IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮)   作:巫女好きの満月

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中国からの転校生

    

 side秋一

 

 朝、何時もより早めの時間に席についた俺はクラスメイトたちが楽しそうにワイワイと何かを話しているのに気づいた。

 

「あっ、秋一くん、おはー」

「おはよう」

 

 隣の席のクラスメイトから挨拶をされたから返す。入学式の日と比べるとそこそこ、俺もクラスメイトたちと話せるようになった。

 まぁ、おそらく今も食堂で話しかけられている一夏やシンは俺よりも早くクラスメイトたちと話せるようになっていたと思うけど……。

 

「ねぇねぇ、秋一くんは転校生の話聞いた?」

「転校生、今の時期にか?」

 

 下旬とは言えまだ4月。この時期に入学ではなく転入なのはどうしてだろうか? しかも、ここIS学園は転入条件がかなり厳しかったはず。稲穂のノートによると試験は勿論のこと国からの推薦がなければ転入できない。

 そう、国からの推薦だ。つまり、それだけの地位と実力があるということはその転入生はもしかしたら……。

 

「なぁ、その転入生ってもしかして代表候補生か?」

「そうだよー。中国の代表候補生。よく分かったね」

「……まぁ、色々教えられたからな」 

「ああ、例の『稲穂ノート』?」

「そうだよ」

 

 クラスメイトの女子が言った『稲穂ノート』とは、稲穂が俺たちに作ってくれたあの大量のノートの総称(1年1組の誰かが命名)だ。

 俺たちがほぼほぼそのノートを持ってきて読んでいるそれは、IS学園の生徒から見てもかなり分かりやすくまとめられていて稲穂に頼み込んでいる人もいるほどだ。

 

「それにしても……中国か」

「なになに、知り合いでもいるの?」

「……まぁ、いるな。知り合い」

 

 思い出すのは中学時代に別れてしまったツインテールの少女。一夏のことが好きでまっすぐアプローチしても当の本人には理解されなかった友達。

 そういえば、これ何かのイベントだった気がするけど、何だったかな? 最近、原作知識が思い出せなくなってきたからイベントがあっても分からないんだよな。まぁ、今までもそこまで頼ってなかったから関係ないけど……。

 

「えっ!? どんな子なの?」

「えっ、どんなって言われても活発な小さい子かな?」

 

 数年前の姿を思い出す。うん。たしかに小さい……色々な意味で。

 

「ふーん」

 

 そんな俺の考えを察したのか少しジトっとした目を向けてくるクラスメイト。えっ、なに? 

 

「ちなみにその子、胸大きい?」

「いや小さい……あっ」

 

 ヤベッ、つい口が滑った。

 さらにジトッとしたのが強くなる。名前を忘れたけど、この子の胸部装甲は……うん、きっと成長するはず。

 

「……男の子ってやっぱり大きい方が良いのかな〜。どう思う、稲穂くん?」

「人しだい。それぞれの趣味趣向があるから一概にはなんとも言えない」

「ふーん。じゃあ、秋一くんは大きい方が良いんだね」

「…………ノーコメントで」

 

 いつの間に居たんだ、稲穂! あと、クラスメイトの子。流石に女子にそういう話を堂々とできる程、俺の心臓は丈夫じゃないから。

 というか、なんでこの子こんなに聞いてくるの? 

 

「……そういえば、今日は早いな稲穂」

「そうだねー。いつもは授業ギリギリなのに」

 

 話題を変えてみたが未だにジトッとした眼を止めてくれないクラスメイト。

 あの、本当にやめて下さい。俺、そんな眼で見られて興奮するような人じゃないから、ノーマルだから! 

 

「昨日まではやることがあったから遅かっただけ。終わったから今ここにいる」

「やること? ……宿題かなんか出てたか?」

「IS委員会に提出する『インパルス』の資料の作成。宿題ではないよ」

「……そう言えば、インパルスは稲穂が作ったんだよな」

「正確には僕と上級生、あと数人の1年生。1人じゃない」

 

 誇ることなく淡々と言う稲穂。うーん、この時期にISの製作に携わるどころかその中心人物だったんだからもうちょっと誇っても良いと思うけどな。

 ……って、それはどうでも良い。今はそれよりも気になることがあるんだ。

 

「『インパルス』って何か元ネタがあるのか?」

 

 稲穂が転生者ではないことは知ってる。だとしたら、あのインパルスは元ネタが有るのか、この世界に? そう思って聞いたら稲穂は「うんあるよ」と言った。

 

「それ、良かったら教えてもらえないか?」

「元ネタ……ではないけど、インパルスは黒崎シンが言っていたのを参考に作った」

「……え?」

「黒崎シンの専用機を作ることになった時、本人に聞いたら『臨機応変に対応できる機体が良い』と言っていた。その発言を基に設計したのが『インパルス』」

「そっ、そうか」

 

 まさかの転生者の発言からかよ。でも、それだとしてもなんでピンポイントで『インパルス』なんだ? 同じようなものなら他にも色々とあるだろ?」

 

「あと、機体名は本人にある程度の設計アイディアが固まった時に聞いたら『機体名はインパルスで頼む! あと、ここもう少し』みたいな感じでついでにテコ入れもされた」

「……なるほどな」

 

 つまり、インパルスがこの世界に生まれたのはシンの影響か。てかシンのやつ絶対自分が『シン・アスカ』そっくりだから最初の機体をインパルスにしたな。

 

「よっ、秋一」

「おはようシン」

 

 噂をすれば影。シンの話をしていたらシンが教室の中に入ってきた。ついでにその後ろには一夏と箒もいた。

 

「一夏も箒もおはよう」

「おはよう秋一。なぁ、教室が何時もよりこう、落ち着きがないんだけど」

「転校生だってさ。しかも中国の代表候補生」

「どんなやつなんだろうな」

 

 一夏に今話題の転校生の話を振ってみる。

 そしたら、思った以上に興味があって少し驚いた。でも、これは多分興味は興味でも代表候補生だからどういうやつなんだろ? 的な感じだな。少なくともどんな容姿かは気になってないな。

 

「む……気になるのか?」

「ん? ああ、少しはな」

「ふん……」

 

 一夏の返答に箒がムッとした顔になる。ああ、これはアレだ。好きな人が他の人に興味津々で不機嫌になってるんだ。

 でも、それに一夏は気づいていない。鈍感なやつだな。

 

「今のお前に他のクラスの転校生など気にしている余裕はないだろ? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

 不機嫌なまま話題をクラス対抗戦に変えようとする箒。

 

「そうだな。クラス代表になったんだから頑張れよ一夏」

「応援してるぜ?」

 

 それに乗っかる俺とシン。だが、一夏は最近の授業のことを思い出してるのか少し自信がなさげになる。

 

「まあ、やれるだけのことはやるさ」

「えー! やれるだけだと駄目だよ!」

「そうだよ! ちゃんと優勝しないと!!」

「そうだぞ、男子たるもの、いや男たるものそのような弱気でどうする!」

「おりむーが勝つとクラスみんなが幸せになるんだよー」

 

 一夏の自信なさげな声を皮切りに次々とクラスのあちこちから声が上げられる。まぁ、その理由はなんとなく察する。

 来月に行われるクラス対抗戦。これに優勝したクラスには優勝商品として学食デザートの半年フリーパスが配られることになっている。

 甘いものが大好きな年頃の女子にとってこれはなんとしても欲しいものだ。だからこそ、クラス代表である一夏に優勝してもらいたいのだろう。

 

「織斑くん、頑張って!」

「フリーパスのために!」

「大丈夫! 今のところ専用機持ちのクラス代表は1組と4組だけだから、勝てるよ! 優勝できるよ!」

「その情報────古いよ」

 

 ワイワイと騒いでいた1年1組の教室、その入り口から突然声が聞こえてきた。うわ、もしかしたらと思ったら本当にそうだったよ。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単に優勝できるとは思わないようにね」

 

 腕を組み片膝を立ててドアにもたれかかるツインテールの少女。そして胸部装甲は薄い。間違いない、アイツは。

 

「……鈴?」

「そうよ。中国の代表候補生にして一夏! あんたの幼馴染みの凰鈴音(ふぁん・リンイン)。今日は宣戦布告に来たわよ」

 

 ふっと小さく笑いを漏らす。うん。なんだろう、本人はカッコつけてるつもりなのかはわからないが……。

 

「何格好つけてるんだ? 似合ってないぞ」

 

 一夏と同意見だ。

 

「んな……!? なんてこと言うのよ、アンタ!」

 

 あっ、普通に喋った。まぁ、さっきの気取った喋り方よりやっぱそっちの方が良いな。鈴は。

 あ────。

 

「おい」

「なによ!? 今、この馬鹿に言わなきゃ────」

「馬鹿は私の目の前にもいるがな」

 

 バシンッと鈴の頭に強烈な一撃が入った。あれ、俺も食らったことがあるから分かるけどガチで痛いんだよな。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

「千冬さ────す、すみません! すぐに戻ります!! 一夏、また後で来るからね! 逃げないでよね!」

 

 姉さんにビビってすぐさま去っていく鈴。まぁ、昔から鈴は姉さんのこと苦手だからな。仕方がない。

 さて、1時間目はなんだったかな? 

 

 

 

 

 

 放課後の第2アリーナ。今日も一夏はシンとオルコットさんたちとIS操縦を教わっている時間に俺はここで稲穂といた。

 そして、その隣には俺が朝に話していたクラスメイト『近藤茜(こんどうあかね)』さんがいる。

 

「……なぁ、稲穂。なんで、近藤さんがいるんだ?」

「本人の希望。少しでもISに触れておきたいって」

「へぇー」

 

 黒鉄を展開して待っている俺の隣でタブレットを触っている稲穂に聞くとそんな答えが帰ってきた。それに相槌を打ちながら俺は稲穂を見る。

 なんというか、こうして見ると稲穂が歳下だと思えないんだよなぁ。

 だって、転生者である俺も幼い頃は同い年に見えないとか言われたけどそれでも稲穂ほどではない。

 あの人のところにいたのなら、こうなるのも不思議では……ないのか? 

 

「織斑秋一、来たよ」

 

 視界にIS接近の文字が出る。機体はラファール・リヴァイヴ。考え事を一旦止めて近藤さんに向き合う。……うん、ISスーツからだと余計にわかる。本当に胸部装甲が……。

 

「秋一くん。今、失礼なこと考えたよねー?」

「えっ、いや、考えてません!」

 

 うおっ、気づかれた? 慌てて、俺は視線を近藤さんの顔に向ける。

 箒や瑠璃、姉さんの黒髪ともオルコットさんの金髪とも違う。鈴と同じ茶色の髪を短めに切り揃えてる可愛らしい顔立ち。可愛い。

 

「稲穂くん、私どうすれば良い?」

「歩くのはできてる。飛ぶのは?」

「ちょーっと不安かな? 授業で習った飛ぶイメージがよく分からなくて……」

「なら飛ぶイメージを付けよう。織斑秋一、近藤茜と飛んで」

「えっ、近藤さんと飛ぶって……」

「織斑秋一が近藤茜と手を繋いで牽引して飛べば良い。実際に飛ぶのを体験すれば飛ぶイメージは掴みやすいはず。牽引するのは何か問題が起きた時に対処するため」

「おっ、おう分かった」

 

 稲穂に言われた通りに近藤さんの手(近藤さんが装着しているラファールの手)を取り、上昇する。

 少しずつ遠ざかっていく稲穂を見ながら、近藤さんの方を見る。近藤さんは少しの間俺の方を見ていたが、しばらくすると周囲を見始めた。おそらく、自分なりのイメージを掴もうとしているのだろう。

 上昇をやめ、今度は水平移動をする。うおっ、意外と水平移動、難しいな。

 

「どう、近藤さん?」

「えっ、あー凄い、高い!」

 

 慌てたように答える近藤さん。アレ? 俺が聞いたのはイメージが掴めたかどうかなんだけど……。

 

「いや、そうじゃなくてイメージの方」

「あっ、あーごめんね。まだ掴めてないからもう少しだけ……お願いしても良い?」

 

 恥ずかしそうにこちらを見る近藤さん。うん、可愛い。でも、やっぱり胸部装甲が……っと考えてたらまた何か言われそうだ。

 そういえば、今稲穂は何してるんだ? 

 そう思って稲穂を見る。すると、なんということでしょう。稲穂の隣に知らない女子生徒がいるではありませんか。水色の髪の子。リボンの色からしておそらく同学年。だけど、見たことないから多分他クラスの子だ。その子は稲穂と何かを話している。おっ、稲穂がタブレットを見せて……いや、一緒に見てる。

 あの2人、だいたい身長が同じらしく顔が自然と近いところにある。

 これは、ひょっとして稲穂にも春が……っ!? 

 

「秋一くん!?」

 

 ガンッと横から衝撃が来た。どうやら、稲穂の方に気をやり過ぎてアリーナの遮断シールドに身体が当たったらしい。

 

『集中』

 

 稲穂から通信が来た。たった2文字だが、今の俺にはとても深く心に刺さった。

 てか稲穂のやつ俺の方を見てないだろ……。なんで分かったんだよ。

 

「……そろそろイメージできるようになった?」

 

 恥ずかしさから目を逸らしながら近藤さんに聞く。すると、近藤さんは少しだけ笑って「多分」と言った。

 俺はそれを聞くと稲穂に指示を仰ぐ。

 

「イメージができるかもだって言ってるけど、どうすれば良い?」

『今から送る高度まで降下。そしたら一度水平移動と上昇をさせて。織斑秋一は何かあった時のために近くにいて。今度はちゃんと集中して』

「了解。近藤さん、行こうか」

 

 稲穂とのこの会話は一応オープンチャンネルでやってるから近藤さんにも聞こえているはず。

 

「うん、分かった。よろしくね?」

「了解」

 

 上昇した時と同じように近藤さんの手を引いて下降する。

 稲穂から送られてきた高度まで降下する。あまり高くない。これなら最悪操縦に失敗しても大きな怪我はないと思う。

 

「それじゃあ、手放すよ?」

「うっ、うん」

 

 パッと手を離す。すると、少しだけラファールがフラつくがすぐに姿勢を正した。そして、そのまま水平に移動する。

 ……ちょっとフラついてはいるがちゃんと出来ている。

 そして、そのまま急上昇。これも出来てる。そして、降下。うん、これも出来てる。

 えっ、近藤さん操縦うまくない? 俺が手を引いた意味あった? 

 そんなことを思いながら俺の少し上を飛んでいる近藤さんを見る。凄い笑顔で水平移動とターンを巧みにこなしてまるで、一つのダンスを見ている気分だった。

 夕日がバックに来る。気づけば俺はそんな近藤さんから目が離せなくなっていた。

 そして────数十分が経った頃、稲穂から通信が来た。

 

『織斑秋一、近藤茜、時間。今日はもう終わろう』

「えー、まだやれるよー」

「いや、近藤さんがやれてもアリーナの使用時間がないから。また、明日やろう」

「明日も、秋一くんは手伝ってくれる?」

「えっ、いやそれは────」

「手伝って……くれる?」

「…………はい、手伝います」

 

 うわー。笑顔でそれは卑怯だよ。だって、断ったらどうなるか分かるよね? みたいなオーラがその笑顔から見えたもん。

 それにやった! とでも言いたげに綺麗な笑みを浮かべる近藤さんとともに稲穂のもとへと降りていく。

 

 

 

「お疲れ」

「……ああ。本当に疲れた」

「ぶつかったのは自業自得」

「分かってるけどさ!」

 

 制服に着替えて稲穂と2人で寮に戻る。近藤さんは俺たちよりも先に寮に戻っていったためここには居ない。

 そろそろ夕食の時間のため、このまま部屋に戻るかそれともそのまま食堂に行くか少し悩んだが、よくよく考えたら汗もかいているし一度部屋に戻るか。

 そう考えた時、稲穂が足を止めた。

 

「どうした?」

「……ごめん、用事ができた。夕食は一緒に食べられない」

「また、何かの資料作り?」

「いや、報告」

「……? そうか、まぁ俺のことは気にするなよ」

「ごめん」

 

 稲穂が来た道を戻って行きながらポケットから取り出した携帯……いや、あれ携帯なのか? ガラケーともスマホとも違う謎の機械だアレ。

 それを片手で操作して耳に当てて遠ざかっていく稲穂。

 

「……大変そうだなぁ」

 

 先日まではインパルスの資料制作、そして報告とか他にも稲穂は色々やっているみたいだ。俺よりも歳が下なのにそれに嫌な顔一つ……いや、表情を動かさず淡々とそれらをやれる稲穂を俺は凄いと思った。

 だって、俺だったら絶対途中でサボるぜ、断言できる。

 それにしても出会って2週間以上経ったけど、稲穂の表情が変わるところ見たことないんだよな。

 てか、最近はもう稲穂の表情筋は死んでるのでは? とクラスでも言われてるし……。

 てか、クラスで思い出した。一夏は今日、ちゃんと訓練できたのか? 鈴のことで箒が突っ掛かったりしないと良いけどって流石にシンもオルコットさんもいるから大丈夫か。

 

「今日はもう平和でありますように……ってね」

 

 何も問題なんて起こりませんように……っと既に半日が終えた今日に限って問題なんてそうそう起こるはずが────。

 そう考えながら俺は部屋に戻った。

 

 

 

 そして、夕食を食べ終えて寮の部屋に戻る道の途中で、俺は夕食前に考えていたことが起こったのを目撃した。

 今、俺の目の前には一夏と鈴がいる。箒は近くにいない……訂正、近くの曲がり角からそれを見ていた。

 一夏と鈴はこちらには気付いていないけど……ここ、2人の会話が聞こえる距離なんだよな。まぁ、幸いなのは俺と箒以外がこの場にいないことか。

 

「……ねぇ、一夏。あの日の約束、覚えてる?」

 

 いつもとは違う鈴の声。しかも、顔を赤くしてチラチラと一夏を見る。

 鈴の言う約束。その内容は知らないが、一夏にそれを言ったタイミングなら知っている。

 鈴が中国に帰る前日、俺と一夏、あと仲の良かった弾たちと一緒にお別れ会をした時に一夏と鈴が途中で抜けた時があった。

 多分、その時に約束をしたんだろう。

 

「ああ覚えてる。鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を────」

「そ、そうっ。それ!!」

 

 一夏が自信満々に言おうとするそれに、俺は何故か変な汗が止まらなかった。なんだろう、俺はこの展開を知っているぞ。今はほとんど思い出せない原作知識でじゃない。この世界で生きてきた『織斑秋一』としての勘が告げている。

 一夏、やらかすぞと。

 

「────奢ってくれるってやつか?」

 

 ピシッと俺と箒、鈴の時間が止まった。……マジか。いや、マジで言ってるのか一夏。

 

「いやー、良かった忘れてなくて。流石に、ここ最近忙しくて忘れてたかもって不安だったんだよ。でも覚えてて良か────」

 

 パァンッ! 乾いた音が廊下に響いた。いきなり叩かれた一夏はおそらく今何が起こったのかわからないとでも言いたげな表情をしていることだろう。

 鈴の肩が震えている。遠目からだから確証は持たないがおそらく、今鈴の眼には涙が浮かんでいると思う。

 

「最っ低! 女の子との約束を────ちゃんと覚えてないなんて、最低!! 男の風上にも置けない……ッ!」

 

 再び鈴の平手打ちが一夏の頬に当たる。そして、そのまま走り去るようにして何処かへ行った。

 一夏はそんな鈴を呆然と見送る。

 

「……一夏」

「……箒、秋一」

 

 そんな一夏に俺と箒は近づく。そして、俺たちが何か言うよりも先に一夏が口を開いた。

 

「……鈴、泣かせちまった」

 

 俺と箒の口が止まる。一夏の口から出てきたその言葉には後悔の念があった。

 箒も、俺も一夏には言いたいことがあった。でも、それは今は言わない方がいい。そんな気がした。

 俺は一夏には何も言わずに通り抜ける。おそらく、ここで俺が何かを言うのは間違ってる。だから、あえて何も言わずにただ肩を叩くだけにする。

 明日も、授業がある。休める時に休まないと姉さんの『指導』を受けることになる。それだけは嫌だ。

 

 

 翌日、クラス対抗戦日程表が張り出された。俺たち1年1組の代表、織斑一夏の1回戦の相手は2組。

 現在喧嘩中? の相手、鈴だった。

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