織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
少しのインターバルが明けた後、俺と信奈は2瓶目を空けていた。
「そういえば俺も信奈に話があったんだ。いろいろ忙しくて忘れてた。」
そういって俺は信奈に刀を差し出す、津島の武具商に頼まれていた信秀公の刀だ。
「ちょっと、いきなりどうしたのよ。」
いきなり刀を渡されて怪訝な顔をする信奈。
「いや、それ実は信奈への預かり物だったんだよ。刀に彫ってある銘を見てみな?」
俺がそう促すと信奈は顔に疑問符を浮かべながらもひとまず刀を抜いてみる。
次の瞬間、信奈は酔いもあって慌てて刀を落としそうになっていた。
「ちょ、ちょっと!金槻がなんでこんな物持ってるのよ!
これってもしかしなくても・・・」
「ああ。先代、信秀公の忘れ形見の刀だよ。
信秀公は生前、津島の武具商にそれを注文していたらしいんだ。
ただその後病状が悪化して当人は帰らぬ人に。
その後注文していたそれが届いたころには織田家は信奈、信勝で割れていたためどちらに渡すか窮していたそうだ。
俺は偶然その刀を買い取ることになってな、信奈か信勝に会う機会があれば渡してくれと頼まれていたんだ。」
「なるほどねぇ・・・
父上の遺品って大体は母上と勘十郎が引き取ってるから私の所には無かったのよ。
ありがとう金槻、これは大切にさせてもらうわ。
それとこの刀の代わりといっちゃなんだけど、ここまでの仕事の功労も兼ねて私からも刀を一振り譲るわ。
ちょっと待ってなさい。」
そういうと信奈は刀を手にして立ち上がり、部屋の奥を物色し始めた。
改めて部屋を見回すと、普段信奈が使っているであろう布団や今日の道三との会談で使った越後上布の着物の他、南蛮からの舶来品と思われる地球儀にワインのボトル、羅針盤や単眼鏡などいかにも信奈の好きそうなものが散らかっている。
この時代の人にとってはかなりの特異な部屋だろうか、そんな散らかった部屋の隅から信奈は一振りの刀を持ってきた。
「これがいいかしら・・・
うん、決めたわ。金槻にはこれを預けておくわ。」
今度は俺が驚愕した、その刀に俺は見覚えがあったのだ。
慌ててお猪口をお膳に置いて刀を受け取る。
「おいおい、これってもしかして『へし切長谷部』か!?」
「あんたよく知ってるわね、もしかして未来で有名になってた?」
「ああ、刀剣が好きな人間は大抵名前を知ってるようなものだ。
それに俺のいた時代にも残っていて展示されてる。
俺は旅行でこいつを見たことがあるから・・・」
へし切長谷部を手に取って感慨深く眺める。
この刀は信長の野望の家宝の等級としては六等級の刀でそれ自体のランクは中程度のものだが、未来でも実在し展示されている代物だ。
「福岡・・・この時代だと博多湊って言った方が分かりやすいかな。
そこの街で代々引き継がれてきて、この姿のまま俺のいた時代まで残されたんだ。
元いた時代じゃこいつは国宝扱いになっててな。
触るどころか見るのも簡単じゃなかったんだよ。」
「へぇ・・・
未来って案外こういうものにも価値が出るのねぇ。
日本刀なんて一人一本あるものじゃないの?」
「まさか、俺がいた時代は戦乱も徴兵もない時代だからな。
刀はむしろ美術品としての価値が高かった。
それに俺の時代には銃刀法って規則があって、むしろ所持は規制対象だったな。
ちなみに俺の時代の武器っていえばどちらかというと・・・こっちだな。」
そういって俺は信奈の部屋の壁に立てかけられていた火縄銃を持ち出す。
「やっぱり、鉄砲がこれからの時代の主流になるのね。」
「ああ、信奈の先見の明は凄いよ。
今の日ノ本で鉄砲を軍に導入しているのはうちと薩摩の島津くらいだからな。
一応紀伊の雑賀も持ってるけど、あれはどっちかっていうと傭兵だからまた特殊だしなぁ。」
「雑賀ねぇ、あの傭兵集団。将来かなり大きな敵になりそうな気がするのよね。
うちと違って自前で種子島を量産できるのは強すぎるわ。
今はわたしたちじゃ輸入に頼るしかないから、どれだけ大枚はたいても限界があるし・・・」
「そうなんだよなぁ、俺も玉ノ井に鉄炮町でも作れればかなり使えると思って検討はしたんだが、現状国内で鉄砲鍛冶がいるのが種子島と紀州の根来衆のみときてるからな、流石に無理だった。」
「まぁ彼らは傭兵だから金で雇うって手段がとれるのが幸いね。
最悪どうしようもなくなったら金で解決するわ。
金槻もそういうの好きでしょ?」
「ハハッ、違いないな。
とりあえず刀はありがたく頂いておくよ、大切にする。」
「デアルカ!」
ここに来て益々上機嫌な信奈の笑顔に眼福という感想を抱く。
可愛すぎて語彙力を無くしそうだ。
思えば仕官からそんなに経っていないのだが、ここ暫く信奈を見ていて思ったことがある。
織田信奈という人間の人となりについてだ。
彼女はほぼ間違いなく俺が知る歴史上の織田信長と同一人物だ。
しかしどういう訳か女の子になっており、しかもそれが絶世の美少女。
明智光秀も含めてこの世界の姫武将と呼ばれる存在は総じて超がつく美形揃いなのだが、その中でも超がつくほどの上玉と言える。
ただ普段はうつけ姫と呼ばれるほどだらけた身なりをしているためそこまでの存在として扱われていなかったのかもしれない。
性格はかなりの我儘、かつゴリゴリの合理主義者でこの時代にあってかなりの特異な物だと思う。
また新しい物好きなのはこの部屋からも伺える。
これらが合わさって、世間的には理解されない天才肌な人物となったというのが俺の所見だ。
なんせ思考がこの時代の人間というよりも400年以上先の俺の感覚に近いのだ、そのため俺と話が合う。
というか彼女の話を理解できる人間が恐らくこの世界には俺しかいない、だから俺を晩餐にさそったのだろう。
ある意味では十兵衛と真逆のタイプだが、それが本能寺に繋がるのかと一瞬考えて頭を振る。
それをさせないために俺がいるのだから・・・
気が付けば俺と信奈は3瓶目に突入しており、かなり出来上がりつつあった。
「ところで金槻?わたしって実はまだあんたのことをそこまで詳しく知らないのよ。」
「うーん、そういえば俺もこの世界に来てから過去の自分のこととか語ったことないなぁ。」
「ねぇ金槻。未来の世界がどんなものなのか、少し教えなさいよ。」
「まぁ俺はいいけど、どういうことが聞きたいんだ?」
「わたしが気になるのは未来の世界がどうなっているかとかね。」
「世界か・・・そりゃまた難しいことを言う。
てっきりこの先の天下までどういう流れで取っていくのかとか、そういうのを聞いてくるかと思ったよ。」
これは俺の感想というより、懸念だった。
この時代にきてから暫くになるが、武士の将来どうなるかを本人に語るということは個人的に強く憚られるのだ。
そのためある種釘を刺すような言い方で俺は答えた。
「うーん、まぁそういうのも面白いかもしれないけど、わたしは聞かないでおくわ。
だってなんだかそれを聞いちゃうと自分の将来が分かるようで面白みがないし、それになんかあんたに操られてる感じがして嫌なのよね。
まぁ金槻なら不用心にそんなことをしたりはしないと思うけど、もし私の未来を言ったら斬るわよ。」
一瞬声のトーンが落ちる。これは本気だと俺も察した。
「分かった、肝に銘じておくよ。
それに、俺が未来人なのは確かだが俺の知識とこれから起きることが全部しっかり合うことは無いと思う。」
「どうしてそう言えるのよ?」
「そうだな・・・
俺が既に自分の知っている歴史では起こらなかったことを引き起こしているから、かな?
実は玉ノ井に湊を作って開発するなんてことは、俺の歴史では起きてないんだ。
あれは完全に俺のその場の思い付きでな、歴史にないことをしたんだからその先の歴史も既に分からない状態なんだよ。
今はまだ多少未来の知識がある分戦えるが、これにも限界がある。
そのうちこの知識は一切の価値を無くすことになる。
玉ノ井はまぁまだマシだと思うが、今俺が画策している上杉・毛利・浅井との同盟なんてのは俺が知っている歴史ではまず浅井以外は同盟してない。
これをやろうとしている時点で俺はもう歴史を忠実にたどるという安全策を捨ててるんだ。」
「なるほどねぇ・・・
確かに、そういうことならあんたの未来知識はそこまでアテに出来ないって訳ね。」
「ああ、そういうこともあってもし俺が間違えた未来を教えたりしたら事だからな。
武将の生涯とかそういう話題はなるべく控えるようにしてるんだ。
それに、俺が持ってる未来の知識は別に歴史だけじゃない。
地理なんてものは俺がいた時代と大差ないし、俺は元いた世界では日ノ本じゅうを旅していたからどの地域のことでもある程度分かる。
地理以外にも文化や風土など、何かに使えるかもしれない知識なら十分あるし、あと一応これもまだ使える。」
そういって俺はポケットからスマートフォンを取り出し、電源を入れてオフラインで使える地図アプリを開いた。
「未来の話が聞きたいのならコイツが丁度いい。
俺がいた時代の日ノ本、ちょっとだけだけど見せてあげるよ。」
「そのからくりって、確か写真だっけ?を映すものよね。」
「ああ、仕官の際にこれは見せたね。」
そういって俺は再度カメラのフォルダを開く。
「やっぱり、凄いわねそれ・・・日がたっても全く劣化してないじゃない。」
「写真は絵などとと異なって劣化の概念が少し違うんだ。
まぁそれを説明するのはかなりややこしいのでまたの機会にするとして、これを見てくれ。」
そういって俺は地図を開く。画面には日本列島が写されていた。
「それは・・・まさか日ノ本?」
「正解、そこに地球儀が置いてあるだろ。
それの超高精度のものがこの中には入ってるんだ。」
信奈は俺の隣にまで寄ってきて食い入るように俺のスマホの画面をのぞき込んでいる。
少し胸が俺の肩にあたっていて俺は心中それどころではないのだが、信奈はお構いなしだ。
「本当に未来の技術には驚かされるわね・・・
この小さな手鏡の中に何が入っているのよ。」
「まぁそれは様々なからくりとしか言えないなぁ、というか俺も細かな所までは知らん。
ちなみにこの画面を指でなぞると移動が出来る。あとは拡大、縮小はこうだな。信奈も触ってみるか?」
といいつつやって見せる。信奈はそれを見よう見まねで真似た。
「・・・凄い、これ日ノ本だけじゃなくて世界中入ってるの!?」
「ああ、ただ細かい所までは今は無理だな。
流石に情報が入りきらないんだ、本当はこれは常に外部と通信しつつ使うものだしな・・・」
「通信?なによそれ。」
「この時代で言えば伝令や狼煙みたいな奴だ、まぁ詳しく話すとさっきの写真の概念以上に時間がかかるし、俺もちゃんて説明できる自信ないからまぁそのうち知りたくなったら聞いてくれ。
それじゃあ、こいつの一番凄いのを見せてやるよ。」
そういって俺は、地図のモードを航空写真に置き換えた。
俺は日本国内のものに限ってデータを一部ストレージに入れていた。
そのためオフラインでも航空写真やストリートビューが利用可能なのだ。
「これは鳥観図に近いかな。
まぁ実際は空の上から写真を使って撮ったものなんだけど、これがあれば偵察なんてしなくてもその地域の地形が分かる。
まぁ市街地はかなり変わってるから厳しいけど。」
流石の信奈も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
事前にその土地の状況が分かるなど、この時代からすればチートも良い所だ。
「もう凄すぎてついていけないわね・・・
というか400年ちょっとでここまで変わるものなの?
今から400年前って大体源平合戦から鎌倉幕府にかけての頃でしょ。
そこからの今の進歩に比べて変化が大きすぎる気がするんだけど。」
「うーん、確かに鎌倉期から今の400年と今から俺がいた時代の400年だと意味合いがかなり異なるんだ。
これから先、世界は驚くべき速度で変わっていく。
一番大きなきっかけはイギリス・・・この時代の宣教師たちがイングランドと言っている国で起きた産業革命って奴だ。
それが起きるのが今から大体150年後くらいかな。
その産業革命がおこるきっかけが今、大航海時代とよばれる時代にあるんだ。」
「分かったわ。人の移動が活発になったのが理由でしょ?」
「お、それも正解。まぁ信奈は津島で南蛮文化に触れていたから分かりやすいか。
これまで日ノ本は海外との交流に消極的、しいて言えば明との勘合貿易とかがある程度だった。
それが南蛮から人が来るようになって、人だけじゃなく文化や技術の交流が進んだ。
結果この国にはキリスト教や種子島銃が伝来している。
この国でもそういった新しい革新が起きているがこれは世界中で起こっているんだ。
例えばこの国に来た南蛮人は逆に日ノ本の情報を母国に持ち帰っている。
そういったことが繰り返されるうちに技術や文化の融合が起きて、最終的にあらたな技術の発見につながったんだ。
その結果技術が格段に進み、産業革命が起きてから200年ちょっとでこういう状態になった。」
そういって今度はストリートビューを見せる。場所は名古屋駅前だ。
「これが俺がいた時代の那古野だ。凄いだろ?」
信奈の目には舗装された大通りを通る謎の箱、そして天高くそびえる名駅のタワー軍が目に入った。
「なによこれ、色々理解できないから聞いてもいいかしら?」
「なんでも聞いてくれ、この時代の名古屋ならいくらでもこたえられるぞ。」
「まずこの高い塔ね。これどれくらいの高さがあるの?」
「ああ、JRセントラルタワーズだな、高さは245Mで51層、今の単位なら八百尺ってところだ。」
あまりの規模に信奈も一瞬気が遠くなる。
「八百尺もの高さの塔なんて、よく建てられるわね。それにこの外観・・・もしかして硝子?」
「ああ、太い鉄材を軸にコンクリート・・・この時代だと三和土みたいなやつでこの高さまで組み上げてる。
外向きは透明な硝子を嵌めて尾張平野一帯が見渡せる絶景んだよ。
あと地下も100尺くらい掘り下げて同じように鉄骨を埋めてる。
それのおかげで地震でもビクともしないってわけだ。」
「なるほどねぇ・・・この外に並んでる箱みたいなのは?」
「これは車だよ。今は馬や牛にひいて貰っている荷車があるだろ?あれがからくり仕掛けで馬いらずになった姿だな。
当然馬の代わりに動力が付いてて、それが4つの車輪を動かしてる。
こいつに関しては技術として確立されるのは150年から200年後のことだな。
せめて蒸気機関さえあれば似たようなものは作れるんだが・・・」
「へぇ、なんだかよく分からないけど面白そうね。」
「この時代の人間がこれ見ると多分面白いじゃなくて怖いって感想を抱きそうなもんだが、やっぱり信奈は信奈だなぁ。」
ひとしきり信奈に楽しんでもらって俺はスマホを仕舞おうとする。
少し電池の残量は減ったが信奈に俺のいた時代を少し知ってもらえたのでこの電池分の価値はあったと思う。
電源を落とす前、最後に少しの懐かしさを感じてスマホの画面を眺めていた時だった。
「・・・ん?アレ、通知きてる。」
「どうしたの金槻?」
「いや、さっきも言ったけどこのからくりの本来の使い方は通信ってやつなんだ。それが届いてるんだ。」
そう、驚いたことにラインの通知が一件入っていたのだ。
ここに来てから暫くの間、スマホは基本開いていなかったので完全に見落としていた。
「でもそれっておかしくない?通信なんてもの、この時代にはないのでしょう?」
「ああ、それは間違いない。たぶん俺がこの世界に来る直前に届いてたんだろうな。
それで気付かず今まで放置されてたんだと思う。」
そう言いつつ俺はラインを開いて恐る恐る新着の通知を確認する。
通知が届いた日はやはり俺がゲームをしていた日、時間も大体一致している。
少し残念に思いながらも内容を確かめる。気になる連絡相手は、母親だった。
『金槻、誕生日ケーキは何味が良い?』
それが母親からのメッセージだった。
一瞬頭が混乱して、ふと思い出す。
そうだ、俺が飛ばされたあの日は俺の誕生日だった。
今まで忙しくて完全に忘れていた。
「ちょっと金槻どうしたのよ!?いきなり涙なんか流して!」
「・・・ん?あぁ、なんでだろうな。
急に・・・涙が止まらなく・・・」
そこから先の言葉が出てこない。俺は小さく嗚咽を漏らす。
何故だか急に俺がいた時代の色々なことを思い出した。
両親や弟の事、友人たち、学校、ネトゲ仲間、近所のおっちゃんたち、行きつけの店の大将。
そんな多くの人との思い出が途端にフラッシュバックしてきた。
「分かったわ。金槻、あなた今一人なのよね・・・
このスマホを見て急に元いた世界の事を思い出しちゃったのね・・・」
俺は首肯する。そうだ、この涙の理由は寂しさ、悲しさからくるものなのかとようやく察した。
ここまでボロボロに泣いたのは今までの人生で初めてのことだ。
「・・・この1か月ちょっと、この時代に来てから毎日が必死だった。振り返る暇もないくらいに。
俺がこの時代に来た日は俺の誕生日だったんだ。
連絡の中身は母さんからの誕生日祝い何が良いかってものだった。」
「いい母上じゃない、やっぱり平和な時代って今とは親子関係も違うのよね?」
「勿論だ。政略結婚もないしお家騒動もまぁ珍しい、どうしても金の問題とかで家内が分裂したり親から暴力的な扱いをされる人は俺の時代にもいたけど、大抵の家庭は良好だよ。
うちは父母と弟の4人で暮らしていた。普通の幸せな家だよ。」
「・・・金槻、あなたのこと、あなたの世界のこと、あなたの家族のこと、もっと私たちに教えてちょうだい。
もちろん本当の両親のようにはいかないと思うけど、今はこの織田家があなたの家族よ。
少しでもあなたの悲しさを和らげられるように、私が手を貸すわ。
もちろん六や犬千代、万千代たちも協力してくれるはずよ。
それに元の時代に帰る術が完全に無くなっている証拠もないのでしょう?
諦めなければ、いつかまた未来の世界にも行けるわよ。」
信奈の言葉に俺は心の底から救われた気がした。悲しみの涙は、感謝の涙に変わった。
俺は出来る限りの笑顔を作って、一言「・・・ありがとう」と答えた。
「もう、顔がくしゃくしゃよ。ほら、手ぬぐいあるから顔を拭きなさい。」
俺は信奈から手ぬぐいを受け取り、顔を拭った。その目に光る涙は悲しさとは無縁のものだった・・・
その後は信奈と再度飲みあかし、気が付けば日を跨いで2人で10本近くの瓶を空けた。
俺のいた時代の話、信奈の昔の話、世界に目を向けている信奈の意見、他にも色々なことを語らった。
幸い俺は酔っても記憶が残るタイプらしく、終盤はもう君主と家臣というより、本当に俺がいた時代の友達のような感覚で信奈と話し込んでいた。
信奈の君主の顔ではなく一人の女の子としての顔を見れたような気がした。
そして最後は2人そのまま潰れるように気が付けば寝ていた。
翌日、俺は猛烈な頭痛と共に目を覚ました。どうやら二日酔いのようだ。冷たい板間の感覚が現実に引き戻した。
それだけではなかった、寝ぼけまなこを擦っていつの間にか外していた眼鏡をかけなおす。
すると物凄く強烈な、それでいて冷たく冷え切った視線を感じた。
「・・・お金、これはどういうことだ?」
信奈からは六と慕われている織田家随一の猛将、柴田勝家が仁王立ちでこちらを見下していた。
そう言えば信勝謀反後、信奈付きに配置転換されていたっけ。
「どういうことって、どういうことすか?」
俺はまだ頭が回っていないため、ひとまず聞き返した。
「なんでお前が信奈さまの部屋にいるんだよ!あともう昼前だ!いつまで寝ぼけてるんだよ!!
それになんでそんな添い寝状態なんだ!意味が分からん!!」
勝家は怒髪天を衝く勢いでブチ切れていた。
「なんでって、俺は昨日信奈に呼び出されてここに来ただけなんだが、それで2人で酒を飲んで語らっているうちに寝てしまって、今起きた。それだけだ。」
「そ!れ!だ!けええええええ!?!?まさか姫さま、もうこのお金のことをそこまで気にいって・・・きいいいいいいい!」
何故か勝家が奇声をあげて悶えだした。いきなりきて怒鳴ったと思うと悶えて、せわしないことこの上ない。
「んんッ・・・もう、やかましいわね・・・。」
俺に続いて信奈も目を覚ます。
「おや、お目覚めですか姫。昨夜はお楽しみでしたか?」
勝家に続いて長秀さんも部屋に入ってくる。
「ちょ、どういうことよそれ!」
「ふふ、その様子ではどうやら楽しまれたご様子。90点です。」
「ど、どういうことだよ長秀!もしかしてお金がもうそこまで進んでるってことなのか!?」
更に悶え苦しむ勝家を見て俺は益々疑問しか浮かばない。
「どういうことなんだ長秀さん。」
「実は姫は自分の気に入った家臣を夜な夜な呼び出して飲食を共にされることがあるのです。
金槻どのはそのお気に入りとして信奈さまに認められた、ということでございますよ。」
「そういうこと、これからもよろしく頼むわよ金槻!」
つまりこの信奈からの呼び出しは、信奈の側近の一員として認められた祝い、ということだった。
「任せておけ、何があっても俺が信奈を天下人に押し上げてやるさ!」
「デアルカ!金槻!早速次の仕事よ!」
「おう!」
俺は本心でそう答え、これから先の事を思慮しつつ信奈からの新たな仕事を受け取った。
その仕事は対今川の戦略を練よ、とのことだった。