Fate/Avenge   作:ネコ七夜

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お待たせしました。日常?回です。




嘘24話

 

 

 

昼間のアヴェンジャーは学校の屋上で欠伸を掻いていた。

 

彼の性格からして、一か所に留まってじっとしているなど、相に合わず暇を持て余すと言わんばかりに給水塔に寝そべってボリボリと背中を掻いていた。

 

 

「だりぃ……凛たん、こりゃいくらなんでも暇すぎるだろ………」

 

 

彼にしてみれば2日続けての日中の待機時間。

 

アヴェンジャーは凛と違って、学校にいても勉強する必要などどこにもない。

 

暇つぶしにと、ジャグラーのように歪な形をした短剣を具現化し空中に踊らせてみても、5分と持たずに飽きてしまった。

 

烏でも飛んでいれば呪術で操り、視覚を同調させて空からの偵察でもしようと考えたが、運も味方せずスズメ1羽も見つかりはしない。

 

 

「つか、この分だと聖杯戦争中をずっと昼間はこんな暇にしてなきゃならないのか?」

 

 

心のぜい肉はどうした、と心の中で叫んでみるもむなしさが残るだけである。

 

 

すげーや凛たん。大罪の怠惰を俺に押しつけるなんざ狂気の沙汰だぜ。

 

 

もちろん、凛はそのようなことを微塵も考えていない。

 

ただ、聖杯戦争中でも自分の生活スタイルを崩すことなく優雅にこなしてみせようと考え、その日中の警護としてアヴェンジャーを構内に置いているだけなのだ。

 

冬の時期と言うこともあり、放課後も少し経てばすぐに辺りは暗くなり、聖杯戦争の時間となる。

 

アヴェンジャー、と言うよりもサーヴァントを体のいい使い魔くらいにしか見なしていない節もあるとはいえ、そのくらいの時間を待機させることに何も罪悪感を抱いていないのは魔術師の思考としては至極まっとうである。

 

サーヴァントを暇にさせてしまう非効率的な時間も、先にアヴェンジャーが考えていた獣を操る呪術でも使って暇はしないだろうと、安直に考えているのであったが

 

現実はアヴェンジャーの不運も重なり見事なまでの平和であった。

 

 

「おいおい、アンリマユが平和の中にいるって……」

 

 

何処の地獄責め、又は天国責めであろうか。

 

とにかく苦痛でならない。

 

 

 

 

また、先日のように凛の言いつけを破ってみようかとも考えるが、それで令呪を使わせてしまうのは何かと後に響く。

 

 

「あぁーもう、いっそのこと構内でもうろつこうか……」

 

神秘の秘匿なんざ糞喰らえ。

 

こちとら元魔術使いだと、校庭脇の草むらからとってきた葉っぱで草笛を吹くのも飽きた頃、とうとう開き直ったアヴェンジャーは早速行動に移すことにした。。

 

 

「あんまし変装ばっかしてても、ヘアスプレーやファンデを消費しちまうけど、こう言うのは使わなきゃ寧ろ損だろ。」

 

そう気持ちを切り替え、上着とズボンを身にまとえば

 

ほうら、どこからどう見ても『俺』その人。

 

だけど不真面目さ五割増し?

 

 

何処かそんな一連の流れが面白いのか、ケタケタと笑いながら口笛を吹きつつ、屋上から階段へと続くドアへと歩き出した。

 

だが、うろつこうにも決定的に魔が悪かった。

 

 

 

「衛宮か、今日も欠席と聞いていたが、こんな所で何をしている?」

 

階段を下りて踊り場の窓から公手の様子を眺めていたら、屈強な体格の眼鏡をかけた教師に遭遇してしまった。

 

 

「あ?……あー、と……おはよう?」

 

アヴェンジャーは衛宮士郎が今日も登校していないことなど当然知らない為、硬直してしまう。

 

そもそも、生徒の格好をして授業中にうろつくこと自体が目立つ要因なのだが

 

如何せん、罪悪の権化と願われたアヴェンジャーはそんな規則など破ることが前提であり、守ることがが常識であることを忘れていた。

 

「そう言えば、先日の子どもを見学させると藤村先生が言っていたな。」

 

手続きか何かか?と尋ねてくる教師に、ちょっとおっかなびっくりで返答する。

 

「そうそう。やー、やっぱ部外者じゃ色々警備上面倒だよな。ほら、ここんとこニュースでも色々物騒な話題上がるし」

 

思い切り部外者であり、警備の目をごまかしているアヴェンジャーはそう適当にやり過ごそうとするが

 

 

 

「――――貴様、誰だ?」

 

遭遇して実に20秒たたずに不審者認定と相成った。

 

 

あれ?何かおかしなこと言ったっけか?

 

よくよく自分の胸に問いかけてみてもわからない。

 

己の過ちって奴は、なかなか気がつかないものだしな。

 

 

ずばり、口調でばれたのであった。

 

 

しかし、そんなことを考えている今も教師は一切のぶれもなく目の前のアヴェンジャーを睨みつけている。

 

そして感じる、一般人では絶対的に持ち得ない。

 

殺す者が発する静かな空気に。アヴェンジャーは目の色を変える。

 

それが人間から発せられるものだと、更に高揚感が増す。

 

 

人の殺意――――これ即ち悪也。

 

 

「ヒャヒャッ、嫌だね先生。そんな殺気、ぶつけちゃぁ―――」

 

ゾクゾクする、いいやワクワクする。ん?どっちも違うなぁ、強いて言うなら。

 

「ぶっ殺したくなっちまうじゃねぇか」

 

 

その言葉がお互いの戦闘合図となった。

 

すばやく身を屈めたアヴェンジャー

 

先ほどまでの頭があった位置に、猛毒を持った蛇を幻視させる拳が空を切る。

 

 

「シャァッ!!」

 

 

片手をナイフのように、指を揃えたアヴェンジャーの手刀が、一直線に下方から教師の心臓めがけて突き出される。

 

伸びた腕から覗く禍々しい刺青はまるで殺害対象を威嚇し、この世の悪に屈服せよと囁くように人間の足を縫いとめんとする。

 

罪悪と知れ

 

その一撃を逃れんとする者がいるのならば、其の者は人間の悪に賛同するものである。

 

 

 

アヴェンジャーの手刀は僅かな感触をつかんだ。

 

しかしそれは教師が身に着けていたネクタイの切れ端

 

飛沫のように飛び散るのは血液ではなくワイシャツのボタンとネクタイピン

 

振り抜いた腕は視界を一瞬隠し、すぐに晴れた正面に獲物はいない。

 

 

回り込まれた死角に風切音が奔るのを知覚したアヴェンジャーは、前方に飛び込むように回避行動をとり、遁れ様に大きく足を突き出し教師の動きを牽制する。

 

アヴェンジャーを反対の方向に回避した教師はその慣性により生じたエネルギーを膝に溜めるとバネのように大きく跳び込み今度こそアヴェンジャーの首を刈り取らんと拳を振るう。

 

 

「俺がッ!!―――――人間相手に負けるかよ!!!」

 

 

逆立ちをするように毒蛇の牙を回避し、その突き出された腕が引き戻される瞬間を狙い、アヴェンジャーは伸ばした足を使って教師の片腕を絡め取る。

 

すぐさまその一本を捩じ切らんと締めあげる。

 

アヴェンジャーが如何に最弱のクラスであろうとも英霊であり、ましてや人間に対しての絶対的な殺害の優勢を誇る真名を持つ最悪だ。

 

教師はこのまま片腕が潰れる一寸先の未来を待つより他は無い。

 

しかし、誤算があったとするなら、その人間の男は神の敷いた運命すら最初から持ち合わせていなかった殺人鬼であったことだ。

 

この一寸先すらこの男には興味がない。

 

しかし、生き続けることを是とする空虚なる人間は

 

締め上げられる腕をアヴェンジャーの体重をのせたまま廊下の柱へと殴りつけた。

 

 

逆さ吊りに成っていたアヴェンジャーは背中から柱の角に叩きつけられ防御した頭を上方に向け睨みつけるが

 

直後に体感する一瞬の無重力感のなかで、その人間の変わらぬ無表情に思わず感嘆する。

 

 

――――ヤベェ

 

 

男の腕はアヴェンジャーを巻き込んで、拳を床へと叩き込む。

 

しかしその拳は床に届くことは無い。

 

アヴェンジャーと言う肉の壁が間に挟まり、何の心配もいらぬまま全力で腕を突き落とす。

 

 

アヴェンジャーの背中で罅割れ砕けるタイルから、その威力の人間離れを知ることができるが、悪の英霊はその拳を両の手で持って受け止めた。

 

しめたと言わんばかりにアヴェンジャーは絡めた足に力を入れようとするが

 

そこで思わぬ事態に気が付く。

 

 

絡みついていた筈の足に感覚がなく、ズルズルと人間の腕から振りほどけてしまい、ぐったりと足が落ちてくる。

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 

柱に背中をぶつけた際に背骨が逝ったか、いいや狙われたと言ったところだろうか。

 

眼前の殺人鬼はあの一瞬で目標を殺害する為の最善の一手を綱渡りで成し遂げたのだ。

 

 

続けて繰り出した床に向けての一突きも、アヴェンジャーが背中から落ちて正面の攻撃を防ぐことを想定してのものだ。

 

確実にこちらの痛めた箇所を破壊することに絞った判断だ。

 

結果、アヴェンジャーは仰向けに倒れ込み立ち上がることは出来ない。

 

からまった足から解放された男は、締めあげられていた片腕の状態を確認すると、静かに一呼吸置き、握る拳で止めを刺そうとするが。

 

 

「いやーまいった。やっぱ絶対的殺害を手加減しまくると俺弱えぇや。」

 

 

確かにいましがた倒れていた筈のアヴァンじゃーは男の背後でそんな声を挙げながら欠伸を掻き、まるで背骨のことなど無かったかのように普通に立っていた。

 

初めて驚いたように男が振り返った瞬間。

 

 

キンコンカンコンと鳴り響く、昼休みを告げる鐘の音が、非日常の闇の世界だった空間を日常と言う光で蹂躙する。

 

 

しだいに聞こえてくる生徒の喧騒や、廊下を走る姿も見えるようになり、先ほどまでの時間が白昼夢だったかのような錯覚を覚える殺人鬼も既に教師に戻らざるを得ず。

 

「…………………。」

 

再び視界に収めた周囲に先ほどの衛宮士郎のような姿の不審者はどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 *  *  

 

 

 

 

「アーチャーさん!まだ動いちゃだめです!!」

 

「気遣いはありがたいが、そうも言ってはいられまい――――っ゛!!」

 

 

藤村邸の一室、桜が大河に借りたその部屋でアーチャーは目に包帯を巻き体を起こそうとしていた。

 

「くそっ、閃光だけではないな……」

 

なにか魔術的な改造を施されたものだったか、視力がなかなか元に戻らない。

 

腹部の傷はマスターからのも力供給ですぐに塞ぐことができたにもかかわらず、視力だけが治りが遅いところを見ると、魔眼封じのための専用に用意されていた可能性がある。

 

使用目的は違っているが、こちらは魔眼以上に目に作用する魔術式を人の身には余る、最上級の威力で懸けていたのだ。

 

咄嗟に感覚共有を遮断したおかげで、桜には影響がなかったが、そのひと手間によりアーチャー自身は間に合わなかった。

 

抗魔力を持つにも拘らずダメージが深刻なのは光の速さと魔術の効果の到達時間のタイムラグまで計算しつくされた精巧なものであったのだろう。兵器に何の知識のない魔術師が施すことができる細工ではない。

 

魔術師をいかに効率よく殺すことができるかを追求する者が考えつくような

 

まるで魔術師殺しのような――――――

 

 

そしてアーチャーは確かにあの時聞いた、聴覚を強制的に弱める寸前に、魔術師が発した呪文を

 

 

『Zeit vera"ndre(固有時制御)――― Doppel beschleunig(2倍速)』

 

 

そう、先日のことを思い出していると、不意に廊下から気配を感じ、すぐに霊体化しようと思うアーチャーだったが。

 

「桜ちゃん。衛宮のところの小僧が来たぞ。何でも弁当を届けに来たそうだ。」

 

襖越しに話しかけられた桜は一気に動揺する。

 

「せ、せせせ先輩が!?どうしようっ、どうしよう――――」

 

『マスター、落ちついてくれ。私は霊体化する、玄関前にでも出向けばよかろう。』

 

咄嗟にフォローを出し、何とか落ち着かせようと試みるが

 

「久しぶりにこっちに顔を出したもんで、居間で待たせてんだ。桜ちゃんもこっちに来な、小僧の分際で異人の別嬪な子供を連れてきやがった。一丁、折檻してやらなきゃならねぇ。」

 

そう笑い交じりに藤村雷画は言い放った。

 

 

アーチャーは腹の傷が開くのを感じた。『あの戯けがっ!??』

 

 

 




猫:
アヴェさんの小さな大冒険でした。

そしてイリヤちゃん切嗣化()
「Time alter(固有時制御) ―― double accel(2倍速)」ってドイツ語で訳すとどうなるのか分からなかったから、適当でござる。
なんでできるかって?そりゃ刻印を―――――墓荒してひっぺがせばできるんじゃね?と思い、取り入れてみました。
戦うイリヤちゃん。発想はどこぞの同人誌のアチャ子さんから思いつきました。

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