織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
第00話 プロローグ
少年、小笠原金槻(かなつき)は慌てていた。
趣味の戦国シミュレーションゲームのプレイ中、手詰まりとなり戦略が纏まらず小休止として布団に潜った記憶がある。
それなのに何故俺は藪の中で目を覚ましたのか、まだ夢の中なのか。
それにしてはやけに湿気った土の感触があまりにも生々しいと思う。
そもそも夢にしてもここはどこなのか・・・
寝起きの回らない頭をなんとか動かし、ぼーっと考えること数分、悩んでも分からん!どうせ夢だろうと結論づけた俺は立ち上がり、あてもなく歩き出したのが10分前のことだった。
暫く夢心地のまま、あてもなくふらふらと歩いていると喧噪が聞こえてきた。
一人ぼっちだと夢の中でも寂しいものだと感じていた所なので、人の声にほっと安堵の溜息を吐き、駆け足で藪を掻き分けて喧噪に向かっていく。
ここはどこなのか、何の騒ぎなのか、とにかく人のいるところに出たかった。
その思いで駆けたのが5分前。
「・・・なんで俺追われてるんだ・・・?」
そして謎のサムライ達に追われて来た道をダッシュでUターンしたのが2分前。
そして今、なんとか藪に潜んだ俺の目の前には何故か隠れる際に俺をかばって矢弾を浴びたおっさんが転がっていた。
「・・・流れ弾に当たったみたいだみゃあ・・・運が無かったみたいだみゃあ」
「おい!しっかりしろ!今手当してやるから!!」
未だ状況が飲み込めない中、やけにリアルな眼前の惨状を目の当たりにして、夢とか現実とか考えていたことは全て吹き飛んで、思ったことを声に出してみたが頭の中は混乱の極地である。
そもそも矢傷の応急処置なんて俺は知らない、放置していると破傷風になって不味いという程度の知識しかない。
そんな俺のことなど気にも留めずに周囲では轟く馬蹄や剣戟の音、そして悲鳴とも怒声ともとれる人の叫び声がこだましており
俺の心を焦らせる。
そんなあたふたと戦慄く俺の腕を、おっさんの弱々しい手が掴んだ。
「・・・坊主。わしはこれまでだみゃぁ・・・この藪を真っすぐ行けば川にでる。お主は行けい・・・」
「そんな・・・」
相も変わらず俺は何がどうすればこんなことになるのかわからず、慌てふためいているが問答無用で時は進んでいく。
もうおっさんの周りには血の池が出来つつあった。
「そ、そうだ!おっさん名は?命の恩人なんだ。それくらい教えてくれ!」
「わ・・・わしは木下藤吉郎じゃ・・・さらば少年・・・」
そしてそのおっさんは目の前で精魂尽き果てた。
「・・・木下藤吉郎って、豊臣秀吉じゃん!え、死んじゃったらダメだって!!」
俺は慌てて事切れたおっさんを甦らそうと試行錯誤してみるが、木下藤吉郎と名乗った猿顔のおっさんの目は二度と開くことは無く、考えうる限りの蘇生措置を試しきる頃には彼の体は冷たくなっていた。
今更ながら返事のない屍の姿を検めると、彼は草履に麻の粗末な衣類、防水のためか油が塗り込まれているのであろう照りの乗った笠を被り、ついに最後まで手放さなかった槍を携えていた。
博物館や郷土資料館などてよくみかける、戦国時代の足軽の姿格好そのものである。
そのまま呆然と立ち尽くしてどれほど経ったのだろうか、いつの間にか周囲の喧騒も消え去り静寂に包まれていたなかで、俺は変わらず混乱した頭ではあるが、なんとか一度状況を整理することにした。
・ここはどこだか不明、だがリアルすぎるし夢とは思えない状態。
・多分戦国時代の戦場真っただ中。
・目の前で息絶えたおっさんは豊臣秀吉、足軽時代っぽいからここは愛知?
まだ確信はないがこの考えは当たっていた。
金槻は愛知県、鶴舞に住んでいた。寝た所と同じ座標の戦国時代に飛ばされていたのだ。
しかしそんなことはつゆ知らず、ようやく少し落ち着きを取り戻した俺は新たな混乱に襲われた。
周囲の戦闘の流れ弾であろうか、ピンポン球程度の小さな球が目の前に転がりこんできたと思えば、もくもくと白煙をあげはじめたのだ。
「うわっ!?なんだこれ!」
一瞬にして視界が遮られ、咄嗟にしゃがみ込んで頭を腕で覆う。
暫くしたのち、煙の立つ音が途切れたため恐る恐る顔をあげるとそこには黒ずくめの忍装束を着込んだ幼女がいた。
「木下氏、亡くなられたでござるか・・・次のご主君としてそこのお主にお仕えするといたちゅ、情けない姿を晒すなでござる。」
その幼女はどうやら忍びらしい、語尾を少し噛んだ気がするが恥ずかしげも無く彼女は俺を少し蔑んだ目で眺めている。
俺はついに脳がオーバーフローしたので考えるのを諦め、全て夢だということにした。
「えーっと、やっぱり夢なのかなこれ。うんそうだよな目の前にいきなりロリござる登場は流石に出来すぎでしょ。」
「お主、何を申しておるかわかりゃにゅがこれは夢ではごじゃりゃにゅじょ・・・
拙者長台詞は苦手にござる」
「すっごい噛んだな。でもこれが夢じゃないってどういうことだ?ていうかここどこだ。」
「その質問には追々答えるでござる。とにかくここは危のうごじゃりゅかりゃひとまず川へ向かうとするでごじゃる。」
「ん、了解。」
やっと登場した案内キャラか何かかな?と持ち前のゲーム脳を発揮しつつ、俺は最後に俺を守ってくれた小さいおっさんに両手を合わせてから、ロリ忍者の小さな背中を追った。
藪を抜けると小さな川辺に出た。
遠くではまだ喧噪が聞こえてくるが、どうやら大将が移動したか何かで戦場の位置が動いた結果、先程までいた藪の周囲は静かになっていたようだ。
「さて、それじゃあ説明を・・・とその前にまだ名前を聞いてなかったな。
俺は小笠原金槻、よろしく。」
「拙者の名は、蜂須賀五右衛門でござる。これより木下氏に代わり、小笠原氏にお仕えいたす所存にごじゃる。」
仕えるかどうかはさておき、ひとまずの自己紹介を済ませ本題へ入る。
五右衛門の話した内容に俺は驚きを隠せなかった。
まず今の居場所は尾張、ここは金山だという。
少なくとも名古屋では有数のターミナルの街だが、ここまで来る道中で見たところ今は何もない原っぱのようだった。
次に今が何年か、天文22年と言われた。つまり1553年ということになる。
事実かどうかはさておき、タイムスリップしたのか…?
ただもしこれが事実となるとマズい、既に天下人豊臣秀吉が死んでいるのだ。
この時点で秀吉のいなくなった戦国時代となると、この先どうなるかがわからない。
五右衛門は俺を次の主とすると言った、では俺が信長に取り入って草履を温めれば良いのか?
その場で打首にされる気しかしない。
他にも色々と言われたが途中で頭に入りきらないと思い、五右衛門にギブアップ宣言し、とりあえず落ち着けるところに行きたいと俺が恐る恐る言ってみたところ、
「それならとっておきがあるでござるよ。付いて参られよ。」
と言われたので俺は五右衛門にとりあえず黙って付いていくことにした。