織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
尾張・清州城大手門前
「・・・ついに来たか、ここまで長いようで短かったなぁ・・・。」
俺、小笠原金槻は清州城の門前にいる。
この地の姫大名、織田信奈に仕官するためだ。
この世界に突如飛ばされて1か月、ここまで色々なことがあった。
ゲーム休憩に昼寝しているうちに突如飛ばされたこの世界は、間違いなく戦国時代だった。
織田家と今川家の戦闘の最中に飛ばされ、何も分からずに逃げる俺を命を張って逃がしてくれた木下藤吉郎、五右衛門や川並衆との出会い、津島でのボールペン競りと武具屋の主人の使い、明智十兵衛光秀との会談、玉ノ井湊計画の考案、物産の転売による銭稼ぎなど、あげれば色々とやったものである。
それらの行動の一つの区切りが昨日、玉ノ井で開かれた会議だった。
結果として湊計画の準備は成功裏に終わった。
午後の土地振り分けはこちらが区切った土地にこういう建物を建ててほしいという要望を出し、それに応えられる人が土地を買うという手順で進め、複数名が名乗りを上げた場合は競売とした。
尾張側では、船着き場周辺に荷揚げ関連の施設と納屋、他の川沿いに漁師小屋や工房を並べ、内陸には商店や住宅、奥地に既存の集落住民の田畑を開墾するという形で決着した。美濃側も光秀が上手いことやったと聞いている。
これから玉ノ井は空前の建築ラッシュが控えているが、ここまでくれば後は前野某にある程度任せても問題ない所まで話が進んだ以上、俺は次のステップに進むことになる。それが今日の織田家仕官であった。
ここが俺の戦国武将としてのスタートラインだ。と心の中で唱える。そしてすぐ右に控える五右衛門に
「・・・よし、行こうか!」
と笑顔で呟いた。
「・・・御意、小笠原氏ならなんときゃにゃるでごじゃるよ。」
と五右衛門も少し恥じらいながらもいい顔で答えてくれた。
「うーん、昨日はいい収穫はなかったわねぇ・・・。」
「そうでございましたか。」
清州城本丸御殿、私は昨日の玉ノ井への潜入をそう振り返った。
織田家と斎藤家の均衡を崩しかねない小笠原金槻の玉ノ井湊計画、その会談場へ潜入したのは良かったが、潜入という理由上小笠原金槻・明智十兵衛光秀の両名との直接の接触は難しく、会談の様子を大まかに見れた午前中の時点で収穫なしとして引き上げたのであった。
「もういっそ兵を出して湊を壊しちゃうってのはどうだ?」
「柴田どの、そんなことをしては斎藤道三が黙っておりませんし玉ノ井は国人衆の土地とはいえ尾張、そんなことをしては領民の民心が離れます。0点です。」
「先に斎藤方に認められているっていうのが厄介極まりないわね。
こっちは楽市楽座をしている以上事前の申し出は要らなかったから、うちの政策の穴を突かれたわ。」
「・・・姫さま、ここで動かないと田植えが終わった頃には今川が攻めてくる。そうなるともう詰み。」
「分かってるわよ犬千代。でも仮に降伏なんてしたら戦場に十二単で来るようなバカの今川義元の尻に永遠敷かれ続けて使い潰されることになるのよ。私はそんなの御免被るわ!」
「では姫、決戦をなさるおつもりで?」
「どっちみち滅亡するなら戦って死ぬわ。仮に今川を退けたとしてもその後に道三に滅ぼされるでしょうし、わたしも尾張ももう終わりね。尾張那古野とは良く言ったものね。」
「姫、その駄洒落は百点満点で五点です。」
「辛いわね、万千代。ニ十点くらいちょうだい。」
「これでも姫補正でおまけしています。」
「そういえば姫さま、もう間もなく清州の米も尽きそうなのですが、そちらは如何いたしましょう。」
「え、嘘!最近津島で仕入れたばかりだったはずだけど?」
「そうなのですが、あの後清州と犬山を抑えることに成功したが故に各所に米を分散させざる負えなくなりまして・・・。」
「デアルカ、この時期に米が尽きるのはマズいわ、とは言っても今はまだ田植えの季節。津島の米は買っちゃったし、清州の米は信勝に持っていかれちゃってるし。本当に詰みね。」
本格的に打つ手がなく重い空気が流れるなか、小姓が駆けてきた。ついにどこからか攻めてきたかしら・・・。
「申し上げます。城門前に当家に仕官したいと申す浪人が参っております。如何なされますか?」
「仕官ん〜?こんな半分沈んだ泥船に?物好きな人もいるわねぇ・・・。」
本来であればこんな滅亡寸前の家に仕官はしない。誰だって死にたくはない。
この場合、仕官を装った降伏勧告の使者であったり、敵の間者である可能性の方が高い。
「姫、どうされますか?」
「まぁ、打つ手がない状況だし話だけでも聞いてあげましょう。間者だったら斬るだけだし、もし降伏勧告とかならまだ交渉できるかもしれないわ。ここに通しなさい。」
「お初にお目にかかります織田信奈様、それがしは小笠原金槻と申す者。お目通りのお許しを頂きありがとうございます。」
私と犬千代、万千代は固まっていた。目の上のたんこぶであった玉ノ井湊計画の首魁が目の前で平伏している。六(勝家)だけはこの浪人の件を一切知らないので固まっている私たちを見て首を傾げている。本当に意味が分からない。
たっぷり十秒ほどかかって私はやっと一言を発することができた。
「お、面を上げなさい。」
間違いない、少し大柄で色の入った眼鏡、昨日見た小笠原金槻その人だった。
固まる私に代わって少し早く立ち直った万千代が問いかける
「よく参られました小笠原どの。ひとまずは織田家に仕官することに決めた理由を述べられよ。」
「はっ、各地の諸大名を見渡しまして参りました。その中でもっとも天下に近しいのが織田信奈様と判断し、それがしが仕えるべき主にふさわしいと思い至り仕官の御願いに参りました。」
ようやく私も立ち直る。この浪人には聞きたいことが山ほどある。
「お世辞は良いわ。今の織田家の状況分かってて言ってるの?」
「はい。それも勘案しての判断でございます。」
「へぇ・・・あんたにはこの状況を逆転に導く手があるという訳ね、面白いじゃない。
言ってみなさい。ここでつまらないことを言うようなら手打ちにするわよ。」
「かしこまりました。それではまずはそれがしの持参した手土産をお渡ししましょう。」
そういって巻物を差し出してくる。犬千代がそれを受け取り「・・・姫さま、どうぞ」と、私に渡す。
巻物を開くとそれは手土産の目録だった。その内容に驚愕する
「それがしは今回の仕官にあたり、予め近江より米二万石を仕入れて参りました。今それがしの手の者に蔵まで運ばせております。また余った銭二千両もお納めいたします。」
確かにそれも凄い、現状すっからかんの清州にとって、まさに命の米とも言えた。しかしそれ以上に大きな手土産が巻物には記されていた。
「ねえ、ちょっと聞きたいのだけど・・・。この【美濃との交渉の手筈】というのは何?」
私のその発言に万千代が肩をピクッと一瞬震わせた。
「はい、ご説明いたします。それがしは今川並衆という国人衆を率いております。その所領は玉ノ井、黒田荘にございます。」
「ええ、知っているわ。そこで湊を築こうとしていることもね。」
というか昨日現地にいたし。
「おや、そこまでご存知でしたら話が速い。我々は斎藤家の者と共同で美濃に船を直接乗り付けることができる湊を築いておりました。その際に斎藤家との連絡網を作ることに成功しております。
信奈様は現状の打開のために斎藤家との同盟を望まれると思いまして、既に道三殿を交渉の席に引っ張り出せるように手筈を整えさせていただきました。
更に玉ノ井のことで申しますと、湊の収益の3割を織田家に上納する予定にございます。」
つまり、金槻が織田家に入ることで斎藤道三を交渉の席に強引に引っ張り出せる。ということだ。
確かに今や玉ノ井湊の計画は今や美濃でも知らぬ人がいない程の規模に膨れ上がっており、元商人の斎藤道三が肝いりで進めている計画になっている(実際の現場指揮は明智光秀だが)。
その元締めが金槻である以上、彼の言葉は既に美濃一国を動かす力を持っているに等しかった。
そしてこの仕官話は、現状の織田家にとって唯一の光であった。
一番の不安である背後の道三との同盟が成れば、信勝の籠る末森城を落とすのは容易く、尾張統一はすぐに成る。
問題は今川家だが、美濃と尾張が共同で戦線を張れるなら勝つまではいかなくともそう負けることもない。
その間に伊勢などへ進出し力をつけることも可能になる。まさに渡りに船だった。
「デ、アルカ・・・」
既に信奈の中ではこの仕官を断る理由は無くなっていた、というよりこれは断れなかった。
もし断った場合金槻は間違いなく繋がりのある美濃へ走る。
そうなれば斎藤道三は件の玉ノ井から攻めてくる。
川並衆の所領である以上既に渡河の橋頭保があるようなものなのだ。
それでも信奈は一つだけ聞かずにはいられなかった。
「小笠原金槻、一つだけ質問してもいいかしら?」
「はい、何なりとどうぞ。」
「どうして、あなたは見ず知らずの私の考えをここまで読み切って手筈を整えることができたの?」
「姫、私からも質問よろしいでしょうか?」
「ええ、いいけど・・・」
「それでは、小笠原殿は以前当家の兵と今川家との戦闘の場に居合わせましたよね?謎の南蛮の衣を着ていたと報告があがっています。
あなたはどこから来て、何を見てここに参られたのですか?」
2人からの質問に金槻は目を閉じ、5秒ほど逡巡したような表情の後、決意を固めた顔をして声を発した。
「その2つの質問の答えは一つです。
それがし、いや俺はこの時代に生まれ育った人間ではありません。この時代より遥か500年近く先から参りました。
信奈様が斎藤家との同盟を考えているのを知っているのは当然、その歴史を知っているからでございます。
そして長秀様の仰る通り、私は織田家と今川家との戦の最中に突然目覚めました。
目覚める前の記憶は未来の自宅で遊び疲れて少し休憩を取った所でございます。」
「未来、ですか・・・。にわかには信じられません。50点。」
「そんなこと、信じられる訳ないでしょう。何か証拠はあるのかしら。」
「証拠でございますか・・・致し方ありません、信じていただけるかは分かりませんがお見せいたしましょう。」
そういうと俺は自身の懐から1つの鏡のようなものを持ち出した。
そう、この時代に持ち込むことになった未来の証、スマートフォンである。
「これは未来から持ち込んだものになります、準備いたしますので暫しお待ちを。」
そういってはスマホの充電をつける。思えばこの時代にきてすぐに電池を切ったので約1か月振りに電気が通ることになる。
ちゃんとつくか少し不安だったが、問題なく画面が光った。どうやら1か月の間に少し放電されてしまったか、電池は95%を表示した。
そして当然だか圏外のマークが出ている。金槻は滑るようにカメラを開き、おもむろに信奈たちを撮影した。
「お待たせいたしました。こちらをご覧ください。」
「これは・・・私たち?」
「そうです。このからくりには、写し鏡をそのまま絵のように保管することができる機能がついております。
他にも音を発したり、複数台あれば遠方にいる人とこれを通して言葉や文を交わしたりもできましたが・・・、この時代にこれは1台しかないので出来る事は限られますがね。」
「これは、凄いわね・・・」
あまりのことに信奈たちは絶句する。姿絵を画かせるだけで1日仕事なのにより高精度、というよりはその場の風景そのものを一瞬で切り取ってしまったのだから当然といえた。
「これは写真と言いまして、この時代から大体300年後に生まれた技術です。
もっとも当時はこれほどの物は撮れませんでしたが、私のいた時代にはごくごく当たり前の技術です。」
「恐ろしいな、これほどとは・・・」
と勝家もたじろぐ。この時代の人間にとっては確かに想像もできないだろうなと俺は苦笑した。
「よし、決めたわ。小笠原金槻・・・ちょっと長いわね。んんー・・・・・お金!これからはそうよばせてもらうわよ!」
「いきなりその呼び方はどうなのでしょうか?まぁ面白いので80点です。」
「仕官の願い、認めるわ!
米と銭の納入、斎藤家との調整、玉ノ井湊の権益・・・これだけの手柄を持っているとなると流石に足軽からは不味いわね。
万千代!何か空席の役はあるかしら?」
「そうですね・・・普請奉行は如何でしょう。
玉ノ井に湊を築くという功績もありますし、既に商人に名の知れた小笠原どのであれば適任でしょう。
それから与える土地については一宮の郡代というのはどうでしょうか。
丁度玉ノ井の地や正徳寺にも隣接しておりますから、斎藤家との交渉に動きやすい彼の地であれば小笠原どのも動きやすいでしょう。75点です。」
「デアルカ!それではお金!あなたを織田家の普請奉行、そして一宮の郡代に任じるわ。織田家のためにしっかり働いて頂戴!!」
「はい!!この小笠原金槻、身命を賭して信奈様にお仕えいたします!!」
かくして、俺は織田家への仕官を認められた。
しかしまさかいきなり奉行職に郡代とは、自分自身でも出来すぎたと思う。
「お金、私は柴田勝家。姫さまからはよく六って呼ばれてる。これからよろしく頼むよ。」
「・・・前田犬千代、よろしく」
「改めまして小笠原どの、私は丹羽長秀と申します。姫からは万千代と呼ばれております。
普請関係で意見などがございましたら私にまでお知らせください。今後ともよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「お金!早速だけど大きな仕事を頼むわ。
あなたが準備してくれた通り、私は斎藤道三との同盟を目指しているわ。早急に蝮との会談の手筈を整えなさい!」
「はっ。承知いたしました。」
ここまでは予定通り、しかしここからがスタートだ。俺は歴史を変えるための大きな一歩を踏み出したのだった。