織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第14話 正徳寺会談(上)

尾張・美濃国境中立地帯 正徳寺

 

 

信勝の謀反から数日後、織田信奈は斎藤道三との同盟交渉の席へと向かっていた。

場所は正徳寺。木曽川沿いにある寺社勢力で、織田・斎藤のどちらにも属していない中立地帯である。

とはいっても敵対しているという訳ではなく、金槻の玉ノ井湊の開発には協力的であり、実際会議の席には寺内町の商工会共々参加していた。

そういった伝手もあり両家の会談場として道三から白羽の矢が立った(実際に調整を行ったのは金槻と川並衆なのだが)。

 

俺はその信奈たちの部隊に先んじて正徳寺に入っていた。

ある人に会うために。

 

「・・・藤吉郎さん、来たよ。」

 

そう、それはもうこの世にいない人。

俺を文字通り命を張って助けてくれた恩人、木下藤吉郎だ。

 

墓は1週間ほど前の玉ノ井会議の日の夜に納骨のために訪れたばかりだが、連日晴れであったからか花は萎れていた。

俺は墓前で両手を合わせ瞑目し、花の取り換えに取り掛かった。

 

「金槻どの、ここにおられましたか。」

 

ふと後ろから声をかけられる、そこには光秀が立っていた。

思えば光秀とも玉ノ井会議以来の再会であるが、それ以降も道三との日程調整で文のやり取りをしていたためそこまで久しぶりな感じはしない。

 

「おや、これは光秀どの。お早い到着ですね。」

 

「私は会談の準備のために先行してきたです。

来てみたら正徳寺の僧が金槻どのも来ていると言っていたので探してたのですよ。」

 

「そうでございましたか。私も信奈さまから先行して来ておりましてな、ちょっとした野暮用を済ませていたところでした。」

 

俺の言葉を聞いて、光秀は奥の墓石を見て俺に聞いてきた。

一応光秀は斎藤家の人間なので信奈さまと言っておく。

 

「その野暮用がこの墓ですか、一体どなたの墓なのです?」

 

「・・・彼は俺の命の恩人です、名は木下藤吉郎。

俺が今川家と織田家の戦に巻き込まれて死にかけていたところ、命を賭して助けてくださったのです。

普段は玉ノ井の川並衆がたまに来ては墓の面倒を見てくれてはいるのですが、今日は信奈さまの準備もありましたので早入りしてこうして来た次第です。」

 

「そうでしたか、それは邪魔をしたですね。

暫く待っておりますので、先にお済ませくださいですう。」

 

そう光秀に言われたので俺は手早く花の入れ替えを済ませ、ついでに蝋燭と線香に火を点けて再度手を合わせた。

 

「また来るよ、藤吉郎さん・・・

さて、お待たせしましたな光秀どの。」

 

「いえいえ、それでは会談の準備を始めるです!」

 

俺と光秀は正徳寺の本堂へと戻っていった。

 

「そういえば光秀どのには詫びないといけないことがございましたな。」

 

「はあ、何かありましたですか?」

 

「いえ、玉ノ井で会議した後何も言わずに織田家に仕官した件、誠に申し訳ありませんでした。

光秀どのにはご面倒をおかけしました。」

 

「ああ、そのことですか。金槻どのの意図は手紙で頂いておりますので詫びることじゃないですう。

ただ、なぜ織田家に仕官したのですか?やはり出世のためですか?」

 

「いえ、そういう訳ではないのです。

まぁ結果的に出世することにはなるでしょうが・・・

ちょうど良い機会です、俺の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

 

俺はここで光秀に全てを語ることにした。

俺が実は未来から来た人間であること。

さっきの藤吉郎の墓はその時の出来事だったこと、藤吉郎は織田家で出世する未来であったこと。

 

 

光秀は俺の言葉に衝撃を受けていた。そりゃ誰だっていきなり未来から来たなどと言われれば驚くか。

 

「・・・以上が、俺がここに来てから今までの行動の理由です。」

 

「な、なるほどです。確かにそういう理由があれば織田家への仕官は必定ですう・・・。」

 

「まぁ、今の話は理由のほんの一部に過ぎないんですけどね。

実際に俺が木下藤吉郎の進んだ通りのことを続けても同じ通りに行くとは限らんし、上手くいったとしてもその先の未来は必ずしも明るいものばかりでもないので・・・

ここからは理屈じゃなくて俺の本心なんですが、信奈さまはこの時代の価値観には革新的すぎて他の人々から受け入れられない所が多少なりともあります。

どちらかというと俺がいた500年後の世界の価値観に近いものを持ってますので・・・

光秀どのも十分に革新的な考えを持っているが、彼女のそれはこの時代にあっては異常と捉えられる。

そんな彼女を支えたいというのが今の俺の気持ちです。」

 

そう、俺は色々理由を付けてはいるが結局のところ信奈を支えたいという気持ちが今は一番強い。

先日の祝勝会の時に感じたことだが、信奈は意外と甘えたがりな所がある。

普段は織田家の君主として毅然と振舞っており、長秀さんや勝家、犬千代にしか素の表情を見せないが、信奈だって中身は少女なのだ。

あの年で信頼していた父を失い、母には嫌われ、弟には裏切られた。その苦悩は計り知れないだろう。

 

そんな信奈が新参の俺にはやけに緩い。

これは俺が未来から来て身寄りが無いということが理由だと考えている。

家族を実質失っている者同士という共通点があるうえ、未来からきた俺には既存の身分には当てはまらない。

つまり異人と一緒だ。

以前に長秀さんから少し聞いたが、信奈は君主になる以前はよく津島の湊で宣教師の話を聞いていたのだという。

今は俺がその宣教師の立場ということだろう。

 

それに俺自身、信奈に頼られるのは悪い気はしない。

信奈は傾いてはいるが、目の前にいる光秀と同等かそれ以上の美少女だ。

というか姫武将は基本的に絶世の美女しかいないのだが、信奈はその姫武将たちの中でも特段輝いて見える。

しかしその光は強くても脆く感じるのだ。

光は一度崩れるとたちまち燃え上がる炎に変化する、元々の織田信長の歴史を知っているからか、そんな気がしてならない。

俺はこの光を守りたいと最近はそう強く感じている。

自分で歴史を変えると決心して織田家に入り、織田信奈という少女と交流を重ねた今、彼女の目指す未来を見てみたいという想いは自分の行動の指針となっていた。

 

「なるほどです。しかし尾張のうつけ姫と言われる信奈どのはそれほどのお方なのですか?」

 

「まぁそれはこの後の会談で直接確かめてください。

俺は少なくともこの日ノ本で天下を統べるべきは信奈さまをおいて他にはいないと確信しています。

もちろんこの先の日ノ本がたどった未来を知っているが故に言えるというのはありますが、長く戦乱に明け暮れていたこの国を世界に引っ張り上げることができるのは彼女しかいませんから。」

 

「世界・・・ですか。

確かに今の戦国大名の中で天下統一後のことまで頭が回る者は少ないです。

金槻どのが推す信奈どの、私もしっかりと見させてもらうですう。」

 

 

 

この暫く後、斎藤道三の部隊が先に正徳寺に到着した、信奈が来るのはまだしばらく後なので、俺は道三も交えての打ち合わせに入った。

 

「お初にお目にかかります、斎藤道三どの。俺は小笠原金槻と申します。

此度は会談の要望をお受けくださりありがとうございます。」

 

斎藤道三とは手紙で数度連絡を取り合ったものの、直接の会話はこれが初めてである。

思えば有名な武将で男武者はこれが初めてだ。

歴戦の戦国大名らしく堂々とした佇まいの持ち主で、年の割には体格もがっちりしている。

禿げてはいるが多くの経験をしてきた自身とでも言えそうな圧をまじまじと感じた。

 

「ふむ・・・お主が十兵衛を手玉に取った玉ノ井湊の頭領か。

確かに雰囲気は商人気質というか、裏のある顔をしておるわ。」

 

道三の発言に対し俺は微笑みを返しながら

 

「そのことについては、騙すようなことをして悪かったと光秀どのにもお詫びしております。

また銭の分配については約束を違えるつもりはございませんので、重ねてご安心ください。」

 

と答えておく。

 

「いいや、だまし討ち上等じゃ。それがこの戦国の習いじゃからのう。それに十兵衛にも良い経験になったじゃろう。

それとお主にも言っておくが、ワシは会談を受けると伝えたのみでうつけ姫と同盟すると決めた訳ではないからの、それはお主も分かっておろうな?」

 

「勿論でございます。織田家との同盟を成すか否かは信奈さまとの会談によってお決めください。

ただし、織田家との同盟を受け入れられぬのであれば、今まで通りの玉ノ井の権益を得続けることは難しくなりましょう。そこは覚悟されよ。」

 

「ふむ・・・このワシを脅すか。お主、若いが中々に肝が据わっておる。しかし甘いのう。」

 

 

そう呟き道三は右手を上げる。次の瞬間、この本堂の回りを兵に取り囲まれてしまった。

俺は内心甘かったと後悔して舌打ちした。

 

「これは・・・どういうおつもりかな道三どの?」

 

「何、簡単なことよ。ここでお主の首を取り、玉ノ井を奪えば盤面をひっくり返すことが出来るでのう。先ほども申したであろう?だまし討ち上等じゃわい。」

 

「ふむ・・・道三どの。俺の首はそこまでして取る価値があるとお思いか。

そこまで評価していただけるとは思って無かったです。」

 

「見合った評価じゃと思うがのう。

この1月で全くの無名だったお主が今や周囲の商人には知らぬものがおらず、伊勢や京にまで名が広まっておる。

そして織田家のお家騒動の件でもお主が何やら画策しておったと聞いておる。

それにワシも美濃を預かる者として、タダで織田家と同盟という訳にはいかぬのでな。」

 

「ふむ、でしたらこの同盟が斎藤家にも利があるとご理解いただければこの首は繋がっておけるのですかな。」

 

「まぁ、そういうことじゃのう。

ワシらにとって織田家と同盟するということは、武田と事を構えるということに等しいからのう。

奴らと一戦交えるために得る利益が玉ノ井の権益の僅か3割はちと割にあわんわ。」

 

「はぁ・・・仕方ありませんね、それでは私の考えているこの先の絵をお見せしましょう。

既に光秀どのには密かに知らせておりましたが、俺もタダで道三どのと盟を結ぼうとは思っておりませんから。

ただこれは信奈さまにもまだお伝えしていないこと、信奈さまの到着を待ってからで構いませんかな?」

 

「ふ、ふ、ふ、面白い、よかろう。お主たちは下がっておれ。」

 

道三はひとまず兵を下げてくれた、これで一旦首は繋がったことになる。

しかしこの時点で正徳寺に織田方は俺一人、流石に軽率すぎたし、道三を舐めていた。危うく首が飛ぶ所だった。

 

かくして、俺は道三、光秀の対面に腰かけて信奈の到着を待った。

 

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