織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第3章 戦(いくさ)の道
第20話 極秘会議


尾張、美濃国境・玉ノ井湊の川並衆屋敷

 

斎藤道三救出戦から半月少々ほど、時期は梅雨に差し掛かっていた。

俺は玉ノ井湊の美濃側岸の集落を治めている十兵衛、近江に密偵に出ていた五右衛門、そして清州から湊の視察という名目で来ている信奈、長秀さんと共に机に開いた大小さまざまな地図を囲んでいた。

この半月ほどの間に、織田家を取り巻く環境は大幅な変化を見せていた。

その状況確認と、今後の作戦会議のための極秘会議がここで行われるのだ。

本当なら道三にも来てもらいたかったのだが、どうも先の戦の折に腰を痛めたらしく、今は清州で養生中ということでこの面子での会議となった。

 

「お茶にございます、姉上。」

 

「デアルカ、勘十郎も久しぶりね。ここでの暮らしはどう?」

 

「はい、金槻どのや川並衆の皆さんのお陰もあって日々楽しく励ませてもらっています!」

 

「まぁ、仕事についてはまだまだだけどなぁ、もっと精進しな。」

 

「そうは言うがね、金槻どのの仕事は難しいのが多いんだよ。

その若さでよくやると思うよ・・・」

 

「いや、俺の仕事なんかより大名やってる信奈の方が相当大変だと思うが・・・

ほんとそんな調子でよく謀反なんかおこしたよなぁ。」

 

今日はこのメンバーが玉ノ井に来るということもあって、特別に信澄もお茶係として同席を許している。

織田信勝改め津田信澄は謀反の罰として俺の元で下働きを命じられており、今は俺の小姓的な扱いとなっている。

普段はこの湊を取り仕切っている川並衆の連中の手伝いをしつつ、信澄が唯一得意なういろうの茶店を経営させている。

信勝親衛隊(という名の囲い)のかわいい女の子たちが一緒に店番をしていることもあって、味よし・接客よし・値段よし(売値は全部俺が指定して、利益は全て俺の懐に入るようになっている)の人気店として行商や近隣の人たちで栄えているようだ。

一応は織田家の当主候補として作法を一式学んだということもあり、信澄の入れる茶は普通に美味い。

そういう理由もあって今回の会議に茶と茶菓子を用意させた。

あとは信奈に会わせるためという理由も一応あるにはある。

 

 

「とりあえず玉ノ井の様子はさっき見てもらった通りだ。

まぁ地割の会議からかれこれ1月近くになる。

そろそろ活気が出てきたし、ここも本格的に湊としての機能が動き出すよ。」

 

「斎藤義龍が道三さまを追ってここまで攻め寄せてきたときはどうなるかと思ったですが、建設中の建物には大した被害は無かったので美濃側もちらほらと店や納屋が出来始めてるですう!」

 

「デアルカ。そういえばさっきも船が荷下ろししてたわね。

あれはどこから来たの?」

 

信奈に問われて俺は帳簿を確認する。

船の出入りや積み荷の管理は日ごろからリスト化してあり、どのような需要があるのかの調査に役立てている。

また今は美濃方面の積荷に臨検を敷いているので、かなり細かな情報が手に入っているのだ。

 

「ええっと今日は確か・・・、あった。船は紀州串本からだな。

中身は・・・活魚や柑橘類だとさ。地域的にじゃばらとかかなぁ・・・

荷主によると柑橘は井ノ口まで運んで売るようだが、活魚は淡水の川に入った時点で絞めてあるみたいで玉ノ井で売るみたいだ。

串本と言えば本州最南端、俺のいた時代でも好漁場として有名な場所だからいい魚が入ってるかもなぁ。」

 

「玉ノ井で売るの?それなら井ノ口まで持って行ったほうがいいと思うのだけど。」

 

「いや信奈考えてみ?魚だぞこれ。しかも干物じゃなくて生だ。

美濃は内陸だから多分海鮮は見慣れないし売れないと思う。

そこでひとまずここで売り出して、ある程度需要があるか見てるんだと思うよ。」

 

「なるほどねぇ、商人も色々考えてるのねぇ・・・」

 

この時代は冷蔵なんて技術も当然ないので、この時期に陸路で魚の運搬は厳しいというのもあるだろう。

河口までなら魚を活かしたまま運べるが、魚は絞めたあとに冷やさないとすぐに臭くなる。

それもあって内陸では魚は結構縁遠いものなのだ。

この時代の魚料理は鯉や鮎といった川魚がメインなのはこれが理由だったりする。

もちろん沿岸にある尾張などでは普通に海産物も食卓に並ぶのだが、やはり希少価値が高く中々手が出せない。

魚好きで釣りが趣味な俺としては辛いものだ。

ちなみに美濃は近江の琵琶湖が近いこともあって鮒がよく食べられていると十兵衛が話していた。

 

 

「さ、それじゃあそろそろ肝心の会議の方進めていくか。」

 

名目上の玉ノ井の視察の感想も程々に俺はそう切り出した。

玉ノ井湊自体の開発は既に佳境を迎えており、現在開いている店の数や船着き場の利用率などの報告は既に済ませている。

それに今は玉ノ井をどうこうというレベルの問題ではない難しい状況に織田家は追い込まれているのだ。

 

「はい、それでは今日も僭越ながら私が進行させていただきます。

今の織田家の状況ですが、30点といったところでしょうか・・・

非常に厳しい状態となっています。」

 

「デアルカ。金槻、簡単に今の状況を説明しなさい。」

 

「了解。まずこの玉ノ井から川を挟んだ美濃についてだが、斎藤義龍が完全に掌握を済ませている。

どうにも事前に国人衆とかを味方につけていたようで、落ちない訳じゃないが相当時間がかかると思う。

少なくとも今すぐの美濃攻めは無理だ。

せめて背後の今川をなんとかしないと話にならない。」

 

「それについては十兵衛も同感ですう。

そもそも稲葉山城は難攻不落、それに兵力も現状織田家と義龍どのでは五分といったところです。

稲葉山を落とすなら少なくとも3倍は兵力が欲しいですう。」

 

「そうね、あの蝮が生涯をかけて築きあげた名城。

そう易々とは落ちないでしょうね・・・」

 

信奈が歯嚙みする。本来ならば譲り状という大義名分がある美濃には一刻も早く攻め入りたかったが、周辺諸国の状況がそれを許さない。

義龍に迎え撃つ体制をつくる時間を与えてしまうと美濃攻略の難易度が跳ね上がってしまうことは避けられないだろう。

 

 

「次にその美濃関係の外交についてだが、近江に動きがあった。五右衛門頼む。」

 

「承知でござる。信奈さまはお初にお目にかかるでごじゃる。

拙者は金槻どののあいびょうのはちしゅかぎょえもんにござる。」

 

「ちょっと金槻、この乱波噛み噛みで何言ってるかわからないんだけど。」

 

「すまん信奈、こいつはもうこういうものなんだ。

俺の相棒の蜂須賀五右衛門だ。長台詞は大体噛むが腕は確かだよ。」

 

「うにゅう、噛み癖は仕方ないでござる。それで浅井でござるが、斎藤義龍をけしかけたにょちに、手切れしちゃでごじゃる。」

 

「浅井と斎藤が手切れした?ということは浅井長政は美濃を獲る気でいるのね。」

 

「ああ、これはあくまで想像だが、間もなく浅井長政が信奈との同盟交渉に来ると思う。内容は美濃攻めの共闘だろうな・・・

おそらく長政は焚き付けた斎藤義龍の主力を俺たちにぶつけて、裏から美濃を落とそうとしている。

こちらは今川戦を考えると浅井に強く出てないから、その立場を使ってうちと斎藤義龍双方の弱体化を狙っているってことだ。

美濃を獲ったらそのまま織田家を吸収するという流れだろう。」

 

俺の説明を聞いて、信奈は益々難しい顔になっていった。

 

「デアルカ、なかなか厄介なことをしてくれるわね・・・

美濃を浅井に明け渡してしまったらその時点で織田家は詰みよ。

早急に美濃を獲らないといけないわね、そのためにも今川とは早期に決戦をつけないといけないわ。

万千代、今川は今どうなってるの?」

 

 

「はい、今川義元は現在駿河の兵を率いて三河に入っております。

松平元康も出陣しておりますので、数日のうちに合流し尾張へ攻め入ってくるかと。

軍は総勢で1万ほどになります。20点。」

 

今川義元はついに駿河を出陣し、東海道を西進し始めた。

長秀さんの報告から察するに、尾張まで来るのがおよそ5日だろうか。もう一刻も時間は残されていなかった。

俺は頭を悩ませるが、策らしい策は浮かばない。隣に座る十兵衛も同じらしく頭を抱えていた。

 

「そもそも、今の織田家で今川を倒せるかがかなり怪しいです。信奈さまはそのあたりをどうされるおつもりで?」

 

「当然奇襲攻撃よ。中身についてはまだ伏せてるけど、作戦は考えてるわ。それで、こちらの開戦準備はどう?」

 

「はい、各将兵には既に招集をかけており、三河からこちらにかけての砦などに配置は完了しております。また奇襲と清州の守備のために三千の手勢を動かせます。準備の方は満点です。」

 

「よろしい、今回は千の兵を清州の備えに残して二千で奇襲を行うわ。

それで、奇襲のためには義元の本陣を探る必要があるのだけれど、恐らく敵は服部党の忍びを用いて本陣の露見を防ぎに来るはず。

それをなんとかする必要があるのだけれど・・・」

 

そこで信奈の声が止まる。彼女の目は俺を真っすぐに見ていた。

その目は燃えるように輝いており、俺の心を何故か奮い立たせた。

 

 

「金槻、あなたに頼みがあるの。」

 

「何だ?」

 

「今川本陣の密偵、金槻に任せたいの。

今織田家には乱波はいないから、五右衛門を従えているあんたくらいしか可能性が無いのよ。頼むわ。」

 

信奈の真っすぐな、信頼してくれているような表情を見て、俺は二つ返事で「任せろ」とだけ答えた。

 

「今川軍を完全に捉えるために、清州のギリギリまで義元を引き付けるわ。

恐らく先鋒には竹千代が出てくると思うけど、そっちは完全に無視で本陣だけを狙うわよ。

金槻は何が何でも本陣の情報を私に持ってきなさい。

あと十兵衛、あんたは織田家の客将として合戦に参加すること。

道三からの許可は得ているわ。」

 

「了解です!」

 

 

 

対今川の作戦も固まり、一度昼休みをとることになった。

ここ玉ノ井の屋敷は俺の家も兼ねているので俺が料理を振舞うことになるのだが、そこで俺は名案を思い付いた。

 

「そうだ、さっきの船から降ろした活魚、折角だから捌こうか?」

 

「それはいいわね!っていうかあんた魚捌けるの?」

 

「ああ、これでも元いた世界では釣りが趣味でな。

実は仕官前にもここで暇なときは鮎とか釣ってたんだ。

もちろん釣るだけじゃなくて捌いて食べるまで出来るよ。」

 

「金槻どのって意外と器用ですう。将来良い旦那さんになりそうです。」

 

「いやいや、俺なんか結婚出来ないと思うよ。

元いた時代ならまだしも、この時代は家格とかが必要だし・・・

俺は一応小笠原性だけど信濃の小笠原氏と直接繋がりはないし、そもそも謎の風来坊だからなぁ。

本格的に元の時代に帰れないってのがはっきりすればこの世界で所帯をもつのも考えるが、それまでは何とも言えん。」

 

俺の言葉を聞いて信奈は何か思案顔だったが、超絶美女の恋愛談話に巻き込まれる気配を察知してそこで話を切り上げる。

やはり姫武将と言えど女の子、恋愛話は大好きなようで俺はそのあたりが少し苦手だ。逃げるようにして荷揚げ場に並ぶ魚を見てくると告げてそそくさと退散するのだった。

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