教会の前にとあるひと組の聖杯戦争の参加者がいた。
一人は長身の青
その出で立ちは正に猛獣を思わせる、狼のようにぎらついた目を持ち、マスターと肩を並べている。
「それでは、私は監督役の神父に聖杯戦争の参加を伝えてきます。あなたはここで待機していてください。」
「律儀だねぇ。別にこんなしけた教会に、いちいち参加表明しに来なくてもいいんじゃねえか?」
「半分は私用でもあります。ここの教会の神父、つまり監督役とは知り合いでもあるので、上手くすれば何かいい情報を聞き出すこともできるかもしれませんし。」
「まあ、そう言うことなら仕方ねぇな。何かあったらすぐに呼べよ。」
「大丈夫です。そんな取って食われるようなこともありませんよ。」
受け答えているのは男装姿の女性。
バゼット・フラガ・マクレミッツ
魔術協会に所属する封印指定の執行者であり、第五次聖杯戦争においてランサーを召喚したマスター。
その胸には、嘗て対死徒戦において一時期共同戦線を張っていた言峰綺礼に僅かながら好意的な対応を期待していた。
言峰綺礼が何かを必死になって追い求める愚直な姿は今でも思い出せる。
本心こそ聞き出したことはないが、彼と語り明かした夜は鮮明な記憶として焼きついている。
自分はあれからさらに腕を磨き、協会から聖杯戦争への参加を命じられる程の大役を担う信頼を得るまでになった。
言峰綺礼はそんな聖杯戦争の監督役を務める程の立場にまでなった。
ならばこのめぐり合わせは、言わば運命だ。
そう思わずにはいられないほどバゼットは内心ときめかせ彼のいる教会の扉を開く。
「ようこそ、バゼット・フラガ・マクレミッツ。このような夜更けであろうとも、ここは迷える子羊を導く場所であり―――――聖杯戦争を監督する場でもある。君のような律儀なマスターがここを訪れてくれたことに感謝しよう。」
「お久しぶりです。言峰綺礼。背が伸びましたね。」
「これも信ずる神の悪戯か、私自身も驚いたところだ。」
「第一線から遠のいたから、筋肉の矯正が緩んだのかもしれませんね。」
「これはまた、皮肉な物言いだな。確かに全盛期の実力には遠く及ばないだろう。」
どこか嬉しそうに、そして懐かしむように言峰綺礼は口元を釣り上げながら笑う。
まるで、当時のことがおかしくてならないと言わんばかりだ。
しかし、そんなことはバゼットは知らない。
「ここに来たのは登録と、サーヴァントの召喚状況の確認にあります。」
「それは御苦労なことだ。――――ふん。教会の霊基盤には既に7つのクラスが召喚済みとなっている。どうやら君が冬木に集いしマスターの中で最も遅くこの地にやってきたようだな。」
「……私が最後、ということは……アインツベルンや他のマスターも既に……」
「そうなるだろうな。今回の聖杯戦争は前回から10年と異例の速さでサイクルが行われている。しかし、集いし者はつつがなく召喚の儀を取り行っているということだ。」
その言葉にバゼットは今回の聖杯戦争の構図を予想する。
50年もの短縮期間で始まった聖杯戦争。
つまり、本来の期間を見越して聖遺物の探索をしているであろう御三家は十分に目当てとする聖遺物を入手しているかどうか。
決して楽観視はできないが、発掘能力においてその莫大な資金と権力を惜しみなく使うアインツベルンは、この状況下においても十分強力な英霊の聖遺物を手に入れている可能性がある。
セカンドオーナーの遠坂につては協会からの情報で聖遺物探索の動きは確認できたが、話しによれば現在聖遺物探索の依頼状は取り下げられていない……つまり、今回の聖杯戦争に御三家として参加する可能性はあっても強力な英霊の召喚は出来ていない可能性が高い。
間桐については、前回の聖杯戦争で魔術素養のある次代が全て亡くなってしまったと聞き及んでいる。
今回の参加は絶望的と見ていいだろう。
そうなると、外来の魔術師は私を含め5人ということになるか。
恐らく、今回の戦闘は速効性と機動力が鍵となる。
何よりも、最初に尻尾を出した方が負けになると思う輩が多数を占めると思うだろうが、ならばこその短期撃破を主軸に置いた大胆な機動力が重要だ。
これに乗って強力な必殺を持った各個撃破を続ければ、相手は明確な対処方法を構築する前にこちらの牙にかかる。
その為には……
「言峰神父。実は折り入ってお願いがあります。」
「ほう、君から頼み事とは珍しい。何事もたった一人でこなしていく姿が印象的だったのだが……確かに、この聖杯戦争では、そのような心情も変えざるを得ないか。」
「あなたを戦友と思っての頼みです。」
「成程、嘗て同じ視線を駆け抜けた仲だ。正に戦友と呼ぶにふさわしいだろう。私は教会の代行者として、君は協会の執行者として。立場が違えど、対立する二極の勢力も凶悪な存在の前には共に戦線を切り抜ける必要があったからな。」
「ええ、あの時の戦線を共に切り抜けた貴方だから頼みたいのです。言峰綺礼――――」
「――――私に協力して頂けませんか?」
言峰はしばし考え込むような姿勢をとりバゼットから背を向ける。
バゼットは気がつかない。
その口元と表情が、どうしようもなく邪悪に歪んでいることを。
「残念ながら、その頼みは承諾しかねる。いくら戦友とはいえ今度の聖杯戦争においては協会と教会、双方から監督役の任命を受けている。魔術協会からのみの任命であれば吝かでもなかったが、聖堂教会からは私の所属する第八秘跡会直々の通達だ。それに、私は御三家の遠坂において後見人も務めているのでな。向こうにも一切の助け伊達はしないと言ってある傍で別のマスターに肩入れをするのも義に反する。」
「……そう、ですか……残念ですがそこまで強い信念の下監督役を務めているのなら、これ以上は貴方の信条を害するものになってしまいますね。」
「こちらこそ、戦友に協力できないのは心苦しい限りだ。」
「――――迷惑にならなければ幸いです。…では、私はこれで失礼します。開始の宣言はこの後すぐにでも行うのですか?」
「そうだな。この後教会の前にある街灯が赤く光る。それが聖杯戦争開始の合図となる。くれぐれも帰りには気を付けることだな。」
「そちらも、外来の魔術師には貴方の姿は良く映らないかもしれません。油断しないようにしてください。」
「たしかに、『第一線から遠のいた身』だからな。まして、サーヴァントに狙われてはひとたまりもない。その時は監督役ながら不本意ではあるが、『参加者を頼る』かもしれないな。」
「クスッ、そうですか。では……」
バゼットは苦笑交じりで教会の扉を閉めて行った。
そう、バゼット・フラガ・マクレミッツは何事もなく教会から出て行った。
出ていくことが出来た。
「意外だな。てっきり貴様は、あの女の令呪を腕から根こそぎ奪うものだと踏んでいたのだが?」
「物騒な物言いだな。私は神に仕える身であると同時にこの聖杯戦争における監督役だ。規律を重んじる聖職者としてそのような悪徳をする筈がなかろう。」
「ハッ、ほざけ。どうやらこの10年で我を甘く見始めているな。その不敬、早々に改めねば六道おも超える末路を味遭わせるぞ。」
「ほう、どうやら相当に貴様は『アレ』が気に障ると見た。その表情、なかなかに見物だぞ。」
「当然だ。あのような雑種は我が最もこの世で消すべきとしている物の最たる例だ。未だ息を引き取らせぬのも貴様の児戯に付き合っているが故だ。」
「そちらも掃け口として重宝しているように見えるが?―――――まあ、それは置いておこう。」
「ふん、―――――しかし、今度の聖杯戦争も歪なものだな、あの女に言った言葉には確かに嘘は無しか。」
「嘘など無い。既に7つ『以上』のクラスが現界している。」
「本来聖杯には7つを越える英霊の召喚は機能として備わっていない筈であろう?」
「確かに、凛が召喚した英霊がクラス外とするなら、霊基盤に7つのクラスを示す物の中で確実に欠番が生まれる筈だ。しかし、通常のクラスはすべて埋まっている。ならば考えられるのは―――」
「同時に複数クラスを召喚したか、多重クラスの召喚か、いずれにせよまっとうな輩では無いな。だが、雑種ごときがいくら集まろうが我に相対するまでもない。雑種は雑種同士で戯れさせておくとしよう。」
「それまで、今しばらく大人しくしているのだな、ギルガメッシュ。」
「なあ、お前らは魔術師とサーヴァントでいいんだよな?」
バゼットは教会を後にし拠点としている洋館へ向かう道の途中で一人の少年に声をかけられる。
そこから発せられたのは紛れもなく聖杯戦争に関わるフレーズ。
つまり
「ランサー。貴方はどうやら運がいいみたいですね。」
「だろう?早々に相手から誘われるなんざついてるとしか言いようがねぇからな。」
ランサーはそう言いながら魔槍を構える形でバゼットの前へ出る。
場所は住宅街の中にありながらも自然なスペースである公園。
丁度良く辺りに霧が出ている今は、秘匿を前提とした戦いの場にはもってこいだろう。
「行くぞバーサーカー。こいつを殺しつくせ。」
☆
バゼットさんマジ主人公サイド。
そしてワカメちゃんマジイリヤ役(笑)
神父さんがバゼットさんをキラヨシカゲしなかったのは『必要がなかった』からです。