どうにか今回の話が投稿出来る程度までは進められたんですが、次話はもう暫く時間が掛かるかも。
どうか気長にお付き合いを。
――イヤアァッ! イヤアアアァァァッ!!
誰かの悲鳴が聞こえた。
――出して! ここから出して!
硬質な何かを叩く音と共に、悲痛な訴えが何処かから聞こえた。
――アアアアァァァ! ギャアアアアァッ!
また別の何処かから、獣染みた絶叫が響き渡った。
――ひっ! ひぃっ!
そう遠くない何処かから、怯えたような引き攣った声が、鎖が擦れるような金属音に混ざって聞こえる。
――うふふ……はは……あははは……
また別のすぐ傍から、誰かの気に触れたような乾いた笑い声が耳に入って来る。
そして、
「離して! 離してぇ!!」
水晶の髪留めを振り回して泣き叫ぶ己の絶叫を、汚れた患者衣姿の夜宵は耳にしていた。
「もう嫌!
必死に身を捩って、自らの両隣を歩くガスマスクの男達へと夜宵は訴える。
しかし、その声が聞こえていないのかのようにブカブカの白い防護服を纏った男達は何の反応も返さず、黒い硬質ゴム製のバンドで手首から拘束された夜宵の両腕から手を離す事も、また力任せに彼女を引き摺る事も止めない。
「離して! もう家に帰して! 本当に嫌なの!!」
それでも、なおも諦めず夜宵は頭を振り回して拒絶の意を示す。
耐薬ビニル製の貼り付くような床に踵を力一杯押し付けて強引に止めようとするも、それでもガスマスクの男達の歩みの勢いは落ちる事無く、むしろ二の腕を引っ張られる力が悪戯に強くなってより痛い思いをするだけだった。
それでも良かった。こんな程度の痛みは全然マシだった。
しかし、悲しいかな。彼女の悪足掻きは何の意味も為さない。
「……っ!」
程無くして両隣のガスマスクの男達が足を止めた時、それは夜宵の目の前に現れた。
左右の二人と同じ防護服とガスマスクを身に着けた数名の男達。
そして、ズラリ、と並ぶ彼らの中心に横たわる強化アクリル製の箱と、幾本かのケーブルで繋がった機材。
もう準備の仕上がっている
「ひっ……!」
それでもなお逃れんがために夜宵は後退しようとしたが、両隣のガスマスクの男達がそれを許さないとばかりに彼女の両の足首を掴み上げ、その体を完全に持ち上げてしまう。
「いっ、嫌! 嫌っ、嫌ぁ! 止めてぇ!!」
宙へ浮き上がってしまった体をバタつかせてなおも逃れようとする夜宵であったが、もはやその行為には何の意味も無い。
釣り上げられてしまった魚よりも無力な有様を晒された彼女は、既に蓋を取り除かれていた強化アクリルの箱の中へ、それこそ魚がクーラーボックスの中へ放り込まれるように、無造作かつ乱暴に落とし入れられた。
バシャ、と中に満たされていた透明の液体が盛大に跳ね、既に染みだらけになっていた彼女の患者衣を濡らす。冷たく染み渡るその感触が不快で、それ以上に
――また、あの苦痛が訪れる。
込み上げる恐怖に突き動かされるまま、もう一度足掻こうとする夜宵へと、周囲のアクリル壁を乗り越えてガスマスクの男達の手が殺到する。バシャバシャ、と液体の飛沫が跳ね飛ぶ中、夜宵を抑え付けた男達が、アクリル箱の内部に備えられた拘束具や、外部から伸ばした呼吸器を次々に彼女の体へと付けていく。
そうして、
「止めてっ! 止めてぇ!!」
蓋が完全に閉じられた時、
もう一刻の猶予も無い夜宵は、湧き水の様に涙が湧き出る目を見開いて、必死に懇願する。むちゃくちゃに頭を振り回し、視界に映るものを次々と入れ替えながら。
眼前に並ぶ幾つものガスマスクから、男達が並ぶ隙間から覗ける見知らぬ女達へ。自分と同じような患者衣の上から鎖で雁字搦めにされて寝かされている彼女達から、黒い正方形の板へ。
そして、奇妙な文様が複雑に彫り込まれているその板から――。
『フフフフ……』
――隣に立つ防護服姿の何者かと何かを語らいながら彼女を眺めている、
次の瞬間、彼女を入れたアクリル箱の蓋が完全に閉じられ、
「イヤアアアアアァァァァッ!!」
辺り一面から噴き出した緑掛かったガスが、夜宵の視界一面を覆い隠した。
『……い…ゃん……やよ……ちゃ……夜宵ちゃん!!』
ハッ、と誰かが自分の名前を叫ぶ声が聞こえて、夜宵は意識を取り戻した。
胸を激しく上下させて荒い息を吐いた彼女は、カッ、と開いたままの目をゆっくりと声がした方へと動かした。
「……メイ、ジー……?」
『ああ、良かった。やっと起きましたのね』
自分の頭のすぐ横で立っていた彼女を認めた夜宵は、彼女の名を呼ぶ。
目覚めたて故か、忙しない呼気混じりの擦れた声が唇から出ると、切迫したように見開かれていた彼女の一つ目が、安堵したような声と共に細められる。
『心配しましたわ。
溜息交じりにそう言うメイジーを余所に、夜宵は右手を目元に当てた。
視界を覆い隠した掌が、水気を覚える。それが顔から噴き出た脂汗や、目尻に残っていた涙の残照だと察した彼女は、はー、と深い息を吐き出した。
「夢……見てたの」
『ん?』
「多分、二年前の……実験、されてた時の……ファウスト、に」
多分、間違いない。
アレは二年前の、ファウストに囚われていた一ヵ月の間に受けた仕打ちの、その一部。
彼女の記憶の奥底に刻まれて忘れられず、されとて常に記憶の片隅に置いておくには刺激が強すぎる経験の、その一部だろう。
それを、メイジーに起こされるまで悪夢として追体験していたのだ。
……ああ、思い出せる。
直前にメイジーの声で覚醒出来たお蔭でどうにか逃れられたが、あのまま夢を見続けていた場合に自らを襲っていたであろうものを思い、震え出す自らの体を夜宵は左腕で抱き締める。
あの緑掛かったガスが齎したであろう苦しみを。
体中の至る場所からガスが全身の細胞の一つ一つを侵し、強制的に作り替えていくようなあの悍ましい激痛を。
その痛みに悶え苦しむ自分をガスマスクの奴らが底が見えない真っ黒なレンズで無機質に見下ろす、あの恐ろしさを――。
「っ……」
『それは……さぞや辛かったでしょうね』
震える息を吐く夜宵を労わるように、メイジーも息を吐く。
彼女も、かつてはファウストに囚われていた身だ。
果たしてどういう経緯でそうなったかも、囚われていた間どのような目に遭っていたかも何故か曖昧だが、一様に自らを研究対象として見るガスマスクの男達の不気味な視線は嫌という程覚えている、と以前彼女は語っていた。同じくファウストの被害者である彼女だからこそ、その同情の言葉に嘘は無い。
そしてその言葉に小さく頷き返してから一拍置いて、ふと、夜宵は気づいた。
今、自分が胸の上の辺りまで布団を被っている事に。
「ねぇ? そういえば、ここドコ?」
メイジーに尋ねつつ、右手を布団の上に下ろした夜宵は再び開けた視界で辺りを見回す。
大体6畳程の大きさの、白い壁紙が四方を覆う部屋の、大きな窓が設置された壁沿いのベッドの上に夜宵は寝かされているのだが、その部屋の内装はどうも見覚えがある。
自分が今寝かされているこのベッドも、頭上に設置されているこの棚も、すぐ右隣りから日光が差し込むこの窓も、ベッドから見て右下斜めの部屋の隅に設置された勉強机も、その背後に位置する出入口の扉も、それこそ、有り過ぎる程に。
この部屋、ひょっとして――。
『ここですか? 貴女のお部屋ですわ』
「やっぱり」
どうも既視感が有り過ぎると思ったら、やはりというか何というか、この部屋は夜宵の自室だったようだ。
つまり、昨日の夜の
「ちょっと待って。何で、私家にいるの? 確か、昨日の夜は――」
昨日の夜の事を、額に手を当てて夜宵は思い返す。
まず、滝川が手配した西都行きの密航船へ向かうため、戦兎と万丈と共にエリアP9の港へ向かった筈だ。
そこで滝川と落ち合ったかと思いや、何処からともなくガーディアンやスマッシュが現れたので、彼女と万丈を先に向かわせてから戦兎と共にそいつらと戦った。その後、倒したスマッシュの片方が鍋島で、西都へ鍋島の家族を助けに行く事自体がファウストの罠であると気づいて、そして――。
ハッ、と重大な事を思い出した夜宵は布団を跳ね除けて上半身を起こすや、引っ掴んだ
「
『あ、アイツ?』
「血まみれのコブラよ! いたでしょ!?」
そうだ。いた筈だ。
鍋島の家族の件が罠であると分かって、その事を万丈達に伝えようとした戦兎が急に倒れ、更に二年前にも感じた痛みの後同じように倒れてしまった夜宵とメイジーの前に、確かに現れた筈だ。
蝙蝠男――ナイトローグがスタークと呼んでいた、あの血まみれのコブラが。
『ああ! あの大きなコブラさんを従えた、真っ赤な
漸く思い出したらしいメイジーに、そう、ソイツ、と夜宵は大きく頷き返す。
「多分、アイツに何かされたの。それで私と戦兎さんは気を失って――」
しかし、卒倒した戦兎と違い、倒れてから完全に気を失うまで夜宵は朧気だったが意識があった。
その最中で見たのだ。
自分の手から転がり落ちた
だからこそ、メイジーは知っている筈だ。
あの後、気絶して完全に無防備になっていた夜宵が、どういう経緯で自室で寝かされていたのかを。
同じように気を失っていた戦兎はどうなってしまったのかを。
同じ場にいた鍋島と、もう一人のスマッシュにされていた男の安否を。
そして何より―― 一度は奴の手中に落ちて悲鳴を上げていた筈のメイジーが、どうして何事も無かったかのように自分の傍にいるのかを。
それを知るため、眼前のメイジーを更に、鼻先が触れるか触れないというところまで近づけて夜宵は問い質そうとする。
「あの後、何があったの? 何で私ここにいるの! 戦兎さん達はどうしたの!?」
『ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!?』
「アイツはっ――あのコブラはどこへ――」
と、その時だ。
不意に聞こえて来たドタドタ、と慌ただしい足音の後に出入り口の扉が開いたかと思いや、
「お母さん!」
「夜宵ちゃんっ……!」
そこに現れた夕昏が口元を両手で抑え、感激と安堵が籠った声を漏らす。
突然現れるや、見る見る内に自分と同じ青み掛かった両目を潤ませる母にメイジーへの追及を止めざるを得なかった夜宵であったが、続いて襲って来た更なる驚愕に彼女は眼玉が飛び出そうになるほど目を剥かざるを得なかった。
「おー、元気そうじゃねぇの。その分ならもう大丈夫だな、良かった良かったぁ」
体を震わせる夕昏の、その背後からひょっこり顔を覗かせて来た、
「まっ、マスター!?」
「よっ」
――思わず指を差す夜宵に、いつもの陽気な態度を崩さず人懐っこい笑顔で手を振って来る、石動の姿を目にしては。
「いやぁ、すいませーん! 朝飯まで御馳走になっちゃってぇ」
場所は移り変わり、星観家 台所。
普段ならば自分と母以外に座る人間の居ない木製の食卓の一角、夜宵の斜め左上の席に座る薄いピンク色のYシャツに白いスラックス姿の石動が、今は食卓の上に置いている白の中折れ帽を乗せていた頭を押さえて申し訳なさそうにしている。
そんな石動に、今の夜宵から見て正面の位置にあるシンクで使い終わった食器を洗っていたエプロン姿の夕昏が、いいえ、と肩越しに石動の方を向き、首を左右に揺らす。
「こちらこそ、娘がお世話になったんですもの。これぐらいさせて頂かないと」
「とぉんでもない! 夜宵ちゃんにはウチの店贔屓にしてもらってるし、娘や居候とも仲良くしてもらってるんです。こんなの、世話した内に入りませんよぉ!」
アハハハハ、と陽気に笑いながら返す石動に、ふふ、と水気を拭き取っている最中の皿を持ったままの手を口元に寄せて夕昏も微笑み返す。
そんな二人の姿を昨日からのパーカーにショートパンツ姿のまま、何とも言えない気分で細めた目で眺めていた夜宵だったが、再び夕昏が皿洗いに戻ったのを見計らって、石動の方をジロリ、と見遣った。
「で、何でマスターが
そう問い掛けるや、何故か心外そうに、え゛ー、と石動が眉根を寄せた顔を向けて来る。
「ダメぇ? 俺がいちゃダメなのぉ? お袋さんの手料理食べちゃダメなのー?」
「いや、駄目じゃないけど」
そうじゃなくて、と早々に崩された調子を仕切り直そうと試みる夜宵であったが、そうするよりも前に石動の方が、冗談だよ、と返してきた。
「昨日の夜、エリアP9の倉庫の中で倒れてたお前と戦兎を見つけて、お前の方はお袋さんに連絡して部屋まで運ばせてもらったの。で、ちゃあんとお前が復帰できてるかどうか、今朝確かめに来てたんだよ」
ついでに朝飯貰えたのはラッキーだったけどねー、とほくそ笑んでそう説明する石動に、すぐさま夜宵は待ったを掛ける。
「見つけたって事は、マスター、あそこにいたの?」
「おお、いたよ。あの辺散歩してたんだよ、偶っ々なぁ。ビックリしたぜぇ、スマッシュと戦ってたんだろ? 俺が見つけた時にはそれらしい奴が
「ちょっと待って」
突然語る口を遮った夜宵に、ん、と石動が首を傾げる。
「今、
「そうだよ。お前と、戦兎と、後は
「っ!?」
石動からの思わぬ話に、夜宵は目を剥く。
そんな筈はない。確かに、あの時鍋島は自分と戦兎の足下で気を失っていた筈だ、と。
「戦兎も同じ事言ってたよ。お前らが戦った
言って、ふぅむ、と息を吐きながら椅子の背凭れに圧し掛かった石動が、手元の水が注がれたコップを一扇りする。
「だが、俺が来た時には確かに奴は居なかった。まるで、
「誰かに……運ばれた?」
一体全体どういう事だぁ、と腕を組み、首を傾げる石動の言葉を聞いて、ふと夜宵はある可能性に気づく。
まさか――。
「アイツが、鍋島を連れ去った?」
ポツリ、と呟いた夜宵の言葉に、何だって、と反応した石動がすかさず顔を近づける。
「何だ? 心当りでもあんの?」
「アイツが、いたんです。あの、血まみれのコブラが」
「血まみれのコブラ? 二年前にお前と、お前の友達攫ったって、例の?」
「はい」
石動に頷き返しつつ、だからか、と疑問が氷解するのを夜宵は感じていた。
昨日の夜、自分と戦兎を気絶させたのが奴だったなら、何故無力化した自分達に手を出そうとしなかったのか不思議だった。最初から、鍋島一人の回収が目的で、だから邪魔な自分達の目を塞ぐために気絶させたのだ。
――いや、それならばそれで何故気絶させるに留めたのか? 一時的に気を失わせるくらいなら、結局その場で消してしまう事も出来た筈だろうに?
新たに沸き上がった疑問に、口元に手を寄せて夜宵は首を傾げるが、その答えはすぐに判明した。
「そうか。ソイツの仕業だったんだなぁ、お前らに撃ち込まれてた
「えっ、毒?」
納得したように手を打ち合わせる石動の口から、何やら不穏な単語が出て来る。
「毒が撃ち込まれてたんだよ、お前ら。危なかったんだぜ? 俺が見つけんのがもう少し遅れてたら、二人揃って今頃あの世だ」
知らぬ間に身に起きていた身の危険を知らされ、夜宵はぞっする。
血まみれのコブラが敢えてトドメを刺していかなかった理由は判明したが、まさかそんな事態に陥っていたとは……。
「こうして態々確認しに来たのも、その毒の事があったからさ。万が一解毒し切れてなかったらエラい事になるからな」
「そうだったんですか……」
どうやら、思わぬところで石動に命を助けられてしまったらしい。
その事について礼を言えば、良いって事よ、と石動からカラカラ、と陽気な笑い声が返って来る。
と、そこでもう一つ尋ねなければいけない事があるのを夜宵は思い出し、パーカーのポケットから取り出した
「あと、このボトルなんですけど」
「ああ、枕元に置いておいた奴かぁ? それがどうした?」
「私と戦兎さんを見つけた時、これ、どこにありました?」
「どこって……普通にお前らの傍に転がってたよぉ?」
それを拾っただけだけど、と当たり前のように石動がそう答えるが、しかしその解答は夜宵を納得させる事無く、むしろその胸中の疑問を強くするものだった。
意識を失う間際、血まみれのコブラが
しかし、この石動の返答を鵜呑みにするなら、奴は
だが、実際の状況はそれ以上に奇妙な状態に陥っている。
何故ならば――。
『ねぇ、だから言っているでしょう? 例のコブラ男は貴女と桐生 戦兎の気を失わせた後、
――当のメイジー自身がその場で放置されていたと語っているからだ。
自室から食卓までの移動の間際に、当時の事を改めて問い詰めた時もそうだった。
血まみれのコブラに触れられた事も、必死に夜宵に助けを求めていた事も、そんな事は全く無かった、とその時から彼女は言い続けている。まるで、昨晩の事を綺麗さっぱり忘れてしまったかのように。
しかし、そんな事は有り得ない。男に触れられたという屈辱を、心から男を憎み侮蔑するメイジーが忘れる筈は無い。
現に、夜宵と戦兎が発見した際にメイジーを回収したという石動の先程の説明については、当時の耐え難い不快感と屈辱を多分に滲ませた口調で彼女も肯定していたのだ。怨敵たるファウストの一員にされた行為など、もはや語るまでも無い。
だのに、実際はこれだ。その上、石動が語った発見時の経緯も、結果的にメイジーの説明を肯定するものになっている。
一体、何がどうなっているのか?
食い違う記憶と二人の説明に、首を傾げる夜宵。
と、その時。
ふと、自分と石動の手元へと空のティーカップとソーサーが差し込まれるのが目に入った夜宵は、慌ててメイジーをポケットへ引っ込めつつ、それらを持つ手を追って奥の方へと視線を滑らせた。
見れば、いつの間にか食器洗いを終えた夕昏が、ティーポットと、もう一組のティーカップとソーサーを乗せた円形のお盆を左手に彼女の席の傍に立っていた。
夜宵に視線に気づいた夕昏が、ティーカップとソーサーを配り終えた右手を、あら、と口元に当てる。
「気づかれちゃったかしら?」
お話の邪魔しちゃ悪いと思って、と二人に声を掛けなかった事を謝る夕昏。
見られてはマズいと、咄嗟に彼女の目から
その傍ら、大丈夫大丈夫、と石動が笑顔を返していた。
「昨日の事で謝られたんで、気にすんなって言ってたトコですよぉ」
「ああ、昨日の」
納得したように頷き返す夕昏。
その様子を横から見ていた夜宵は、ふと気になった。――昨日の一件の事を、石動は母に何と伝えているのか?
まさか、仮面ライダーとしてスマッシュと戦い終わった後、何者かから毒を盛られて命の危機に瀕していた、などと正直に伝えてはいないだろう。そんな事が伝わっていれば、母がこんな風に平常を保っていられる筈が無い。
では、どんな作り話が母には伝わっているのか?
そこはかとなく不安を覚える夜宵であったが、その答えはどこか困ったような顔で彼女の方を振り返った夕昏がすぐに教えてくれた。
「石動さんはこう言ってくれてるけど、もう
「えっ、私?」
「石動さんが連絡くれた時、恥ずかし過ぎて顔から火が出そうだったんだから。“コーヒーの飲み過ぎでカフェイン中毒になって、危うく死に掛けた”なんて」
「……はい?」
「お店の迷惑にもなるんだから、もう絶対こんな事しちゃ駄目だからね?」
まるでやんちゃ盛りの子供にやるように、めっ、とそう注意した後、当時の事を思い出してか、もー、と若干顔を赤らめながら夕昏が溜息を吐くが―― 一体、どこからつっこめばいいのだろう?
“危うく死に掛けた”以外は何一つ合っていない昨日の出来事に夜宵が目を瞬かせていると、ふと、こちらを向いた石動がパクパク、と嫌に忙しなく口を動かしているのが目に留まる。
それが、母に悟られないように口パクで何かを伝えようとしているのだと察した夜宵は、彼が言わんとしている事をその口の動きから読み取ろうと試みた。
(しょうがねぇだろぉ? ホントの事言うワケにいかねぇんだからー!)
どうやら、これが母を誤魔化すために石動が伝えた作り話という事らしい。
それを悟った夜宵は、成程、と納得する――事は出来なかった。
(だからって……いくら何でもコレは無いでしょ……)
カフェインの摂り過ぎで死に掛けた、なんて代替の理由としてあまりにも馬鹿げ過ぎている。そんな事で人が死んだなど、聞いた事が無い。百歩譲ってそれがあり得るとして、そもそも飲み過ぎた事にされてるのは石動のコーヒーだ。彼には悪いが、アレは量よりもまず味で死ねる。その
『お母様が人の良い方で助かりましたわね……』
全く持ってメイジーの言う通りだった。
夕昏が人一倍人を信じやすい性格だったからどうにか通っただけの、統合性もへったくれも無い作り話に、心底呆れざるを得なかった夜宵はジト目で石動を睨み付ける他無かった。
「それにしても、死にそうになるほど飲むなんて……。よっぽど美味しいのね、石動さんのコーヒーって」
「……そういう訳じゃないんだけど……」
一方、石動のあんまりな作り話を信じ込んでしまっているらしい夕昏が、夜宵と石動に差し出した分と、自分の席に置いた分のティーカップに紅茶を注ぎ終えて席に着くや、そんな事を言い出す。
見るからに興味津々とばかりに青み掛かった瞳を輝かせる母の様子に、飲んでみたいと思っているのだろう事を早々に察知した夜宵は、あんなモノを母に飲ませるワケにいかない、とどうにかそれとなく諦めさせる方法は無いか考えながら、ティーカップを口へと運ぶ。
――そんな調子のまま石動の方へ向き直った母が、次に放った言葉を耳にするまでは。
「今度お店に行っても良いですか?
無邪気に石動にそう尋ねる夕昏の声に、ピクリ、とティーカップを傾けていた手を夜宵は止めた。
「ご主人とですかぁ? どうぞどうぞぉ、ウチの店いっつもスカスカだからいつでも大歓迎――」
「止めといた方が良いよ」
変わらず朗らかな笑顔で夕昏の提案に了承の意を示そうとする石動の言葉を、ソーサーの上にティーカップをやや乱暴に置きながら夜宵は遮った。
その際、ティーカップの中にまだまだ残っていた紅茶が跳ねてテーブルを濡らしたが、敢えてそれを無視して、彼女は続けた。
「nascitaみたいなお店、好きじゃないと思うから。……お父さん」
夕昏と石動の丸くなった目が見返して来る中そう告げた夜宵の声は、二人がそんな反応を返しても仕方ないと彼女自身が思ってしまう程に、冷たく淡白なものになっていた。
仕方が無かった。
だから、固まってしまった空気を仕切り直すために、次の言葉を敢えてオーバーな程に明るい口調で夜宵は告げた。
「ねぇお母さん? 何か、お菓子とか無い?」
「え?」
「ホラ! お茶だけじゃ何か寂しいし! マスターもそう思いますよね?」
「んん? いや、別に俺は紅茶だけでも――」
「いりますよね?」
遠慮しようとする石動を、微笑を浮かべつつも視線で威圧する。
それにやや困惑しつつも、じゃー、せっかくだし、と彼が意見を変えるのに合わせ、マスターもこう言ってるし、と戸惑う夕昏の背を夜宵は後押しする。
そうして、言われるがまま席を立った夕昏が背を向けて奥の棚の中を漁り出すのを確認した夜宵は、周りに聞かれないように小さな息を吐いて肩を落とした。
そこへ、口を尖らせた石動が小声で問い質してくる。
「おいおい、どうしたんだよ夜宵? 別に良いぞぉ、俺は。お袋さんが親父さんと一緒に店に来るくら――」
「そんな呼び方しないで良いです」
先程と同じ冷たい口調でそう言うや、ん、と疑問の声を漏らす石動から視線を外した夜宵は後方へと振り返る。
台所と隣接するリビングの、その間の辺りにある木製の四段棚の、その上に飾られた写真立てを見遣りながら、夜宵は言葉の続きを告げる
「
写真立てに収まっているのは何年か前に家族
―― 一か所だけ、その写真とは違う写真が。
その、自分の部屋にある写真と違う箇所を、軽蔑の籠った目で夜宵は睨み付けていた。
「――
今より少し若い母と、幼き日の自分と共に並んで立つ短い茶髪の男。
彼女の部屋にある写真では黒のマジックで完全に塗り潰されている、父親の姿を。
<鍋島がスマッシュにされてた?>
「ああ」
耳元に当てたビルドフォンから、万丈の驚いたような声が返って来る。
その声に、チラリ、と背凭れにしている角柱の向こうを覗き込みながら、戦兎は頷き返す。
<どういう事だ? 何であの野郎が?>
問い返す万丈に、昨夜の出来事を順を追って戦兎は説明する。
万丈と紗羽を先に行かせた後に現れた2体のスマッシュの事。夜宵と共に倒したそのスマッシュ達の片方の正体が件の鍋島だった事。その後、何者かによって夜宵共々毒を盛られて気絶させられ、更には鍋島までいなくなってしまっていた事を。
「気を失った後の事は何も分からねぇが、多分、鍋島はファウストに回収されたんだろう。何でそんな事したかまでは分からないが――」
一旦言葉を区切り、もう一度戦兎は角柱の向こうを窺う。
角柱の向こうでは、変わらず薄緑色の作業着を上に着た男達が行き交っている。――
「――ともかく、今回の件はファウストの罠だ。向こうもお前と紗羽さんが西都に行った事を知ってる筈だから、用心しろよ?」
<――分かった>
緊張で強張った万丈の声が、電話口から返って来る。
その声を合図に、彼への警告を終えた戦兎は通話を終えるため、耳元から離したビルドフォンの画面へ右手の人差し指を沿わせようとするが、
<おい待て!>
不意に万丈が張り上げた声が、その指に待ったを掛ける。
「何だ?」
突然の彼の行動への訝しさに眉を寄せながらも、戦兎はビルドフォンを左耳へ戻す。
<お前、知ってたろ?>
「? 何を?」
<昨日の密航船の持ち主が、一昨日お前が助けた親子だって>
「――えっ?」
戦兎の口から、無意識に素っ頓狂な声が漏れ出る。
一昨日助けた親子、と言われて今の彼が思い付くのは、たった一組――スマッシュにされていた母親と、その幼い息子だが……。
<密航船の船頭がよ、俺達を乗せられねェとか抜かしやがったんだ。他の客の迷惑になるってよ。けど、乗せてやれって横から口出して来たんだ、その親子が。
「マジかぁ~……」
ガーディアンの群れから逃がした後に起きていた思わぬ顛末に、戦兎は驚愕せざるを得なかった。
まさか、偶然助けた親子が巡り回って自分達の助けになろうとは……。
全く予想だにしていなかった展開に、世間って狭いなぁ、と驚きと感心が混ざった声で戦兎は呟いた。
すると、惚けんじゃねェ、と何故か苛ついたような声で万丈が叫び返して来る。
<知ってたんだろ!? あの親子の事!>
「はぁ?」
<だから一昨日も態々助けに行ったんだろ? 助けときゃ、西都行く時に役に立つからッ!>
思わず上げた戦兎の間の抜けた声にも構わず、捲し立てる万丈。
どうも誤解しているらしい彼を、落ち着きなさいよ、と電話越しに宥めてから、戦兎はその誤解の訂正を試みた。
「知ってるワケ無いでしょ。あの親子が、
<そんなワケ無ェ! 俺が知らねェ所で何か知る方法が――>
「そもそも、お前らが鍋島に連絡取って、西都へ鍋島の家族を助けに行くなんて話になってたのだって、昨日の夜まで俺は知らなかったんだぞ?
そうして、紗羽さんだってあの親子の事何も言ってなかったろ、と最後にダメ押しの一言を加えれば、もう万丈からはもう何も返って来なかった。
それで彼が観念したと判断した戦兎は、今度こそ通話を打ち切ろうと左耳からビルドフォンを離そうとする。
が、まだそれは叶わない。もう少しだけ。
<……じゃあ、何であの親子助けたんだよ?>
面白く無さそうに、納得がいかないとでも言いたげに、万丈が呟く声が聞こえる。
物事が想定通りにいかず拗ねた子供のようなその声に、ふぅ、と息を吐き、しょうがねぇなぁ、と心中で呟きながら戦兎は答えを返した。
「昨日の夜も言った筈だぞ? “見返りも求めたら、それはもう正義とは言わねぇ”ってよ」
とその時、角柱の向こうから聞き覚えのある声が耳に入った気がした戦兎は、三度そちらを覗き込んだ。
――いた。
変わらず往来する作業着姿の男達に混じり、同じ服装に眼鏡を掛けた秘書を従えて歩いて来る、灰色地に緑色の刺繍が入った詰襟制服を纏った
「漸くお出ましか」
<あん?>
「こっちの話だ、気にすんな。それより切るぞ?」
<おい待てェ! 話はまだ――>
そう追い縋る万丈の声を無視し、画面をスワイプして通話を打ち切ったビルドフォンをトレンチコートのポケットに仕舞った戦兎は、続けて懐から白のタブレッド端末を取り出す。
その画面に目的のデータが表示されている事を改めて確認し、角柱の――
「おいっ、オイッ! ――だあァッ、くっそォ! あんの野郎ォ!」
場所は変わり、西都 第六地区。
鍋島から示されたその一帯の中にある住宅街のその一角、白い煉瓦壁に左右を囲まれた路地に隠れるように停車されている白いバンの中で、一方的に通話を切られて、つーつー、というビジートーンしか鳴らなくなった白いスマホを握った万丈は怒りに吠えていた。
着替え用に持参していた青地の背中に金の龍が刺繍されたスカジャンを纏っている彼の手が、ブルブル、と力むあまり震え、更にその中でスマホがミシミシ、と嫌な音を立てる。
そんな彼を、ストップ、ストップ、と慌てて宥めようとする声が横から上がる。
「止めて止めて、落ち着いて! 私のスマホ壊れちゃう!」
紗羽であった。
昨晩から変わらない白いレディーススーツ姿の彼女が、今にも泣き出しそうに歪めた顔で、あまりの握力に悲鳴を上げている
死刑執行を目前にして命だけはと訴える罪人のように見えなくもない有様の彼女の声に、どうにか万丈は怒りを治め、悪ィ、と借りていたスマホを差し出した。
すかさず、万丈の掌の上からスマホを奪い取った紗羽が、お~よしよし、痛かったねぇ~、と彼に背を向けながら、シンプルなストラップが一個だけ付けられた白いボディを撫でる。
そんな紗羽の背中を少しだけ眺めた後、もう一度、クソッ、と吐き出してから、自らが座る助手席の背凭れに万丈は乱暴に背を叩き付けた。
「ねぇ、言った通りだったでしょ? 戦兎君、全然知らなかったでしょ?」
「――ああ」
まだスマホを撫で続けている紗羽に、溜息混じりの憮然とした口調で万丈は頷くが、すぐに、けどよぉ、と彼は言葉を続ける。
「ワケ分かんねェんだよ。マジで何も無しに人助けしただけ、なんてよォ」
「そんなに納得いかない? 見返り無しの正義って?
「そこが分からねェつってんだよ!」
首を傾げて不思議そうに言う紗羽に、弾かれたように万丈は振り向く。
「んだよ、正義のヒーローって! 大の男がガキみてェな事言いやがって!」
苛立ちが湧き出すまま、早口で万丈は捲し立てる。
胸の内に燻る、その苛立ちの正体が何なのか分からないままに。
ただ確かなのは。
言葉を重ねれば重ねる程に、あの顔が浮かんで来るという事だ。
――クシャっとなるんだよ、俺の顔――
昨日の去り際に見せられた、あの自分の正義への自信に満ちた戦兎の顔が。
「何が、クシャ、だッ!
そこまで一通り叫んだ後、ハァハァ、と荒い息を吐く万丈。
そんな彼に紗羽が目を点にしていたが、半開きになっていた口元が動いたかと思いや、彼女は突然笑い出した。
「おっ、おい何だよ? イキナリ笑ってんじゃねェ!」
別段笑うところの無い大真面目な話をしていたつもりだった万丈は、当然ながら肩を震わせて心底可笑しそうに紗羽が笑う理由が全く分からない。
訳が分からず彼が困惑していると、ごめんごめん、とまだ肩を震わせつつも紗羽が弁明してくる。
「別にバカにしてなんて無いよ。ただ、万丈がそんなに戦兎君の事
「――は?」
返って来た答えに、今度は万丈が目を点にする。
――嫉妬? 俺が? アイツに?
「何でそうなんだ!?」
「だって、万丈さっきから戦兎君への文句しか言ってないじゃない? ホントは羨ましいんでしょ、戦兎君の事? 認めちゃいなよ~」
「俺は――!」
ニヤニヤ、と笑いを浮かべて両手の人差し指を、ツンツン、と突き出すジェスチャーをする紗羽に万丈は反論しようとするが、しかし返すべき言葉が全く思い付かない。
そのまま言い淀んでいる内に二進も三進もいかない気分になって来た万丈は、クソッ、と頭を掻き毟ってそれを誤魔化そうとする。
そんな彼の様子をまた可笑しそうに笑った後、さぁて、と運転席のドアを開いた紗羽がバンの外へと出た。
「そろそろ行こう。まずは鍋島の家族を助けないと」
「~~ッ! 分かってるよォ!」
促されるまま、髪を掻き毟るのを止めた万丈も助手席を降りてバンの後部へと周り、後部扉を持ち上げた。
運転席と助手席と、その後に一列だけ設置された席の後に広がる荷台には、今回の潜入に際してバンそのものと共に用意されていた道具が幾つか収まっている。その道具群を開け放たれた後部口から見下ろした万丈は、改めて決意する。
(
「――俺の無実を証明するためだ……!」
目的である鍋島の家族の居場所は、現在バンを停車している横道から目と鼻の先程にしか距離に建つマンションだった。
正確には、鍋島から齎された情報を基に場所を絞ってくれた紗羽の尽力によってそこが目的地だと判明したため、付近までバンを走らせて現在に至っているのだが、ともかく、問題なのはバンから鍋島の家族までの移動手段であった。
というのも、この第六地区だけに限らず、西都市内はその至る所に監視カメラが設置されているからだ。
スカイウォールによって分断される前のかつての日本の政策を基に平和主義を掲げている東都に比べ、西都では若者の育成と海外との貿易に重点を置いた政策を掲げている。加えて、他国の技術や兵器を取り入れた軍備拡張も行っているという黒い噂が実しやかに囁かれているのだが、ともかくそんな外向き姿勢の影響か、西都内部の実態は東都に比べて平和的とは言い難いようだった。
実際、ここに至るまでの道中で人を見かける事は殆ど無く、代わりに犯罪防止を呼び掛けるポスターや、長く放置されて穴が開いてしまったゴミ袋の山といった、どうも不穏な臭いを覚えるものばかりが散見された。その不穏さを抑制するため――最も、傍目にはその助長にしかなっていないが――の監視カメラなのだろうが、ともかく辺り一面に設置されているこれをどうにかしなければならない。
そして、もう一つ問題は存在する。
マンションの周囲を巡回するガーディアン達だ。
こちらの動きを察知しているというファウストの差し金か、はたまた監視カメラと同様の目的で西都政府が配置した個体なのかまでは分からない。幸いにも武装は特に身に着けていないようだが、それでもこちらも無視することは出来ないだろう。
よって、この二方向からの監視の目を、行きだけでなく、軟禁場所から連れ出した鍋島の家族を含めた帰りも含めて誤魔化す方法が必要だった。
その内の
「第一関門クリア~! あ~、ヒヤヒヤした~」
両手を膝に当てて安堵の息を吐く紗羽の姿は、先程まで白いレディーススーツ姿では無く青緑色の作業着に“ベアー急便”というロゴが正面に貼り付けられた青色の作業帽を後頭部で結わえた髪の上に乗せた、配達員のものになっている。
否、紗羽だけではない。
人の一人二人は難なく入れられそうな大きさの、同じ社名ロゴが入った段ボール箱とそれを置く台車を挟んで紗羽の横に立つ万丈もまた、彼女と同じ配達員の姿に扮していた。
そう、これが監視の目を潜るための方法だ。
出入りしても怪しまれない宅急便の配達員に変装する。そして、堂々と監視カメラやガーディアン達の前に姿を晒しながら、鍋島の家族の下を目指す。
後は鍋島の家族に、さも何か巨大で重そうな荷物が入っていそうで、実は何も入っていない段ボール箱の中に入ってもらうだけ。そして、さも荷物を返品されて泣く泣く戻るしかない配達員を装いつつ、帰りも堂々と姿を晒しながらバンへ帰還。現在も港で停泊中の密航船に鍋島の家族共々乗船し、東都へ戻る。――というのが今回の作戦の大筋である。
「しっかし、スゲェなァ」
右手で作業帽の鍔を摘まみ上げ、万丈は感嘆の言葉を口にする。
紗羽が用意してくれた、その変装用の装備を見上げながら。
「ん~? 何が~?」
「この服とか箱とか、あと車とかよォ。全部紗羽さんが用意したんだろ? どんだけ……あー、えっと……イネ、じゃなくて……コメ、でもなくて……えー、イユ……じゃねェよな……」
西都へ行くために乗船した密航船が元々は紗羽のツテであった事、そして鍋島の家族の軟禁場所の詳細を突き止めたのもまた紗羽であった事は既出であるが、実は今回の救出作戦が決まるに当たって彼女が手配したのはそれだけでは無い。
今二人が身に着けている配達員の服装もそうであるし、ここまでの移動に使ったバンもまたそう。即ち、ここに至るまでに必要となった道具や情報は、全てが紗羽の手引きによって集められたものであったのだ。
その量も勿論の事だが、鍋島から情報を聞き出した昨日の夕方からまだ正午前の現在までの短時間の間に、東都から遠く離れた西都内にこれだけのものを用意したという事実もまた凄まじいという他無い。
そんな驚くべき紗羽の手腕に称賛を送ろうとした万丈であったが、しかし、使いたい言葉が頭から出て来ない。
仕方なく、それっぽい発音の言葉をいくつか出しては、違う、と首を振って別の言葉を探す事を繰り返していると、その様子を見かねたのか、逆に紗羽の方から助け船が出て来た。
「……ひょっとして、
「あっ、それだそれ! コネだよ、コネ! こんだけ色々集められるとか、どんだけスゲェコネ持ってんだよ!?」
掌に拳を当てて大きく頷き返した万丈は、改めて今回の作戦において重大な役割を果たした紗羽の、その強力なコネクションへの称賛を口にした。
それに対して紗羽が、ふっふっふ~、と得意げな笑みを浮かべる。
「私、ジャーナリストだもの。ジャーナリストにとって情報は命。色~んな情報が手に入るように、色~んな所にコネ作っておくのは基本中の基本なんだよ」
「へー、マジかよ」
「だから万丈も知りたい事があったら、遠慮無く私に相談すればいいからね」
いっくらでも調べて上げるから、と胸を張る紗羽。
そんな彼女に万丈が関心の相槌を打っていると、上昇していたエレベーターが、チン、という音を立てて動きを止めた。
どうやら、鍋島の家族がいる階に着いたらしい。
程無くして開くかご戸を前に、おっしゃ、と気合を入れ直した万丈は、我先にと傍らのダンボール箱と共にとエレベーターの中から出ようとする。
その時、あっ、と紗羽が声を上げた。
「言い忘れてたんだけど、私達が助けに行くって事、鍋島の家族にはもう伝えてあるから」
「マジか? 本当にスゲェなアンタ!」
「訪問前にアポ取っておくのもジャーナリスト、っていうか社会人の基本だもの。それに、何の連絡も無しに、東都から遥々助けに来ました、なんて言ったって絶対誤解されるじゃない」
唯でさえ指名手配犯連れてるんだし、と万丈を見ながら言った紗羽が、というわけで、と彼の方へ踏み込みながら念押しするように続ける。
「一応鍋島の家族には万丈が冤罪だって事も伝えてあるけど、すんなり信じてくれたかどうかは別なんだから、誤解や警戒されたりするような態度は控えてね。いい?」
「――んまぁ、分かったよ」
紗羽の言葉に引っ掛かりを覚えるも、それを無理矢理飲み下して万丈は頷き返す。
手配中の殺人犯という世間での扱われ方を前提にした彼女の言い分は正直面白く無かったが、これから救おうという人々に悪印象を与えるのは宜しくない、というのは分からなくも無かった。それに、今回の作戦を成功させて自分は無実だと世間に知ら占める事が出来れば、このムカツキともおさらばだ。
――そう、まずは鍋島の家族の救い出すのみだ。それが最優先だ。他の事は後で考えれば良い。
だから、一度は止めた足をもう一度エレベーターの戸口の外へと突き出した万丈は、それ以降、止まることなく鍋島の家族がいる部屋まで足を進める。
――東都にいながら、スカイウォールで切り離された西都内にたった半日程度でバンや変装道具を用意し、更には紛いなりにもファウストの監視下にある鍋島の家族と連絡を取る。
そんな離れ業をやり遂げてしまった紗羽のコネが、果たして、スゲェ、の一言で片づけて良いものだったのか、などいう疑問は、そんな彼の頭には一片たりとも無かった。
昨日の夕方頃にその連絡を受けた時、
何せ、連絡を寄越して来たのは全く聞き覚えの無い声の若い女で、その女が伝えて来た要件が荒唐無稽にも程があったからだ。
誰がすんなり受け入れられるだろう、受話器を取って早々にこんな事を言われて。
――鍋島 正弘さんの奥さんですよね? 明日か明後日、ご家族を保護しに行きます――
本来ならば、こんな電話は早々に悪戯と判断して受話器を置いていてもおかしくなかった。
一年と少し前、突然娘を連れて西都を行くように言った後、それっきり姿を見せていない夫の名がそこに出て来なかったならば。
時折連絡こそ入るものの、何故こんな物騒な場所に自分達だけを送り込んだのか、と問うても、俺が家族を守る、の一点張りでその真意を一切話さない。明らかに様子のおかしい最近の夫に不信感を募らせていたところで、更に夫の事を知る何者かからの電話だ。これだけの条件が揃った以上、友恵の心中が言い知れぬ不安で満たされるのは当然の事だった。
だから、その不安の正体を確かめるためにも、通話を切るという選択を彼女は排除する他無かった。
そして、それは正解だった。
「ご主人は、ファウストについて何か?」
「主人は、仕事の事は殆ど話さなくて……」
時は移り、現在。壁に掛けた黒い丸時計が正午になった事を報せるベルを鳴らしてから、早30分。
台所のテーブルの上に自分と娘の着替えや洗面用具、その他必要になりそうな物を並べて荷造りをしている友恵は、対面の席に座る昨日の電話の女――滝川 紗羽の質問に手を休めずに答えた。
「まさか、私と娘をそんな奴らの人質にされて脅迫されていたなんて夢にも思わなくって……だから、昨日の滝川さんからのお電話も、こうして貴方達が現れるまでは半信半疑だったんです」
大方の状況は昨日の連絡で滝川から聞かされていた。
夫がファウストと名乗る組織と関わりがある事。自分と娘の命をネタに脅されている事。そして――。
「本当、なんですよね? 夫がその、あちらの、万丈さんの
――ちらり、と開かれた襖の向こうの茶の間で胡坐を掻いて、あやとりに勤しむ幼い娘――遥を眺めている青年。東都で逃亡中の殺人犯、万丈 龍我が本当は無実で、更には彼の濡れ衣について夫が関与しているという事を。
「万丈の恋人が言ってたそうです。――
「何てこと……」
だとすれば、夫は一人の無辜の人間の人生を目茶苦茶にする手伝いをさせられた事になる。例え家族を守るためだったであったとしても許されない、重い罪を犯していた事に。
荷造りの手も思わず止めて絶句する友恵に、両手を突き出して落ち着くように滝川が宥めて来る。
「ご主人だって、こんな事はしたく無かった筈です。そして、ご主人も今は捕まっています。悪いのは、全部ファウストなんです。だから、奥さんが責任を感じる必要なんてありません」
「けれど……」
「それに、ご主人とは約束しているんです。奥さん達を西都から連れ出す代わりに、万丈の無実を証言する、って」
「え?」
それは昨日の連絡では聞いていない話だった。
反射的に顔を上げた友恵に、滝川が苦笑を浮かべる。
「実は、どちらかというとそっちが目的でして。えーっと、奥さんと娘さんの事はその、ついで、というか……」
言い辛そうにする滝川。
恐らく、あくまで自分達の目的こそが最優先である、という事に申し訳なさを感じているのだろう。その交換条件が無ければ、西都くんだりまで態々助けになど来ていない、と言っているようなものだから。故に、昨日の連絡でも夫との取引の事は敢えて伏せていたのだろう。
友恵としては、別にそんな事はどうでも良かった。
「……大丈夫です。そんな事気にしませんから」
「え、でも……」
「結局、夫のせいで万丈さんが酷い目に遭った事は変わりません。なら、責任を取るのは当然の事です。――私達が滝川さん達に付いて行けば、夫は自由になるんですよね?」
「ええ。今は私達の仲間が探しているところですけど、奥さん達の無事が保証されれば、ご主人がファウストに従う理由も無くなりますから」
「それじゃあ――改めて、宜しくお願いします」
一度言葉を切った友恵は、じっと滝川の目を見つめて、深々と頭を下げた。
「夫が万丈さんの無実を証言して、責任を取るために。そして、私と、娘の――遥のために」
頭を下げたまま、茶の間の方に友恵は顔を向ける。
「てっとう、かめ、ごむ……へりこぷたー! すごい?」
見れば、娘があやとりの技を無邪気に万丈に披露していた。
机に頬杖を突いていた彼は、やった事ねェから分かんねェよ、と困ったような顔をしていたが、そんな彼に構わず娘は他の技を披露し続けている。
そのあやとりの技が、娘が夫に見せるためにずっと練習し続けて来たものである事を友恵は知っている。度々見せてくれる技を笑顔で褒めると、無邪気に、ぱぱに、はるかちゃんえらいね、って、いっぱいいっぱい、ほめてもらうんだ、とたどたどしい口調で言う彼女の姿を、何度も見て来た。
娘は夫に会いたがっている。それこそ、自分が彼を想う以上に、ずっと強く。
時折寂しげな姿を見せる娘のためにも、夫に会いたい。そのためにも、
「私達を連れて行って下さい。東都へ――夫のところまで」
「でさー、今朝なんかボトルの浄化したばっかで眠いっていうのに、戦兎と一緒んなって”みーたん”無理矢理やらせるしー」
所変わってnascita。
普段から客など滅多に寄り付かず閑古鳥が鳴いてばかりの店内は今日も相変わらずの有様で、それを幸いとばかりにメインカウンター前のテーブル席で美空は対面の席の夜宵と共にショートケーキとコーヒーのティータイムを楽しんでいる最中であった。
元々は昨日で一件から問題無く復帰した姿を見せるための顔出しと、同じ目にあった戦兎の様子見が夜宵の目的だったようだが、丁度nascitaには美空しかいなかったためそのまま二人だけの談笑が始まり、それも気づけば美空の不満披露会と化していた。
「眠いの我慢して一通り情報集めてやったら、今度はアイツらバイト代どころかお礼の一つも無しにさっととどっか行くし!」
「ハハ、大変だったね……あ、マスターは家に来てたよ?」
「知ってるし! 朝ごはん貰って来たんでしょ、夜宵のお母さんの、手作りの! あたしが適当に冷蔵庫漁って適当なもの食べてる間に!」
言ってたし、本人が、ヘラヘラ笑いながら、と一通り愚痴を吐き出したいつもの寝間着姿の美空は、乾いた喉を潤すために手元のコーヒー ――近場の自販機で夜宵が買ってきた缶コーヒーを口に流し込む。
口の中に広がるやたら甘味とえぐ味の自己主張が激しい味は手放しに美味いとは言い難いが、それでも随分とマシだ。
どこかの誰かの淹れたコーヒーに比べれば。
「帰って来たらで帰って来たで今度は、「俺、バイト行って来るからー」! 意味分かんないし、喫茶店の
そんなだからお店にお客さん来ないんだし、と盛大な溜息を吐き出した美空は、今度は皿の上のショートケーキの端にフォークを差し込む。
これまた夜宵が近くのコンビニで買って来た1パック二切れ入りの安物のケーキはフォークの先を沈ませる度に乾いたスポンジの欠片が、ポロポロ、と崩れたが、そんな些細な事は気に留める事も無く、切り取った欠片を美空は口の中へ放り込んだ。
舌の上に乗ったケーキはやはりスポンジがパサついていて食感もザラついていたが、以外にも滑らかで丁度良い甘味のクリームがそれを帳消しにする。
存外甞めたものでは無かったコンビニのケーキに少しだけ機嫌が直った美空に、はは、と夜宵が苦笑する。
「美空も大変だね。いつもの事だけど」
「ホントだし。嫌んなるし」
そう返しつつ、再びケーキの端に美空はフォークを入れる。
そのまま新しい欠片を切り取ろうしていた彼女だったが、しかしその手を一旦止めざるを得なかった。
ふぅ、と息を吐いた夜宵が、
「……でも、ちょっと羨ましいなぁ」
不意にそんな事を呟くのが聞こえたため、え゛え゛、と反射的に振り向かざるを得なかったために。
「あたしの話聞いてた? 朝っぱらから戦兎とお父さんに振り回されたって話してたよね? 特にお父さんに」
それが羨ましいとは、一体どういう事か?
困惑のあまり目を瞬かせる美空に、勿論、と夜宵が頷く。
「別に、振り回されるのが羨ましい訳じゃないよ。そこじゃなくて――」
そこで一旦言葉を区切った夜宵が、喉を潤すためか缶コーヒーを一口呷る。
そんな彼女の様子を眺めていた美空は、じゃあ何が羨ましいのか、と上半身を迫り出して夜宵の次の言葉を待った。
そして続けられた夜宵の言葉に、
「――マスターみたいな人がお父さんで、羨ましいなぁって」
「は?」
思わず美空は間の抜けた声を上げ、目を点にした。
散々父に振り回された事を愚痴っていたのに、更には直前に振り回されるのは自分も御免だと言っていたのに、何故ここで父の事が出て来るのか?
大きく首を傾げる彼女に、苦笑を浮かべながら夜宵が説明する。
「美空は普段から一緒だから逆に分からないかもしれないけど、かなり良い人だよマスター? 誰相手でも陽気で人当たりも良いし、たった一人でこんなオシャレな
「そのお店は全っ然お客さん来ないし、コーヒーは不味いし、今は良く分かんないバイト行ってるけどね」
「あのコーヒーの味は私もちょっと致命的過ぎると思うけど……でも、そのバイトにしてもさ、結局男手一人で皆を養うためにやってる事でしょ? うちもお母さんが色んな仕事掛け持ちしてるから分かるけど、ホント大変だよ? 一人で幾つも仕事やるのって」
「そうなの?」
胡乱気な目をしたまま美空が尋ねると、そうだよ、と夜宵が大きく頷き返す。
「それに、美空だってマスターの事、ちゃんと
「あたし?」
不意に自分に話題の矛先を振られ、思わず美空は自分を指差す。
「え? 普通でしょ、これくらい。親子なんだし」
「うん、普通だよ。でもそれってつまり、美空が
「ん゛ん゛?」
夜宵の言わんとしている事が分からず、美空は大きく首を傾げて唸る。
それに対し、また缶コーヒーを一呷りした後、少し俯きながら――どこか遠くを見るような眼をしながら、夜宵が言う。
「……親子だからって、皆が皆仲良くできる訳じゃないの。美空にはピンと来ないかもしれないけど、家族なんてそっちのけで、仕事もせずに遊び惚けてるような父親だって世の中にいるんだよ。――」
「?」
少し暗い口調でそう語った夜宵の口が、最後に何かを付け加えるように小さく動いたのを、ふと美空の目が捉える。
声こそ聞こえなかったが、彼女の口がこう呟いているように美空には見えた。
―― ……
“アイツ”、とは一体誰の事だろうか?
疑問に思った美空はすぐに尋ねようとしたが、そうするよりも顔を上げた夜宵の明るい声が口からか出掛かっていた言葉を遮った。
「そう思ったら、普通にお父さんって呼べるマスターってやっぱり立派な人だよ。
ね、と同意を求めて来る夜宵に、しかし美空は今一納得がいかず、うーん、と唸る。
「でもさー、結局お父さんが調子良過ぎなのは変わんないしー。あと、パスタとタコ駄目だしー。トイレのウォッシュレットも未だに怖がってるしー」
「いや、それくらいは許してあげようよ。誰だって苦手な物や怖い物くらいあるって」
「けどー……」
と何かを返そうとして、しかし何も返す言葉が思い浮かばず言い淀んだ美空は、仕方なくケーキの方へとフォークを伸ばす。
しかし、ふとそこで先程尋ねられなかった疑問があった事を思い出した美空は、ここでそれをぶつけてみる事にした。
「そういえばさー、さっきのって何ー?」
「? さっきの?」
「ほら、さっきのー、親と子だからって仲良く出来る訳じゃないとか何とかって時のー ――」
一旦口を止め、切り取ったケーキの欠片のそこに放り込む。
一通り咀嚼して甘さを味わってから口の中の物を嚥下した後、改めて美空は疑問を口にした。
「―― “アイツみたいに”って?」
するとどうだろう。
突然夜宵が大きく目を見開き、天敵の攻撃を前にした蛙のように大きく肩を跳ね上げたではないか。
どうやら、呟きが聞かれたなどとは露ほど思っていなかったらしい。
実際にその通り彼女の呟きそのものは聞こえておらず、偶々そんな風に見えただけの直感も同然だったのだが、この反応を見るに間違ってはいなかったようだ。
「な、何の事? 聞き間違いじゃない?」
「そんな物凄い勢いで目泳がせて言ったって説得力無いし」
目だけじゃない。口の端は引き攣り、額には冷や汗が染み出している。
いっそあからさま過ぎる程に動揺を顕わにする夜宵を、フォークを手にしたままの手で頬杖を突いて美空は疑念を込めた目で睨め付ける。
「何かおかしいと思ってたんだよねー、やたらお父さんの事褒めちぎるし。ねー、誰ー? アイツって?」
「さ、さぁ? 何の事だかさっぱり……」
それでもなお、こちらが向ける視線から逃れようと目を逸らしながら惚ける夜宵であったが、しかし何となくだが“アイツ”が何者であるのか、美空は検討が付いて来た。
ここまで夜宵は
つまり、“アイツ”とは――。
「ひょっとして、アイツって夜宵のお父――」
「そ、そういえばさ!!」
急に、夜宵が大声を上げて美空の方へ身を乗り出した。
彼女の口から出掛かっていた答えを強引に遮るための行為だった事は明らかだったが、しかしその不意打ちをモロに食らってしまった美空は、思わず面食らって口を噤んでしまう。
そこへすかさず、早口気味に夜宵が捲し立てて来た。
「今朝、”みーたん”させられたって言ってたじゃない? てことは、何か調べてたんでしょ?」
「ん、んまぁそうだけど――」
「何調べてたの? 私、凄く気になる! ねぇ、教えて? 教えて美空? ねぇ!」
いつもはあまり良い顔をしない”みーたん”の話題まで引っ張り出して来るとは……。
余程、こちらの意識を“アイツ”から逸らしたいのか。気づけば、荒くなった息が肌に触れる程に夜宵の顔面が近づいて来ていた。
堪り兼ねた美空は、分かった、分かったし、と彼女の両肩に手を当てて押し返す。
そうして乗り上げていた上半身をどうにか押し戻した辺りで、わーい、とワザとらしい喜びの声を上げる夜宵に、酷い疲れと呆れが込み上げるのを感じて美空は溜息を吐いた。
(そんなに言いたくないのかな、お父さんの事?)
怒ったり、焦ったりしていて感情が昂っている時以外は大人しめな友達の意外な一面を目にして、内心美空は不思議に思っていた。
(あたしからしたら、夜宵の方が羨ましいんだけどなぁ)
――それこそ、
(危なかったぁ……)
結局溜息を一つ吐いて、その後追究する素振りも無さそうな美空の様子に、ほっ、と夜宵は胸を撫で下ろす。
あんな
『石動 惣一には既に知られてしまっているかもしれませんけどね』
椅子の足に立て掛けていた私用の鞄の中から思考を読んだようなメイジーの声が聞こえたが、美空の手前なのでその声を敢えて無視する。
確かに今朝のアクシデントのせいで石動に父親の事を少し知られてしまったかもしれないが――大丈夫、早々に切り上げた話題の中に出て来たのは最低限の情報だけだ。不穏な印象を抱かれてしまっているかもしれないが、もうそれは止むを得ない。何もかも知られてしまうよりはずっとマシだ。
ふぅ、と息を吐く夜宵。
そこへ、で、と缶コーヒーを一口飲んだ美空が不意に言った。
「あたしが調べてた事だよね?」
「――え?」
「ちょっと」
思わず間の抜けた声が口を突いて出た夜宵に、すかさず美空が、聞きたいって言ったのそっちじゃん、と口を尖らせる。
それで、
咄嗟に閃いた事を口走っただけだったため、正直なところ彼女が”みーたん”で集めたという情報そのものへの意識は薄かったのだ。
すぐさま両手を合わせて、ご、ごめん、と謝る夜宵。
それで、ったく、と鼻を鳴らすもどうにか機嫌を直してくれたのか、もう一度缶コーヒーを呷った美空が、改まったように言った。
「“パンドラボックス”」
「パンドラボックス? って、確か――スカイウォールが出来た原因の?」
美空の口から出た言葉をオウム返しした夜宵は、その言葉に聞き覚えが感じて尋ね返した。
日本を三つに分け隔てる巨大な壁、スカイウォール。そのスカイウォールが発生した、10年前のスカイウォールの惨劇の原因となったとされる物体の名前が“パンドラボックス”だった筈だ。
確か、火星への有人探査船が持ち帰った遺物で、凄まじいエネルギーを秘めている、とかという話だったろうか? 中学生の頃だったか、それとも小学生の頃だったかは忘れたが、過去に受けた社会科の授業でそんな話があったような気がする。――程度の記憶しか夜宵の頭の中に残っていない。そのパンドラボックスがどんな見た目をしていたかに至っては、さっぱり覚えていない。
当然、そんな物を調べさせられていたと言われても、何故、としか言いようが無いため、夜宵は肩眉を上げてみせるしかない。
そして、その辺りは当の彼女も同じなのか、美空も目を細め、う゛ーん、と唸った。
「浄化で終わらせてすぐだったからあたしも良く分かんないんだけどさ、戦兎が言うには、人がスマッシュになるのは、そのパンドラボックスが関わっているからじゃないか、って」
「スマッシュに?」
「人を怪物に変えるなんて現代の科学じゃ出来ないから、なーんて言ってたけど」
「そうなの?」
「いや、あたしが知る訳無いし」
眉を顰める美空に、それもそっか、と返した夜宵は、切り取ったショートケーキを口に放り込み、それを咀嚼する傍らで思案する。
これまで仮面ライダーとして幾度となく戦ってきたため当たり前のように存在を受け入れてしまっていたが、確かに、スマッシュとは一体何なのだろう?
人体実験をされるとスマッシュになるのは数日前に発覚した事だが、そもそも人間を変える人体実験とは何なのだろう? 一体、何が目的でそんな事をするのだろう?
そして、そのスマッシュから取り出した成分で作り出せるフルボトルとは、一体何なのだろう?
言われて初めて、これまで極々自然に存在を受け入れて来たそれらについて自分が何も知らない事に、夜宵は気づかされる。同時に、確かにこんな奇怪な存在を現実に成り立たせるには、パンドラボックスのような地球外の物体が必要かもしれないとも思い始める。
……あまり理数系は得意ではなく、更には、
『
パンドラボックスどころか火星云々も関係無く、男への憎しみだけで存在し続けている非科学的な化物が身近にいるため、“言われてみればそうかもしれない”程度の意識だったが。
「――で、これが今朝の”みーたん”の反響」
美空がタブレット端末を取り出し、少し操作した後にそれを夜宵にも見えるように机の中央に置く。
すかさず覗き込んだ端末の液晶には、いつもの”みーたん”のネット中継のサイトと、今朝行われたという中継に対するファンからのコメントの数々が映っていた。
HN:燃え上がれ俺の心火 さん
コメント:今日も愛しのみーたんに捧げるぜ、俺の心火! 今度はパンドラボックスだな! よっしゃあ! 調査! 探索! 検索! ……よぅし、東都先端物質科学研究所だなぁ。行くぜお前らァ! 早速パンドラボックス調べに行くぞゴラァ!!
HN:黄色いフクロウ さん
コメント:カシラ、落ち着いて!
HN:赤いお城 さん
コメント:おいおい、どこ行く気だよカシラ!?
HN:青いクワガタ さん
コメント:東都に行くぅ!? 今から!? 何言ってんだよ! 許可下りるワケ無ぇだろ! あっ! おい、カシラーっ!?
HN:黄色いフクロウ さん
コメント:アーッ! カシラが行っちゃったーっ! 誰かー! カシラ止めてー! このままじゃカシラがまた森の中で迷子にーっ!!
HN:滅亡“迅”雷.com さん
コメント:アハハー、何か楽しそー! ねー、僕も混ぜてよー! ねーねー!
HN:誇り高き孤高のゴリラ さん
コメント:みーたんがどうなんて関係ない……! 俺はパンドラボックスの情報を探す! 俺の、ルールでええぇぇぇ!!
HN:警視庁秘密警察室長 アポロイタミン さん
コメント:↑7~3コメの連中は我々みーたんファンにとってとても迷惑な存在なのだ!
「……うわぁ……」
今は投稿が止まっているコメントの、その一部から既に放たれている暑苦しさというか濃ゆさというか、ともかくあまりにもな熱気に当てられ、思わず夜宵は呻いてしまう。
一方、特に気にした風も無い美空が端末の液晶に指を走らせ、で、とそこに別のデータを映す。
画面より一回り小さい長方形のブラウザの中に黒丸と白い三角が組み合わさった再生マークが表示されているのを見るに、どうやら動画らしいが……。
「これが見つかったデータ。――スカイウォールの惨劇が起こった、その瞬間を撮った映像だって」
「それって、かなり凄いデータじゃないの?」
スカイウォールの惨劇、及びその原因となったパンドラボックスや、パンドラボックスを持ち帰るに至ったそもそもの発端であった火星への有人探査船調査計画の詳細などの資料は、いずれも東都、北都、西都各政府の厳重な管理課に置かれており、一般向けの――それこそ教科書に乗せられる程度の上辺の――情報を除いて、閲覧は基本的に不可能となっている。
そこに来て当時の、それも発生時の映像データだ。まごう事無き一般の閲覧が禁じられている類の重要資料であり、無許可保持が判明しようものなら最悪罪に問われかねない。そんな危険な代物を容易く放流させてしまう”みーたん”――美空の力は、果たして称賛すべきなのか、それとも恐れるべきなのか?
ただし、ここまでの話は夜宵の知るところではない。
スカイウォールやパンドラボックスについて調べるような気も機会も無く、故に情報規制の件など知る由も無い彼女は、ただ単に“美空達がパンドラボックスについて調べていて、何やら核心に近い情報を得たらしい”くらいにしか思っていない。
それはさておき、続けて再生マークを美空がタッチした事で、問題の映像の再生が始まった。
黒一色だったブラウザの中に最初に現れたのは、薄く白い雲が僅かに流れる青空と鮮やかな緑色の芝生、木々とその奥に建ち並ぶ巨大なパラボラアンテナ数台をバックに立つ、黒髪を撫で付けた壮年の男性だった。
<宇宙に眠る謎。人類が長年追い続けて夢見て来た、その答えに至る可能性が――>
“祝 火星探査機 極 帰還”と書かれた式典看板の下で、並べられたパイプ椅子に座る観客やカメラを向けるマスコミ達の視線を一身に受けるその男性が、どうやら当時の火星探査プロジェクトの責任者らしい。ワイシャツとネクタイの上から纏う水色と薄緑色の作業着にはネームプレートらしきものが付けられていたが、そこに書かれているであろう名前は動画の解像度の関係で読み取れない。
<我々“極プロジェクト”は、本日大きな成果をご報告致します>
そう言った男性が左側に視線を向けるや、それを追うように映像の焦点も右側へ移動する。
それによってブラウザのほぼ中心に現れたのは、左右に立つ警備員と周囲を覆うガラスケースによって厳重に守られた、黒色の立方体だ。
大きさは大体30cm3程度だろうか。角が落ちて八角形になっている各面には、何やら奇妙で複雑な模様が刻み込まれている。
――もしかして。
「これが、パンドラボックス?」
「らしーよ」
映像の中のパンドラボックスから目を離さずに尋ねたところにすぐ返って来た美空の肯定に、へー、と夜宵は頷き返す。
しかし、そのパンドラボックスを見ている内に、ふと彼女は、あれ、と違和感を覚える。
「どうしたの?」
「これ……見た事ある気がする」
こちらの様子に気づいた美空にそう返す最中にも湧き上がって来る謎の既視感に、一体どこで、と夜宵は自問する。
「学校の授業とかじゃないの? じゃなきゃ、10年前のニュースか何かとか」
「違う……と思う」
そんなとうに片隅へ追いやられたような遠い記憶じゃない。
もっと、ごく最近に。それもパンドラボックスそのものではなく、これに
しかし、そんな近場で見た物なら、もっと記憶がハッキリしていても良い気がするが……?
『今朝見た夢、じゃありませんか?』
ポツリ、と足下の鞄からメイジーの声が聞こえて来る。
そちらに夜宵が振り返ると、と自信無さげな彼女の言葉が続く。
『いや、当てずっぽうですよ? 貴女が夢の中で何を見たかも、今何を見てらっしゃるのかも分かりませんし。ただ、最近見たと言うんであれば、その辺りが怪しいんじゃないかと思って』
そう言われてみると、確かにそんな気がして来た。
今朝の夢――ファウストに囚われている時の記憶の中だとすれば、確かに
加えて、今まさに人体実験に掛けられるという状況だったため、そこから逃れるために足掻いている際に偶々その
しかし、やはりまだ確証が無い。
せめて、実物をもう一度目にする事が出来れば、記憶も鮮明になるかもしれないのだが……。
<止まって下さい!>
不意にタブレット端末から聞こえてきた叫び声に、我に返った夜宵はそちらへと視線を戻す。
いつの間にやら、液晶に映る映像の中の展開は一変していた。
突然色めき出したように席から立ち上がったり、騒ぎ始めたりしている観客達の向こうで、先程まで危なげ無く演説していた筈の責任者の男性が、演説台の陰から困惑したような顔を覗かせている。
問題は男性の視線の先だ。
未だ映像の中心に据えられているパンドラボックス。その両隣に先程まで不動の姿勢で立っていた筈の警備員に組み付かれるのも物ともせず、そこへ近づこうとする何者かの姿があったのだ。
その何者かが、二人の屈強そうな警備員達を逆に押し返し、彼らが叫ぶ静止の声すら聞こえていないかのように、パンドラボックス目掛けて突き進んでいく。
そして遂にパンドラボックスの傍まで辿り着いた何者かが、覆っていたガラスケースを取り除き、外界に晒されたボックスの天面へとその手を叩き付けた、その時だ。
パンドラボックスが、光を放った。
画面越しでも眩しさを感じる程に凄まじい白光に覆われた映像の中で、人々が悲鳴を上げ、逃惑う声や音が聞こえる。
更にそれだけで終わらず、白光の中に不気味な赤い光が見えたと思った次の瞬間、ゴゴゴ、という地響きが鳴り出し、それと共に激しく揺れているかのように映像がブレ出す。
そして――元々は三脚か何かで固定されていたビデオカメラのものだったのだろうか――倒れ込んだように焦点が急激に上へと移動したところで、動画は終了した。
最後に、訳も分からず浮き上がった中空でジタバタ、と足掻いている人々を伴って、曇り始めた空目掛けて猛スピードで伸びていくスカイウォールを映して。
(これが……スカイウォールの惨劇……)
最後まで動画を見切った後、夜宵は口に手を当てて絶句していた。
10年前といえば、小学校に上がったかどうかといった頃だ。あの頃の自分はテレビといったらアニメや教育番組ばかりでニュースなんて見なかったし、今になって偶に目を通すようになった新聞も当時はテレビ欄くらいしか見なかった。そんな世間の情勢に疎かった幼い自分にとって、スカイウォールの惨劇など母が深刻な表情をしていて、釣られて訳も分からず自分も不安を覚える程度の存在でしかなかった。あの当時、まさかこんな恐ろしい出来事が起こっていたとは……。
夢に思わなかった事態に暫し呆然としていた夜宵であったが、そこに、ふと思い出したように美空が言った。
「――そういえばさ、あたしも何か見覚えあるんだよね」
「見覚え? パンドラボックスに?」
「じゃなくて」
もう一度、美空の人差し指がタブレット端末の画面に触れ、動画のシークバーをスライドさせる。
そうしてブラウザ内に現れた場面の、その一部を彼女の指が指し示した。
「この人」
そう言って美空が指し示したのは、パンドラボックスに触れ、スカイウォール発生の原因を作ったと思われる例の何者かであった。
「え? この人が?」
聞き間違いか、と夜宵は自分の耳を疑ったが、頷き返す美空を見て間違いが無いと知り、困惑する。
こんな一大事を引き起こした誰かと、友人にどこかで接点があったとはとても思えなかった。
「気のせいじゃない? 顔だって見えないし」
「そうなんだけど……何て言うの? 背格好? 雰囲気? ――う~ん、ハッキリ言えないけど、何か似てる気すんの。誰に似てんのかも分かんないけど」
唸ったり、首を傾げたりしながら思い出そうとする美空から、もう一度タブレット端末の画像へと夜宵は視線を移動させる。
青色の作業着姿の何者かは右側面しか見ることが出来ず、顔も深く被られた作業帽が邪魔で窺う事が出来ない。それこそ、遠目からの背格好や動画では伝わりにくい雰囲気といった曖昧な判断材料しか無く、本人が目の前にでも現れでもしない限りは見た事があるかどうかすら判別出来そうになかった。
ふぅん、と鼻を鳴らす夜宵に、それから、と端末の画面上に人差し指を滑らせながら美空が付け加える。
「もう一つ気になる事あるんだよね。この動画くれた人なんだけど――ほら」
美空の操作によって、画面に再び”みーたん”のサイトが表示される。
そのコメント欄を遡り、その内一つのコメントを美空が指差す。
HN:ブラッディ・デスアダー さん
コメント:成程、今度はパンドラボックスかぁ。丁度良い、今面白い動画を持っててなぁ。せっかくだからコイツをくれてやるよぉ。ひょっとしたら、案外身近なところで面白いものが見つかったりしてなぁ? ハハハハ! 健闘を祈るぜ? チャオ!
「あれ、この人って」
「鍋島の連絡先教えてくれた人」
頷く美空に、へー、と夜宵は感嘆する。
「凄い人だね。鍋島の連絡先だけじゃなくて、こんな貴重そうなデータも持ってるなんて」
「そうだね。おまけに、あたし達が欲しい時に気前良くくれる。
何気なく言ったところに返って来た美空の言葉に、ん、と夜宵は何か引っ掛かるものを感じた。
――最初から用意していた?
「――何か、おかしくない? あたし達が知りたい情報、同じ人が2回もくれるって」
どうやら、同じ引っ掛かりが美空の中にもあったらしい。
真剣みを帯びた声色で尋ねて来る彼女に、少し思案してから夜宵は返した。
「偶々、って事は無い? 同じ人から情報を貰うのだって、別に初めてじゃないでしょ?」
「情報だけなら、ね。けど、
そう言われて、夜宵は言葉に詰まる。
昨晩の鍋島を使った罠の発端は、”みーたん”で齎された電話番号を頼りに鍋島に連絡を入れた事だった。言い換えれば、こちらが鍋島の電話番号を知り、連絡を取れたからこそ昨日の罠は成り立ったのだ。
ならば、伝えられた電話番号そのものが罠だったという可能性は十分にある。――その点に彼女も気づいたからこそ、押し黙るしかない。
「――ま、本当におかしい気がするだけなんだけどね」
ふ~、と美空が深い息を吐く。
目視で分かる程にハッキリと肩の力を抜いた彼女からは先程の真剣さは既に消え、いつものアンニュイな空気が戻って来ていた。
「もしかしたら本当に偶然そうなったかもしんないし。助かってるのも事実だし、ファンの人疑うのもどうかと思うし」
ていうか、喉乾いたし、と缶コーヒーを手に取った美空が、そのまま中に残っているコーヒーをゴクゴク、と喉を鳴らしてあっという間に飲み干してしまう。
叩き付けられるように机に置かれた空き缶が、カン、と小気味良い音を立てた。
「ホラ、ケーキ食べようよ。夜宵の、全然減って無いし」
続けてフォークを取り、すっかり小さくなってしまったショートケーキに突き立てた美空からそう促され、うん、と夜宵も手元のフォークを掴んでケーキへと近づける。
タブレット端末に表示されたままだった”みーたん”のサイトに新しいコメントの通知が表示されたのは、その最中だった。
ん、とそれに気づいた美空が口の中で咀嚼していたケーキを飲み込みながら、タブレット端末を取り上げて操作する。
瞬間、彼女の眉が顰められた。
「スマッシュ現れたって」
その一言に、口の傍までケーキの欠片を運んでいた腕を止め、え゛え゛、と夜宵は呻く。
現在戦兎は外出中。そのため、この流れで行くのは必然的に彼女である。
気は全く進まないが、止むを得ない。
取り敢えず何処に現れたか訊こうとするが、そうするよりも前に美空がタブレット端末を突き出し、画面を見せて来る。
そこに表示されているのは、今しがた入った新着のコメントであった。
HN:ブラッディ・デスアダー
コメント:エリアC4に怪物が出たってよぉ! しかも、コイツは何やら様子が変だぜ? 早く何とかしないととんでもねぇ事になっちまうかもなぁ! そうら、善は急げだ! 早いトコ行ってやれ、ヒーローさんよぉ! チャオ!
「例の、ブラッディ・デスアダーさんから」
後編へ続く