織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第21話 密偵

尾張・鳴海近郊「桶狭間山」

 

 

梅雨も始まって早々だというのにうだるような蒸し暑さを感じる朝、俺は五右衛門、川並衆、信澄とその親衛隊を連れて朝駆けを行っていた。

昨夜、ついに今川軍が織田領に越境したという連絡が入ったのだ。

俺がこの時代にきたその日、目の前で行われていた今川による鳴海城攻略とその追討戦以来の合戦が始まろうとしていた。

俺にとっては道三救出戦以来の戦いだが、あれはまともな戦いとは言えなかった。実質的には俺にとっての初陣だ。

 

今回の合戦の俺の仕事は、今川軍の本陣を見つけること。

そして義元の位置を把握し続け信奈率いる奇襲部隊に伝えることとなっている。

歴史を知っている立場からは簡単そうに思えるが、今川軍の先鋒は恐らく三河の松平元康、そしてそれに付き従う忍びの服部党が恐ろしく厄介だ。

斥候部隊である俺たちは見つかれば即座に忍びによって始末される。

そして信奈の奇襲が外れればその時点で織田家は詰む。

責任は重大なんてものじゃない、まさしく織田家の活路は俺の密偵にかかっていた。

そのため、俺は信奈から密偵の任務を受けてから数日、作戦を考えに考え抜いた。

そして使えそうな駒は全部持ってきた。戦国時代に飛ばされた俺の真価が問われる合戦でもあるのだ。自然と鼓動が速くなっていった。

 

「・・・よし、ここが桶狭間か?」

 

「ああ、そうだよ金槻どの。まだ今川軍は来ていないようだね・・・。」

 

ここまでは信澄と親衛隊の案内で進んできた。

親衛隊の女の子にどうやらこの辺りの生まれの子がいたらしく、朝駆けによる潜伏はその子の先導のおかげで上手くいった。

 

「今朝の時点で知立に先鋒の松平隊がいるっていう情報が最後のものだから、おそらくそこから多少は進んできているはず。

ただこの先の動きが分からん、鳴海は今川の猛将岡部元信が相変わらず居座っているんだが、一方で大高城はまだ織田方が抑えている。

また周辺の砦にも信奈がそれぞれに将兵を入れている。

考えられる今川軍の動きは2つ。

鳴海から直接那古野や清州まで突き進み続けるか、大高城を落としてから向かうのかだ。

ただどちらにしろこの辺りは通ることになるからここで今川の本陣を捕捉する。」

 

「承知でござる。拙者と川並衆は散らばって偵察でござるな?」

 

「ああ、手筈通り頼む。先鋒の松平は現れても無視だ。

あくまで狙うは義元の本陣のみ。上手くやってくれ。」

 

俺は五右衛門と川並衆にそう発破をかける。すると

 

「この坊主には俺たちを武士に戻してくれた借りがある。

ここで絶対返すぞ野郎ども!」

 

という前野某の号令のもと

 

「小僧!川並衆の底力、舐めんなよ!」

「そうだそうだ!輿にのったバカ殿くらいすぐに見つけ出してやるぜ!!」

 

などという威勢の良い声が返ってきた。頼もしい限りだ。

 

「よし、それじゃあ散ってくれ。

義元を見つけた後はちゃんと今川軍の退路を断つように動くってのも忘れんなよ!」

 

と指示して川並衆たちを配置につかせる。

そして次は信澄の出番だ。

 

 

「ところで金槻どの。ぼくは何をすればいいのかな?」

 

「ああ、お前の仕事はかなり命がけになるんだが、義元を見つけたところで足止めをお願いしたい。

折角信奈に本陣の場所を伝えられても、その位置を動かれたら意味がないからな。

やり方は任せる、親衛隊の皆も頼んだよ。」

 

「はーはははは!任せたまえ!この尾張の貴公子たるぼくが酒と色で今川の将兵をここで接待すればいいってことだね?」

 

「まぁそういうことだ。

この暑さの行軍だから今川軍の将兵も疲れているはず。

そこでお前たちが一秒でも長く義元を足止め出来ればれそれだけ今回の奇襲の成功率は上がる。間違いなく勲功一等だぞ。」

 

「勲功一等か、確かにこのぼくに相応しい響きだね。

姉上にういろう1年分でもおねだりしようかな?」

 

信澄の安っぽい勲功一等なら信奈も助かりそうだなとは思ったが声には出さずに笑顔でごまかす。

そして信澄たちには準備に取り掛からせて、俺も今川軍の捜索に加わるのだった。

 

 

 

 

『海道一の弓取り』の異名をとる駿河の雄、今川義元は、織田・斎藤の同盟が破れ京への通り道になる尾張が孤立したと聞き及び、颯爽可憐に全軍を尾張に向けていた。

今川が抑える駿河・遠江は北に甲斐の武田、東に相模の北条という大大名2国を抱えているものの、その両方と3国同盟を結ぶ間柄ということもあって全力で西へと突き進むことが出来るのだ。

一応武田家中では今川を裏切る動きがあったものの、そのことは現在世間にほぼ知られておらず、また北条も関東平野の平定に出兵中だったため、まるで無人の野を駆けるが如く悠々と三河から尾張入りを果たしていた。

 

陣容はおよそ六千、うち半分は三河の松平軍だった。

貧相な松平の先鋒に比べ今川本軍は威風堂々といった趣の豪華な具足を揃え、また十二単を着込む義元が乗る輿も用意されていた。

この義元隊の後ろに更に後詰が続くため、総兵数は二万にもとどこうかという大軍勢だった。

 

「これぞ天下人の輿ですわ。

この輿を見れば、織田の足軽どもも領民どもも、わらわの高貴さに打ちひしがれて平伏するはずですわ。おーほほほ。」

 

その輿に乗りながら高笑いを浮かべるのは今川義元その人である。

気が強そうな大きな瞳に長いまつげ、整った顔立ちに白い珠のような肌。麗しい貴族然とした少女だ。

 

「それでは元康さん。現状の説明を簡潔に。

続いて、作戦をお出しなさい。」

 

「は、はい~」

 

その今川義元の輿に並び馬を歩かせている緑髪の少女は松平元康、のちの徳川家康だ。

幼少期に今川の人質になったり、一時期は織田に売られて幼き頃の信奈の下っ端にさせられたりという半生を行きてきた苦労人であり、覇気の感じられない姿をしているがこれでも三河の国主である。

 

「今は知立を超えて尾張に入ってます~、もうすぐ鳴海と大高の分岐路に着きますね~。

ここから先の作戦ですが、攻略目標の距離が近い順に大高城、熱田神宮、那古野城、清州城と続いています~。

大高は鳴海と並ぶような位置にあるので最悪無視できますが、石橋を叩いて進むのならば・・・」

 

「ええ、ええ。ここはやはり常道通り、大高から攻めるべきですわね。

万が一無視して進んだ後に後ろから叩かれるのは嫌ですわ。

それでは元康さん、先鋒は頼みましたわよ。おっほっほ!」

 

元康は先鋒は勘弁願いたかったが、主である義元の言葉には逆らえず

 

「ぎょ、御意です~。では、大高はさくっと落としてしまいますね~。」

 

と告げて先を進む元康隊と合流していくのであった。

 

「半蔵さん、半蔵さんはいますか~?」

 

「これに。」

 

元康の呼び掛けに応じてどこからともなく若い黒装束の男が音もなく現れた。

松平家が重用する忍びの者の頭領、服部半蔵である。

 

「私たちはこれから先行して大高城へ向かいます~。

義元さまに先陣を言いつけられてしまいました・・・」

 

「なっ、ここで兵を損じれば今度こそ松平は滅びかねんぞ!?」

 

「勿論そんなことは分かってます~。

でも私たちじゃ義元さまに歯向かう力はありませんから、こうなれば如何に兵を損じずに吉姉さまを捕らえるかにかかっています~。

そこで服部党の出番です~。」

 

「なるほど。大高城に潜入し、内側から攻めるのだな?」

 

「流石は半蔵さん、その通りです~。

あと、本陣隊の周囲に忍びの網も張っておいてくださいね~。」

 

半蔵は「承知」と一言告げて影へと姿を消した。

 

 

 

 

今川軍の捜索を始めてから半刻ほど、俺は先鋒の松平隊を発見していた。

 

「・・・三つ葉葵の旗印、あれが元康軍だな。」

 

「ですな、如何しますかい?」

 

同行していた川並衆に聞かれ、俺は少し悩む。もちろんここで松平を奇襲する意味は無いが、彼らは大高城へ進路を取っていた。

 

「予定通り素通りさせるが、信奈に状況だけは伝えないとな・・・

この進路だと松平勢は大高城攻めだろう。信奈への伝令、任せれるか?」

 

「了解ですぜ。信奈さまは今清州に?」

 

「ああ。元康軍が大高へ進んだこと、義元軍を引き続き捜索していることを伝えてくれ。」

 

俺の指示を聞き清州へ向かう川並衆、その背後から無音で近づく黒い影が迫っていた。

 

数分後、川並衆の伝令役は黒装束によって処理されていた。

信奈の元には、暫くして大高城陥落の一報が入っていた。

 

 

一緒にいた川並衆を伝令に走らせた俺は、その後しばらく山中を駆けていた。

今川の本陣を探るためだ。そしてついにその姿を捕らえた。

 

「・・・いた、赤鳥紋に輿の上の十二単。

あれが今川義元か、話には聞いていたがやっぱり姫武将なんだな、しかもここからでも分かる美人だ。」

 

今川義元とその旗本隊は桶狭間山のふもとを悠々と進んでいた。

どうやらこちらは鳴海へ足を進めているようだった。

 

「五右衛門、いるか?」

 

「なんでござるか?」

 

どこからか音もなく五右衛門が現れる。

 

「俺はこれから信奈への伝令に走る。五右衛門は川並衆をつれて今川勢の後ろに回れ。信澄!」

 

「なんだい?」

 

「お前は親衛隊を連れて予定通り足止めだ。

幸いこの先は泥田地帯、今川の行軍速度は遅くなるし撤退も難しくなる。

そこで義元を釘付けにしろ。2人とも良いな?」

 

「承知にござる。」

 

「わかった、勲功一等はいただくよ!」

 

「よし、それじゃあ行くぞ!」

 

「させぬ!」

 

その瞬間、木の陰から音もなく黒装束が現れた。

次の瞬間、俺の首元にクナイが突き付けられていた。

 

「なっ・・・!?

チッ、今川方の忍びか。」

 

「左様、織田方の密偵だな?お命頂戴いたす。」

 

俺を盾にしているせいで正面にいる五右衛門と信澄も動けなくなっていた。

それでも五右衛門は動こうとしたが、忍びの顔を見た瞬間驚きの声をあげた。

 

「にゅやっ!お主まさか服部半蔵ではござらぬか!?」

 

「ほう、流石は忍びの者。一目見て俺が誰か分かるか。」

 

「服部半蔵・・・ということは松平の手の者か。」

 

「そうだ。わが姫の手勢をあえて見逃し、今川本陣を突く狙いは見事。しかし甘かったな。」

 

「なるほど、全てお見通しというわけか。」

 

俺は窮した。なんとかこの場を切り抜ける策はないかと頭をフル回転させるが、名案は浮かんでこない。

 

「待ってくれ服部半蔵。なんとかここは見逃してくれはしないか?」

 

とダメ元で話してみる。

 

「誰が見逃すか、わが姫も今川の家来にさせられて必死なのだ。

お主らに恨みは無いが、つい先ほども姫の軍勢が大高に向かっているのを伝えようとしていた密偵を処理させてもらった。

お主もすぐに冥土へ送ってやろう。」

 

「なっ、さっきの川並衆もやられていたのか・・・。」

 

なんとか会話で間を繋ぐがそろそろ限界だ。半蔵のクナイを持つ手に力がこもるのを感じる。

その時、俺の中で一つの考えが浮かんだ。

もう精査している時間はない、俺は半蔵に最後の提案を行った。

 

「まぁ待て!ここで俺を見逃してくれたら松平元康を独立した戦国大名にしてやるから!」

 

「むっ?お主にそんなことが出来るはずが無かろう!愚弄するな。」

 

「嘘じゃねえ、俺はこれでも信奈の側近だ。

玉ノ井の小笠原金槻と言えば名前くらいは知らないか?」

 

「小笠原金槻、あの未来からきたとか噂される謎の武将か。

確かに近頃商人どもの間で耳にする名だが、まさかお主がそうなのか?」

 

「ああ、信奈の指示で今川本陣の密偵に出ていた。

いいか、よく聞け。今から織田勢が今川本陣に奇襲をかけて義元を降伏させる。

そうすればお前たちは三河一国を獲り立派な国持ち大名にもなれるだろう?」

 

「いくらなんでも無理筋だろうそれは。第一、お主がその小笠原である証拠はどこにある?」

 

証拠と言われておれは懐からスマホを取り出す。

 

「これならどうだ?これは未来のからくりだ。」

 

「むっ、確かに見たことのないものだが・・・

しかし仮にお主が小笠原金槻であって、織田家による奇襲が成功したとしてその後織田勢が三河を攻めないという確証は無かろう!」

 

ここまで話を繋いで半蔵にまず提案を聞いて貰う準備は整った。俺は乾坤一擲の思い付きを半蔵に伝えた。

 

「大丈夫だ!俺は織田家の外交に関して信奈に意見することが出来る。

松平とは同盟し、織田は西に向かうように仕向ける!もし約束を違えたなら俺が信奈を裏切って松平に味方してやる!絶対に悪いようにはしない。」

 

「うむむ・・・確かに、このままではどうせ松平は今川に使い潰される・・・

しかしこやつの話、にわかには信じられんな・・・」

 

俺は祈った。ここで半蔵に対して口八丁手八丁で切り抜けられなければ織田家はここで終わる。

暫くの逡巡ののち、半蔵は決心した顔で俺に告げた。

 

「確かにお主の話に乗れば、今川の使いのような環境からは抜けられるかもしれん。

しかしこのような決定は忍者である俺には出来かねる。

よってお前は拘束し大高へ連れていく、最後の判断は姫にしていただく。」

 

時間がない中での連行という言葉は俺にとって重いものがあるが、それでも命が繋がったと思って俺は半蔵の提案に乗った。

 

「わかった、俺が直接元康どのに会って交渉する。だから五右衛門と川並衆、信澄たちは見逃してくれ。

彼らもこの奇襲を成功させるためには必要不可欠なんだ。」

 

「いいだろう。お前たちは勝手にしろ。それでは来てもらうぞ。」

 

次の瞬間、俺は簀巻きにされて半蔵に担がれた。

結構な体重があるのだが軽々と持ち上げられて少し驚く。

 

「五右衛門!信澄!お前たちは予定通り伏兵と足止めだ!何が何でも信奈を連れて戻る!待っててくれ!!」

 

俺は簀巻きで担がれながら去り際にそう言い残して桶狭間を発った。

 

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