S09地区指揮官であるあなたが眠りから醒めると、自らがベッドの中にいることに気づいた。
あなたの体の底で常に蠢いていた疲労はいつの間にか姿を消しており、今にも空に浮かんでしまいそうな爽快感がそれに取って代わっていた。
久しぶりのように感じるこの気持ちに体を委ねていたい、と思ったあなたは敢えて四肢を動かさず、目も開けずに、自らが今どこにいるのか確認しようとした。
瞼越しに感じる淡く白い光。新品のような、ぱりっとした感じのベッド。人工的な、それでいて清潔な空気。
あまり感じたことのない周囲の雰囲気にあなたの心身は若干戸惑った。
数回の深呼吸を経て、あなたはゆっくりと目を開ける。
「......?」
あなたが横たわっていたのは新築の雰囲気がまだ残っている医療施設の個室であった。
四肢はある。服装は上下パジャマ。若干汗で濡れている。腕には点滴も刺さっている。
直前の記憶と全く関連のない場所、そして状況にあなたは混乱した。
確か私は過酷な業務に苦しんでいるところをM4に...そのあとAR-15が...あとSOPIIも...最後にM16...。
可能な限り記憶を思い起こし、今と結びつけようとしてみたが...結局無駄な試みであった。
ガラッ
向かいにある引き戸が優しく開く。
予期せぬ来客に思わずあなたは身を起こし、戸のあたりに視線を移して、体を向けた。
指先部分がないグローブ、鮮やかな黄色のパーカー、前に下げた黒のロングヘアー。
色白の肌、黄色の瞳...いや、橙色とのオッドアイ。
......?
彼女は。
「指揮官、今日も......、しき、かん...?」
彼女の腕からクリアファイルが一枚、パサリと落下した。
「あ、あ.....お.....」
彼女の名前を呼ぼうとしたが、声がしわがれていて叶わない。
「...指揮官、起きたのですね...!」
彼女の表情が崩れ、両目から涙が浮かび始める。
そして戸惑うあなたにお構いなしに、突如としてあなたの元へと駆け寄った。
「し゛き゛か゛あああああん゛!」
ドサッ
「......!?」
そしてそのまま、彼女はあなたの胸へと飛び込んだ。
その勢いを殺しきれず、あなたは後ろへと倒れ込む。
ボフッ
柔らかく高反発なベッドが二人を受け止めた。
彼女があなたの背中に手を回し、胸に顔を埋めて言う。
「しぎがん、わたし、しきかんが、うっ、もうおきないんじゃないがと......ううぅ...。」
彼女があなたに向ける過剰とも思える気持ちにあなたは困惑した。
しかし、私が起きないんじゃないか、だと..?
声がうまく出せないため、一体何のことか問いただすこともできない。
大げさなことを言われているような感じもして、あなたの脳内は混乱の渦中にあった。
だが、声は出せなくても...。
そう思ったあなたは、体をゆっくりと起こし、彼女を優しく抱きしめ返した。
「.....!?」
彼女が驚きの表情を見せる。
しかしその表情はすぐに安堵のものへと変わっていったようであった。
「すぅ......、すぅ......」
彼女の気持ちもだいぶ落ち着いたようだ。
彼女の嗚咽も消え、若干の吐息のみが部屋を支配していた。
それから、どれくらい時間が経ったであろうか。今でも分からない。
看護師があなたの下にやって来るまでずっと、あなたと彼女はお互いに抱き合い、体温を共有しあっていた。
〇一週間後
S09基地 司令室
S09地区指揮官であるあなたは、強い意志を持って執務机へと向かった。
退院も済ませ、今日は業務の再開日。地獄の作業も久しぶりとなると気が入るものだ。
「おはようございます指揮官。今日のレポートをどうぞ。」
隣にはあのときいた彼女......RO635が副官として鎮座していた。
「ああ、ありがとう。」
彼女に対してあなたは笑顔で答える。
「全く...指揮官が過労で倒れたと知ったときはヒヤヒヤしましたよ...。」
「ああ...。あの時は無理をしすぎたな...。反省するよ」
「二、三日で意識が戻ると言われたときは安心しましたが...。指揮官、実際はどのくらい眠っていたか覚えていますか?」
「...どれ位だったっけ」
ROの眉間に皺が寄り始める。
「はあ...。ちゃんと主治医の話を聞いてたんですか?二週間ですよ、二週間。私がどれだけ心配したと思っているのですか」
「そんなに寝てたのか...。」
「他人事みたいに...。」
互いに小言を交わしながら膨大な書類を捌いていく。
あなた一人のときとは比べ物にならないスピードで書類が片付いてゆく。互いを信頼しているからこそできる所業であろう。
「指揮官。」
ROがあなたを向いて言った。
...この口ぶりは小言じゃない。
「...何だい、RO。」
「指揮官は......、最後まで私たちの味方でいてくれますか?」
「...どうしたんだい、急に。」
「先月M16と離れ離れになってから、私、怖いんです......。今まで敵は鉄血だけだと思っていたのに、銃弾を交わさないだけで、正規軍にも、ましてやグリフィンにもAR小隊の敵はいるような気がするんです」
「ペルシカも私たちの大切な仲間ですが...。でも現状一番頼れるのは、指揮官、あなたなんです」
彼女の表情が曇り始め、不安な表情であなたのことを見つめた。
「もし指揮官にも見捨てられたら......。私、いや、AR小隊はもうダメかもしれません」
「ですから......。指揮官。」
その質問に対し、あなたは業務の手を止め、おもむろにこう言った。
「...大丈夫だ。君たちAR小隊がたとえどん底へと落ちていったとしても、私は君たちを決して見捨てない。」
「もし君たちAR小隊が解散させられようなら、私が全力で阻止する。」
「それでもダメだったなら、たとえグリフィンを、仲間たちを裏切ったとしても、私は......。」
はっきりとは見なかったが、彼女が少し微笑んだような気がした。
END
このシリーズは今作で終了となります。
前後関係が不安定すぎてもはやシリーズと呼べるのかわからない代物ですが、如何だったでしょうか。
何はともあれ、楽しんで頂けたなら幸いです。
さて、これはテスト投稿という事で、Pixivで投稿していたSSをそのままここでも使わせて頂いておりましたが、今後はマルチ投稿でなく、ここだけに投稿するSSを書きたいと考えております。(マルチ投稿も物によってはするかも...。そのときはまたその旨を述べます)
今後もお世話になります。宜しくお願いします。
h2RL