ハイスクールN×D Re:make   作:紺狐はボクっ娘信者

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これにて教会編終了です。放置してて本当にすみません()


8話

「千夜先輩。一つ、頼みがある」

 教会襲撃二時間前。生徒会室にて千夜先輩と話をしていた。折り入って頼みがある、ということで時間を貰っている。

「どうしたのかしら」

「アーシアがもし死んだら、躊躇なく悪魔に転生させて欲しい」

「それ、本気で言っているの?」

 怪訝そうな表情をうかべる千夜先輩。

「本気じゃなきゃこんなこと言わないだろ。.........千夜先輩も気づいてるんだろ?アーシアの状態を」

「.........ええ。神器に魔法陣が仕込まれているわね。完全に内容を把握できた訳では無いけれど、恐らく自爆するものね」

「あれは条件起動型の自爆魔法陣。構築からして、ある期間までにアーシアの体から神器が抜き取られなければ発動するものだ」

「そこまで分かるのかしら」

「これでも世界で三番目だぞ。これくらい出来なきゃ名乗れない」

 と言っても、俺じゃ破壊することはできても解除することは出来ない。そういった技術が皆無って所もあるけど。

「それだけ聞けば何となくわかるだろ。下手に破壊しようものなら神器が破壊されて、そのままアーシアが死んでしまう。かと言って解除方法はアーシアの体から神器を抜きとる以外にない。どう転んでも死ぬ運命なんだ」

「.........あの子の同意は得ているの?」

「.........」

「何も答えない、ということは貴方のエゴね。分かっているの?シスターが悪魔に転生するということは、本当に異端の存在になってしまうということよ。あの子の過去に起きたこととは次元が違うの」

「わかってるよっ、そんなことはっ!でも、俺はアーシアに生きていて欲しいんだ!」

 つい、声を荒らげてしまう。

「貴方、何処かであの子と姉さんを重ねていないかしら」

「.........っ」

 図星だった。出会った経緯も話した時間も全く違うアーシアと、一夜の姿を重ねてしまっていた。彼女の性格と救えないという現実。それらのせいで、またあの時と同じことが起きるんじゃないかと、怯えているだけだ。

「悪いことは言わない。あの子と姉さんのことを重ねるのはやめなさい。ただ、貴方が苦しむだけよ」

「じゃあ、アーシアが死ぬのを黙って見てろって言うのかよ」

「そうよ。それが出来れば一番いいの。本来、悪魔とシスターは相容れない存在なの」

「.........」

「でも、それで納得する貴方では無いでしょう?」

「.........じゃあ」

「でも、条件を課すわ。あの子が悪魔になることを拒絶した場合は転生させない。それだけは守ってちょうだい」

「.........わかった。約束する」

 そう言って、生徒会室を出た。

「全く、世話がやける眷属ね」

 出る間際に千夜先輩の呆れた声が聞こえたのは気にしないことにしよう。

 

 

 ーー2時間後・教会前

 

 

 襲撃数分前。教会前には俺とアーシア、そして千夜先輩の三人がこの場にいる。今日はアイツらはお休みのようだ。

「千夜先輩。一つだけわがままを聞いてくれないか」

「またかしら。何度も聞くほど寛容では無いのだけれど」

「単純な事だ。俺一人でやらせてくれ」

 .........たく、柄にもないことをしようとするもんじゃないな。

「ええ、いいわよ。貴方の力を見ておきたいし、なにより第三位と豪語するだけの実力を見せてもらいたいわ」

「了解。マイマスター」

 軽く会釈しながらそう答えると千夜先輩は苦笑した。本当に柄にないことをするものじゃない。恥をかくだけだ。

 そう思いながら、教会のドアを蹴飛ばす。そのままそれは近くにあった椅子を吹き飛ばしながら、教会内を一掃した。久しぶりの遊びだ。多少派手にやらなければ嘘ってもんだろう。

「イッセーさんは、力持ちなんですね」

 なんというか、アーシアの反応が可愛い。

「おやおやぁ。随分派手なご登場じゃ、あーりませんか。クソ悪魔共」

 そう言いながら、天井から現れるひとつの人影。軽やかに目の前に移動したかと思えば、光の剣を構える神父様。白髪で見た目の年齢は15歳程度と言ったところ。

「二度は言わない。そこを退け」

「なーに言っちゃってくれてるんですかぁ、この悪魔。そんなことするわけないざんしょう」

「ま、そうなるよな。.........アーシア、千夜先輩の後ろにでも隠れててくれ。千夜先輩は全力で防御してくれ。多分そうしないと吹っ飛ぶ」

「.........ええ、わかったわ」

 アーシアもこくり、と頷いて千夜先輩の後ろに隠れる。千夜先輩が魔法陣を展開したのを確認すると、とある言葉を発する。

 

 ーー赤白雷の龍槍(ドラゴニック・アゾリウスランス)

 

 静かに、右手から赤と白と魔力が放出される。それはゆっくりと収束し、槍の形を形成する。鋭利なデザインが特徴的な、赤と白が入り交じった槍。

「大層なこと言っておいてしょぼい槍ですなぁ!」

 謎にテンションの高い神父が俺目掛けて走り出す。両手には光の剣が握られている。見た目はまんまビームサーベルだ。

「はいちょんぱっ!.........ってあれ?」

 神父が切りかかるタイミングで思い切り地面を蹴り、背後に移動する。

 見失ってるタイミングて思い切り槍を神父の頬にかする程度で投擲した。

「·····うげっ」

 その槍は狙い通り神父の頬をかすめ、背後に見える山へと一直線に飛んでいった。ここまでは良かった。

 ただその槍が山を跡形もなく消し飛ばさなければ。

「まーじですかぁー」

 神父も思い切り青ざめている。

「だからこれを使うのは嫌だったんだよ加減してもあのくらいの威力は出ちまう」

「なら、ほかの技を使えばよかったじゃない」

「あれがいちばん威力が低いんだよ。なんならあれでもかなり抑えた」

「貴方、相当な化け物じゃない?」

「何を今更。アンタの兵士は最強だ。いい意味でも、悪い意味でもな」

 そう言い、自嘲気味に笑う。

「でもな。あんまり力をひけらかすのは嫌いなんだ。それこそ、異世界チート物の主人公と同じになっちまう。……おい、神父」

「ひぇっ·····。なんすかぁ。弱者をいたぶるのが趣味ですかい?」

「なわけないだろ。二択だ。今すぐここから消えるか、ここで死ぬか。どちらがいい。気が変わらないうちにさっさと決めろ」

 そう言いながら、再び先程と同じ槍を作成する。

「ひゃははっ。見逃してくれるなんて随分気前がいいザンスねぇ」

「アーシアにあんまり凄惨なものを見せたくないだけだ。さっさと消えた消えた」

「あひゃひゃひゃひゃっ。お優しい事でっ。それと、一つだけ·····前に会ったことねぇっすかねぇ?」

「·····気のせいだろ」

「んーぅ?なら気のせいかねぃ。ま、それじゃあこんな所からはおさらば。はい、ばいちゃ」

 そう言い、神父は懐に隠し持っていた閃光弾を床にたたきつけた。それは眩い光を放ち、周囲の人間の視界を奪う。スタングレネードの光だけのような感じだ。

 咄嗟にアーシアと千夜先輩を魔力で覆い、周囲の刺激を完全にシャットアウトする。間一髪間に合い、何とか守れたと言ったところだ。

「·····いねぇか。じゃあな、アル」

 そう呟けば神父がいた場所から目を背けた。

「·····随分と優しいのね、貴方」

 二人をおおっていた魔力を消滅させるのと同時に、そう千夜先輩から言われる。開口一番がそれか。

「うっせ。古い知り合いだっただけだ」

「あら、教会関係者に知り合いがいたのね」

「アイツはちげーよ。むしろ被害者側だ。·····この話はもう終わりだ」

 そう、面倒そうに呟けば千夜先輩に近づき「詮索しない方がいいこともある」と耳打ちした。

「·····それにしても、あの光は結構強かったわね。ダメージはないにしろ、少しは視界を奪われる程度かしら」

 コホン、と咳払いして話題を変える千夜先輩。

「スタングレネードの一種だよ。よく神父が持ってる改造品で、音とかは出ない代わりに強い光が放出される。それこそ、上級悪魔以上には効かないけどな」

「……私は、中級悪魔以下と貴方に判断されたのね?」

「ここには上級悪魔以上の実力者の他にいたいけな女の子もいるから一応守ったけど、千夜先輩なら多少は耐えられただろ?」

「随分な扱いの差ね。私一人だったら守らなかったとでも言いたいのかしら」

「そんな訳ないだろ。いくら上級悪魔って言ってもまだ俺よりひとつ上の女の子だろ?千夜先輩は。か弱いとは言わないが、女性を守るのは当然のこーーいたい、いたいですアーシアさん」

 不思議そうな表情を浮かべて答えていると、不意にアーシアに手を抓られる。何事だろうか。よく見ると頬を膨らませてるし。

「痴話喧嘩は犬も食わないわよ」

「いつからそんな話になったんだよ」

「強いて言うなら今ね」

 楽しそうにくすくすと微笑む千夜先輩。

「·····女の子、ね」

 千夜先輩はそう呟けば嬉しそうに微笑んでいた。

 さて、アーシアの方はどうしたものか。なんか拗ねてるからなぁ。

「アーシア、一つだけお願いを聞いてくれないか?」

「むぅ·····なんでしょうか」

 頬をふくらませながら答えるアーシア。

「数分でいいんだ。今から、俺だけを見ててくれないか?」

「·····ふぇ?それはどういう·····?」

「理由は言えないけどさ。お願い、聞いてくれるか?」

「·····はいっ!」

 さっきの態度とは打って変わって笑顔で了承してくれた。

 これからは少し凄惨なことになりそうだから、アーシアに見せたくたいだけなんだけどな、うん。数分で片付くだろ、どうせ。

「イッセー君、意外と朴念仁というか残酷というか」

 さすがにそんなことは無いと思いたい。

「じゃ、行くか」

 軽く腕をなぎ、目の前の祭壇を吹き飛ばす。その下には地下へと続く隠し通路があった。

 確か、前にイリナの父親と地下に言った記憶があったが、どうやら正しいようだ。

「じゃ、いくか」

 特に躊躇せずに階段を下りていく。最下層の礼拝堂までの距離はそう長くはないが、何故かとても嫌な予感がしていた。ただの勘だが、ゆっくりと思考を支配していく。

 冷静に考えて、神器に魔法陣を仕込むような奴が俺の存在を知らずにこの街で計画を起こすか?それに、なぜ魔法陣を発動させない?人質として使う予定なのか?

「いっせー……さん?」

 なにか脅えたような顔で俺を見るアーシア。

「貴方、相当怖い目付きしてるわよ」

 千夜先輩にも茶化すような感じではなく、心配するような声音で言われる。

「……すまない。ちと、考え事をな」

「一人で抱え込むのは得策じゃないわよ」

「確かにな。でも今は一人で考えさせてくれ」

 そう言い、千夜先輩に『ここでその話はまずい』という意思を向ける。たしか神器の能力で考えは筒抜けのはずだし。

「……でも、少しは相談して欲しいです」

 ぷく、と頬をふくらませるアーシア。

「心配してくれてありがとな。でも、こればっかりは相談は出来ないかな」

「なんでですか?」

「アーシアのことを大切に思ってるから、って返しじゃダメか?」

「……ふぇ?」

 ぽかん、とした表情をするアーシア。

「な、ななっ!?急に何を言うんですかっ!」

「あまり残酷な……というか、凄惨なのを見せたくないんだ。わかってくれ」

 そう言いながら頭を撫でると、アーシアはぷくーっと頬をふくらませた。

「もうっ!もうもうっ!」

 ぽかぽかとお腹を叩いてくるアーシア。

「ごめんって」

 そう言いながら頭を撫でる俺。

「私は一体何を見せられているのかしら」

 全くもってその通りです。

「……じゃ、やるか」

 階段を降り切り、到着したのは地下にある礼拝堂。以前に一度だけ来たことがあったが、あまりいい気分がする場所ではない。埃っぽくてジメジメとした場所。

 広さは人が50人は余裕で入れるくらい、というところ。そこに長椅子が十二台設置されていて、奥には聖女を模した彫刻が置かれている。

「おやおや、これは赤龍帝」

 楽しそうに声を発する一人の男。それは、以前に俺を殺した張本人の堕天使。黒のロングコートを羽織り、小さめのシルクハットを被った出で立ち。どことなく小物感を演出している。

 フロアには二十人程の神父の姿があった。全員光の剣や祓魔弾でも放ちそうな銃を持っている。ま、悪魔退治専門の神父ならみんなこんなもんだ。

「一つだけ聞く。お前に蛇を渡したのは誰だ?」

「……蛇?なんのことだ?何かの暗号か何かか?」

 顎に手を当て、首を傾げる堕天使。その姿から、こちらを騙すような気配は全く感じられなかった。

 こいつの反応を見ている限り、本当に知らないようだ。

「……蛇ってなんのこと?」

 怪訝そうな表情の千夜先輩。

「後で話す。……ま、今は危険なものって認識でいい」

 そう言いながら、指先に魔力を集中させる。

「まあ思い入れもないし、一応俺を殺した張本人な訳だし。さっさと消えてくれ」

 そう言いながら、おもむろに両腕で空を切り裂くように振るう。指先に集中させた魔力は、空間を切り裂きながら堕天使ごと神父全員を切り裂き、その体を消滅させた。

「ほら、終わり。せいぜい下級から中級程度ならこんなもんだろ」

 特に感慨もなく、感情を起伏させることも無く淡々と述べる。

「もう少し歯ごたえがあってもーー」

「貴方、もしかして心が壊れているの?」

 ふと、千夜先輩の方を向けば悲しそうな表情を浮かべていた。

 どうやら、俺の戦闘スタイルがよほどこたえたのか。それともそんなことしか出来ない俺を憐れんでいるかの二択だろう。

「壊れてねーよ。ただ、人を殺すこと自体は初めてじゃないってだけだ。言ってなかったか?俺、相当な人数殺してるぞ」

 ただ、感情の籠ってないような笑みを零す。

「敵対するなら消す。それは定石だろ。千夜先輩にだってわかるときはくる」

「それは、今じゃないのよ。貴方はまだ私より一つ年下の男の子なの。もっと希望に満ち溢れていなければ、もっと楽しくなければ嘘なのよ」

「嘘?一体何が。俺は守りたいやつを守れて嬉しいし、喜んでるぞ」

「……そこに、貴方自身の感情がないのよ。誰かを守らなければいけないという強迫観念にでも縛られているような。でも自分が本当に喜ぶ方法を知らない。壊れているのよ、大元の部分では」

 段々と、千夜先輩の声音に力が入っていく。

「はっきりと言うわ。貴方の存在は破綻している。そのままではいずれ自分自身で己を殺すことになる」

「……それで、誰かを守れるなら、本望さ」

「……ばか」

 ただ、千夜先輩はそう呟いて俺を抱きしめる。力なく、ただ俺を憐れむように抱きしめているように感じた。

「いっせえ、さん?」

 首をかしげながらこちらを見ているアーシア。ぽけーっとしているような。なんというか、微睡んでいるような表情だ。

「……千夜先輩。帰るぞ」

「……」

 ただ、千夜先輩は無言で抱きしめるだけで何も答えてくれない。

「どうしたんですか、いっせえさん?」

 気の所為だろうか。アーシアの発音も少し変わっている気がする。いつもよりも、カタコトに近いというか。

「いっせえ……さ……」

 ばたり、とその場に倒れ込むアーシア。

「な、あーし……」

 ばたり、と力なくその場に倒れ込む千夜先輩。

「お、おい。なんの冗談だよ。さては俺を騙そうとして……」

 2人の様子がおかしいのは誰が見ても明らかだった。血色が悪く、息も乱れている。肌にヒビのようなあとまで浮かび上がっている。

「くそっ。どうしたってんだよ」

 俺はすぐさま二人を抱き抱えて階段を駆け上がる。数秒と経たないうちに外に到着するも、二人の容態は悪くなるばかりだ。

「おいっ。どうしたんだよっ」

 ふと、アーシアの様子が一際おかしいことに気づく。発汗の量が尋常じゃない。

 すぐさま服を破き、お腹を確認する。そこには、魔法陣が濃く浮かび上がっている。

「……そういう事か」

 アーシアの神器に仕込まれていた魔法陣が起動して神器が暴走している状態。その効果は反転し、周囲にいる生物にも悪影響を及ぼしているという訳だ。ただ、魔力量のせいで俺はきいていないってだけの話だ。

「くそっ。どうしろってんだよ」

 即座に千夜先輩を魔力で覆い、影響を限りなくゼロにする。

 この方法はアーシアにはできない。それこそ、所有者にそんなことをしても、内側から崩壊するのがオチだ。それこそ、神器の効果を無力化する方法でもなければ抑えられない。

「アーシアっ。おい、聞こえるかっ」

 軽く頬を叩きながら呼びかける。何度も、何度も。まるで助けを乞うかのように。

「いっせ……さん……?」

「アーシアっ!」

「わたし……しんじゃうん……です、よね……?」

 悲しそうな表情を浮かべながら言葉を紡ぐアーシア。

「そんなわけないだろっ。俺は、アーシアを絶対に守るっ」

「わかるん、です……もう、しんじゃうんだって……。からだが、いたくて……もう、たえられそうに、な……」

 段々とアーシアの声がか細く、弱いものになっていく。ぷるぷると痙攣しながら、何とか痛みに耐えているのが、傍目からでも分かる。それほどまでに、アーシアの神器の出力が強いんだ。

「くやし……なぁ……やっと……しんじ、られ……る……ひと……に……あえ、た……の……に……」

「何言ってんだよっ。遊園地とかに遊びに行くって約束したろっ。もっと幸せにならなきゃ嘘ってもんだろっ。アーシアっ」

「ごめ……な、さ……やく、そ……まもれ……な……」

 もう、声を聞き取るのが困難な程に、弱々しくなっていく。

「も……と……いき、た……か、た……な……」

「なにいってんだよっ。もっと生きて、一緒に遊びに行こうっ。だから……生きてくれ……」

「そ……な……な……か、な……で……。も、し……らい、せ……で……あえ……た……ら……」

 ーーまた、友達になってくれますか?

 そう、伝える前に力なく息を引き取った。

「アーシアっ。おいっ。アーシアっ」

 どれだけよんでも、声は返ってこない。ただ、静寂が周囲を包むだけだった。

 世界とは、どうしてこんなに無情なのだろう。一度だけならず、二度も大切な人を奪い去る。なんで、こんな世界が存在しているんだ。こんないたいけな少女の命を奪うことが、世界のすることなのか。

「はははっ。随分と泣ける喜劇をありがとう」

 耳障りな笑い声が耳に届く。俺の知らない声だ。

「俺の名はディオドラ。ディオドラ・アスタロト。上級悪魔にして魔王の血族さ」

 ただ、誰かがご丁寧に話をしているようだが、今はどうでもいい。本当に、ここまで絶望するのは久しぶりだ。それこそ、あの人が殺された時以来か。

「そいつは俺も狙ってたんだぜ?だからご丁寧に傷ついた状態で目の前に現れて、回復させている状況を教会関係者にみせたんだからなぁ」

 何を、言ってるんだ。こいつは。

「念には念をと誰かに取られないように神器に細工をしていたのはよかったなぁ。今みたいに誰かに取られる前に壊せるからなぁ」

 ただ、静かに。どす黒い感情が溜まっていくのがわかった。深淵と呼ぶにふさわしいほどの、黒い業。

 本当に、久しぶりだ。この感情は。前にリリンと殺った時以来か?あの時は一夜の事だったが、今はその時よりも不快な気分だ。

「残念だったなぁ。赤龍帝のお古はいらない。だから壊れてもらった。仕方ないよな?そんな誰にでも腰を振るビッチに用なんてなーー」

「黙れよ」

 ただ、気づいた時には声が発せられていた。

「お前は、もういらない」

 ただ、淡々と言葉を述べる。声に生気を宿さず。まるで人ならざる者の呼び掛けのように。静かに、暗く、重く呟く。

「アーシア。少し待っていてくれ。直ぐに終わらせるから」

 ただ、静かに神器を出現させる。まるで嵐の前の静けさのように。

 肘まで覆うほどのガントレット。手の甲の部分には翡翠の宝玉が埋め込まれており、それはまるで神秘を体現したかのようなものだった。

 

「……バランス、ブレイク」

 

 そう、静かに呟いた瞬間、激しい音を立てて周囲が消し飛んだ。

 魔力の奔流が周囲を薙ぎ倒しながら全身から放出され、それは全身を覆い始める。千夜先輩とアーシアは魔力で守っているから無事だが、ディオドラとかいう悪魔は別だ。よく見ると、自身を守ろうとして魔法陣を展開するも守りきれずに左腕が消し飛んでいた。

 その放出された魔力は体を覆い、収束していく。それが終わる頃には、俺の体は真紅の外套に身を包んでいた。

 赤龍帝の片翼外套(ブーステッドギア オーバーコート)。ただ一人の少年が夢を抱き、蒼穹(そら)を目指すも、翼を奪われ地に這いつくばった哀れな姿。

「さあ、始めようか。終わりの始まりってやつを」

 ただ、腕を軽く薙ぐ。それだけで周囲が消し飛び、辺りを更地へと変える。

 その身に余るほどの幻想(ゆめ)を抱いた末路。醜く、災厄の化身の成り果てたその存在は、ただの畏怖の象徴でしかなくなっていた。

「ぐが、ぁ……っ!」

 苦悶を漏らすディオドラの足を魔力で四肢を貫く。

 手に入れたかったものは、ただの……本当の愛情だっただけだと言うのに。世界は、それすらも拒む。だから、信じることをやめた。神を。そして世界を。

「龍の逆鱗に触れた末路だ。死を以て贖え。そして、消えろ」

 ただ、おもむろに手をディオドラに向けて、魔力を放出させた。それは周囲の空間をえぐりながらディオドラの体を消し飛ばした。なんの感情も起きずに。気が晴れることも無く、ただただ虚しいだけだった。

「……アーシア」

 外套を消し、アーシアに歩みよる。

「……ごめん、アーシア。嘘、ついちまった。約束、守れなかった」

 亡骸を抱きしめながら、ただ泣くことしか出来なかった。たったひとり、大切に想った女性一人救えないほど、もろく弱い。それが、俺だった。

「……イッセー君。転生、させるのかしら」

 いつのまにか復活していた千夜先輩からそう問われる。ただ、答えなんて出せるわけがなかった。

「ただ、俺はアーシアに幸せになって欲しかっただけだったんだ。だから絶対に守る、なんてできもしない約束して。出来ないなら最初からするなって話だよな」

 ポロポロと、涙と共に感情が押寄せる。

「大切な女ひとり守れない弱い男の近くにいて、なにが赤龍帝だ。……こんな奴の近くにいたって幸せになれない」

「……」

「もしかしたら、いままでのしがらみから解放されたからこの方がしあわーー」

「それ以上言ったら、私が許さない」

 言葉を遮るように怒気を含めながら言葉を発する千夜先輩。

「この方が幸せなんて、貴方が一番言ってはいけない台詞よ。あの子は死ぬ間際になんて言っていたの」

「もっと生きたいと、死にたくないと言っていた」

「それなのに、彼女を否定するような言葉を言うのかしら。それに、あの子は少なからず、貴方と一緒にいる間は幸せを感じていた。それは貴方も分かることでしょう」

「……でも」

「でもじゃないっ。大切なら意地でも幸せにすると心に決めなさいっ。それすら出来ないなら最初から誰かを愛すなっ」

 ああ、ようやく分かった。ただ、俺はアーシアを救えなかったことから目を背けたかっただけだった。責任から逃げたかったから、その現実を突きつけたあの悪魔を憎悪した。ただ、それだけの。取るに足らない感情だったのだろう。

 ……ほんと、どうしようもないやつだな、俺は。そんな個人的な感情よりも、アーシアの方が大切だと言うのに。何を迷走している。

「……ごめん。目が覚めた」

 勢いよく涙を拭き、そう呟く。

「頼む。アーシアを生き返らせてくれ」

「……わかった。ただ、命令よ。転生させたら、面倒は貴方がみなさい。それと、絶対に幸せにしなさいよ」

「わかってるよ」

 おもむろに黒いチェスの駒を懐から出す千夜先輩。それをアーシアの体に押し当てると、それは体に吸い込まれていき、アーシアの体を修復する。そして傷が無くなった頃に、アーシアが静かに目を開いた。

「アーシアっ!」

「いっせー……さ……?」

 気づいた時には、アーシアの唇を奪っていた。優しく抱きしめながら、愛でるように。愛する人を愛おしく思うように。少しの時間、唇を交わし続けた。

「……アーシア、帰ろう?」

「……はい、イッセーさんっ」 

 頬を赤らめながら、こくりと頷くアーシア。

「……少し、妬けるわね」

 そっぽを向きながら呟く千夜先輩の姿がやけに印象的だった。

 

「イッセーさんっ、おはようございますっ」

 あれの事件から数日後。アーシアは俺の家で一緒に暮らすことになった。千夜先輩曰く、泊める場所がないとのこと。おそらくだが、気を利かせてくれたのだろう

「ん、おはよう。アーシア」

 朝の挨拶としてアーシアの頭を軽く撫でる。目を細めながら気持ち良さそうにしてるから満更でもないようだ。

「イッセーさん。千夜さんから聞きました。あの時のこと」

「……あの時?」

「私が死んだ日です」

 ……何故か、とても嫌な予感がした。

「私の為に怒ってくれたこと。私の為に悲しんでくれたこと、本当に嬉しかったです」

「ま、それくらいはするだろ。なんせ、友達なんだからな」

「……友達、ですか。じゃあ、質問を変えます。イッセーさんは、私のことが好きなんですか?」

 嫌な予感が的中しました。あの主、何を余計なことを言ってるのだろうか。

「さあ、な。よく分からん。アーシアの事は悪くは思ってない。むしろ好きだ」

「……それは、友人としてですか?それとも……」

「分からん。今はさ、色々ありすぎてなんとも言えないから。少し、考えさせてくれ」

「……わかりました。ずっと、待ってます」

 そう、微笑むアーシアの表情には、どことなく悲しさも孕んでいるような。そんな気がした。

「……帰ろ?アーシア」

「……はいっ。イッセーさんっ!」

「私は、おじゃま虫かしら」

 拗ねている千夜先輩は無視することにした。

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