「すみません、でした。見苦しい姿を……」
それから十数分後、アーシアが泣き止んだ頃合いを見計らって店をでた。勿論、頼んだものは全部食べましたよ。好奇の目に晒されながらゆっくりと。
「見苦しくなんてないさ。言ったろ?俺はアーシアの友達だって。あれくらいのことで嫌になるようなら友達じゃねーし。それに、あんな経験をして溜め込まない方がおかしいしな」
そう言って、微笑むとアーシアは顔を赤くしてばっと顔を背けた。……あれ、これ嫌われたやつですか。
「あ、そのっ!嫌いとか、そういう訳じゃないんですっ!その……うぅ……」
ショックを受けているとアーシアは必死になって否定してきた。最終的には湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にしたが。
「……ひとつ、聞いてもいいですか?」
「ん、なんだ?」
「どうして、私を助けたんですか?」
随分とストレートに聞いてくるな。……ま、確かにおかしいよな。初対面の相手に手を差し伸べるなんて、いかに親切な人でも躊躇するところだ。
「アーシアが知り合いに似てたから、かな。あ、単純に助けたいって気持ちもあったんだけどさ」
「知り合い、ですか?」
「そう。見た目はあんまり似てないけど、雰囲気というか言動がな」
……まあ、知り合いといか俺の初恋の人なんだが。なんというか、性格や言動がかなり似ている。とても優しくて不器用なところが特に。そんなことを考えて助けるのは失礼だと思うけど。
「そう、なんですかっ」
なんだか、残念そうなアーシア。
「でも、それだけじゃないって。さっきも言ったろ?助けたいって気持ちもあるって。それこそ、アーシアじゃなかったら助けてなかっただろうしな。巡り合わせってやつだ」
「巡り合わせ、ですか」
「もしかしたら、運命の赤い糸で繋がれてるのかもな、俺たち」
「え……?な、ななっ、赤い糸、ですかっ!?」
「動揺し過ぎだって。でも、これも何かの縁なのは確かだろうしさ」
それはそうと、周囲からの目線が痛い。男からは嫉妬の目線。女性からは好奇の視線を向けられ続けてる。……しんどい。
「あ、ちょっと電話するから待っててもらっていいか?」
「大丈夫ですが……何方にですか?」
「幼馴染の聖職者。あの話を聞いてから電話するのは少しデリカシーに欠けるけど、ちょっと気になったことがあってな」
「あ……わかりましたっ」
アーシアからの了承を得られた。早速電話をしよう。確か番号は……っと。
ぷるぷるぷる、と何回か振動した後に幼馴染こと紫藤イリナが電話に出た。
『ハーイ!久しぶりねっ、イッセー君っ!』
「相変わらずのテンションだな、イリナ」
『そりゃ、性格やテンションはちょっとやそっとの事じゃかわらないからねー。それで、どうしたの?イッセー君から電話なんて、余程の事なんでしょ?』
「イリナの声が聞きたかった、なんて冗談を言ったら怒るんだろ?」
『冗談じゃなかったら嬉しかったんだけどね』
と、他愛もない会話をしているうちにアーシアが頬をふくらませてきた。ご機嫌ななめなのだろう。
「それじゃあ本題に入る。イリナが前にうちの近くの教会にいた時あっただろ?俺達が小学生くらいの時にさ」
『うん。それがどうしたの?』
「その教会って確か今は使われてなかった気がしたんだが、実際のところどうなんだ?」
『えーっと……確か、使われてなかったと思うよ。私とお父さんが居なくなってからは建物だけが残ってるって感じだったし。でも、そんなことを聞いてどうするの?』
「今、その教会に赴任してきたシスターが目の前にいるんだよ」
『えっ!?情報が間違って伝わったのかな……』
「じゃ、なんかわかるまでこっちで預かってていいよな。訳アリなんだよ。……ここだけの話、異端の烙印を押されたって話だ。そっちに情報を渡して下手に回収されたらまずいことになりそうな気がする」
『……そんな不味そうなこと、一人で抱え込まないで誰かに相談しなよ?』
「へいへい。そうするよ」
……仕方ない。千夜先輩に相談してみるか。
『要件はそれだけ?』
「ああ、ありがとな。あとで埋め合わせはする」
『ほんとっ!?約束だからねっ!』
と、嬉しそうにイリナは電話を切った。
なんか嫌な予感がする。それこそ、なにかとてつもない陰謀に巻き込まれているような、そんなに感覚だ。
「イッセー、さん?」
「ああ、悪い。今の電話、聞こえてたか?」
「はいっ。……私、騙されたのでしょうか」
「分からん。ただ、情報が入るまではアーシアは自由の身ってことは確かだ。なんにも縛られない、一人の女の子だよ」
ということで、そんな女の子を駒王学園に連れ込むとしよう。……決してやましい気持ちはない。
「ま、そんな女の子に野宿させる訳にもいかないからさ。とりあえず今日はうちに泊まるか?嫌なら色々探してみるけど」
「嫌じゃないですっ!是非、お願いしますっ!」
なんか物凄く食いついてきたな。拒否されるよりは何倍もマシだけど。
「そんじゃ、行くか」
「はいっ!」
ということで、俺達は自宅へと向かったのであった。
「って、そんなわけないでしょう」
まあ、いつの間にか隣にいた主様にとめられたんだが。
「あー……やっぱりまずいか?」
「当たり前でしょう。悪魔が教会の人間と一緒にいたら大問題よ」
と、爆弾発言をする主様。
「……イッセーさんは、悪魔だったんですか」
「ええ、そうよ。と、言っても最近転生したばかりだけれど」
「……え?」
「一誠君は一度死んでいるの。光の槍に貫かれて、ね。それを私が転生させて、擬似的に命を与えたの。.........最も、転生させたのは私のエゴでしかないのだけれど」
「騙すつもりはなかったんだけどさ。あ、もちろん下心もな。助けたかったってのは本心だ」
「……それは、信じてもいいんですか?」
「信じられないなら十字架でも聖水でも、なんでも出せばいい。信用出来ないなら、怪しい行動をとった俺が悪い」
そういい、両手を上げてアーシアを見る。
「……そんなこと、言わないでください。私は少なからず、イッセーさんに救われました。例え、イッセーさんが悪魔だったとしても、その事実はかわりありません」
アーシアはそう言うと、満面の笑みで抱きついてきた。
「……私、イッセーさんになら騙されてもいいです」
胸に顔を埋めながら、とんでもない爆弾発言をするアーシアさん。
「あらあら、女の子にそこまで言わせるなんて、罪ねぇ」
「あんた、絶対楽しんでるだろ」
「さて、どうかしら」
にやにやしてる時点で楽しんでるのは確実だと思う。
「それと、いいことを教えてあげる。一つはそこのシスター……アーシアさん、だったかしら。貴女を回収する予定だった神父は俗に言うはぐれと呼ばれる集団でね。しかもはぐれ堕天使も絡んでいるの」
「確実にいい知らせじゃないよな、それ」
「いい知らせよ。はぐれを狩るのが私たちの仕事。つまり、公的に始末することができるの」
「随分とまあ過激なことを言うな」
「意表を突く、という言葉があるでしょう?……いえ、この場合は先手必勝かしら」
「まあ、その方がわかりやすいか」
「良くも悪くも勝てば官軍なのよ。負けてしまえば貴方の守りたいものを全て奪われる」
「まあ、それは世の中の常だよな」
嫌という程知ってるよ。そんなことは。
「まあ、それをするにも大義名分というものが必要なのよ。今回のような場合は特に、ね」
「千夜先輩の言いたいことは分かる。ただ、上の命令を待ってからじゃ遅いだろ。それに、今回はおかしな点も多い」
「でも、それを上の人間が素直に聞きいれてくれるとは限らないものよ。むしろもみ消す方が多い」
「じゃあ、このまま見殺し.........とまではいかないとしても、見捨てろというのか」
「そうなるケースも少なからずあるでしょうね。ただ、今回の場合は違うわ。彼女は異端扱いで、シスターという括りではないようなのよ。それに、どうせ止めても行くのでしょう?貴方は」
「それをわかっててさっきは止めたのか、千夜先輩」
「一誠君の性格を私が知らないわけないでしょう。あそこまで入れ込んでいる女の子を手放すなんて、する訳ないもの」
「言い方を考えてくれ。それだと相当危ないヤツに聞こえる」
俺はそんなにたらしじゃない。アーシアも顔を真っ赤にして恥ずかしがってるじゃないか。
「まあそれを恋愛の方として考えてないあたり、一誠君らしいわね」
なんとなくだけど、千夜先輩の掌の上で動かされている気がする。
「2つ目のいいこと。今夜、その教会に殴り込みに行くところだったの。はぐれ堕天使とはぐれ神父が手を組んで、アーシアさんの神器を奪おうとしてると小耳に挟んだから」
「奪う……?よし、殴り込みに行くか。そうしようか」
神器を奪う、という表現をしたということは、無理やりアーシアのからだから引き剥がすと判断するべきだ。神器は所有者の魂の大半を構成している。そんなものを無理やり奪えば元々の所有者は死に至る。……俺が、そんなことを許すとでも。
「というか、どっちも悪い知らせじゃねぇか」
「いい知らせよ。その悪の芽を私達がつむのだから」
「……さいですか」
今晩は徹夜ルート確定ですか。
「貴方の力を見せてもらうのにちょうどいいわ」
「力?中級堕天使くらいに瞬殺されるほどの戦闘力を見せてどうするんだよ」
「私が一誠君の力を知らないとでも?貴方が死なないようにトレーニングをつけさせたのは私なのよ」
「道理でこよみと憂姫が鬼のように厳しかったわけだよ」
お陰様で死ぬかと思ったときが何回もありましたよ。
「あ、あのっ。私も連れていってもらうことは出来ませんか」
「危ないからだめ、と言ったら引き下がってくれるか?」
「無理でしょうね。覚悟の質は貴方より上よ」
「……分かったよ。でも、俺の傍から離れるなよ」
「はいっ」
何故か無言になる千夜先輩。なんか面倒なので気にしないでおこう。