織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
尾張・清州城本丸御殿
「・・・以上が、先ほど清州の街であった騒動についての報告です。」
清州での信勝との騒動の後、俺と犬千代は信奈に報告を行っていた。
「デアルカ、仕官早々災難だったわねお金。
信勝の件については刃傷沙汰にならなかったからひとまず捨て置くわ。
ただこれを機に本格的に兵をあげられると厄介ね・・・」
「それについては、恐れながら俺に考えがございます信奈様。」
「言ってみなさい。」
「はっ、先ほどの騒動で俺が信勝どのを見て思ったのですが、信勝どのにはそこまでの戦意はありません。
本当に争いたいのなら俺などとっくに斬られておりました。
おそらくは信秀公から信奈さまへの代替わりを快く思わなかった者たちが担ぎ上げているだけでしょう。」
「ええ、確かにその通りよ。勘十郎にはそこまでの甲斐性は無いわ。」
「であれば、その信勝どのを担いでいる面々を叩くのが常道となります。
しかし彼らの率いている兵は尾張の者たち、殲滅などすれば自分の首を絞めることに繋がります。
つまり、双方の兵を損なうことなく大勝するということが今後の戦略を考える上でも肝要となってまいります。」
「・・・金槻、簡単に言う。」
「実際そう難しい話でもないさ犬千代。
特に今回の状況は元々こちらが有利、いくらでも作戦の立てようはある。」
「お金、もったいぶってないで早く言いなさいよ。」
「それでは・・・」
俺は信勝が攻めてきた場合の作戦を信奈と犬千代に開陳した。
ちょっとズルい気もするが、今の俺は戦いについては未知数という戦力外であり、持ち合わせた知識でチートするしかないのだ。
翌日、玉ノ井湊
俺は信奈との対信勝作戦会議の後、そのままうこぎ長屋に押し込んだ新品の家財道具をほったらかしにして郡代としての仕事のために一宮へむかった。
一応見知った顔も来るとは言え、流石に初顔合わせに遅参するのは不味かった。
なんとか一宮の集落には間に合い、予定通り民との談話に臨む。話では今後河川の灌漑を進めたいという意見が出たので今後予定しているこの一帯の開発リストに加える。
元々一宮や玉ノ井は今後大規模な開発が必要になる場所であり、その中には新たな農地の開墾や市街化される農地の代替地の用意などもあったのでそこに加えておいた。
また民たちの中には足軽稼業をしている者も多く、その中の比較的若い面々の一部を今後俺の旗本として兵士専業とすることになった。
今後侍の身分に順次戻していく予定の川並衆と合わせて、俺にとっては初めての家来衆ということになる。
仕事を済ませた後、そのまま玉ノ井の屋敷に戻り昨日はそこで泊った。
暫くはこういった清州と玉ノ井を行ったり来たりという生活が続く。
そして朝、俺はいつも通り朝食をのんびり作っていたが、そこに早馬が駆けこんできたのだ。
「小笠原金槻どのはおられるか!」
「朝からどうした、騒々しい。」
「それが、火急の要件にございます。信勝さまが挙兵されました!」
「なんだと!」
俺が想定していたよりも早く、信勝が動いた。
一応信奈には俺の作戦は伝えているし、賛同も得ている。
恐らくは予定通り動いてくれているはずだが、なにぶん時間が短かった。
こういう時には思っていた動きが出来ていない場合もあり得る。
俺は急ぎ甲冑を着込み清州へと向かうこととなった。
「姫、一大事にございます!信勝どの、挙兵いたしました!現在兵2千を率いてこちらへと向かっております。大将は勝家どのとのこと!」
朝早く、私は万千代の声で目が覚めた。
昨日の騒動から僅か1日での挙兵、明らかに早すぎる。
「さては勘十郎、昨日の件が起こる前から準備させていたわね。万千代!法螺貝で全員を早く起こして!そしてすぐに身支度を整えること!」
そう万千代に告げ、急ぎ戦支度を始める。
ついに兵を出した以上、このお家騒動は負けられない戦いとなった。
相手の大将は信勝付きの家老である六だ。
信勝自体は大したことないが、六相手となるとこちらもただでは済まない。
しかし負けてやるつもりも毛頭ない。
こうなった以上、敵味方の損害を軽微に済ませつつも大勝することが求められる。
そんな私が選んだ作戦は
「全員、急ぎ城から脱出!各々身を隠し次の指示を待ちなさい!」
清州城からの退去だった。
一方の信勝陣営、信奈の読み通り事前に出陣の手筈を整えていたため、信勝の帰城後すぐの出兵となった。
先陣を切るのは家老、柴田勝家だった。
「ああ、姫さま。あたしは信勝さまを止めれませんでした。
このまま当たればまず間違いなくあたしが勝っちゃう・・・
どうしたらいいんだ・・・」
しかし勝家軍の士気はどん底と言ってもいい状態だった。
元々乗り気じゃない戦であり、しかも兵にとっても尾張の同族同士の争いである。
士気が高いのは信勝をけしかけた諸将くらいのもので、殆どの者はこの戦いの意義を見出せずにいた。
そうこうしているうちに清州が近づく。ここまで来ればもう引けない、勝家は覚悟を決めて馬を走らせた。
「ああもう!行くぞ!この戦は我々が勝つ!こうなった以上すぐにけりをつけないと今川が来る!その備えのためにもすぐにこの戦を終わらせるのだ!!」
勝家を先頭に清州へ突っ込む信勝軍、そんな彼らが見たのはもぬけの殻となった清州城だった。
敵がいないので拍子抜けする信勝軍の将兵、戦闘にいた勝家は既に清州の門が開かれており、その門前に一枚の看板が立てつけられているのを見つけた。そこには
「勘十郎!六!覚えてなさい!この借りは必ず返すわよ! 信奈」
とだけ殴り書かれていた。 信奈たちは既に敗走していたのだ。これで信奈方の拠点は犬山と那古野だが、末森と清州の間にある那古野は先ほど通ったが兵が多く入っている様子もなく。
こちらは既に後続がほぼ無傷で落としたという報が入っている。
つまり信奈は犬山に敗走したのであった。
「ど、どういうことだ?あの姫さまが戦わずして敗走するなんて・・・
ひ、ひとまず勝鬨を上げろ!清州城内で一度那古野からの部隊や信勝さまを待って次の作戦を決める!」
もぬけの殻の清州城内に勝鬨が上がるとすぐ、後続の信勝たちが入場してきた。
「勝家、もう城を落としたのかい!早いよ!」
「いえ信勝さま、それが清州は既にもぬけの殻でございました。」
「ハッハッハ!そうかそうか!姉上もようやく立場が分かったようだね!犬山で僕の苦労を味わってもらうよ!。」
昼前には、出兵した全ての信勝軍が清州へ入場し、城下町は何事も無かったかのようにいつも以上の賑わいを見せていた。
その雑踏は、清州でよく顔を見る人たちばかりだった。
「お金、あなたの読み通り信勝も六も場内に入ったわね。」
「はい、ここから一気に巻き返しましょう!」
清州の街の団子屋で時を待っていた信奈と金槻は、最高のタイミングで再度、法螺貝を鳴らした。
ちなみに俺は馬を飛ばしてなんとか開戦には間に合った。
すると街に繰り出していたほぼ全ての人が突如店の中に入っていき、直後清州中の店から武装した足軽たちが現れ、たちまち清州城を包囲した。
「よし!上手くいった!空城の計がここまで上手く決まるとは思わなかったぞ。」
そう、金槻が信奈へ進言したのは空城の計だ。
信勝の進軍を察知した時点で一度兵を散り散りに城から出し、周囲の街に潜伏させたのだ。
何も知らない信勝軍は清州へ脇目も降らずに突撃する。
しかも先陣は脳筋な勝家、何も疑うことなく全員がすっぽり場内に入ったのを見計らって、法螺貝を合図に四方を囲んでしまったのだった。
清州の街の商人に顔が広い金槻ならではの作戦と言えた。
「やったわねお金!これで勘十郎たちは袋の鼠よ!これであとは煮ても焼いても良いって訳ね。これは大きな手柄よ!
万千代!あんたはまず那古野の奪還に動きなさい。清州の様子を伝えてあげたらすぐに開門するはずよ!」
「かしこまりました、清州は姫と金槻どのにお任せいたします。ここまでは80点です。」
長秀に那古野を任せ、俺と信奈は囲んだ信勝軍をどうするかの検討に入った。
既に場内の様々な物資は持ち出してきており、鉄砲も矢も米もない状態の城に信勝は入ったことになる。
恐らく今頃米蔵がすっからかんで焦っているころだろうか。
「お金、ここまではあんたの策がぴったり嵌ってるわ!でも問題はここからよ。
今川に気取られないうちにこの騒動を鎮めなくちゃいけないわ。
案を出しなさい!この作戦を考案したのはあんたよ。
ここは任せるわ。」
「はっ、それではまず門の包囲を継続したまま、城内の勝家どのと信勝どのに使者をだします。
内容は、ここで降れば兵の助命を行うと。また将についても首は取らないと伝えます。
またこのことは城の外で包囲中の兵にも伝え、早く降ってくるよう外より城内に向けて大声で叫ばせます。
元々士気の低い信勝の兵はこれでどんどん投降してくるでしょう。
兵がいなくなればいくら猛将の勝家どのとて戦えませぬ。」
「そうね、それじゃあその手筈を整えなさい!今日中に終わらせるのよ!」
「はい!」
その後、城に使者を送り包囲中の兵士に「早く降りてくるみゃー!」とか「信奈さまはお怒りじゃないみゃー、兵はそのまま帰ってもらうって言ってるみゃー!」などと城内に向けて叫ばした。
ほどなくして城から兵が少しずつ降りてきた。
そのペースは次第に早くなっていき、2時間ほどで千五百ほどの兵が降った。
これで城内には僅かに残った兵と信勝派の将たちのみとなる。
「よし、それじゃあ仕上げだ!日が暮れるまでに投降しないと城を焼くと伝えろ!」
「え、ちょっとお金!それはダメよ!ここ一応わたしの城なのよ!」
「勿論本気で焼き討ちするつもりはございませんよ信奈さま。
しかしそういう姿勢を見せておくことで彼らも降らざるを得なくなるでしょう。」
信奈に意図を伝え、再度使者を送る。
あとはどういう反応が返ってくるか待つばかりだった。
日暮れになり、城からぞろぞろと残った兵たちが出てきた。
ようやく投降を決心したらしい、その中には白装束を着た勝家の姿もあった。
「姫さま、この勝家が付いておりながら此度の謀反を止められませんでした!責任は全てあたしにあります!どうかこの首一つでお収めください!!」
「いや、最初から首は取らないって使者送ったでしょう?
それにあんたがいなくなると今川戦はどうするのよ。
六は減封の上わたし付きに配置転換。
ついでに今回功績を上げたお金と同格の練兵奉行に任ずるわ。
もう一度頑張りなさい。」
「うわあああああん!折角ここまで頑張ってきたのに新参のお金にもう並ばれたあああああ!」
「ま、まぁ勝家さん。俺は武芸はからっきしだから、戦場で動ける勝家さんならまた出世できるって。」
「次に信勝側についた将については改易よ!命は取らないでおいてあげるからやる気があるならもう一度這い上がってきなさい!
そして勘十郎。あんたはこれまでも度々謀反を起こしているわ。今回は流石に打ち首としたい所だけど、一応使者で伝えちゃったから首だけは取らないでいてあげる。」
「あ、姉上!この勘十郎。愚かな真似をしてしまったと反省しております!どうかお許しください。」
「黙りなさい。あんたは織田の名をはく奪、分家の津田を名乗りなさい。
また今後母上との接触は禁ずるわ。今回もどうせ母上にそそのかされたのでしょう?」
「は、はい。確かにその通りです・・・。」
「あんたが母上のそばにいると絶対また何かするでしょうから、これは母上に対する罰でもあるわ。
次何か間違いを起こせば今度は必ずその首を取るから、肝に銘じておきなさい。
そしてあんたはお金の下で働くこと!お金、私に構わず好きに使ってちょうだい。」
「はっ、それじゃあ勘十郎。今後ともよろしくな!」
「え、笑顔が怖いよお金くん・・・」
「おい、主人に対してお金とはどういう了見だ?」
「ひ、ひぃ!申し訳ありませんでした金槻さま!誠心誠意お仕えいたします!」
「よろしい♪」
その後この戦に関しての論功行賞が行われた。
俺は勲功一等として信勝改め津田信澄を配下に加えることとなった。
他には勝家の信奈つきへの配置転換、那古野を奪取した長秀さんの那古野城代就任、信勝の居城であった末森城への城主に佐久間大学の就任などが決められ、信勝謀反騒動は幕を閉じた。
その夜の祝勝会
俺は、末席にいた。ちょっと前まで信奈のすぐ横にいた勝家が対面にいるのが少し可笑しい。
まぁ末席とは言っても参加者は信奈、長秀さん、犬千代、俺、勝家だけなので宴会というよりは家の食卓のような感じに近いものだったが、こうして全員で食事というのも初めてだった。
「お金!今日は本当にいい仕事だったわ!」
「金槻どのの策のお陰でこちらの損害はほぼ0でした、満点です。」
「いえいえ、私は前日に策を提案したのみです。
実際に兵が動いた時、私は玉ノ井でしたから。
手早く私の策を実行して下さった信奈さまのお陰でございます。それにまさかここまで上手く嵌るとは到底思っておりませんでしたので。」
「おいお金!それは私の戦が下手だったってことか!」
「いや勝家さん。突っ込むのはまあいいんだけど、あれだけもぬけの殻だったら普通何か疑うでしょ。
まぁ怪しむことなく入場した信澄もだけど。」
「・・・金槻は案外戦でも頭が回る。軍師向き。」
「いやいや犬千代、今回は相手が猪武者だったから何とかなっただけでこれが普通に軍師のいる軍だったら俺の付け焼刃の戦術じゃやっぱり厳しいよ。」
「うわあああああん。猪武者って言われたああああああ!自覚はあるんだよあたしだって!!」
「勝家どの、自覚があるんだったら改善なされませ。30点。」
「長秀まで!!」
楽しく夜は更けていく。宴も終盤に差し掛かり、いい感じにお酒が回ってきた時だった。
既に勝家は潰れていたので、長秀さんと犬千代が寝かせに行っており、この場には俺と信奈の2人きりだった。
「そういえばお金、あんたわたしに対してやけによそよそしくない?」
「はぁ、いやまぁ確かに意識して言葉遣いは変えております。
しかし主君と家臣ならそういうものでは?」
「まぁ普通ならそうなんだけどね、なんかあんたに恭しくされるのってむずがゆいのよねぇ・・・。
そうだわ、お金!あんたこれから私に対して敬語禁止!これは主君命令よ!」
信奈は酔っているのか、いきなりそんな命令を下してきた。
「いきなり何を言い出すのですか・・・まぁ構いませんけど。
じゃあ・・・信奈?」
「な、何よ・・・?」
「これからもよろしくな!」
「な、なんかこれはこれで恥ずかしい感じがあるわね・・・。」
「そうか?なら普通にしてもいいけど。」
「いや、それでいいわ。あんたは自然体でやっていくのが一番似合いそうだし。」
「分かったよ。だけどまた戻してってのは無しだぜ。」
そんな俺と信奈の会話をふすま越しに聞いていたのは長秀さんと犬千代だ。
「おやおや、何やら良い雰囲気ですね。90点。」
「・・・姫さま、もしかして金槻のこと相当気に入ってる?」
「どうでしょう、どちらにしても今日は信澄どのを斬らずに済みましたし、姫には100点満点を差し上げましょう。」
2人が戻ってきた後も、信奈と金槻は自然体での談笑が続いたのであった。