ゲーム終了後、休憩室にてチョコを頬張っていた。
特に感傷に浸ることも無く、ただ、面倒なことを引き受けたと。それだけを考えていた。
「大丈夫、かしら。イッセー」
ふと、声をかけてきたのは今回の主役というか、ヒロインというか。報酬とされていたリアス本人だ。
「なんだ、リーアか」
「なんだ、とは何よ。これでも上級悪魔よ」
「キャラじゃないだろ。立場を利用して偉ぶるとか」
「そういう気分もあるのよ。……甘いもの、好きだったかしら」
「好きだよ。嗜好品だろ、チョコは」
「貴方こそ似合わないことを言うわね。それに、何となく小猫を連想させるわね」
「まあ、大切な妹様だからな」
ぴくり、と反応を見せるリーア。
「い、妹?」
「あれ、聞いてなかったか。リーアの眷属になる前に、一時期俺の家にいたんだよ。あいつらは」
「あぁ、血が繋がってるわけじゃないのね」
「なら神器は宿らないだろ。義兄妹ってやつだ。多分、甘党なのは俺の影響だぞ」
「それは初耳ね」
「俺がアイツらの前でよく甘いものを食べてたからなぁ。もちろんあげてないぞ。猫には砂糖はダメって聞いたから」
「あぁ、そういうこと。猫はダメだけど、猫又は大丈夫よ」
「後で知ったよ。よく牛乳とかあげたからなぁ」
いい思い出だ。白音が甘えてきた時とか可愛かったんだよな。
「それはそうとして、どうしたんだよ。忙しいんじゃないのか」
「大丈夫よ。仕事は終わらせてきたから。私こそ、甘えたいのよ」
そう言って、唐突に抱きついてくるリーア。
「おいおい、キングとしての威厳はどうしたよ」
「意地悪な事を言うのね。私は貴方に甘えたいから来ているというのに」
あ、これどうやっても逃がしてもらえないやつだ。
「さっきまで鬼神のごとく暴れ回ってたんだぞ、俺」
「それがおかしいのかしら。少なくとも、私は嬉しかったわよ。イッセーに本気で想われてると分かったから」
「わるいかよ。なんだかんだ言ってもお前は大切な女の子なんだよ。俺にとっては」
かけがえのない、唯一のな。
「正直言うと、ライザーが本当に良い奴なら手を引くのが正解だと思ったよ」
はぁ、とため息を吐く。
「俺と一緒にいたって傷つくだけだぞ。心も身体も。お前には似つかない」
「随分と舐めてくれるわね、イッセー。……いえ、赤龍帝?」
「なんだよ、急に」
「だってそうでしょう?想い人と添いとげる上で楽しいことだけでは済まないのは周知の事実でしょう。その程度で気が削がれるなら、最初から好きになっていないわよ」
「……ったく、いい女だよ。お前は」
「それに、公開告白もしてもらったわけだから」
「え、何の話だよ」
「気づいてないのかしら。俺の女に手を出すなって言っていたくせに」
……え?
「あれって、告白に入るのか?」
「……はぁ?当たり前でしょう。それとも、逃げるのかしら」
実際、今この場からは逃げたい。
「前に行ったろ。いい女になったらって」
「今、いい女って言ったわよね」
失言しちまった……。
「……とりあえず、一言だけいいか?」
「何よ」
「なんで、当たり前のように抱きついてるんだ?」
スルーしてたけど、さっきから当たり前のように抱きついてるリアスさん。セラのせいで感覚がズレてたけど、普通はおかしいよな。
「普通、ここは優しい言葉をかけて抱いてくれるところでしょう」
「俺にはそんな甲斐性もないし、なんなら色欲魔でもないんだが」
「後半はともかく、前半は嘘。その気になれば手篭めに出来るでしょう」
「買い被りすぎだっての。……ってか、いつまでこうしてるつもりだよ」
「気が済むまで、よ」
はぁ、とため息を吐くリーアさん。
「あの、リーア?」
「リアス、よ。こういう時くらい、本名を呼んでくれなきゃ嫌よ」
「……リアス。甘んぼになってないか」
「当然よ。数年ぶりのイッセーを感じたいもの。これでも我慢してたのよ?眷属の手前、思い切り甘えることも出来なかったから」
「どの口が言うんだよ……」
まあ、少しくらいはいいか。俺のご褒美もまだ貰ってないことだし。
「あと、悪かったな。念を押すように何度も前に出てくるなって言って。何となく理由わかったろ」
「ええ。……巻き込まれたら確実に死ぬわよね、あれ」
「久しぶりで加減がな。……まあ、あれだよ。バランスブレイカーになってないんだよ、あれ」
「……あれで?」
「そう、あれで。あんまりはしゃぎすぎても空間壊れるから加減はしてたよ」
まあ、あれだ。壊してみんなを危険に晒す訳にもいかないし。
「あ、そういえばひとついいことを教えてやるよ」
「何かしら」
「別にリアスを見て女性として見れないって訳でもないんだ。嫌いって訳でもないし」
「じゃあ、何故私を拒むの?」
「拒んでないっての。……普通に考えて結婚だなんだとお前の兄貴に言われたら普通断るだろ。人生なんて俺の一存で左右させられないし。その逆も然り、だろ」
「変なところで奥手なのね。俺がお前を幸せにする、くらい言えないのかしら」
「色々あるんだよ」
主に女性関係で。
「だって、今回の解説席にあいついたろ。つまりだ。こんな状況を見られたら洒落にならない訳で」
「イッセー君、お疲れ様。まあ随分といじめ……た、ね?」
と、口は災いの元と言ったとこで、当たり前のようにセラが入ってきましたとさ。ゲームオーバー。
「ね、ねえ。イッセー君……これ、どういうこと?」
「俺が聞きたい」
「あら、魔王様。私のイッセーに何か用かしら」
「わ、私の?」
「これ以上修羅場を広げないでください」
もうやだこの状況。早く癒されたい。
「どうせ、癒されたいとか、解放されたいとか。そんなことを考えてるんでしょう」
「人の心を読むなよ……。俺は修羅場じゃなくてもっと穏便な方がいいんだよ」
「大丈夫。イッセー君は私と一緒に居るんだから」
「束縛発言は火に油を注ぐだけだぞ。……ま、とりあえず今は我慢しとけ。今日はリアスの番だ」
「……浮気?」
「違うから。話をややこしくしないでくれ。……久しぶりだから、少しは甘えさせてやってくれ」
「まあ、今日は許すよ。今日は、ね」
これ、一夜が来たら完全に俺死ぬやつだ。
「はぁ……ま、いいか」
「イッセー……何が?」
「俺がどんな目にあってもいいや、って話だよ」
「何を諦めてるのよ。ただ少し修羅場になるだけよ」
「少しって……。今の現状でも相当だけど、もっと荒れるんだよ」
「何故?他の女が現れるわけでもあるまいし」
「あー……そうだな。そうだよな。リアスは知らないんだもんな。なんなら、セラもな」
「話が見えないけど、どういうこと?イッセー君」
「婚約者が来るんだよ、俺の」
一瞬にして、その場の空気が凍りついた気がした。
「こ、婚約者?イッセー君にいたの……?」
「子供の頃の約束だよ。俺を救ってくれた命の恩人で、初恋の人」
まるで雪のように白い柔肌と艶やかで引き込まれそうなほどの黒く長い髪が印象的な女の子。その紅い瞳は、まるで
ぶっちゃけて言うと、千夜先輩と瓜二つなんだが。……二人とも、美人なんだよな。
「今、どこにいるの?その女は」
「あー……やめとけ。セラじゃ勝てないから」
「なんで野蛮な事をする前提なのかな」
「なら周囲を凍らせながら怒りを露わにするな。確実に俺が防がないと全員死ぬ」
マジでキレたら俺も多少は本気を出さないと止められないんだよ、セラは。仮にも魔王なんだから。
「今はグリゴリにいるって話だよ。アイツは一度肉体ごと消滅してるんだ。だから、俺の遺伝子とオーフィスの遺伝子をかけあわせて肉体を作って、そこに魂を入れたんだと」
「オー……フィス?」
「つまり、事実上最強の生物。俺と合わない理由も、サプライズの他に力の制御ができないって言ってたからな」
「それ、かなり不味くない?」
「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は核兵器」
「超危険生物じゃん」
「大丈夫だって。いざとなったら俺が何とかするから」
「……って、グリゴリ?なんで?」
「そりゃ、復活させるなら今の技術だと聖杯を使うかグリゴリに行くかの二択だろ。何も難しい話じゃない」
「そうじゃなくて、誰がそれを始めたのって話。まさか、死んだその子が直接依頼したわけじゃないでしょ?」
「……え?」
よくよく考えてみればそうだ。あいつは死んでいる状態で依頼なんて出来るわけがない。かと言って、誰かが陰謀で復活させるなんて有り得るのか?たとえ元白龍皇だとしても、それをすることに意味なんて……。
「おい、ちょっと待てよ」
嫌な予感が……直感にも似た、何かが脳裏を掠めた。
今年に入って、俺が堕天使に殺された件とディオドラの一件。それが全く別の一件ってことになるのか?それに、遺伝子情報はどこから手に入れた?……俺に堕天使をけしかけて、怒らせようとしたのもなにか意味があるのか?
ーー堕天使全員コカビエルみたいな思考してんじゃねぇんだ。
「あ、あぁ、おい。そういうことか。いや、そういう事なのか?」
点と点が線で繋がったように、ストンと腑に落ちてしまった。いや、これが本当なら、相当やばいことになるぞ。
「ど、どうしたの、イッセー君」
「セラ。堕天使陣営で不穏な動きって何かあったか?」
「特にそういう話は聞いてないけど、ちょっと待ってね」
そう言って、スマートフォンを操作してメールを開いている。あれは悪魔専用のスマートフォンで、特殊な魔法陣が組み込まれていて盗聴等の対策が完璧になされている特別モデルだ。
「えっ……?ちょっとまって?何者かがエクスカリバーを盗んだって情報が」
「……やられた。そういう事かよ。何を喜んでたんだ、俺は」
「ちょっと、どういうこと?説明して?」
「全部コカビエルの掌の上で踊らされてただけって事だよ」
そう言って、スマートフォンをポケットから取り出して、すぐに通話を開始させる。相手は勿論アザゼルだ。
『……なんだ、お前か』
数秒もしないうちにアザゼルは出たが、どこか元気がなさそうな声に聞こえた。
「おい、アザゼル。コカビエルはいるのか。カヤは無事なのか」
『どこまで知ってんだ、お前』
「何も知らねぇよ。こっちは嫌な予感がして電話してんだ。お前、俺の遺伝子情報どっから持ってきた。なんならカヤの魂もだ。そしてエクスカリバーの一件はどうなんだよ」
『一度に言うな。恐らくは、お前の推察通りで遺伝子情報はコカビエルからの提供だよ。魂の方は元々アイツから復活させろと依頼があったから、こっちで確保してた。……そして、エクスカリバーはコカビエルのバカがやらかした』
「おい、ならカヤは無事なのかよ。何かあったら俺がお前をぶん殴る。絶対に許さないからな」
『それは大丈夫だ。あいつは一種の封印状態だから、そもそも悪用できない』
「封印……?」
『正確に言うと、閉鎖空間でひたすら力のコントロールをしてるんだよ。お前に会うためにってな。だから、先ず干渉できない。……したら一瞬で消し炭だろうな』
「……俺の推察だと、カヤを操って戦争でも起こそうとしてるって結論に至ったんだよ」
『それよりも酷いかもな、ある意味だと。アイツが向かってるのは駒王町。そこには誰がいると思う』
「おい、まさか……」
『そのまさかだよ。魔王の妹が二人も居るんだ。どちらか片方でも殺せば魔王は怒って戦争を仕掛けるってハラなんだろうさ』
何となく、本当に感覚の話になるけど、どす黒い何かが流れ込んで来るような感覚に襲われる。本当に、真っ黒でマグマのように熱い何かが。
「一応確認するが、俺はコカビエルを殺してもいいのか?お前の所の幹部だろ。お前が私刑を下すのも問題だけどさ」
『その通りだよ。体裁を整えるなら、俺が消すのは些か問題になる。それで、お前に酒でも渡しながら頼もうとしてたところなんだよ』
「未成年者に何を勧めようとしてんだ。……決めたよ。俺はコカビエルを殺す」
『あのバカを頼んだ。……一応確認するが、報酬は要求するのか?』
「カヤの一件もあるから、今回はお前が顔を見せに来るだけで勘弁してやるよ」
『それは、俺を拷問するという死刑宣告じゃないのか』
「まさか。カヤの一件は感謝してるから、あくまで遊ぶ約束だっての」
『お前、俺をレースゲームでボコボコにしたの忘れてないからな』
ーーぷつっ。ぷーっ。ぷーっ。ぷーっ。
面倒な話になりそうだからとりあえず切った。
「ねえ、イッセー君。コカビエルがどうしたの?」
「今アザゼルに確認をとったけど、エクスカリバーを盗んだのはコカビエルだとよ。なんなら、戦争仕掛けるためにソーナとリアスを殺しにくると素敵な招待状を寄越したよ」
「ねえ、それ本当?」
「アザゼルから直々に聞いたよ。コカビエルの計画ってやつを。俺の遺伝子は俺が襲撃された時に奪ったものをぬけぬけと提供だなんて、よくやってくれたもんだ」
……あとは、することは決まってるか。
「なあ、リアス。一応確認するけどさ」
「……何よ、改まって」
「俺と同棲するってのは、ダメか」
「……え、ええっ!?」
とりあえず、修羅場になるのは我慢しよう。リアスのためだ。