IS〜5人の転生者とイレギュラーがいる世界〜(仮)   作:巫女好きの満月

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クラス対抗戦と襲撃

     

 side秋一

 

 試合当日、第二アリーナの観客席……ではなく俺とシン、オルコットさん、箒、瑠璃はピットの奥にあるモニタールームに一夏VS鈴の試合を見にきていた。

 

「……良いなぁ、稲穂くん。アリーナの観客席でこれを見れて〜」

「そう羨ましげに言っても現実は変わらないぞ? 俺たちはチケットが取れなくて稲穂は取れた……。たったそれだけだ」

「そうだけどさ〜」

 

 瑠璃が羨ましげに観客席の方を見つめ────いや、睨む。おいおい、そんなに睨んでも稲穂はそこにいるか分からないんだぞ? 

 

「それにしても、緊張はしてなさそうだな。一夏」

「確かに。まぁ、一夏の事だから多分今、鈴のことしか目に入ってないと思うぞ?」

 

 ほれっと俺は一夏を指差す。モニターの一夏は観客席の方を一度も見ることなく、ただ真っ直ぐに鈴の方を見ている。

 そんな一夏を見てなるほどと感心した顔から一転、呆れたような顔になるシン。

 

「良くも悪くも一直線だからな。一夏は」

「確かにな」

 

 見ていたモニターの横にある文字を見る。そこには、機体名と名前が映し出されていて『織斑一夏・白式』と『凰鈴音・甲龍(シェンロン)』と出されている。

 

「それにしても、アレのどこに竜要素があるんだ?」

 

 シンが鈴のISを見てそんな事を口にした。

 確かに、鈴のISは赤みがかった黒色の色をしたやつだ。だが、見た目の特徴で言えばその非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)だろう。

 トゲのついた装甲のなんかいかにも攻撃で使いますよ的な主張をしたそれで殴られたら物凄く痛そうだ。

 

『一夏、約束覚えてるわよね?』

『ああ。負けた方が勝った方の言う事を聞くだろ?』

 

 オープンチャンネルで会話する鈴と一夏。

 

『一応、忠告しておくわ一夏。ISの絶対防御は完璧じゃない。表面に展開されているシールドエネルギーを突破する攻撃力があれば本体にダメージを貫通させれるわ』

 

 忠告。その言葉に秘められた意味を理解しないのはこの場にいない。

 わざわざ、それを言ったということはおそらく鈴にはそれが可能なのだろう。……いや、正確には代表候補生クラスには……か。

 一夏の顔がモニター越しでも分かるぐらいに硬くなる。クラス対抗戦では戦わなかったもののここ最近の専用機を使った訓練で一夏はオルコットさんと模擬戦をしていたらしいから、代表候補生クラスの実力を知っているのだろう。

 

『それでは、両者試合を開始してください』

 

 そして、試合が始まった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 試合開始のブザー、それが鳴ると同時に一夏は瞬時に雪片二型を展開、鈴へと接近先制攻撃を狙う。

 鈴はそれに気づき、自身も近接戦闘を行うために武器を展開する。青龍刀……とは言い難い形状の大型ブレード『双天牙月』を両手に展開して一夏の初撃を迎え撃つ。

 振るわれた雪片二型を鈴は片方で防ぐ。そして、もう片方で一夏を攻撃しようとするが一夏はその瞬間に上へ上昇していた。

 

『思ったより、速いじゃない。でも────』

 

 あのままでは不利だと悟った一夏は一度自分の間合いから離れることを選択した。だが、後ろだと模擬戦でセシリアにそのまま射撃をされた経験があったため上昇して距離を取ることにしたのだ。

 鈴は勿論相手が回避するのを想定して攻撃をしたのだが、白式の機動力は鈴の想定以上だった。だが、鈴はそれに苦い顔をするどころか笑みを浮かべた。

 

『────そこは、私の射程内よ!!』

 

 鈴の肩アーマーがスライドする。その中心にある球体が光った瞬間、一夏は目に見えない何かによって体勢を崩した。

 

『ぐ……っ!』

 

 慌てて、体勢を立て直そうとする一夏。だが、それは許さないとでも言いたげに次々と一夏を襲う見えない攻撃。

 何とかして体勢を整えようと焦る一夏。だが、その焦りを鈴は見逃さない。

 

『一夏、忘れてない? 私は────』

 

 白式が鈴の接近を告げる。一夏は体勢が崩れながらも何とか雪片二型を構えて鈴の攻撃に備える。

 

『────ただ待ってるだけ、立っているだけが嫌いな女なのよ!!』

 

 一夏よりも高く上昇し、双天牙月を振り下ろす。体勢が不十分な一夏はその威力に耐えきれず下へと落ちていく。

 試合が始まって僅か数分で一夏は自分の不利になった。

 

 

「なんだあれは……?」

 

 リアルタイムモニターを見ていた箒がつぶやく。それもそうだろう。この僅か数分で一夏を不利にさせた1番の要因は双天牙月ではなく、あの見えない何かだ。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で発生する衝撃を砲弾化して撃ち出す中国の第3世代型兵器ですわ」

「……つまり、不可視の弾丸が一夏を襲ってるわけか」

 

 セシリアの言葉に箒がなるほどと顎に手を当てる。

 モニターの方ではその不可視の攻撃に対応しようとしている一夏の姿が映し出されている。

 

「なぁ、シン。お前ならアレどうやって攻略する?」

 

 先ほどから黙ってそれを見ていたシンに秋一が問いかける。シンはそれに数秒ほど考えてから自分なりの攻略法を言う。

 

「セシリアの説明だと多分ハイパーセンサーで空間の歪みとか察知できる。けど、多分それだと遅いから、俺ならフォースパッケージとシールドのゴリ押しで接近するな」

「……インパルスならではの方法だな」

「いや、だってそれ以外俺は思いつかないぞ?」

 

 そうだよなっと秋一も自分ならと考えるが、やはりそれは自分の専用機だからこそできる方法。

 一夏の白式での攻略法は躱すぐらいしか思いつかなかった。

 

 

(どうする? どうやって戦う?)

 

 アリーナの地面スレスレを飛行しながら一夏はこの状況を打破する方法を考える。

 ハイパーセンサーで空間の歪みや大気の流れを観測することで最初は衝撃砲を攻略しようとしていた一夏だったがそれでは遅いと気づき、回避することに専念していた。

 

(どうする? あの見えない攻撃にどう対処する? 考えろ、考えろ! 鈴に勝つために今この状況を打破する方法を考えろ!!)

 

 衝撃砲でできた砂煙の中を飛行しながら思考をやめない一夏。だが、思考をしながら躱せるほどの技量は今の一夏にはない。1発、2発と衝撃砲が当たり、体勢が崩れる。

 

『しま────っ!?』

 

 体勢が崩れると同時に一夏は自分が今どこを飛行しているのかを思い出して慌てて元に戻そうとするが、それは出来なかった。

 勢いよく白式の左手装甲が地面に触れ、一夏の身体を浮遊感が襲う。

 転がったと一夏は認識した。このままだとおそらく大幅にシールドエネルギーを消費してしまう。

 そうなってしまえば燃費の悪い白式はさらに不利になる。

 

(どうする? どうすれば────ー)

 

 打開策を探す一夏。そして、偶然にもハイパーセンサーでそれを見た。

 観客席から一夏を見ている稲穂の姿を。

 刹那、一夏の頭の中で以前稲穂が言っていた言葉が思い出された。

 

『織斑一夏、君は考えすぎない方がいい。考えるよりも、自分の直感などの感覚を信じた方がいい』

 

(そうだった。稲穂にも言われてたな。『考えすぎるな』って)

 

 アリーナの壁にぶつかる瞬間、一夏は自分の武器である雪片二型を地面に突き刺した。

 今更、そうしたところで完璧には勢いを殺せない、壁にぶつかる。そんなことは一夏もわかっている。では何故やったのか? 

 僅かでも勢いが弱まり、少しの時間ができる。一夏はその僅かな時間が欲しかったのだ。

 

『おぉぉぉ!!』

 

 一夏が叫びながら雪片二型を中心に横に回る。そうすることによって一夏の足が壁の方を向く。

 その瞬間、一夏は思いっきり加速。壁に当たる直前で壁から中央まで加速した。

 

『へぇ、よくやる!!』

 

 それを見た鈴は少しだけ感心するが、手を休めるつもりはない。次々と一夏に向けて衝撃砲を放ち続ける。

 先ほどまでであれば躱しきれず当たるそれを一夏は────。

 

『それはもう慣れた!!』

 

 ────全てかわして見せた。

 無理矢理停止、旋回、上昇の3つを組み合わせて見事かわしきる一夏。鈴はそんな一夏を見て動揺するどころかよりその笑みを好戦的なものに変えていく。

 

『最っ高!!』

 

 鈴の歓喜の声。それと同時に加速、一気に一夏へと接近した鈴はその二刀流で攻撃を開始する。

 一夏はそれをほんの少し、双天牙月がギリギリ届かない場所に後退することで避ける。

 

『嘘!?』

 

 鈴の驚愕した声が響く。双天牙月は両方とも振るったため今の鈴は無防備。

 

(ここだ!!)

 

 一夏が雪片二型を振るう。今度は防がれない。鈴の肩アーマーへと雪片二型が当たる……その直前に再び一夏は衝撃砲によって吹き飛ばされた。

 

『衝撃砲……っ!!』

『擦っただけで、このダメージ……ッ!!』

 

 一夏も鈴も、互いの武装に厄介だという印象を植え付けられた。一夏は鈴の衝撃砲がゼロ距離でも撃てることを、鈴は雪片二型の特殊能力、『バリアー無効化攻撃』のダメージの大きさを意図してはいないだろうが相手に植え付けた。

 

(どうする? 接近してもアレで距離を離される)

(事前に調べたから分かっていたけど、アレがバリアー無効化攻撃。予想よりもダメージが多い)

 

 互いに動きは止めない。しかし、その攻撃の手は止まっていた。

 

(さっきの一撃で、シールドエネルギーを削られた。けど、まだ余裕はある!)

(さっきの一撃で片方の龍砲が潰された。それに、一夏も龍砲に慣れてきてる。連発し続ければ不利になるのは私)

 

 一夏は単純に衝撃砲を警戒して、鈴は一夏の見せた対応力の高さから攻撃の手を止めざるを得ない。

 

『正直、ここまでやるとは思ってなかったわ』

『俺も、自分がここまでできるとは思ってなかった。この試合を今も見てるみんなの協力がなかったらきっと、俺はここまで強くなれなかったと思う。まぁ、訓練の時の戦績はボロボロだったから実感はなかったけどな』

『安心しなさい。あんた、ちゃんと強いわよ』

 

 互いに動きが止まる。観客席やそれをモニターから見ていた者たちはそれに自然と嵐の前の静かさという言葉を連想した。

 

『なら、そんなみんなの為にも俺は鈴に負けられないな!』

『……はっ、上等よ一夏! 格の違いってやつ────見せてあげるわ!!』

 

 2人が距離を詰めようと加速姿勢に入る。そして、互いにその距離を詰めようとした瞬間────ドオオンンッとなにかが上から降ってきた。

 凄まじい衝撃がアリーナを()()()を襲う。

 

「なに!?」

「どうして、観客席に衝撃が!?」

 

 一瞬でパニックになる観客席。それも仕方ないだろう。これまで、アリーナの観客席は遮断シールドによってアリーナの中の戦闘から守られてきた。それには勿論衝撃などがこないようにもなっている。

 なのに、今遮断されているはずの衝撃がきたということは……。

 遮断シールドが機能してないことを意味している。

 我先にと観客席の出入り口の方に走っていく生徒たち。だが、その出入り口は開くことはしなかった。

 

『…………なんなんだ、アレ』

 

 混乱しているアリーナ。その中で一夏と鈴は乱入してきたものを見る。

 乱入してきたのは、『白』だ。白式と同じ、白色のIS。だが、白式ではない。

 頭はとんがった帽子のような形をしている。身体は厚く、ずんぐりとした重装甲。そして、何よりも注目すべきはその装甲の多さ。

 稲穂のスレイプニルと同じ全身装甲(フル・スキン)

 

『………………』

 

 鈴はそのISから注意を逸らさずにアリーナ全体をハイパーセンサーで確認する。アリーナはパニック状態、そして目の前には正体不明のIS。なのに、避難警告も出ていない今の現状。

 

『まさか、ジャミングされてるっていうの?』

 

 そうとしか、考えられなかった。

 

 

「なおなお〜、どうしよう〜みんなパニックになってるよ〜」

「急に死ぬかもしれない状況になったんだ。無理もない」

「なおなおは〜、落ち着いてるね〜」

「焦っていても状況は好転しない」

 

 パニックになっている観客席で稲穂は隣に座っていた本音とともにその席から動かずにジッとアリーナの中に乱入してきたISを観察していた。

 

「それにしても〜、警告でないね〜」

「おそらく、学園のシステムがハッキングされていて出さないんだ。ついでに、IS間での通信も妨害されている」

「えっ」

「布仏本音、頼みたいことがある」

 

 

 アリーナの中がパニックになっている中、モニタールームでは別の意味で焦りがあった。

 

「どうだ?」

「駄目です! アリーナの中にいる織斑くんたちとの通信ができません! また、学園内の全システムとの接続も遮断されています!!」

 

 学園のシステム全てとの接続遮断。アリーナ内にいる一夏たちとの通信妨害。その他にも問題が多発している。

 さらに1番まずいのは教員や専用機持ちがモニタールームに閉じ込められているということだ。

 モニタールームの扉を破壊して外へ出すことを真耶と共にいる千冬は考えたがそれを実行するよりも早く強化シャッターが扉を塞いでしまい、それは不可能となってしまった。

 

「織斑弟、オルコット。破壊はできそうか?」

「……わたくしのブルー・ティアーズでは無理そうです。シンさんと秋一さんは?」

「ソードなら多分破壊できる……と思いますけど、この場所だと取り扱えません」

「……俺の方も、無理そうです」

「そうか……」

 

 IS学園はその特異性から様々なところから狙われる。

 強化シャッターなどは外敵から生徒たちを守るために作られたものだが、そのための設備が今は自分たちを苦しめることになるとはなんという皮肉か。

 

 

『……動かないな』

『そうね』

 

 アリーナの外と中でパニックや問題が起こっている中、一夏たちは乱入してきたISがなんの動きも見せないことを不思議がっていた。

 乱入してきた白のISは動くことはせず、その場に立ったまま。一夏と鈴は観客席の方を気にしながらもそのISからは目を離さない。いつ相手が攻撃してきても対応できるようにするためだ。

 

『────か────る? ────お────ら』

 

 そんな時、2人の耳にノイズ混じりの音声が届く。

 一夏と鈴はそれに驚きながらもその声に応答しようとする。謎のISが乱入してきて数分。ようやく、通信ができるようになったことに少し安堵する一夏と鈴。

 

『織斑────鈴音────る?』

 

 段々と鮮明になっていく音声に一夏はその声の主がいるであろう場所、観客席の一部を見る。そこには、普段とは少し腕の装甲が違うスレイプニルがいた。

 

『織斑一夏、凰鈴音、聞こえる?』

『聞こえる、聞こえるぜ、稲穂!!』

 

 鮮明に聞こえるようになった通信に一夏が返事をする。稲穂は通信ができるようになったのを理解するとスレイプニルの別の機能を使い始める。

 

『ISはどうなってる?』

『えっ、えっと……』

『アリーナの中央、そこで立ち呆けしてるわ。動く気は一切無さそう』

『他には?』

『他? ……なんか、不自然なのよね。普通、動いていない敵がいたら攻撃するはずなのにコイツ、動く気が一切無いのよ』

『分かった』

 

 稲穂が通信を切る。鈴はそれに何か言いたそうにしていたが、一夏の顔が苦笑いになっていることからこれが稲穂の普通であると判断して、深いため息を吐いた。

 そして、ため息を吐かれた稲穂は手を休めることなく、今度は別のところに通信をつなげる。

 

『山田先生、聞こえますか?』

『……貝塚くん!?』

『ISを使ってのシステムクラックをします。許可をお願いします』

『えっ、えっ?』

『良いだろう、許可する。ただし、生徒たちの避難の為、アリーナの方を最優先しろ』

『分かりました』

 

 システムクラックの許可を取った稲穂はスレイプニルの腕部の装甲を解除し、仮想キーボードを展開する。

 そして、自分の周囲に人がいないことを確認した稲穂は1度目を閉じる。

 

「…………リーゼ」

 

 名前のようなものを呟く稲穂。刹那、稲穂は自分の意識の中に別の意識が入ってきたのを感じた。

 そして、スレイプニルにはあるウィンドウが開かれる。

 そこには『ワンオフアビリティ、《人機同体》の文字が現れる。

 

「副腕展開」

 

 稲穂の言葉とともにスレイプニルの背中、そこにあるバックパックから2本の腕が展開される。そして、その2本の腕にも仮想キーボードが現れる。

 

「副腕操作、異常なし。システムクラック、開始」

 

 稲穂の指が、スレイプニルの副腕がそれぞれ動く。それと同時にスレイプニルの周りを覆うように展開されたディスプレイには赤で塗りつぶされた画面が出力される。

 

「副腕で学園のシステム奪還、メインでアリーナの避難誘導と出入り口のシステム奪還」

 

 次々と変わっていくディスプレイの様子をハイパーセンサーによって確認しながら稲穂も、スレイプニルも手の動きを変えない。

 次々と赤から青に染まっていくディスプレイ。そのうちの2つが完全に青に染まったタイミングで、アリーナの中で変化が起こった。

 

『稲穂! アイツが動き出した!!』

 

 そう、先ほどまで沈黙していたISが動き出したのだ。

 

「織斑一夏、凰鈴音、2人で時間稼ぎ。攻撃を当てることより注意を引き付けることを優先して」

『了解!』

『分かったわよ!』

「敵ISの解析、各種センサー稼働。避難経路確保、扉の開閉、電子掲示板などによる避難経路の指示……完了。全システム、掌握……完了。アリーナの出入り口、ロック解除」

 

 バシュッとアリーナの観客席、そのすべてのロックが解除され扉が開いた。それを見るなり慌てて中に移動する生徒たち、稲穂はそれを見ながら今度はアリーナではなく強化シャッターで閉じられたモニタールームのシステムへと介入していく。

 

「緊急システム、一時停止。外部接続の形跡を確認────学園内部からのアクセスを確認。場所の特定……完了。出入り口のロック解除」

 

 稲穂の手が止まる。それとほぼ同時に稲穂のところに本音が戻ってきた。

 

「なおなお〜。頼まれたこと〜、やってきたよ〜」

「ありがとう。避難して」

「了〜解〜」

 

 本音が開いている出入り口から外へ出て行く。それを横目で見ながら稲穂は現在戦っている一夏と鈴の方を見る。

 敵ISは一夏と鈴の攻撃を躱しながらその手に持った青い光を放つ刀で攻撃し、一夏たちはそれを避ける。幸いにも動きは遅く大振りなため鈴は勿論のこと一夏も余裕を持って回避できている。

 

「熱源センサー起動、各種センサーで観測────」

 

 刹那、稲穂を狙ってレーザーが降ってきた。

 稲穂はそれを後ろへ退がることで回避。そのままレーザーの先を見ようとするが場所が悪く、そこはアリーナの屋根で隠れて見えない。

 

『稲穂────ッ!』

「大丈夫。自分のことに集中して」

 

 屋根で隠れて相手は見えない。それはおそらく相手の方もそうなのだろう、次の攻撃が来ない。

 攻撃できないのか、それともしない理由があるのか。稲穂は敵ISを解析しながら考える。だが、状況はそれを許してはくれなかった。

 

『……っ! 今度は何だ!?』

『まさか、増援ッ!』

 

 アリーナに数発の弾と巨体が降ってきた。稲穂たちのISに新たな情報が出てくる。敵ISが2機上から降ってきたことをハイパーセンサーが捉え、操縦者に教えたのだ。

 降りてきた敵ISは片方は極限まで捕捉した人形のような姿を、もう片方はそれとは真逆の装甲がかなり厚い達磨のような姿をしたISだった。

 

「……敵ISが、3機。いや、4機か」

『ちょっと、この状況洒落にならないわよ……っ」

「織斑先生」

『今、黒崎とオルコットをそちらへ行かせた。織斑、凰は一度戦線から離脱しろ』

『何でだよ千冬姉! 俺たちは────』

『馬鹿者! 自分のシールドエネルギーを把握していないのか! 白式も、甲龍もシールドエネルギーは危険域だ! 一度離脱し、エネルギーを回復しろ!』

 

 強い口調で一夏を止める千冬。だが、稲穂はそれに対して少しだけ考えると────。

 

「織斑先生、それは無理みたいです」

『なに────?』

 

 スレイプニルの両腕、両脚に新たな装甲が展開される。そして背部装甲、バックパックも新たに展開される。

 閉じた翼のような3対の棘が付いた大きなバックパック、追加された装甲は普段の装甲よりも厚手だが、脚部の大きなスラスター『キックスラスター』と同じように何か、畳んでいるような感じになっている。

 

「敵ISは……僕らを逃すつもりはないみたいですから」

 

 稲穂のその言葉と同時に、人形のようなISが白式と甲龍に迫った。

 

『こいつ────ッ!!』

『なんて、速さよ!!』

 

 一夏と鈴が辛うじて、そのISの攻撃を躱す。警戒は解いていなかった、いや、逆に警戒は最大限していた。

 それなのに、2人が……いや、2機のISのハイパーセンサーが見失うほどの速さをそのISは出した。一夏と鈴が躱せたのは運が良かったからとしか言えなかった。

 だが、ここにはまだ脅威が残っている。刀を持ったISが体勢の崩れた鈴へと接近、その刀を振り下ろす。

 

『────ッ!?』

 

 躱しきれず甲龍を掠める刀。だが鈴はそれに安堵できなかった。

 何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『な────ッ!?』

『嘘ッ! これって……』

 

 鈴も、一夏もそれを知っている。いや、一夏に至ってはそれを使っている。

 

「雪片と同じ、バリアー無効化攻撃」

 

 アリーナからそれを見ていた稲穂がポツリと呟き、納得する。

 稲穂が敵ISを見て……いや、この状況を見て最初に思ったのはどうやって遮断シールドを突破したかだ。遮断シールドはシールドエネルギーと同じかそれ以上の硬度を誇っている。

 一夏と鈴が抑えていた時に、敵ISの武装を調べて、あの刀が高出力のプラズマの刃だというのを確認していた。

 だが、その刀で遮断シールドは突破できない。できるはずがないと稲穂は考えていたが、あの刀が雪片と同じバリアー無効化攻撃ならば遮断シールドの突破は容易である。

 

「凰鈴音、残りのシールドエネルギーは?」

『あと200! ついでに一夏はあと150!』

「予測戦闘可能時間は残り5分だけか」

 

 鈴から聞いたシールドエネルギーの残量から稲穂は一夏たちの戦闘可能時間を計算する。

 残り時間は僅か5分。それまでに敵IS3機を撃破できなければ、最悪死人が出る可能性がある。

 だが、それはあまりにも現実的ではないと稲穂は結論づけた。

 何故なら敵ISの能力、性能など殆どが不明。解析をしてはいるがそれでもある程度の時間が必要。

 仮に、解析が終了したとしても現状の解析速度で計算すると一夏たちが戦える時間は僅か30秒。

 

「仮説はあるけど確証が持てない。なら実証してもらうしかない」

 

 レーザーが空から降り注ぐ。だがそれは一夏と鈴の周辺を避けている。そう、これは敵の増援ではなく援護だ。

 

『一夏さん! 鈴さん! ご無事ですか?』

『悪い、遅れた!』

 

 一夏たちの視界に上を示して表示されるのは自分たちの援軍である『ブルー・ティアーズ』と『インパルス』の文字。

 そして、近づいてくる『黒鉄』の文字。

 

『一夏、鈴!』

『秋一!』

 

白式(一夏)』、『甲龍()』、『ブルー・ティアーズ(セシリア)』、『インパルス(シン)』、『黒鉄(秋一)』、『スレイプニル(稲穂)』。今現在、専用機を扱える1年生がここに集結した。

 だが稲穂はこれで自分たちが有利になったとは思わない。確かに数だけを見るなら6対3……もしくは4。数の差であれば有利と言えるだろうがここにいる全員が……いや、今の世界でこんな数での連携訓練を行なったことがない。

 何が言いたいかというと、要はこれだけの人数がいても連携できなければ数の有利は活かすことができないということだ。

 

『一夏、接近しすぎよ!! もう少し離れて!!』

『ッ、あぶねッ!?』

『悪い!』

 

 一夏が敵に近づき過ぎてセシリアがビットを使えない。接近しようと加速したシンの目の前を通り過ぎる秋一の弾丸。その他にもあるが全員が連携を出来ず乱戦状態になっている。

 そんな状況で稲穂は危険な攻撃だけを狙って撃ち落としつつ、敵ISを解析していく。

 仮説はできた。けれどまだそれは確証には至っていない。確証に至るためには────とそこまで考えると稲穂は通信を全員に繋げながらこの状況を見ているはずの千冬へと通信を繋げる。

 

「織斑先生」

『…………どうした?』

「アリーナの指揮を、僕に預けてくれませんか?」

 

 その言葉はアリーナで戦っている全員が移動をしながら驚愕する。

 代表候補生であるセシリアと鈴は稲穂の言った指揮権の譲渡の要求に、それ以外の一夏、秋一、シンの3人は稲穂がそう言うことを言うとは思ってもいなかったから。

 だが、千冬は稲穂の発言に驚愕することはなく自分の近くにいる真耶に目配せする。真耶はそれに気づくとフルフルと首を横に振る。

 逡巡は一瞬。千冬の出した結論は────。

 

『分かった。アリーナでの指揮権を貝塚に譲渡する』

「ありがとうございます」

『織斑兄弟、黒崎、オルコット、凰。聞いていたな? これよりお前たちの指揮は貝塚がやることになった。指示を聞くように。これは命令だ』

 

 ────稲穂の提案に乗ることだった。

 それを聞いた全員はそれぞれが思うところはあるが、すぐに『了解』と返事をする。

 

(第一段階はこれでクリア。これで仮説の証明ができる)

 

 それを聞いた稲穂はすぐに全機の位置を把握する。下の方には敵ISが3機集結している。上空にはいつでも仕掛けられるように一夏と鈴、シンが下、鈴が中間、残りがその上で射撃できるように構えている。

 好都合だと稲穂は考え、通信を入れる。

 

「セシリア・オルコット、織斑秋一、敵IS3機に射撃。無理に当てようと思わなくて良い。織斑一夏と黒崎シンはもう少し上に移動して、凰鈴音はそこで待機」

『『『了解!』』』

 

 稲穂の指示通りに全機が動く。敵ISはまったく持って動く気配を見せない。その様子を観察しながら稲穂は上空にいると思われるもう1機から狙われないように小まめに位置を調整していく。

 そして、上空から3発のレーザーと弾丸が敵ISを狙って放たれる。

 それに真っ先に反応したのは人形のようなISと達磨のISだった。達磨のISが刀を持ったISを庇うように位置を変更。人形のような姿のISはその射線からいち早く離脱し、射撃してきた2機へと接近する。

 

『な……っ!?』

『反応が速すぎるだろ!!』

 

 射撃した2人が自分たちに接近してきた人形のようなIS────以降高機動型と呼ぶ────を見てあり得ないと思った。

 先ず、その機動力。いや、速さとも言えるもの。いくらPICやシールドエネルギーがあるとは言えそれにも限度がある。

 例えば、瞬時加速(イグニッション・ブースト)。瞬時加速は爆発的な加速を生み出すことができるコレだが、急な旋回などができない。だが、それは全くできないというわけではない。できるが、急な旋回などで起こる負荷に身体が耐えられないのだ。

 だと言うのにこの高機動型は瞬時加速と同じか、それ以上の速度で旋回などをやっている。

 そして、何よりも驚くべきはその反応。ISは狙われた時などに操縦者に対して警告を出すが、それを出してから操縦するまでに少しのズレがあるはず。なのに、この高機動型と下にいる達磨のようなIS────以降防御型と呼ぶ────はそのズレが殆どない。

 まるで、警告が出ると同時に動いているかのようなその動きに稲穂は仮説の1つが正しかったことを確信する。そして、確信すればそこからは早い。

 稲穂はスレイプニルに搭載されている全てのセンサーを酷使して敵ISの解析を早めていく。

 

(外からのスキャンだけだと遅すぎる。なら────)

「全機に通達。敵ISは全て無人機、攻撃に手心を加えなくても良い」

『無人機!? ISは人が乗ってないと動かないはずじゃ────』

「現に実物がそこに在る。それに今はそのことで何かを言う時間が惜しい。敵ISそれぞれに仮ネームを付与、データ転送」

 

 高機動型を牽制するように稲穂が狙撃をする素振りを見せる。それに反応して高機動型は稲穂の射線上から離脱、刀を持ったIS────以降近接型と呼ぶ────の方へ戻っていく。

 

「データ転送終了。これからそれぞれグループに分けて敵ISの各個撃破をする。作戦時間は……1分」

『はぁっ!? 1分って短過ぎだろ!!』

 

 稲穂がデータを転送しながら作戦時間を宣言すると、シンがそれに反応した。いや、言ってはいないが一夏たちもシンに同意見だった。幾ら何でも1分で敵IS3機を倒すなんて、出来るはずがない。

 だが────。

 

「白式と甲龍のシールドエネルギーの残量からして1分が限度だ」

『……勝算は?』

「相手次第。でも最低でも6割くらいだと思ってる」

『……分かった。俺は乗るよ稲穂の作戦に』

『そうね。このまま無策に戦っても時間の無駄だし、あんたに賭けるわ』

『やるしかない……か』

『了解しましたわ』

『やってやるさ』

 

 稲穂のデータ転送が終わる。それと同時に稲穂は高機動型を牽制しながらそれぞれに指示を出していく。

 

「セシリア・オルコットは高機動型を牽制。黒崎シンと織斑秋一には防御型を、織斑一夏、凰鈴音は近接型を撃破してもらう」

『『分かった!!』』

『『了解!』』

「詳細は今送ったデータを参照。僕は全体のカバーをするから、各自、送ったデータをもとに動いて」

 

 稲穂が再び高機動型に狙いを定めると高機動型はその射線から逃れるように上昇する。だが、その先には複数のレーザーの雨が。ブルー・ティアーズのバットによる攻撃だ。

 

「やっぱり警告と同時に動くように設定されてる。なら────」

 

 稲穂が照準だけを高機動型の胴体、その少し下に向ける。すると高機動型はそれから避けるように上へ上へと上昇していく。稲穂の狙い通りに。

 

「セシリア・オルコット、出来るだけ機体の下の方に照準を当てて。そうすれば上に逃げる」

『分かりましたわ!』

 

 在る程度の高度まで上昇したのを見つつ稲穂は防御型にもう片方の手に展開した狙撃銃を向け、発砲する。だが放たれた弾丸は防御型の防御を抜くことはできなかった。

 

(思った通り、高機動型と防御型は照準を向けられると同時に動いてる。そして、あの機動力の高さの秘密と防御力の高さの秘密は分かった)

 

 稲穂が次の武器を展開する。展開されたのはとても大きな銃……いや、ランチャーだ。

 

「照準良し。織斑一夏、黒崎シン、準備は?」

『できてる!』

『いつでもいける!!』

「ならファイア」

『『ちょっ!?』』

 

 一夏とシンの驚きの声を無視して稲穂が7発のミサイルを防御型と近接型に向けて撃つ。

 防御型はその場に止まってミサイルを受け、近接型はその手に持つ刀でミサイルを切り捨てる。敵ISに、稲穂の攻撃は通用しない。だが、それで良い。

 ミサイルが爆発。それと同時に赤色に着色されたスモークがアリーナの下を覆った。

 

「織斑一夏、黒崎シン」

『行く!』

『行くぞッ!!』

 

 着色スモークにより視界が悪くなったアリーナの下の方に2機のISが突っ込んでいく。

 そして、一夏とシンはそれぞれの相手に向けて剣を振るい小規模の爆発がスモークの一部を吹き飛ばした。

 爆発したのは近接型の片腕。どうやら、一夏の剣は身体を外れ、片腕だけを切り落としたらしい。

 では、もう片方のシンは外したのかといえばそうではない。確かにシンの攻撃も命中した。だが、その防御力の前では無意味だっただけだ。

 

「織斑一夏、一度退いて。黒崎シンも」

 

 一夏とシンが言われるがままに退いていく。そして、それと同時に煙が晴れる。

 霧を払ったのは近接型。だがその片腕は一夏により切られていて、機械の部品がその断面から見える。着色スモークの影響からかその装甲は最初に見た白ではなく赤色に染まっていた。

 もう片方の防御型は近接型と違い、スモークに覆われる前の姿を維持していた。

 その姿を見た稲穂は自分の仮説が正しかったことを理解する。

 

(やっぱり、防御型は『シールドバリアーの強化による武装化』の研究を発展させたもの。近接型はさっきまでの解析のデータから推測すると『ワンオフ・アビリティーの再現』の研究か)

 

『シールドバリアーの強化による武装化』とは第2世代ISを開発する時に、とある企業がやった研究名だ。

 シールドバリアーとはISの周囲に展開されている不可視のシールドで攻撃から操縦者を守っているものだ。『シールドバリアーの強化による武装化』はそれの出力を上げることでそのシールドバリアーを攻撃に転用できないかと言う研究だ。

 結果は転用可能とのことだったが『シールドエネルギーの消費量の多さ』、『強化したシールドバリアーによるハイパーセンサーの阻害』など致命的な欠陥が見つかったため研究はそこで中断した。

 稲穂は防御型がその研究を基に作られたISではないかと考えていたが、着色スモークによって稲穂は自分の考えが合っていたことを確信した。

 防御型のISの所々に少しだけ付いている赤い塗料。これこそが、稲穂が確信した理由。

 この研究の欠陥の一つ『シールドバリアーの一部展開不可能』という欠陥。そう、シールドバリアーが張られているのであれば着色スモークの塗料の色が着くはずが無い。なのに、着いたということはそこにシールドバリアーがないということだ。

 ────ということは。

 

「織斑秋一、黒崎シン、赤い塗料の着いた場所を攻撃。そこであれば攻撃が通じる」

『『了解!』』

 

 さて、ここで一つおかしいと思った人はいないだろうか。

『シールドバリアーが張られたいるのであれば塗料の色が着くはずが無い』。

 そう、ならば何故近接型に塗料が着いたのか。それは簡単だ。

 近接型にはシールドバリアーが張られていないのだ。

 

「近接型のデータ収集完了。なるほど内部でシールドエネルギーを増幅・刀に伝達することで擬似的に雪片と同じバリアー無効化攻撃を再現しているのか」

 

 近接型の方に使われた『ワンオフ・アビリティの再現』という研究は第1回モンド・グロッソで優勝した織斑千冬の専用機暮桜の『零落白夜』を再現するのを目的としたものだった。

 この研究をしていた研究員は『零落白夜』をシールドエネルギーをシールドバリアーにぶつける事によってシールドバリアーを中和しているのではないかと考え、それを研究した。

 結果は……成功とも失敗ともいえるものだった。

 確かに、『零落白夜』の再現には成功した。では何を失敗したのか。

 失敗したのは『安全性』だ。この再現に成功はしたものの、そのためにIS3機分のシールドエネルギーを使用、さらには実験中ISのシールドエネルギーを全て注いだためシールドバリアーどころか絶対防御さえも発動できない。使用者への安全性というものが一切無く、また実験中にシールドエネルギーが暴発。研究所の半分が吹き飛ぶほどの被害も出したため、この研究は凍結された。

 

「どちらもシールドエネルギーの消費量が多かったはず────なるほど、装甲の内側に大量のエネルギーパックを確認。ここから、エネルギーを回しているのか」

『稲穂?』

「織斑一夏、近接型の腰部の一部を切って」

『えっ、おう?』

「その後織斑一夏は上へ離脱。織斑秋一、黒崎シンも同様に離脱して」

『わっ、分かった』

『了解』

「凰鈴音は織斑一夏のISがエネルギー切れで解除される可能性があるから織斑一夏の近くにいて」

『分かったわ』

 

 この戦いの終わりが稲穂には見えてきた。だが油断することはしない。

 上空でこちらを窺っているまだ姿の見せていないISが乱入してくるのかもしれない。何か不測の出来事が起こるかもしれない。

 そういった『かもしれない』がある以上、稲穂は一瞬たりとも気を抜くわけにはいかなかった。

 そんな稲穂を他所に、状況は変化する。

 アリーナでは秋一とシンが色の付いた装甲を攻撃しながら上昇。一夏もまた、近接型の腰部の一部を切り裂き、上昇して離脱していた。

 

「黒崎シンと織斑秋一はセシリア・オルコットの援護に入って、凰鈴音は防御体勢。これから衝撃がいく」

『『了解』』

『分かったわよ。一夏、もう少し近づきなさい!』

『わっ、分かった』

 

 ライフルを構えた稲穂が狙うのはただ一つ。一夏が付けた近接型の腰部の切り口。その奥にあるものに向けて後ろの棘、『アンカー』を射出した。

 

「ハッキング開始、プロトコル解析、システム同調終了。()()()()()完了。ターゲットロック……ファイア」

 

 上にいるシンたちにバレないように作業を終えた稲穂が切り口に弾を撃つ。弾は寸分のズレもなく正確に切り口の奥にあるエネルギーパックを撃ち抜いた。

 ドゴォォォンッ!! 

 とてつもない爆発が近接型を中心に起こった。爆炎と爆風がアリーナからそこそこ上の上空まで襲う。

 その爆発の衝撃に全員が、驚く。事前に稲穂の指示を受けて上昇していなければあの爆発に巻き込まれていたのだと理解する。

 高機動型もその爆発を検知すると何を思ったのかその爆発に()()()()()()()()()()()

 

『はぁっ!?』

『鈴! 驚いてる暇があるんだったら上に上がれ! なんか嫌な予感がする!!』

 

 秋一の勘は当たっていた。高機動型が爆発の中に消えてしばらく経つと一際大きな爆発がアリーナを襲った。

 そしてその衝撃は上昇していた秋一たちも襲い、そこで全員の意識はなくなった。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 学園の地下の隠された空間。

 そこではクラス対抗戦に乱入してきた正体不明のISの戦闘映像が流されていた。

 パシュッと扉が開く。その空間にいた千冬と真耶は入ってきた人物に顔を向ける。

 

「怪我をしているのにすまないな。貝塚」

「仕方ないことだと思います織斑先生」

 

 入ってきたのは稲穂だった。だが、その姿は何時もとは違った。IS学園の制服を着ているが、頭には包帯、左頬にはガーゼが付けられている。

 最後の爆発。あの時、稲穂はアリーナの観客席にいた。

 シールドを展開したもののその程度では爆発を抑えきれず、絶対防御が発動。なんとか、この程度の怪我で治まった。

 

「さて、話してもらうぞ貝塚。あのISについて」

「……その前に、一つ訂正させてください」

「なんだ?」

「今回襲ってきたIS。アレは正確にはI()S()()()()()()()()

 

 稲穂の言葉に、真耶も千冬も固まる。

 ISと同等、もしくはそれ以上の兵器は存在しない。それはこの世界で生きる誰もが知っている常識だ。

 なのに、今稲穂はその常識を否定する言葉を放ったのだから、真耶と千冬が固まるのも無理はないだろう。

 稲穂はそんな固まってる2人を他所に手を出す。すると、そこに光が集まって、四角いキューブが現れた。

 

「これを解析すれば、分かります」

「……山田先生、すぐに解析を」

「はい」

 

 真耶が部屋から去っていく。その様子を見ながら稲穂は千冬が先ほどから気になって仕方がないことを知っているかのように言った。

 

「今回の件、束さんは何も関与していません」

「……根拠は?」

「束さんが関与していたら、僕ではクラッキングできませんから」

 

 稲穂の言葉に千冬は「そうか」とだけ言い、戦闘映像の方に視線を戻した。

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

「────以上が、今回の任務の報告、です」

「そうか。ありがとう『A』。ゆっくり休みたまえ」

「はい、です」

 

 シャッと扉が開き、『A』と呼ばれた少女が退室する。

 そして、誰もいなくなった部屋で男は先ほどの少女から渡された戦闘記録を確認していく。

 

「ふむ。予想以上に対応が早かったな。それに、流石だと言わせてもらおうか貝塚稲穂。まさか、あの短時間で私の無人機の弱点に気付くとは」

 

 映像が終わり、次に出されたのはIS学園に保存されていた専用機のデータ。

 

「『黒鉄』は今は何も言えないか。だが、『インパルス』。まさか、この世界にガンダムが現れるとはな」

 

 今回の襲撃。男には2つの目的があった。

 1つはIS学園への襲撃。もう1つは、IS学園にある『インパルス』並びに『スレイプニル』のデータの収集。

 転生者ではないこの世界で純粋に現れた原作にいない存在(イレギュラー)が製作したISの情報を男は欲したのだ。

 

「なるほど、インパルスの装甲はVPS装甲(ヴァリアブルフェイズシフトそうこう)ではなく、装甲を上から重ねて各シルエット……いや、各パッケージに適した装甲に換装させているのか」

 

 次へ次へと分析されていくインパルス。だが、男はその中で、ある1つの事実に気がついた。

 

「……これは、クックック。なるほど、中々やるな貝塚稲穂。まさか兵器としての部分を大々的に挙げ、1番重要なことは何一つ書いていない。これは、IS学園……いやIS委員会の方か。其方は気づかなかったとみるべきか。やってくれる」

 

 愉快そうに嗤う嗤う。

 

「まあ、良いだろう。いずれは墜とさねばならぬ敵としても、今はその時ではない。それよりも今はやるべき事がある」

 

 全てのデータが一度消え、1つのあるデータが男の前に現れた。

 

「私だ。例のシステムの改修したものをそちらに送る」

 

 そのデータにはこう書かれていた。

 

『Valkyrie Trace System』と。

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