Fate/Avenge   作:ネコ七夜

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内定式に参加する皆!覚悟しておけ!メイド服を着――――そんな企画は通りませんでした。

ハーメルン移転後初の新投稿です。
これからも皆様のご声援の下、無理せず頑張っていきます。




嘘22話

 

赤い兵と青銀の騎士は屋根をとび跳ねながら刃を撃ち合い、住宅街から外れた墓地に入り込もうとしていた。

 

騎士王セイバーはその中で赤い兵に疑問を感じていた。

 

 

何故、不可視である宝剣の間合いを知っている?

 

 

脳裏に蘇えるのは前回の聖杯戦争におけるバーサーカー、円卓の騎士であるが、アレこそ我が身を最も近き場所で見つめてきたからこその裏技だ。

 

ならば何故、この兵はしかも本分でない双剣で一刀を受け流せる。

 

脳裏に残る記憶にはこのような知己はない。

 

 

覚えてすらいない人物が大雑把な動きなどではなく完璧な剣幅、長さ、技の運びを知ることなどあり得ない筈だ。

 

そもそも、初撃は相手の完全なる意識の外。スキルはないが、それでも可能な限り気配を殺して、跳躍から落下の勢いに任せた脳天への一刀を見舞ったのだ。

 

ギリギリとはいえ、躱し様に宝剣の腹を蹴るまでしてのけたのは異常と言えよう。

 

さらに、私を見て即座に『セイバー』と呼んだこの赤いサーヴァントは一体、如何なるスキルを持って即座にクラスを当てたのか。

 

 

剣が視えない以上、ライダーである可能性も、ランサーである可能性も、はたまた別のクラスの可能性も窺わせるのが強みなのだ。

 

そして何より、今の私は甲冑すら着こんでいない、黒いスーツを着たままで奇襲をかけたのだ。

 

果して英霊なのか、反英霊なのかすら所見では解らぬ筈だ。

 

まさか、前回の私を知る者がマスターか?

 

 

「貴殿、いかなる見眼で我が武具の間合いを知る?」

 

 

一振り、また一振りと赤い兵の態勢を崩しながら問いかける。

 

 

いくら相手が私の間合いを知っていようとも、そんなものはさして関係がない、寧ろ注意すべきはマスターや、彼自身の宝具に他ならない。

 

それでもなお問いかけるのは、もしや自分の素性が10年で知れ渡っていないかだ。

 

「それは企業秘密とさせてもらおう。あえて言うならば、その宝剣も君の真名も私だけが知っていよう。」

 

「――――――」

 

赤い兵の痩せ我慢な表情が無理に笑うが、息も大分上がってきていると見える。

 

ここで一息に首を刎ねようと、長身の懐に潜り込むよう姿勢を低くし剣を突き上げるが

 

「トレース・オン」

 

その一言と共に、私の頭上に無数の剣が降り注いでくる。

 

このまま私の剣を突き出せば確実に殺れるが、幾重にも見える剣の雨から逃れるには今この場で距離を取らねばならない。

 

 

足の魔力を爆発させるように後ろに飛び地面に突き刺さる剣を回避する。

 

「ソードバレル・フリーズ・ロック」

 

突き刺さった剣は、彼が右手をあげる動作に合わせて再び宙へ浮かび、切先を私に定める。

 

 

 

その動作は確かに見おぼえがある。

 

 

 

「――――アーチャーのサーヴァントか。」

 

様々な宝具を黄金の光の壁と共に打ち出してきた、前回のアーチャー程の意圧感や王気(オーラ)はないが、一度打ち出された刀剣が再び宙に舞い動きを止める様は一段と不気味さを増しているように見える。

 

 

「セイバーよ、不意打ちとは君らしくもない。しかし、そうまでしてとりに来ようとするのなら、こちらも容赦はしない。」

 

静かに、淡々と口にするアーチャーだが

 

「ほう、その割には先ほどまで、随分とあの集落を気にしていたな。」

 

『なにか、護るべき者でもいたか?』

 

ありったけの挑発に醜く歪ませた口元を釣り上げ、蔑むようにアーチャーを見据えてやる。

 

 

「―――――セイバー………」

 

どうやらハズレか?

 

あの周辺に奴のマスターが居を構えているなら爆弾でも使って吹き飛ばしてやろうと思ったが、いないなら用はない。

 

神秘を秘匿する魔術師たちが塒にする場所は、必ずと言ってよい程対魔術の結界や障壁、用心深い者では物理的に強化している。

 

そこに爆弾などで攻撃を加えた場合―――――

 

密集する住宅街は間違いなく被害を受ける。

 

これは、他者(一般人)に興味を持たない魔術師たちの典型であり、自分たちの根城さえ安全であれば問題ないという思想による。

 

しかし、この戦場においては全くのデメリットにしかならない。

 

被害を受けた周辺で、ただ一つの無傷な建物があったら?

 

そこは否応なく人目に付き神秘の漏洩の原因たりえてしまう。

 

そうなれば、その魔術師は他の魔術師や協会、教会からの粛清対象として捉えられてしまう。

 

逆に、周辺の民家と共に倒壊してくれれば、それはそれで相手の陣地を丸裸にしたも同然である為、攻めやすくなる。

 

このパターンは事前に考えていたものだが、実行に移すとなれば、それは確実に相手の根城が解っていることが条件となる。

 

いくら近代兵器を使おうが、徒に町を破壊するようでは、聖杯戦争の運営にも支障をきたすことになり、こちらの落ち度を責められることとなる。

 

先ほどの弓兵の表情では、果してあの周辺にマスターがいたかどうかの決定打になり得なかった。

 

だが、この状況は裏を返せば、今この近くにマスターがおらず、魔術による支援も受けづらい可能性が高いということだ。

 

 

侮ることは無かれ、されどこの好機を逃すな。

 

 

一足で距離を詰め、下方から突き上げるように剣をふるう。

 

しかし、予定調和のようにそこにいつの間にか現れた大剣は盾のように宝剣の進路をふさぎ、その陰に隠れた弓兵のの動きを見失わせる。

 

「甘いっ!!」

 

弾丸のように迫る剣群を身をかがめて回避し、そのまま地を滑るように右に跳ねて、赤い外套を視界にとらえ直す。

 

接近、遠距離を同時にこなす弓兵など聞いたこともないが、この戦い方は戦の最前線で培われたであろう技だ。

 

 

 

油断はすまい。その命、今宵で散らせてくれよう。

 

 

足元の墓石を蹴りあげ今度は私が弓兵の視界をふさぐ。

 

「クっ……!」

 

弓兵は後ろに飛び退き、また剣を撃ち出そうとするが

 

 

風王結界

 

宝剣を風の力で覆い、光を屈折させ付加しにしているている暴風の力を一瞬解放し、ロケット噴射のような追い風に乗り一気に加速する。

 

 

「―――覚悟!!」

 

 

驚き眼を見開く弓兵に向けた切先をその胴に飛びこむように突き刺した。

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

 

「まあ落ちつけよ兄弟。別にここで殺しやしねぇよ。」

 

ニヤニヤと笑いながらこのエミヤシロウは言う。

 

「何が目的だ」

 

この状況で私を殺さない理由がないだろう。

 

私は正義の味方だったモノで、お前は世界の半分を背負った悪だ。

 

「なんだよ、俺にしちゃ理解が遅いんじゃないのか?俺同士で殺し合っちゃまずいだろ?」

 

「……それは、確かにそうだな。」

 

そうだった、私が人間・衛宮士郎を殺すことが最大の禁忌であることと同じように、英霊エミヤを殺すことも世界は良しとしないだろう。

 

そもそも、この聖杯戦争において同一の英霊が召喚されていること自体がおかしいのだ。

 

 

「それでよ?本題なんだが、暫く協力……は違うな、ニュアンスが―――共闘、でもねぇな……」

 

「つまり、お互いの利益の為に利用し合うということか?」

 

「ああっ、それそれ。とりあえずそん中でどっちかが他のサーヴァントにぶっ殺されりゃめっけもんだろ。」

 

 

そう言いながら目の前のエミヤは武装を解き気だるそうに空を見る

 

「ああ?何だって凛たん?令呪!?をまっちょっと待てよ、分かった分かった、帰るって!今令呪使うのは拙いって」

 

 

どうやらライン越しに突然マスターが話しかけてきたのだろう、しかし―――――まさか凛が召喚したとは………

 

「ああ、いちいちうっせーな。ったく…っと、わりぃな腰を折っちまって。」

 

「ああ、…暫くは不干渉でいいのか?」

 

「ヒヒヒ、まあ、マスターの命令があったらその限りじゃねぇと思うがな。」

 

「でだ、ただ一方的に申し込んでおくのも柄じゃないんでね。俺の宝具を一回だけ使えるように貸しておくぜ」

 

まあ、威力は下がっちまうだろうがな。

 

そう言って小柄なエミヤは私に触れて

 

「何を――――っ!?」

 

 

「呪術接続、同調・開始(トレース・オン)」

 

 

 

ギリギリと脳を削るように鳴り響く呪い

 

 

 

―――罪・罪・罪――――

 

 

これは、エミヤシロウが着せられた罪悪の全て。そう、この呪いは

 

 

「誰かに被せる悪意(ヴェルグ・アヴェスター)、接近戦でヤバそうな奴と戦るときにゃ使ってくれ。にっしても、意外と便利なのな俺ら。こんなことできるのも、エミヤシロウ同志だからなんてさ。」

 

「………そうか、お前は――――」

 

目を背けなかったエミヤシロウなのか。

 

そのあり方は同一でありながら、そのありようは合同でありながら対極。

 

 

『恒久的世界平和』それは、即ち―――――

 

 

目の前のエミヤは頭に巻いていた赤い布を外し、こちらに向き直ると改めて邪悪な笑みを向け。

 

 

「復讐者のサーヴァント、アンリ・マユだ。」

 

「弓兵のサーヴァント、エミヤシロウだ。」

 

 

この時、私とアヴェンジャーは同盟とも呼べない密約を結んだ。

 

 

 

 

 

   *  *  

 

 

 

 

突き刺さった宝剣はアーチャーの腹を貫きセイバーは一瞬動きを止めた。

 

 

墓場の隅で隠匿の魔術を行使していたイリヤもこれでまずは一体、型が付いたとそう確信していた。

 

 

 

しかしアーチャーのサーヴァントはまるで痛みを恐れていた様子もなく、その苦痛も仕方なしと言う表情をしている。

 

 

まるで、『セイバー相手に、この程度の負傷は仕方なし』と諦めたように、

 

まるでこの瞬かを狙っていたように彼女の体に手を伸ばし―――――

 

「先に貰っておく―――」

 

そう、小さくつぶやくと

 

 

「偽り騙し欺く万象(ヴェルグ・アヴェスター)」

 

 

 

この世の悪意(誰か)が罪を被せた。

 

 

 

 




猫:
アヴェさんは純粋に戦うエミヤシロウじゃなくて、『悪い』ことで戦うエミヤシロウ
昔読んだジャンプの封神演技の王天君みたいなイメージで書いてます。
着目点は投影魔術よりも、初期のトリガーワード『同調』を重視。
セイバーさん?虐めます(笑

H.24.9.25 加筆、誤字等修正

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