次もいつ投稿出来るか分からなくて申し訳無いんですが、どうか気長にお付き合い頂けますよう、お願い致します。
一方、西都 第六地区。
鍋島の家族が軟禁されていたマンションのその前で今、万丈達は
「早く逃げろォッ!」
すぐ傍にいる、横倒しになった段ボール箱の中から這い出ようとしている鍋島親子と、しゃがんでその手助けをしている紗羽へ叫びつつ、万丈は握った拳を構える。
前方に展開する数体のガーディアン達の、その一体が、すかさず右腕を振り上げて急接近して来る。
それに対し、焦る事無く万丈は体に覚えさせた呼吸を行いつつ、右手の中に握り込んだ
恋人――小倉 香澄の遺品とも言うべき、ドラゴンフルボトルを。
手の動きに合わせ、中に収まったネイビーブルーのトランジェルソリッドが撹拌される。
それによって活性化したボトルの成分が己の中に燃え上がる炎のような力を与えていくのを確かに感じた万丈は、既に目前へと迫ったガーディアンの、がら空きになっている腹部目掛けて拳を打ち込んだ。
「オルァアッ!」
突き出した拳が、纏う制服に隠された装甲を凹ませる。
その感触を感じた次の瞬間、拳とガーディアンの間から蒼い炎が吹き上がり、くの字に体を曲げたガーディアンを大きく吹き飛ばした。
そのままアスファルトの地面の上に転がるガーディアンがバチバチ、とスパークを迸らせて沈黙するのを確認する間も無く、鼻で息を吸いながら万丈は右へ振り向く。
程無くして、そちらの方から別のガーディアンが二体突進して来る。
その内の、先行している一体が駆け込んで来た勢いを乗せて繰り出して来た拳を右の二の腕で掬い上げるように下から受け流した万丈は、すぼめた口から呼気を吐き出しつつ、そのガーディアンの顔面に左の拳を叩き込む。
深々とガーディアンの顔面を陥没させた拳が、再び蒼い炎――ドラゴンフルボトルの成分が生み出した蒼炎を吹き上がらせた。
それを目にして、うっしゃ、と万丈は呟く。
昨晩の港でのガーディアンに襲われた時、偶々初めて会った時の戦兎がやっていた事を思い出して見様見真似でボトルを振って見たのが気づく切欠だったが、ドラゴンフルボトルの成分による格闘能力の強化と蒼炎の発生現象は極めて彼と相性が良い。
ガーディアンくらいなら何も無い完全な素手でも破壊出来なくは無いが、フルボトルの力を借りての戦いはそれとは効率が段違いだ。
(やっぱコイツは良い! これならガーディアンなんかどんだけ来たって負けやしねェ!)
続けて向かって来た後続のガーディアンが蹴りを繰り出して来たが、その一撃を敢えて万丈は腰で受ける。
強固かつ重量のある装甲に覆われたその蹴りは、十分な力と遠心力の下に繰り出された鈍器に等しい威力がある。それをまともに食らったならば、あまりの痛みにその場で悶え出したとしてもおかしくない。
しかし、万丈は別だ。
鼻で吸い、すぼめた口で吐き出すその呼吸のリズムを少し早めるだけで、既に訪れている筈の激痛を彼は一切意識する事無く、逆に腰に密着したままのその足を左手で掴んで、ガーディアンの動きを封じてしまう。
体に覚え込ませたその呼吸――かつて格闘家を目指すに当たって習得した
ロシアの軍隊格闘術が発祥であるシステマにおける
――最も、当の万丈自身はそんな細かいメカニズムは理解しておらず、“やってりゃ痛くねェ気がする息の仕方”程度の認識でしかないのだが。
「ウラァッ!」
そして何事も無く、腰を捻って無理矢理地面へと引き摺り倒したガーディアンの側頭部へと右拳を振り下ろして機能を停止させるに至った万丈は、次なる相手への応戦のためにもう一度周囲を見渡そうとする。
が、そこで思わぬ物が目に入った彼は、やべっ、と大慌てで後方へと駆け出した。
次の瞬間、つい先程まで万丈が立っていたアスファルトの地面がポップコーンの様に弾け散った。
数体のガーディアンが何処からともなく持ち出して来た小銃の連射による破壊だ。
その無数の銃弾の殺到が、振り向く事無く走る万丈に、逃げる獲物向けて蛇行する蛇そのままの軌跡を描きながら追い縋る。
そのまま、もう少しで追い付かれるというところまでガーディアン達の銃撃が迫っていた万丈であったが、どうにかアパートの入り口の左右に建つ太い角柱の片側の陰へと飛び込み、銃撃を防ぐ事に成功する。
柱を背に荒くなっていた息を整えた万丈は、一旦そこで銃撃が止む時を窺う事にした。
しかし、次の行動を判断するまでに時間が掛かっているのか、はたまたそうする事で彼をそこに縫い留めるのが狙いなのかは不明だったが、柱という遮蔽物によって防がれる状態になってもなお、ガーディアン達は銃撃を止めない。銃声と石が砕けるような破砕音が連鎖する度に、抉られたモルタルの欠片が霰か何かのように万丈の足下に降り注いで跳ねるのを繰り返すばかりだった。
「クソッ……!」
このままでは、殴り合うどころか角柱の陰から出る事すら出来ない。
埒が開かない状況に吐き捨てる万丈。
しかし、何気なく手をやった懐にふとゴツゴツ、とした感触を感じた時、システマ・ブリージングでも抑えきれない焦りの中にあった彼の心境は一変する。
「――そうだ!」
ハッ、とある事を思い出した万丈は、すぐさま懐を弄って取り出した
――昨晩、別れ際に戦兎から渡されたドリルクラッシャーを。
「オラァ!」
気合と共に、力む手で引き金を一引き。
瞬時にグリップに突き刺さるようなドリルの銃身が火を噴き、一発放たれた光弾が目にも止まらない速度で、最も近い位置から小銃を撃つガーディアン――の足下を穿った。
狙いが外れた事に小さく目を見開くも、気を取り直してもう一度万丈は引き金を引く。
再び放たれた光弾は、狙い通りに先程と同じガーディアンの額に当たる部分に風穴を開ける――事無く、その傍を通り過ぎて何処かへ消えてしまう。
再び外れた狙いに、舌を打ちつつも諦めず三度引き金を引く万丈。
今度は当てやすいように同じガーディアンの胴を狙った弾丸は、三度目の正直とばかりに今度は当たった。――狙ったガーディアンではなく、その右後ろに立っていた別の個体の左肩に。
「んだよコレェ! 何で当たんねェんだよォ!?」
怒声を発しつつ、応戦するためにドリルクラッシャーを撃ち続ける万丈。
しかし、連射された光弾はいずれも思う通りに飛ばず、狙った個体の手前や後のアスファルトに穴を開けるか、明後日の方向へ飛んで行くか、或いは別の個体へと向かっていくかのどれかの結果に終わる。
同じ、或いは似たような武器を使っていた戦兎や夜宵はあれだけ的確に命中させられていたのに、何故自分だけ?
明らかにおかしい挙動を見せるドリルクラッシャーへの苛立ちから歯軋りする万丈は、無意識にグリップを握る力を強めていく。ブルブル、と小刻みに震える程に。
実はこうして無駄に力んでしまっている事が狙いが定まらない原因なのだが、なまじ無自覚にやってしまっているために、その事に彼は全く気付かない。
それでもシステマ・ブリージングを維持出来ていればもう少し平常を保ってもいられたのだろうが、こちらも頭では無く体で覚えてしまっている事が災いして、拳を構えて敵と相対しているワケでも無い現状ではすっかり途切れてしまっている。
「畜生ッ! 不良品じゃねェのかコレッ!!」
遂にはドリルクラッシャーそのものを罵り出す万丈であったが、そうこうしている内に撃った光弾の半分以上が当たらない応戦はあまり意味を為せず、小銃の連射を続けるガーディアン達がジリジリ、と距離を詰めて来ている。
盾にしている柱もネズミに齧られたチーズのように円形の欠けがそこかしこに出来上がっており、もう長くはもちそうに無い。
このままでは――。
「――ああッ、クッソォ!」
八方塞がりの現状に、万丈は苛立ちと焦燥の混ざった声を上げる。
思い切ってガーディアン達の中に飛び込んで大立ち回りしたい衝動に駆られたが、そうするにも連中の銃撃がどうしても邪魔になる。
(ちょっとでもアイツらが撃つの止めりゃ、いくらでも突っ込んでけるのによォッ!)
相も変わらずまともに当たらないドリルクラッシャー越しにガーディアン達を睨み付けつつ、起きないと分かりつつも縋るようにそんな事を考える万丈。
その予想に反し、彼のその願いはすぐに叶えられる事となった。
展開するガーディアン達の右奥に建ち並ぶコンクリート壁を破壊し、その勢いを衰えさせぬまま数体が反応したガーディアン達を滑り込ませたその車体で薙ぎ払った、白いバンによって。
突然の事態に、おおっ、と驚く万丈に、すかさず開けられていたバンの助手席の窓から声が掛けられる。
「乗って!!」
そう叫んだのは、バンの運転席に座る紗羽だった。
良く見れば、バンの窓越しに彼女の後の席に座る鍋島親子の姿も伺える。
そして周囲を見渡せば、バンの追突をモロに食らったガーディアン達はいずれも機能を停止しているか、大きな損傷によって立ち上がれず蠢いているかのどちらかの状態に陥っており、一体も襲って来る気配は無い。
チャンスだ、と察した万丈は、すぐに紗羽の指示に従い、バンの助手席目掛けてボロボロの角柱の陰から飛び出した。
万丈が隣に乗り込むのを確認するや、すぐに紗羽はアクセルを踏み込んだ。
タイヤとアスファルトがこすれ合う甲高い音を立てて急発進したバンにアパートの入り口を潜らせた彼女は、そのままスピードを緩める事無く住宅街の入り組んだ細道を――時折避け切れなかった壁を砕いたり、ガードレールを大きく凹ませたりしながらも――走らせていく。
敵があれだけとは限らない。まだ、追手が来る可能性は十分にある。
そして、紗羽のその予感は的中する。
住宅街を抜け、先程までよりも広さに余裕のある二車線道路へと入り込んでから暫く走ったところで、道の左側から現れてこちらを追跡する二つの影を彼女はバックミラー越しに捉えた。
同型の黒いオートバイに跨る2体のガーディアンの姿を。
そして、そのガーディアン達が同時に右手をハンドルから離して後腰へ回す動作を目にした紗羽は、急いで背後へ振り向き、叫んだ。
「伏せて!」
刹那、何か小さくも固い物が叩き付けられるようなビシッ、という音と共に、バンの後部ガラスに蜘蛛の巣状の罅が入った。
悲鳴を上げ、娘を抱き寄せて自分諸共身を屈めて中間席の陰に隠れる鍋島 友恵を、次いで罅のせいで右半分しか見えなくなってしまった後部ガラスの向こうのガーディアン達を見遣ってから、すぐに紗羽は正面へと視線を戻した。
二体同時に引き抜き、共に右手だけで構えていた追手達の拳銃が再び放たれた事より、もう一つ蜘蛛の巣状の罅が入ったバンの後部ガラスが完全に使い物にならなくなったのは、その次の瞬間の事だった。
再び、友恵の悲鳴が車内に響く。
「んの野郎ッ!」
怒声を上げた万丈が
過たずドリルクラッシャーから数発の光弾が発射されたが、しかしバンのサイドミラーに映るガーディアン達にそれらは一発も当たらず、全て通り過ぎるか道路の一部を弾き上げるだけに終わってしまう。
「クッソォ! やっぱ当たんねェッ!!」
そう怒鳴りつつ、なおも万丈はドリルクラッシャーを撃ち続けるが、結局結果は変わらず、彼の銃撃は掠りすらしない。
苛立ちのあまりか、遂にはドリルクラッシャーを持った右手を助手席のドアに叩き付けようとする彼の後ろ姿を横目に見ていた紗羽であったが、その最中でサイドミラー越しのガーディアン達がオートマチック拳銃を構え直すような動作を見つけた。
その動作にヒヤリ、と悪寒が走った彼女は、慌ててハンドルを左へと切る。
それによって押し込まれ、うおお、と驚きの声を上げる万丈を巻き込んで左へとバンが寄った次の瞬間、直前まで後輪があった辺りが飛来した銃弾に穿たれ、アスファルトの欠片を飛び散らせた。
間一髪だ。
ハンドルを切るのが少しでも遅れていたら、後輪が撃たれてパンクしていた。そうなっていたならもうバンを走らせることは出来ない。
しかし、まだ安堵する事は許されない。
もう一度、今度は右へとハンドルを切る紗羽。
のわあああっ、と車体に引っ張られて悲鳴を上げる万丈に一拍遅れ、今度は左側の後輪を狙っていたであろう射撃が後輪のすぐ傍で弾ける。
「おいッ、揺らすな! これじゃ狙え――」
「喋んないで! 舌噛む!」
「うおぉおぉおぉっ!?」
助手席の窓から身を引っ込めるや怒鳴る万丈に向く事無く、代わりにサイドミラーに映るガーディアン達の銃が新たな火箭を噴き出す様を見ながら叫んだ紗羽は、再びハンドルを左へと切る。
しかし今度は間に合わず、再び車内に弾丸の命中音が響くやバンの後部ガラスが完全に砕け、尾を引くように車体から脱落した粉々の破片が通り過ぎた道路の上にばら撒かれる。
「ひぃっ……!」
「すごいすごーい!」
後部ガラスが脱落する際の甲高い音に蹲ったまま身を震わせる母と、その腕の中で状況が分かっていないために場違いな声を上げて喜ぶ娘という対称な有様の鍋島親子をバックミラー越しに見ながら、弱ったなぁ、と紗羽は唇を噛む。
罅割れによって視界を遮っていた後部ガラスが消え去り、再びバックミラー越しに後を窺う事が出来るようになった事自体は良い。だがそれは、障壁としての役目も果たしていたガラスが消えた事により、車内と追手達との間に文字通り穴が開いた事を意味している。この穴を通って銃弾が侵入しようものなら、その銃弾が車内を跳ねて飛び回って甚大な被害を齎すだろう事は想像に難くない。
そして、それを確実に狙おうとばかりにガーディアン達が拳銃の銃口を左右に揺らし、確実な狙いをつけようとしている。
何とかしなければ、とハンドルを左右に動かしてバンにジグザグ走行をさせる紗羽。
だが、なまじ後部ガラスがあったスペースは相応に広いため、これでいつまで車内への侵入を防げるかは分からないし、そもそも別の致命的な場所――タイヤは勿論、燃料タンクなども――に当てられる可能性だって無い訳じゃない。
これでは完全にジリ貧――。
「――万丈?」
ふと、横目に見えたおかしな動作から紗羽は万丈に声を掛ける。
その声に、左手にドリルクラッシャーのグリップを持ち替え、空いた右手で
「何やってんの?」
フルボトルを振れば彼の肉体が強化されるらしい事は本人から聞かされていたが、それは格闘に限った話だった筈。
殴り合うどころか近付く事すら出来ない現状で振っても、意味なんて無い筈だが……。
「普通に撃ったって当たんねェんだ! だったらよォ――」
十分な撹拌を終えたのか、振るのを止めたドラゴンフルボトルのキャップを回した万丈は、それをドリルクラッシャーのグリップ後部に開いたフルボトルスロットへと押し込んだ。
<Ready Go!>
「――当たるようにしてやりゃ良いじゃねェかァッ!!」
ボトルの挿入に反応して電子ガイダンスを上げたドリルクラッシャーの根本のメーターが大きく振れ、その銃口の先に揺らめく蒼炎が灯る。
すかさず、ドリルクラッシャーのグリップを両手で握り込んだ万丈がもう一度助手席の窓から身を乗り出す。それを目にした紗羽は驚きつつも彼の狙いを察し、それをサポートするために一時的にハンドルの位置を戻し、バンの向きを正面へと戻した。
その次の瞬間、
<Vortex Break! Year!!>
「うおらああぁぁッ!!」
咆哮が車内に響き渡った。
一方、東都。エリアC4。
雑木林が林立する中に幾つかの遊具が設置されたこの自然公園内においても、現在戦闘が発生していた。
建ち並ぶ遊具の輪の中で向かい合うは二つの影。
「ハァッ!」
一つは仮面ライダーメイジー ――星観 夜宵。
右手にメイジーシザースのナイフ側を、左手にピストル側を握った彼女は、腰から脹脛の上までを覆う
すかさず振り翳したナイフ側。
その一撃を、針の様に鋭い両手の人差し指の爪を伸ばし、✕の字に重ねて受け止めたもう一つの影――スマッシュ。
黒い下半身に、各部に纏った白く鋭利な形状の装甲。後頭部からは一部の先端が青みを帯びている針が幾本も伸びており、さながらハリネズミやヤマアラシの背を連想させる。更に、恐らくそこに視界が存在するのだろうスモークグレーの窓のような模様が配された顔の下、口から顎の辺りに掛けて鋭利な嘴らしき器官が垂れ下がっている。
その嘴を、ギチギチ、と夜宵が押し込もうとするナイフ側の刃と自らの爪を競り合わせていたスマッシュが、不意に彼女の方へと向けた。
『夜宵ちゃん!』
咄嗟のメイジーの呼び掛けに反応し、ナイフ側を持つ右手を押し込んで夜宵は身を捩る。
刹那、スマッシュの嘴が風を切る音を伴う程の速度で伸びた。
「っ!」
直前まで自分がいた空間を貫いた、まるで
すかさず、ナイフ側が消えた事で自由になった両手の爪を向け、先程の嘴の様に伸ばして追い打ちを仕掛けるスマッシュ。
猛然と迫る針のように鋭利な2本の爪を、すぐさま横に転がって回避した夜宵は、ナイフ側を握ったままの右手を地面に当てた中腰の姿勢でピストル側をスマッシュへと向け、引き金を3度引いた。
放たれた三つの弾丸が瞬時にスマッシュの左胸、頭部、右肩に着弾し、火花を弾けさせる。
それに怯み、爪を元の長さに縮めつつ後退するスマッシュに、その場に立ち上がった夜宵は追い打ちを掛けようと、ピストル側をもう2発撃つ。
しかしそう上手くはいかず、ブルブル、と大きく頭を振って態勢を瞬時に立て直したスマッシュが人差し指の爪を瞬時に伸ばし、✕の字を描くように目前まで迫っていた光弾を切り払ってしまう。
更に、続け様に先程も見せられた嘴を伸ばす攻撃が猛スピードで迫って来たが、今度は夜宵の方が逆に重ねたナイフ側の刃とピストル側の銃身でそれを受け流して防いで見せた。
そうして、狙いの外れた嘴を元通りに縮めてから肩を怒らせ唸るスマッシュへと林檎の複眼を向け、夜宵は睨み合う。
『ふぅむ。初めて見るスマッシュですけど、どうやら、ああやって爪や嘴を伸ばして突き刺す攻撃がお得意なようですね』
赤い一つ目を細めて分析するメイジーの言うように、夜宵にとって初めて相手するタイプのあのスマッシュは、どうやら
となれば、今回の相手に対して浮かぶ疑問点がまず一つ。
果たして、あの爪や嘴は刺突専用の武器なのか? それとも――。
「ガアァッ!」
睨み付ける夜宵の視線の先で、ニードルスマッシュが動きを見せる。
咆哮を上げて左右に広げた両腕――両の人差し指をこちらへと突き出すその動作が完了する前に、右斜め後方へと飛び退く。
一拍遅れてすぐ左まで伸びて来た二本の爪を横目に見やった夜宵は、ほんの少しだけその爪を横目に観察し、そして次に取るべき行動を判断するや、ぐっ、と足に力を込める。
それによってもう一度右斜め後方へと跳んだ彼女の眼前を、白い円弧が猛スピードで走る。
ニードルスマッシュの爪の先端が描いた軌跡だ。
今の一撃で判明した。この爪、そして恐らくは嘴も、刺突だけでなく斬撃もある程度行える。
「ガグアアアアァァァッ!!」
伸びていた爪が引っ込んだと思いや、それでもなお本来よりも長い状態を維持した爪を腕ごと左右に開きながら、猛然とスマッシュが突進してくる。
すかさずピストル側を向けて牽制の射撃を放つも、それをものともせず夜宵との距離を詰めたスマッシュが、左右からの斜め切り上げを見舞って来る。
上半身を後に逸らしてそれを躱す夜宵であったが、続けて✕の字に重なった両腕から順に繰り出される右、左の切り下ろし。
その一発目を身を捩ってもう一度躱し、二発目は進行方向に差し込んだナイフ側の刃で受け止めて防いだ夜宵は、この
しかし、それよりも一歩早くスマッシュが顎を逸らし、嘴をこちらに向ける。
回避すべきだと頭に過ったが、しかしもう間に合わない。
ならば、と当初通り夜宵はピストル側を撃ち込む。
白い装甲とピンクレッドの銃口の間で弾ける閃光。そして、間髪入れず走る衝撃と共にピンクレッドの装甲から散る火花。
「ぐぅ!」
互いに与え合った攻撃でニードルスマッシュから離れるように吹き飛んだ夜宵は、地面を一回転して膝立ちになってから、鈍い痛みを訴える左肩の付け根の辺りを押える。
しかし、まだだ。立ち止まっている暇は無い。
急いで蛙のようにその場から跳んだ夜宵のいた地面を、再び伸びて来た嘴が突き穿つ。
抉り、撥ね上げられる土の塊を視界の端に捉えつつ駆け出した夜宵を、更に2本の爪の追撃が追い掛けて来る。
逃げる夜宵の背に迫る鋭利な二筋の白線は、彼女との間に立ち塞がる遊具やベンチ、木々を現れた片端から、まるで豆腐を包丁で切るかのように容易く切り裂いていく。
そのあまりの切れ味に、当たり所が悪ければ自身も只では済まない事を嫌でも思い知らされた夜宵は、そうなってしまう可能性を頭から押しやりながら、爪の根本の方へと複眼を走らせた。
その先で伸ばした両腕をこちら目掛けて振り回すニードルスマッシュの姿を捉えた夜宵は、すかさずそこへナイフ側を投擲。回転する刃がスマッシュの頭部を斬り付け、背後の爪の動きを大きくブレさせるのを確認するや、ピストル側を乱射しながら猛接近。
良く狙いを付けていないため当たったり外れたりする光弾と、敵と定めた相手に群がる烏のように周囲を旋回しては体を斬り付けて来るナイフ側に翻弄されて、ニードルスマッシュはその場に縫い留められている。
その目と鼻の先まで接近した夜宵は横へ突き出した右手で引き戻したナイフ側を掴み取るや、
「ハアァッ!」
力任せにニードルスマッシュを横薙ぎに一閃。盛大な火花と共に、その胸板に横一文字の深い溝を刻み込んだ。
更に、すぐさま分離状態のメイジーシザースを放り捨てた彼女は、溜まらず後退しようとするスマッシュの両肩を掴んでその動きを止める共に、その場で跳躍。地に着けていた足の裏をスマッシュの腹の前へと移動させるや思いっきり蹴り付け、吹き飛ばしつつ自らも後へと飛び上がった。
ともすれば、それは自殺行為とも言えた。
何故なら、完全な空中で移動する術を夜宵は持たない。その後の軌跡はもう一度地に足を着けるまでは直前までの慣性任せだ。攻撃が来ても、大きな回避運動は取れない。
つまりはニードルスマッシュからすれば今の彼女は大きな隙を晒しているも同然であり、同時に直前の連撃で大きく怯んではいるものの、そのチャンスを見逃すほどに態勢は崩れていない。
すぐさま、ニードルスマッシュが反撃の一撃を突き込もうと、嘴を向けて来るが――。
『もう遅くってよ!』
そうする頃には、空中の夜宵は既に左右に伸ばした腕の先で、擦り合わせた指先を鳴らし終えた後だった。
つまりは――ここに至るまでにニードルスマッシュの攻撃で破壊された遊具やベンチの残骸、根から切り離されて
次の瞬間、吹き上がる猛烈な土埃が夜宵の視界を埋め尽くした。
飛弾と化した残骸や断ち切られた木々が飛び込む轟音が幾つも重なり、絶え間なく打たれた地面が振動する。
それが漸く途切れた数秒後、まだ振動する地面の上に危なげなく着地した夜宵は濛々と眼前を覆い尽くす土煙を見据える。
更に十数秒の後、漸く晴れてきた土煙と地面に突き立つ残骸や枝葉が付いたままの木々の影の中で、その影はフラつきながらもまだそこに立っていた。
煙越しの黒い像でも後頭部で逆立つ針山がハッキリと認識できる、ニードルスマッシュの影が。
「あんなに飛ばしたのに、まだ立ってられるなんて……」
『まぁ~、随分と頑丈な狼さんですこと』
ありったけの飛弾を撃ち込んでやった筈なのになお立っているニードルスマッシュの予想外のタフネスにメイジー共々夜宵は嘆息するが、しかしやる事は変わらない。
ここまで与えた傷は決して無視できるものでは無い筈だ。なら、次の一撃で今度こそ仕留める。
その一撃の用意のために、夜宵はドライバー横のボルテックレバーへと右手を掛けようとする。
その時だった。
どこからともなく
蛇が蛇行するかのようにジグザグの軌道で飛んで来たその―― 一瞬だけ、赤みを帯びた煙の塊のように見えた――
そうして、動こうと藻掻いているスマッシュの黒い影と交わったかと思った次の瞬間、状況が一変した。
未だ辺りで滞留し続けていた土煙があっという間に、逃げるように急激に掻き消されていく。
その事に驚き頭を振っていた夜宵は不意に周囲が暗くなっている事に気づき、続けてそれが自分が巨大な影の中に入り込んでいるがためである事に気づいて、正面へと林檎の複眼を向ける。
そして――絶句した。
『な、何ですの
メイジーもまた、驚愕に一つ目を見開いている。
当然だろう。
彼女達の前に立つ
一体、先程までのほんの僅かな間に一体何が起こったのか?
その疑問に対する答えはどこからも無く、ただ、
「グアアアアァァァァッ!!」
かつての4倍は優に超える巨体を仰け反らせて空を仰ぐ、
龍が飛ぶ。
鼻の下から後方へ流れる一対の髭を波打たせて、大きく開いた顎から蒼炎の火の粉を散らす蒼い龍が。
そして猛然と、体をくねらせて自ら進行方向を修正した龍が林立する牙をその胴に突き立てると共に。
迫っていたガーディアンの一体が、騎乗するバイクごと蒼炎と破片を辺りにまき散らして爆散した。
バンの窓から身を乗り出した姿でその一部始終を見ていた万丈は、すかさず構えていたドリルクラッシャーから離した右手で拳を作って、歓喜を叫んだ。
「ぅおっしゃああぁぁッ! 見たかァッ! 俺の第・六・感ッ!!」
戦兎から託され、間近でドリルクラッシャーを見る事が出来るようになってから、薄々思っていたのだ。グリップの後側に開け放たれたこの
そして、この土壇場で半ば賭けるつもりで自らのドラゴンフルボトルを差し込んでみたのだが――結果は見ての通り。通常の光弾よりも遥かに大きさも威力も強大な蒼炎の龍を撃ち出せただけに終わらず、それまで通り明後日の方向を向いていた筈のその龍は自らの判断で進路を正して見せたのだ。
これならイケる、と右手をドリルクラッシャーのグリップへと戻した万丈は、残っているもう一体のガーディアンへとその銃口を向ける。
が、そのまま彼が引き金を引こうとするよりも前にガーディアンが放った拳銃弾が助手席の窓枠の上側で弾け、思わず、うおっ、と万丈は怯む。
その際に大きく射角を撥ね上げてしまった状態でドリルクラッシャーから飛び出た蒼炎の龍は先程同様に自ら体を曲げて進行方向を修正するも、修正角度が大き過ぎたせいか既にガーディアンが通り過ぎた道路の上に食らい付いてアスファルトの欠片と火の粉を散らすだけに終わってしまう。
くそっ、と吐きつつ、もう一度狙いを定めようとする万丈。
しかし、今度は大きく揺れたバンの車体が発射そのものを邪魔する。
「オイッ! 揺らすなッつったろッ!」
すぐさま体を車内に引っ込め、運転席の紗羽へと万丈は怒鳴った。
それに対し、そんな事言ったって~っ、少し泣きそうな声で返しつつも、紗羽が大きくハンドルを切る。
それによって、進行方向に対し垂直に近い角度に大きく車体を傾けたバンの助手席側、中間席の窓に、ビシッ、という音と共に蜘蛛の巣状の罅が入る。
先程後部ガラスに発生したのと同じ罅に、それがガーディアンの拳銃によるものだと万丈が察する間も無く、更に紗羽が叫ぶ。
「避けなかったら、こっちが撃たれちゃうもの!」
「だから俺が撃ち返してんじゃねェか! もうちょっと待ってろォッ!!」
「待てないから~っ!!」
そんな遣り取りを互いに叫びあっている間にも、更に数発の弾丸がビシッ、ビシッ、と車体のボディ部分を叩く金属音が車内に響く。
唯でさえ後部ガラスのあった場所は既に何も無くなっているのだ。何もしなければ、車内に入り込んだ弾丸にむざむざ撃たれるのみである。
万丈もその事が全く分からないワケでも無かったため、紗羽の訴えに言い淀んでギリギリ、と歯軋りするしかない。
「~~! 次で終わらせる! もう一回だけ動くなッ!!」
「もう一回だけね!? 出来そうなタイミングになったら言うから、すぐ準備して!」
半ば妥協する気分でそう紗羽と打ち合わせた万丈は、すぐに助手席の窓から身を乗り出し、ドリルクラッシャーを構えて準備を整える。
後は、紗羽の合図を待つのみ。
ジグザグに大きく揺れる車体の陰に隠れたり現れたりするガーディアンの姿を逃すまいと、度々傍を通り過ぎ去ったり車体の傍を跳ねたりする拳銃弾に肝を冷やしつつも、追える範囲で銃口を左右に揺らして逃さないようにする万丈。
そして――その時は来た。
「万丈! 今ッ!」
その紗羽の叫びが聞こえるのが早いか否かのタイミングで、車体の揺れが納まる。同時に、ドリルクラッシャーの照準もピタリ、とガーディアンの姿を真正面に捉えた。
今がその時と、引き金に掛けた指に万丈は力を込めた。
「いっけええぇぇェッ!!」
彼の叫びのまま、再び銃口から蒼炎を纏って飛び出す巨龍。
巨大な顎を裂けんばかりに開いた龍は、進路の修正の必要も無く真っ直ぐにガーディアンへと飛び込んでいき――今、食らい付いた。
弾ける蒼炎。吹き上がる爆炎。四散する破片。
そして――こちらへと飛んで来るガーディアン!
「あ゛あ゛っ!?」
その姿を捉えてギョッ、と目を剥いた時にはもう遅い。
高く宙へ跳び上がったガーディアンは放物線を描き、見開いた目でその姿を追い掛ける万丈の頭上――バンの天井へと、盛大な音を立てて着地した。
「きゃああああ!?」
車内から紗羽の悲鳴が聞こえる中、大慌てで万丈はドリルクラッシャーを左手に、顔と右腕を天井へと乗り上げさせる。
視界に現れたガーディアンは、少なくとも無傷では無い。左腕は千切れて肩口から内部機構が露出しているし、それ以外にも身に纏った戦闘服は大なり小なり裂けや焦げが見られる上に、所々からスパークや白煙が上がっている。むしろ、損傷自体はかなり大きそうだった。
しかし、手足を伸ばして天井にへばりつくその力はかなり強く、力が込められる態勢で無いとはいえ、万丈が右手を伸ばして掴み寄せようとしたり、殴り付けたりしてもガーディアンが天井から剥がれる気配は見られない。
そんなガーディアンから万丈は何か嫌な予感が沸々と沸いて来るの感じていたが、それが間違いではないと彼は程無くして知る事になる。
「ね、ねぇ! ちょっと来て!」
「あん!?」
不意に掛かって来た紗羽の呼び掛けに体を車内へ引っ込めた万丈は何事かと問い質そうとするが、それに言葉で返さず前方を指差す彼女の人差し指に、引っ張られるままに自らも顔をそちらへ向ける。
そして、訳が分からず肩眉を上げた。
「んだこりゃ?」
見れば、フロントガラスの上の方からはみ出ているガーディアンの、所々が凹んだり内側のケーブル等が飛び出たりしている顔面の中心に、何やらホログラフィで数字が表示されていた。
最大四桁分表示が可能らしい横並びのその数字は、少しずつその値を変化させている。
パッと見は何かのタイマーに見えるが、一体何の?
「このタイマー、残り時間がちょっとずつ減ってるみたい。ねぇ、これってひょっとして――」
「……おい待てよ、まさか――」
深刻気に曇らせた顔を向ける紗羽に、彼女の思考が伝染したかのように最悪の考えが万丈の頭に浮かぶ。
逃走者を追う追撃者。それが機能停止寸前まで損傷し、なお逃走を阻むために行う可能性が高い行動として思い付くのは――。
「「爆弾っ!?」」
――自爆。
「ヤベェじゃねェか! どうすんだオイっ!?」
「……何とか、振り解いてみる!」
ガーディアンの顔面に映るホログラフィに表示されている残り時間は、もう50秒も無い。
このままではそう間を置かず自爆に巻き込まれるかもしれないという事実に絶叫する万丈にそう返すや、すぐに紗羽がハンドルを左右に素早く振る。
それに合わせてバンが激しく揺れるが、しかしガーディアンが天井から離れる気配は無い。
それでも諦めずにハンドルを動かす手を紗羽は止めないが、額に汗を浮かべる彼女の表情はおよそ芳しいものとは言い難い。
万丈もまた、助手席の窓を経由してもう一度天井へと伸ばした右腕でガーディアンを殴りつけるが、やはり力を込め辛い状況も相まってガーディアンはビクともしない。
ならば、と左手に握ったままのドリルクラッシャーを見るが、しかしこの分では通常の光弾程度ではやはりどうしようもなく、ドラゴンフルボトルの力を乗せた
そうこうしている内に、表示されている残り時間も30秒に達してしまう。
もうあまり残されていない時間に焦りを感じる万丈であったが、そこでもう一度ドリルクラッシャーを目にして、ふと思い出す。
(そういやこれ、確か……)
すぐさま車内へと引っ込んだ万丈は、最初に戦兎と出会った時の記憶を思い起こす。
初めて見たビルドの戦闘。その最中で、ドリルクラッシャーが
(あん時アイツ、これを剣みたいに振ってやがった。って事は……)
記憶のまま、グリップに突き刺さるドリル状の銃身を掴んだ万丈は、それを思いっきり引っ張る。
それによってすんなりとグリップから抜けたドリル部分を、続けて銃口を下にして、グリップの天面にある円筒型のジョイント部へと万丈は差し込んだ。
そうして出来上がった、記憶に残る形状そのままのドリルの剣――ブレードモードとなったドリルクラッシャーから引き抜いたドラゴンフルボトルをもう一度右手で撹拌した万丈は、再びそれをフルボトルスロットへと差し込んだ。
<Ready Go!>
電子ガイダンスが上がると共に、ドリルクラッシャーのドリル部分が何処からともなく沸き上がった蒼炎を纏って回転し出す。
それを確認した万丈は、ドリルクラッシャーのグリップを両手でしっかりと握り込み、ドリル部分の先端を真っ直ぐにバンの天井へと向ける。
狙いは、天井を挟んだ向こうに存在するガーディアンの胴。
「ちょ、ちょっと万丈? 何する気?」
車内での一連の行動に不安を覚えたらしい紗羽が怯えたように尋ねて来るが、それを無視して万丈は深呼吸する。
そしてしっかり狙いを定め、
「おらあああああぁぁぁッ!!」
気合の一斉と共にドリルクラッシャーを上へと突き上げ、天井を貫いた。
そして、ドリルクラッシャーを通じて、バンの天井を形作る薄い鉄板とは別の、同等以上の硬さを持つ厚い何かを貫く手応えを確かに感じ、更に突然大きく揺れたガーディアンの頭部を目にした万丈は、続けて助手席のドアに両足で蹴り込み、一撃の下にそれを車体から脱落させる。
傍から見れば奇行と思われても仕方ないその突然の行動に、アーッ、と悲鳴を上げる紗羽を後目に、
「う、お、おおおぉぉぉ……!」
力任せにドリルクラッシャーを引っ張り寄せ、ガリガリ、と回転する刃でバンの天井を引き裂いて行く。
蒼炎の熱によって赤熱化した切断面を広げながら彼が向かうのは、ドアが無くなって開け放たれた助手席の入り口。
それに追従して、フロントガラスの中央からやや助手席寄りの位置から飛び出していたガーディアンの頭部も、見る見る内に助手席の方へと移動していき、遂に――入り口の上辺をドリルクラッシャーの刃が断ち切った。
それを目にして一旦ドリルクラッシャーを振り下ろした万丈は、同時に助手席の枠の向こうへと現れるスクラップ寸前のガーディアンに一瞥をくれる間も無く、
「おりゃあああああぁぁぁぁッ!!」
力の限りを腕に込めてドリルクラッシャーを上へと振り上げた。
間髪入れず感じる、確かな手応え。
引き戻した
その壊れ掛けの体が2度、3度とボールの様に跳ねながら小さくなっていったと思った次の瞬間。
後方で巨大な爆炎が上がった。
吹き掛かる猛烈な爆風、爆音、道路を伝って来る振動がバンへと襲い掛かり、その車体を、中の万丈達を大きく揺らす。
そのせいで制御し切れなくなったためか、紗羽がブレーキを踏み込む。
斜め横に傾き、タイヤがアスファルトに削られる甲高い音を立てながら激しく揺れるバンの中で、誰のものともなく悲鳴や苦悶の声が響き渡る。
それが漸く終わった後、強く閉じていた目を開けた万丈は助手席の枠を潜り抜けてバンの外へと出た。
そこに飛び込んで来たのは、バンの後方に広がる破壊の跡だった。
2車線道路を丸々覆い尽くして燃える巨大な炎に、その下に散乱して炙られているアスファルトやガーディアンだったものの破片。そして、道路横に並ぶ施設の、割れた窓や拉げた壁などの間接被害。
もし、ガーディアンの爆発に巻き込まれていたならば、きっと自分達もあの破壊に飲み込まれて粉々に四散していただろう。――そんな想像を抱かせるには十分にそれは恐ろしい光景で、だからこそ、
「――助かったアァ!!」
その破壊から逃れられた事に、万丈は心からの安堵の叫びを上げていた。
「くっ……!」
爪が迫る。
先程までよりも遥かに大きく、長く伸びるようになった二爪が。
咄嗟に横へ飛び跳ねた夜宵であったが、しかし完全には避け切れず、
それによって目に見える損傷こそ発生しなかったが、しかし無視できないその鋭い痛みが証明している。その威力も、先程までよりも確実に上がっている、と。
『一体何が起きましたの? 何であのスマッシュさんは唐突に大きくなりましたの!?』
「知らないわよ、そんな事っ!」
半ば狼狽えるメイジーに怒鳴りつつも、更に伸びて来る嘴を複眼の端に捉えた夜宵は、急いで取り出したビルドフォンに手早く撹拌を済ませたライオンフルボトルを差し、マシンビルダーへと変形させる。
変形が完了するや跳び乗って急発進させたマシンビルダーの後ろで、貫かれて幹の半ばで真っ二つになった大木が、宙で一回転した後に轟音と大量の土を上げて落ちるが、それに気を取られている間は無い。
再び襲い来る爪の刺突を背に、押し込んだアクセルを緩める事無く夜宵は左腕を突き出し、ピストル側の引き金を引く。
銃口から飛び出た三発の光弾が速やかに宙空を突き進み、狙い通りに命中するも、しかし、着弾の証明たる火花は、今となってはあまりにも小さい。
「ガアアアアァァァァッ!!」
かつての4倍以上と化したニードルスマッシュの、その巨体に与えられたであろう痛痒の僅かさと比例するように。
今の夜宵の手にメイジーシザースのナイフ側は無い。既に投擲したそれはニードルスマッシュの頭部周辺をブーメランのように回転しながら飛び、斬り付けているのだが、巨大化した白い装甲にその刃が傷を刻む事は無く、弾かれ続ける一方だ。
併せて、夜宵自身もスマッシュが移動や攻撃を繰り返す度に出来上がる遊具の残骸や断ち切られた木の幹などを飛弾として撃ち込み続けているのだが、メイジーシザースに比べて質量も大きく、時たま怯むことがあるとはいえ、こちらもダメージになっているかは微妙なところだ。
そして、こうしている間もスマッシュの攻撃が途切れる気配は無い。むしろ、巨大化の影響で範囲や攻撃力が増した攻撃の数々は、それを捌き続ける難易度も比例して上がっている。
認めざるを得ない。――これ以上は一人では無理だ、と。
そう意識した夜宵の次の行動は早い。
ピストル側を握ったままの左手をマシンビルダーのコンソールへと伸ばした彼女は、トリガーから離した人差し指で中央の液晶を器用にスワイプし、目的の画面を素早く手繰り寄せる。
表示させたのは、戦兎の電話番号。
すぐにそれをタッチしコールを掛ける夜宵であったが、
「……繋がらない……!」
コンソールからはプルルル、という呼び出し音が鳴るのみで、一向に戦兎に繋がる気配は無い。
あるいはもう少し待てば繋がったかもしれないが、背後でスマッシュの爪が木々を切り倒す轟音が急き立てられている現状ではそうしていられる余裕は無い。
止むを得ず戦兎へのコールを打ち切った夜宵は、もう一度液晶をスワイプして別の番号を表示させる。
今度は、
「もしもし! 美空!」
美空だ。
先程と違い、コールして早々に通話が繋がったのを確認するや、急いで夜宵はコンソール越しに美空へと叫び掛ける。
<んー? 夜宵ー? どーしたの慌てて? もうスマッシュ倒したー?>
「そのスマッシュでマズい事になってるの! お願い! すぐ戦兎さんに連絡して!」
<戦兎にー?>
「こっちから掛けてみたけど繋がらないの! 私だけじゃこのスマッシュは――」
『夜宵ちゃん! 前っ!』
不意に、そう叫んだメイジーに引き寄せられるままに、美空との会話を中断して夜宵は正面へと振り返った。
そして、仮面の中で目を剥いた。
いつの間にやら、マシンビルダーの進行先の地面へと伸びていたニードルスマッシュの爪を目にした、驚愕によって。
「っ!?」
咄嗟にブレーキを掛け、更に車体を力一杯横に傾けて止めようとしたが、もう遅い。
ここまでの攻撃から逃れるためにアクセルを限界まで捻っていたマシンビルダーはそこまでやってもなお止まることなく、気づけば夜宵は、進行方向を塞ぐ障壁としていた爪の上に乗り上げ、それをジャンプ台にして、宙を舞っていた。
「――あぐっ!」
ほんの少しの滞空の後、背から地面へと墜落した夜宵は体を突き抜けた衝撃に溜まらず呻き声を上げる。
それに一歩遅れ、共に宙へ投げ出されていたマシンビルダーが墜落する凄まじい音が、彼女の視界の外の何処かから聞こえて来た。
『夜宵ちゃん!? 大丈夫ですの、夜宵ちゃん!?』
「痛っ……」
まだ戦闘中だ。
慌てて呼び掛けて来るメイジーの声に何とか返答しつつ、痛む体に鞭打って夜宵はすぐに立ち上がろうとする。
しかし、彼女がそうするよりも先に、その視界一面を楕円に近い形をした黒い何かが覆る。
それが何であるか、すぐに夜宵は悟った。――スマッシュの足だ。
急いで横へと転がる夜宵。
その数秒後、彼女がいた場所へとスマッシュの巨大な足が踏み下ろされた。
発生した局所的な地響きに体を揺らされ、足と地面の間から噴き出た土埃をもろに浴びながらも何とか夜宵はその場に立ち上がるが、しかし再び頭上に覆い被さった影が彼女に安堵する間を与えない。
夜宵の前後に突き立つ、ニードルスマッシュの爪。
彼女の左右から、纏わり付くように伸ばされたそれらに身動きを封じられた夜宵は咄嗟に上を見上げ、そして気づく。
この爪は攻撃のために伸ばされたのではない。こちらの動きを押さえ、本命――頭を上げて振り被っている、嘴の一撃を与えるための布石だ、と。
(ダメ……! 避けられない……!)
既に敵は攻撃態勢に入っている。爪の妨害もあって、回避する時間は無い。
されとて、点の攻撃である刺突は防御するのも難しいし、そもそも、今のニードルスマッシュ相手にそんなものは意味を為さない。
――万事休す。
最早打つ手が思い浮かばず、それでも無防備に攻撃を受ける事だけは避けなければと身構える夜宵。
その視線の先で、頭を振り被っていたニードルスマッシュが、遂に最後の一撃を加えんとその嘴を――。
「ギっ……!?」
――振り下ろすかと思われたその直前で、ビクリ、と固まった。
同時に、夜宵は仮面の中で目を大きく見開いていた。
突然のニードルスマッシュの硬直に驚いたため――だけではない。
おそらくはその硬直の原因となった物がその場に割り込む様を、目にしたがために。
「あれは――」
ニードルスマッシュの首の付け根の辺り。
胴の白い装甲が覆う範囲から僅かに離れたそこに、
円錐形の刀身が鈍い照り返しを放つ
「ドリルクラッシャー……!」
ビルドの基本装備の一つ。各種フルボトルの組み合わせでその姿と力を変えるビルドにおいて、唯一どのフォームでもコンスタントに力を発揮することが出来る武器であり、同時にこの場にいない戦兎が最も扱い慣れている武器。
そしてその武器は今、西都へと渡っている万丈の手に在る筈だ。
それがこの場にあるという事は、つまり――。
「おっしゃあああぁぁッ!!」
すかさず聞こえて来る、勝ち誇ったような声。
その声に反応するままに振り返って見れば、やはりというか、そこには
「万丈さん!?」
「どうよ! 俺の大・胸・筋ッ!!」
呼び返す夜宵に見せつけるように、握った拳を掲げた左腕の力瘤の辺りを右手で押える万丈が。
一瞬、その体から蒼い火の粉が散ったように見えた彼が良い笑顔を浮かべながら駆け寄って来るのを前に、伸びたままのニードルスマッシュの爪から離れつつ夜宵は思っていた一言を呟き返す。
「いや、そこ絶対違う……」
『上腕二頭筋ですわ』
「細けェ事ァ良いんだよ! んな事より、とっとと倒せ! あのデケェの!!」
メイジーと共に間違いを指摘するや怒鳴ってニードルスマッシュの方を指差す万丈に、気楽に言って、と巨大化したスマッシュの厄介さを知らない彼への文句を呟きつつも夜宵もそちらの方を見遣る。
そして、気づいた。
何やらニードルスマッシュの様子がおかしい事に。
「ギッ……ギギ……」
上体を仰け反らせたスマッシュは、その首を筆頭に、ガクガク、と体を揺らし、元の長さよりもまだ少し長い程度にまで爪を縮めた両手をぎこちなく動かして首の辺りを掻き毟っている。加えて、その首の周囲では何やら緑掛かった煙が立ち込めて輪を作り上げている。
一体何が起こっているのかと凝らした夜宵の目は、スマッシュの首周りの煙の発生源が何であるかを捉えた。
――ドリルクラッシャーだ。
銀色のドリルの刀身と、それが根本近くまで突き刺さっている傷口の間から、緑掛かった煙が勢い良く噴き出している。まるで、すぐには破裂しない程度に丈夫な生地で出来た風船に鋭利な針が刺さった際に、その隙間から空気が漏れ出るように。
まさか、と夜宵はメイジーシザースのピストル側をドリルクラッシャー目掛けて撃ち込む。
放たれた光弾が瞬時にドリルクラッシャーの柄尻に当たるが、余程深く刺さっているのかドリルクラッシャーそのものは抜けるどころか動いた様子すらない。
しかし、手応えはあった。
光弾が当たった直後、ドリルの刀身とスマッシュの傷口から噴き出る煙の勢いが、ほんの僅かな間だったが確かに強まった事。
そして、その際にニードルスマッシュの動きがそうと分かる程明確に固まった事。
この二つの事象が、ハッキリとその事実を示していた。
――ドリルクラッシャーが刺さっているあの傷は、巨大化して以降有効打を与える事が出来なかったニードルスマッシュに出来た
「そうと分かったら――」
『行動あるのみ、ですわ!』
すぐに夜宵は周囲を見渡し、左側の少し離れた位置に横たわっていた
突然の行動に、おいっ、と困惑したように呼び掛ける万丈の声を背に受けつつ、傍へとたどり着いた夜宵はそれ――マシンビルダーを起き上がらせるや、コンソールのタッチパネルを操作し、現在の車体のコンディションを表示させる。
――大丈夫だ。
先のスマッシュの攻撃で自分共々宙を舞う事になったマシンビルダーに何かしら大きな損傷が発生していないか不安だったが、コンソールに表示されているマシンビルダーの状態は
その事に少しだけ安堵の息を吐いた後、すぐに夜宵はマシンビルダーに跨り、エンジンを掛け直す。
再び鈍い音と振動を上げて動き出すマシンビルダー。
その先頭を、漸く上体の位置を戻し始めていたニードルスマッシュへと向けた夜宵はメイジーシザースのピストル側を一旦仕舞って空になった左手でハンドルを握り、一方でハンドルを握っていた右手をドライバー横のボルテックレバーに沿える。
これで準備は整った。後は――。
「ギガ、ァァアアァァ!」
マシンビルダーのエンジン音に反応したのか、仰け反った姿勢から態勢を戻したニードルスマッシュが右手の人差し指を突き出し、爪を伸ばす。
しかし、万丈から受けた傷が響いているのか、その伸縮スピードは明らかに先程までよりも遅い。
そう、攻撃が出るのを見てからでも容易く避けられるほどに。
アクセルを捻る夜宵。
それによって、回り出した車輪で土を蹴り上げて急発進するマシンビルダーが、夜宵に触れる直前まで伸びていた爪を難なく潜り抜ける。
続けて伸ばされる左手の爪。
しかし、やはり先程よりも精彩を欠いた伸び方をするそれは遅く、今度は避ける意識すらせずただ走っているだけのマシンビルダーの後方に突き刺さるだけに終わる。
そのまま夜宵がニードルスマッシュの足下を素通りしたところで、ならば、とばかりに爪を戻したニードルスマッシュが振り返って両手の人差し指を向けつつ、更に頭を仰け反らせて嘴での攻撃態勢も取る。
二爪と嘴による三点同時攻撃。爪が夜宵の進行方向の先を狙い、動きを止めたところで本命の嘴を確実に当てるその攻撃が、背後から急激な勢いを持って迫って来る。
その様を肩越しに見て、夜宵は思った。
(ここだ!)
すぐさまアクセルを緩めつつ、地面へと伸ばした片足を軸にマシンビルダーを180度ターンさせた夜宵は、すぐ背後に爪が突き立つ音を聞きながらもペダルを足場に
一旦沈み込んだフロントフォークが、内部のシリンダーによって跳ね上がる。その際の反力を利用して、夜宵はハンドルを思いっきり持ち上げた。
それによってウィリーの態勢となったマシンビルダーの、その前輪があった位置にすかさずスマッシュの嘴が突き立つのを見計らった夜宵は、その上に前輪を下ろすと共に、一気にアクセルを捻った。
それによって、再び土を蹴り上げて走り出したマシンビルダーがスマッシュの嘴を上り坂として、猛然と駆け上がり出す。
こちらが自分の一部を足掛けに接近して来た事に驚いたのか、嘴を戻すことも忘れて狼狽えたような素振りを見せるニードルスマッシュを後目に、夜宵はハンドルから離した右手でビルドドライバー横のボルテックレバーを握り、回した。
<Ready Go!>
エネルギーチャージの完了を報せるドライバーの電子ガイダンスを受けた夜宵は、青白い鬼火を纏った両足をペダルからシートの上に移動させ、そのまま跳躍。中空で一回転した後、乗り手の制御から離れてなおスマッシュへと突っ込んでいくマシンビルダーを見送りながら、その進行方向から斜め右へと逸れて降下していく。
――ニードルスマッシュの首に突き立ったままの、ドリルクラッシャー目掛けて。
<Execute Finish! Yeah!!>
掲げた右足が届く範囲にドリルクラッシャーの柄尻が現れ、夜宵が足を振り下ろすタイミングを見計らったかのように、ビルドドライバーの電子ガイダンスが鳴り響く。
そして次の瞬間、鬼火を纏った
そのまま、暫くは踵の刃との接触点から火花を散らすのみで動く気配の無かったドリルクラッシャーであったが、次第にその柄尻が下がり出し始める。
そしてほぼ45度程度にまで柄尻が下がった次の瞬間、スマッシュの体に埋まっていたドリルの刀身がその体表を引き裂いて現れ、夜宵の足に押し下げられるままに回転しながら、スマッシュから離れる方へと飛んで行った。
同時に、進行を阻害するものが無くなった夜宵の体も、そのまま重力と、自らの攻撃による慣性に随って地表へと降下していく。
「ギエエエェェェェ!!」
危な気なく着地し、上方を見上げた夜宵の視界の先で、首下を押さえてニードルスマッシュが悶絶する。
見れば、先程の一撃で広がった傷口を押さえている両手の隙間から、先程も目にした緑掛かった煙が前にも増して猛烈な勢いで漏れ出ている。
その様が物語っていた。
先の一撃は、これまで与えた中で最も決定的なダメージをニードルスマッシュに与えたのだ、と。
「ぅおっしゃあああ! 決まったァッ!!」
そして同じ事を思ったからこそ、離れた場所から戦いを見ていた万丈も拳を作った腕を上げてそう吠えたのだろう。
だが、まだ終わってはいない。
痙攣するスマッシュの片足が、不意に持ち上げられる。
特に焦る事無く、その場から飛び退く夜宵。それに遅れ、酷くゆっくりとした速度で踏み下ろされた足が地面を踏み鳴らす
『まだやる気のようですわね。しぶとい狼さんですわ』
「そんな気はしてたけどね!」
紛いなりにも、巨大化によって通常の攻撃ではダメージが入らない程に身体能力が上がっているのだ。
万丈とドリルクラッシャーによって漸く出来た弱点に渾身の一撃を叩き込みこそしたが、それだけではまだ終わらない可能性は十分にあった。
ならばどうするか?
決まっている。
一撃で足りないのであれば――。
「だから、
――もう一撃だ。
仕舞っていたメイジーシザースのピストル側を左手に握った夜宵は、続けて空手になっている右手で指を鳴らす。
すかさず、回転しながら夜宵の下へと飛来してくるナイフ側。
先程の転倒の際に念動が途切れてスマッシュの足下に落ちていたそれを、再び制御下に置いて呼び寄せた夜宵は右手で受け止め、ナイフ側とピストル側のそれぞれ半分だけのフルボトルスロットを組み合わせて、シザースモードへと合体させる。
そして、一度MSEアブソーバーから引き抜いた
それに反応したメイジーシザースが電子ガイダンスを鳴らす。
<Ready Go!>
途端、メイジーシザースの刃から噴き出る青白い鬼火。
どろり、としたおどろおどろしい炎は刃に纏わり付き、その延長戦へと見る見る内に揺らめく範囲を広げると共に、形を変えていく。
そうして形成されたのは、刃渡り3m近くある巨大な鬼火の鋏刃。
時折火の粉を散らしたり透けたりする青白いエネルギーの刃が本来の刃を覆うように伸びたメイジーシザースを、閉じた状態のまま夜宵は振り被り、跳躍。
その首下に覆い被さるニードルスマッシュの指の隙間から覗く傷目掛け、前へと押し出した鋏刃の先端を突き込んだ。
「ガガ、ギイィッ!?」
狙い通りに指の隙間を縫って切っ先が突き立つや、大きく仰け反るニードルスマッシュを後目に、夜宵は両手に握ったメイジーシザースの枝分かれしたグリップに力を込め、内側へと閉じていく。
それに合わせ、開く方向に力が掛かった鋏刃がその先端でスマッシュの傷口を少しずつ押し広げていく。
溜まらず、首下を押さえていたニードルスマッシュの両手がそれ以上開くのを防ぐために左右から鬼火の鋏刃を押さえ込もうとするが、しかし傷口から噴き出す量を増す緑掛かった煙に反比例するように、その力はどんどん弱くなっていく。
「狼を――」
そうして、半分ほどまでグリップを閉じた夜宵は、もうニードルスマッシュがまともな抵抗が出来ない程に弱っている事を悟り、一気に残りの分を開き切る。
「――倒す!」
<
鬼火の鋏刃が、限界まで開く。
それによって、突き込む前の3倍以上に押し広げられた首下の傷から、まるで断ち切られた頸動脈から溢れ出る鮮血の様に、緑掛かった煙が猛烈な勢いで噴き出す。
それこそ、割り広げられた傷を起点に、見る見る内に全身へと罅が入っていく程の勢いで。
そうして、その罅がニードルスマッシュの全身を、白い装甲も黒い箇所も無差別にほぼ全てを覆い尽くした時。
罅から湧き出た緑色の爆炎が、轟音を上げてスマッシュの巨体を飲み込んだ。
時と時間は移り、午後4時。nascita、地下室。
店の冷蔵庫と地下室の繋ぐ階段を抜けてすぐの煉瓦の壁の部屋の、フルボトル浄化装置が設置されている部屋とを隔てる壁の隅で、夜宵はそこに設置された椅子の上で体育座りしている美空の話に耳を傾けているところだった。
「――ってワケで、結局は戦兎とは連絡付かず仕舞いだったから、しょうがないから万丈に行くように言ったワケ。もー、ホント心配したんだから。いっきなり電話かかって来たと思ったら、いっきなり事故ったみたいなでっかい音鳴って通話切れるし」
美空の説明を要約すると、先のニードルスマッシュとの戦闘で連絡を取った際、夜宵からの通話が途中で切れた事に驚いた彼女は、慌てて指示した通りに戦兎へと連絡。しかし、夜宵が掛けた時同様、彼は電話に応答しなかった。
そういうワケでどうしたものかと右往左往していたところに、偶々東都へと帰還した万丈からの連絡が入ったため、これ幸いとばかりにエリアC4の戦場へと向かわせた、というのが、あの場に万丈が現れるまでの顛末だという事だった。
その説明を聞いて、そうだったんだ、と夜宵が相槌を返していたところ、彼女の後方、向かい側の壁に背を預けて床に座っていた万丈が、美空を睨みつけて文句を言った。
「だからって俺に振るんじゃねェよ! こちとら、西都で一仕事終えてクタクタだっつゥの!」
「仕方ないじゃん! 戦兎どころか、お父さんもバイトで電話出ないし。あたしじゃスマッシュと戦うとかムリだし」
文句はアイツらに言ってよ、と唇を尖らせて、美空も万丈を睨み返す。
そんな二人を、まぁまぁ、と宥めながら夜宵は交互に見やった。
「美空のお蔭で万丈さんは来てくれたし、万丈さんのお蔭でスマッシュも倒せたワケだし、今回は二人がいてくれたから何とかなったよ。二人とも、本当にありがとう」
「別にそんな畏まんなくたっていいし」
友達助けるなんて当たり前じゃん、と夜宵の感謝の言葉に笑顔を返す美空。
万丈もまた、ま、良いけどよ、と美空程あからさまではないが毒気を抜かれたような笑いを返し、次いで左側へと顔を向けて、こう言った
「これで、人殺し呼ばわりも終わりだしなァ」
歯を剥いたより強い笑いを顔に浮かべる彼の視線の先にあるのは、今の夜宵と美空がいる位置から対角の場所に設置されたベッドだ。
部屋隅に置かれた机に並んで設置されているそれの上で、今、ある人物が寝かされていた。
禿げ上がった頭が特徴的な強面のその男は――鍋島だ。
「まさか、あのデケェスマッシュの正体がコイツだったなんてな」
万丈の言う通り、先の戦闘で夜宵が戦ったあのニードルスマッシュに変えられていたのは、鍋島だった。
昨晩スマッシュとして差し向けられた男が、また別のスマッシュとして自分達の前に現れたという事実だけでも驚くべきものだったが、ともかく相手が相手だったため、いつものように救急車を呼ばず、nascitaへと運び込んだのだ。
そのまま、意識を失っていた事もあって今はベッドに寝かせているのだが、何はともあれ、自身の無実を証言出来る唯一の人間を確保出来た事もあって、万丈は喜々とした表情を浮かべ、分かりやすい程に鍋島が目覚めるのを待ち遠しそうにしていた。
その一方で、そんな万丈と目を閉じたままの鍋島を見る夜宵の内には引っ掛かるものがあった。
(何で、また鍋島をスマッシュにしたんだろう?)
昨晩、鍋島を連れ去ったのが何のためだったのかを考えた時、真っ先に思いつくのは万丈の無実を証言させないためだ。そうする事に何のメリットがあるのかはファウストのみぞ知る事だが、もう一人のスマッシュだった人物が手付かずだったのもそう考えれば納得がいく。一人だけ置いて行く理由も必要性も無いのだから。
だからこそ、態々こちらの隙を突いてまで回収した鍋島を、倒されれば今度こそ確保される危険のあるスマッシュへともう一度変えてぶつけた、その理由が分からない。
こちらを倒せる算段が十分にあったのだろうか?
確かに、あの謎の巨大化現象には面食らったし、万丈があの場に辿り着かなければ――もっと言えば、ボトルを撹拌しただけで巨大化したスマッシュに弱点を作り出す程の馬鹿力を彼が発揮出来ていなければ、恐らく夜宵は負けていた。特に後半の馬鹿力の下りは、彼女や戦兎が同じ事をしたところで同じ結果はまず見込めないため、ファウストの側にしても全く予想外だった可能性も無くはないかもしれない。
しかし、こうして戦い終えた後だからこそ、夜宵はこうも思う。――巨大化した後のスマッシュは、自分一人だったからああも苦戦した、と。
あの場に現れたのが、当初呼ぼうとした戦兎だったとしても、形勢は逆転出来ていた。というか、恐らく彼が協力してくれた方があの場は劇的に変わっていたようにも思う。一番仮面ライダーとして経験が豊富な戦兎と、ボトルの交換で常に最善の能力を得られるビルドの組み合わせは、ライダーですらない万丈の
そして、そちらの可能性については流石にファウストも想定外という事はないだろう。
だのに、実際に当てて来たのは二人掛かりなら何とでも出来た程度の巨大化スマッシュのみ。
それが不可思議で、その不可思議さが言い知れぬ不安を夜宵の内に抱かせていた。
万丈が期待の籠った目で、まだかまだか、と鍋島に目を遣る様を見せられる度に強くなる不安を。
「……んん……」
ふと、呻くような声が聞こえた。
それに反応した夜宵は、美空と万丈と共に視線をベッドへと向けた。
その視線が、被っていた白い布団を押し退けて上半身を起こした鍋島の姿を捉え、そして心なしか、左右に泳ぐその瞳に夜宵は違和感を覚える。
突然現れた自分達に警戒を抱いているのかと一瞬思ったが、それとはまた違うような、困惑の色を浮かべたその瞳に。
「やっと目ェ覚めたかァ」
一方、夜宵のような引っ掛かりなど特に感じていない様子の万丈がユラリ、と立ち上がり、ベッドから降りようとする鍋島へと詰め寄る。
「こっちはテメェの家族助けてやったぞ。今度はテメェの番だ。約束通り、俺の無実を証言しやがれッ、鍋島ァ!!」
鍋島の服の肩口を掴み、鼻先が触れるか触れないかという程に距離を詰めて叫ぶ万丈。
彼からすれば、この時のために西都くんだりまで行って、自分を嵌めた挙句恋人が死ぬ遠因を作った男の家族を助けて来たのだ。必死にならない理由が無い。
だからこそ、
「……
服から彼の手を叩き落としつつ返って来たその言葉に、夜宵は耳を疑い、そして万丈の目が飛び出んばかりに剥かれた。
「……んだそりゃ? ギャグのつもりか? 笑えねェぞ」
返す万丈の声が震えている。
「……万丈 龍我だ。昨日、電話で話しただろ?」
「……知らない」
「そんな筈無い!」
絞り出したような鍋島の回答に、咄嗟に夜宵も詰め寄る。
昨日の鍋島との電話は、そもそも最初に掛けたのは夜宵だ。
だからこそ覚えている。万丈の事が分かるか確認した時、鍋島はそれを否定しなかった。――知っている筈だ、万丈の事を。
更にはあの時、彼女自身も電話越しに鍋島と言葉を交わしている。姿に見覚えが無くとも、この声には聞き覚えがある筈だ。
しかし、夜宵の方に振り向いた鍋島の目は激しく泳いでおり、万丈と同様に彼女の事も知らないと訴えている。
酷く困惑したようなその様子も、凡そ演技や嘘とは思えない。
一体、何が起こっているのか?
『ちょっとよろしくて?』
ふと、パーカーのポケットの中に入れていたメイジーが話し掛けて来る。
「……何?」
こんな時に何だ、と煩わしく思いつつも、美空と万丈の手前のために小声で返す夜宵に、メイジーが続きを話す。
『さっきから聞いていて思ったんですけど、ひょっとして、ファウストが鍋島を二度もスマッシュにした理由って
「これ?」
『
そう言われて、ハッ、と夜宵は気づく。
「まさか――」
そうだ。
人をスマッシュに変える人体実験には副作用がある。
ここまで重篤な症状は、少なくとも夜宵が見て来た中では今まで無かった。彼女自身や万丈がその副作用の影響を殆ど受けていなかった事もあり、すぐにはその可能性に行き着かなかった。
だが、そうであると気づけば話は早い。
たった一人、極々身近に、今この場に居ない人間の中に似た状況に陥って久しい
ましてや、鍋島は人体実験を二度も受けているうえ、二回目に至っては謎の巨大化現象すら起こしていた。
そして、それこそが二度も鍋島をスマッシュへと変えたファウストの真の狙いだったのだと、今、夜宵は確信した。
そう。今の鍋島は――。
「俺は……誰なんだ?」
――記憶を失っている。
鍋島の記憶が失っていると悟った時、膨らんでいた期待と達成感が、鋭い針に突かれた風船のように弾け散る衝撃を万丈は感じた。
それに耐えて何とか気を取り直した後、続いて込み上げて来る感情のままに彼は後へ振り返り、ベッドを力任せに蹴り付けていた。
「フザけるなァッ!!」
もう一度鍋島の方へ振り返るや、その両肩を掴んだ万丈は彼が困惑を深めるのも構わず問い詰める。
「テメェが証言出来なきゃ、誰が俺の無実を証明出来んだよォ!?」
受け入れられるワケが無い。
やっと掴んだ手掛かりだった。
見知らぬ人々を助けるために遠き西都まで足を運び、時に命すら危険に晒したのも、全てはこの時のためだった。
冤罪の証明まで後一歩だった。――その筈だったのに!
冗談ならあまりにも笑えない。悪い夢なら、今すぐ覚めてくれ。
そう願わずにはいられない万丈であったが、クシャクシャに歪んだ視界に浮かぶ鍋島はうんともすんとも言わず、ただただ己の状況に、そして恐らく意味が分かっていないだろう彼の懇願染みた叫びに困惑し、今にも泣き出しそうな程に歪んだ顔を俯かせるのみ。
紛れもない現実しか、そこには無かった。
何をどうしようと覆る事の無い喪失以外、そこには何も無かったのだ。
ふと、慌ただしい足音が後ろから聞こえて来る。
肩越しに振り向いてみれば、紗羽と鍋島親子が、いつの間にかすぐ傍に来ていた夜宵と、椅子から立ち上がった美空の間に立っていた。
「どうしたの!?」
声を上げる紗羽の顔が、彼女の混乱を表すように引き攣っている。
その隣で遥を抱き抱えている友恵もまた、夫に手を上げているようにしか見えない万丈を不安げに見ている。
そんな彼女達の視線を受けている内に興奮が冷め、逆に自分が責め立てられているような気分になった万丈は、止むを得ず鍋島の肩から両手を離して解放する。
その場にゆっくりと座り込む鍋島の横を酔っているワケでも無いのに酷くフラつく足取りで通り過ぎた後、その先のトラス柱に重ね合わせた両手を置き、更に深い息を吐き出しながら額をその上に重ねて、項垂れた。
どうしようもなく、遣る瀬無い気分だった。
そこに柱が無かったなら、きっと鍋島のようにその場に座り込んで、ガックリ、と肩を落としていたに違いない。
後ろの方で、鍋島が記憶を失ってしまっている事を説明する夜宵の深刻気な声が聞こえた気がしたが、ここに至るまでの全てが徒労へと変わってしまった今の万丈には、そんな事を気に留める余裕さえ無い。
もう一度、深い溜息を吐く万丈。
その耳に、また別の声が入って来る。
彼も含め、誰もが事態を重く受け止めているが故に重い空気が漂っているその場にはあまりにも不釣り合いな、喜色に富んだ明るい声が。
「ぱぱー!」
声の主は、鍋島の娘――遥だった。
トテトテ、と軽く忙しない足音が鍋島の方へ近づくのが聞こえた後、何かを服から取り出しているような微かな衣擦れの音を立ててから、改めて彼女の言葉が背中越しに聞こえて来る。
「みてぱぱー」
その言葉を聞いて、彼女が何をしようとしているか、ぼんやりと万丈は思い付く。――あやとりだ。
「てっきょー、かーめー、どーむー……へりこぷたー!」
舌足らずの口取りが、順に技名を紡いでいく。
西都のマンションで、万丈に披露して見せたのと同じ技を、同じ順取りで。
「すごい?」
そして、最後にしたのと同じ問い掛けを。
あの時、やった事が無いから分からない、と返した万丈にも気を損ねる事無く、ぱぱにみせて、いっぱいいっぱいほめてもらう、と無邪気に笑いながら遥は答えていた。
本来ならば、その願いはきっと叶えられていただろう。
しかし、現実はどうだろうか?
今の、自らが何者であるのかさえ忘却してしまった鍋島は、果たして彼女の願いを叶えられるのか?
「……」
答えは、否。
今の彼にとって、目の前の少女は愛しい我が子では無く、突然あやとりを始めた見知らぬ子どもでしかない。
心に余裕などある筈も無い今の鍋島に彼女を褒める事など出来る筈も無く、いつの間にやら引かれるように肩越しにその様子を見ていた万丈は、彼が顔を俯けて視線を逸らすのを目にする。
思っていたのとは違う反応を見せる父親に、不思議そうに首を傾げる遥の後姿を、目にする。
当然の帰結と言ってしまえばそれまでかもしれない。
だがそれでも、そんな二人の様が万丈には納得いかなかった。
そしてそう思った途端、急に自らの内に何かが込み上げて来るのを感じ、居ても立ってもいられなくなった万丈は、こう言った。
「見てやれよ」
まだ、鍋島は顔を俯けたままだった。
構わず、トラス柱から手を離した万丈は鍋島の傍へ回り込み、言葉を続ける。
「テメェに見て貰いたくて練習してたんだよ。テメェの事が大好きで、褒めてもらいたくて」
なおも、鍋島は視線を上げない。
鼻を啜り、なおも万丈は続ける。
「……俺の事は……もう、どうでもいい」
そう言ってしまうのは、正直言って身が裂かれるような気分だった。
ここまでやってきた事、鍋島に無実を証言させるという目的を、全て諦めてしまうようで。
だが、こうなってしまった以上は認めるしかない。諦めるしかない。
だからこそ、せめて――。
「せめて、この子の事くらい――家族の事ぐらい、思い出してやれよッ!」
でなければ、あれほどまでに父親に会いたがり、あやとりを練習し続けて来た遥が、あまりにも報われない。
「……頼むから……思い出してやれよ……!」
その場にしゃがみ込み、祈るように万丈は鍋島へと訴え掛ける。
鍋島は、変わらず険しくした顔を俯かせるのみだった。
万丈の訴えに加え、わたしのこと、わからないの、という遥の不安げな問い掛けを受けても、なお状況は変わらない。
――消えた記憶は、容易く戻ったりなどしない。
「……チッ、クショゥ……」
無力さが込み上げて来る。
自分なんかじゃ何も変えられない事への耐え難い悔しさが、周りに聞こえたかどうか分からない程に微かな――負け犬の遠吠え染みた声となって、噛み締めた歯の隙間が空しく漏れる。
もう自分なんかに出来る事は何も無い。
この場を離れようと、鉛のように重く感じる体に鞭打って万丈は立ち上がり、背を向ける。
その時だった。
「遥ちゃん」
声が聞こえた。
鍋島と遥を境に置いた、向かい側から。
明かりの灯る豆電球が繋がった単三電池入りの電池ボックスと、金属片とピンセットが入ったプラスティックケースを手に遥の傍にしゃがみ込む、夜宵の声が。
見ていられなかった。
目の前の幼女が我が子である事を忘れ、歪んだ表情で下を向くしかない鍋島も。
大好きな父親が自分の事を忘れてしまった事を理解できず、彼に見せるために練習して来たというあやとりを見せたのに褒めてくれない事を不思議にしか思えず、段々と不安げな表情を浮かべていく鍋島の娘も。
そして、
「せめて、この子の事くらい――家族の事ぐらい、思い出してやれよッ!」
己の無実を証明するための足取りが途絶えてしまって無念の真っ只中にあるだろうに、それを置いて、幼女のために思い出すように訴える万丈の背中も。
見ているだけでなど、いられなかった。
だから、自分にも何かできることは無いか、と夜宵は部屋を見回していた。
そして、その最中で見つけた。
地下室の右奥、フルボトル浄化装置の隣に設置されている作業机の上に置かれているそれら――赤と黒のクリップ付きのコードで豆電球が繋がった電池ボックスと、傍に転がる二本の単三電池。そして、1㎠程の大きさに切り取られた銀色と銅色の二種類の金属の試験片とピンセットが入ったプラスティックケースを。
それに目にして、以前受けた化学の授業で
はっきり言えば、そのメッセージを伝えたところで何かが変わる訳ではない。鍋島の記憶が戻る事など、結局あり得ない。
ただ、このまま何もせず見ているだけなどという事だけは、絶対にあってはならない。
そう思った次の瞬間には、
「教えて」
「え?」
「あの娘の名前」
『? 夜宵ちゃん、何を?』
ややぶっきらぼうに滝川から鍋島の娘の名前を聞き出した夜宵は彼女――遥の背後をそっと通り抜けて作業机から必要な物を回収し、続いて覚束ない動作で立ち上がった万丈の逆側から彼女の傍にしゃがんで、
「遥ちゃん」
声を掛けた。
その声に反応して遥が自分の方へ振り向くのを待って、豆電球が光る電池ボックスを夜宵は彼女に見せた。
「遥ちゃんのお父さんね、いっぱい詰まっていた遥ちゃんとの大切な思い出を取られちゃったの」
こんな風に、と遥の不思議そうな視線が向けられる電池ボックスから、夜宵は電池を一本抜き取る。
それによって、電力の供給が途切れた豆電球が、それまで煌々と輝いていたのが嘘のように光を失う。
丁度、遥を褒めてくれる大好きな父親だった筈の鍋島が、記憶を奪われた結果そうじゃなくなってしまったように。
「……そーなの?」
悲し気に眉を下ろす遥に、うん、と夜宵はゆっくり頷き返す。
「……酷いよね。遥ちゃんは、ただお父さんに会いたかっただけなのに」
『……全くですわ』
本当に、酷い話だ。
自分達の目的のために、平気で誰かから大切なものを奪っていく。
記憶も、恋人も、親友も。そして、こんな幼い子供から親さえも。
そんなファウストという欲深い狼に対して怒りが込み上げてきそうになるが、今はそれを抑え、でもね、と今度は試験片の入ったプラスティックケースを夜宵は掲げて見せる。
ここからが肝心だ。
「思い出はまた作っていける」
電池ボックスから移動した遥の視線を誘導出来るように、ゆっくりとプラスティックケースを床に置き、ピンセットを使ってその中の試験片を数枚取り出す。
「遥ちゃんがお母さんと一緒に、お父さんに新しい思い出を作ってあげる事は出来るの」
その試験片を、銀色の物と銅色の色を交互に重ね合わせ、それとは別に電池ボックスの+、-極からそれぞれ外したコードのクリップに折り畳んだアルミ箔を噛ませておく。
これで準備は整った。
後は――。
「こんなふうに」
言いつつ、重ねた試験片の束を、コードに噛ませたアルミ箔で上下から押さえ込む。
これで良い。これで、化学の授業で出て来た“ボルタの電堆”は成り立つ筈。
こうすれば、重ね合わせた試験片から電気が発生して、コードの先に繋いだままの豆電球が――。
「――あれ?」
――光らない。
夜宵の想定に反し、豆電球は光を失ったままだ。
「あ、ゴメン。お姉ちゃん間違えちゃったみたい。ちょっと待ってて」
試験片が足りなかったのだろうか?
じっと豆電球を見つめる遥を誤魔化した夜宵は、プラスティックケースから追加の試験片を取り出し、更に重ねてからもう一度試す。
豆電球は、光らない。
諦めず、ならば量が多すぎるのかと、試験片の量を最初よりも少なくしてから、更に挑む。
豆電球は、変わらず光らない。
(何で光らないの!?)
まるで光る気配も無く、ただただ中のフィラメントが覗くばかりの豆電球を前に、夜宵は当惑する。
これで良い筈だ。
異なる二種の金属を接触させれば、それぞれが異符号の電気を帯びる。これを利用したのがボルタの電堆だ。これで成り立っている筈だ。
だのに、何故上手くいかない?
接触が悪いのかと、試験片を積み直してから改めて試みるも、それが当然とばかりに豆電球は相変わらず光らない。
何か見落としがあったか、と当時の授業を思い起こしてみるも、そういったものは特に見当たらない。
それでも何か打つ手は無いかと試行錯誤している内に、ふと夜宵は、遥に不思議そうとも、不安げともとれるような眼で見つめられている事に気づく。
――ダメだ。
沈むしかないこの状況を少しでも変えたくて、態々出て来たのだ。結局出来ませんでした、などというのは絶対にダメだ。
しかし、もう打つ手は無い。八方塞がり。
一体、何が原因で豆電球は光らないのか? 一体、何が駄目なのか?
一体、何が足りないのか――。
「ああ、これじゃ駄目だ」
不意に、すぐ傍から声が聞こえた。
つい先程までこの場に無かった筈のその声に、反射的に夜宵は振り向く。
そこにいたのは――。
「試験片重ねてるだけじゃねぇか。そりゃ光らないに決まってるでしょ」
「――戦兎さん!」
――果たして、桐生 戦兎その人であった。
先程までこの場に居なかった筈の彼が夜宵の隣にしゃがみ込み、ピンセットで試験片を掴む彼女の手元を指差してそう指摘していた。
かと思えば、ちょっと待ってろ、と立ち上がって作業机の方へ向かい、その上で何か作業をした後、再び夜宵の傍にしゃがんで、足下に何かを置いた。
見れば、シャーレの中には半分ほどまで透明な液体が満たされ、更に細かく千切られた紙――厚めのろ紙が何枚か、その中に浸されている。
そのろ紙を数枚、あっという間も無く夜宵の手から奪い取ったピンセットを使って、戦兎の手が試験片の束へと慣れた手付きで差し込んでいく。
「試験片だけじゃ豆電球を光らせるだけの起電力は発生しないんだよ。だから、こうやって伝導性の液体――今回は取り合えず食塩水だ――を間に挟んでやるんだ。そうすれば――」
そうして、最後にクリップにアルミ箔を挟んだままのコードを、先程から夜宵がやっていたのと同じように、試験片とろ紙の束の前後から押し当てる。
すると、先程までうんとすんとも言わなかったのが嘘のように、豆電球が煌々と光り出した。
「――こんな具合にな」
ふふん、としたり顔で鼻を鳴らす戦兎。
それに、今回ばかりは反論の余地も無く感嘆する他無い夜宵であったが、そこへ、それはそうと、と表情を真顔に戻した戦兎からの指摘が入る。
「その子に何か言おうとしてたんじゃねぇの?」
言われ、はっとした夜宵は遥の方へと向き直る。
見れば、彼女の目が引き寄せられるように、明るく点灯し出した豆電球を興味津々と見つめていた。
察した。今なら伝えられる、と。
「――こんなふうに、またお父さんに、遥ちゃんが大好きだったお父さんになってもらう事は出来ると思うの」
元通りになるかもしれない、とは例え幼子相手でも気楽には言えない。
いつか自分が沙也加を取り戻した時、彼女と完全に元通りの関係に戻れるかどうか、分からないように。
それでも、かつてに近いところまで関係を修復する事は出来るかもしれない。かつてよりも深い関係を作り直すことは出来るかもしれない。
だから――。
「だから、お願い。お母さんと一緒に、お父さんに楽しい思い出をいっぱい作ってあげて」
――せめて、その事を伝えておきたかった。
果たして、そんな夜宵の想いまでもが伝わったかどうかまでは分からなかったが、
「うん、わかった!」
少なくとも、そう頷き返してくれた遥の顔は、満面の笑顔を浮かべていた。
「で、今の今まで何してたんですか?」
その後、どうにか鍋島が落ち着きだしたところで彼と彼の家族、及び彼らを安全な場所へ連れて行くと進言した滝川が退出したnascitaの地下室にて、夜宵は美空と共に戦兎を詰問していた。
「パンドラボックスの事調べてたんだよ。聞いてないのかよ美空から?」
「聞いてるけど、だからってこんな時間まで掛かる普通?」
現在、午後5時過ぎ。
”みーたん”からスカイウォールの惨劇当時の動画を入手した彼が調査のためにnascitaを出た午前10時頃から、既に7時間近くが経過している。
「そーだよ、あたし達の連絡に一っつも返事返さないし」
「本当だよ! それで、帰って来たらお前らと紗羽さんと鍋島と、あと鍋島の家族がいて、しかも何か重い空気漂ってて、気楽に口出せる状況じゃなかったから取り合えず様子見てた。そしたら、何か夜宵が鍋島の娘相手に実験始め出したけど、思いっきりやり方間違えてる。で、これは天っ才物理学者の出番だな、と思って出て来た。それだけだ」
先程顔を見せた時までの経緯をそう面倒臭そうに説明する戦兎であったが、美空と共に夜宵が据わった目で睨み付ければ、露骨にその視線から目を逸らそうとする。
恐らく、戦兎は何かを隠そうとしている。およそ7時間という長い時間の間、顔を見せず連絡すら返さなかった本当の理由も、きっとそれだ。
一体、彼は何を隠しているのか?
『
――パーカーのポケットの中からそんな風に警戒を呼び掛けて来るメイジーの意見は流石に違うだろうが。
ともかく、自分と美空だけの追求では戦兎が口を割るにはまだ足らないと感じた夜宵は振り返り、
「万丈さん!」
そこに立つ万丈に増援を呼び掛ける事にした。
「……ん?」
夜宵が声を掛けて数秒後、黙って俯いていた万丈がそこで漸く気付いたように顔を上げる。
まるで何か考え事をしている最中だったような彼の鈍い反応に引っ掛かりを感じた夜宵であったが、それを無視して万丈からも戦兎に何か言うように要請する。
すると、もう一度俯いて考える素振りを少し見せた後、戦兎の方をまっすぐ見て万丈がこう言った。
「――お前、笑ってたよな?」
「はい?」
彼の突然湧いて出たような発言の意味が分からず、夜宵は目を丸くする。
それが目に入らないかのように、万丈が言葉を続ける。
「コイツの実験手伝って、鍋島の
次いで、万丈の双眸が夜宵の方へと向けられる。
「お前もそうだ」
「え?」
「さっき会ったばっかで、碌に知ってるワケでも無ェ奴らのために、失敗するかもしれねェ実験まで持ち出して口出して、それが上手くいったら、やっぱり笑ってた。……あんな事したって、得なんて何も無ェのに」
そして最後に、なぁ、と二人を交互に見遣って、
「お前らは、何で……」
そこまで言い掛けたところで俯いて、押し黙った。
「……えっと」
何と反応を返せばいいのか分からなかった夜宵は、同じような状態の美空と顔を向け合わせる。
戦兎の隠し事への追及の助勢を頼んだつもりだったのに、全く別の事柄について話し出した上に一方的に打ち切った万丈に、彼女は訳が分からず困惑するしかない。
その一方で、戦兎は彼の言わんとしている事が何となく分かったのか、小さく溜息を吐いて、こう返す。
「これで言うのは
「……」
まっすぐ彼を見る戦兎の視線から逃れるように、万丈が首を左に逸らす。
言葉こそ無かったが、それが戦兎の問いに対する否定の意思である事を、何となくだが夜宵は読み取れた。
戦兎にもそれは通じたようで、しょうがない奴だ、とでも言いたげな苦笑が彼の顔に浮かぶ。
そして、
「――分かったよ、白状する」
突然観念したように、そう告げた。
それに驚き、美空と共に振り返った夜宵に、
「言っとくけど、嘘は吐いてねぇぞ? パンドラボックスの調査をしてたっていう事
戦兎が説明を続けながら、背を向ける。
「正確には――」
そのまま彼が歩き出し、右奥の作業机を経由して地下室の左隅へと辿り着いたところで
「――
そこの白い壁に埋め込まれている、黒いフルボトルスロット群を。
「どういう事?」
戦兎の意図が分からず問い掛けた夜宵は、同時に彼の右手にも疑問の視線を向けていた。
正確には、その手に握られている金属ハンマーに。
先程作業机に寄った際に彼が回収しているのは見えたが、そもそも、何故あんなものを今手に取ったのか?
そちらについても意図が分からず、ただ言い知れない不穏さを漂わせるハンマーに微かな不安を感じている夜宵と、そして美空と万丈の視線が集中する中で、
「こういう事だ!」
スロット群が埋まる壁へ、戦兎がハンマーを打ち付けた。
「なっ……!?」
突然の彼の行動と、地下室中に響き渡るけたたましい音に、思わず、ギョッ、と目を見開く夜宵と美空、万丈。
『何事ですの!? 一体何ですのこの音は!?』
パーカーのポケットに入ったままのため音以外の周囲の状況が分からず、困惑の叫びを上げるメイジー。
そしてそれに構わず、あるいは聞こえずに、更にハンマーを打ち付ける戦兎によって、壁に亀裂が幾重にも走り、脱落したセメント片が四方八方へと散っては床に転がっていく。
その光景を前に、夜宵と万丈は訳が分からず呆然と眺める他無かったが、そんな彼らを置いてハンマーを振るう戦兎へと駆け寄る影が一つ。
「止めてぇ!!」
美空だった。
いつものアンニュイな姿とも、また“みーたん”の時のわざとらしい明るさやあざとさとも一致しない、明らかに異常と分かる程の必死さで彼女が叫び、戦兎を止めようと後から抱き着く。
「戦兎止めてぇ! 止めてったらぁ!!」
しかしそれでも戦兎は止まらず、それどころか、仮面ライダーとして一般人よりも強い彼の力に振り回され、遂には耐え切れなくなった美空が振り解かれて、床へと投げ出されてしまう。
「美空!」
咄嗟に夜宵は飛び出し、床に横たわった美空の下へと駆け付ける。
すぐさましゃがみ、大丈夫、と安否を確認しようとするが、しかし夜宵の問い掛けに美空は応じる様子を見せず、なおも追い縋るように戦兎の背へと憔悴した視線を送っている。
その一方で、そんなつもりがあったかどうかはともかく乱暴を働く事になってしまった美空に意識の一片も向ける素振りを見せず、変わらず戦兎が壁を砕き続けている。
そんな彼に怒りを覚え、
「ちょっと何すんのよ! いい加減に――」
いい加減にして、と怒鳴り付けようとしたその時、一際大きな破砕音が鳴り響いた。
思わず驚いて出そうとしていた言葉を飲み込んでしまった程に激しいその音を最後に、そこでハンマーを振るのを止めた戦兎が振り返る。
先程までは持っていなかった
それを目に入れた時、
「っ!?」
頭の中を電流が駆け抜けるような衝撃に夜宵は肩を跳ねさせた。
「……それ……は……?」
「パンドラボックスのパネルだ」
引き攣って上手く動かない口からどうにか滲み出た声に、重苦しい面持ちで戦兎がそう返す。
「元々、パンドラボックスは二重構造だった。各面に対応するパネルが貼り付いていたんだが、スカイウォールの惨劇が起こった時に、そのパネルが2枚剥がれたんだ。その1枚が、これだ」
戦兎がそう説明するそれは、30cm四方程度の板だった。
角が斜めに落とされた正方形の中に複雑な幾何学模様が刻み込まれており、その模様は心なしかスカイウォールの表面に刻み込まれているものに似ている。
――否、それ以上に酷似している。
昼頃に美空と共に見た、あのスカイウォールの惨劇当時の映像の中に映っていた、パンドラボックスに。
そして何より――。
『パンドラボックスの
「出て来たの」
『え?』
「出て来たの。……夢の中で見たのと、そっくりなのが」
『何ですって!?』
こうして
あの映像の中のパンドラボックスに強い既視感を抱いた、その理由――今朝の悪夢の中で目にしたあの奇妙な板に、そのパネルが瓜二つであるという事実に。
「パンドラボックスの事を調べている内にコイツの存在に行き着いて、それで気づいたんだ。こいつを何処か、身近で見た覚えがあるって。――それで、この壁のスロットの事を思い出した」
戦兎が視線を向けた先で、つい先程までは10本分のフルボトルスロット群が覗き出ている以外は傷一つ無かった壁が、今は深い罅と鋭利な断面が幾重にも晒された無惨な様相を晒している。
が、破片が脱落した壁の向こうはよく見れば空洞になっており、それ程大きくない物を隠して置けるスペースが広がっている。
戦兎の言葉を聞くに、そのスペースにパンドラボックスのパネル――パンドラパネルが、フルボトルスロット群のみ壁から出す形で収められていた、という事らしい。
だが、そうだとすれば疑問が生まれる。
「何で……そんなものが……ここに?」
何故、ここにある?
何故、夢の中で見たのと同じ物が、ここにある?
何故、
『ちょっと待って下さいな! 夜宵ちゃんの夢に出て来たというであれば、つまりそのパネルは!?』
ファウストの研究施設にあったものと同じパネルが、
「そこまでは俺も分からない」
戦兎が首を左右に振って、顔の傍に掲げたパンドラパネルに目を向ける。
「
「奪われた……?」
「ファウストだとォ!?」
戦兎が告げた衝撃の事実に、夜宵と、話について行けず蚊帳の外になり掛けていた万丈の驚愕の叫びが連続する。
間髪入れず、はっと夜宵は美空の方を見る。
未だ床に横たわったままの美空と一瞬だけ目が合ったが、しかし、どこか気まずそうな、あるいは怯えたような表情へと変わった彼女は、逃げるように夜宵の視線から顔を背ける。
その反応が、あるいは戦兎が壁を砕き始めた時のあの切羽詰まったような行動が、雄弁に語っていた。
――パンドラパネルの事を、美空は知っていた。彼女にとって、パンドラパネルの事を自分達に知られるのは都合が悪い事だった、と。
「……美空?」
友人の思わぬ隠し事に、押さえ切れない動揺が声に混じるのを感じながらも夜宵は美空に呼び掛ける。
美空は、顔を彼女の方に向ける事も無く黙って、震えている。
そんな彼女を、もっと強く問い詰めるべきかと逡巡していると、再び戦兎の声が聞こえて来た。
「だから、どういう事なのか教えてくれよ?」
そう聞いた時、彼も美空を問い詰めようとしているのかと思った。
だが、どうやらそうではないらしかった。
「ファウストに奪われた筈のこのパネルがここにあった理由、
戦兎は、美空を“アンタ”などとは呼ばない。
彼が“アンタ”という二人称を使う人間は限られてくる。
それこそ、夜宵が知る限りでは
「パンドラボックス共々政府の厳重な警戒下にあったこのパネルを、奴らが奪う手引きをした
何より、夜宵が戻した視線の先で語る彼の目は、明らかに美空とは別の方向を向いている。――明らかに、彼女とは別の誰かに語り掛けている。
では、それは一体誰なのか?
その答えも、戦兎の視線を辿っていく過程で振り返った、その先ですぐに判明した。
その人物とは――。
「マスター……!」
――nascitaの
いつの間にそこにいたのか、外出していた筈の彼が、気づけば夜宵達の後方、地下室の入り口付近に立っていた。
普段なら陽気な声で、たっだいまー、の一言でも告げているところだろう彼は、しかし今は白い中折れ帽の下の顔を強張らせ、じっと戦兎を、そして彼の手にあるパンドラパネルを見つめている。
「答えてくれ、マスター。いや――」
そんな、明らかに普段とは違う様子を見せる石動に、戦兎もまた真っ直ぐに鋭い目を向けている。
一切視線を逸らす事無く、パンドラパネルを突き出して、告げる。
「――
「このパンドラパネルは、3年前にファウストに奪われた」
「俺は、ファウストの、メンバー……!」
「まさか、昔の戦兎さんがバンドやってたなんて」
「ま、アニキの記憶が戻れば全部解決っすけどね!」
「何か無ェか考えろよ! 俺の冤罪証明する手掛かりとかよォ!」