織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第2章 兵(つわもの)の道
第10話 うこぎ長屋


清州城・三の丸内、うこぎ長屋

 

 

信奈への仕官の後、俺は清州で暮らす部屋の案内を受けていた。

 

「・・・到着した。」

 

「ん、ここか。多少ボロっちいが良い長屋じゃないか。」

 

通称うこぎ長屋と言われるその長屋は、旗本などの下級武士の住居地区として使われている。

清州滞在中は基本的にここで寝泊まりをすることになる。

雰囲気があって良いのは確かなのだが、やっぱりボロいな。

さっさと出世して屋敷を建てたいものだ。

 

 

信奈への仕官の際に俺は、普請奉行と一宮郡代という2つの職を預かることとなった。

 

普請奉行とは、織田領内にある砦や城の整備、堤防や道路の管理などといった所謂「インフラ」を預かる代表という仕事だ。

戦や災害で壊れた設備の修繕、新設などの他、街道整備などのために街の寄合との折衝なども業務のうちであり、意外と手広くやる必要のある仕事である。

 

 

そして郡代というのは、領地の管理代行者。文字通り領主の代理として街づくりを行う仕事だ。

 

今回俺が預かることになったのは一宮の街。

玉ノ井・正徳寺の南に隣接しており、今いる清州や津島の北にあたる。

昨日開催した玉ノ井湊の会議に参加していた会合衆や萩原宿の商人もこの一宮に根を張る人々だ。

 

この街一番の特徴は東海道と中山道を繋ぐ脇街道、美濃路が南北に走り非常に多くの人通りがあることだろう。

実はこの時代、東西の移動は尾張を境に東へは東海道、西へは中山道を利用するのが大半だったりする。

東海道は関東から尾張にかけては太平洋沿いを走る平坦な道なのだが、尾張より西は鈴鹿山脈、伊賀、甲賀という難所を抱えている。

 

一方の中山道は京から美濃にかけては琵琶湖というショートカットがあったり、関ケ原までは加賀方面への北国街道と同じルートということで交通量がかなり多く開けているのだが、木曽路に入ったとたんにかなり急峻な山道を進む必要がある。

 

こうした事情も相まって大坂・京から美濃へは琵琶湖経由の中山道、美濃路を通って東海道へアクセスし駿河、相模へと向かうという行程を取る人が大半なのだ。

 

ちなみにこのルートはこの時代既に日本の大幹線として成長しつつあり、俺が元いた世界の東海道新幹線や東名・名神高速の礎ともいえる存在になっている。

この交通量の多さを利用して商業需要を取り込もうとする発想が玉ノ井の湊建設のそもそもの考え方だったりする。

 

今後はその玉ノ井に加え、一宮もまとめて開発することになるので、これまで以上に大規模な開発が可能になる。

俺は今から楽しみで仕方がなかったが、ひとまずは新たな清州での暮らしを豊かなものにする必要がある。

そのためにも住居というものはとても重要なものだ。

 

 

 

「・・・ここが金槻の住まい、隣同士。」

 

ひとまずは通された部屋に上がり込む。暫く利用者がいなかったようで多少埃っぽいが掃除すれば許容範囲内だ。

また台所や五右衛門風呂、厠などは長屋の面々で共用となっているとのことだった。そして庭には生垣が生えており、その奥には案内人の前田犬千代の部屋があるということだった。

 

「へえ、お隣さんなのか。益々今後とも世話になるかもしれないな。よろしく頼むよ前田殿。」

 

「・・・犬千代でいい。こちらこそよろしく、金槻。」

 

隣にいるのは前田犬千代、俺が元いた時代では前田利家という名前で知られる猛将だ。

先ほどの仕官の席にいた長秀さんや勝家よりまだ若いためか、比較的下級の武士の住居区であるここに住んでいるようだ。

元いた世界で陰キャオタクを極めていた俺もあまり人のことは言えないが、口数は少ない。

しかし不愛想という訳でもなく、なんというか、妹のような感じの接し方が一番いいのかもしれない。そういうキャラの持ち主だ。

 

 

「・・・それじゃあお昼にしよう。今日はご馳走する。」

 

そういって犬千代は俺の部屋を真っすぐ通り抜け、庭の生垣を飛び越えて自分の部屋に向かっていった。そういえばもうそんな時間だったか。仕官の緊張もあってか、時間を忘れていた。

というか生垣を悠々飛び越えるあたり、犬千代も流石戦国武将だ。身体能力が半端ない。

俺も多少鍛えないとなぁと思いつつ、犬千代を追いかけて庭に向かう。

 

犬千代は自分の長屋からざるを2つ持ってきて一つを俺に手渡した。

 

「・・・じゃあ、採ろうか」

 

そういっていきなり家の生垣の葉をちぎりだした。俺は一瞬固まる。

 

「・・・あのー犬千代サン?これは一体・・・?」

 

「・・・うこぎの葉っぱ、茹でるとおいしい。あと根っこは煎じると薬になる。

精がつくし、商人に売ればお金になる。」

 

割と慣れてきたと思っていた戦国時代の風習に、久々のカルチャーショックを受けた。

川並衆の集落ぐらしでそれなりに普通の食事を取れていたから忘れていたが、この時代、米や魚はかなりの高級品なのだ。

 

今度玉ノ井に行く時に、鮎を釣ってきてご馳走してあげようと心に誓った。

 

 

 

「案外バカに出来ないなこのうこぎの吸い物。意外といけるじゃん。」

 

「・・・よかった」

 

見た目はただの生垣なのに以外と食えるのが不思議なうこぎの吸い物をご馳走になりながら、俺は清州での新生活に必要な物の買い出しについて考えていた。

 

「うーん、まぁここに常にいる訳じゃないから家財道具全部持ってくる必要はないか。

とりあえず布団と家具類だな、あと消耗品も後で買い出しに行くか。あぁ、今更ながらニトリが恋しい・・・」

 

「・・・似鳥?なにそれ。」

 

「ああ、俺が元いた時代の商店だよ。この時代だと布団は布団屋にしか売ってないし畳は畳屋、箪笥は箪笥屋でそれぞれ買うしかないだろ?

もちろん俺がいた時代にもそういう職人の店はあったけど、それぞれ別個に発注するのも手間だからな。

ニトリっていう店は家財道具一式を城みたいな大きな店舗を構えて纏めて売ってたんだ。そうしたらわざわざ店を回らなくてもその1店で道具が一式揃うっていう訳。」

 

「・・・かしこい。」

 

「うん、まぁニトリは家具類一式って感じだったんだけど、他にも食品系ならイオン、工具ならコーナン、日用品ならコンビニとか薬局って感じだった。

たぶん薬局はこの時代にも薬とか漢方の店としてあるだろうけど、俺のいた時代だと薬の他にも日用品はなんでも売ってたから、そこに行けば大抵のものは揃ったよ。

高級志向なものになると百貨店になるけど、あれはどっちかっていうと市場の進化系だったかなぁ。」

 

「・・・未来の話、おもしろい。もっと聞かせて。」

 

「おう、いいぞ。そういった何でも揃う店の最終進化がコレだった。」

 

「・・・さっきのからくり?」

 

「これはスマホって言ってな、さっきは写真を使ったけどこいつの本当の使い道はこんなものじゃないんだ。

これで世界中にあるありとあらゆるものが注文出来た。

アマゾンって言うんだけど、正直俺のいた時代なら、最悪外に出歩かなくてもこれ一つで何でも買えた。あとは勝手に運んできてくれて家に届くって寸法だったんだ。

そういえばオフラインで使えるアプリくらいならまだ見れるんじゃないかな・・・」

 

そう思ってアマゾンのアプリをタッチする。ビンゴだ、1か月前のトップページがそのまま開かれていた。

 

「ほら、こんな感じだ。あとは注文するっていう所を押せばそのうち荷が届くようになっていた。」

 

「・・・すごい、ところでなにこれ。」

 

聞かれて俺は画面をもう一度見て固まる。アマゾンのおススメ商品にはコミケとかでよく見かける某アニメの抱き枕カバーが表示されていた。そういえばこの時代に飛ばされる前、ゲーム始める前に注文してたっけ。

 

というかヤバい、俺が元いた時代の時間もそのまま進んでいたとしたら、俺は行方不明のまま1か月が経過していることになる。

流石に自宅にアマゾンから抱き枕カバーは届いてるだろうし、下手したら警察とかが両親の目の前で行方を捜すヒントになるかもしれないからとか言って強制的に開封しているんじゃないだろうか・・・。

両親が俺を探す最後の手がかりとして警察立ち合いのもと開けた段ボールから、形容しがたい抱き枕カバーが飛び出してきた瞬間の絵面を想像して冷や汗が大量に噴き出した。

というか元の世界の事より目の前の虎(の皮を被った犬)だ、こいつをなんとかせねば。

 

「えっと・・・なんていうんだろ・・・春画?」

 

「・・・金槻って、ひょっとして結構助平?」

 

なんか色々泣きたくなった。

 

 

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