えば、こうしてじっくり見たことはなかったな。
シンのインパルスは
装甲の色はなんのシルエットもない時のインパルスと同じ色。だが、その装甲のあっちこっちは外部から色んなものを取り付けられるように凹凸がある。
稲穂曰く、パッケージ乾燥した時、インパルスの色が変わるのはこの凹凸部分と接続するように新しい装甲が上から取り付けられるかららしい。
「ふむ、そっちは十分か。その感覚を忘れるなよ」
「はい!」
「次、オルコット。武装を展開しろ」
「はい」
最後はオルコットさんか。
姉さんに呼ばれたオルコットさんは左手を肩の高さまで上げ、真横に腕を突き出す。刹那、光とともに狙撃銃が展開された。
凄いな。本当に1秒も経たずに展開した。
「さすがだな代表候補生。だが────そのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて横にいる黒崎を撃つ気か? 正面に展開するようにしろ」
「で、ですがこれは私のイメージを────」
「直せ、いいな」
「はい……。シンさん、申し訳ありません」
姉さんに言われて少し落ち込むオルコットさん。まぁ、実際にシンに下手したら撃ってた訳だし、落ち込むのも無理はないか。
「では今度は近接用の武装を展開しろ」
「……っ! はい!」
あれ? 今、オルコットさん顔をしかめた?
それに疑問を感じるがその疑問はすぐに解消された。
「く……っ!」
「まだか?」
「────っ。《インターセプター》!」
どうやら、オルコットさんは近接専用の武装を展開するのが苦手らしい。しかも、初心者用の手段を取らざるを得ないほどに。
「何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」
「……っ、いいえ」
「……成る程、本人に自覚ありか。なら、後は反復練習だ。精進しろ」
「はい……」
悔しそうにするオルコットさんだが、言い返さなかったのは多分バトルロワイヤルの時を思い出したからか。
それにしても、凄い変わりようだな。原作だとたしかもう少し何かあったと思うんだけど……。
キーンカーンカーンコーン。
授業が終わる合図が聞こえてきた。
「……時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑兄、グラウンドの穴、片付けておけよ」
姉さんの言葉に一夏が見捨てられた子犬のような目でこちらを見てきた。止めろ、そんな目で見るな。お前の自業自得なんだから1人で頑張れよ。
あと、これ昼休みの合図だから早く昼飯を俺は食べたいんだよ。
「織斑一夏、手伝うよ。篠ノ之箒も手伝って欲しい」
「分かった。一夏、土の場所はわかるか?」
「えっ、ごめん。分からない」
「そうか、なら稲穂は?」
「分かる。織斑一夏と篠ノ之箒はスコップを持ってきて」
一夏と箒、稲穂が分担して大きな穴を埋めていこうとしている。ヤベ、なんかちょっと見捨てたことを後悔した。
その日の夜、俺はいや、俺たちは食堂に集まっていた。
「というわけでっ! 織斑一夏くんクラス代表決定おめでとう〜!」
パンッパンッとクラッカーが乱射される音が聞こえてくる。
一夏と稲穂の頭の上に紙テープが乗っかる。それを一夏と稲穂は自分の手で取り除く。
……そういえば、原作でもこれ、有ったなぁ。
壁の方を見る。そこにはデカデカと『織斑一夏クラス代表就任パーティー』と横断幕がかけられていた。
アレ? 原作だと紙じゃなかったっけ? 誰が作ったんだよアレ。
「秋一、どうしたんだ?」
「いや、なんか1年1組ってこんなにいたか?」
「いや、見たところ他のクラスの子もいるぞ? ほら、あそこの金髪の子、あの子2組だぜ?」
「よく知ってるなぁ、シン」
「そりゃ、他のクラスの子とも交流してるからな」
「そうなんですか!?」
アレ? 誰か、入ってきた。
後ろから聞こえてきた焦ったような声の主を見る。あっ、やっぱり、オルコットさんだった。
「秋一さん、少しシンさんをお借りしますわね?」
「え……っ、はい、どうぞ」
「えっ、ちょっ、秋一!?」
オルコットさんに襟を掴まれてズルズルと引き摺られていくシンを見送る。
さて、いつの間にか1人になったけどどうしようかな。
そんなことを思ったが、その思いはすぐになくなった。何故なら、1人になった瞬間、俺の周りを女子が囲ったからだ。
「秋一くん、秋一くん! 今暇だよね?」
「私たちとお喋りしよ!」
えっ、ちょっと!? 誰か助けてー!
一夏! は今、箒と数人のクラスメイトに囲まれているから無理。
シン! はさっきオルコットさんに連れて行かれたから無理。
稲穂! はやばい、女子に埋もれてどこにいるのか分からないから無理。
あー! 誰でもいいから助けてー!!
そんな思いが神様に通じたのか、突如入り口から大きな声が聞こえてきた。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の男子新入生に特別インタビューしに来ましたー!」
オーと盛り上がる皆さん。
えっ、何、取材?
てか、みんな俺を一夏のほうに押さないで、取材なんてされたくないから。あっ、シンもオルコットさんに手を引かれてる。
稲穂は?
「なおなお〜、こっちだよこっち〜」
「分かったから離してほしい」
稲穂はなんか袖に手が隠れてる子に手を引かれてやって来た。
そう言えばあの子は、クラス代表に稲穂を推薦した子だ。
そして、男子全員が集まると同時に周りの子たちが一歩下がる。えっ、なにこれ。
「あ、私は2年の黛薫子。稲穂くん以外は初めましてだね。よろしく。これ名刺ね」
稲穂以外に渡される名刺。てか────。
「稲穂、お前あの人知ってるのか?」
「新聞部副部長の人。色々と有益な情報を持ってたから取引してる」
「そうそう! 私たち新聞部と稲穂くんは3月からちょっとした取引を結んでいるの!」
黛先輩の言葉で思い出した。たしか、稲穂とシンは入学式前から寮で過ごしてたって言ってた。
アレ? でも必要以上の在校生への接触は控えるように先生に言われていたんじゃ?
「必要以上に、つまり必要さえあれば接触しても良い。だから接触した」
「えっ、そういうものか?」
「そういうものだよ」
小声でやりとりする俺と稲穂。
そんなことをしていると謝取材の用意ができたのか質問が始まった。
「では先ずは織斑一夏くん! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「えっ、えーっと。誰と戦うことになっても全力で勝ちにいきます?」
「うーん。普通のコメント、もうちょっと良いコメントが欲しいなぁ? 『俺に触れると、火傷するぜ?」とか」
「自分、不器用ですから」
「ははは。前時代的だね」
黛先輩の言葉に一夏がショックを受けたような顔をする。
「まぁ、適当に捏造するから良いか!」
いや、捏造するなよ! 一夏が可哀想だろ!?
「じゃあ今度は織斑秋一くん。どう? お兄さんの方がクラス代表になって」
「……クラス代表になったからには少しは姉さ────織斑先生に叩かれないようにして欲しいと思っています」
うぐっと一夏の呻き声が聞こえた。悪いな、だが実際俺が思ってるのはそれぐらいだからしょうがない。
「うーん。これも捏造するか……」
えっ、新聞なんだから事実を書いてくださいよ!!
「じゃあ今度はシンくん! バトルロワイヤルで秋一くんと共闘したことが色んな話題を呼んでるけど」
「えっ、まぁ、1回限りでしたけどなんというか、息がすごく合ったというか、なんというか……」
「ふんふん。これは、中々に良い感じにできそう……」
もうやだ、この先輩。絶対何言っても捏造するじゃん。
「じゃあ最後は稲穂くん。どう? 情報ではみんなよりも歳下だけど」
「歳上の方ばかりなので、とても緊張しています」
ピシッと俺たちの動きが止まった。
えっ、誰が? 緊張してるって?
その無表情は、もしかして緊張してるから? そうだとしたら、ごめん稲穂。俺、お前のことを誤解して────。
「あはは、稲穂くん。それ、絶対嘘でしょ」
「はい。どうせ捏造されるならと思って」
「うーん。良いコメントがあったら捏造はしないけどねー。まぁ、みんなの反応も面白かったし、稲穂くんには前特ダネを貰ったら捏造はしないでおくね」
「分かりました」
────なかったわ。
てか、稲穂意外とノリがいいんだな。もしくは面倒だから先に適当に言っただけか。
……てか、さらっと黛先輩が言ってたけど特ダネ?
「あの黛先輩、特ダネって」
「じゃあ、後はみんなの写真だね! はい、そこ並んだ並んだ!! あっ、セシリアちゃんも入って! あと篠ノ之姉妹も!」
「えっ?」
「しゃっ、写真は」
「なんで私までぇ」
クラスメイトたちに無理矢理引っ張られる篠ノ之姉妹とオルコットさん。このメンバーってバトルロワイヤル参加者?
「今、私たちの注目は君たち7人だからね! 君たちが写ってる写真も欲しいんだ! さぁ、並んだ並んだ!」
「どう並ぶよ?」
「とりあえず、一夏は真ん中で、そこから俺、シン、オルコットさんで」
「逆側で箒ちゃん、私、稲穂くんって並べばいいか」
「えっ? えっ?」
「急ごう黒崎シン。時間は有限」
「そうだな。早く、持ち場につけ!」
嬉しそうに一夏の隣に立つ箒。その隣でそんな箒を笑って見つめる瑠璃と無表情の稲穂。その逆ではオルコットさんに感激の目をされる俺と困った顔のシン、そしてその隣で満面の笑みを浮かべているオルコットさん。そして、真ん中は曖昧な笑みを浮かべている一夏。
「それじゃあ撮るよー。1074÷6×2は〜?」
「えっ、えっと?」
「300?」
「惜しい、正解は358。縁起の良い数字だ」
「稲穂くん、正〜解!」
パシャっとデジカメのシャッターが切られる。アレ? なんか、後ろから熱を感じるんですけど?
「うおっ!? なんで、みんな入ってるんだ!?」
一夏が驚いた顔をして後ろを振り向く。俺もそれに習って後ろを見ると、なんということでしょう。そこには、常日頃から鍛えられた集団行動力をもって俺たちの後ろに集結した1年1組のクラスメイトの姿が。
「おお〜、これはこれで……」
「黛薫子先輩、後でそれ、現像してください」
「良いよ〜。でも、その代わりに」
「これ、次の機会に渡そうと思ってたやつです」
「毎度あり、現像できたら渡すね?」
俺たちが驚いている間にいつのまにか移動した稲穂が黛先輩と何か話している。いや、何かじゃないなアレ。普通に取引してる。
「それじゃあ、やっぱりパーティーだからハメ外そ! この機会に織斑くんたちと仲良くなりたい子はいっぱいいるんだからさ〜!!」
それに気を取られていると、いきなり腕を誰かに掴まれた。いや、掴まれたじゃない。抱え込まれただ、これ。
「ほらほら、秋一くんも行こうよ! あっちで楽しいことしよ?」
「あっ、抜け駆け〜ずるいよー」
「シンくんシンくん! こっちにも来て!!」
だんだんと騒がしくなっていくパーティー。これ、姉さん来るんじゃないのか? そう思っていると、クラスメイトの女子が。
「織斑先生なら大丈夫! 今日の10時までは見逃して貰えるように貝塚くんが交渉したから」
そう言ってきた。……うん、稲穂もちゃんとクラスの一員としてやるべきことはやってたのか。でも、出来ればそれは今はやめて欲しいな。
だって、抑止力がないのはみんなの暴走を誘うことになるから。
「……って、仲良くなりたいなら先に稲穂を誘ったらどうだ? ほら、アイツ休み時間とかすぐにどこか行くし……」
「貝塚くんは良いの! 事前に言えばお話くらいできるから、ほら!」
そう言ってクラスメイトが見せてきたのは携帯に表示された1つのサイト。まぁ、簡単に言えば裏サイトみたいなものだった。
そして、そのタイトルはデカデカと『貝塚稲穂予約表』と書かれていた。
えっ、なにコレ?
「最近になって出来たサイトでね。この予約時間と場所さえ指定すれば稲穂くんが来てくれるようになってるんだ。あっ、勿論消灯時間とか、授業中はダメだよ?」
「コレ……、稲穂は了承してるのか?」
「うん! まぁ、しばらくは上級生の予約が多いから私は1ヶ月後なんだけどね」
稲穂のやつ、よくこんなのを了承したな。俺なら絶対に嫌だぞこんなの。……というか、さっきの話からして────。
「稲穂って上級生に人気なのか?」
「えっ、知らなかったの? 貝塚くん、3月から上級生の人たちに関わってたんだよ? あと、黒崎くんの専用機、アレを作るために上級生の人たちに頼み込んでたし」
「えっ、インパルスって稲穂が作ったのか!?」
ISって1人で作れたっけ? ……いや、1人作れる人が思い浮かんだけれども。
「正確には1人じゃなくて上級生数人とだけどね。ほら、これ入学式の翌日の学内新聞。ここにデカデカと書かれてるよ? 『男子入学生、第3世代のIS開発! 協力者求む』って。まぁ、これ最近になって1年生に出回るようになったから知らなくても無理ないけど」
「てか、これ一応機密情報なんじゃ……」
「新聞によると本来は機密中の機密だけど、これは大丈夫みたいだよ。ただ学外への持ち出しは禁止されるけど」
「やっぱり、機密じゃん!」
あははとクラスメイトが笑う。いや、笑い事じゃないだろコレ。
そう思っていると、俺たちに近づく新たな影が2つ。
「しゅうしゅう〜、なおなお何処にいるか知らない〜?」
「えっ、えっとごめん。誰?」
「え〜、酷いよしゅうしゅう〜。私、『布仏本音』、一応〜クラスメイトだよ〜」
手が袖から出ていない女の子、布仏さんは忘れられてショックですと言いたげな表情になる。
あー、稲穂を捕まえてた子か。
「ごめんごめん。稲穂が今、何処にいるか俺も分からないんだ。ごめんな」
「ううん〜。知ってたら良いや〜的な感じで〜聞いたから大丈夫だよ〜」
そう言って布仏さんは少し離れた場所にいる水色の髪の女の子のもとへ行った。
それにしても、のほほんとした雰囲気の人だな。
そう思いながら、俺はクラスメイトとまた会話する。
ちなみに、このパーティーだが本来は10時までの筈が女子のハイテンションにより時間オーバー。
その場にいたもの全員に姉さんからのご指導が下ったことをここに蛇足として付け加えておく。
☆☆☆☆☆☆
「はい」
『もしもーし、なおくん。今大丈夫?』
「大丈夫です。束さん」
秋一たちが女子に捕まっていた頃、学祭寮の屋上に稲穂はいた。
その手には自分のISの待機状態である指輪を持って月を見上げながらもう片方の手に持っている端末で電話をしていた。
『どう、箒ちゃんと瑠璃ちゃんは?』
「成長していました。IS操縦者としても……精神面でも」
『へぇ〜。うんうん。それでそれで?』
「束さんが前に言っていた、恋愛の方は……よく分かりません」
『えぇ〜! 束さんの楽しみの一つが〜〜!!』
「すみません」
『まぁ、なおくんだから仕方がないよね! 他には?』
そのまましばらくの間、稲穂と束の電話は続く。その中の大半は日常生活における織斑姉弟と篠ノ之姉妹の話だったが。
「今日はこれまでですね」
『えぇ〜、束さんはもっとなおくんとお話ししたいよ〜!! クーちゃんだってなおくんとお話ししたいってずっと隣で待機してたのに〜!!』
「すみません。そろそろ気付かれます」
『ちぇ〜。そういうことなら仕方ないかぁ。うん、じゃあまたね〜』
「はい」
プツッと電話が切れる音がした。
稲穂はそれを確認すると少しだけ、今も夜空に浮かんでいる星と月を見上げた。
「……うん、絶対に行こう。この空の向こうに」
指輪を大切そうに握りながらそう呟く。
指輪はそれに応えるように少しだけ鈍く光った。