Fate/Avenge   作:ネコ七夜

16 / 33
嘘11話

 

 

それは見るも無残な只一人の身の地獄

 

 

「待ってくれ、俺じゃない!」

 

 

民衆は男の叫びを聞き入れようとしない。

 

 

『お前のせいだ、お前さえいなければこんな結果にならなかった。』

 

「違う!違うんだ、そんなこと俺はしちゃいない!!」

 

そう、彼は悪行など行ったことは只の1度もない。

 

 

 

 

罪、罪、罪、罪、罪――――

 

 

 

おおよそ人の手による罪全てを男は被せられる。

 

 

 

『その罪人に指は不要』

 

 

足も含めその全ての指を失う男。

 

最後の親指を削いだのは何処かで見た親しかった筈のダレカ。

 

 

『世を見る眼は一つで事足りる』

 

 

方目を失っても男は死ぬことを許されない。

 

 

「■■■■■■■ッ!!!■■■■■■■■ーーー!!!!」

 

 

 

『―――その舌は不要』

 

 

 

舌を抜かれ、最早弁明も弁解も許されない。

 

 

 

『憎い、憎い、憎い、憎い、憎い』

 

 

 

体を縛りつけられまた一つ、また一つと罪状が体に彫り込まれていく。

 

 

顔に胴に、背に、腕に、足に、魂に。

 

 

『お前みたいなやつのことを言うんだよ、アンリ・マユって』

 

 

そんな訳ない。

 

こいつはいつだって他人を救うことだけを考えて、何の恩賞も何の感謝も何の褒賞も、一切を受け取らず、人助け自体が報酬として生きてきたんだ。

 

 

なのに『この世全ての悪』なんて呼ばれていいはずがない。そう、言うなれば差し詰め『正義の味方』だろう。

 

 

 

 

あれ、……じゃあ、アイツの『本名』って何なんだろう?

 

 

 

 

 

場面は変わって何処かの災害地。

 

最早絶望的なまでの地獄の業火は、彼を貶めていた人々を容赦なく焼き殺そうとしている。

 

 

これは覆すことなどできない運命、死せる運命が確定づけられた絶対の事実。

 

正義の味方でもいれば、英雄でもいればそんな運命を打ち破る奇跡でも起こすことができただろうが、そんな人物は居ない。

 

 

居たとしても、彼らはそんな人物を陥れ、偽り、騙し、欺き、罪なき正義に悪を着せてしまったんだ。助かる道理など何もない。

 

 

 

 

死せる運命の100人をが彼を引きずりだす。

 

 

『世界よ――――』

 

 

 

「―――――(ヤメロ)!!!」

 

指を削がれ、舌を抜かれ、方目を抉られ、罪状を彫られた男が、叫びにならない叫びを上げる。

 

 

 

『――――契約しよう、』

 

 

「(ヤメテくれっ!!!!)」

 

 

 

 

 

 

『此の者の死後を預ける。その報酬をここに、我らが貰い受けたい。』

 

 

 

 

『(ヤメロオォォォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!)』

 

 

 

 

彼らは助かった。罪人の死後を世界に売り渡し、奇跡を犯した。

 

 

彼の死後は守護者として縛られ、抜け出すことのできない永遠の牢獄へと囚われてしまった。

 

 

 

なのに、その果てに遭ったものが、剣の丘の処刑場。

 

 

 

 

 

「体は剣で出来ている

 

    ただの一度も罪はなく……ただの一度も正義は無し。

 

この世界は――――不滅の剣で満ちていた」

 

 

 

 

 

 

 

「――――最悪の朝だわ………」

 

アイツの過去なんて見るんじゃなかった。元から見る気なんてなかったわけだけれど。

 

サーヴァントとマスターは契約で魔力供給ラインが繋がっている。

 

 

その関係で、サーヴァントの過去を夢の中で見てしまうことがある、と言うのは聞いたことはあったけど……納得。

 

綺礼がどうしてそんなことを教えてくれたのか、僅かに疑問だったけど――――やってくれるじゃないの。

 

 

正義の味方はバットエンドで幕を閉じました……

 

 

最悪じゃない、そんな結末があっていいはずないのに。

 

努力して努力して、成果を上げた者が報われないなんて在っちゃいけない。

 

 

そいつは、その功績に見合う位幸せにならなきゃいけないのに、受けた仕打ちはよりにもよってこの世全ての罪状による処刑とは……

 

 

「だから、アンリ・マユ(この世全ての悪)か……」

 

 

今のアイツからは想像もできない善人ぶりじゃないの。あんなに笑って、はしゃいで、邪悪で――――

 

 

でも、確かにあんな風に裏切られ迫害されたら人間壊れてしまうだろう。

 

 

あそこまでニンゲンに『悪であれ』とされたら、本当に邪神だって作れてしまうだろう。

 

そんな奴だ、だからこそ人間をあそこまで躊躇なく殺せるのも頷ける。

 

むしろ復讐心を抱かない方がどうかしている。

 

 

だから復讐者(アヴェンジャー)なのだろうか?

 

 

 

「アヴェンジャー、居る?」

 

 

 

 

 

……………

 

 

 

返事がない。――――てぇえ!??

 

 

 

「アヴェンジャー!!?」

 

 

居ない?まさかアイツ、勝手に家を離れて何処かに出かけたというのか。

 

拙い。アイツ基本スペックが低いくせにやけに交戦を好む自殺志願者宜しくな奴だから、きっとサーヴァントを探しに行ったに違いない。

 

 

時刻は丁度7時、何だか嫌な予感がする。

 

 

昨日の晩に、昼間の交戦は余程人気のない場所以外は御法度だと教え込んでいたが、それが反って裏目に出たか。

 

あの馬鹿は小学生並みの感性しか持ってない、押すなと言われたボタンは是が非でも押してしまう夜となのか?

 

 

なんにせよ、今からでも遅くない。否、手遅れかもしれないが一先ず、あいつを私の下へと呼び戻さなければならない。

 

 

『アヴェンジャー!!!あんた今どこにいるわけ?』

 

 

そう、令呪と契約で繋がった魔術ラインを通して怒鳴りつけてみると。

 

 

『ヒャハハハハハハ!!!!サイッコウダゼェエエエエエ!!!!そうだよそうだよ!!!それでこそ俺だ!!ぶち殺してみろよこの俺を!ヒヒヒ、投影開始ィィイ(トレースオォォオン)!!』

 

 

最ッ高にハイな状態で戦っているらしい――――

 

 

 

 

 

 

『アヴェンジャー!!!』

 

 

『あ゛あ?んだよ、ひんぬー。人の楽しみ邪魔すんじゃねーよ、露出放置プレイさせっぞ?』

 

 

 

 





とある日常系の裏側でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。