ーー夢を見た。地獄のような、飛行機事故の夢だ。
辺り一面火に囲まれ、周囲には無数の死体が転がっている。血の匂いと助けを乞う声が支配する、まさに地獄絵図。
その時の俺は赤龍帝の力なんて目覚めてない、ただの子供。それこそ、死を待つだけの非力な弱者だった。
そんな俺を救ったのは、一人の女性。年齢は、多分高校生くらい。それこそ千夜先輩と同じ容姿をしている女性。ただひとつ、違う点があるとすれば、その人は哀しみを纏っているような雰囲気を漂わせているところ。それこそ、全てを諦めているかのような。
ただ、その女性は俺を守ってくれた。自身の体を犠牲にして、
だから、俺は今生きることが出来ている。あの人が俺を救ってくれたから、俺は俺として生きていることが出来る。
今度は俺の番だ。あの人が守ってくれたように、俺も命を賭して守らなければならない。それが、俺に出来る唯一の償い。
だから、もう俺の傍から居なくならないでくれ.........一夜。
「一誠君、泣いているの?」
次に目を覚ました時に目の前にあったのは、保健室の天井だった。どうやら、俺は気を失ったらしい。
「.........嫌な夢を見ていたんだ。昔の事だよ」
そう応えながら涙を拭う。
「千夜先輩。朝に俺が世界で三番目に強いって言ったよな」
「.........ええ、そうね」
「それはさ、俺だけの力じゃないんだ。俺の中には神器が二つ存在する」
「.........」
千夜先輩は何も答えない。
「俺は、前に飛行機事故にあったんだ。今から10年も前の話だ。その時に、白龍皇から神器を譲り受けたんだ」
「.........」
「まあ、それのお陰で世界で三番目に強いとか言われてるって訳で」
「.........嘘ね」
ぽつり、と呟く千夜先輩。
「嘘って、どういうことだ」
「それは貴方がいちばんよく分かっているでしょう。貴方は飛行機事故ではなく襲われた。最上級悪魔に」
「.........」
「それで貴方を救うために神器を譲渡したのよ、姉さんは」
「.........は?」
一瞬、千夜先輩の言っていることが何かわからなかった。
「貴方に神器を譲渡したのは私の姉の鷹白榧夜。ちょうど貴方が飛行機事故にあったときに亡くなったの」
「え、は.........?」
「私の姉は白龍皇で、歴代最強と謳われていたの。でも、10年前に唐突に姿を消した。そして家に遺品として指輪が送られてきた」
「あの人が千夜先輩の姉で、もう死んでるのか.........?」
「貴方の記憶を鑑みるなら、その線が濃厚よ。遺品が送られてきた時は半信半疑で未だに信じられなかった。でも、証拠が出てきてしまった」
「.........俺の記憶か」
「眷属にした人間が姉の忘れ形見とはね。流石に思わなかったわ」
そう言い、苦笑する千夜先輩。
「俺を、恨まないのか」
「何故?貴方に直接的な原因はないのよ」
「俺がいなければ、助かっていただろ。荷物が居なければ、あの人は助かっていた。歴代最強なんだろ、あんたの姉は」
段々と声が荒がって行くのが自分でもわかった。
「俺がその飛行機に乗り合わせていなければ、あの人が死ぬことは無かった。あの人は俺を助けるために自らを犠牲にした。だから、俺さえ居なければ犠牲になる必要なんてなかった」
自分でもおかしいことを言ってることが分かる。こんなのはただの八つ当たりだ。
「なのになんであんたは平然としてられる。俺が憎くないのか。実の姉が俺のせいで死んだんだぞ」
「じゃあ、何故私の姉さんは貴方を助けたのかしら。あの人が無駄に死を望むなんて、そんなことはありえない」
俺の言葉を遮るように、千夜先輩は言葉を発した。
「黙って聞いていれば、自分が悪い自分が悪いと、何様のつもりなのかしら。確かに貴方を救うために命を落としたかもしれない。でも、それを望んだのは姉さんの意思よ。思い上がらないでちょうだい」
「でも、俺はーー」
「でも、じゃないの。今、貴方が生きているのならば姉さんの分まで幸せになりなさい。それが姉さんに対する唯一の償いであり、唯一の願いよ」
「.........っ」
なんというか、胸につっかえていたものがなくなったような感覚。心が軽くなる、という感覚なのだろうか。千夜先輩の言葉が、ゆっくりと染み込んでくるようだ。
「確かに姉さんはもう居ない。でも、貴方がそれに縛られる必要は無いの」
「.........じゃあ、俺はどうすればいいんだ」
「それは自分で答えを出すものよ。私も答えを出すまで時間がかかった。苦労して出してこその人生、というもの」
俺は、誰かに許されたかったのかもしれない。誰かに許されなければ、生きていては行けないと、そう思っていた。
でも、そうではないようだ。そんなことも分からないほど、追い詰められていたのだろう。
「.........ありがとう、千夜先輩」
「礼を言われるようなことは言ってないわ。当たり前のことを言った迄よ」
そういい、俺の頭を撫でる千夜先輩。
「一つだけ、わがままを言っていいか」
「どうしたのかしら、一誠君」
「もう少しだけ、このままで·····一緒に居させてくれ」
「ふふ、甘えん坊ね」
そう言うと、千夜先輩は優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。
なんというか、背負っていたものが全部無くなったような、そんな感覚があった。心って、こんなに軽いものなんだと、初めて知ることができた。
ーー数十分後
「........」
「.........」
数十分後に俺と千夜先輩は離れた。なんというか、我を思い出すような感じでばっと離れた。
よくよく考えれば相当恥ずかしいことをしてた、というかお願いしてたんじゃないか、俺。
「えっと、その.........千夜先輩。ありがとな」
そう、少し気まずそうに呟く。
「.........ええ、それは気にしなくてもいいわ。大した問題では無いもの」
「さいですか」
「それよりも、あの子たちに言い訳することでも考えるべきね」
「.........ん?」
「こよみと遥のこと、忘れていないかしら」
「.........あ」
そういえばドーナッツ食べに行くと約束してたんだった。倒れて有耶無耶になってな感じだったけど。
「ちなみに、ドアの向こう側に居るわよ」
「エ.........?」
背筋に冷たい感触が.........。
「随分、楽しそうだったねぇ、イッセー?」
そう、笑顔を引きつらせながら保健室に入ってくるこよみ。釣られて遥も入ってくるが、何やら申し訳なさそうに手を合わせていた。
「あの、弁解の余地は」
「あると思う?」
「.........」
まずい。どう足掻いでも死だ。
「全く、そう言うことは私にも相談して欲しかったよ」
てっきり、鉄拳が飛んでくると思ったが、どうやら違うようだ。
「すまない。本当はすぐに言うべきだったんだと思う。でも、言ったら迷惑になるんじゃないかと思ってた」
「迷惑だと思ってるならこんなこと言わないよ。秘密にされてる方が、信用されてないみたいで私は嫌だよ」
「それは私も同感かな。このレベルのことを抱えてるのは得策じゃないし、そのうち抱えきれなくなって爆発するよ。.........もっとも、それが今だったみたいだけど」
「返す言葉もございません」
こういう時の二人ほど怖いものは無い。心配してくれるのは嬉しいところではあるけど。
「それで、これからどうするのかしら。イッセー君たちを襲った悪魔に復讐でもするの?」
「やめとくよ。復讐はなにもうまないどころか、逆に次の火種になるからな。それに、今の生活が一番楽しい」
そう言って微笑むと、皆も笑顔で返してくれた。
「まあ、それが一番いいのかもね。イッセーは」
「どういう意味だよ、それ」
「そういう意味だよ、きみぃ」
何故か得意そうにするこよみ。
「それじゃ、もう帰ろうよ。下校時間、とっくに過ぎてるよ?」
「そうだな。ドーナッツ食べに行く約束もしてたし」
「イッセーの奢りでね」
「それは言わんでもいい」
ぺし、とこよみに軽くチョップを食らわす。
「いったーい!女の子に手を上げるなんて何事!?」
「女の子なんてタマかよ。せいぜいゴリラが関のやーー」
「ソレイジョウイッタラ、コロス。ナンノチュウチョモナク、セイサンニ」
「すみませんでした」
こよみがさっきを放つのと同時に土下座する。それはもう反射レベルで流れるように。
「ドーナッツ、追加ね」
「·····ま、いいか」
とりあえず条件を飲むしか生き残る道は無さそうだ。ゲーム少し売らないといけなさそうだ。
「もちろん、千夜先輩もくるだろ?」
「·····え?何故、私も?」
「逆になんで誘わない選択肢がでる。ったく、眷属との交流も必要だぞ?主様よ」
そういい、ぽんぽんと優しく頭を叩いた。
「·····ふふ。わかったようなことを言うのね、貴方は」
「この手の類は少なくともあんたよりは分かってるさ。さ、いくぞ?」
そう言うと、立ち上がって千夜先輩に手を差し伸べる。
「全く、エスコートは貴方がするのよ」
苦笑しながらも、満更では無い様子の千夜先輩。こんな笑い方もできるんだな、この人は。
「あれ、私達蚊帳の外じゃない?」
「蚊帳の外なんだよ、こよみ。お熱いふたりは置いて先に行こうか」
「お熱いって誰がだよ」
「君達ふたりだよ」
「まだそういう関係じゃねぇよ」
「ふーん?」
何やら拗ねたような表情の遥。
「貴方、案外女心がわかってないのね」
「そんなことはねぇよ」
「自覚してないところがダメなのよ」
「·····解せない」
まあ、結局4人で某有名チェーン店にドーナッツを食べに行ったんだが。以外にも千夜先輩が重度の甘党だということがわかった。
今度学園の近くにあるカフェにでも連れてこうか。結構いいものが揃ってるとこがあるし。
そしてここからたらし伝説(?)が始まる