ハイスクールN×D Re:make   作:紺狐はボクっ娘信者

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今回はちょっと長いです


12話

 合宿当日。着替えの入ったカバンを持って、朝の七時頃に駒王学園に集合している。校門は勿論開いている状態で、そこら辺はしっかりしてるんだなと関心する。

「イッセー。もしかして結構気合い入ってる?」

 そう、首を傾げるこよみ。

「入れなきゃ失礼だろ。こよみも本気出さないと抜かれるかもな」

「そんなにすぐには抜かれないよ。強そうな人でもいたの?」

「超有望格が一人な。というか全員超有望格と言っても遜色ない。俺が教えられるやつなら一人ってだけな」

「となると、近接戦闘系?」

「そうだな。見た感じ、少し鍛えれば単純な腕力だけならこよみとはる。しかも遠距離攻撃も味方の回復も特殊攻撃も出来そうときた」

「へー。じゃあ、私よりも強くなるかもね」

「その姿と比べたら、な」

「ん、そういうことにしておく」

 こよみには最終形態までに4回の変身を残している。……さすがに嘘だけど。

 とりあえず本気の姿と今の姿では単純な戦闘能力は天と地ほどの差がある。下手したら十本の指に入るレベルだ。つまり、サーゼクスとかと肩を並べる実力者。……ま。本気を出せばだけど。

「お兄ちゃんって割と自信過剰なとこあるよね」

 不意につぶやく憂姫。

「自信過剰か。ないよりはまだいいんじゃないか?」

「それで足元救われたら意味が無いよ。どんな敵が出てくるか分からないから」

「全員ぶっ飛ばせばそれで済む。それだけだろ」

「そういうとこだよ。お兄ちゃん」

 まあ、それで一回死んでるわけだから肝に銘じておこう。

「……んぁ、そういや遥は?」

 校門前にいるのは俺、アーシア、憂姫、こよみの4人だ。千夜先輩は先に行くという話を聞いているが、遠足前の子供みたいで可愛いとは思うが。

「んー、遅いね。どうしたんだろ」

 そう、話してると遠くから遥の声が聞こえる。

「おまたせーっ」

 割と大きめのキャリーバッグを持って来ている。三つほど。

「……どうしたんだ、その荷物」

「ちょっとね。色々つめてたらちょっと多くなっちゃった」

 ちょっとレベルではない気がする。

「ま、あとでのお楽しみだよ」

 嫌な予感しかしない。

「じゃ、行くか」

「「「うん(はいっ)」」」

 ま、俺は小猫ちゃんとアーシアを教えることになりそうだが。今回の場合は。

 

「来たわね」

 オカルト研究部の部室に集合した俺達を出迎えたのはリーアと千夜先輩の二人。奥には木場と小猫ちゃん、そして朱乃先輩の姿も見える。

「ん、おはよう。千夜先輩。リーア」

「……だからその呼び方をやめてと」

「あら、いいじゃない。リーア?」

「こうなるから嫌なのよっ」

 こういう反応を見てるのは正直楽しい。

「で、場所はどこなんだ。別荘なんて言ったらイメージとしては避暑地ってイメージがあるけど」

「今回は山よ。季節的にもいいとは思うけれど」

「……ん、山?」

 なんというか、一つ思い当たる場所があった。

「なあ、リーア。質問いいか?」

「何かしら」

「今回の合宿場所にサーゼクスは関係しているのか?」

「ええ。しているわね」

「もしかして、セラフォルーも関わってるのか?」

「ええ」

「じゃあもう一つ。その場所はシトリー領のどこかか?例えば、近くに川があるとか」

「その通りよ。よく分かったわね」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は脱兎のごとく部室から逃げ出そうとした。無論こよみに押さえつけられて失敗に終わったが。

「離してくれっ。そこには本当に行きたくないっ」

「何か問題があるのかしら」

「大ありだろっ。てか、そこって俺とリーアとソーナが初めて会ったとこだろうが」

「よく分かったわね。山と言うだけでよくそこまでたどり着いたものね」

 逆にそこ以外思いつかない。サーゼクスとセラが絡む時点で行く場所がかなり固定されるからな。

「と言うより、なんでシトリー領に行ってるのさ」

「まず拘束を解いてから質問をしてくれ」

「逃げるからダメでしょ」

「……あの時だよ。フェンリルと大立ち回りした時の帰りにな」

「ああ、あの時ね」

 なんて普通に会話しているが、木場と小猫ちゃんと朱乃先輩は酷く驚いている様子だ。アーシアはよくわかっていない様子だが。

「一誠君、フェンリルと戦ったことがあるのかい?」

 困惑した様子で聞いてくる木場。

「やんちゃしてた時にな。北欧神話の方に行ってロキに喧嘩売ってなぁ。で、その時に出てきたのがフェンリルって訳で」

「よく生きていられたね」

「まあ、それなりに怪我をして、さまよった挙句に着いたのがシトリー領のとある避暑地ってわけだ」

 助けられた恩があることにはあるが。

「そこで知り合ったんだ、イッセー」

「そこにリーアとソーナとセラが居たんだよ」

「セラ?」

「セラフォルー・レヴィアタン。自称魔法少女の魔王」

「随分仲がいいんだね」

「色々あってな」

「……ふーん?」

 何やら訝しんでるこよみ。

「もう逃げないから離してくれよ」

「……後でその話を聞かせてくれたらね」

「わかったよ」

 そう言うと、拘束を外してくれた。

「……気が重い」

 頭抱えてる状態の俺。だって、あそこに行くってことは確実にあいつらがいるって訳だからなぁ……はぁ……。

「そう、悲観的にならずに行くわよ」

 くそ、この主。いざとなったら道連れにしてやる。

 

 その後、全員で転移したのは想像通りシトリー領のとある避暑地。木々におおわれているものの景観の美しい場所。近くには川が流れており、レジャーとしても使える。

 転移場所の目の前にある別荘は白を基調とした汚れひとつ無い綺麗な建物。二階建てでプール付きときた。普通に購入するなら土地込みで億はくだらないだろう。

「……やっぱ、ここかよ」

 この場所には見覚えがあった。というか、俺が保護された場所と言う。やりやがったな、あのシスコン野郎。

「わぁ、綺麗な建物ですねっ」

 テンションの上がっているアーシア。かわいい。

「どうしたの、イッセー。顔色が悪いよ?」

「数秒後にわかるよ」

 そう言ってすぐの事。建物から現れる一人の女性の姿。ツインテールが印象的な女の子。いつもの魔法少女を模した派手な衣装ではなく、青を基調とした落ち着いた服装を身にまとっている。

「……誰でしょう、あの綺麗な方は」

 悪魔に転生した特典としてやたら視力が上がるってものがあったか。アーシアにはあいつの姿が見えてるようだ。

「イッセーくんっ!!!!」

 その女性ことセラフォルー・レヴィアタンは思い切り助走をつけて飛びつく形で抱きついてきた。少し体勢を崩すも、なんとか抱きとめることに成功する。玄関からここまで十数メートルはあると言うのに、一瞬で到着できるのはさすが魔王とでも言うべきか。……いや、これくらいは誰でも出来るか。

「会いたかったぁ。前に会った時はサーゼクスの手前抱きつけなかったからね」

「なんで抱きつくのが当たり前になってんだよ」

 この光景を見て周囲の女性陣は固まっている。……というか真面目に助けて欲しい。

「ようこそ、シトリー領へっ」

「離れてから言えっての」

 本当に前途多難すぎるんだが。

「……イッセーさん。誰ですか、その人は」

 約一名、黒いオーラを放ちながらこちらを見ている女性こと憂姫がかなり怒った様子で言葉を発する。

「……セラフォルー・レヴィアタン。四大魔王って呼ばれる悪魔のトップの一人」

「前に、電話で話していた人?」

「……はい」

「……良かったね。美人さんに抱きついてもらえて。では、私は他の方と特訓をするから」

 そう言って憂姫は完全にキレた様子で離れて行ったと。……本当に前途多難すぎる。

「今のはイッセーが悪いわよ」

「完全に被害者なのに!?」

 理不尽すぎる。

「イッセーくん。あの子は誰?」

「兵藤憂姫。俺の実の妹」

「ふーん。そうなんだ」

 なにやら考え事をしている様子のセラ。

「とりあえず離れてくれよ。このままじゃ本当に誤解される」

「やーだよ。久しぶりのイッセー君の成分を補充してるんだから」

 毎回この手のいいわけで1時間程度は離してもらえない。

「一誠君も、なにか抵抗しないの?」

 不思議そうにしている千夜先輩。

「無理。こいつを無力化しようにも神器を使ったものならため時間の数秒で意識を刈り取られる」

「力づくは?」

「……単純にセラ相手に乱暴できない」

 だって仮にも魔王様だし女性だし。変に傷つけるのは罪悪感がすごい上に嫌われたら割と凹む。

「そういう態度をしているから憂姫を怒らせるのよ」

「自覚しています」

 ……もう、こうなったらセラが満足するまでこうしてるしかない。それがいつもの対処方法。

「……えへへ」

 まあ、可愛いから許すことにしよう。あとが怖いけど。

 

 

 で、解放されたのは案の定1時間後。こいつの体の体内時計は正確なのか。

 その間にグレモリー眷属に動きやすい服装に着替えてもらった。まあ全員ジャージだが。

「……むぅ」

 やっぱりご機嫌ななめの憂姫。さすがにあれを見せられて直ぐには機嫌は直らないだろう。

「……憂姫」

「なに?お兄ちゃん」

「……ドーナツひとつ」

「……絶対私の事ちょろいやつだと思ってるよね」

 でも満更では無さそうだ。

「じゃあ、俺の一日独占権」

「仕方ないね。許してあげるよ」

 やっぱりちょろい。自分のこと追い詰めてる気がしてならないけど。

「とりあえずメニューとしては木場が俺か遥とひたすら戦闘。で、神器の使用出来る時間を極力長くするというのを目標にすること」

「……僕の神器を知っているのかい?」

「昨日戦った時に西洋剣を生み出していただろ。そうなると基本的には魔剣創造(ソードバース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の二択になる。どちらも武器を作り出す神器だが、昨日作りだしたものを見ると聖剣には見えない。となると魔剣創造の方になるというわけだ」

「驚いた。随分な洞察力だね」

「これくらい出来なきゃ話にならない。で、今使用できる時間はどれくらいだ?」

「武器を作り出せる時間は一時間。精度を上げたり短時間で大量に生み出した場合はさらに短くなるかな」

 割と致命的だな、おい。

 基本的にレーティングゲームは長期戦になる可能性が高い。というか、そういう戦術を好んで使うやつもいると聞く。そんなヤツらを相手にするなら最低でも二時間は欲しいところだが、贅沢は言ってられないか。

「期間が短いからな。一時間半を目指して意識して使ってみろよ。少しは変わるはずだ」

「……い、一時間半?」

「あくまで目標だ。継続時間なんてもんはすぐに伸びるもんじゃねぇよ。俺だって結構時間かけて長くしたんだ」

「うん、それなら」

 こくり、と頷く木場。

「朱乃先輩は魔力の最大量の増幅と技を考えてみようか」

「技、ですか?」

「そう。全体攻撃や一点集中攻撃と言ってもそれだけではイメージに乏しい。だから、名前をつけたりしてどの技がどう、みたいな感じでやるのが割と効率的だ」

「……つまり、イメージを固めて名前をつけろ、と?」

「そういうこと。イメージが出来たらあとは反復練習して使い物になるまでやり続ける。それの繰り返しだ。それを本気でやってれば魔力量も瞬間出力も自然と上がる」

「はい、分かりました」

 さて、あとは小猫ちゃんとアーシアだが、そっちは最初から決まってる。

「小猫ちゃんとアーシアは、俺と一緒に魔力の勉強だ。小猫ちゃんは追加で俺と実戦を行うけど、まあ手加減はする」

「……随分、アバウトですね」

「仕方ないだろ?筋力を一週間であげるなんて無理に決まってるし、下手に実戦だけっつっても今のままだと無意味だ」

「……それは、どういう事ですか」

「それはおいおい説明する。とりあえず始めようか」

「「「「はいっ」」」」

 

 

 その後、俺と小猫ちゃんとアーシアの三人は別荘の書斎で講義を行っていた。

「基本的に魔力ってなんだと思う?アーシア」

「悪魔が使える魔法のような力、ですか?」

「半分正解半分ハズレかな。魔力っていうのは悪魔の体から作られるエネルギーの総称のことを言うんだ。基本的には心臓で生成されて血管を通って全身に送られるんだ」

「んー……分かりにくいです」

「血をイメージしたらわかりやすいかな。血は心臓を通って全身に送られるから、それをイメージするのがいい」

「ふーむ。むずかしいです」

 頭を抱える素振りを見せるアーシア。可愛い。

「まあ、魔力は悪魔の使用する力の総称だな。そういう意味ではアーシアのさっきの答えはあってる」

「そうなんですか?」

「ああ。ただ、魔法のような力というのが違う。魔力に命令をして、その形に変えるというのが魔力の基本でな。あまり融通の利くものじゃないんだ」

「命令、ですか?」

「そう、命令。例えば火になれって命令したら火になるし、水に慣れって命令たら水になる。そうして生みだしたものは自分の魔力なわけだからすきにつかうことができる」

 そういいながら試しに魔力で五百ミリリットル程度の水を生み出し、軽く空中を動かしてみせる。鳥の形に変えたり小型の龍に変えたりと遊びも入れてみた。

「わぁっ、すごいですっ」

「ただ、こうするにも明確なイメージがないと出来ないんだ。そういう意味では魔法とは少し違う」

「んー……そうですかぁ」

「まあ、極めればそれに近いことは出来ると思うぞ。セラなんかは一瞬で半径1キロ圏内の物質を凍らせることが出来る」

「……すごいんですね」

「仮にも魔王だからな。一応女性悪魔の中では1番強い」

 ぺらぺらとページをめくり、仙術のページを開く。小猫ちゃんが眉間にシワを寄せるが気にしない。

「じゃ、次は仙術についてだ」

「……」

 小猫ちゃんはなにもこたえない。

「仙術は基本的に猫又と呼ばれる妖怪が使える特殊な力で、魔力に近いものだな。違う点としては周囲から気と呼ばれる力を体に取り込んで使うというところだな」

「……それを聞かせて、どうするつもりなんですか」

 随分と不機嫌そうな小猫ちゃん。

「まあ、聞けって。仙術自体は悪いものじゃない。体の気の流れをコントロールして相手を外傷なく戦闘不能にしたり、味方の回復までできる超チート能力だ。極めれば最強と言っても過言じゃない」

「……」

「ただその性質が問題だ。あくまで周囲から気を取り込むという特性上、使用し過ぎれば体への負担が大きくなる。まあ、寿命を縮めるというとこだな」

「……は?」

 驚いた様子の小猫ちゃん。随分とこの情報が意外らしい。

「黒歌は仙術に飲まれた訳じゃない、つってんだよ」

 『黒歌』という名前を聞いた瞬間、小猫ちゃんの表情が一気に変わる。

「……なんで、その名前を?」

「興味本位で調べた、という事にしてくれ。黒歌は仙術の使用により世界の悪意を取り込みすぎて暴走して主を殺した、ってことになってるな」

「……はい」

「そんなの嘘に決まってんだろ?仙術自体にはそんな効果はない。俺の知り合いに仙術を極めてる猿もいるが、そいつ曰く『仙術は周囲の力を取り込んで我が血肉とする力』らしいからな」

「……じゃあ、なぜ姉はそんなことを?理由がなければそんなこと」

「当時、そいつは仙術を使える駒を欲していた。で、小猫ちゃんが指名された。まあそんなこと黒歌が許すはずもなく、黒歌自身が眷属になることで小猫ちゃんを守る道を選んだ」

「……もしかして」

「まあそれで満足するはずもなく、そいつは黒歌にこう命じた。妹を差し出せ、と。普通に考えればそうなるよな。仙術なんて希少な力を持ってれば普通は欲しがる。多ければ多いほどいいってな」

「……」

「まあ、それで妹を守るために暴走した振りをして主を殺害してはぐれになったわけだ」

「……うそ、うそっ、そんなのっ」

 ポロポロと泣き始める小猫ちゃん。

「嘘じゃねぇよ。姉のことをもう少しは信頼してやれ。それに、仙術なら俺も少しくらいなら使えるからある程度の仕組みは知ってる」

「……そんな、そんなの。じゃあ」

「なんで会いにこないかって?普通に考えて、妹のことを考えればはぐれになった自分とあったらお前まで指名手配されると思ってるんだろうな。危険因子と繋がりがあるってな」

「……」

「ま、そういう事だ。気持ちの整理はすぐにはつかないだろうけど、少しくらいは相談に乗るから」

「……はいっ」

 少しだけ、小猫ちゃんの目に光が戻ったような気がした。

「……イッセーさん?」

「ん?どうした?」

「なんで、興味本位で調べてるんですか?」

 完全にそう来るのは予想外だった。

「あー……ちょっとな。小猫ちゃんの様子がちょっとおかしかったから気になってな」

 もしここで本当のことを言ったらキレられる。

「それならいいですっ」

 何やらほっとしている様子のアーシア。

「じゃ、そろそろ次のステップに行こうか」

「「……はいっ!」」

「魔力自体の操作方法は簡単だ。体に全神経を集中させると、なんとなくだけど体を流れる何かを感じられるんだ。人間の頃になかった感覚だから、転生悪魔は割と感覚をつかみやすいかな」

 そう言って、両手を前に出し、手のひらを天井に向けて感覚を集中させる。掌の上に丸い球体を作るイメージを作って、体を流れる感覚を手のひらに集中させ、魔力を集約させる。

「ふゎ……きれいですね」

 出来上がったのは直径1センチ程度の大きさの球体。蒼く光り輝くそれをみて可愛い反応を見せるアーシアに内心癒されている。

「基本的にはこんな感じの球体をイメージするとやりやすいかな。あとはこれに命令して、自分の思い通りに動かすんだ」

「命令、ですか?」

「んー……例えば、『火になれ』」

 そう、つぶやくと青い球体は炎の形を形成して、ゆらゆらと揺れる綺麗な炎となった。

「基本的には口に出さないで想像すればできるんだけど、最初は口に出した方がいいかな。わかりやすいし」

「はい、わかりましたっ」

 そういいながらアーシアも真似て魔力の球体を作り出そうとするも中々上手くいかない。手がぷるぷる震えるくらい力が入ってるように見える。

「もう少し肩の力を抜いて?」

 そう言って、アーシアの背後に回れば両手を軽く抑えて力を抜こうとする。

「はぅっ!?」

 急にやったせいか顔を真っ赤にして動揺しているアーシア。

「……イッセー先輩、それはセクハラです」

 いつの間にか復活していた小猫ちゃんに突っ込まれる。

「……まじ?」

「……まじです。通報されても文句言えないです」

「……ごめんなさい」

「わわっ、気にしてませんから。落ち込まないでくださいっ」

 何やら慌てている様子のアーシア。そんなに嫌だったのだろうか。

「小猫ちゃんは、本当なら仙術の方がいいんだが、流石に整理が出来てないか?」

「……いえ。お願いします。今しないと、決心が鈍りそうです」

 何やらやる気の小猫ちゃん。黒歌の話が割と効いてるか。

「ま、俺もそんなに長けてる訳じゃないがな。あと、一つだけ約束だ。特訓をするのは俺がいるところだけでな。あまり気を取り込みすぎると本当に死んでしまう」

「……はい、わかりました」

 ま、それは方便だが、やりすぎると全身ズタボロになるというのが正解だ。下手に体を壊されても黒歌に顔向けできん。

「まあ、基本的な仕組みはさっき説明した通りだ。気を取り込んで自分の力にする。ただ、取り込む時のコツと比率がやたら難しい」

「先輩は使わないんですか」

「実戦レベルまで昇華できなかった。元々仙術は一部の妖怪が使う超裏技。妖怪でもなんでもない赤龍帝には精々戦闘で少し使う程度が限度だ」

「……先輩が使えるのが異常なだけでは」

 そうとも言う。

「ま、一番の理由としては気を取り込む時間の都合だな。極めたやつは自然に、しかも瞬時に取り込んで使うことが出来るとか」

「……さすがに、そこまでは」

「そんなレベルは一朝一夕では無理だ。……ま、出来たらそれに越したことはないがな」

 けらけらと笑う俺。

「とりあえず最初は体に気を取り込む感覚を覚えることから始める。まあ取り込みすぎると問題だから、右手で小猫ちゃんの体に流し込んで左手で吸収するという方法をとる」

「……要するに、手を繋げと」

「それが一番無難だと思う。極論言ってしまえば粘液接触の方が効率はいいけどな」

「粘液接触?」

「つまりキス」

「……っ」

 ばっ、と唇を隠す小猫ちゃん。

「いや、しないって。だから手を繋ぐ方法を提案したんだから」

「……それならいいです」

 誤解が解けたようで何よりだ。

「……」

 ちなみにアーシアが作っている球体の大きさはソフトボール程度まで大きくなっていた。色は翡翠と表現するのが正しいような、美しいものだ。満面の笑みでこっちを見てくるのは正直怖いが。

「じゃ、始めるか」

「……はい」

 そして始まる仙術講座。

 まずは深呼吸をして体の中にある気を落ち着かせる。ある程度落ち着いたら、周囲にある気を感じる作業を行う。そして気を感じることが出来たらそれを抵抗しないように、体内に取り込むイメージをうかべて吸収する。というのが取り込む時の一連の流れだ。

「よし、準備できたぞ」

 ある程度気を取り込むと、俺の体は軽く白く発光し、ぱちぱちと神々しい雰囲気を醸し出す。

 そんな状態で両手を小猫ちゃんの前に差し出す。

「……っ」

 なにやら覚悟を決めて俺の両手に小猫ちゃんの両手を接触させる。

「……ぁ、くっ……にゃにか、ながれ……っこん、でぇっ……」

 軽く気を流し込むと何やら身悶えする小猫ちゃん。そんなに変な感覚だろうか。

「……」

 アーシアの視線怖い。

「とりあえずこれが気を取り込む感覚ってやつだ。基本的にはこれを基準にして戦闘で使用する」

「……で、もぉっ……くすぐ、た……」

 あ、そういう事か。初めてだと全身の感覚が一気に研ぎ澄まされるような感覚になると聞くが、いまの小猫ちゃんはそれか。俺の時はそんなでもなかったからなぁ。

「とりあえずこれは最初だけだ。じきに慣れるよ」

「……じき、ってぇ……?」

「個人差はあるが、だいたい五分くらいだ。まだ一分も経ってないからな。頑張って耐えろよ」

「……そん、にゃ……ぁ……くっ……」

 赤面させながら涙目になってる小猫ちゃん。なんかとてもいけないことをしている気がしてきた。

「……」

 アーシアの表情が一周回って笑顔になってるよ。目の奥が完全に笑ってないよ。

 

 ーー十分後

 

 結局のところ慣れるまでには十分程度時間がかかった。それが終わる頃には汗びっしょりで思いっきり赤面しながら涙目になっている小猫ちゃんが出来上がっていた。

「……ごめん。少しくらい説明しとけばよかった」

「はぁ……はぁ……酷い、です……けがされ、ました……」

「人聞きの悪いこと言わないで!?……でも、何となく気の流れを掴むことは出来たか?」

「……ある程度は。周囲の気の流れ、というのも何となく」

 思ったよりも天才型なのかもしれない。俺の時は早いと言われても一週間程度はかかったものだが。十分で分かるのは正直異常だと思う。

「……ん?あ、感覚が敏感だからすぐに気づけたのか」

「……私が敏感?」

「……いえ、なんでもないです」

 これ以上刺激するのはやめておこう。

「まあ、時間もあるし、自分で取り込むのも練習してみようか」

「……はいっ」

 元気よく声を発する小猫ちゃん。

「イッセーさん。私はどうすればいいですか?」

 なにやら怒った様子のアーシア。

「魔力の感覚を覚えたならあとは命令するだけってとこなんだけど、使えるものがないからなぁ」

「今のイッセーさん相手なら本気で放てそうです」

 おそらく本気で言っている。目がまじだ。

「痛いことには痛いからやめてくれ。じゃあ、魔力を使って何をしてみたい?」

「目の前の男性に鉄槌を落としたいです」

 俺がなにか悪いことをしましたか。いや、実際のとこしてるんだろうけど。

「とりあえず、魔力を使うことはやめて遊ぶか?魔力を使うにも神器を使うにもメンタル管理が大切になるから」

「……そうします」

 そう言うと、俺を座らせてその膝の上に座るアーシア。

「……もう、俺は何も言わない」

「……先輩。どうすればいいですか」

 何やら不満そうな小猫ちゃん。

「まず、深呼吸して落ち着くとこから始めて。ある程度落ち着いたら感覚を鋭くするように心がけながら気の流れを掴むんだ」

 俺の発言を聞くと、すぐに深呼吸をして息を整え、眼を薄く開きながら感覚を集中させているようだ。

「……何となく、つかめました」

「じゃあ次はその気を体に取り込むイメージ。抵抗無く取り込むようにな。俺はスポンジとかを連想してる」

 ある程度コツを掴んできたのか、小猫ちゃんの体から軽く発光しはじめる。随分と早いペースだ。

「……ん、くっ」

 段々と発光が強まり、ある程度のレベルに達した時点で小猫ちゃんの様子がすこしおかしくなる。何やら悶えているというか。

「……もしかして、さっきの?」

「……言わないでくださいっ」

 何となく察したが反応しないことにした。

「とりあえずその状態を維持。体に気が入ってくる穴を塞ぐようなイメージで」

 そう言うと、小猫ちゃんの発光がある程度平均的なものになり、コントロールに成功したことを証明した姿となる。

「随分と早いな。俺がそこまで行くのにひと月はかかったもんだが」

「……そう、ですか?」

「というか普通は半年かかる。小猫ちゃんが異常なだけだ」

 というか苦手なヤツなら一年とかかかるものだが。

「……これ、どうすれば戻るんですか」

「体外に放出するか、俺みたいな仙術をかじってるやつに発散してもらうかの二択だな。さっきと同じように手を接触させて発散させる形だな」

「……発散、とは?」

「戦闘とか何かの気をコントロールすれば次第に消えていく。無難なとこが誰かと戦うとこだな」

「……つまり、先輩と戦えと」

「アホか。取り込んで直ぐに戦うなんぞ自殺行為だぞ。そういうのはもう少しあとだ」

 下手に取り込んだ状態での戦闘だとコントロールが乱れるイコール死を意味する。気の暴走だけならまだ俺が何とかできるが、一瞬の判断の遅れで命に関わるレベルになる。

「……じゃあ、どうすれば」

「とりあえずそのままの状態で十分継続させてみろ。それが出来たら合格点だな」

「……わかりました」

 そう言いながら、小猫ちゃんは気を安定させながら仙術を継続する。

「……く、ぁ……はっ……はっ……」

 三分ほど経過した頃、息を乱しながら発汗し始める小猫ちゃん。

「さすがに最初だときついか」

「……まだ、まだ」

「ほんとに無理すんなよ。ダメそうなら止める」

「……く、は……い……」

 さらに二分後。折り返しの時間辺りになるともはやたっているのもつらそうな状態に。

「……ぁ、く……」

「もう終わりだ。5分なら及第点ってとこだな」

 そう言いながら膝に座ってるアーシアを一旦避けて小猫ちゃんの身体に触れ、気を発散させる。

「は……ぁ……」

 気を完全に発散させて通常の状態に戻った途端、体から力が失われるようによろける小猫ちゃん。

「おっと、危ない。小猫ちゃん、相当無理してたろ」

 すんでのところで抱き止めれば軽く頭を撫でながらそう呟く。

「……これくらい、大丈夫です」

「もうダメだっての。仙術……いや、気のコントロール自体相当神経と体力を削るんだ。慣れれば負担なくできるが、初めてだとこういうことになる」

 ま、やり続けなければ慣れも何も無いからな。継続するしかない。

「……知ってて、やらせたんですか?」

「ん、何を?」

「……こんな、汗に濡れた私を見るために」

「そんだけ冗談が言えるなら上出来だ。ほら、シャワー浴びて着替えて。少し休憩したら座学にはいるから」

「……はい」

 とりあえず反応するのを辞めた。ほんとにアーシアが怖い。単純に実力つけたら尻に敷かれそうではある。

「……ほんとに汗だくの小猫ちゃん見るためにしたわけじゃないですよね?」

「俺を変態にしないでくれ……」

 俺のイメージがだんだん酷いものになって言ってる気がする。

 

 

 

「で、座学の続きだ」

 十数分後、着替えてきた小猫ちゃんと合流して座学を再開する。右手に分厚い本を持ちながら、さながら教授になったつもりで説明し始める。

「まずは魔力について。魔力も万能じゃないって話だけど、アーシアは魔力でどんなことまで出来ると思う?」

「んー……火をつけたり、水を出したり、ですか?」

「あとは電気にしたり風を起こしたり出来る魔力量によっては地殻変動レベルまで起こすことが出来る」

「はぇー、凄いんですね。魔力って」

 関心した様子のアーシア。

「じゃあ小猫ちゃん。できないことって何かわかるか?」

「……命に関わること、ですか?」

「正解。具体的に言うなら、生命の根本を覆すような事だな」

「どういう事ですか?」

 首を傾げているアーシア。かわいい。

「そうだな。例えば生命。魔力で生き返らせることは基本的に無理なんだ」

「……あれ、私はどうやって生き返ったんですか」

 至極もっともな意見だと思う。

悪魔の駒(イーヴィルピース)と呼ばれるものを使ったんだ。あれでも死んでから時間が経つと転生できなくなる」

「ふむふむ」

 とりあえず、そこから説明が必要のようだ。

「人間の体に魂が宿って、初めて生きているという概念なんだ。ただ、時間が経つとその魂が冥府に行ってしまう」

「そうなると、どうなんですか」

「さっきも言った通り、転生が出来なくなる。生命活動自体はできるけど、動かない人形のようになってしまうんだ」

「……怖いですね」

「ああ、怖い。あ、ちなみに悪魔が死ぬと無に還るから転生自体無理だからな」

「……うぅ、怖いです」

 少し脅しすぎたか。

「……先輩は、どうやって転生したんですか。実力差、かなりあると思って」

「同意があればその限りではないんだよ。その場合はある程度許容上限が上がる」

「……ん、そうなんですか」

 ま、千夜先輩も悪魔の中じゃ結構な実力者だとは思うが。

「……実力差?」

 不思議そうに首をかしげるアーシア。

「ああ。アーシアは知らなかったな。転生させる条件として、コマの所有者の実力より同等かそれ以下の存在しか転生させられないんだ」

「はぇ、そうなんですか」

「でも、あくまで同意がない場合な。同意を得て意識がある状態ならある程度その縛りも緩和される」

「私、転生出来て良かったです」

 まあ実力差と言っても下級悪魔が中級悪魔を転生した事例もあるからあんまりあてにはならないけど。

「悪魔によって駒の価値が違うってわけだ。魔王なんかは神話の生物を眷属にしてるからな」

「し、神話ですか?」

「麒麟とかスルトとかな。色々と例外もあるからそこらは後で教える」

「はい、わかりました」

「とりあえず、命とかに干渉できないと言ったが、魔力以外だと案外その限りじゃないんだ。そういうのを可能にする裏技が神器になる」

「……確かに、先輩の力を見てるとそう思えます」

「戦闘能力だけで言うなら神器の中でも上位出しな。あとは聖遺物(レリック)も神器になってるな」

「レリック、ですか」

「そう。聖杯とか聖槍だな。聖杯は生物を生き返らせる化け物性能で、聖槍に至ってはかのキリストを貫いたものだ。悪魔を屠るのに効果的かつ理論上は神すらも屠れる」

「……神、ですか」

「ああ。神は実在するからな。俺が会ったのだとゼウスみたいなギリシャ神話系統とかオーディンみたいな北欧神話系統。あとは日本神話とかもすこしな」

「はぇ、すごいお話ですね」

「……先輩、フェンリルと戦ったとか言ってましたよね。北欧には喧嘩売りに行ったんですか」

「いんや。この合宿にも来てるこよみってやつがいるだろ?そいつに放り込まれた」

「……え?」

 まあ修行の一環とか言ってたな、あいつ。

「流石にオーディンみたいな大物とはやってないがフェンリルとロキとはやったな。主人よりも強いんだぜ?フェンリル」

「……それでも一方的に倒してそうですけど」

「無理無理。その時の俺せいぜい13とかだぞ。今よりもかなり弱いし。割とダメージを負った」

「……じゃあ、負けたんですか」

「いや、何とか勝てたって感じだな。今なら流石に本気出せば勝てるが、あんなのを普通に相手にしてたら命がいくつあっても足りん」

「……そうですか」

 何故か少し嬉しそうな小猫ちゃん。

「どうしたんだ?」

「……いえ、先輩も無敵じゃないんだなって」

「それは侮辱として捉えればいいのか褒め言葉として捉えればいいのか」

「……侮辱かも知れませんけど、なんというか。少し近くの存在に思えて」

 ……ふーむ、そういうことか。

「まあ赤龍帝って言っても所詮は元人間だからな。神器がなきゃ今の小猫ちゃんより数段弱いだろうし」

 事実、神器無しで前に色んなやつにボコされたし。

「話を戻すぞ。魔力はあくまでエネルギーだ。世界を変えるほどの力を発揮出来なくはないが、そんなことできんのはせいぜい俺か龍神か赤龍神帝くらいだ」

「あの、イッセーさん。龍神と赤龍神帝ってなんですか」

「龍神が今んとこ世界一位の実力者。無限を体現する存在。赤龍神帝は夢幻……人の夢とかの集合体とされる赤い龍だ」

「赤い龍より龍神の方が強いんですね」

「いんや、逆。赤い龍の方が強い。赤龍神帝はランキングに干渉しないんだ。自由気ままに次元の狭間を泳いでる」

「ふーむ、そうなんですね」

「あと龍神の特徴としては見た目を自由に変えることができるんだ。悪魔も魔力である程度は出来るけどあいつは細胞とかそういうレベルで変えられる」

「それって、女の子ってことですか」

 なんかアーシアが少しオドオドしながら質問してくる。

「初めてあった時は白髪の男性の老人で、それ以降は会ってないから知らないな。ま、流石に女の子の姿になってるってことは無いだろうな」

 まずメリットがないし。誰かに惚れたら話が変わるんだろうけどあいつにそんな感情あるとは思えない。

「ま、無理矢理やるならそれ相応の実力……というか魔力量が欲しいってことだ。これで座学はひと通り終わり」

 ぱたん、と本を閉じて二人を見る。

「とりあえず午前中はこれで終わり。午後からは実践ってことで俺と小猫ちゃんが戦うってことで進める」

「……わかりました」

「案外、面白いことになるかもな」

「……?」

 不思議そうにしてる小猫ちゃんだが、まだ気づいてないのだろうか。ま、後でのお楽しみでいいか。

「じゃ、アイスとってくるからちょっと待っててくれ」

「「はーい」」

 そう言うと、とりあえず台所へと向かった。

 

 この別荘は二階建てで地下もあるとても広い。たしか地下は三階まであるんだっけか。さっきまでいた書斎は地下一階でその下にはプールとかトレーニングルームのようなレジャー施設。地上の一階には寝室やキッチンなどといった基本的な施設が揃っている。

 で、今は一階のキッチンに来てるわけなんだが。

「……イッセー、久しい」

 目の前に黒髪の幼女が腕を組みながら仁王立ちで立ち塞がってる。正直見覚えがないが、しゃべり方はどこかで聞いた覚えがある。というかさっき話題にも出たあいつだ。

「……なにしてんだよ、オーフィス」

 半分呆れたような表情を浮かべて少女を見る。

 目の前にいるのは先程も説明した龍神ことオーフィス。めっちゃ強い。黒髪の長髪に光の点っていない紺色の瞳。そして整った顔立ちはさながら約束のあの人に似ていて。

「我、オーフィス。イッセーに会いに来た」

 ……とんでもないタイミングで来るんじゃねぇよ。アーシアにさっき女性の姿は無いって言ったばっかりなんだが。見た目からして千夜先輩を幼くしたような感じだから完全になんか疑われるし。

「まず色々言いたいことはあるけど、二つ聞く。まず、その姿はなんだ」

「イッセーの好み。ぶい」

 そういいながらピースを見せてくるオーフィス。

「はぁ……。じゃ、なんでここにいる?お前がここに来るって普通ありえないだろ。悪魔の領地だし」

「この姿を見せに来た。ぴーす」

「もし、そんな理由できたなら割と本気でキレるけど。本当の理由はなんだ。またグレートレッドを倒すとか言い始めるのか」

 ちなみにグレートレッドが赤龍神帝のことで、オーフィスとは仲が悪い。というか、オーフィスが一方的に嫌ってる訳だが。元々居た寝床をグレートレッドに奪われたのが原因だが。

「……違う。理由は二つ。一つはさっきも言った通りイッセーに会いに来た」

「……もうひとつは?」

「タカシロカヤは蘇生中。それを伝えに来た」

 オーフィスの言葉を聞いた瞬間、周囲の音が全て消えたような感覚に襲われる。今までにないような、まるで全ての意識が記憶を読み解くことに必死になっているような。今が見えてない状態。

「蘇生したのは我。我の体とイッセーの遺伝子を培養してそれを器にした。二人目の龍神の完成。ぶい」

「……おい、それは本当か」

「くだらない嘘はつかない。この見た目はその時に合わせたもの」

 なんというか、信ぴょう性が出てきた気がした。

「じゃあ、あいつはどこにいるんだ」

「グリゴリ。アザゼルの所。まだ魂が体に定着していない」

 アザゼル。あとでしばく。

「……いや、ちと待っててくれ」

 そう言い、おもむろにスマートフォンを取り出して連絡先を開く。そして躊躇せず掛けた先はもちろん。

『おう、イッセー。何かあったかよ』

 堕天使総督ことアザゼルだ。

「二つほど聞く。カヤの蘇生に着手してるって話、本当か」

『……なんのことだ?』

「二つ。目の前にオーフィス本人がいるんだが、それはお前の差し金か?」

『……は?なんでオーフィスの名前が出てくる』

「会いに来たっつって目の前にいんだよ。もしお前の差し金なら何を思って来させたって話だろ」

『いや、二つ目の件については本当に知らねーよ。それに、オーフィスから聞いたんだろ?蘇生の話』

「まあな」

『なら隠す必要性もないだろ。答えはイエスだ。何故話さなかったかって言われたら、カヤからの命令だからだ』

 ……あいつからの命令?

『サプライズをするんだとよ。お前さんに不意打ち決めてな』

 背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

『女関係しっかりしてろよ?オーフィスから聞いてんだろ。あいつの体を培養して作ってんだ。下手に暴れたら世界なんて簡単に壊れるぞ』

 真のラスボスはヒロインでしたってかよ。

「それを聞いて嬉しさ半分怖さ半分になったよ。あと俺の遺伝子を使ったとも聞いたが」

『魂をなじませるためにだよ。いくら龍神の体っていっても拒否反応が出たら一発でゲームオーバーだぞ』

「白龍皇の力を持ってるからってことか」

『ご名答。元々の体は木っ端微塵に吹き飛ばされてるから回収不能。ってなればお前の体を使うのが一番成功確率が高い』

「……成功、するんだよな」

『成功してんだよ。グリゴリの化学力なめんなよ?……最も、復活するまではあと一週間ほどかかりそうだけどな』

「魂の定着が遅いって訳か」

『いんや、魂自体は定着してる。安定もしてるんだよ。オーフィスが知らないだけだ。ただリハビリがな。今のままで外に出したら歩く災害になっちまう』

「なら、ちゃんとリハビリするように伝えてくれ。後、一つだけ伝言いいか」

『なんだ?』

「あの約束、会ったら必ず果たすってな。そういえば分かる」

『男女の蜜月ってやつか?大層なことを伝言させやがって』

「ほざくな。そんなんじゃねえよ」

 そう言って躊躇せずに通話を切った。

 約束、と言っても死ぬ前に話した他愛もない話だ。また会ったら、一緒に飯でも食いに行こうって、ささやかな願い。それだけだ。

「イッセー。話終わった?」

「ああ。ある程度はな。で、オーフィスはどうする。大人しく帰るのか」

「イッセー。我をもてなす」

 ……変な誤解が産まれる前に帰ってほしい。

「イッセーさん。お手伝いに……」

 最悪のタイミングでアーシアさん登場。今時四コマ漫画でもこんなに上手く話進まねぇよ。

「……誰ですか、その人」

「オーフィス。さっき説明した龍神。用事があってきたって話だ」

「……前に会った時は、白髪の老人って言ってましたよね。もしかして、イッセーさんと龍神さんはそういう関係……」

「なんでそうなる。あと、容姿については理由があるんだけどな。詳しくは千夜先輩が来ないと話せない」

「……んん?」

「千夜先輩の姉の話。まあ千夜先輩から許可貰えたら話すよ。千夜先輩の身内の話なんだ」

「……ん、わかりました」

 何とか納得して貰えたようだ。

「とりあえず、アイス食べようぜ。小猫ちゃんも待ってるだろうし」

「はいっ」

「イッセー。我もアイスを所望する」

「はいはい。わかってるよ」

 とりあえず冷凍庫からアイスを四つ出して図書室へと戻った。

 

 

 

 気配を消して図書室にもどって小猫ちゃんの背後をとる。特に意味の無い行動だが、棒付きのアイスをぴとっと優しく頬にくっつけてみた。

「ひゃあっ!?」

 可愛らしい声を出して椅子から立ち上がる小猫ちゃん。

「ほら、アイス」

「……先輩って、そういうイタズラするんですね」

「んにゃ、全然。ちょっとしてみただけだ。嫌だったら金輪際やめるけど」

「……別に、嫌とは言ってないです」

 なんか小難しい感じか。

「……その子、誰ですか」

 ふと、オーフィスに視線をやる小猫ちゃん。

「オーフィス。さっき言ってた龍神だけど、諸事情でこんな見た目になってる」

「……千夜先輩との子供ではないんですね」

「話飛躍しすぎてないか!?それに、向こうが俺のこと好きじゃなければ成立しないだろ、その過程」

「……もしかして、朴念仁とか唐変木と言われませんか」

「不本意だが言われる」

「……そういうことですよ」

 本当に不本意で仕方がない。

「ほぇ、千夜さんがどうかしたんですか」

 アーシアは何の話をしているか分かっていないようだった。

「……こういうことですよ」

 何やらアーシアに耳打ちをする小猫ちゃん。すると青ざめるというか、何やら焦ったような様子になるアーシア。

「……負けません」

 何にですか。

「とりあえずアイス食べたら外に行って実戦を行う。面白いものが見れるぞ」

「……さっきも言っていましたが、面白いものとは」

「行ってからのお楽しみだ。ま、今はアイスでも楽しもうぜ」

 そう言いながら封をあけ、棒付きの某有名なソーダ味のアイスを頬張る。久しぶりに食べたが、たまにはいいものだ。

「……先輩って、私の好みを知ってるんですか?」

 小猫ちゃんにチョコレートでコーティングしてある棒付きのバニラアイスを渡すと、不思議そうに首を傾げた。

「前に羊羹食べてただろ。その時に甘いもの好きなのかなって思ってな。あとは俺の好み」

「……そうですか」

 何やら嬉しそうな小猫ちゃん。

「……むぅ」

 なんかアーシアも拗ねてるし。

「我、アイスを所望する」

 オーフィスはまあいつも通りか。

「ほらよ、アイス」

 そう言って、二個入りの大福型のアイスをオーフィスに渡す。ぺりぺりと器用に蓋を開けて食べてる。

「ん、おいしい」

 満足したようだ。

「ほい、アーシア」

 アーシアには円形の容器に入ったバニラアイスを渡す。何気に一番のお気に入りで、チープな味だが定期的に食べたくなる味だ。

「……これ、どうやって食べるんですか?」

 首を傾げるアーシア。そう言えば、教会育ちでこういうのに疎いんだっけ。

「ん、こうやって食べるんだよ」

 容器の蓋とビニールの密閉用の蓋を取ってスプーンで1口分取り、アーシアの口元に差し出す。

「ふぇ……?あ、あーんっ」

 ぱくり、と差し出されたアイスを食べるアーシア。

「おいしい、です」

 頬を真っ赤に染めて食べているが、そんなに嫌だったのだろうか。

「……そういう所ですよ。先輩」

 何故かジト目で睨みつけてくる小猫ちゃん。

「イッセー、我も」

 なんかオーフィスも便乗してくるし。

「一人一つそれで終わり。あとは我慢だ」

「むぅ、イッセー、釣れない」

 不満そうなオーフィスを宥めるのには時間がかかりそうだ。

「……えへへ」

 まあ、嬉しそうなアーシアを見れたからまあよしとしよう。

 

 

 

 

 場所は変わって別荘の近くの開けた野原。足場もしっかりしていて、戦闘にはもってこいの場所となっている。近くで木場の声や朱乃さんの声がする気がするが、気にしないことにしよう。

「戦闘訓練……っていきたいとこだが、小猫ちゃん。いつもと違う感じはしないか?」

「……特には。不調という訳でもないですし」

「じゃあ、そこから俺に向かって本気でパンチをうってみてくれ」

 ちなみに、小猫ちゃんと俺の距離はざっくり十メートルほどある。普通に攻撃すれば絶対に攻撃は届かない。

「……ここから、ですか?」

「そう。思いっきりな。右ストレートでも正拳突きでもなんでもいい」

「……先輩が言うなら」

 そう言って、拳を構える小猫ちゃん。

「……ふっ。……え?」

 慣れた様子でこちらとの距離を図り、思い切り左足を踏み込む。その瞬間、腰をぐいっと捻りながら肩を内側にひねり込むように拳を突きだす。基本的な右ストレートの打ち方だ。

 その瞬間、衝撃波に近い突風が俺に向かって放たれ、周囲の草木を振動させる。えげつないほどの一撃。

「……な、なんですか。これは」

「仙術を使い始めた初期の効果だな。筋力が上がった訳じゃないが、周囲の気を少しだけ取り込んで放つ一撃。それが今の右ストレート」

「……これが、少し?」

「ああ。雀の涙程度だろうさ。小猫ちゃんの筋力は元々かなり高い。それをほんの少しだけ強化されたって感じだな。完全にコントロールさえしてしまえば今の数倍。いや、数十倍の力を出せる」

「……そうですか」

 何やら、嬉しそうな小猫ちゃん。

「だからこそ、使い手が選ばれるんだよ。こんな化け物じみた力、変な奴が持ったらそれこそ溺れて私欲のために使ってしまうからな」

「……わかっています」

「安心しろよ。俺が見込んだんだ。道を踏み外すようなことは多分ない」

「……たぶん、とは」

「確率論に百パーセントは無いからな。ま、そうならないように俺がいっしょにいるって話さ。それに道を踏み外したら命にかえても止める。だから、安心して使え。……って言っても、不安しかないか」

「……いえ、そんなことありません。ありがとう、ございます」

 そう言って、ゆっくりと近づいて抱きついてくる小猫ちゃん。

「ふぇ……?」

 困惑するアーシア。俺も困惑してる。

「我も、抱きつく?」

 修羅場にしたいのか。お前は。

「……どうした?」

「……本当は、怖かったんです。姉様が力に溺れたわけじゃないと聞いても、何処かでは私は溺れるんじゃないかって」

「……そう、か」

「……でも、先輩の言葉で、心のつっかえが取れたような気がしました。先輩の言葉は、とても安心します」

 そう言って甘えてくる小猫ちゃん。

「ま、そう言ってくれるなら嬉しいかな。でも、溺れないように心を強く持つのは小猫ちゃんの仕事だからな」

「……はい。先輩は、私の事をずっと見守ってください」

「そうするよ」

 ま、これで小猫ちゃんが成長してくれれば一時的とはいえ師匠としては嬉しいが。

「……小猫ちゃん、もしかして」

 なにやら考え事をしているアーシア。

「我も、抱きつく?」

 どうしてオーフィスはそう抱きつきたがる。

「とりあえず、訓練を始めよう?」

「……もう少しだけ、こうさせてください」

 結局のところ、そのまま十数分ほどこのままで過ごしましたよ。

 

「とりあえず、一応俺も軽い一撃くらいは見せるよ。ある程度の指標になればいいけど」

 小猫ちゃんが離れたあと、仙術の準備をしながらそう呟く。

「……流石に、先輩と比較するのは」

「神器も何も使わない状態でだよ。そうだな。使わないなら俺はせいぜい最上級くらいか」

「……十分過ぎないですか」

「あくまでだよ。一撃の破壊力だけで言うなら、恐らくだけど仙術極めた状態の小猫ちゃんと同等程度。もしくは小猫ちゃんの方が上だ」

 仙術の準備が終了し、ぱちぱちと周囲に電磁波を纏う状態になる。さっきとは違い、あまり光っていない力を収束させた形態。

「……そんなに、できますか」

「出来るよ。なんたって、俺が見込んだ大切な後輩だからな。じゃ、見てろよ。これが、ゲームで言うところの弱攻撃」

 そう言って、誰もいない方向に軽くジャブに近いパンチを放つ。威力はそんなに大きくないが、風圧だけで十数メートル先の木々が思い切り揺れ、あわや倒れると言った程度の一撃。

「……これで、弱攻撃ですか」

「そう。これが弱攻撃。連発を想定したものだな。そして、これが本気の強攻撃」

 さっき小猫ちゃんがしたように右ストレートを同じ方向に放つ。まあ、撃ち方として左腕を内側にしまい込むようにして背中の筋肉を引っ張るようにして放つ直線的なストレート。この撃ち方だと小猫ちゃんの右ストレートと比較して倍以上の差が出る。

 最も、そんなのは理由の一つでしかないが。

「……すごい」

 パンチを放った方向が消し飛び、地面が数百メートルにわたって地形が抉れている。これが現状、俺が神器を使わずに出せる最大出力。これを神器で強化しまくって、さらに特殊能力も使えて三番目なんだから世界は広いものだ。一番が近くにいるが。

「……これを、私が?」

「直ぐにとは言わないさ。筋トレとかで身体を作りながら、仙術を無理なく行使できるように訓練する。そうしてけば半年で俺くらいになるだろうさ」

「……たった、半年ですか?」

「飲み込みが異常なの、小猫ちゃんは。さっきやった気を感じて取り込むのだって普通なら一年はかかるのを数分でやってのけた。それを加味して考えた結果さ。ま、急かしはしないけど」

「……そうですか」

「ま、そうなるまでは毎日でも付き合うさ」

「……ありがとうございます」

 何やら嬉しそうな小猫ちゃん。

「それに、猫又の身体的な成長なんてまだまだ先の話だぞ。これからもっと大きくなるだろ。身長とか特に」

「……そうなんですか?」

「黒歌を例に挙げるとわかりやすいかもしれないが、今あいつ身長は俺の同じくらいだぞ。小猫ちゃんが覚えてるのがどれ位かは知らないけど」

「……肉体は?」

「……んん?」

「……胸とかは、大きくなってましたか」

 この子は一体何を言い出しているんだろうか。

「男に聞く内容じゃないとは思うけど、一応答えるならリーアよりはでかかった」

 すると、小猫ちゃんは複雑そうな表情をうかべる。

「……先輩は胸が大きい人が好きなんですか?」

 突然何を言い出すんだ、この子は。

「逆に聞くが、身体で女性を見てると思われてるのか?だとしたら、結構心外だけど」

「……そういう訳じゃないです。好みの問題です」

「俺の場合、身体を見て興奮するなんてことほぼないからなぁ。一目惚れも一度しかないし。良くも悪くも内面しか見てないんだろ」

「……一度?」

「例外だよ、それは。普通はねーし」

「……じゃあ、身体付きは関係ないと」

「いや、だって身体付きなんて筋肉以外だと個人でどうしようも無いだろ。そんなのを相手に求める時点で間違ってるとおもうけど」

「……そういう考え方もあるんですね」

 なにやら考え込んでいる小猫ちゃん。

「ま、小猫ちゃんも魅力的だろ。可愛いし。甘い物食べてる時の幸せそうな顔とか結構好きだけど」

「……な、何を言うんですか。急に」

 あ、流石に引かれたか。

「いや、本音だったけど嫌だったか?さすがに気持ち悪い発言だったかもしれないけど」

「……そうじゃ、ないですけど」

 女心は分からない。

「……イッセーさん。小猫ちゃんのこと」

 なんか盛大な勘違いが生まれてる気がする。

「イッセー。我と戦うの至福?」

「何言い出してんだ、オーフィス。まるで俺が戦闘狂みたいじゃねーか」

「イッセーは戦闘狂。間違っていない」

 ……ん?なんかよくわからない誤解が生まれている気がする。

「我、イッセーを殴りたい。前、我の喜びは自分の喜びと言った。なら、殴られるのは喜び」

「超理論すぎんだろっ。それに、こんなところで戦い始めたら周囲吹っ飛ぶぞ」

「問題無い。イッセーが殴られるだけ。抵抗しない」

 どうやら相当怒っている様子で。可愛らしく拳を突き出してるけど、当たったら確実に骨をもってかれるレベルでの威力は確実にある。さて、どうするか。

 ケースワン。大人しく殴られる。これは絶対になし。冗談抜きで殺される。全身痣だらけならまだしも、全身複雑骨折も有り得る。半死体になる未来が見えるようだ。却下。

 ケースツー。お菓子で釣る。さっきアイス食べたばかりだから百パー乗らない。むしろちょろいやつと思われてるとか何とか言われて酷いことになる。却下。

 ケーススリー。謝罪。何に怒ってるか分からない状態でしたら殴られるの肯定してると取られかねない。ケースワンと同じ未来になる。

 となると、とるべき手段が限られてくる訳だが。

「よし、逃げるか」

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)

 当たり前のようにバランスブレイカー状態になるけど、ディオドラの時にみせたほど出力をあげずに静かに変化する。赤を基調としたロングコートを羽織りながら仙術を行使して帯電している状態。なんならディオドラと戦った時より強い。

「イッセー、逃がさない」

 こっちの変化に反応するように一気に距離を詰めるオーフィス。瞬きをする一瞬の間に目の前にいるほど本気で倒しに来ている様子。

「……逃げるぞ、白音」

「……っ。それ、どこで」

 困惑する様子の小猫ちゃんをお姫様抱っこの形で抱き抱え、オーフィスから一気に距離をとる。それこそ、一キロ程度か。あんまり遠く離れてもすぐに見つかりそうだし。

「逃がさない」

 無表情ながら迫ってくる少女の姿は正に鬼神。全てを薙ぎ倒しながら迫ってくる、制限時間無制限の地獄の鬼ごっこ。どんなデスゲームだよこれ。

「……く、ぅ」

 体感したことの無い速さに小猫ちゃんの体が悲鳴をあげてるようだ。苦しそうな声を出してる。流石にあまり付き合わせるのは酷か。

「つ、か、ま、え、た」

 一瞬目を離した隙にオーフィスに背後を取られる。本当に怖い。

「少しそこにいろ」

 徐に手を振りかざし、魔力で作りだした四本の太い柱をオーフィス目掛け放つ。それは四肢を拘束するように押し潰し、オーフィスの動きを封じた。

「イッセー、痛い」

「嘘つくな。それは魔力の勢いで動けなくしてるだけで痛みは無いように調整して作ってんだ。あと、少しだけ小猫ちゃんと二人にさせてくれ」

「……アイス二つ」

「分かったよ。それじゃ、あとは自力で壊して別荘に戻っててくれ」

 そういって特に躊躇せずにその場を離れた。

 その後、別荘の近くにある大きな川の河原に到着すると、小猫ちゃんのことを優しく降ろし、バランスブレイカーと仙術の状態を解除する。

「……ひどい目にあいました」

「巻き込んだのは悪かったって。あと、無闇矢鱈にスピードを上げたのも」

「……身体が痛いです。先輩は、あの速さで戦っているんですか」

「たまにな。本気でやるならあれより速い」

「……化け物ですか」

 師匠相手に化け物扱いは酷いと思う。

「まあ、そこまでする必要も無いんだよ。周囲巻き込みながら戦うレベルになるから、歩く災害みたいになるし」

「……そうですか」

 こほん、と咳払いして小猫ちゃんがこう続ける。

「……ひとつ、質問いいですか」

「ん、なんだ?」

「……なんで、白音という名前を知っているんですか。それに、姉様のことも何故知っているんですか。調べたにしては情報量が多すぎます」

 ま、そういう話になるよな。さっきのは失敗だったとは思うけど、いずれ話すことになる訳だから。それが速くなっただけだ。

「順を追って話すなら、まず白音という名前をなぜ知っているか、ってとこだな。白音って名前は俺がつけたから知ってる。なんなら、黒歌もな」

「……何を、言ってるんですか。その名前は、姉様がつけてくれた名前です」

「……小さい頃。それこそ、俺が小学生くらいの頃の話か。まだ赤龍帝の力も何も得てない頃に、二匹の猫を拾ったんだ。それが、お前と黒歌」

「……何を、言って」

 困惑する小猫ちゃんを無視して話を続ける。

「最初は黒歌に警戒されたっけ。でも、ご飯あげたり遊ぶうちに心を開いてくれて、人の姿で話してくれるようになった。子供の頃だったから詳しく話はわからなかったけどな」

「……そんな話、信じられるわけ」

「まあ、そんなご都合主義みたいな話言われても普通は信じないだろうな。これ、見たらわかるかな」

 そう言ってポケットからとある首輪を出す。

「……それはっ」

「昔、白音がつけてたものだ。つっても、これだけじゃ説得力に欠けるか」

「……いえ。何となくですが、覚えています」

 どうやら、少しは覚えててくれてたようだ。

「話を戻すが、俺が二人を見つけた時は随分傷だらけでな。何事かと思って保護したわけだ。後々知った事だが、俺が見つけたのは主を殺した直後くらいだった。ま、思いっきり警戒されたけど」

 そう言いながら、さっきと同じように仙術を行使し始める。

「この仙術だって、大元は黒歌に教わったもんだ。最も、気配を感じるみたいな初歩的なものだけど」

「……じゃあ、白音という名前は何故?」

「声が綺麗だったから。白く綺麗な猫で鳴き声も幼心にはとても綺麗に聞こえたんだろうな。だから、白音。黒歌も同じような理由だな」

「……先輩は、私が綺麗だと」

「その言い方だと語弊がある気もするが、多方はあってる。でも、最初はあの猫が小猫ちゃんとは思ってなかったよ。気づくのが遅れたってやつだ」

 そして、そのまま深く頭をさげる。

「……先輩?」

「本当にすまなかった。黒歌に話を聞いたが、リーアの眷属になっていなければ殺されていたって話も聞く程に不遇な扱いを受けていたって。俺が早く気づけてれば、そんな目に遭わせずに済んだのに」

「……先輩が謝る必要はありません。結局の所、そういう運命なんですよ」

「……ちげーよ。運命なんてだいそれたもんじゃなくて、汚い大人の陰謀のせいだ。……ほんとに、済まない」

「……それ以上謝るなら、本気で殴ります。そもそも、先輩のせいではないんです」

 そのまま、小猫ちゃんはこう続けた。

「……小さい頃がどうであれ、今は幸せです。皆さん優しくて。それに、先輩と出会えました。それだけで、今は十分なんです」

「……白音」

「……だから、先輩は笑顔でいてください。けして頭を下げず、私の目標として、私の飼い主としてあり続けてください」

「あ……え?かい、ぬし?」

 なんというか、もっと普通に終わるものだと思ってた。いや、そう考えるのは白音に失礼かもしれないけど、この雰囲気で急に自分の飼い主でいてと言われたら誰だって困惑する。

「……嫌、ですか?」

「嫌とかじゃなくてさ。前提として飼い主とペットって関係はおかしくないか」

「……元々私の飼い主でしょう。先輩は」

「そうだけど。そうだけれども。現状は先輩と後輩だろ。急にそんな発言は本当にダメなやつだろ。倫理的に」

 なんか、胃が痛くなってきた。ついでに頭も。

「……では、ご主人様と」

「何も解決してねぇ。むしろ悪化してる。なあ、もう少し健全な関係ってのがあるだろ。先輩後輩の関係から飛躍しすぎだろ」

「……兄様?」

「……まだ、それが一番マシか」

 こんな姿誰かに見られたら誤解どころの話じゃない気がする。

「……二人きりの時だけ、そう呼びます」

「なんか二人だけの秘密っぽいな。じゃ、二人きりの時だけな」

 もっとも、そんな呼び方で言い合ってたら憂姫辺りに問い詰められそうではあるが。

「じゃ、戻るか。お姫様」

「……なんですか、それ」

「女の子の呼び方で一番いいのがこれだと思った、ってだけ。それ以外に理由はあんまりないな」

「……ふふっ、兄様?」

「ん、なんだ?」

「……そういう所、好きですよ?」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 ぽんぽん、と頭を撫でると何故か白音は不機嫌な表情へと変わる。

「……この朴念仁」

「何か言ったか?」

「……いえ、なにも」

 結局のところ別荘に戻るまで機嫌を直しては貰えなかった。その後、夕食時に波乱が起きたが、それはまた別のお話。

 

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