Fate/Avenge   作:ネコ七夜

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オリ鯖回


嘘7話

 

 

たった一人の少年が今宵英霊を呼び出す

 

 

 

たった一人になってしまった少年が召喚するは役割を放棄した器

 

 

役割の破綻した存在

 

 

 

 

 

―――――されど汝は

 

その眼を混沌に曇らせ侍るべし。

 

汝、狂乱の檻に囚われし者。

 

我はその鎖を手繰る者――――

 

 

 

 

召喚の詠唱に挟まれるは狂気の言の葉。

 

 

 

かつてこの場所で、10年前の同じ場で間桐に連なる者が発した狂気の呪文

 

 

それは自己を蔑にし、自己を貶め、自己を殺し、自我を狂気に堕とす狂化の詠唱。

 

 

召喚者の魔力を食いつぶし、自らの能力に制約をかけるとともに、限界の箍を壊す魂の牢獄。

 

 

 

 

 

狂え

 

 

 

狂え

 

 

 

 

 

召喚に媒体は必要ない

 

 

 

そんな物はいらない

 

 

 

ただその1点において間桐の英知を呑み干した少年は確信を得ている。

 

 

今この状況において誰を呼び出すかを

 

 

 

ダレヲ狂気に落とそうとしているかを。

 

 

 

少年は上半身の服を全て脱いだ、半裸の状態で右手に古い本を持ち詠唱を続ける。

 

 

 

 

 

 

描かれた魔法陣は追い出した妹の血で描かれたモノに自身の血で一部を書き足した、通常よりもさらに複雑な召喚陣。

 

 

ある意味使いまわしにもかかわらず、その陣から今まさに現れんとする召喚の光は正常に起動していることを意味する。

 

 

「――――ブグゥ…………ゲヒッ!!――――ぅくしょう………ッ!!!!」

 

少年の体中から血がブクブクと吹き出るように溢れてくる。

 

 

普段の少年ならその事実だけで無様な声を上げ、取り乱し卒倒してしまう筈なのだが、今夜はそのような影は何処にもない。

 

少年は険しい目つきで、揺るぎない信念を持った狂気の瞳でただ前を見つめる。

 

 

「――――流体制御、覆水洗礼照準。」

 

 

その言葉と共に流れ続ける赤はぴたりと止まり―――ウゾウゾと、まるで化生の類のように、蟲のように少年の体を這いずりまわり紋様を作り上げていく。

 

 

 

「オドよりマナの道を経て大海を埋める。」

 

 

 

ギリギリと血でできた紋様がまるで少年の体を締め付けるように、その肉へと喰らいつき沈んで逝き、まるで刺青のように、まるで刻印のように

 

 

 

 

まるで神経ののようにギリギリと身の内に同化しようとしているかのごとく―――――

 

 

少なからず自身を持っていた貌に、弓を引くための引き締まった体に、焦げ付くように刻まれる文様はこの世全ての悪とは違う。

 

 

それは己が家の滅んだ証。

 

 

間桐の当主にのみ許された刻印の複写。

 

 

既に、そんな奇跡の領域に手が届いているにもかかわらず、少年は聖杯戦争を追い求める。

 

 

 

 

 

「来い!!狂戦士ィ!!!!この僕に、この僕が!!間桐慎二が最強であることをお前が証明しろっ!!!!」

 

 

 

 

 

この僕を魔術師にしろ

 

 

 

そう高らかに願いを口にする。

 

 

 

この所業をもってしても間桐慎二は己が身を魔術師と認めない。

 

 

魔術師とはどのような存在であるか、彼は知らない。

 

 

それが見てきた世界の魔術師はたったの2人。

 

 

500余年を死せる生なき蟲の祖父、間桐の妖怪こと間桐臓硯と

 

 

嘗ての盟友であり、かつてその姿に恋心を抱いた遠坂6代目当主、遠坂凛のみ。

 

 

外道の魔術師である間桐臓硯はさておき、遠坂については自分の事を魔道に連なるものとみてすらいない為、魔術師としての姿を晒すことなど只の1度としてなかった。

 

否、魔道がただ研究と時代の遺産を残すという形でしかないモノとするなら、遠坂の在り方は正に術師なのだろうが、間桐慎二はそれを知らない。

 

 

故に、今の何も解らぬ自分は魔術師では無い。

 

 

知らない。間桐の英知にも、そんな魔術師とは何なのか?などという禅問答な資料など影も形もない。

 

 

あるわけがない。

 

 

だから彼は聖杯に願う。

 

 

聖杯を手に入れれば、聖杯に願いが届けば魔術師とは何なのか、魔術師とはどうあるべきかが解る。

 

 

そう信じて疑わない。

 

 

 

 

衛宮士郎がこの場にいたなら、その身は既に魔術師だろうと諭しただろう。

 

 

魔術師が彼を見たなら、嘲笑うだろう。

 

 

 

間桐慎二は気がつかない。

 

 

 

その身は家族を失い、家族を追い出し、尚も魔術を追い求める狂気に囚われているのだから。

 

 

 

 

 

「―――――――」

 

 

 

 

彼が召喚したサーヴァントは確かに狂戦士だった。

 

 

それは聖杯戦争を侵す規則違反。

 

 

それは誰もが考えつかなかった方法

 

 

 

 

少年の前に佇まう姿は、ボロボロの黒い外套を鍛え上げられた両の肩に引っ掛けるように背に流し

 

 

漂う気風はおおよそ少年が予想した人物とはかけ離れていたが、それも歴戦の兵を感じさせるものなら何を落胆することがあろうか。

 

 

 

そして何より目につくは獅子の髑髏を被ったその姿は間違いなく最強にしてとある教団の最後の一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、………っ…た―――――?はは、アハハハハハハハハハハハハハ!!!!やった!成功だ!!この僕が間桐慎二がお前のマスターだ。僕に勝利を、そして聖杯をこの手に差し出せ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗殺者(バーサーカー)!!!!」

 

 

 

 

 

 

少年が呼び出したのは暗殺教団首領。本来アサシンのクラスで呼び出されるそれは、静かな狂気に満ちていた。

 

 

 





狂化の属性を付加された暗殺者です。

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