織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第17話 急報

「それでは、午後の評定を始めます。

今回の議題は、対今川の戦略とその後の方針についてです。

まずは対今川の作戦について意見がある方は手を上げてください。」

 

休み明け午後の評定では、予定通り今後の動きについての検討が行われていた。

ただその内容は専ら対今川の動きについてであり、意見は籠城して同盟した斎藤家の援軍を待つというのが主流となっていた。

通常であればその意見が常道のように思えるが、既に浅井が動き出している以上、謀反により援軍はこないと見るべきだ。

今その情報を握っているのはこの場に俺一人であった。

 

「・・・それでは、対今川の基本戦略は籠城、その後斎藤家の援軍と協調し撃破を狙うということでよろしいでしょうか?」

 

進行役の長秀さんもこの件には特段反対意見は無いらしく、方針は纏まりつつあった。

 

「申し訳ない、少しよろしいか!」

 

「おや金槻どの、何か他に案がございますか?」

 

「まぁ案といいますか、つい先ほどの昼休みに私の手の者が気になる動きの情報を持ち込んできておりまして、それが事実だとすればこの籠城案は根底から覆りますので、この場で申し上げたいのですがよろしいでしょうか?」

 

途端に諸将が怪訝な目を向ける。纏まりつつあった意見に水を差したのだから当然だった。

 

「許すわ、何かあったの?」

 

上座で黙ってこの評定を眺めていた信奈から許しが出たので、俺は広間の中央に進んで言葉を選びつつ五右衛門から得た情報を開陳した。

 

「実は先だって俺の忍びに近江の浅井を探らせていたのですが、ただならぬ情報をつい先ほど持ち込んでまいりました。

内容は浅井長政が信奈さまとの婚姻同盟を目論んでいるというものです。」

 

「浅井が?なんでまた急に・・・。ていうかお金、あんた正徳寺の会見の時に浅井とは同盟を結んだ方がいいって言ってたじゃない。

確かに婚姻同盟っていうのは引っかかるけど、そこまで珍しい話じゃないし、織田家にとってもマズい話じゃないじゃない。」

 

「いえ、その同盟の動きが不味いのです。

確かに私は織田と浅井は手を結ぶべきだと考えておりますが、それは信奈さまが美濃を抑えられて、浅井にたいして強く出れるようになってからの話。

現状の力関係では浅井の方が格上、こちらにとって都合の良い同盟とはなりますまい。

それに、浅井長政は信奈さまとの婚姻を強引に進めるため、美濃を動かそうとしております。

実は美濃では道三どのに謀心を抱く息子、義龍どのを中心とした謀反の気配があります。

その義龍をたきつけているのが長政と思われるのです。

もし義龍が美濃を謀反で抑えた場合、道三どのは最悪討ち死に、美濃も譲る形ではなく強引に取る必要が出て来ます。

しかも譲り状の件がある以上、必ず義龍どのは信奈さまの敵となります。

これでは今川と斎藤に挟み撃ちになり織田家は窮しますし、その時に浅井から斎藤の背後を突くという伝えが来れば我々は不利な同盟を飲むしかなくなります。」

 

ひとしきりの説明を一気に終える。もしその状況に陥れば味方が来ない中での籠城戦ということになり、これはほぼ詰みを意味する。

俺が持ち込んだ情報は諸将にもかなりのインパクトを与えたようで、一度決まりかけた議題が再度混沌とし始めた。

 

「金槻どのの意見が正しければ、確かに籠城は危険だ。」

「しかし野戦したとして勝てる訳がなかろう?」

「そもそもその情報は正しいのか?」

 

などなど、自分が起こしたものとはいえこれでは会議は踊るだ。

 

 

「勿論私の持ってきた情報が必ずしも正しいとは限りません、偽を掴まされている可能性もあります。

そこで、もし義龍どのが美濃で謀反を起こした際には道三どのをお救いするように私の手勢、川並衆に伝えております。

彼らは私の私兵に近い存在、念のために動かしておいても問題ないと判断して先んじて手を打たせていただきました。」

 

「デアルカ、流石よお金。確かに斎藤家に謀反の疑いがある以上、今川の戦略を決めるのは容易ではないわ。

ひとまず今川戦については保留、今の国境警備を継続するわ。

今川、松平に動きが出たらすぐに対処できるように、各将は今のうちに戦支度を進めておいて頂戴。

またお金の情報の確認と警戒のため、美濃との国境にも兵を配置するわ。配置は犬山から玉ノ井にかけてよ。

また何かあった際の即応隊として一宮に千の兵を配置するわ。この美濃対応の兵の指揮は犬千代が執りなさい。あの辺り一帯に詳しいお金を補佐につけるわ。

お金は最前線の玉ノ井で犬千代を助けつつ引き続き美濃の内情調査を続行、何かわかればすぐに私に伝えて。

即応隊は犬千代の権限で好きに動かしていいわ。今川への対応も必要だからそれ以上は現状美濃に向けられないから頼んだわよ。」

 

「・・・分かった。金槻、お願い。」

 

「了解、お任せを!」

 

俺は犬千代の補佐として、不穏な動きのある美濃への押さえを仰せつかった。

また他の諸将も戦支度を進めることとなり、慌ただしく評定はお開きとなった。

 

 

各自ぞろぞろと引上げ始めようとしたその時、急報が舞い込んできた。

 

「姫さま!美濃より明智十兵衛光秀どのが参られております。

美濃より約定の姫を連れてきたとのことです。

また急ぎ伝えたいことがあるとのことで面会を求めております!」

 

「!!すぐに通しなさい!みんなもまだ引き上げないで、ちょっと待って!」

 

何事かと諸将が三度ざわつき始める。

俺は薄々光秀が持ってきた連絡の中身に思い至ることがあり舌打ちした、一歩遅かったか・・・

 

「信奈さま、お久しゅうございますですう。明智十兵衛光秀でございます。

先日の正徳寺で約束いたしました、帰蝶さまをお連れしました。」

 

「デアルカ!それよりも今は聞きたいことがあるの!とりあえず急ぎの件を話しなさい。」

 

「は、はいです。実は先ほど美濃で道三さまに反旗を翻す勢力による謀反が発生いたしました。

敵大将は道三さまのご子息、斎藤義龍どの。恐らく今頃は既に稲葉山に駆け寄っているころと思われます。

しかし道三さまからは援軍不要の旨をうかがっております。

また私も暫くは織田家に滞在するように言づけを受けております。」

 

やはりだ、既に義龍は動いていた。これで織田家は選択を迫られることになる。

無理に道三の救出へ向かえば今川に後ろから刺される。

信勝謀反の時はタイミングを逸している今川からすれば次は絶対逃さないだろう。

一方で道三を無視すれば浅井による不平等同盟を受けざるを得ず、また今川の矢面に立たされ続けることは変わらない。

いずれにしても織田家にとってはかなり重たい選択だ。

 

「分かったわ、それで聞きたいのだけど、道三は私のことを何か言ってた?」

「はい、道三さまは信奈さまとは二度と会うことはないだろうと先日の会見後おっしゃっておられました。

今思えば既に義龍どのの謀反を睨んでいたのだと思うです。

そして、美濃をこのような形で未来ある若武者に渡せたことでもう悔いはない、後は信奈さまや十兵衛のような若者が新たな時代を切り開かれよと・・・」

 

この言葉を聞いた信奈は取り乱した。肩は小刻みに震え、目には涙が浮かんでいた。

今となっては信奈にとって道三は父親のような人だ。

織田家当主としてではなく、一人の少女の姿として小さく嗚咽を漏らしていた。

 

俺は悔やんだ。元々の歴史を知っている者として、信奈と道三の同盟がこういう事態を招く可能性は十分ありえた。

それに対応する作戦も練っていた。

しかし義龍に先を行かれ、信奈を泣かせてしまった。

歴史を動かすことの意味を甘く考えていたのかもしれない。

実際に今ここにいるのは俺と変わらない、人間なのだという意識が浅かった。

そして悟った、今の信奈にはまだ道三が必要なのだと・・・

今俺に出来ることは何か、戦闘経験が無いとか言っている場合ではない。

今動かねば取り返しのつかない事態になると、頭の中の何かが警鐘を鳴らしているように感じた。

 

「・・・ごめんなさい、見苦しい姿を見せたわ。本人の意思もあるし、織田家として援軍は送らない。

今は今川との戦に集中するときよ、浅井については恐らく・・・同盟することになるでしょうね。

十兵衛だっけ、あんたは確か玉ノ井の湊開発の美濃側の担当もしていたわね、だったらお金につけるわ。

丁度さっき美濃を睨んで動くように指示した所だから、犬千代とお金のことを助けてあげて頂戴。」

 

信奈はなんとか声を絞り出し、指示を終える。しかし目の腫れや評定から信奈の道三を見捨てるという選択は本意ではないということは誰の目からも明らかだった。

ここで一つの考えが頭に浮かんだ。

おおよそ勝ち筋の見えない、冷静に考えれば下策ですらない自殺行為とすら言っていい作戦。

しかし俺は、迷いなくその作戦を決行することに決めた。

守りたいものを守るため、全てが上手く行くという甘ったれた考えを捨てて、死地に飛び込むのだ。

ふと前を見ると、同じく美濃対応を任された犬千代、そして仕える主を救うという覚悟を固めているのであろう光秀が信奈との会話を終えてこちらに向かってきていた。

その顔は普段の2人とは比べ物にならない覚悟と覇気をまとった、戦国の武士とはこういうものだと体現しているようだった。

俺もあんな顔をしているのだろうか、自信はないが覚悟は固めた。

 

ここに戦国武将、小笠原金槻が産まれた瞬間だった。

 

「・・・光秀、よろしく。金槻、急ごう。」

 

「ああ、光秀どの。早速だが忙しくなる、よろしく頼む。」

 

「十兵衛でいいですよ、金槻先輩。それではひとまずは玉ノ井ですかね?」

 

俺たちは美濃の斎藤義龍に対応するため、玉ノ井の湊へ馬を飛ばした。

 

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