「遠坂凛よ」
とりあえず平静を装って自己紹介を済ませる。
いい加減ションベンガキやらオネーサンではプライドに銃弾がめり込む気分だ。
「トオサカ?…あ゛ートオサカねぇ………んじゃあ凛たん?」
「たんは止めい!」
畜生め、何で私がこんな頭の悪い会話をしなけりゃならないのか。
「じゃー凛で。うん、いい名前じゃねーか。実にアンタらしい名前だ。」
あれだけ馬鹿にしたセリフを吐いておきながら、コロコロと言葉を換えてくるあたりが素直に受け取れず逆にムカつく。
「…それじゃ質問を続けるわよ。私が知ってる限りじゃアヴェンジャーなんてクラスは聞いたこと無いわ。おまけに聖杯戦争に神様が参加するなんてこともあり得ないと思ってるんだけど?」
「べッツにどーでもいいじゃん。ほい、Q.E.D.証明終了」
「ざっけんじゃないわよ!!いい?私はあなたのマスターであんたは使い魔。おまけに人の家の屋根を盛大にぶっ壊しておきながらそのふざけた態度!!いい加減真面目にしないと令呪を使うわよ。」
この手の輩との会話は頭に血が上る。間違いなく遠坂凛と子のサーヴァントの愛称は最悪だ。
「えー。俺だって別に壊したくて屋根壊したわけじゃないんだけどよ?凛たんがうっかりにもこの家の上空に召喚しちまうもんだからぬートンの法則に従ってダーイブした訳よ。アンダスタン?」
「なにがアンダスタン?よ!!もうちょっとうまく着地してくれるだけでどれ程修繕費が浮いたことか!!今月やばいのよ?宝石が下手したらダースで飛んでいくかもしれないのに!魔術師が自己破産で工房差し押さえなんて洒落になんないのよ!!」
そして、たんは最早決定事項なのか。
「ま、ま、ま。落ちつけよ、凛たん。判ったって。とりあえずは暫く屋根にブルーシート張っておいて地道に貯金しようぜ?」
「ムッキー!!いちいち頭にくるやつね!?いい?あんたが屋根を修理してついでにこの散らかった部屋を片付けておきなさい!」
「はぁっ……なんでさ……?」
どうやら諦めが吐いたのか、ぼりぼりと頭を掻きながら愚痴をこぼすサーヴァント。
「それと、あんたはクラス外のサーヴァントなんでしょう?復讐者っていうのはどんなスキルを持っているのよ?」
「うぅん。実は俺も良くしらねぇ。何つっか聖杯からの知識供給やら何やらは現代の文化とこの戦争の常識的ルール説明だけだったんでな。アヴェンジャーのクラスなんてスズメの涙程度の情報しかなかったぜ?まあ自分がどういう奴かは自覚出来てるから、不便はしないと思うけどよ。簡単に言っちまえば三騎士見たいな華々しさはネーな。」
なんだ、真面目になってくれればしっかりと会話も説明もできる奴じゃない。
一応こいつも聖杯戦争に参加するからにはやる気はあるのだろう。
「ってことはアサシンみたいなトリッキーな戦法が得意ってわけ?」
「アサシンなんかと一緒にすんなよ。確かに俺は格下の戦闘力しかないけど、俺の宝具は心中に関しちゃ教典の次を張れるんだぜ?」
「?教典て、なに訳の分からないことを――――まった。今あなたなんて言った?」
「あ?格下ってことか?安心しろよ。それでも三騎にだってそう簡単に殺られるつもりはねーよ。まして人間相手なら確実に殺せるぜ?ヒュー!俺ってマジクール?」
「違うわよ!……心中とか言って無かった?」
恐る恐る自分の短期記憶を否定したいと願いつつ質問してみるが。
「ああ、心中だな。本来は相思相愛の仲にある男女が双方の一致した意思により一緒に自殺、または嘱託殺人すること。情死ともいう。転じて、二人ないし数人の親しい関係にある者たちが合意の上で一緒に自殺すること。さらに合意のない殺人でも状況により無理心中と呼ばれることがある。以上wikiった。ん?じゃあ無理心中って言った方が良かったのか?」
「なによそれぇ!??まさか何回死んでも大丈夫、なんてスキルでもあるわけ?」
「おいおい、凛たん。そんな非科学的なことがあるわけないだろ?命はいつだって一つなんだ。」
少年名探偵風に真実と置き換えても全然カッコいいとは思えない。と言うか本当にこいつは馬鹿なんじゃないだろうか?
「それじゃあその宝具を使ったら、あんたはどうなるのかしら?」
こめかみの血管から筋肉まで余すことなく顔面が痙攣を起こしそうだ。
「…?あー、言い方が悪かったか。要は死に切らなきゃいいってことだ。」
「ヴェルグ・アヴェスター(偽り騙し欺く万象)って言ってな。オレが傷を負ったときに相手に触れると、それを相手にも写すって効果だ。だから致命傷スレスレのダメージを受けりゃいくら三騎士のサーヴァントでも俺と五分の戦闘をせざるをえなくなるってわけだ。」
成程、そう言うことか。確かにこの方法なら、最優のサーヴァント、セイバーすら追い詰めることができるかもしれない。
それに、ここぞという場面で令呪をうまく組み合わせて使えばなかなかの手札だ。
「なによ?それなりにうまく立ち回れば心配するのはキャスターくらいじゃない。」
「まあ、傷を受ければそのたびに相手にダメージを返すことができるしな。それに、受けた傷は同一人物じゃなくてもいいし…但し、アーチャーとは相性が最悪なのが難点でな。」
そうだ、アーチャーの本領は遠距離狙撃。今のこいつの説明で考えれば、対象者との接近戦闘でなければ意味がなく、相手に触れることで発動するはこの宝具の使用は不可能だ。
「接近戦闘の得意な弓兵なんて、そう都合のいい奴がいるとも限らないしね。やるとしたら、それこそこっちからうまく奇襲をかけるしかないってことね。」
「ケケケ。そう落ち込むなよ。宝具以外だってちゃんと戦えるって。意外と器用なんだぜ俺?」
「あんたの見た目からまっとうな戦いを想像する方が難しいわよ。」
なんか今の時間だけでどっと疲れた。
サーヴァントを召喚した時点で並の術者なら意識を保つのも難しいと言うから、案外持った方かと思う。
……こいつのステータスが低いのも関係してると思うけど。
「それじゃあ、今日はこのくらいにして私は寝るわ。――――いい?ちゃんと掃除しておくのよ?」
そう睨みを利かせて部屋を離れる。
「ヒヒヒ。―――――チッ。……わかったよ。やっておくから。あと、んな自室覗くなよ的な目で睨むなよ。姦淫すんならもっとソソル女探すからさ。」
「お休み凛たん。」馬鹿にした声がそう最後に聞こえた。
やっぱムカつく!!!このド腐れサーヴァントめ!!!