合宿開始から四日程経過した頃、小猫ちゃんに変化が生じた。
「……なんですか、これ」
初日と同じように仙術の訓練をしている時に、小猫ちゃんの身体が変化したのだ。
全身を覆っていた光が取り払われ、素の状態になっている。筋肉とかが異常に発達した、なんてちゃちな変化ではない。仙術が身体に完全に馴染んだことを示す状態である。
「えー……それ俺ができるようになるまで一月かかったんだけど」
「……愚痴ですか?」
「半分愚痴で半分呆れ。その状態ってのが仙術ってやつを完全にコントロールした状態」
「……え?」
正確には自然エネルギーを完全に体に馴染ませた状態。普通なら何十年単位で体現するものだけど、目の前の天才さんはわずか四日で身につけてしまったと。規格外すぎませんかね。
「体に負担みたいなものが無くなっただろ?なんというか、体が軽くなったような」
「……そうですね。ストレス、みたいなものが無くなりました」
「それが仙術が体に馴染んでる状態。あとは基礎体力を上げて技術をみにつけるのに専念できるけど……」
「……けど?」
「早すぎて真面目に呆れてる」
だってめっちゃ才能あるって言われてるやつでも一年以上はかかるのに四日とか怖すぎるもん。
「……頑張ったのに、それは酷すぎませんか」
「んー……悪い。難易度を知ってるやつなら普通は信じないレベルなんだよ」
そう言いながら頭を撫でるけど、とても不服そうな顔をしている小猫ちゃん。
「……頑張りましたから」
何をモチベーションにしたのかは正直分からないけど。
「……ご褒美、ください」
「え、どうしたの」
「……頑張ったので、ご褒美を貰ってもいいでしょう?」
「まあ、確かに」
並大抵の努力ではできるものでもないし、ご褒美をあげてもいいとは思うけど。そういう風におねだりする子なんだなぁって。
「……では。二人きりの時じゃなくても白音と呼んでください」
一瞬、思考が止まった。
「え、別にいいけど。というか、それでいいのか?」
「……それがいいんです。それとも、他になにかくれるんでしょうか」
「いや、これだけのものを見せられたら俺に出来ることならなんでもってレベル」
普通ってかこんなレベルでの成長は相当な天才が血のにじむような努力をしても出来ないのに。それ見せられたらなんでも頷くしか。
「……」
何やら、考え事をしている小猫ちゃんこと白音。
「……では、二つほど」
「おう。どんとこい」
「公の場でも兄様呼びをしていいですよね?」
……やっぱりそう来ますよね。
「……なんでもっていったからオーケーだ。うん」
後で殺されないように立ち回ろう。
「そして、私も兄様の家に住んでもいいですよね」
待って?それは予想外。
「それはいま住んでるところとかそういうのの都合で無理だろ」
「……今はリアス先輩の所有する家に住まわせてもらっているので。許可は頂いています」
なんで許可出してるのあの人!?リーアさんそういうのゆるさない人じゃないの!?
「……ちなみに、リアス先輩も一緒に住むとか何とか」
俺の意見は全部無視ですか。
「ちょっと、確認をとる」
そういって、スマートフォンをポケットから取り出してリーア本人に電話をかける。
『……どうしたのかしら』
数回なった後に出たけど、何故か疲れきった声音。
「確認したいことがあったけど、まずどうした。かなり疲れてるっぽいけど」
『……お兄様とライザーの相手に疲れたのよ。お兄様は本気でキレていて、ライザーは気づかずにバカ笑いしているし』
それはご愁傷さまとしか言い様がない。
「……なんとなく予想出来たよ。俺だってそんなとこに居たくない。あと、小猫ちゃんから聞いたけどリーアと小猫ちゃんが俺の家に住むってなんの話だよ」
『……あぁ、それを聞いたのね。反応を察するに、お兄様から聞いていないのね』
「サーゼクスがどうしたんだよ」
『交友を深めるために私と小猫を住まわせるっていう話。ちなみに、改装するとも言っていたわね』
何勝手に話を進めてるのあの人。
「確認だけど。その話はセラ……いや、セラフォルーレヴィアタン魔王様には聞かれてないよな」
『逆にききたいのだけれど、お兄様が話さないと思うかしら』
「……オーケーだ。後で魔王城……いや、グレモリー領に殴り込みに行くと伝えてくれ」
『本当に戦争になるからやめてちょうだい。それと、これは貴方がレーティングゲームに勝ったらという話よ』
「……え、なんで?」
『普通に考えて、既婚者が他の男の家に住むなんて前代未聞でしょう。しかも魔王の妹が』
浮気するヤツなら割と有り得るという話はやめておこう。そういう奴じゃないし、リーアは。
「えっと、なんだ?つまり、俺はレーティングゲームに負けるとリーアが嫁に行くだけではなくセラとか小猫ちゃんに本気で責められるって訳か?」
『私も責めるわよ。ライザーのところには嫁ぎたくないもの』
その気持ちは痛いほどわかるけど。
『とりあえず、レーティングゲーム後によろしくね』
「……ああ」
そういうと、ぷつっと電話が切れた。
「……どう、でしたか」
「嫌な話を聞いたよ。後、確認はできたからその話はオーケーって事になるのかな」
「……分りました」
どことなく嬉しそうな白音。
「……仕方ない。セラにも聞いてみるか」
で、その後はとりあえず白音と実戦を行ったとさ。仙術をコントロールし始めた白音は上級悪魔でも上位ってか最上級に片足突っ込んでた。実践経験積んで技術身につければ相当強くなるな。これ。
ーー数時間後
白音との実戦が終わったあと、一人セラの元を訪れていた。
セラは基本的には自室にいることが多い。結局のところ、ひとりが落ち着くとか。
「なあ、セラ」
「……なに、イッセー君」
なにやら落ち込んでいる様子のセラ。
「いや、会いたくなってな」
「……それは、嘘?」
「本当だよ。セラが落ち込んでるってのが何となく分かったから、会いたくなった」
「……私が落ち込んでなければ会ってくれないの?」
「そんなことはねーよ。ただ、毎日会うってのもおかしいだろ?」
「……私は、毎日でも会いたいもん」
落ち込んでる人に言うのもなんだけど、なんかとても可愛い。いつもと違う面を見てるから……なのか?
「でも、結局のところ会うだろ。セラは俺の家に来るわけだし」
「……え?何の話?」
え、話聞いてなかったのか。
「リーア……いや、リアスから聞いてたと思ったけど。リアスと小猫ちゃんが俺の家に交友を深めるとかでサーゼクスの指示で住むんだと。だからセラも来るものだと」
「……行かない。そういう話なら」
何やら、拗ねている様子のセラ。
「……虚しいだけだもん。独りよがりな想いなんて」
「どうしたんだよ。いつもの元気がないけど」
「……ねえ、イッセー君。イッセー君にとって私って何?元気でべたべたくっついてくる女の子と思ってるの?」
「別に、そんなことは無いけど」
「……じゃあ、あの子。千夜ちゃんは相当好きみたいだね。4日前くらいの夜のこと、じつは見つけちゃったんだ」
……あれが原因かよ。
「……ねえ、貴方にとっての私ってなんなの?都合のいいだけの女なの?ただのうざいおんーー」
そう、言葉を言い終える前に唇を俺の唇で塞いでいた。それは、長く。しっかりと……。永遠に続くかのように長くして。
「……俺はセラのことも大事だよ。一生をかけて幸せにしたいとも思う。ウザイだなんて、一度も思ったことはない」
「……じゃあ、なんでいつもあんな態度をとるの?」
照れたりとかしてる素振りを見せたら、それが死に直結するからです。
「俺のところに来るのが仕事を放り出してくるから。俺の所に来るとはいいけど、他の人に迷惑をかけちゃダメだろ?」
「……じゃあ、なんで嘘をついたりするの?」
「あれは照れ隠し。セラと話す時はいつもドキドキしてるんだぜ。これでも」
前は目の前に憂姫が居てほんとに死の気配を感じたけど。まあ、セラと話すのは普通に楽しいし。
「イッセー君は、私の事好き?」
「いつ嫌いだって言ったよ。初めて会った時からセラのことは好きだし、美人だとも思ってるよ」
俺がそう言うと、セラは間髪入れずに抱きついてきた。力は強いけど、とても弱々しく。触れてしまえば直ぐに崩れてしまいそうな程に脆く見えてしまった。
「……ほんとはね、ソーたん……ううん。ソーナと結婚なんてして欲しくなかったの。でも、ソーナと結婚すれば近くにいるし。諦めもつくかなぁって」
ぽろぽろと、涙をこぼし始めるセラ。
「でも、ダメだなぁ。他の人とくっついてるイッセー君を想像すると、涙が止まらなくなって、自分を抑えきれなくなるんだ」
「……だから、結婚させようとするのを辞めたのか」
「そう。でも、こんなになるまで溜め込んじゃった。私って馬鹿だから、感情の伝え方を知らないんだ」
「そんなの、今から少しずつ覚えていけばいいさ」
「私って、結構嫉妬深いんだよ?」
「知ってる。てか今の話聞いててそう思わないやついないだろ」
「でも、イッセー君の周りにはいっぱい女の子がいるし」
「まあな。まだ、返事を待たせてる子もいるし。結局のところ、どっちつかずって態度がダメなんだろうな」
「……じゃあ、私はどうするの?待たせるの?それとも、振っちゃうの?」
「振りたくはないけど、現時点で一人を選べるようなやつだとも思ってないんだよ。今の関係を崩したくないし、何より全員が好きなんだろ。人間としても、そういう目で見ても、な」
俺はとても臆病なんだろう。全員傷つけたくないし、自分も傷つきたくない。今が壊れてしまうのがとても怖くて。そんなことを繰り返していれば最終的には壊れてしまうというのに。
「……じゃあ、ひとつだけ約束。誰を選んでも、後悔だけはしないでね。……それで、私が選ばれなくても……ね」
なんというか、悲しませてばっかりな気がする。いつも我慢ばかりさせて。自己中な考えをして。……全く、俺はどこまで馬鹿なんだろうか。
「分かったよ。そうする」
今は、こういうことしか出来なかった。
「本当に失礼なことを言っていいか?」
「……今なら許すけど、何?」
「四日前に千夜先輩と一緒にいたの見たとか言ったろ?」
「……うん」
「結論としてさ、ハーレムつくるのも一つの手とか言われたけど、もしそうしようとしたらどうする?」
「……別に、悪魔で珍しいって訳じゃないよ。上級悪魔の中には人間を転生させて自分好みのハーレムを作る輩も多いし」
「それは知ってるけど、俺がするって言ったらだよ。打開案として考えるなら正直それしか」
「……今の状態でそれを聞くかなぁ。デリカシーないよ、イッセー君」
「……う、すまん」
「でも、答えるならオーケーかな。条件をつけるけどね」
「……条件?」
「私が正妻ならいいかな」
「善処する」
「そこはわかったって答えて欲しいなぁ……」
だってここで変なこと言えないんだもん。後々響きそうなんだもん。
「でも、まあいっか。プロポーズもしてもらったから、ね」
「プロポー……あ」
さっき、言ってたわ。一生かけて幸せにしたいとかなんとか。
「次は、本物のプロポーズを待ってるからね」
……こりゃ、骨が折れそうだ。
ーー食堂
結局のところ、一時間程度離して貰えずにいちゃいちゃしてましたよ。途中からセラが結界張ってて多分気づかれてはいないとは思うけど。……いや、露骨すぎてバレてるか。
「……どこに行ってたんですか」
ジト目で白音に睨みつけられる。
「……秘密ってことで」
「……後で聞きます」
どうやら逃げられないようだ。
「ほんとにお兄ちゃんどこに行ってたの?相談事があったんだけど」
「相談事?」
「えっと、味噌汁にすぱー……」
「絶対にやめようか」
「即答っ!?」
味噌汁にスパークリングマシン使われてたまるか。
「劇物とかじゃないのにー」
「劇物と比較すんな。あとある意味劇物みたいになる」
「えぇ……」
露骨に残念そうな顔してるけどさすがに容認できない。
「あ、今日はオムライスだよ、イッセー」
そう言いながら楽しそうに厨房から出てくるこよみ。エプロン姿が似合っているというか、とてもしっくりくる。普段から見ているせいだろうか。
「お、やった。こよみのおいしいんだよな」
こよみが作るオムライスは店に出てくるようなものではなくて家庭的なものと表現するのが正しい。味付けはシンプルだけどふわとろの卵が絶品。少しバター多めにしてるらしいけど試しにやってみたら相当味がキツくなったから相当分量調整が難しいのだろう。
「……オムライスが好きなんですか?」
「正確に言うとこよみのがな。店とかのだと逆に好きじゃないって感じ」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。イッセー」
「完全に胃袋掴まれてるかんじだな」
本当にこよみ様には頭が上がらない。
「でも、普通に考えたら料理上手くて可愛かったら相当モテるよな」
「モテてないのは顔のせいとでも言いたいのかな、イッセーは」
「そうじゃないけどさ。顔良くて料理出来て気だてもいいだろ、こよみ。いい嫁さんだったり彼女になるんだろうなと」
「ふぇ……?」
なんで鳩が豆鉄砲くらったような顔してるんだろうか。
「……普通にそういうこと言いますよね」
「あらあら、幼馴染さんを口説いているのでしょうか」
唐突に入ってくる朱乃先輩。完全に面白がってるよこの人。
「そんなんじゃないですよ、ほんとに」
「そう畏まらなくてもいいですよ。リアスのようにタメ口でも」
「さすがに先輩ですし」
「それを言うなら、リアスもそうでしょう?」
それを言われるとさすがに何も言い返せない。
「私もリアスのようにあーちゃん、と呼んでくださっても構いませんよ?」
「……百歩譲ってタメ口はいいとしても、その呼び方は却下で」
「つれないですわね?」
だって周りの目線怖いんだもん。
「……からかうのはやめてください」
そう言いながら白音が腕に抱きついてきて。周囲の視線がさらに怖くなりましたとさ。何この状況。
「あらあら、小猫ちゃんは一誠君にべったりですわね」
「……兄様は、私だけのものです」
刹那的に空気にヒビが入ったような気がした。
「お兄ちゃん。兄様ってなに?」
「……黙秘します」
「私以外にも、妹が欲しかったの?」
「そ、そういう訳では……」
否定しようとした瞬間、腕を抱きしめる力を強めてくる白音。
「……私は兄様だけのものですから」
「これ以上爆弾落とすのやめてください」
もう今すぐ逃げたいんだけど。
「んー……何やってるの、もうイッセー君」
呆れ半分で食堂に入ってくるセラ。
「あれ、意外ですね。魔王様ならすぐにでもお兄ちゃんに抱きつくのかと」
「そういうのは卒業かな。あんまりべたべたするのも魔王としてどうかなって」
ようやく魔王としての自覚が出てきたようだ。流石に年下の男に抱きついてイチャつくなんて魔王としてのメンツに傷がつきそうだし。
「それに、いいものをいっぱい貰っちゃったから」
「散っ!」
一瞬で部屋から出ようとするも、こよみに簡単に拘束されてしまいましたとさ。なんなら白音にもとめられてるし。
「……イッセー、ご飯でも食べてゆっくり話そ?」
「……そうしましょう?兄様」
「シテ……コロシテ……」
ここに俺の味方はいないようだ。
「……魔王様。いいものとは何ですか?」
「キスとか……プロポーズとか……」
「そういうことをする悪い口はこれかなぁ……ってプロポーズ!?」
「いや、正確には違うけどそれっぽいことを言ったってだ……痛い痛い関節はそっちに曲がんないって」
完全に拷問する気だよこよみさん。
「ナーバスになってるところに現れて、私は罵倒しちゃったけどなだめるように唇を奪われちゃって……そのまま……」
「俺の事を助けたいなら少し黙ってて貰えませんか、魔王様」
完全に見捨てようとしてませんか、セラ。
「イッセー、本当?」
「……事実です」
「ファーストキスを魔王様にあげたんだ」
「……えっと、それは」
「私が貰ったわよ、ファーストキス」
食堂に入ってきたかと思えば爆弾を落としてくる千夜先輩。
「本当?イッセー君」
今度はセラが怒り始めました。
「四日前に見たって言ったろ。その時に奪われた」
「イッセー君からしたんじゃないのね。なら大丈夫」
何が大丈夫なのか分からない。
「私のファーストキスもあげたわよ」
「私のもあげたよ」
「「……」」
気の所為だろうか。二人の間に火花が散っているように見える。
「……イッセー?」
こよみから怒っていると言うよりは優しい声が聞こえた気がした。普通にキレられるより何倍も怖い。
「こっち、向いて?」
「……はい」
特に抵抗することなく、顔をこよみの方に向ける。なんか、頬を赤く染めてるが、どうしたのだろうか。
「……私も、参加するから」
そう言ったのと同時にこよみに唇を奪われた。一瞬、頭が真っ白になる。なんか、柔らかい感触が唇を襲って。
「……私も、イッセーのこと好きだから」
そう言って拘束を解いた後に厨房の方に行ってしまった。
「……ライバル多すぎです」
とりあえず本当に修羅場はやめてください。
「お、お兄ちゃん。私も……?」
そう言いながら、憂姫も続くように唇を奪ってくる。なんなら一番長く。
「……俺の唇は参加条件ではないんですが」
というかなんでエントリー制になってるんですか。
「あはは、大変だね。一誠君」
「笑い事じゃねぇよ木場。ほんとに洒落になってない」
「でも僕にはどうすることも出来ないよ。抑えられる程の実力もないし」
「まあ、そうなんだけどな」
そもそもこいつらを抑えられる程の実力持ってるやつなんて世界でみてもひと握りしかいない。
「はぅ……」
アーシアもなんか悲しそうな顔してるし。いや、何となく予想はできるけど。
「あらあら、私も参戦しようかしら」
「これ以上修羅場にしようとするのはやめてください」
「一人くらい増えたところで変わらない気はするけどね」
そう、ジト目で睨みつけてくる遥。
「……それを言われるとな。本当にこれからどうしよう」
「なるようになるんじゃない?」
「ならないと思う」
こんな状況であいつにあったら本格的に地獄になりそうだし。なんならライザーのことも言えない状況だろコレ。
「でも、そういう状況を作る種を巻いてた一誠君が悪いと思うけど」
「真面目に自覚がなかったです」
だってこんなことになると思ってなかったし。
「まあ、頑張ることだよ。一誠君」
ぽん、と優しく頭に手を置いてくる遥。
「それに、私も参戦するから」
そして唇を奪われました。割と不意打ち気味に。
「……え、遥も俺の事を?」
「……うん。周りには気づかれてたみたいだけど。一誠君には気づかれてなくて」
「えっと、ごめんなさい」
え、いつから?それに気づかないで頭撫でたりとかしてたの俺。桐生が煽ってた理由がわかったよ。
「ほんとにどうしよ」
というか相談相手がいなさすぎる。木場に視線送っても首振られるし。他の人には相談出来ないし。
「……兄様は、私のです」
白音は腕に抱きついて独占アピールしてるし。
「……とりあえず。ご飯食べよう」
俺は、考えることをやめた。
「……私の事は、思い出してくれないのね」
何か朱乃先輩が言ってる気がしたが、悲しそうな顔をしてる朱乃先輩に話しかけることが出来なかった。
ーー図書室
「さて、こんなもんか」
合宿最終日にして白音が仙術を持続して一時間程度戦えるようになりました。成長スピードが恐ろしく早い。なんというか、階段を駆け足で登るどころかエスカレーターで一気に登ってる感じ。
「……ありがとうございます」
「本当にすごいな、白音。自慢の弟子って感じだ」
ほんとに凄すぎるんだが。白音と比べたら大体のやつが相当才能のないやつって言っても過言じゃないレベル。
「……弟子、というよりはもっと違う方がいいのですが」
「違う方か……例えば?」
「……ペッ……あいが……なんでもありません」
「今絶対ペットとか愛玩動物って言おうとしたよな、おい」
白音ってこんなキャラだっけ。学校だともうちょっと……ってか物静かってイメージがあるけど。
「そのノリで学校で話すなよ?変なやつって思われても知らないぞ」
「……大丈夫です。先輩以外には言いません」
「俺いる所なら躊躇しないで言うって言ってるようにしか聞こえないけど」
なんか残念系になりかけてる気が。
「……白音って、レーティングゲームだとどういう立ち回りになると思う?」
「……どうしたんですか、急に」
「単純な疑問。どう考えてるのかなって思ってな」
「……ルークですし、前衛でタンクとしての役割をこなしつつ敵を倒す、ですか」
「半分正解。それが基本的なルークの立ち回り方。だけど、白音の場合はちょっと違う」
そう言いながら、近くにある椅子に軽く腰かける。
「白音の場合、仙術って最強クラスのカードがある。戦闘能力の強化から相手の気を乱して行動不能やら様々なデバフを与えたり、な」
「……謎にゲームの用語が出てきますね」
「白音にはその方がわかりやすいかなって思って」
「……心外ですが、その通りです」
複雑そうな顔をしてる白音。
「じゃあ、敵にとって仙術において何が一番厄介だと思う?」
「……攻撃力の増強ですか?」
「はずれ。正解は気の流れを読むってところだ」
「……一番最初に教わった事ですね」
「気の流れを敏感に感じ取ることが出来るメリットは大きくわけてふたつある。ひとつは相手の行動を他のやつより格段に速く察知することが出来るところ」
「……気の流れから相手の行動予測ですね。相手にもよりますが、大体はできます」
「そして二つ目は、気を使うものに対する判断の速さ」
「……と、言うと?」
「仙術ってのは気を感じる他に魔力みたいなものも感じやすくなるんだけど、それが実戦になったらどうなると思う?」
「……あ、魔力で作成した罠や魔力での攻撃を察知できるってことですか」
「正解。敵からしたら最強クラスの火力に桁違いの察知能力なんてお化け性能のやつが出てきたら泣きたくなるだろ」
「……兄様ほどでは無いと思いますが」
それを言い出したらキリがない気がする。
「俺が本気出したら世界終わるよ。どんなやつでてきても勝てないようにしてるから」
「……先輩は、なんで強くなった……と言うより、なんで強くなりたかったんですか?」
「……好きなやつを見殺しにしてしまったから、かな。それに結局の所、正論なんて述べても力を持たなければ説得力が伴わないし。色んな理由があるものだよ」
「……なんですか、その喋り方。それに、好きな人を見殺しにって」
「昔の話さ。あ、復讐なんてもうとっくの昔に終わらせてるから」
「……終わらせてるって。どういう意味ですか」
「殺したやつを殺した。単純な考えだけど、実際にやったら気が晴れるどころか虚しくなったよ」
そういうと、白音は少し反応に困ってる様子だった。
「復讐なんてくだらないものさ。助けられなかった虚しさを加害者にぶつけるだけの意味の無い行為。そいつが望んでるわけもないのにな」
「……その人は、今の兄様を見たらどう思うんでしょうか」
「分からん。罵倒するかもしれないし、怒るかもしれない。ま、喜ぶってことは無いだろうな」
「……じゃあ、兄様はなんのために戦うんですか。今も、これからも」
「大切なやつのため、だろうな。それは白音であり、リーアであり。はたまた千夜先輩であり……挙げだしたらキリがないな」
「……自分の為には振るわないんですか」
「自分の為に力を使うのはもう疲れたよ。どんなにすごい力を手に入れても振るう対象が虚無なら、大切なものは簡単に手からすりぬけるものさ」
事実、復讐なんてものに力を使っちまったし。
「どんなに強くなっても、白音は白音のままでいてくれ。俺の大好きな白音のままで」
「……はい。そうします」
「話が逸れたな……って、なんで顔赤くしてるんだ」
「……天然タラシ」
「不名誉な称号をつけるな」
全くもって心外である。
「まあ、サポートと行動をタンク兼アタッカーって幅広い立ち回りができるんだよ。仙術使えると」
「……そうなんですか。これからはそれを教わるんですか」
「いや?そうじゃない。一応、仙術で教えられるのはここまで。俺ができるのは気の完全なコントロールくらいだし。乱すことも出来なくはないけど相手のコントロールまでの精度は無理だし」
「……どうする、とは」
「白音が選べるのは実質三択。一つは俺の知り合いの仙術使いに弟子入りする。その場合は恐らく数ヶ月単位で会えなくなる」
「……数ヶ月、ですか」
「二つ目はこのまま俺と実戦経験を積んで完全物理アタッカーとして戦うか。ま、これは白音の才能ガン潰ししてるようなものだからしたくない」
「……兄様と、二人きり」
なんか不穏なこと言ってませんかね。
「で、三つ目が俺と黒歌に教わるってとこ」
「……ね、姉様ですか?」
「そろそろ仲直りしろって気遣いとお節介。それにあいつなら姉妹だし色々融通きくだろ」
「……でも、どんな顔して会えばいいのか」
「笑顔でぶん殴ればいいんだよ。今まで放置して寂しかったってな」
そう言うと、何故か顔を赤くして首を横に振る白音。
「……さ、寂しくなんて」
「嘘つけ。昔から白音のこと知ってるのに考えてること分からないわけないだろ。いっつも二人でいるか俺のとこに来るかの二択だったのに」
「……は、恥ずかしいこと言わないでください」
ぽかぽかとたたかれるけどなんか痛くない。
「まあ、会うなら色々覚悟した方いいけど」
「……どういう意味ですか」
「ここに居る魔王と同じ感じ」
「……と、言うと?」
「要するに重度のシスコン拗らせてるくせに、俺に思いっきりアプローチしてくる感じ」
「……」
白音に電流走る。ってナレーションつけたくなるくらいに目を見開いて驚いている。
「……嘘、ですよね?」
「嘘だったら良かったよな。魔王様が重度のシスコンとか」
「……そうじゃなくて、姉様が先輩に好意を寄せてるという所が」
「いくら唐変木とか言われてる俺でも気づくレベルでな。会えば抱きついてくるし唇どころか貞操奪われそうになるし」
全力で逃げたのはいい思い出だ。主にこよみから。
「……負けません」
「え、何に」
「……全部に、です」
なんの事だろう。
「……分からないから鈍感です」
心の中を読まないで欲しい。
「で、どうする。その三択なら」
「……んー……むー……三、番目て」
随分と悩んだけど和解してくれるようだ。
「……兄様も同伴です」
「流石にそれはな。一人はさすがにハードル高いだろ」
「……色々あるんです」
色々あるんですか。
「まあ、合宿メニューはこれで最後だ。帰る支度とかもするし早めに終わるか」
「……はい」
まあ、結局のところ入門みたいな所しか教えることが出来なかったわけだけど。半分独学で覚えてるやつに教えるのは無理があるか。
「……兄様。いえ、先輩」
「どうしたんだ、白音」
「……私の本当の師匠は先輩だけで、最高な師匠も先輩だけです。それだけは、忘れないでください」
もしかして、不安がってるのバレたか。ちゃんと教えられるか、教えられてるかかなり不安だったし。
「ありがとな。白音」
わしゃわしゃって少し乱暴に頭撫でると満更でもなさそうな顔で笑顔を見せる。
「……本音というか、真面目に言う時は先輩って言います」
「あ、やっぱり兄様呼びは独占欲の表れか」
「……悪いですか」
「いんや、可愛いと思うけど」
「……もっと、言ってください」
何この可愛い生物。
「白音は可愛いよ。容姿もそうだけど、仕草とかも女の子っぽいというか。とても可愛い」
「……そ、そうですか」
あれ、思ったよりちょろい?
「とりあえず戻って帰り支度しようぜ」
「……はい」
今回の合宿はこれで終わり。白音の成長が異常なほど早かったが、現時点ではまだライザーには勝てないと思う。消耗戦だと絶対に負けるし。
……俺がライザーに鉄槌を下すしかないか。
とりあえず合宿編はこれで終わり
ぶっちゃけ朱乃先輩と木場のやつかこうと思ったけど書けなかったやつ(これ以上長くしたくなかった)