就活生の皆様。今年も私が面接やります。
時系列はランサー達が洋館を出るより前、お昼過ぎ。
衛宮士郎と間桐桜が同盟関係になった後、キャスターはアーチャーも含めて情報交換を開始した。
「私が遭遇、確認したサーヴァントは貴方を除いて1騎よ」
「私は…君を除いて4つのクラスだ」
キャスターとアーチャーはそれぞれマスターの横に立ち、士郎と桜はテーブルに向かい合うように座っている。
桜は几帳面にもノートとペンを持ちそれぞれの戦力図、情報をまとめようとしている。
「まずは私から話させてもらおう。どうやら情報量もこちらが多いしな。―――なに、こちらから申し込んだ同盟だ。それくらい、惜しんだりはせんよ。」
「ずいぶんと饒舌になるわね?……さしあたっての対価はその眼と腹部の早期回復の手助けってとこかしら?」
「魔術師らしい君の考えだな。それは、内容を聞いてもらってからで構わんよ。それに見合う物をくれると言うのであればこちらもありがたいが」
どうやら情報一つにせよ、この二人の間では条件だの駆け引きだのの心理戦らしい。
傍で見ている士郎と桜は、果たしてこの二人は同盟を快諾していないんじゃないかと不安を募らせる。
「まず、昨夜。教会の近くの公園でランサーとバーサーカーが戦闘をし、其れを遠巻きに観戦した。ランサーのマスターは恐らく御三家ではなく外来の魔術師だろう、麗服を着た女性、どちらかといえば戦闘に特化した魔術師という印象を受けた。」
「観戦ね……その眼は巻き込まれて?」
「いいや、その後セイバーと戦り合ってな。―――――その話は後にしよう。最優のサーヴァントが気になるのは無理もないが、槍兵と狂戦士も捨て置けない情報だぞ。」
アーチャーのもの言いにキャスターは眼を細め、それが『セイバーの情報と同等の価値がある』と伝えたいことを察する。
「ランサーのマスター、アレは『伝承保菌者』だ。」
「!?っ、そんな……。まずいわね、下手をしたら……」
「ああ。最悪、保菌者が我々を足止めして、ランサーがマスター達を襲ってくる可能性すらある。」
キャスターとアーチャーが真剣な顔で予想を述べあう中、士郎と桜は置いてけぼりを喰らう。
二人とも魔術を長年知りながら、それでいて魔術の世界の知識など初歩の初歩しか知らないのだ。
様々な知識を知り始めたのもここ数日。キャスターやアーチャーはそれぞれ魔術の世界の常識を教えたものの、それも必要最低限な触りにすぎない。
「伝承保菌者って言うのは、簡単に説明するなら宝具をもつ家系が、代々その使用能力を継承して行って、それが人の身でありながら最上級の幻想の真名を紡ぐことができる者のことよ。」
「信仰ある伝承を受け継ぎ、形ある伝説を引き継ぐ。人間が英霊を打倒しうる可能性のある、最上位の存在だろうな。」
そんな説明は衛宮士郎の中で、敵マスターの姿はどのように想像されたのだろうか。
伝説を再現する人間。
それは数々の歴史の中で言う英雄と同義であり、その力で数々の人を助けることができるのなら、それは間違いなく衛宮士郎の望む正義の味方の力だ。
生まれが違う。そんなことは志を定めたときから百も承知だ。
しかしながら、憧れ羨む気持ちは拭えない。
「それで、……ランサーとそのマスターはどうなったんだよ?」
士郎は己の中で何かが咬み合おうとする、ギシリギシリという雑音を抑え込みながらアーチャーに問いかける。
「――ふん、そうだな。結果から言えば双方痛み分けとなったようだ。ランサーは必中の槍を恐らくバーサーカーの宝具にだろう、封印の類による効果で封じられてしまったらしくな。保菌者も宝具を必殺の威力に出来ないまま撃ち捨て退いて言った。」
「必中の槍…まさか、ランサーの真名はっクー・フーリンかしら?」
「恐らく間違いないだろう。事実、バーサーカーの心臓部を貫いた槍は突き出された瞬間、私の眼にも追い切れぬほどの速度で、あり得ぬ軌道を描いた。」
突き出されたら最後、回避不可能の心臓破壊。
因果を捻じ曲げ、心臓を貫いたという事実が先に確定し、その後槍が軌道を無視して突き刺さる。
「先に相手をしていれば、それこそ勝ち目がなかったかもしれないわ。宝具を封じたバーサーカーに感謝したいところだけれど、当の狂犬はそんな状態で生きているのかしら?」
そう、バーサーカーは心臓を貫かれたとアーチャーは言った。
英霊とは言え心臓を破壊されては生きてはいられない。
話に聞くバーサーカーが三騎士と互角に渡り合える英霊というのは理解できたが、そんな状態では消滅してすぐに法具の効果が消えてしまうのではないだろうか。
「それは私にもよく分からなかった。狂戦士のクラスに拒死性がない以上、奴のスキルか宝具によるものだろう。しかし、あのバーサーカーは異常だ。奴と戦うならばマスターと離れた状態で総力戦に持ち込むしかない。」
「そこまでの評価だなんて。何か思うとことがあるのかしら?」
「思うところ、ではない。バーサーカーの真名も掴むことができた。」
「アレの真名はハサン・サッバーハだ。」
「!?……っ、成程。アサシン崩れならえげつない生き意地もあるでしょうね。」
キャスターはアーチャーの発言で即座に理解する。
難しくは無いことだと。
ハサン・サッバーハを暗殺者ではなく、狂戦士のクラスで召喚したということだ。
ランサーと互角の勝負ができるのは驚きだがこれで『アノ』英霊がいたことに納得がいく。
足りないクラスが埋められたか、横入りしたクラスに押し詰められたか。
「そう言う訳だ。ランサーは近いうちにバーサーカーと再戦を果たすために積極的かつ、周囲を警戒をしながら動き回るだろう。もしも他の組がこれを知れば、狙うのは奴らのどちらかが勝利した時、一瞬の隙を突いてくるだろう。」
「或いは、バーサーカーの援護に回って先にランサーを潰す、という線も考えられるけれど?」
「援護に回る。という点は裏があるときだ。伝承に聞く魔槍が真実、心臓を再生させないものであるのならバーサーカーは手負い。マスターともども捨て駒にされて裏切られるだろう。」
「そうはいかないと?まるで狂戦士のマスターを知っているみたいね。」
「……アレは孤高だ、他者の協力などかえって邪魔と感じる部類の者だ。無理矢理協力してしまえばその限りではないだろうが、真に手にしたい物は己が力だけで挑むだろう。」
「確定ね。」
キャスターがたたみかける中で桜の表情がどんどん暗くなっていく。
それに気がついた士郎は俯く桜に声をかける。
「……桜?大丈夫か?」
「――はぃ。……」
アーチャーも桜を気遣うように視線を落とし、そして自分の失敗を悔いる。
『あの時に余計なことを言わなければ間桐慎二は聖杯戦争に参加しなかったかもしれないのに』と。
「バーサーカーのマスターは桜の兄、間桐慎二だ。」
「な!慎二が!?」
アーチャーの告白に士郎は目を剥く。
意地っ張りな友人。気難しい性格だが悪い奴じゃあない。
そういった認識で付き合ってきたクラスメイトだ。
まさか桜のみならず彼までもが死の危険が隣り合わせな魔術師の殺し合いに参加しているというのだ。
しかも、その戦闘は伝説を扱う魔術師を退かせるほどの力を持つというのだ。
「何を驚いているの?お兄ちゃん。一昨日教えた筈よ。聖杯戦争の御三家はトオサカ、マキリ、アインツベルンだって。私は当初、マキリは参加しない筈だと前マスターから聞かされていたから、驚くべきはこっちの妹さんが参加していた事についてだと思うけれど。」
「マキリって、まさか……」
「間桐に姓を変えているらしいわね。でも、確かにこの地域の霊質にその姓は良くないわね。私から言わせればそんな変え方マイナスにしかならないもの。」
衰退して行ったのも頷ける、とキャスターは指摘するが、士郎が衝撃を受けているのはそんなことではない。
やはり慎二は天才な奴だと。
自分では今だ届かない遥か高みに、既に足を踏み入れているというのだ。
そう思い、膝の上においていた拳を硬く握りしめる姿を見たアーチャーは。
「貴様が挑み競うべきことはそれではないだろう?理想を求めすぎれば溺れ死ぬだけだぞ。」
* *
「ぜぇ――――ぜぇ――ひゅっ………」
血が足りない。
血流操作を始めるまでの、敵マスターが退いて行った後を確認するまでのタイムロスで流れ出た血は一体どれくらいがったか。
しかも、付け焼刃の魔術だ。完全に制御しきっている訳じゃない。
視えないパイプを伝うように、規則正しく流れては体に戻る血は―――完璧じゃない。
ぽたり、ぽたりと点滴のように地面に滴る。
バーサーカーはその程度なら問題ないかもしれない。
あいつは例え全身の血を失っても生きていられる。
だけど僕は人間だ。
2000ccも失血すればすぐにあの世行きだ。
魔術師ならこれしきのことで死んだりはしないんだろうか?
魔術師になれば生きていられるんだろうか?
分からない。
でも、あの妖怪爺なら、少なくともこんなんじゃ死なない。
それだけは確かな確信が持てる。
―――――ナニ信じてんだよ。
とにかく補わなくちゃいけない。
足りないものは他から持ってくる。
魔術の基本だろ?
ああ、そうさ。血が足りないなら他所から補えばいいんだ。
間桐の魔術属性は水。得意とするところは吸収だ。
僕は魔術師になるんだ。
だから、「こんなことだってえぇぇええええっう!!!」
バリッ、――ちゃっ!ガツッ、ぐちゃぐちゃ――――じゅっず!るゅちゅずず……
僕じゃない誰かが嗤う。
「カカッ!!」
* *
「善戦はしたんだが、傍に潜んでいた敵マスターが魔術を施した近代兵器を使って私の視力を封じ、その間にセイバーともども退いてしまった。」
その内容にキャスターは驚いた。
セイバーと言えば、自身が最も警戒するべきサーヴァントだ。
それを退けたというのだ。これが驚かずにいられるだろうか。
「……善戦、なんて……っ!とんだ謙遜じゃない。しかも、視覚が封じられてるのに相手が引いたってことは、貴方の方が優勢だったってことかしら?」
「ギリギリ、運が良かっただけだ―――――それに、最後の最後で止めを刺し切れなかった以上、次は無いだろう。アレはそう言う英霊だ。」
興奮気味のキャスターに対し、アーチャーは包帯越しでもくっきりと浮かび上がるほど眉間に皺をよせ苦々しい表情を作る。
「あの……アーチャーさんにメイちゃん。一つ質問したいんですけど、敵のマスターが使った『近代兵器』に魔術を付与することなんて可能なんですか?」
「そう言えば、そうだ。科学と魔術はそもそも向かっている方向が違うってキャスターちゃんも俺に教えてくれたけれど、どうなんだ?」
「そうね………。お兄ちゃん、強化の魔術で学校のストーブの配線なんかを補強したことが有るって言ってたわね?原理はその応用よ。」
「アーチャー。貴方が受けた視力封印、恐らくは魔眼殺しの封印ね?」
「……その通りだ。近代兵器――――閃光と音で五感の2つを潰すスタングレネード。その光の速さと魔術の到達時間のタイムラグまで計算されていたのだろう。こと、眼を封じるにはこれ以上ない兵器だ。」
「実際に見た訳じゃないから、ここからは推測になるけれども、錬金術と年数は浅くても『常識』を逆手に取った概念の付与があるわね。」
その言葉に桜と士郎は首をかしげる
「お兄ちゃんに昨日の夜に教えた概念武装・礼装は、長い年月をかけて信仰を集めて神秘を作る概念生成ね。でもそれはどうしても信仰する人員、認知度合いによっても付加されるまでの年月が異なるの。」
「そこで、今回使われたであろう近代兵器は尤も認知が高い『常識』を概念に取り込んだのよ。」
常識。それは本来魔術師たちが最も忌避し離れなければならない言葉な筈だ。
常識があるからこそ異端が、異常が支配する魔術なのだ。
それは言いかえれば魔術が常識になってしまった瞬間、魔術基盤は神秘を無くし崩れ去ってしまう。
「強い光が溢れれば人は眼を瞑る。強い光が目に当たれば視えなくなる。――――こんな所かしら?アーチャー、その兵器はもしかして一般ではそれだけの機能のものかしら?」
「ああ、高音で聴覚も潰すのをあわせて、それだけだ。……成程、常識として広く知れ渡っている『これは人の目を潰す』という大衆概念を魔術で強引に擬似神秘に仕立て上げ、その上で魔術式を追加して行く、という仕掛けか。」
「ええ、でも概念自体は付与が成立しているかどうか怪しいくらいに弱いものだった筈よ?問題は錬金術の方でしょうね。」
「それはこちらの不覚だ。セイバーに対して大技を切る寸前でな、視力を強化していた……」
そしてアーチャーは語る。
セイバーの武装は不可視であり、そこから真名を推測するのは難しい、と。
「私が出せる情報と言えばこのくらいだ。君の中で、これはどの程度の価値があるかな?」
「………話の内容が3割本当だとして2割は誇張、残りが嘘と脚色だとしても……そうね、貴方の目を治療することにプラスして私の持っているサーヴァントの情報も教えるわ。」
「ずいぶんと大盤振る舞いだな?キャスター。」
「こっは魔力不足が深刻なのよ。簡単な道具作成ならできるけれど、まだ工房すら出来あがってないんだから、使える手札は増やしておきたいの。」
「ククッ、君にとっては『手駒』の間違いだろう。―――それで?君が見たサーヴァントは残るライダーあたりかな?」
それは予想というよりも、アーチャーの願望であった。
今、この場で『アレ』の話をあげないで欲しい。
話をすれば、目の前の不出来な魔術師、衛宮士郎は何を想うか。
少年と少女にアレの正体を気付かせる訳にはいかないのだが…
「――――いいえ、私が遭遇したのは復讐者(アヴェンジャー)のサーヴァントよ。」
キャスターの表情はどこかやさしく、まるで正義の味方に想いを馳せる少女のようだった。
猫:
前回から打って変わって台詞中心の回でした。
慎二君は一体何をしていたんでしょうか?
ヒント・原作のOLさん。