Fate/Avenge   作:ネコ七夜

30 / 33
お久しぶり!やっと年休消化できそう(笑
桜ピーチもといピンチ回です。



嘘25話

 

 

桜が衛宮士郎のいる居間にやってきたとき、そこは既に小さな修羅場と化していた。

 

 

「小僧、てめぇうちの可愛い大河や桜ちゃんをほったらかして今度は義妹か。あれか?今、若い奴らの間じゃはねむーんっつーのか。あ?」

 

衛宮士郎は『それを言うならハーレムじゃ……』と言いたげな表情が滲み出ているが勿論そんなことは言わない。

 

いえば斬られる。

 

 

「あの、先輩……」

 

「ああ、桜。体調悪いんだって?ほら、弁当作ってきたから持ってきたんだ。」

 

そう言って重箱にでも詰めたのであろう、少し大きめな弁当の包みを居間に入ってきた桜にあいさつ代わりと渡してくる。

 

流石に桜へ気を遣い弁当を持ってきたことには文句は言えないと、雷画が奥へと引いて行くのを見てお互いにようやく一息という空気が生まれる。

 

 

「あ、ありがとうございます先輩。…その、どうして私がここにいるって……」

 

「タイガがここにいるって教えてくれたわ。昨日は言い忘れたんですってね?」

 

 

士郎の隣に座るメイがお茶を啜りながらちらりと桜に目を向け、少し冷たく事実を告げる。

 

 

主犯が判ったことに対する動揺と共に、桜は混乱する。

 

悪いとは思いつつも、桜は大河にとある暗示をかけていた。

 

 

『家にいるとき以外で間桐桜の現在の住居について話題にあげないように』

 

 

自然とその話題を口にしないように、離れるように。

 

人の関心を逸らすのは、秘匿すべき魔術を扱うものが尤も注意し、自然に見せるように行う、初歩の技術だ。

 

間桐の家に入ってからの殆どを魔術を身につけることではなく、間桐の魔術に適合・適応・順応できるように修練を積んできた、魔術自体の技術がほとんどない桜ではあるが、流石に初歩の暗示くらいは出来る。

 

それは、間桐の蟲が桜にサーヴァントを召喚させる下準備として最低限習わせた数種の魔術の一つであったからだ。

 

 

それが、何かのミスで失敗してしまったのかと、焦りを浮かべる。

 

 

「えっと、―――――あはっ、ごめんなさい先輩。昨日のことで驚いて、藤村先生も私もお話するの忘れてたみたいです。」

 

そう言って苦し紛れに笑ってみせると、士郎も苦笑いしつつ、それなら仕方がない。といい

 

「こっちにも原因はあるだろうな。メイちゃんの話題の方が衝撃的だっただろうし、そんな中で二人が忘れたのも無理もないことだろ。」

 

お互い様だな。

 

 

そういて士郎が笑いだすと、桜もつられて笑いだす。

 

ただひとり桜の表情を見つめ観察するメイを除いては。

 

 

目を細め、何かを探るように、彼女の瞳は最大限の警戒を最小限の気配で放っている。

 

そのことに気が付く人間はこの空間ではいない。―――人間では。

 

 

アーチャーは先の通り霊体化してこの屋敷の内部にいる。

 

更には桜とのラインを気がつかせぬよう、士郎達がこの屋敷に入り込む前に苦し紛れの単独行動スキルを展開。

 

最低限の傷の手当てはしたので後の回復は自己治癒力に任せている。

 

 

どちらにせよ今日いっぱいは魔眼殺しの影響で満足に戦闘もできないであろうことから、大人しくしているつもりではあったが、

 

(やはり、キャスターの察知範囲には引っかかってしまったか。)

 

魔術回路の有無で魔術師を見分けることが可能である以上、素質が並みの術者以上にある桜が疑われたのは仕方のないこと。

 

さらに、キャスターはその魔術スキルからサーヴァントの察知にも敏感だ。

 

他のクラスに比べて極端に劣勢を強いられるがゆえに、他のサーヴァントの存在を察知しやすい。

 

気がつかれた。それは最早キャスターの中で間桐桜がマスターであることを決定づける要因たり得る。

 

どちらかが動き出せば、この場は一気に加速する。

 

気がつかぬはマスターのみ。

 

 

ならば―――――

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

キャスターとアーチャーが動いたのは同時であった。

 

実体化したアーチャーは衛宮士郎の背後に現れ刃を突きつける。

 

対するキャスターは目の前にいた桜に歪な短剣を首筋に突き出し、体を背後に回り込ませアーチャーと向き合うようにし、同時に声をあげる。

 

 

 「「動くな!!」」

 

 

いきなりの展開に士郎も桜も思わず固まってしまう。

 

士郎にしてみればキャスターがいきなり桜に襲いかかったようにしか見えず、背後から付きつけられた刃の殺気はさらに混乱するには十分だ。

 

桜は漸くメイがサーヴァントだと気がつき、正面に向かい合う士郎がアーチャーに襲われている。それは即ち、衛宮士郎が聖杯戦争に参加するマスターだということだ。

 

 

衛宮の家は魔術師だということは臓硯から聞いていた。

 

だからこそ、その動向を監視するという名目で屋敷に通っていたのも事実だ。

 

しかし、彼の人柄からして聖杯戦争に参加するなんて思ってもいなかった桜は今の状況が信じられない。

 

先輩が私を殺しに来た。

 

その恐怖が桜を一言もしゃべることができない状態へと追い込む。

 

 

一方、桜の首筋に短剣を突きつけたキャスターは絶体絶命の危機と感じ取っていた。

 

今、このコンディションでサーヴァントと戦闘ができるか。

 

答えは否だ。

 

故にこうやって人質まがいの方法をとりに行くしかなかった。

 

屋敷の中に既にサーヴァントがいたのだ。

 

先にいかなければ、こちらが殺されてしまう可能性も十分にあった。

 

その為には自分のマスターの安全を確保するよりも先に、敵マスターを抑えなければならない。

 

そうしなければ膠着状態にも、交渉する場にも持っていくことができない。

 

だから衛宮士郎の方が自分の近くにいたにもかかわらず、一歩前に飛び出し桜を襲った。

 

 

理想形としては、敵サーヴァントが衛宮士郎ではなく自分に刃を向ける方が都合が良かったが、とっさの判断は相手もまた場慣れをしているのか、迷わず士郎を人質にする形で立たれてしまった。

 

 

途端に支配するのは冷たい静寂。

 

お互いがその姿を視界に収め、そこで一方に疑問が生まれる。

 

 

「は、どんな陰湿なサーヴァントかと思えば……。貴方、手負いじゃない。」

 

士郎を人質にとるアーチャーは目に包帯をしたままであった。

 

しかしそれでも英霊だ。その手元に握られた刃、起ち居から見るに視覚が封じられていようとも、気配でこの空間を把握しているのだろう、その切っ先は一寸のぶれもなく士郎を捉えている。

 

「なに、最弱の英霊を相手取るにはちょうどいいハンデだ。それに、こんな間抜けなマスターをいとも容易く自陣にて刺せるところを見るに、君の方が劣勢に思えるが?」

 

 

条件は対等、しかし赤い英霊が紡ぐ言葉は少女をキャスターだと看破しての発言だ。

 

そしてこの余裕、魔術師のサーヴァントに膠着状態の作戦を下策と知って尚か。

 

 

―――いいや、この余裕から察するに当てはまるのは

 

"抗魔力"ではない

 

"単独行動"だ

 

 

これを有する英霊ならば、こちらの人質は意味をなさなくなる。

 

忠に熱い騎士なら、先の可能性であったキャスター本人に刃を向け救出を先決にする筈。

 

だが、赤い英霊は迷うことなく衛宮士郎へと目標を定めた。

 

これでは矛盾する。

 

 

つまり、導き出されるのは反英霊の可能性。

 

主の消失すら厭わぬ同類ならば、赤い英霊の独り勝ちだ。

 

その確証を得るにはどう揺さぶるべきか。

 

 

そんな思考の波にキャスターが呑まれる中で、均衡は桜によって崩された。

 

 

か弱き筈の人質の少女は信じていた、信じたいという願いによってその命を目の前の少年に掛けた。

 

「令呪をもって命じます―――――」

 

その輝きは彼女が座っていた座布団の陰から

 

「貴女何を!?」

 

思わずキャスターは桜の喉元に短剣を突き刺そうとするが

 

「止めろ!!キャスターちゃんっ!!!」

 

 

衛宮士郎の右手の甲から一画の痣が消えることで阻止された。

 

 

 

 

 

  *  *  

 

 

 

 

 

「あグッ――――、がはっ………ッッッ―――」

 

冬木の外れに位置する森の奥、そのさらに奥にそびえるアインツベルンの城

 

その一室で、独りの少女が血を吐き悶えていた。

 

 

「イリヤスフィール!しっかりしてくださいっ!」

 

 

シーツの端がちぎれんばかりに握りしめ、苦しむ少女。その手にセイバーは手を重ね沈痛な面持ちで看病する。

 

彼女が昨夜使った魔術、『固有時制御』

 

 

協会が回収した8割の刻印と切嗣の墓を暴いて回収した2割の刻印

 

完全となった衛宮の刻印を用いた完全なる体内時間の操作魔術。

 

 

元々研究肌の魔術師が開発した時間制御に、切嗣が改変させた戦闘特化のリミットブレイク。

 

これらがすべて揃っているならば、切嗣のような副作用で臓器や血管がズタボロになることは殆どない筈であった。

 

 

しかし、肝心の刻印移植の時間はあまりにも足りなかった。

 

イリヤスフィールの肉体は第2次成長を迎える前に停滞してしまった。

 

 

まるで、あの10年前から時間が止まってしまったかのように。

 

まるで10年間、ひたすら誰かを待ち続けるように。

 

そんな彼女の体は衛宮の刻印になじみ切れていなかった。

 

そんな状態では『固有時制御』の発動中に体内が圧壊しかねない。

 

それでは聖杯が壊れかねない。

 

 

 

そこで考案さられたのは、一時的な『肉体年齢の加速』であった。

 

 

昨日、アーチャーはその視覚を奪われ彼女を捉えることは出来なかったがセイバーは見た。

 

幸いにもそれが、罪の呪怨を掻き消す程に衝撃的だった程だ。

 

フラッシュバンの閃光の中を駆け抜けるその姿は18歳前後の銀髪の乙女

 

それは嘗て、騎士の名に掛けて守ると誓ったアイリスフィールと見間違うほど。

 

 

肉体時間の加速により一時的に、強制的に成長した彼女は刻印の拒絶反応をほとんど出さずに衛宮の魔術を行使できる。

 

 

しかし、代償はやはり付きまとうものだ。

 

一旦魔術の発動を治めてしまえば、それまでの成長時間の反動肉体の拡大と収縮のフィードバック。

 

 

体にかかる負担は切嗣の固有時制御のに比べれば、幾分かダメージは軽減されているが

 

骨から筋肉、臓器に至るまで、

 

その全てにかけて激痛が襲いかかるのは切嗣以上の苦痛であり、また幼い体には深刻なダメージとして襲いかかる。

 

 

そんな激痛の中で少女は魘される

 

「…キリツグ……そ吐き………すぐ……かえって、……くるって―――――」

 

 

「イリヤスフィール…」

 

少女のうわ言にセイバーは何と答えていいか分からなかった。

 

 

 

『王は人の心が分からない。』

 

 

セイバーは苦しむ少女の傍にいることしかできなかった。

 

 




猫:
キャスターがロリならイリヤちゃんグラマナスになってもいいんじゃね?
と思い、そんな設定を取り入れてみた。
体内時間の操作を行う為に肉体時間の操作をおこなう無謀。
衛宮の刻印が完全版なら、そのくらいできてこその封印指定だと思いやっちまいました。
イメージとしては同人のアチャ子(わかる人いるのか?)
登場人物は外見も含めて18歳以上でございます!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。