Fate/Avenge   作:ネコ七夜

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嘘21話

 

 

 

 

「マスター、聞こえるか?」

 

 

『はい、えっと……まだノイズが若干あって掠れてますけど』

 

「それは仕方あるまい。本来は令呪と契約ライン、この二つによってサーヴァントとマスターが結ばれている。」

 

「そこを令呪を偽臣の書に移し、言わば周波数が少しズレてしまってるんだ。感覚共有の念話も聞き取りづらくなるだろう。」

 

 

現在、間桐桜は3角の令呪をそれぞれ偽臣の書に移し、それを自ら所有する形をとっている。

 

 

これはアーチャーが桜に提案したことであった。

 

単独行動スキルを持つアーチャーは魔力供給を断たれても3日は存命できる。

 

このことから、桜との接触を極力避け、2日に1度魔力供給のために霊体化して活動の詳細を伝えるように取り決めをした。

 

その間、桜の現在の生活を重視する為に目立つであろう令呪を隠す意味でのアーチャーの心遣いにより、傍から見ればマスターかどうかはほぼ分からなくなっていた。

 

 

そして、現在はマスターが寝泊まりしている藤村宅の、隣に建つ住宅の屋根から窓際にいる桜の様子を窺いつつの交信をしている。

 

 

「まずは他のサーヴァントとマスターの報告だ。」

 

 

「私が直接に視認したサーヴァントは4、いや3体だ。キャスター、ランサー、バーサーカー、……それと、アサシン――――以上になる。」

 

『……?えっと、4つのクラスなのに3体ですか?』

 

「ああ、今回のバーサーカーについて、その真名はランサーとの戦闘を監視して分かった事なんだが、ヤツはハサン=サッバーハで間違いない。」

 

 

『ハサン―――っ!?それって!』

 

「ああ、暗殺者(アサシン)のクラスで現界する筈の英霊だ。それがどういう訳か、狂戦士のクラスとして呼び出されている。」

 

『そんなことって……』

 

 

「たしかに、聖杯戦争のルールとしては盲点だっただろう。脆弱なマスターやサーヴァントの力を補うべく挟まれる狂化の詠唱を最弱にして固定のクラスにかけられたのだからな。」

 

『でも、アサシンなら多少のステータスが上がっても………』

 

脅威には成り得ない筈だ。

 

そう桜は想像したが。

 

 

「ランサーと互角の戦闘を演じていた。結果を見ても五分の痛み分けに近いだろう。ランサーは武装を封殺され、バーサーカーは重傷だ。」

 

三騎士と互角の暗殺者、これは最早それまでの通説、常識を覆す事態だ。

 

 

「付け加えておくと、バーサーカーのマスターは間桐慎二だ。」

 

 

その言葉に、思わず桜は己が耳を疑ってしまった。

 

 

死ね!

 

 

そう兄は自分に言い放った。

 

 

憎悪を込めた瞳をこちらに向けて恨んでいた。

 

 

 

兄は自分を殺しに来た。

 

 

 

「心配は無用だ、マスター。私が護る。その為に戦う。君に必ず」

 

 

 

温かな平穏を約束しよう。

 

 

 

 

アーチャーはそう言いながらも心の奥で罪悪感に囚われる。

 

確かに自分が確認したのは4つのクラスだ。

 

 

槍兵(ランサー)、魔術師(キャスター)、――――暗殺者(バーサーカー)、

 

 

 

復讐者(アヴェンジャー)

 

 

エミヤシロウ

 

 

 

 

これだけは知られたくない。

 

 

きっと彼女を悲しませる。

 

 

奴は刺青や様相こそ奇抜で遠目に見れば気がつかれないだろうが、あの顔立ちは生前の、若かりし日の衛宮士郎と大差がない。

 

 

目撃されれば奴の正体がばれる。

 

 

それだけは阻止しなければならない。

 

 

 

 

苦々しく思い顔を歪めるアーチャーは苛まれる。

 

 

 

これじゃあまるで――――

 

 

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

冬の魔術師はクルクル踊る。

 

 

 

泣き出しそうな空を見上げ、両の手を広げる一人舞踏会。

 

 

傍に控える騎士はその表情に影を落とす。

 

 

前回の結果を知っていながら、再び映し世に呼び出された。

 

 

しかし、戦いの詳細までは知らなかったらしい。

 

 

あのままアーチャーと戦っていたら、自分は負けていた。

 

 

そのことについて、彼女らは知らないらしい。

 

 

 

しかし、それを言えば自分もまた然りだ。

 

 

前回の戦い、それを説明しようとしても、あまりにも材料が少なすぎる。

 

 

今更ながらに思い返してみても、情けなく思う。

 

 

敵マスターの情報をあまりにも軽視し過ぎていた。

 

 

サーヴァントのマスターが誰で、どのような者かも知らぬまま、知ろうとしないままに、ただ一つ覚えの様に前へ飛び出し戦うなど愚の骨頂ではないか。

 

 

自分が欲したのは騎士の誉でも誇りでも名誉でもない。

 

 

 

聖杯による奇跡だ。

 

 

 

何を勘違いしていた、なにを履き違えていた。

 

 

死の淵から呼び出された過去の途上人が未来の世界に見惚れ舞い上がったか。

 

 

『王は人の心が解らない』

 

その通り。この身は、この心は人を止めなければならない。

 

 

騎士に世界は救えない

 

 

元より世界など救わないさ。欲するものは王の選定をやり直すことだけだ。

 

 

正義に世界は救えない。

 

 

ああ、最早正義なんて、蒙昧な戯言など口にもすまい。

 

 

悪辣と言われようが、外道と罵られようが―――――構わないさ。

 

 

 

「この10年で冬木の町並みも少し変わりました。まずは散策しながら戦闘向きな区画を探します。」

 

「いいわ、ちゃんと守ってくれるんでしょ?セイバー。」

 

 

 

あなたの勝利のために。

 

 

さあ、ならば鐘を鳴らそう。

 

 

ひときは大きな大号令を

 

 

高台から眺めた先には、紅い外套のサーヴァントが。

 

 

 

まずはアレからだ、とターゲットを定める。

 

 

たとえ、この冬木の地を血に沈めてでも。

 

 

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

「朗報だ、漸く全てのサーヴァントとマスターがこの地に集まり、聖杯戦争が開始された。」

 

「――――――――」

 

 

 

「さしあったて、まずは全てのサーヴァントとマスターの偵察を行ってもらう。」

 

「戦闘は極力避け、仮に遭ったとしても逃走に徹しろ。」

 

 

 

「――。――――――。」

 

 

「では、令呪にて命ずる――――――」

 

 

ライダーのサーヴァントよ

 

 





修羅セイバーさんのターゲット、アーチャー。
まずは桜ともどもピンチにします。

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