9話
「問題発生よ」
教会騒動から数日後。生徒会室に顔を出すと、唐突にそんなことを言われる。至って真剣な表情な分、相当酷いことのようだ。
「問題?」
「シスターを眷属にしたのがバレたのよ」
「ま、さすがにバレるよな。で?その責任を負って打首獄門と洒落込むのか?」
「本当にシャレにならないことを言わないの。……ただ、魔王様からの召集がかかったの」
「魔王って、あ……」
魔王、という単語を聞いてとても嫌な予感がした。というか、思い出したというのが適切か。
赤髪の男の姿が頭をよぎる。……そういや、アイツ魔王だったな。嫌なイメージしか無かった。
「ちなみに、私と貴方の二人が対象ね」
ま、そうなるだろうな。アーシアが、と言うよりは主の責任になるだろうし。アイツは俺に個人的な用がありそうだし。……行きたくねえ。
「じゃ、今から行くわよ」
「随分と唐突だな。まるで四コマ漫画みたいな話の進み方だぞ」
「わざわざ転移用魔法陣まで同封してきたのよ。魔王様」
……こりゃ、相当ご立腹だぞ。あのシスコン魔王。真面目に打首獄門が現実味を帯びてきた。
さて、どうやって逃げようか。何を犠牲にすれば逃がしてもらえる?金か?人権か?どっちもごめんこうむりたい。
「……あまり気乗りしないけど、行くわよ」
「いや、俺は遠慮し……」
「ニゲラレルトオモウナヨ?」
「……はい」
カタコトで脅迫するように睨みつける千夜先輩に、ただうなづくことしか出来なかった。
転移した先はグレモリー領の大きな屋敷の前。
現在の魔王は四人存在し、そのうちの一人がグレモリー家の出身。確か二千年前の戦争から生き残った御三家の一つで名家とか言われてたっけ。たしか、グレモリー家とシトリー家とフェニックス家だっけか。全部癖のある奴らしかいない一族だ。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
転移先で待機していた銀髪のメイドが恭しく頭を下げる。黒を基調としたオーソドックスなメイド服に身を包んだ美人。
「久しぶりだな、グレイフィア」
「一誠様もお変わりないようで」
苦笑しながらそう答える銀髪メイドことグレイフィア。ちなみに悪魔の中では上位の実力者で、ここにいる魔王の嫁だったりする。たしか、女性の悪魔の中なら一二を争っているレベル。……ま、トップはよく知ってるやつなんだが。
「一誠君。グレイフィアと知り合いなの?」
「前にちょっとやんちゃした時にな」
「やんちゃ、という言葉で片付けるにはいささか足りないかと」
「その節は本当に悪かったよ」
まあ、色々あってこの人には頭が上がらないというのが本音だ。まあ、諸悪の根源はあのシスコン魔王だが。
「魔王様は応接室でお待ちです」
数分ほど歩いたところで大きな扉の前でそう言うグレイフィア。扉の上には悪魔の言語で応接室と書かれてある。
来る途中に高そうな絵画や像が飾られている。ひとつでも壊したら考えたくもないほどの賠償請求が来ることだろう。目の前の扉もえらく装飾されている。金持ちってのはみんなそうなのだろうか。
「ひとつ聞くが、サーゼクスは怒ってるか?」
「ええ。たいそうお怒りで。約束を忘れた貴方が十割程悪いかと」
言葉の節々にトゲを感じるが、気にしないことにした。
「入るぞ。サーゼクス」
そう言いながら、大きな扉を軽く押して中に入る。千夜先輩も遅れながらも着いてくるように部屋に入った。
「やあ、久しぶりだね。赤龍帝」
笑顔で迎える赤髪の青年。かなり顔立ちが整っており、普通の女性なら一発で落ちかねない程の美貌と言うやつだ。
ちなみに、その近くには黒髪の女性も座っている。ツインテールで見た目だけなら俺と変わらないほどの年齢に見える。みえるだけだが。
「うわ……やっぱりいたよ」
「その言い方は酷いでしょっ!?」
「言いたくもなるだろ。セラ」
そう、親しげに話していると、横で千夜先輩がつんつんと脇腹を続いてくる。
「……貴方、魔王様と知り合いなの?」
「前にちょっとな。顔は広くて困ることは無いし」
ま、こんな交友関係は望みたくはないが。厄介事押し付けてくるから本当に面倒だし。
「で、四大魔王のうちの二人が何故ここにいるんだ?」
この二人、赤髪の方がサーゼクス・ルシファーで、黒髪の方がセラフォルー・レヴィアタン。どっちも魔王でアホほど強い。……というか、怒らせると怖い。
因みにだが、セラはグレイフィアと魔王の座を争って今の地位を手に入れたとか。単純に実力が群を抜いていると言うのもあるのだろう。
「白々しく聞くね、君は。……先の一件でそこの上級悪魔……鷹白千夜と言ったね。君がシスターを悪魔に転生させたという話を聞いてね」
やっぱり、その話か。相当面倒になるぞ、おい。
「その件に関しましては、それが最善だと判断ーー」
「そういうことを言わせたいわけじゃないんだ。その程度であれば、天界に連絡していくらでも融通が効く。ただ、それ以上に許せないことがあってね」
段々と怒りのボルテージが上がるように、俺の方を見ながらサーゼクスはこう叫んだ。
「赤龍帝っ!リーアたんと結婚するという話はどうなったんだい!?」
完全に呆気に取られる千夜先輩。近くにいたグレイフィアは頭に手を当ててやれやれと困ったようにしている。
「うっせえシスコン魔王。まだその話してんのかよ」
「ソーたんとの結婚も忘れてないわよねっ!?」
「お前もかよっ。冥界二大シスコン共」
ちなみに、リーアたんというのは魔王サーゼクスの実の妹で、俺はリーアと呼んでる。ソーたんは魔王セラフォルーの実の妹のこと。要するに二人ともシスコンなのである。
「ってか、やっぱりその話かよ」
「逆にそれ以外に何があると言うんだい。君が全く迎えにこない挙句、女性をはべらせて。いるからね。リーアたんをなんだと思ってるんだ」
「人聞きの悪い言い方すんな。お前こそえリーアのことなんだと思ってんだよ。それに、こっちは一度死んでんだぞ。そっちの管轄の上級悪魔が暴走するわ何故か蛇を持ってる中級堕天使がいるわでな」
「……蛇?なぜそれが今出てくるんだい。何かの間違いでは?」
ぴくり、と反応するサーゼクス。
「逆に聞くが、俺が間違えると思うか?それに、たかだか中級堕天使が俺を殺せると、本気で思ってるのかよ」
「君ほどの実力者がそう簡単にやられるとは思えないね 」
「その件については後で報告書でも書いて渡す。……あとな。いい加減妹離れしろよシスコン魔王。リーアも自分で相手見つけるだろ」
「シスコンではない。妹好きのお兄ちゃんと言いたまえ」
キリッとカッコつけるサーゼクス。正直うざい。
「黙れ変態シスコン魔王」
「昔はお兄様のことが大好きと言っていたのに君がリーアたんを助けてからは君にゾッコンなんだよ。今ではお風呂も一緒に入ってくれない」
「それが普通だろうが変態魔王」
「ソーたんは!?ソーたんのこと忘れてないよね!?二人を手篭めにしてるんだから!」
「あんたら二人の印象が強すぎて忘れたくても忘れられねぇ。それに手篭めになんてしてねぇよ」
もうやだ、この二人。シスコンこじらせすぎて話にならねえ。
「で、要件はなんだよ。まさかそんなこと言うために呼んだんじゃないよな」
「そうだと言ったらどうするんだい?」
「帰る」
そう言いながら、千夜先輩の手を握って部屋から出ようとしたタイミングで部屋に結界を展開されて逃げられないようにされましたとさ。笑えねえ。
手を握った瞬間、千夜先輩は何故か驚いた様子で頬を赤く染めていたが、嫌だったのだろうか。……気にしないことにしておこう。
「さっさと要件を話せよ。お前らの妹話に耳を貸すほど暇じゃないんだ」
「……すまない。本題に入ろうか。折り入って頼みがある。レーティングゲームに出てくれないか」
レーティングゲームというのは悪魔が公に行っている眷属対抗の対戦ゲーム。上級悪魔とその眷属を1チームとして行われる対抗戦のようなもの。まあ。要するに練習試合に近い。たしか、今のレーティングゲームの一位は不動の王様とか言われてたな。
大怪我しそうになったら転移して逃がしてくれるし。ある程度のダメージを受けても同義。まあ、事故もあるとは聞くが。
「なんでまた。そういうのに出られないんじゃないのか?魔王様は」
「妹のだよ。親が見合いとしてフェニックス家の三男を連れてきたんだ。あとは、察してくれると助かるけれど」
「フェニックス家の三男……あのライザーか?」
確か、俺の記憶ではあまりいい印象はない。女を見ればハーレムに加えるだのなんだのと言うタチの悪い変態。というかただのバカというのが一般的な認識。長男と次男は普通だが。
「ご名答。あの阿呆は私のリーアたんをハーレムに加えると公言している。つまり」
「サーチアンドデストロイ?」
「そういうことわけさ」
目が笑ってねぇよ、このシスコン。
「じゃあなんだ?アハトアハトでも持ってきてブッパなせばいいのか?」
「生温い。それこそ、何処ぞの吸血鬼でも連れてきて八つ裂きにしてもらいたいものだ」
「マジでキレてるよこの魔王」
本当に妹が絡むと見境無くなるよこいつ。
「で、セラはなんでここに?」
「勿論、さっきのことで文句を言いに」
「今すぐ帰って仕事しろシスコン魔王二号」
「酷いっ!?……イッセー君に会いに来たじゃ、だめ?」
「ダメ。役職を考えろ。仮にも悪魔のトップだろうが」
「いーやーっ!まだ専業主婦のほうがいーいー。お仕事つらすぎるーっ。魔法少女になるーっ」
「いや、年齢的に少女ではな……」
「ソレイジョウイッタラ、コロス」
「……はい」
確か、この魔王は普段は真面目な格好をしてるが、趣味に走ると魔法少女のコスプレをする。悪いとは言わない。かなり似合ってるし。
「それに、セラは家事全般できないだろ。たしか使用人に任せてる筈だろ、そういうの」
「花嫁修業したもんっ!もうできるもんっ!」
「まじか。強火を最大出力と勘違いして食材を消し炭にしたあのセラが」
「黒歴史思い出させないでっ!」
本当にレベルアップしてくれてると嬉しい。下手したら米をクレンザーで洗うとか料理に薬品使い始めかねないレベルだったと記憶してるが。
「そういや、リーアにもソーナにも会ってないな。元気か?」
「ああ。リーアたんは健康そのものさ。風邪なんか引こうものなら全力で看病を」
「お前は精神科にいけ。シスコンが治るかは知らんが」
「ソーたんも元気だよ。……って、ソーたんについて聞くなんて、お嫁にはあげないよ」
「お前は結婚させたいのかさせたくないのかハッキリしろ。いやしないけど」
「そこは複雑な乙女心をわかってよ、バカ」
正直めんどくさい。セラじゃなかったらキレるレベルだ。
「あと、仕事あるのに突撃してくるのはやめろよ?お前のとこの部下とかからクレームが来るから」
ちなみにだが、セラが仕事を投げ出す度にメールで苦情がセラの部下から送られてくる。申し訳なくて仕方ない。
「えー、会いたいんだもん」
「ちゃんと休暇とれば拒まねぇよ。仕事投げ出して突撃してくるから拒んでるだけだろ」
「イッセー君がいじめるぅ。たすけてぇ、サーゼクスぅ」
「それは赤龍帝の言い分の方が正しい。外交面での仕事はあるだろう?」
「うわぁぁぁぁぁぁんっ!誰も味方してくれないぃっ」
さすがにこればかりは擁護できない。
「じゃあ今度の日曜空けとくからその日に会おうぜ。だから仕事少しでも減らして休み貰えるようにな」
「なんかなだめられてる感が否めない……けど、分かった。じゃあ、日曜日ねっ」
そう言うと簡単に結界を壊して自分の領地へと戻っていくセラなのであった。
「魔王って変人ばかりなのかしら」
「目の前の赤髪が弩級のシスコンで今帰ったのがシスコン魔法少女。あとはニートと開発バカ。悪いやつじゃないけどまともでは無い」
「聞こえているよ、赤龍帝」
多少表情が引きつっているが、気にしない。
「で、何時だよ、やるのは」
「二週間後。場所はこちらで作りだした駒王学園を再現したフィールド。この期間は修行期間ということで相手から与えられたハンデだよ」
「随分と余裕だな、あいつ」
「単純に考えてもリーアたんはレーティングゲームの経験が皆無。眷属も戦闘自体はある程度こなせる程度で、集団戦には向いていない……と言うより慣れていないというのが正しいかな」
つまり、俺が鍛えろってことかよ。
「で、条件は?」
「空間が崩壊しない程度に痛めつける。つまり禁じ手をつかうな、ということさ」
「おーけー。ならフェニックスの涙無尽蔵に持ってこられても勝てるか」
「……ライザーのこと舐めすぎじゃないかしら」
呆れたような声音で話に入ってくる千夜先輩。魔王に呆れてるのか俺の言動に呆れてるのか、もはや分からない。
「舐めてるんじゃない。実力を弁えているだけさ。それにな、俺が誰かのために戦う時に負ける姿を想像できるか?」
「それはそうね。あれを見たあとに負けるというのは、たしかに考えられないわ」
いや、あれは相当頭にきてたからな。一応周囲への被害を考えて雀の涙程度の力しか出してなかったが。
「で、報酬は?流石に眷属を借り受けるんだ。多少なりとはあるんだろう?」
「リーアたんを助けるため、という大義名分では流石に動いてくれないかい?赤龍帝」
「逆に聞くが、もし俺が一人の女性……しかも相当美人なやつの婚約破棄条件にレーティングゲームに参加すると聞いたら、どうなると思う?」
「恐らく、重症は免れられないだろう。妹さんや幼馴染に多少なりとは痛めつけられると予想できるね」
目の光を失った憂姫とこよみの姿が目に浮かぶようだ。
「そういう事だ。流石に金とは言わないが、そうだな……。旅行券でも食材でもなんでもいい。とにかくそれに見合うほどのリターンがないと説明に困る」
ほんと、女が絡むとあの二人は本当に恐ろしい。下手すれば骨を1本ずつ折っていく古典的な拷問をされかねない。古典的な拷問をしようとするからなぁ。あいつら。
「後で考えておく。じゃあ、明日。リーアたんには君に会いに行くように伝えるよ。眷属の修行を口実に、ね」
そういうと、俺と千夜先輩の足元に赤色の魔法陣が展開され、強制的に元の生徒会室へと転移された。
「そういえば、アーシアの件は大丈夫だったのかしら。手酷い拷問を受けるのでしょう?」
生徒会室に戻ったあと、不思議そうに首を傾げる千夜先輩。現時点でアーシアがうちに住むという話になってるが、その話は色々あって通してある。
「……ここだけの話。色々と埋め合わせをするということで手を打ってもらってる」
「……ふーん」
「まあなんとかなんだろ」
「……私も、埋め合わせしてもらおうかしら」
「千夜先輩まで言い出すのかよ」
「ふふ、冗談よ」
楽しそうに苦笑する千夜先輩。
「でも、大丈夫なの?」
「ん、なにが?」
「魔王様とのデートの話。あの子達にバレたら問題じゃないの?」
「さすがにバレないだろ。魔王様の接待といえば」
「……そうだといいわね。あの人、相当美人だからかなり面倒なことになると思うわよ」
「……不吉な事を言わないでくれ」
なんか、胃が痛くなってきた。
「そういや、さっき手を握ったの悪かったな」
「……急にどうしたのよ。別に、いやとは言ってないわよ」
何やら、動揺してる様子の千夜先輩。
「いや、顔赤くしてたから嫌なのかと」
「……察しろ、朴念仁」
なんか、すごく怒られた気がした。